宝玄仙は、歓声の中を両脚を天井にあげて、大きく開脚した格好で進んでいく。
これは、また悪夢だ。
しかも、先日、見させられた悪夢の続きだ。
忌まわしい夜会の記憶の再現だ。
宝玄仙は悟った。
大殷国は、東方帝国の西の国境から数えて、
東帝国領を脱するまでは、教団の最高幹部としての旅をしてきた宝玄仙だったが、帝国領を越えて、その西方の諸王国領に入ると、教団の追及は急に激しくなってきていた。
しかし、ここまで本格的な軍の出動を受けたのは初めてだ。
いくら、宝玄仙が強力な道術遣いだといっても、こっちはたったの四人だ。
だが、その四人に対して、大殷国は、数千の勢力の軍で宿を包囲し、水軍まで出動して捕えようとした。
沙那たち供に護られて、宝玄仙はなんとか軍に包囲された宿を脱出し、大胡国の西側の国境目指して山中に入ったが、それでも、大殷国の軍は追跡を諦めず、山狩りを開始した気配である。
とにかく、夜に移動し、昼に休むということを数日続けている。
その逃避行の何日目かであり、宝玄仙は孫空女が偵察で発見した洞窟で休んでいた。
前の夜も夜通し走り、身体は疲労の極致だ。
朱姫が見つけてきた木の実で空腹と喉の渇きを潤すと、宝玄仙は洞窟の中の地面に直接横になったはずだ。
すると、宝玄仙は、あの夜会の記憶に連れ込まれていた。
つまり、これは夢なのだ
また、あいつか……。
宝玉……。
しつこいぞ――。
「さてさて、これなるは、さる有名な貴婦人でございますが、露出癖が高じて、こうして時々、その変態を発散しなければ狂ってしまう、色情狂なのでございます。どうぞ、この変態女の身体をとくとご覧ください」
大勢の人間が、大きく開いた宝玄仙の股間の周りに集まる気配を感じた。
宝玄仙は、大勢の人間に秘肉まで曝け出すという地獄のような羞恥に気が遠くなりそうだった。
しかも、口に咥えている媚薬の飴のおかげで、身体の内部から溶け出すような疼きが湧き出している。
こみあがる快楽の波は、宝玄仙が隠したい秘部を犯し、そこから甘美な痛みにも似たものを拡がせていてる。
宝玄仙は、自分の淫孔がじだじだと濡れはじめるのを感じていた。
「なるほど、露出狂というのは本物のようだな」
宝玄仙の恥部を観察している客のひとりが言った。
「確かに、こうやって見られるだけで、濡れるというのは異常ですな」
違う――。
露出狂なんかじゃない。
これは、口に咥えさせられている媚薬のせいだ。
宝玄仙は叫びたかった。
だが、燃えあがる身体からは、汗とともに淫らな涎が下の口から流れて出ているのがわかる。
「ならば、いっそこのこと、この布を取り去ってあげればいいんじゃないのかしら? これほどの色情狂なのであれば、身体だけを見せるでは我慢できないんじゃないの? もっと、恥を晒してやったらいいわ」
女客のひとりがそう言って、宝玄仙の顔に被っている布に触れた。
宝玄仙は恐怖した。
「まあ、そのうちに、そういう機会も作りましょう。今夜のところは、顔よりは、この貴婦人の陰部をゆっくりとご覧ください。なかなかのものですよ」
いつの間にか、横に来ていたようだ。
宝玄仙の顔を覆っている布を取ろうとした客を軽くたしなめてくれた。
すると、不意に宝玄仙の腰の下の台だけがせりあがった。
宝玄仙の秘部は、一層見えやすくなったはずだ。
「誰か、指を入れてみてください」
鳴智の声――。
すぐに宝玄仙の秘部にずぶずぶと誰かの指が差し込まれる。
