※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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11  主従の誓い

 洞窟の外から聞こえる鳥の声で、沙那は夜が終わって、すでに朝であることに気がついた。

 

「起きたかい、沙那……。たった七回で気を失うとは、お前らも情けないよ、まったく……。おかげで、結局、わたしが朝までやらなければならなかったじゃないかい」

 

 宝玄仙の声がした。

 はっとした。

 沙那は自分が裸身であることに気がついたが、その上に毛布が被さっていたのだ。

 目の前には、沙那と同じように素裸で同じ毛布に包まれていた孫空女がいる。

 孫空女は、静かな寝息をかいていた。

 

 顔をあげて、宝玄仙の声の方向に視線を向ける。

 宝玄仙は洞窟の壁にもたれかかるようにして座っていた。

 顔に疲労の色がある。

 眼が赤いところを見ると、眠ってはいないのだろうか……?

 

 それにしても、もしかしたら、この毛布は宝玄仙が……?

 あり得ないような可能性だが、状況的にはそうとしか思えない……。

 沙那は眉をひそめた。

 

 そして、思い出した。

 がばりと起きあがって、毛布を孫空女から引きはがす──。

 

「あっ、孫空女──」

 

 沙那は声をあげた。

 孫空女の身体には、ちゃんと腕と脚が存在していた。

 宝玄仙は約束を守って、孫空女の四肢を復活させてくれたのだ。

 

「ちょっと、起きて、孫空女──。起きなさい」

 

 沙那は孫空女を揺り動かした。

 孫空女もまた、沙那同様に、最初はぼんやりとしていたが、はっとしたように自分の手足を見た。

 そして、呆然と自分の手と足をしばらく眺め続けた。

 しばらくすると、無言で手を握ったり開いたり、あるいは、足を不安そうに動かしたりし始めた。

 

 沙那はほっとした。

 

 孫空女の手首と足首には、昨日同様に緊箍具(きんこぐ)は嵌められているものの、手足の機能に問題はないように思えた。

 

「どうしたい、孫空女? 押し黙っちゃって──。忘れているかもしれないけど、御影(みかげ)に刻まれた魔毒の道術によって、お前は死にかけていたんだよ。命を救ってはやったものの、それでも手足を付け根から切断しければならなかった。だが、全部、元に戻してやったんだ。礼くらい言っても罰は当たらないと思うけどね。しかも、お前は、御影に魔毒を送り込まれる前に、わたしになにをやったか覚えているかい?」

 

 宝玄仙が笑いながら言った。

 気性の激しい宝玄仙だが、今朝の機嫌はいいようだ。

 

「お、おはようございます、ご主人様。朝の掃除をさせていただきます」

 

 沙那は慌てて裸身のまま、宝玄仙に寄っていった。

 朝、起きたら、宝玄仙の口を舌で掃除をする──。

 それが、この一箇月、ずっと強要されていた躾だった。

 これまでは、激しい嫌悪感とともにやっていたが、昨日のことで、沙那は宝玄仙のことを見直した気分だ。

 孫空女の手足を復活させるという道術は、宝玄仙といえども、並大抵の術ではなかったのだろう。

 それをひと晩もかけて、やってくれたのだ。

 宝玄仙にもあんな一面があるなど、沙那は驚嘆していた。

 

「いや、ここは、新しい性奴隷の赤毛女にやってもらおうかね……。さあ、孫空女──。いつまで呆けてるんだい。お前はわたしの性奴隷だよ。いや、玩具かな……。とにかく、さっさとやって来て、わたしの口を掃除しな。寝起き、毎食後、就寝前……。欠かさずやるんだよ。わたしの供として覚えなきゃならない躾は、ほかにもまだまだあるからね。みっちりと調教で叩き込んでやるから、覚悟してな」

 

 宝玄仙が笑いながら言った。

 孫空女は、はっとしたように宝玄仙に身体を向けた。

 

