---江戸川コナン---
当麻のショー当日。園子から招待券を貰い、阿笠博士、灰原と見に来た。
「彼のクローズアップの種を、解き明かしてみなさい、ガキんちょ」
って、園子には、随分と挑発的に言われた。
前半はクローズアップで、後半にイリュージョンっていう構成のようだ。って、蘭がアシスタントになるそうだ。おいおい、務まるのか?
そして、ショーが開幕した。俺と灰原、阿笠博士、園子、そして、鈴木財閥の総帥が舞台上にセットされたテーブル席に座っている。こんな間近で見られるのか。テーブルの様子はカメラで捉え、リアルタイムでモニタに映し出すようだ。
アシスタントの蘭と共に当麻が登場した。蘭の衣装に目が点である。黄色の全身レオタードに水色のヒモタイプの水着を着用しているし。恥ずかしく無いのか?こっちが心配してしまう。
「ねぇ。見とれているとトリックを見逃すわよ」
って、灰原。まぁ、確かに、当麻のショーは始まっているのだろう。
先ずトランプマジック。1枚引いてカードを3つに分けた山のどれかに戻し、シャッフルすると、何故か1番上に来るマジックである。3つに分けるのも、山に戻すのも、シャッフルするのも、俺達だけでする。アイツのすることは、カードの束を手に持ち、一番上のカードを1回タップするだけである。トリックがまるで分からない。
コインのマジック。コップの底の貫通は序の口で、手の平を貫通させり、頭から股間に貫通って、この人、本当に魔法使いで無いのか?で、俺にしたのは頭から入れて、パンツで止めるってやつだ。コイン消失マジックと言っているが、3回やって、3枚とも、俺のパンツに居座っているし。って、これのトリックが分からない。
そして、イリュージョンが始まった。俺達の目の前で、あの指先の炎のマジックを始めた。今回も指サックを灰原に見つけさせて、見付かった指で、炎を灯らせた。手を握って開くと5本の指総てに、炎が灯っているし。なんだ、これは…
「さて、ここまででトリックを見破った方はいますか?」
って、全然ダメだよ。ダメ元で言ってみるか。
「トリックは、魔法使いであることとか」
一瞬、微笑み頷いた様に見えた当麻の顔。マジか…
「先頃、亡くなった工藤優作先生と同じ見解ですが、違いますよ」
って…
そして、灰原と空中浮遊を披露した。園子はスカートだから、避けたようだ。着陸して、席に戻った灰原は、当麻に熱い視線を送り始めた。おいおい…
いよいよ、最後の演目になり、俺達は舞台から降ろされようとした、その時、銃声が鳴り響き、当麻が鈴木財閥の総帥を庇い、手の平に怪我を負った。
「大丈夫ですか?」
蘭が当麻に駆け寄るが、蘭の額にはマーカーが浮かんでいる。誰だ。俺は背後へと振り返る。次の瞬間銃声が6発ほど鳴り響き、蘭の方へ視線を戻すと、当麻が蘭を庇って、全弾背中に浴びていた。
『最後の演目です。炎地獄からの脱出です』
って、アナウンスが会場に聞こえた。誰の声だ。
ドーン!
爆発音と共に、舞台の床が崩れ、蘭と当麻が落下すると、奈落から炎が上がった。
---宗方当麻---
蘭を庇う為、全弾を背中に受けた。貫通しそうだったので、右腕の骨で、全弾受けとめた。誰がこんなことを…床が振動している。おい、爆破するのか…咄嗟に蘭に抱き付き、落下の衝撃に控えた。
ズン!
腰に衝撃が走った。蘭は無事か?