媚薬に溶かされている宝玄仙の下の口はそれを簡単に受け入れる。
「……力一杯締めつけな、宝玄仙。やらなければ、ここで顔の布を取り去るわよ」
鳴智が囁いた。
宝玄仙は、秘肉の内襞を緊縛させて、差し込まれた指を懸命に締めた。
「こ、これは、凄い。まるで獲物に捕らえられた気がする」
「そうでしょう。この女は露出狂であるだけじゃなく、なかなかの鍛えあげられた名器の持ち主ですよ」
鳴智が観客を呷ると、周囲からどっと歓声が起きる。
この悔しさ――。
この屈辱――。
心身ともに打ちひしがれる。
自分という人間が喪失していく錯覚さえ覚える。
「しかし、本当にこの女は興奮しているようだねえ。肉芽のことは、“貝柱”にもたとえることもあるが、そのとおり、こんなに大きくなるものなのだな」
「そう言えば、こんなに明るい場所で、ここまでしげしげと眺める機会はありませんな」
宝玄仙は悲鳴をあげそうになり、媚薬の飴を噛む歯に力を入れた。
何者かの指が、宝玄仙の突起した肉芽を軽く押したのだ。
ぞっとするような嫌悪感ともに、妖しい興奮が宝玄仙に走った。
「そんなにここを触られるのが嬉しいのかね、君は?」
肉芽が指でくるくると擦られる。
いや、一本だけじゃない。
数本の指が宝玄仙の股間に伸びてきた。
二本、三本と熱くなっている粘膜の層に指が入ってくる。
「こうやって、とろ火のままなぶり続けるのも一興ですが、今夜は初見です。どれくらいこの女が、簡単に気をやってしまうのかお見せしましょう」
呂洞仙の声だ。
「この肉芽の薄い皮膜を剥きます。剝き出しにした実を、ひと擦り、ふた擦り……」
絶対に気なんかやるものかと身体を緊張させる。
しかし、それとは裏腹に、宝玄仙の身体は意思を裏切る。
あっという間だった。
激しい快感が、恍惚の向こう側に宝玄仙を飛翔させた。
ふと気がつくと、大勢の客の前で恥を晒して震える自分がいた。
「なるほど、簡単なものですな」
「露出狂で、淫乱で、色情狂の女ですか……。さぞ、味の方も格別そうですね」
浅ましい姿を示してしまったことに、宝玄仙は羞恥を越えた衝撃を受けていた。
こんなにも快楽に弱いわけがない。
本来の宝玄仙は、もっと自分の性欲を制御できるのだ。
それと同時に、自分がすべてを曝け出させられるこの屈辱を、一種の悦びにも感じている自分が存在することも知覚した。
いずれにしてもこの宝玄仙は、官能の刺激に対する耐性がなさすぎる。
そして、自分の中に隠れていた被虐性を外に引きずり出されている。
それは恐怖だった。
これは、宝玄仙ではない。
だが、紛れもなく自分でもある。
「それでは、いまの速さを覚えておいてくださいね。次は、肛門です」
鳴智の声だ。
宝玄仙は歯に力を入れた。
最初の三日間で、宝玄仙は尻を触られただけであっという間に快楽を貪る身体にされた。
お尻は、宝玄仙の最大の弱点になっている。
そんな場所をこんな衆人の中でなぶられるのは嫌だ。
だが、それとともに、そんな姿を曝け出さなければならない自分に興奮もしている。
まるで、別の人間が宝玄仙の中にいるようだ。
その宝玄仙が、被虐される悦びに振るえている。
「いきますよ、皆さん。数をかぞえてください」
鳴智が会場をあおる。
媚薬で熟れきっている宝玄仙の肛門に指が入れられる。
肉襞が激しく擦られる。
「一………二………三………」
会場に見物客が数をかぞえだす。
すぐに快楽に支配される。
もう、なにも考えられない。