「……あ、ありがとう、あ、あんた……」

 

 孫空女がぺこりと頭を下げた。

 その素朴なお礼に宝玄仙が苦笑した。

 

「なんだい。それだけかい。こっちは、徹夜で働いて、ありがとうの礼ひとつかい……。まあいいか……。礼には変わりないしね」

 

「……そ、そうじゃないんだ……。あんたが助けてくれたことは覚えている……。それと、夜中のあいだ、ずっと道術をかけ続けてくれたことも、薄っすらとだけ記憶にある。でも、なんでそんなことをしたのさ? あたしは、あんたが怒って仕返しをしに追いかけてくると信じ込んでいた……。まさか、助けてくれるとは思いもよらなかった、なんでだい?」

 

 孫空女は、いまだに信じられないという口調で言った。

 宝玄仙はからからと笑った。

 

「死なれでもしたら、調教できないからね……。お前も、沙那同様にみっちりと調教してやるよ。旅のあいだの暇つぶしだ。お前は気が強いけど、ものすごく淫らな身体をしているからね。なによりも、それがお気に入りさ」

 

 宝玄仙が言った。

 孫空女は首を横に振った。

 

「いいや、わかんない──。あたしは、あんたに殺されるようなことをした。そもそも、手下を率いてあんたを襲った盗賊のあたしだ──。そして、捕らえられて逃げるときに、あんなにひどい目にあんたを遭わせた。それなのに、殺すということもしないし、軍に突き出すということもしなさそうだ。なんで、そんなに優しくするのか、わかんないんだ」

 

「や、優しく?」

 

 横で聞いていた沙那は、びっくりして声を出してしまった。

 少なくとも、あの行為は、“優しさ”というような行為ではないだろう。

 感情のままの気紛れというのが正しい気がする。

 ふと見ると、宝玄仙も面食らった顔をしている。

 しかし、その顔がふっと綻んだ。

 

「優しいなんて言われたのは生れて初めてかもね。尻の穴が痒くなるよ。まあいい……。優しいというんなら、それでもいいさ。だったら、朝の挨拶くらいできるだろう? ほら、口を舐めな」

 

 宝玄仙が催促するように口を開く。

 孫空女が困惑したように顔を赤らめた。

 

「……あ、あんた、本当にあたしを愛人かなんかにするつもりかい……? つまり、性の相手に……」

 

 孫空女が顔を赤らめたまま、当惑した表情をした。

 すると、宝玄仙がぷっと噴き出した。

 

「誰が、愛人というような上等なものにしてやると言ったかい──。旅の供にはするが、お前の役割は、わたしの暇つぶしの性の玩具だ。間違って、人間並みに扱われるとは思わないことさ……。自分の立場がわかったかい」

 

 宝玄仙が言った。

 

「ほ、本当に、あたしをあんたらの旅に連れていくのかい……? そして、その……性の相手として……? 女のあんたが……女のあたしを……?」

 

 孫空女は首を傾げている。

 沙那は横から声をかけることにした。

 

「……このご主人様は、そういうお人なのよ……。もう、わかっているでしょう」

 

 沙那は言った。

 宝玄仙はにやにやと笑ったままだ。

 すると、孫空女はしばらく考え込むように押し黙った。

 沙那は孫空女が顔をあげるのを待っていたが、それがかなりの時間になったので、沙那はちょっと心配になった。

 さっぱりとした気性の孫空女のようなので、こうなったら宝玄仙の供になることにすぐに同意するのかと思ったら、随分と考え込んでいる。

 もしかして、やっぱり孫空女は、こんな旅の供など、やはり承知しないつもりだろうか……?