「蘭…大丈夫か?」
「当麻さん、しっかりしてください」
俺の顔は苦痛で歪んでいるのだろうか?必死に俺を心配する蘭。
周囲が熱い。見回すと…嘘だろう。周囲にはファイヤーウォールがそびえ立っていた。舞台まで炎に包まれているようだ。高さは10メートル以上か…あの壁を突っ切って、奈落の出口には辿り着けない。蘭が怪我を負ってしまう。そうなると…俺は上を見上げた。罠だろうな。多分、空中浮遊術で浮き上がった処を、狙撃するんだろう。俺は、相手を追い込み過ぎたのか。
「蘭、ゴメン…こんな目に遭わせて」
「私よりも、当麻さんは大丈夫ですか?」
息が苦しい。折れた肋骨が肺に刺さったか。いや銃弾が貫通したのか。
「あと1回なら大丈夫だよ」
「1回って?何をするんですか?」
立ち上がるが、腰骨が折れるのが分かる。もうダメだ。もう二度とマジックは出来ない。右腕も使い物にならないし。車椅子では、演目は無理である…ここまでだな。肺から空気が漏れるのか、脳が酸欠になっていく。残り時間はもう無いようだ。後1回しか、マジックは出来ない。それも失敗も出来ないマジックである。
「蘭、逢えて良かった。後のことは、英里に聞いてくれ」
「お母さんに?どういうことですか」
俺は蘭を抱き締め、空中浮遊をした。
パン!
乾いた音。頭蓋骨が軋む音…脳を貫通する感覚、蘭を無事に降ろさないと…コナンという少年が目に入った。俺を見上げ、俺を捕捉している。彼に託そうかな。
「降ろすから、受け取ってくれよ、少年」
蘭だけをゆっくり降下させていく。蘭にだけ神経を集中する。乾いた音が何発かするが気にしない。蘭を無事に彼に渡すことだけを考える。蘭を降ろしきった途端、気が緩み、頭部が破裂する感覚が…地獄の使者が、俺を闇の世界へと引き釣り込んだ。美和子…生きろよ…
---江戸川コナン---
蘭だけがゆっくりと降下してきた。アイツは俺に頷いている。頼むってことか?蘭を降下させているアイツは空中で何発もの銃弾を浴びていた。だけど気にしていないようだ。アイツは蘭を無事に降ろすことだけを考えているかのようだ。
そして、蘭が無事に降りきると安心したのか、アイツの頭部は破裂して、会場に落下した。
「当麻さぁ~ん!」
蘭が走り寄っていく。誰が、撃ったんだ…振り返ると、目暮警部達が会場に入ってきた。手遅れだよ。
「ねぇ、起きて!当麻さん!!」
頭部の無いアイツに泣きすがる蘭。許せない…奇跡のショーを公開処刑にしやがって!
---目暮警部---
会場から聞こえた非常ベルの音。その直後、会場から観客が雪崩出て来た。その為、会場に入れない。漸く入った時、銃弾が多数発射される音がして、頭部を粉砕された宗方当麻が、会場へと落下していった。公開銃殺刑のようだ。
銃を撃ったのは、刑事局長の直属の特殊部隊だ。制服で分かった。
「なんで、こんなことをするんだね」
「刑事局長の命令です。我々の使命は、ここにいる鈴木米三氏の警護です。米三氏が、アイツが殺し屋だと言うので、排除しただけです」
コイツが悪の元凶か…
「米三よ!貴様、なんて事をするんだ!」
鈴木家の当主が激怒している。
「儂を狙ったのはどういうことだ?」
「何のことですか?」
「始めの1発じゃ!」
「あぁ、威嚇射撃ですよ」
「おい!当麻を返せ!」
鈴木家同士の言い合いに、佐藤刑事が割り込んだ。彼女の手には銃が握られている。特殊部隊の銃弾が佐藤刑事に浴びせられていくが、米三が床に倒れた。佐藤刑事の渾身の一発が頭部を撃ち抜いたようだ。
「美和子さん!」