羞恥心も消える。
ただ肉の欲望だけが宝玄仙を包む。
宝玄仙は、大きく身体を震わせて果てた。
どっと揶揄の声が部屋中からあがった。
あまりの恥辱に宝玄仙の意識は、次第にかすれていった。
*
宝玄仙は意識を取り戻した。
また、闇の中だ。
宝玄仙の顔の前には宝玉がいる。
今度は、意識の世界か……。
宝玉は、くすくすと笑っている。
「そろそろ、あなたは、自分にも被虐の心があることを悟ったでしょう? わたしも悟ったもの。それで、わたしは、彼らから与えられる恥辱を否定しながらも、それを快楽として受け入れていくようになったのよ。あなたもそうよね?」
「一緒にすんじゃないよ。苛められて悦ぶのは、お前の専売特許だよ」
宝玄仙は悪態をついた。
いい加減にうんざりだ。
こいつときたら、このところ、宝玄仙が微睡むたびに、ああやって悪夢を再現して、宝玄仙に追体験させるということを繰り返している。
本当に、しつこい――。
「おそらく、さっきの呂洞仙の秘密の夜会がわたしの自覚のきっかけだったと思うわ……。わたしがそうだったんだもの。あなたも、さっきは同じことを感じたでしょう、宝玄仙? 惨めで死にそうだったけど、身体は疼いたでしょう?」
「余計なお世話だよ」
宝玄仙は声をあげた。
だが、宝玉は反応した感じはない。
動じた様子もなく、喋り続ける。
そういえば、こいつは、そういう女だった。
「どうだった、いまのは堪えた? あんな記憶だったら、いくらでもあるわよ……。そうだ。今度は、
「もういい、宝玉」
「ああ、そうだ。さっきの
「もう、やめておくれよ、宝玉―――」
宝玄仙は思わず叫んだ。
しかし、宝玄仙は、またもや強制的に記憶の世界に追いやられた。
*
疼きにこらえられず、宝玄仙は何度目かの吐息をついて立ちどまった。
「酒がなくなった、注げ」
「いや、こっちが先だ」
「俺にもついでくれ」
歓声が飛び交う宴会の座を、宝玄仙は酒瓶を持って動き回る。
正体がわからないようにするために、顔の上半分覆う顔飾りの下で、宝玄仙の顔は激しい淫情のために上気し、額に汗で髪がはりついている。
呂洞仙の催す夜会における二度目の余興としての参加だ。
今回の趣向のために、宝玄仙は全裸にされ、乳首にひとつづつ鈴を結ばれた。
そのような娼婦のような格好では飽き足らず、“客達が宝玄仙に粗相をしてはならない”と言って、股縄を施したのだ。
しかも、動くたびに疼きが宝玄仙に伝わるよう、宝玄仙の下腹部に三個の結び目をしっかりと食い込ませている。
また、両手首には革の手錠をはめられており、同じ物が足首にもはめられている。
宝玄仙は想像したことすらない仕打ちに、生きる心地もなかったが、心を閉ざして、この屈辱に耐えるしかないと覚悟を決めて客のあいだ周り、酒を注ぎまわっている。
しかし、股縄の結び目は、たちまちのうちにその効果を発揮し、たびたび、股間を貫く刺激に腰を落としそうになっては、何とか気力で持ちこたえるということを繰り返している。
宴会が始まりしばらくすると、宝玄仙の股間に食い込んだ縄は、汗以外の分泌液でぐっしょりと濡れ始めたのだ。
「この女、元気がありませんな」
宝玄仙は、酒を注ごうとする一人の客に声をかけられた。
そしてその手は、縄の食い込んだ黒い繊毛に伸びた。
「この女の下の毛は、手入れが不足していますよ。結構毛深いですなあ」
「ひっ」
宝玄仙は思わず腰を引いた。
はずみで瓶の酒が、その客の手にこぼれてしまった。