 

 しかし、たった一日だが、沙那はこの孫空女と離れがたい気分になっていた。

 宝玄仙との旅が始まって以来、こうやって旅を続けるのもいいかなあ、と思ったのは昨日が初めてだったし、それは紛れもなく孫空女がきっかけだ。

 沙那は孫空女がこのまま旅に同行して欲しいと思っている。

 それに、昨夜は孫空女も、あんなに沙那と熱く愛し合ってくれたのに……。

 沙那は、ちょっとだけ、孫空女の迷いを不満に思った。

 

「なに考える必要があるんだよ。まあ、考えたところで同じだけどね。お前は、もう、わたしについていくしかないのさ。昨日も言ったけど、さもなければ、手足のない芋虫になるだけじゃなく、御影の魔毒が再び身体に回って死ぬことになるんだよ」

 

 宝玄仙が焦れたように言った。

 

「……そのことなんだけどさあ、あんたの供になる代わりに、ひとつだけ、条件があるんだ。それをさせてくれれば、あんたの供でも、奴隷でも、玩具でもなんにでもなるよ」

 

 孫空女が顔をあげた。

 

「条件?」

 

 宝玄仙は、面白い冗談でも聞いたような顔になった。

 沙那も孫空女がなにを言い出すのかと怪訝に思った。

 

「お前、自分の立場がわかってんのかい? お前が、望もうと望むまいと、お前がわたしの供になって旅の玩具になる運命は、もう決まっているんだ……。そうだ、忘れていたよ。これをしな」

 

 宝玄仙が懐から金属の輪っかを取り出した。

 沙那ははっとした。

 色こそ違って、沙那の首に嵌められている『服従の首輪』が銀色なのに対して、孫空女に近づけたものは、手首足首の緊箍具と対になったような赤色だったが、紛れもなく霊具だと思ったからだ。

 

 得たいの知れないものを首に嵌めるのを許して、この変態巫女の「性奴隷」にされてしまったのは、沙那の痛恨の極みだ。

 それと同じようなことをしている──。

 そう思った。

 

「嵌めるから髪をあげな」

 

 宝玄仙がその赤い輪を孫空女の首に当てるような格好をして言った。

 

「こうかい?」

 

 孫空女は素直に赤い髪を両手でたくしあげる。

 

「そ、孫空女」

 

 沙那は思わず声をあげた。

 しかし、そのときには、その赤い輪は孫空女の素裸の首にがちゃりと嵌まってしまった。

 宝玄仙がにやりと笑った。

 

「沙那から、『服従の首輪』のことは聞いているんだろう? 得体の知れない霊具を首にされるのは怖くないのかい?」

 

 宝玄仙が意味ありげに微笑んだ。

 

「あんたのことは、もう信用することにした。だから、これがどんなものでも受け入れるさ。好きにしていい。だけど、ひとつだけ、条件がある。それだけはきいてもらう」

 

 孫空女はきっぱりと言った。

 感嘆するほどの度胸だと思った。

 宝玄仙の恐ろしさを孫空女は十分に知っているはずである。それにも関わらず、孫空女は宝玄仙の霊具を受け入れ、なおかつ、宝玄仙に対等の交渉を求めているのだ。

 しかも、孫空女は宝玄仙を挑むように視線をぶつけている。

 

 束の間、ふたりがお互いに睨み合った。

 だが、しばらくしてから、宝玄仙が根負けしたように笑った。

 

「……ふふふ……。わかっているかい、孫空女? お前を言いなりにするのは簡単なんだ。その身体には、わたしの内丹印が刻んである。お前が泣いて謝るまで電撃を浴びせることもできる。緊箍具(きんこぐ)で動けなくして、痒み責めにもできる。三秒に一回の連続絶頂だってね……。お前を屈服させる手段はいくらでもあるんだよ」

 

「でも、あたしの心は手に入らない。条件を受け入れてくれるなら、あたしは心からあんたに屈服する。性の相手をしろというならする。身体を売れというなら売るし、死ねと言われれば死ぬ。あたしに二言はない。あたしが誓うといえば、本当に誓うんだ。それは信用していい」

 

