107 人喰いの宴
娘はされるがまま、鉄板の上で正座をした。
もう抵抗する気力は失っているようだ。
娘は、自分がこれからなにをされるのかをすでに理解しているはずだ。
理解していながらも、一切の抵抗も泣きごとも言わない。
もう、覚悟はしているのだろう。
だが、紅孩児には、自分が殺されて、自分たち魔族に食べられるということに対して、これほどまでに達観している娘の気持ちが理解できない。
この人間の雌の身体に飽きるまで遊ぶ前には、この娘の眼の前で、この娘の両親と、それから婚約者だとかいう人間の雄を殺して食べた。
その時には、発狂したような悲鳴と哀訴を繰り返していた。
あのときと比べれば、いまのこいつは、もう生きる屍のようなものだ。
「さんざんと、俺たちをその身体で愉しませてくれた、お前だ。最後の最後も俺たちを愉しませてくれ。そうすれば、苦しい思いだけは勘弁してやる。文字どおり天にも昇るような快楽の中で昇天させてやるぜ」
紅孩児はそう言って、娘の前に短剣を放り投げた。
娘は、それをぼんやりと見つめていた。
「それを手に取れ、女」
この娘の名がなんだったのか、どうしても思い出せなかった。
もっとも、こうやって、人間の娘を浚っては凌辱して遊び、飽きたら喰い、また浚うということを四匹で何十人も繰り替えしている。
いちいち、憶えていることが無理というものだ。
「なにをさせるんだ、紅孩児?」
これが、魔族の世界である魔域から、人間の世界である東側にやって来た四人の仲間だ。
「なに、料理の食材自身に料理をさせるのさ。こんな見世物、常識じゃあ考えられないぜ」
紅孩児が言うと、雲裡霧と興烘桀も含めた四人が、興味深い表情で、鉄板に脚を張りつけられた娘を囲んだ。
それぞれ、手には鉄箸と皿をそれぞれ持っている。
鉄板の下には、魔力を籠めた石炭が敷き詰められており、紅孩児の魔術で、あっという間に石炭は燃えあがることになっている。
あとは人間の姿焼きができあがるのを待つだけだ。
「自分の腹を割いて、贓物を鉄板の上に拡げていけ、女。そうすりゃあ、人間の内臓焼きが自然にできあがるというわけだ。俺たちがお前の内臓の賞味を終えりゃあ、次は乳房だ。とにかく、右手で届く場所のどこでもいい。次々に切り落としておめえの一部を鉄板の上に乗せていけ」
「え……?」
娘はきょとんとしている。
いずれにせよ。やっと声を出した。
そういえば、しばらく前から口をきかなくなっていたような気がする。
「俺たちは、食材であり、料理人でもあるお前の肉を食うということだ。途中で死なねえように、生命力は魔術で送り続けてやる。それに鉄板はこれ以上ないというくらい熱くなるが、脚の部分だけは最後になるように、そこだけは熱がいかないようにするから、安心して料理をしてくれ」
これから食べようとする食材の娘自身に、自分の身体を切り刻みながら鉄板で肉を焼かせようという発想に、ほかの人が大喜びした。
当の娘は、最期の瞬間まで、そうやって肉体を辱められるということに、精根尽きたはずの顔を蒼白にさせた。
たが、娘は素直に、短剣を右手に取った。
その手は震えている。
「じゃあ、行くぜ」
紅孩児は腕を振った。
あっという間に鉄板の下の石炭が燃えあがり、凄まじい熱気が鉄板からがあがる。
娘の顔に恐怖が浮かぶ。
「心配するな、雌。どんなに鉄板が熱くなっても、お前には直接熱は伝わらない。焼けるのは、お前が身体から切り離して、鉄板に乗せた部分だけだ。その短剣も魔具だ。触るだけで、身体のどこでも削ぎ落とせるから、どんどん焼いてくれ」
紅孩児は笑った。
「ああ、俺たちは腹が減ってんだ。昨日の飯は、ちょっと足りなくてなあ。どうも腹の溜まりが悪い」
すると、
「お前は、あれだけ食って、まだ足りねえのかい。人間の男ひとりと、子供ふたり食ったんだせ。しかも、朝飯に子供丸ごと、ひとりで喰いやがったくせに」
雲裡霧が笑いながら言う。