宝玄仙ははっとした。
そして、その客が、
宝玄仙は、むかしからこの男を嫌っていた。
何度か言い寄られたことがあり、面倒くさいので、こっぴどく道術で痛めつけたこともある。
それから、この男は露骨な性的嫌がらせをすることはなくなった。
「これは、ひどい……」
太極伯は、顔色を変えずに言った。
「……呂洞仙殿、この貴婦人の……、いや女奴隷の失敗に対する罰をこのわたしにさせてはもらえまいか?」
そして、さらに続ける。
呂洞仙は、宝玄仙のことを“某貴婦人”ということにしていた。
身分の高い貴婦人だが、露出狂の淫乱な性癖が収まらず、こうやって恥を晒すことで発散しているという設定だ。
だから、客たちは上半分を仮面で覆った宝玄仙をどこかの貴族夫人とでも思っているはずだ。
「いいとも、あなたにお任せしよう、太極伯」
呂洞仙は上機嫌に応じた。
宝玄仙は、数名のほかの客に肩を掴まれた。
これからなにが始まるというのか。
太極伯は、呂洞仙の家人に命じ、木製のはしごを準備させた。
そして、宝玄仙の両手・両足の枷を外すと、はしごを背にして手足首を結び付けた。
宝玄仙は、万歳をして足を開いたままの格好で固定されたことになる。
「諸君、今からこの女奴隷に罰を与えましょう」
太極伯は、そう言って、股縄を取り外した。
宝玄仙は、仮面の下で激しい悔しさに眼をつぶった。
観客のすっかり充血した宝玄仙の下腹部が露わになったはずだ。
「おお、この女は、随分と感じておられたようですなあ」
観客たちが宝玄仙の恥部を見て嘲笑する。
宝玄仙は唇を噛んでまま顔をあげない。
このまま、石になりきろうと思った。
そうすれば、耐えられるはずだ。
だが、太極伯がとり出したものを見て、宝玄仙は愕然とした。
宝玄仙は、それを何度も使われたことがある。
だが、こんなに大勢の人間の前で使われたことはもちろんない。
「これは、浣腸器と呼ばれるものです。この管にこの薬液を吸い込みます」
太極伯は、大袈裟な仕草で口上のように告げると、準備した薬液をその浣腸器に吸い上げた。
宝玄仙は、本当にこれから浣腸をされようとしていることを悟った。
「……そして、先端をこの女の肛門に差し込んで体内に注入するわけです。腸に注がれた薬液は、この女に猛烈な便意を促します」
太極伯が説明を続ける。
「面白い趣向ですよ、太極伯」
呂洞仙が相好を崩して言った。
宝玄仙は歯噛みした。
あまりにも強く口を噛んだので、口の中に血の味がした。
すると、呂洞仙が中心に出た。
「……しかし、こいつは縛られて動けない。即ち、我々の目の前で排便をすることになるわけだ……。どれ、この宝玄仙がどんな格好で大便をなさるのか、見物するとしましょうか、皆さん」
宝玄仙は、愕然とした。
たったいま、呂洞仙は、宝玄仙の名を呼んだ――。
呼んだのだ。
ついに、暴露したのだ。
この状況でわざと……。
呂洞仙が宝玄仙の上半部を隠していた仮面をさっと取り去った。
思わず、宝玄仙は眼をつぶる。
目をつぶれば、客たちの視界から自分の姿が隠れると思いたかった。
「宝玄仙、眼を開け。お前の顔をみんなに見てもらえ」
呂洞仙が宝玄仙の顎を掴んで、まっすぐ前を向けさせる。
「りょ、呂洞仙……、き、貴様……」
宝玄仙は眼を開けて、呂洞仙を睨んだ。
心の底からこの男が憎いと思った。