 孫空女がはっきりと言った。

 沙那はさっきから、宝玄仙が怒るのではないかとはらはらしていた。

 いまは機嫌がいいようだが、どんなきっかけで豹変するかわからない。

 本当にこの女法師は、気紛れで過激だ。

 沙那は、それをよく知っている。

 しかし、宝玄仙は急に笑いだした。

 沙那はとりあえず、ほっとした。

 

「まあいい……。それは『定心環(じょうしんかん)』だ。お前を守るものさ……。お前の首に嵌めたのは、沙那の首にあるものとは違う。服従の首輪というのは貴重品でね。作るのに時間もかかるし、幾つもあるわけじゃない」

 

「『定心環《じょうしんかん》』?」

 

 孫空女が自分の首にある金属の輪に触れた。

 沙那の首輪と同じように、道術でしっかりと嵌まっているように思える。

 

「昨夜も話したけど、お前に刻まれた『死の呪い』は消えたわけじゃないんだ。だが、その環をしていれば、わたしのそばで、わたしの霊気を吸収し続け、必要な一定の霊気を集めて、御影の道術くらい跳ね返し続ける。ただし、わたしが死ねば、御影の魔毒を待たずして、首輪が縮まってお前の首はもげ落ちるよ。そういうものさ」

 

「縮んで首が?」

 

 孫空女が顔をしかめた。

 

「ああ、そうさ。ちなみに、沙那の首輪にも同じ機能を付けている。だから、お前らは命懸けでわたしを守るしかないということさ。さもないと、自分たちも死ぬんだからね。かくして、わたしの旅は女傑ふたりに守られて安全が保てるということだよ」

 

 宝玄仙が笑った。

 孫空女が驚いた顔になった。

 

「もしかして、沙那もそれであんたを殺さなかったのかい?」

 

「いや、沙那がそれを知ったのは、わたしを解放してからさ。沙那は自分の意思でわたしを殺さなかったのさ」

 

「ふうん……。まあいいや。とにかく、あたしの頼みをきいておくれよ、宝玄仙さん。そうしたら、あんたのいうことをきくから。お願いだよ」

 

 孫空女が言った。

 

「まあ、お願いとまで言うなら、話だけはきくよ。聞くだけならただだしね」

 

 宝玄仙が肩を竦めた。

 

「あたしをあいつらの仕返しに行かせて欲しいんだ。それをさせてくれたら、もうなにも言わない。黙ってあんたの奴隷になって生涯暮らす」

 

「あいつらって……もしかして、あんたの手下だった盗賊たちのこと?」

 

 沙那は口を挟んだ。

 すると、孫空女が大きく頷いた。

 

「そうだよ。あいつらは頭領だったあたしを裏切った。それだけは、きちんとけじめはつけたい。さもないも、あたしの女が立たないんだ」

 

「あいつらかい……。だけど、あれは、わたしのせいだろう。わたしが道術で脅したんだ。恨むならわたしじゃないのかい?」

 

 宝玄仙は顔をしかめた。

 

「いや、あんたのことは恨んでない。もともと襲ったのはあたしだから、仕返しをされるのは当たり前だ。それなのに、命まで救ってくれて感謝してる。でも、あいつらは別だ。あいつら、頭領のあたしを狂ったように犯したんだ。その仕返しだけはさせてよ。女の意地なんだ」

 

「女の意地ねえ……。あんなことくらいで、仕返しなんて気乗りしないねえ……。これでも一応は目的のある旅なんだよ。そいつらを探して、あちこち回るなんてわけにはいかないよ。とりあえず、この帝国の西の国境だけは早く越えたくてね」

 

 宝玄仙がちょっと複雑そうな表情をした。

 

「それには及ばないよ。あいつらがいるはずの砦に行くだけさ。あたしがひとりで乗り込み、それで戻ってくる。もしも、あいつらがそこからいなくなっていれば、それでいい。あたしはそのまま戻って、あんたの旅に加わる」

 