紅孩児も横で苦笑した。
四人とも、大飯喰らいに違いないが、興烘桀だけは別格だ。本当に人間をよく食べる。
昨日は、三人の子供がいる農夫の夫婦を三人の子供ごと浚って、三人の子供のうち、ひとりを残してふたりをここで殺して焼けと、その夫婦に命令して子供を料理させた。
父親も母親も、自分を食ってくれと泣き叫んだが許さなかった。
聞き分けがないので、だったら子供全部を殺すと脅して、ひとりを殺した。
それで観念したのか、ひとりだけでも救おうと、その夫婦は、残った二人の子供のうちの小さい方を泣きながら殺して、この鉄板に乗せた。
そうやって泣き叫ぶ餌どもの姿は、食事の最高の調味料だ。
そのあと、子供のほかに、どちらかを助けてやるから、生き残りたい方が、もうひとりを殺せと夫婦に命じて、男が指示して、女に自分の心臓を刺させた。
ここまでが、夕べの食事だ。
しかし、興烘桀は、朝になって、生き残った女と子供の入っている檻に行き、子供だけを檻から出して、女の前で生き喰いしたのだ。
あのやかましい悲鳴は、それだったというわけだ。
いずれにせよ、興烘桀の言い草じゃないが、人間の肉は、いくら食っても飽きるということはない。
大人どもは、人間を無暗に襲うのは、仕返しもあるから、自重しろとうるさいが、こいつらは妖魔に喰われるために存在しているのだ。
こうやって、暴れ回っても、人間が仕返しにくる様子はないし、無力な人間どもにそれができるわけがない。
大人たちは、なにごとにつけ慎重すぎるのだ。
地下の牢にまとめて閉じ込めてある昨夜の母親の女は、さっき覗いたが、呆けたように狭い土牢でじっととしていた。
そのうち、もっと面白い殺し方を思いついたら、喰ってしまうつもりだ。だが、それは少し先のことになるだろう。
興烘桀が、残っている子供をさっさと喰っちまったから、遊び方の材料がなくなって、思いつくまで保留だ。
それに、浚ってきた人間は、まだ五十人はいる。
いま、目をつけてるのは、すでに親を殺して残っている十五と十の姉妹だ。
特に、いずれも十代の娘というのが気に入った。
今夜にでも、その十歳の娘を姉に道具で犯させるということをしようと思っている。
拒否すれば、妹の身体を寸刻みに切っていくだけだ。
姉も、最後には、妹を道具で犯すことに応じるだろう。
いままでもそうだった。
次の日からは、妹に姉を拷問させる。
それを何日も続けるのだ。
そうやって、壊れていく姉妹の関係を愉しむつもりだ。
「や、やります……」
眼の前の娘が自分の腹に短剣を向けた。
「待て、その前に最後の贈り物だ。これから、魔術でお前の感じる痛覚を官能の愉悦に変えてやる。本来は激痛であるはずの感覚が、これ以上ないというくらいの快楽に感じるはずだ」
娘の顔をこちらに向けさせて、『縛心術』で痛覚を快楽の感覚に変化させた。
これで、娘は、それこそ、いき狂いながら死んでいけるはずだ。
「こ、これで、父さま、母さま、そして、
両親はともなく、“冲様”というのが誰のことか、紅孩児にはわからなかった。
「ああ、間違いなく行けるぜ。三人とも、俺たち四人に喰われて腹の中だ。お前は、やっと、あの三人と一緒になれるんだ。俺たちの腹の中でな。よかったな」
急如火がそう言った。
お陰で、紅孩児は、やっと、娘が冲様と言ったのが、婚約者だとか言っていた若い人間の男のことだということを思い出した。
殺す前のまだ元気なうちに、この女の眼の前で、最初は、一物だけを切り落として焼いたのだ。
あのときのこの娘の顔は見ものだった。
婚約者はその場で喰ってしまったが、親の方はしばらく残していた。娘をなぶるための材料にするためだ。
考えつく限りの恥辱をやらせ、穴という穴をすべて堪能しつくした。
村で一番の器量よしという評判に違わぬ、美貌と身体を持っていたが、もう、この娘を使って愉しめることを思いつかなくなった。
父親に犯させもした。
