胎間忍 作:内府
美濃国岐阜城のお市の居室にいつものように響子は訪れていた。
普段とほぼ同じように茶々達と遊ぶつもりでいたが響子にはもう一つ用件があった。
お市「まあ、それでは京へ行かれるのですね。」
響子「はい、お舘様が供をせよと仰ってくださいました。」
響子のもう一つ用件とはお市へ京見物へ行くことの挨拶であった。
お市「それはよいことです。京には名所が数多くあります。きっとよい時を過ごされるでしょう。」
響子「ありがとうございます。何かお市の方様にもお土産をと考えているのですが何か欲しい物でもおありですか?」
お市「ありがたいことですが、義姉上が選ばれる物であればなんでも構いません。ただ、娘達にも何か頂けると幸いです。」
響子「勿論にございます。姫様達にも必ずやご用意いたします。」
お市と響子は京見物の土産について話が盛り上がってそれを傍で聞いていた茶々は京とはどういう所なのか興味が湧いていた。
茶々「義姉上様、京とはいかなる所ですか?」
響子「天子様のおられる都です。各地からの品物と特産でおおいに賑わっています。」
茶々は響子の説明を受けて自分も京に行ってみたいと思った。
響子「茶々様、今日は何をなさりますか?」
茶々「むむむ、羽根付き!」
初「初も!」
響子「はい、それでは羽根付きをいたしましょう。」
お市付きの侍女が羽子板の用意をしている間に響子の体に異変が起きた。
響子「あら?」
響子が腹に手をあてると鼓動が感じられた。
響子とムラサキの子の胎動であった。
お市「どうかされましたか?」
響子の様子から異変を察したお市が声をかけた。
響子「今、腹のややが動きました。」
お市「まあ、まことですか?」
お市は響子の腹に手をあてると胎児の鼓動が伝わってきた。
お市「確かに動いていますね。」
響子は自分の子供が確かに存在していることを感じて喜んだ。
お市「義姉上、今は安静になさってください。」
茶々「ええ~~、義姉上様と遊びたかったのにぃ~。」
響子「申し訳ありません、茶々様。」
響子は茶々と遊べないことを申し訳なさそうにしていた。
お市「これ、茶々。わがままを言うのではありません。……、そんなに遊びたいのならこの母と遊びましょう。」
茶々「母上と?」
お市の申し出に茶々は驚いていた。
お市「そうです。さあ、羽子板を貸しなさい。」
そういうとお市は打掛を脱ぎ羽子板を受け取り腕を回していた。
茶々はお市の申し出に戸惑いつつもお市と羽根付きをすることになった。
お市との羽根付きは結果、茶々のぼろ負けであった。
響子は運動能力が抜群にあるわけではない普通の女であったが茶々と遊ぶ際には手心を加えていい勝負になるようにしていた。
しかし、お市は娘との勝負に全力で臨み完璧に勝ちにいった。
茶々は無残に負けてしまい、今にも泣き出しそうになっていた。
お市「ふぅ、久々にすると疲れますね。」
茶々「……、グスッ…。」
初、侍女「……………。」
余りのことに初も侍女も言葉が出なかった。
響子「…、茶々様泣くのをお辞めください。」
茶々「義姉上様ぁ~。」
茶々は響子に抱きつき彼女の膝に顔を埋めた。
お市「さあ、次は初ですか?」
初「……、初はいいです……。」
茶々が完敗して落ち込んでいる様を見て初はお市との羽根付きを避けた。
お市は器用に一人で羽を打ち上げ羽が小さく弾ませていた。
お市「義姉上が京に行かれる間はこの母と遊びましょう。」
お市の宣言に茶々達は暗くなり、響子はなるべく早く京から帰ろうと思った。
京の明智邸では、彼らの主君である信長が京に上るということとそれに合わせて行われる公家と商家等を集めた宴のその準備に追われていた。
この館の主の明智光秀は彼の主君をもてなすために家人を指揮し、あるいは公家との折衝に奔走していた。
この館には滝川一益も寝泊まりをしており、京での諜報戦を指揮していた。
明智光秀と共に京へと赴任してから今日に至るまで、他家の忍びを多く捕殺してきたが自分達の主君が訪れるということもあり京での警戒度は最大限にまで引き上げられた。
このことが後に、アサギ達を追い詰めることとなった。