「なに言ってんのよ、孫空女。ひとりで乗り込むって、何十人そこにいるんでしょう? 返り討ちになったらどうするのよ」

 

 沙那は驚いて言った。

 孫空女の言葉はもう疑っていない。孫空女が砦に戻っても、彼らを従え直して、沙那たちを裏切るということはもうないだろう。

 孫空女は本気で自分が従えていた盗賊たちをやっつけにいくのだと思った。

 しかし、頭領だった孫空女だが、いまやどれくらい彼らに影響力を行使できるか不明だ。

 下手をすれば、返り討ちに合い、一昨夜の輪姦の繰り返しだ。

 

「大丈夫だよ。どいつもこいつも、意気地なんてない連中さ。面倒なのは数人だ。そいつらさえ叩きのめせば、あっという間に片付く。皆殺しにするのに、大した手間はかかんないよ」

 

「そうまで言うなら、盗賊退治を認めるけど、皆殺しは目覚めが悪いよ。ちょっと懲らしめるだけで勘弁してやりな」

 

「それでいい。ありがとう」

 

 孫空女がにっこりと微笑んだ。

 笑うと驚くほど可愛い顔になる。

 沙那はちょっとどきりとした。

 

 いや、それよりも盗賊退治だ。

 沙那は気を引き締めた。

 いずれにしても、これで盗賊団の砦への乗り込みは決まった。

 何十人もいるだろう盗賊団の砦に、たった三人で乗り込むのだ。

 どうなることか……。

 沙那は嘆息した。

 

「なら、沙那は、孫空女によく話を聞いて策を立てな。もとは千人隊長の女将校だ。こういうのは得意だろう?」

 

「わかりました、ご主人様」

 

 沙那は頷いた。

 しかし、孫空女が首を横に振った。

 

「いや、これは、あたしの意地の話だから、そんな迷惑はかけられないよ。ひとりでいく。そして、終わったら戻ってくる。約束するよ。逃げたら死ぬから、戻るんじゃない。約束したから戻る。あたしのことは信用していい」

 

「いや、違うよ。これは、八仙たる三蔵法師こと、宝玄仙の仕事としてするのさ。五行山に巣くっていた盗賊をこの宝玄仙が、元頭領のお前を使って退治するんだ。お前らはわたしの供として、わたしの命令でそれをするのさ」

 

 宝玄仙が白い歯を見せた。

 

「ご主人様……」

 

 沙那は宝玄仙のいきな物言いに、口を綻ばせた。

 どうしようない変態女で、鬼畜好きの気紛れ屋だが、それでも完全に憎みきることができなかったのは、こういう一面があるからだろうか。

 

「あ、ありがとう……。そ、そのう……ご主人様……」

 

 すると、孫空女が顔を真っ赤にして、照れたように言った。

 孫空女の仕草に、宝玄仙が微笑んだ。

 

「その代わりに、盗賊退治が終われば、なにをされても文句はないという言葉に、二言はないだろうね、孫空女」

 

「うん……。それに、いろいろあったけど、ご主人様に犯されたときは、本当に気持ちよかったよ。沙那もね。身体が溶けるようだった。あたしは、あんなにすごいの初めてだ」

 

 孫空女が赤い顔をしたまま言った。

 沙那は孫空女の赤裸々な物言いに、こっちが恥ずかしくなった。

 

 

 *

 

 

 砦に向かうのは、夜と決まった。

 孫空女が砦の造りと、周囲の地形を説明すると、沙那はあっさりと、背後の崖から侵入するのがいいだろうと言った。

 孫空女は、頭領として、かねがね砦の裏側が弱点だと思っていて、そのうちになんとかしないといけないとは思っていた。

 少人数なら、砦から死角になっている背後の接近経路から、砦の真上まで簡単に辿り着けるのだ。

 だが、孫空女はその弱点を悟るのに、頭領になって半年かかった。

 沙那は、実際に砦を見ることなく、孫空女の地形の説明だけで、それに気がついた。

 孫空女は、沙那はとても頭がいいのだと思った。

 