母親にも道具を使って責めさせた。
魔獣との獣姦もさせた。
もう、これという考えは出てこない。
それで、いま、親も喰い、こうやって娘も殺して喰うことにしたのだ。
娘の持っている短剣が、なんの抵抗もなく、娘の腹に突き入った。
それと同時に、娘が小さく口を開けて喘ぎ声をあげた。
顔に恍惚の表情を浮かべる。本来であれば、激しい痛みが走るはずだが、その痛みの量と同じ量の快楽を感じているのだ。
「ほれ、もっと、切り口を大きくして、贓物を抉り出せ」
興烘桀がはやし立てた。
娘の腹からは真っ赤な血がどくどくと流れ落ちている。
それらは、鉄板の上に滴り流れると同時に、血の蒸気となって辺りにもうもうとした赤白い湯気を作る。
その香りが実に食欲をそそる。
「あはあああっ」
娘は、短剣をさらに横腹に突き立てると反対側の横腹まで一気に裂く。
娘が嬌声をあげた。
それとともに、娘の股間からじゅうという音が立つ。
腹を裂いたことで受けた快感により、娘が愛液を噴き出したのだとわかった。
「ひううう、んあああ」
娘の顔は、まさに官能の極致にあった。
横に裂いたふたつの切れ込みからは、凄まじい量の血とともに、なにかの贓物の塊りのようなものも流れ出し始めた。
「腹の裂け目を縦にも入れろ」
興烘桀が愉しそうに叫んだ。
ふたつの腹の裂け目に縦の裂け目が加わると、そこから娘の腸がぞろぞろと鉄板に流れ落ちた。
「切れ――。切れ――。ほらっ、気を失うなよ、女。俺たちが喰いやすいように、切断しながら、はらわたを出すんだ」
「は、はいいっ、んぎひいいっ」
娘はがくがくと痙攣しがら絶叫している。
痛みではない。
凄まじい快楽の本流に我を忘れているのだ。
娘は、興烘桀たちの言葉に操られたように、左手で自分の腸を引っ張り出すとともに、右手で短剣を横に振りながら、ばらばらにして鉄板の上に投げ捨てる。
猛烈な熱により、あっという間にはらわたはいい具合の焼き加減になる。
紅孩児は、鉄箸でそれを摘まむと、口に入れた。
「うめえやっ」
口の中に拡がった新鮮な若い娘の内臓の香ばしさに、紅孩児は叫ばずにはいられなかった。
それが合図であるかのように、ほかの三人の妖魔たちも、鉄板に散らばるはらわたの焼肉を食べ始める。
一方で、娘の生命力がなくなりかけているのがわかった。
紅孩児は、慌てて魔力を注ぎ込む。
娘の腹からは、血が流れ過ぎている。
娘の気を失わせるには十分な出血だ。
いま、娘の生命を支えているのは、紅孩児の魔術だ。
「乳房の肉を食わせてくれよ、娘。脂の柔らかいところが俺の好物だ」
「俺は、乳首付きだ。ひとつは、紅孩児のだろうが、もうひとつは、俺だ」
娘の顔はすでに正気を失っている。
さっきから、何度も大小の絶頂の波を繰り返している。
嬌声も歯止めのないものに代わり、まるで激痛による悲鳴のようにも思える。
娘の股の下に滴る淫液が鉄板の鉄で蒸発して立てる音も間隔のない連続したものになっている。
娘の乳首のついた乳房の肉片がふたつ鉄板の上に落ちた。
そのひとつに、急如火がさっと手を伸ばす。
「あっ、狡いぞ、急如火。そりゃあ、俺の注文だ」
雲裡霧だ。
寸前のところで、さっと急如火に横に浚われたのだ。
「早い者勝ちだ。おめえは、普通の乳房焼きで我慢しな、雲裡霧」
「俺りゃあ、柔らかいところと硬いところが、口の中で混じり合うのが好きなんだよ」
雲裡霧が悔しそうな声をあげた。
「俺のを食っていいぜ、雲裡霧」
紅孩児は言った。
「すまねえな、紅孩児」
もう片方の乳首の肉を雲裡霧が口に入れた。
乳首の膨らみが完全になくなる頃には、その傷口からあばらに隠れた肺臓が見え隠れし始める。
やがて、右側の乳房の傷口からは、心臓の影が露わになった。
腹の中の贓物は、ほとんどが出尽くして、空っぽになりかけている。
そのため、娘の身体は、支えを失って、腕で支えなければ、座った姿勢を保てなくなっている。