「ここにいる者は全員が秘密を守れる。宝玄仙、心配するな。ここで起こったことが外に漏れることはない。ちなみに、半月前の夜会のときも、客たちはあの裸体がお前であることを知っていたよ。知らないふりをしていただけだ」
宝玄仙は、眼の前が真っ暗になる気持ちだった。
八仙である宝玄仙が、こんな痴態を晒すのを見られた。
知られていたのだ。
なにもかも終わりだ。
もう、帝都にはいられない。
そうしている間にも、客たちは座を移動し、宝玄仙の縛られた梯子の周りに集まってきた。
「じゃあ、そろそろ、薬液を注入してやろう、宝玄仙。その美しい身体から、どんなに汚いものが出るのかじっくりと見物させてもらおう」
太極伯が宝玄仙の肛門に浣腸器を近づけた。
「し、死んだって、そ、そんなことするものかい……」
宝玄仙は不自由な体を揺すって叫んだ。
しかし、はしごはびくともしない。
「せいぜい抵抗してくれ、宝玄仙。もっとも、この浣腸器にも道術がかかっている。いくら逃げても逃げられんよ、宝玄仙」
太極伯は、浣腸器の先端を宝玄仙の肛門に差し込んだ。
「う、うう」
宝玄仙はうめいた。
懸命に腰を激しく動かして、浣腸器の先を肛門から出そうとするが先端が外れることはない。
ゆっくりと宝玄仙の身体に浣腸液が注がれていく。
「こ、こんなことして、なにが面白いんだい――」
宝玄仙は脂汗をにじませて喚いた。
だが、太極伯は、浣腸器の中の薬剤を一気に宝玄仙に注ぐということはしなかった。
ほんの少しだけ薬剤を宝玄仙の中に注ぎ込むと、いったんそれを中止し、肛門に突き刺した浣腸器の先をくるくると肛門の中で回した。
「あ、ああっ」
宝玄仙が思わず嬌声をあげると、観客がどっと沸いた。
しばらくして、すっぽりと浣腸器の先端が抜かれる。
太極伯の指が、今度は宝玄仙の勃起している肉芽を粘っこく愛撫する。
耐えようと思ってもどうしても声が出てしまう。
そうして、ひとしきり宝玄仙を泣かせると、再び、浣腸器の先を肛門に差した。
そして、また、ほんの少し薬剤を入れる。
次は、また浣腸器を抜き、肉芽を愛撫――。
快楽の源を交互に、しかも、大勢の人間に見られながらいたぶられるという屈辱に、宝玄仙は、もう、なにも考えることができなかった。
だが、それに伴う異様な甘美感に宝玄仙は、どっぷりとした情感に酔うような心地にもなる。
宝玄仙は翻弄された。
「ああ、気が……気が狂いそう……。もう、ひと思いに、やって……」
宝玄仙はついに哀願した。
浣腸液を少量ずつ注がれては肛門をいたぶられ、そして、肉芽をいたぶられ、また、浣腸液を注がれ、肉芽を刺激される……。
宝玄仙は、身体を激しく仰け反らせた。
もう、限界だ。
すでに下腹部の苦痛は、じわじわと宝玄仙を襲い始めている。
その宝玄仙の下半身を執拗になぶる太極伯の手腕に宝玄仙は、すっかりと屈服していた。
「……これで全部だ、宝玄仙」
やがて、やっと全部の薬剤を注ぎ終わったらしい太極伯が、宝玄仙の横尻をぴしゃりと叩いた。
宝玄仙には、もう、それに反応する気力はない。
すでに、激しい鈍痛が宝玄仙を襲っている。
猛烈に襲ってきた便意に耐える。
「さて、お愉しみの時間だ、宝玄仙」
太極伯は、はしごを支えていた呂洞仙の家人に合図をすると、はしごを反対にさせた。
「ああ、なにするんだい──」
思わず叫び、それを聞いて客たちはいっせいに歓声をあげた。
宝玄仙は、頭を下にして、今にも爆発しそうな肛門を客たちの目線の下にさらけ出したのだ。
「離して、離しな──。いえ、離してください、お願いです」