 とにかく、夜になる前に、孫空女の身体を試してみようということになった。

 孫空女の身体は、宝玄仙から伝わる霊気を充満させていて、再生した四肢をいわば、その霊気で繋ぎとめているような状態らしい。

 だから、身体がいままでのようにうまく動くかわからないと言われたのだ。

 

「手加減はしないわよ」

 

 沙那が剣を構えて言った。

 孫空女の武術が、我流の出鱈目なのに比べれば、沙那のはきちんと修業をした者の剣だ。

 それは、剣の持ち方だけでわかる。

 

 孫空女は、昨日やっつけた眼看(がんかん)たちから奪った剣を持っている。

 沙那と孫空女は、お互いに剣を抜いて、距離をとって向かい合っており、いまから試しの立ち合いをしようとしているところだ。

 宝玄仙は、それを見守る態勢であり、ちょうどふたりの真ん中にある石に尻を乗せて座っている。

 

「いつでもいいよ、沙那」

 

 孫空女は無造作に剣を持ったまま言った。

 確かに、宝玄仙の道術で四肢を再生してもらう前とは、身体が違う感じがする。

 やけに身体が軽いのだ。

 力もいくらでもみなぎる気がする。

 

「いくわよ」

 

 沙那が一気に間を詰めてきた。

 距離がなくなる。

 沙那の稲妻のような鋭い剣が伸びてきた。

 だが、孫空女は、さっと身体を開いてそれを避けた。

 沙那が咄嗟に構え直したときには、孫空女は沙那の斜め後ろに移動していて、すでに剣先を沙那の首に向けている。

 

「ま、参った……」

 

 沙那が信じられないという口調で言った。

 しかし、信じられないのは、孫空女の方だ。

 自分がこれだけ速く動けるとは信じられない。

 沙那の剣など止まっているようにしか見えなかった。

 孫空女は呆気にとられた。

 

「いやあ、すごいねえ……。沙那、形無しじゃないかい。これなら、問題は無さそうだねえ。むしろ、力があり余っている感じじゃないかい、孫空女」

 

 宝玄仙が拍手をしながら言った。

 

「な、なんで、こんなに速く動けるんだい、ご主人様? 力だってすごいよ。これはびっくりだ。剣が軽すぎるくらいさ」

 

 孫空女は言った。

 

「本当に? わたしには、あんたが目の前から消えたようにしか感じなかったわ。それに、あんたが持っているのは、男が遣う両手剣よ。それを片手で操っているの?」

 

 沙那は目を丸くしている。

 

「まあ、お前が弱いんじゃないから、安心しな、沙那。孫空女はどうやら、霊気との相性がいいようだね。孫空女の身体には、『定心環』の影響で、わたしの霊気が充満しているんだけど、それが孫空女の身体能力を活性化しているようさ。つまりは、孫空女もある意味道術遣いのようなものなんだろうね。あれだけの動きができるのは、霊気の力で全身を動かしているからだと思うよ」

 

「はあ……」

 

 沙那はまだ呆然としている感じだ。

 

「しかし、もしかしたら、いまのお前なら、道術遣いのように、霊具を操れるかもしれないね。以前、わたしが作って、ちょっと持て余している武器があるんだが、試してみるかい?」

 

 宝玄仙が取り出したのは、小さな刺繍針ほどの金色の棒だ。

 

「これはなんだい、ご主人様?」

 

「それは『如意金箍棒(にょいきんこぼう)』、略して『如意棒(にょいぼう)』という魔具だ。わたしだって、たまには淫具以外の魔具も作るんだよ。それを握って、『伸びろ』と唱えてごらん」

 

 孫空女が言われたとおりに唱えると、孫空女の手に中で『如意棒』は孫空女の背丈ほどの長さになった。

 確かにこれは、霊具の武器だ。

 孫空女はびっくりした。

 

