胎間忍 作:内府
近江国坂本の山中、ここにはアサギ達の潜伏用の拠点としていた小屋があった。
この小屋には今は誰もいなかった。
ムラサキが岐阜城へと走り嬲り殺しのめに会い、アサギ達の存在が織田家にばれたと思いすぐに潜伏先の拠点を京へと移した。
そんな山の中の小屋に百姓が3人ばかり近づき、扉を敲いていた。
百姓「もし、どなた様かいらっしゃらねえでやすか?」
百姓が田舎風ののんびりした口調で呼びかけるが反応はなく、仕方なく扉を開けて中に入っていった。
百姓達が小屋の中を捜索し、中から出てくると先ほどとは全く違う口調で会話をしていた。
頭目風の男「逃げられたか…。」
手下風の男「最近まで使われてはいたみたいです。」
百姓風の男「でも、何も残っていませんね。」
この百姓達は本物の百姓ではなく、アサギ達の行方を探る甲賀衆の忍びが変装したものであった。
近江国坂本付近で美しい巫女が出没するという噂を聞き探索を実施した結果この山中の小屋にたどり着いた。
アサギ達の拠点を発見することはできたがそこにはアサギ達はおらず空振りに終わった。
あと一歩というところでアサギ達を見つける事ができなかった甲賀衆の浮かない顔を見つめる1つの陰があった。
その陰は、アサギ達と行動を共にしているカカシであった。
近江国で織田家の動向を探っていたカカシはその途中、不審な三人組を見つけ彼らを尾行していた。
その三人組がこうしてアサギ達の拠点を突き止めてしまったことにカカシは甲賀衆の調査能力を恐れた。
カカシ「こいつは、油断できないな…。甲賀もなかなかやるな。」
思わずカカシの口から相手を賞賛する声が漏れた。
頭目風の男「んっ?」
その声に反応したのか頭目風の男がこちらを見ているような気がした。
これ以上は危険と判断しカカシはすぐにこの場から退散した。
カカシは一路、京を目指し近江国の山道を風の如く疾走した。
京の中心地から外れた一角にアサギ達の潜伏先があった。
京の都は雪が積もり都全体がどこか静かになっていた。
アサギ達5人は体を冷やさないように寄り添うように囲炉裏を囲んでいた。
アサギ「信濃に比べれば雪は少ないけど、この時期の京も冷えるわね。」
サクラ「本当だよ。こんなに寒いと人も少なくてなかなか稼げないよ。」
桂女に扮しているサクラは外に出ても銭を得る機会が少ない事を嘆いていた。
ムラサキ「やはり、私も働きに出るべきでは?」
アサギ「駄目よ。」
ムラサキは依然としてアサギの紐付きで外に出る事を許されていなかった。
元々、アサギは束縛癖があるわけではなく仲間思いの情に厚い女であった。
ムラサキが一人で岐阜城へと行ったときに一番動揺していたのはアサギであり無事に再会できたことを一番喜んだのも彼女だった。
そんなアサギは二度とムラサキが自分の目の届かないところに行かないようにこうして紐を結んでいたのであった。
ユキカゼ「すぅー、すぅー……んぅ……」
凜子「お二人とも、お静かに。ユキカゼが起きてしまいます。」
ユキカゼは凜子の肩に寄りかかって眠っていた。
経験の浅いユキカゼは酷い悪阻に悩まされここ最近は常に嘔吐していた。
そんなユキカゼが珍しく安らかに眠っているので凜子はこんな妹弟子をそっとしておいて欲しかった。
ムラサキ「ああ、すまない。」
凜子「いえ、大丈夫みたいです。」
ユキカゼを起こさないように皆が静かにしていた。
そんな静寂の中外から戸を敲く音がし、サクラが相手を確かめると外にいたのは行商人に化けたカカシだった。
カカシ「やあ、皆さんこんばんは。」
サクラ「しいーー。」
カカシ「おっ?」
普段通り中に入ろうとしたが中を覗くとユキカゼが眠っているのが見え、カカシは忍び足で囲炉裏へと向かった。
アサギ達がカカシに軽く会釈した。
カカシ「皆さん、聞いてください。実は……」
カカシはユキカゼを起こさないように小声で甲賀衆が坂本の拠点を見つけ、甲賀衆の追跡が近づいていることを伝えた。
アサギ「なんてこと……。」
カカシ「皆さんも十分に注意してください。」
甲賀衆の脅威が迫っていることを告げたカカシは背負っていた行李からアサギ達への生活用品や支援金を取り出した。
サクラ「ふー、これだけ貰えれば生活に苦労しないですみます。カカシさん、ありがとう。」
カカシ「まっ、貴方達に味方してもらえるなら安いもんですよ。」
カカシから渡される物資を貰いサクラは素直に喜んだ。
アサギ達の生活は今のところサクラの収入に依るところが大きかった。
サクラの収入でも5人は養えたがカカシからの援助により豊かに暮らせていた。
一つ屋根の下に6人が集まり夜も更けていった。