「もういいぜ、心臓に剣を刺しな。それで終わりだ。お前は、それで死ぬ。残りは、俺たちで料理して喰う。最後の最後までよくやった」
紅孩児は言った。
もう、何十回も自分の身体を切り刻みながら気をやった娘は、よがり狂った後の愉悦の頂点を彷徨う雌さながらの表情をしている。
その雌の顔に、ほんのかすかな安堵の表情が浮かんだ。
娘が自分の心臓を突き刺した。
ほんのしばらくの後、娘から生命が消失したのを紅孩児は悟った。
倒れた娘から、その心臓を三匹の妖魔が争って、娘の心臓を抉っている。
「しかし、こんなに愉しい思いが毎日できるなら、やっぱり、東域に出てきてよかったな」
興烘桀が心臓の肉を咀嚼しながら言った。
「まったくだぜ。親父たちは、まだ早いといか言っていたけど、俺たち四人が集まれば、こんなものだ」
「俺たちほどの魔力なら対抗できる者もいねえだろう。これなら、このまま、巣食ってもいいんじゃねえか?」
急如火と雲裡霧がそれぞれに言った。
こっちの世界の人間が西域と呼んでいる棲み家の西方諸国を、ほとんど家出同然に飛び出してきたのは三箇月前だ。
そして、四人でこの置き捨てられた人間の軍の砦を山中に見つけて、“
ここの山岳付近には、十余りの村が点在していたが、その村々の人間や通りがかる旅人を捕まえては、さんざんに遊びつくしてから喰らうということを続けている。
紅孩児の父親である
もっとも、ここにあるさまざまな拷問用の魔具については、父親のところにあったやつを『移動術』でまとめて運んできたものであるが……。
「ねえ、紅孩児、この間の話だけど、どうする?」
急如火が言った。
「なんだい、こないだの話ってのは?」
「ほら、東帝国の偉い道術遣いが、こっちに逃げてくるって話だよ。調べたところによると、この近くをもうすぐ通りかかるらしい。一度喰ってみたいじゃないか。そういう高い道術遣いの肉っていうのをさあ。さぞや美味なんだろうなあ」
「へっ、その代わり、とんでもなく強いそうじゃねえか。その供の女だって半端じゃないらしいしな」
紅孩児は鼻を鳴らした。
「おじけづいたのかよ、紅孩児?」
興烘桀だ。
こいつは、もう一度、ほと肉の部分に喰らいついている。
「なんだと? 俺は、おじけづいたりしねえぞ」
「だったら、このまま素通りはねえだろうさ。術遣いじゃなくても、その供でもいいぜ。若くて綺麗な女らしいな。若い女は旨い。それに、喰う前に遊べるじゃねえか。退屈凌ぎにちょうどいい。飽きたら喰えばいいしな」
「まあな、興烘桀」
紅孩児は、少し考えた。
よくはわからないが、魔域で最近人相書きが回っている天教の女法師の話だ。
なんだか知らねえけど、天教はいけ好かないが、賞金代わりに、大層な宝物がかけられているらしく、親父たちが話していた。
それが、そろそろ、近くを通るらしい。
なんか、そんな情報を興烘桀が持ってきたのだ。
まあ、話によれば、天教教団の八仙ほどの女というだけあって術力は強いらしい。
半端な妖魔じゃあ、返り討ちになるだろう。
供という女たちも、一騎当千だという話だし、まともに襲っても、この四匹じゃあ苦しいかもしれない。
「……まあ、策がないこともねえなあ」
やがて、紅孩児は呟くように言った。
「やっぱり、紅孩児だ。乗ったよ」
「俺は、まだなにも言っていねえよ、急如火」
「いいんだよ。その術遣いでも、その供でもいいから、遊びたいんだよ。喰いたいんだよ。どんな策でも乗るよ、紅孩児。まあ、喰いながら、その策を説明してくれよ」
「わかったよ」
紅孩児は、再び、娘の肉に箸を伸ばした。
そうだ。この娘の名は、
この娘の母親が死ぬ前に、そう絶叫していたのを思い出した。
紅孩児は、そんなことを想いながら、娘の心臓に鉄箸を伸ばした。
「それで策ってなんだよ?」
急如火が言った。
「待てよ、説明の前に、これを喰わせろ」
紅孩児は、娘の下腹に手を喰い込ませて子宮を掴みとった。