胎間忍 作:内府
美濃国岐阜城の一室でダンゾウとオビトそして包帯の男は苦い顔で向き合っていた。
元々は5人いた、ダンゾウの追い忍部隊は今では3人しかいなかった。
胎間忍との戦闘でキバと佐馬斗は斃れ、ダンゾウらに与えられていた任務は一向に進んでいなかった。
その上、彼らを雇っている信長からどうも疑いの目を向けられている節があった。
秀吉からの情報で浅井家の側室であった響子に堕胎をしようとした際にはあろうことか信長自身がダンゾウらの前に立ちはだかり今では四六時中響子の元へ通っていた。
響子の件で信長から梯子を外されただけでなく近頃は連絡用ということで常にダンゾウらに甲賀衆がつきまとっているが連絡目的だけでなく監視もされているように感じた。
未だに胎間忍を仕留められていないことにより能力に疑念を持たれ響子の件では信長から不信を招いていた。
ダンゾウ「ふん、信長も存外疑い深い。」
オビト「これからどうする?」
ダンゾウ「こうなっては、奴らと共にあのくノ一どもを追うまでよ。」
ダンゾウとしては甲賀衆の諜報力を最大限活用して最後の美味しい部分だけ頂戴するつもりでいた。
同じ頃、岐阜城内の茶室で3人の武将が密談をしていた。
この一座の主はこの城の主織田信長であり、彼に招かれているのは信長の重臣の明智光秀と滝川一益であった。
明智光秀「けっこうなお点前でした。」
信長「キンカン、儂は蘭奢待を切り取る。」
明智光秀「なんと!」
信長「既に山科を通じて話は進めておる。」
明智光秀は信長の構想と行動の早さに驚いていた。
明智光秀は元々足利将軍家に仕えていた侍であった。
信長が足利義昭奉じて上洛する際に明智光秀と面会したおりに彼の教養の高さ、鉄砲の腕、知謀を認め彼を取り立てた。
明智光秀の方も信長の期待に応えるように京の統治や大名公家との交渉、そして戦場と幅広く活躍していた。
今のところ、信長と明智光秀の関係は器の大きい主君と有能な忠臣という間柄であった。
信長「お主には山科を手伝って貰う。」
明智光秀「はっ!しかと承りました。お舘様、一つご懸念がございます。越後のことをいかにお考えで?」
信長「上杉か…、捨て置いてもよいのではないか。」
明智光秀「それはなりません。上杉家との関係は少なくとも今は良好でなくてはなりません。」
滝川一益「それがしも明智殿と同意見です。先年足利将軍を京から追放したばかりであの上杉が機嫌を損ねていないわけがありません。」
信長「であるか。では上杉に親善の使者を送ろう。サルでよいか?」
明智光秀「羽柴どのですか…。大名として取り立てられ織田の重臣として申し分ないと思われます。」
信長「よし、それでよい。一益、お主は京の監視を強めよ。蘭奢待切り取りを何としても成功させるのだ。」
滝川一益「はっ!」
こうして織田家の方針が決まっていき蘭奢待切り取りに向けての動きを加速させていった。
近江国長浜、この地を治めるのは低い身分から前代未聞の出世を遂げた羽柴秀吉であった。
秀吉は今居城の長浜城を建設中で仮設の館で政務を執りおこなっていた。
そんな秀吉の元に彼の主から文が届いた。
その文の内容は越後の軍神、上杉謙信に親善の使者として訪問せよとの主命であった。
秀吉「お舘様から、新たな命じゃ!いっちょど派手にきめるか!」
秀吉は読み終わった文を向かい合って座る側近へと渡した。
側近「拝見します。………上杉家との親善ですか。大役ですね。」
秀吉「応よ!お舘様のご期待に見事応えてみせるんじゃ。」
側近「越後の軍神は大の大酒飲みとのことですから畿内の美酒を用意しましょう。それに加えて何か他の物も用意しませんと。」
秀吉「う~ん、そうじゃ!京の都に関する物はどうじゃ?軍神殿は久しく上洛しておらぬのであろう。貢ぎ物で京を懐かしんで貰おうではないか。」
側近「でしたら、屏風絵などはいかがでしょう。狩野派の絵師が見事な作品を作り上げたと聞いたことがあります。」
秀吉「よし、それでいこう。それにしてもお舘様は人使いがうまいのう、まるで仕事が終わるのを分かっていたようじゃ。」
上杉家への親善の概略を決めて秀吉はくだけた雰囲気になった。
側近「ええ、ちょうど浅井の残党狩りも一段落したところでした。」
秀吉「しっかし、ダンゾウとやらはあてが外れたのう。響子殿とかいった浅井の側室は今では身重でありながらお舘様の側室というではないか。それと追い忍としての務めは未だ果たせておらん。」
側近「ええ、相手のくノ一どもがなかなか手強いのやもしれません。」
秀吉「ほほう、そのくノ一に興味が湧いたぞ。」
側近「なれば、調べておきましょう。何か情報を得たらお報せいたします。」
秀吉「そうしてくれい。」
側近「はっ。」
秀吉からの依頼を受けた側近は胎間忍についての調査を行うこととなった。