 突然大きくなったこの金の棒の武器に驚いたし、それを遣いこなしている自分にも驚いた。

 

「お前が頭で思い浮かべる長さにいくらでも伸びるし、逆に縮めることもできる」

 

「霊具の武器というわけだね……」

 

 孫空女は感心した。

 

「純金でできているし、魔術で圧縮もしてあるから、かなりの重さがある。男でも振り回すには骨が折れるだろうけど、いまのお前ならしっくりくるんじゃないかい」

 

 孫空女は如意棒を片手で持ち、頭の上でくるくると回転させた。風を切り裂く大きな音が辺りに響く。

 

「うん。これはぴったりだよ。あたしにこれを貸してくれるのかい、ご主人様?」

 

「わたしが持っていても仕方のないものだからね。今度は『縮め』と唱えてごらん」

 

 孫空女が「縮め」と言うと、如意棒は元の小さな大きさになった。

 

「普段は耳の中にでも入れておくといい。お前が望まない限り、耳に一体化して、耳を覗かれても武器を隠していることは誰にもわからなくなる……。耳を舐められても問題ないさ。それにしても、わたしも半信半疑だけど、なるほどねえ……。ああやって霊気で身体を充満すると、霊具が扱えるようになるんだねえ」

 

 宝玄仙も驚いているようだ。

 孫空女もびっくりだ。

 本当にこの身体はすごい……。

 

「じゃあ、そろそろ移動しましょう。峠のこっち側の盗賊は、孫空女が昨日やっけたので、孫空女のいた盗賊団を蹴散らせば、この五行山の街道も随分と使いやすくなるはずです」

 

 沙那が強い口調で言った。

 

「まだ、いいんじゃないかい。どうせ、砦に行くのは夜なんだろう? こっちの方も試させておくれよ。内丹印さ。ちゃんと、元通りに共鳴するかどうか試したいのさ。機能が損なってなければ、沙那を悪戯すれば、同じ快感が孫空女に伝わるはずだけどね」

 

 宝玄仙が言った。

 次の瞬間、沙那が股間を押さえて、奇声をあげた。

 すぐに『女淫輪(じょいんりん)』だと思った。

 宝玄仙が沙那の陰核の根元に嵌まっている淫具を急に振動させたに違いない。

 

「ふわっ、ああっ」

 

 そして、孫空女にもその刺激が瞬時に伝わってきた。

 孫空女もまた、股間を押さえて跪いてしまった。

 

「どうやら、ちゃんと機能するようだねえ。しかし、絶頂はどうかねえ? 共鳴がうまくいけば、お前たちはまったく同時に達するはずさ」

 

 宝玄仙が満足したような笑い声とともに言った。

 しかし、孫空女は、それどころではない。

 流れ込む快感の速度が速すぎる。

 とてつもない勢いで、無理矢理に絶頂に向かって駆け昇っていく。

 おそらく、これは、沙那の快感だろう。

 孫空女は、こんなに壊れるかと思うような速度で達したことはない……。

 

「んふううっ」

「はあああっ」

 

 呆気なく孫空女は、沙那と同時に達した。

 

「ほう……。うまく共鳴しているねえ。じゃあ、二回目はどうかねえ……。もしかしたら、三回目くらいから、ずれる可能性もあるし、もっとやってみようか」

 

 宝玄仙が愉しそうに言った。

 もはや、明らかに、ただ面白がってやっているだけであり、試しなどというのは口実だとわかる。

 

「ご、ご主人様、お、お願い……。こ、壊れる……。こ、これから……の、乗り込むのに……こ、こんなには……あああっ」

 

 沙那が身体を弓なりにして言った。

 

「そ、そうだよ。も、もう勘弁……」

 

 しかし、孫空女はそれ以上、哀願の声を発することができなくなった。

 二回目の絶頂が襲ってきたからだ。

 孫空女は、沙那とともに、むせび泣くような声をあげて達してしまった。

 

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