宝玄仙は悲鳴をあげた。
「いやあ、まだまだ、責めは終わらぬ。面白いのはこれからだぞ、宝玄仙」
太極伯は、一個の羽根を受け取り、肛門をひとなぜした。
「ひいいいっ」
宝玄仙は身悶えた。
全神経の集中している器官をいたぶられて、狂いそうになる。
「いまは我慢した方がいいだろうな。もし、いま噴出したら、糞まみれになってしまうぞ、宝玄仙」
再び羽根でくすぐる。
「だ、誰か……た、助けて……、うう、いいい」
「教団の誇る八仙の宝玄仙ほどの者がだらしない。まだまだ我慢できるはずだ。さあ、代わってくれ。ここにいる全員の羽根の洗礼を浴びるのだ、宝玄仙」
「これは、挨拶受けだと思え、宝玄仙。これからお前は、この夜会に定期的に出演することになる。ここにいる全員が、お前のご主人様だぞ」
呂洞仙が言った。
もはや、その声も聞こえない。
少しでも気を緩めれば肛門の筋肉をゆるめさせてしまう怖ろしい刺激にひたすらに抵抗するだけだった。
その苦痛に顔を歪める宝玄仙の肛門を刷毛がくすぐり続ける。
「お、お願いです……。厠に……厠にもう行かせてください……」
もう駄目だ――。
限界……。
「厠へ……」
宝玄仙は夢遊病者のように呻いていた。
そして、ついに、限界がやってきた。
汚物が噴きあがって、全身に落ちてくる。
観客が爆発したような大歓声をあげた。
*
息が苦しい。
吐きそうだ。
頭が割れそうに痛い。
いつの間にか、宝玄仙自身の心の中、つまり、意識の部屋に戻っていることに気がついた。
そばに宝玉がいる。
「知らなかったでしょう、宝玄仙? あなたが闘勝仙たちの性奴隷だという事実は、かなり知れ渡っていた公然の秘密だったのよ。これで、教団だけでなく、帝国政府もまた、あなたを捕縛させようとしている理由がわかったかしら?」
「もういい……」
「……あなたの凌辱の催しに参加していた多くの大貴族たちが、うまく逃げおおせそうなあなたを怖れているのよ。だから、教団の要求に応じて、帝国政府は捕縛の依頼を諸王国にもしているの。帝都には、あなたが生きていては、枕を高くして眠れない者が大勢まだいるのよ」
「もういいよ、宝玉」
宝玄仙は、喋り続ける宝玉から眼を逸らせた。
すると、眼の前の宝玉が消え、宝玄仙の視線に方向に宝玉が出現した。
「まあ、動揺しちゃって、可愛らしいところもあるじゃないの、宝玄仙」
「もう、なんなんだよ、宝玉──」
宝玄仙は闇の中で頭を抱えた。
「だったら、わたしのお願いをきいてよ」
「……頼むよ、宝玉。もう、消えておくれよ。いまは、お前とゆっくりと話をするような状況じゃないんだよ。
「大丈夫よ。どうせ、あなたは大したことはできなくて、供に護られているだけなんでしょう? 頼りになる供よねえ。本当にうらやましいわ」
「いいから、消えろ、宝玉――」
宝玄仙は叫んだ。
「消えてもいいの、宝玄仙? さっきのような記憶が、あなたの頭になだれ込むのよ。ありとあらゆる忌まわしい二年の記憶がね……。あなたが封印し、記憶から消し去った記憶がね。わたしが消えるということは、封印した記憶があなたを襲うということよ。わたしという別人格が存在しなければ、あなたの精神は、ふたつにも三つにも砕けているわ」
「なにが言いたいんだよ、宝玉?」
宝玄仙は、頭を押さえてしゃがみ込んだ。
とても立っていられない。
