胎間忍 作:内府
もしかしたら起こりうる未来の話になっています。
森可成の一子、森蘭丸は織田信長に仕える小姓であった。
父を亡くしてから信長の居城である岐阜城に住み込みで主の信長に仕えていた。
主君の信長はまだ幼い蘭丸をいたく気に入り身近に置いていた。
蘭丸はそんな主君の期待に応えるように誠心誠意、忠勤を果たした。
機転の利く蘭丸を信長は重用しながらも彼の先輩小姓達はまだ十に満たない童といってからかっていた。
蘭丸は歳のことに関しては何も言い返せなかった。
岐阜城内の城主の間で蘭丸の主、信長は昔のことを思い出していた。
今から4年も前の頃、その時は蘭丸の父森可成も存命で彼らを招いて蘭丸の5つの祝いを行った。
その折に信長は蘭丸へ十文字槍の穂先を与えて父のような槍の名手なれと言った。
思えばあれが初めて蘭丸に掛けた言葉であったかもしれなかった。
あの時の蘭丸はいっちょまえに信長から杯を与えられて蘭丸は一人前の男などと言ったことを思い出し可笑しくなって信長は微かに頬が緩んだ。
ちょうど4年前のあの日が今年も迎えようとしていた。
信長「蘭丸も一人前の男、か……。」
小姓「はっ?」
信長「なんでもない。」
信長の呟きを近くに控えていた小姓は上手く聞き取れなかったが、信長としては流してしまいたかった。
この時信長は蘭丸の日々の忠勤に報いるために何をしてやろうかと考えていたがようやく思案がまとまった。
信長「おい、一益を呼んでまいれ。」
小姓「はっ。」
小姓に滝川一益を呼んで来るように命じ、しばらくすると彼がやって来た。
そこで信長は滝川一益に蘭丸の誕生日祝いを用意するので彼に手伝うように告げた。
信長が滝川一益に密命を下してから数日が過ぎ、蘭丸の誕生日当日を迎えた。
その日の日中は何事もなく過ぎて夕刻になると務めを終えた蘭丸は自室に帰り書物でも読もうかと思っていた。
先輩小姓「おい、お蘭。」
蘭丸「はい、何でしょうか?」
先輩小姓「お舘様がお呼びだ、ついて参れ。」
蘭丸「かしこまりました。」
先輩小姓に連れられて蘭丸は岐阜城内の廊下を歩いていった。
この時、いつもの信長の自室へと続く道ではなく信長が来訪した武将と会うための部屋へと続く道であることに蘭丸は気づいた。
蘭丸「あの、道を間違えていませんか?」
先輩小姓「いや、確かにお舘様はこの先に居られる。」
蘭丸「そうですか…。」
先輩小姓の先導で会合の間へと入るとそこには信長と重臣の一人滝川一益が座っていた。
蘭丸は信長の御前に出て頭を下げた。
蘭丸「蘭丸、お呼びにより参上いたしました。」
信長「うむ、苦しゅうない。面を上げよ。」
蘭丸「はっ。」
蘭丸が面を上げると信長はいつもより和やかな顔をしていたが蘭丸以外でその事に気づいている者はいなかった。
信長「お蘭よ、今年でいくつなった?」
蘭丸「はい、お陰様で9つになりました。」
信長「であるか。蘭丸、其方に9つの祝いを用意した。別室でやすんでおれ。」
蘭丸「はっ!ありがたき幸せにございます。」
信長に謝辞を述べて御前を辞し蘭丸は先ほどの先輩小姓に連れられて来客用の寝所へと向かった。
会合の間に残された信長は滝川一益に話し掛けた。
信長「一益よ大儀であった。」
滝川一益「はっ。」
信長「よくぞあの女狐どもを用意できたな。」
滝川一益「いえ、あの者達は依頼があればどんな者にもつきます故。」
信長「であるか。」
信長はこの祝いで蘭丸が一人前の男になることを望んだ。