高木刑事、白鳥刑事、千葉刑事が、佐藤刑事に走り寄っていく。私は特殊部隊の前に立ちはだかった。
「警視庁捜査一課の目暮だ。これ以上の暴挙は許さない。何故、先制で撃ったんだ?何故、今回は威嚇射撃をしないんだ?先程の説明とは違うでは無いか!」
応援の警官たちも特殊部隊に詰め寄っていく。
---佐藤美和子---
私も人殺しの仲間入りだよ。これで、一緒に行けるね…当麻…崩れ落ち、床に俯せの状態で激突したが、もう痛さも感じない。
「美和子さん…大丈夫ですか?」
「彼と一緒に埋葬して…彼と一緒に弔って…そうだ、白鳥君、お願いがあるの」
「何ですか?」
「刑事局長をお願い…あんなヤツ、警察にいらない…二人目の当麻を作らないで…当麻は当麻だけだから…」
目の前が真っ暗になっていく。
『美和子…バカだな。ついてくること無いのに…』
当麻の声だ。当麻の手を掴み、浮遊術で引き上げて貰う。そして、当麻に抱きつく。私だけの当麻…
---白鳥任三郎---
美和子さん…俺は立ち上がり、
「千葉、行くぞ…美和子さんの最後の頼みだ」
「ですね」
「高木は、美和子さんの最後の願いを伝えろ。いいな」
「わかりました」
俺と千葉で敵の本丸へと向かった。
---毛利蘭---
病院の霊安室…当麻さん、美和子さんが並んで横たわっている。私はお母さんに支えられて、二人を見つめていた。
頭部が無い当麻さん。いつものイリュージョンで、どこかで生きているのかもしれない。美和子さんと共に。
美和子さんの死に顔、満足そうだ。私は怪我を負わなかった。銃弾を総て当麻さんが受けとめてくれたからだ。身体を貫通した銃弾を右腕の骨で総て受けとめていたそうだ。腰骨は砕け散っていた。私を護る為に落下の際のクッションになったかららしい。
「お母さん…私…」
「落ち着いたら、彼の家を見に行きましょうよ」
お母さんに所有権を譲った彼の家…、骨董級のマジックのネタが寝る、博物館のような場所である。そこで、短い間であったが、美和子さんと当麻さんと私の三人で生活していた。
◇
葬儀…美和子さんは、彼女の意志が反映されないまま、警察主導での葬儀になった。一方、当麻さんは、私とお母さん、園子と鈴木財閥の当主の4人だけで行った。彼は犯罪者であるから。どこにも証拠は無いのに…警察のエラい人の判断で、被疑者死亡で書類送検された。美和子さんは、殺人者であるが、警察のエラい人の判断で、殉職扱いで2階級特進だそうだ。なんか、納得できない裁定である。
そして、火葬…美和子さんは警察幹部の見守る中、火葬された。当麻さんは、希代のマジシャンってことで、火葬はせずに、身体を研究の為に保存されるそうで、研究所の人達が、持って帰ってしまった。私達がいない隙に。きっと、証拠隠滅の為にどこに捨てられるんだ。当麻さんの彼女と子供のように。
◇
そして、お母さんの住んでいるマンションの屋上…私も空を飛べるかな。当麻さんのように、マンションの縁を一歩踏み出し、二歩踏み出した。落下する感覚。あぁ、私は飛べないんだね。当麻さんの元へは行けないのか…だけど、いつまで経っても、落下の衝撃が身体に伝わらない。
『もう、蘭は無茶だな』
当麻さんの声。
『おいで、三人で暮らそう。美和子が食事を作って待っているんだよ』
当麻さんと共に、空を飛んでいる私。これで、ずっと一緒にいられるのかな?
---妃英里---
家に帰ると蘭の姿が無かった。まさか…マンションの屋上へと向かう。屋上の縁には、蘭の靴が並べおいてあった。縁から下を覗くが、蘭の姿は無い。どこに行ったの蘭…
周囲を見回すと、ふと目に入った夕日に黒い点が二つ見えた。
(完)