「あの二年間を本当に耐えたのはわたし。あなたはなにもしなかった。わたしにすべてを押しつけただけ。わたしが、あの二年、なにを考えていたか知りたい? 死ぬことよ。連中から与えられる恥辱を快楽として受けとめてしまうようになった自分の本質を知ったとき、わたしは、自殺することを望んだわ。闘勝仙の道術でそれをとめられていたからできなかったけど……」
「自殺だと?」
「そうよ。死にたかったのよ。あの二年間ずっとよ。心の底から死にたかった――。誰にも助けてもらえず、すべての人間を信用できず、どの人間が自分の境遇のことを知っているかもわからず……。そういう砕けそうな思いをわたしは、すべて背負わされた。すべてよ。あの仕打ちのすべてを……。そのまま死のうと思った。この宝玄仙は死のうと思ったのよ」
「違う。わたしは死ななかった。死ぬよりも復讐を選んだ。闘勝仙には、考えられる限り惨たらしく殺してやった。わたしは復讐を果たした。死なずにね」
「そんなことは、わたしにすべてを押し付けたから、可能だったのよ――。そうでなければ、あなたも『服従の首輪』の作成に努力することではなく、自殺の手段を一生懸命に考えていたはずよ」
宝玉が声をあげた。
「わたしは、そんなに弱くはない、宝玉」
「弱いわ。いまだって、供がいなければなにもできない。あなたは、弱いのよ、宝玄仙――。だったら、もう一度、記憶を返してあげましょうか、宝玄仙? 今度は、小出しじゃなくて、半年分くらい一気にいってもいいのよ。教団に行こうと、屋敷に行こうと、四六時中、闘勝仙や手の者がつきまって、身体と心をいたぶり続ける。心の休まる時間なんてない。そんな日常よ」
「い、いい加減に……」
「心はずたずた……。そんな毎日を送りながら、本当に、お前は復讐の牙を磨ぎ続けることができたと思うの? 弱いあなたが本当に? あなたは弱いのよ。強いふりをしているだけよ。本当は弱い。だから、強くありたいと思っている」
「なんなんだよ、お前は――」
宝玄仙はしゃがんだまま耳を塞いだ。
だが、声は頭の中から聞こえてくる。
耳を塞ぐことに意味はない。
「わたしを認めないなら、この記憶を返すわ。毎晩、毎晩、繰り返し、あなたの頭に注ぎ込んでやる。二年間の連中の調教の日々をわたしのように体験してみろ、宝玄仙――。そうすれば、あれに耐えて復讐の牙を磨ぐなんて、絵空事だということがわかるはずよ。それでもいいの?」
「お、お前は、わたしを……自分自身であるわたしを脅すつもりかい?」
しゃがんだまま宝玄仙は叫んだ。
「……宝玄仙、あなたは、わたしがあなた自身であることをいま、認めたわね」
「えっ?」
「そうよ。わたしは、あなた自身なのよ」
宝玉は静かに言った。
「わかっているよ、そんなことは」
「あなた自身なのよ」
宝玉が同じことを言う。
そして、宝玄仙の眼の前までやってきた。
宝玄仙は、宝玉を見あげた。
「宝玄仙、わたしはあなた自身よね?」
「ああ、そうだよ、宝玉」
「だったら、交替してもいいはずよね。わたしは、あなたの供の沙那や孫空女や朱姫と一度も話をしたことがないのよ」
宝玉は言った。
すると突然視界が変わった。
たったいままで見あげていた宝玉が視線の下にいる。
宝玉はしゃがんでいる。
それを宝玄仙は見下ろしているのだ。
入れ替わっている――。
さっきまでの立ち位置が逆になっているのだ。
そのことに、宝玄仙は気がついた。
宝玉が立ちあがる。
そして、にっこりと微笑んだ。
宝玄仙と宝玉を包んでいた光が消えた。
同時に、宝玄仙の意識は消えた。