「んぎゃあああ」
糸で肉芽と乳首の根元を吊られている朱姫が寝ている寝台が不意に蹴り飛ばされた。
まどろみの中にいた朱姫は、振動で激しい痛みを与えられて、苦痛の悲鳴をあげてしまった。
慌てて眼を開ける。
「も、もう朝……?」
朱姫は虚ろな視線で寝台を見下ろす雲裡霧を見た。
確か、朝までこのままだと言っていた。
それで、媚薬の雨を浴びながら急所を糸で吊られたのだ。
いつの間にか媚薬の雨は止まっていた。
全身が疼く。
そして、だるい。
とても起きあがれない。
「おりるんだよ――。てめえ、よく寝れんなあ」
「うわあっ、んぎいいっ」
だが、朱姫は、四肢を拘束していた革紐を外されると、髪の毛を掴まれて寝台から引きずりおろされた。
「……まだ、朝じゃねえ――。夜中だ。だが、状況が変わった。お前らには、どうあっても、誓約を解いてもらわなければならなくなった」
誓約というのが、あの山の中で沙那が、
沙那は、この妖魔の少年たちの虜囚となる代わりに、宝玄仙に危害を加えないという誓いを紅孩児に立てさせたのだ。
いや、“危害を加えさせない”だ。
沙那は、あのとき、巧みにその言葉を真言に滑り込ませた。
朱姫は、流石は沙那だと思ったものだ。
あのとき、紅孩児は、二日間は起きあがれないという猛毒で宝玄仙を眠らせて、『
それは、中に閉じ込められた術遣いの術を封じるというだけではなく、霊気や魔力を吸い取るという効果があると言っていた。
盟約を結んだとき、紅孩児は、どうせ、宝玄仙の魔力が消失し、手が出せるようになるまで、二日はかかるのだから、それまでに盟約を解除させればいいと考えた節がある。
だが、いま、雲裡霧は、状況が変わったと口にしていた。
変化した状況とはなんだろう。
もしかしたら、宝玄仙に変化が……。
雲裡霧は、朱姫の首と手首に革の首輪を嵌めると、首輪の後ろ側についていた金具に手錠を鎖に繋いだ。
朱姫は、両腕を頭の後ろに回した脇更しで腕を降ろせなくなった。
「ほれ、来い」
「ひぎいっ」
雲裡霧が、まだ朱姫の肉芽の根元に巻きついたままだった糸を引っ張ったのだ。
朱姫は、激痛に泣き声をあげさせながら、無理矢理に部屋から出された。
「ひ、引かないで。歩く――。歩きますから」
朱姫は、倒れ込みたい身体を無理矢理に前に出して、雲裡霧についていく。
「……さ、沙那姉さんと孫姉さんは?」
朱姫は廊下を歩きながら訊ねた。
「あのふたりも、それぞれ拷問中だ。お前も拷問を受けてもらう――。どら、ここは右だ」
雲裡霧は、朱姫の肉芽に結んでいる糸を引っ張った。
「だ、だめえっ」
朱姫は、激痛にうずくまりそうになるのを懸命にこらえて、足をそっちに向ける。
そうやって、複雑な廊下を右に左にと曲がりながら進ませられる。
肉芽を糸で引っ張られながら歩かせられるという行為に、もう、朱姫はなにも考えられなくなった。
しばらく行くと、廊下で淫液を溜めさせられていたあの姉妹のいた場所まで戻ってきたことに気がついた。
だが様子が変わっている。
廊下に繋がっているのはひとりだけで、もうひとりはいない。
そして、残っているひとりは、呆けたように、なにかをしっかりと抱きしめている。
「そ、そんな……」
その横までやってきたとき、朱姫は、そこで見た光景に震えた。
そこにいた娘は、涙の枯れた虚ろな表情で、もうひとりの娘の生首を抱いていた。
その素裸の身体は、生首から流れた血で真っ赤だったが、娘は気にした様子はない。
その首をしっかりと両手で抱き、娘は反対側の壁に虚ろな視線を送っている。
「ほら、お前、そんなことをしている暇があったが、自慰に励んで容器を淫汁でいっぱいにしなけりゃ駄目だろうが。せっかく、その姉さんが、自分の分まで汁をくれて、お前の容器をいっぱいにしてくれたんだろう? その命を大事にしろよ」
雲裡霧は、娘に叫んだ。
だが、娘は耳が聞こえないかのように、雲裡霧を無視している。
だが、姉だと雲裡霧が言った首を抱く手に力を入れた。
「その様子じゃあ、明日の夕方には、お前も俺たちの飯だな」
雲裡霧は舌打ちをして、また朱姫を繋ぐ糸を持って歩き出した。
「こ、殺したの……?」
朱姫は肉芽で引かれながら言った。
「一杯ずつの容器に淫液を溜めることができなければ殺す。そういう条件だったからな」
「か、彼女たちは、ちゃんとやったわ。お前がひっくり返したのよ」
「そうだったかな?」
雲裡霧は、わざとらしく糸をぐいと引いた。
朱姫は、悲鳴をあげながら前のめりに倒れそうになる身体をなんとか支えた。
同じような嫌がらせを何度も受けながら、それでも朱姫は、一度も転ぶことなく、一番最初にこの砦に入ったときにあった広間に着いた。
そこからさらに外に出る。
完全な夜だ。
朱姫は、夜空の下を素足のまま歩かされた。
やがて、小さな建物の前にやってきた。
外に繋がる砦の門から、さっきの砦に入った朱姫たちからすれば、さらに奥になる。
なにかの建物というよりは、物置小屋のような大きさだ。
「こっちだ」
雲裡霧は、朱姫を建物の中に促した。
物置と思っていた建物の中には、なにもなかった。
ただ、地下に通じるらしい階段がある。
朱姫は、さらにその階段を降りらされた。
降りた地下の部屋は、広めの大部屋のようになっていて、壁にはほかの部屋に続く扉があった。
朱姫は、その扉の向こうから強い魔力か、霊気を感じた。
「……ここは?」
朱姫は言った。
もしかしたら、あの扉の向こうにいるのは、宝玄仙なのかもしれない。
「事情が変わったと言ったろう。どうあっても、明日の朝までには、誓約を解除してもらうことになった。紅孩児は、宝玄仙の術の力を完全に失わせるのに二日はかかるし、それからもしばらく『如意袋』に入れて置けばいいから、お前たちの屈服に十日もあれば十分と踏んでいたようだったが、そうもいかなくなってな」
あっさりと雲裡霧は言った。
やはりそうだ。
あの扉の奥には、宝玄仙がいる。
間違いない――。
「な、なんでよ?」
朱姫は訊ねた。
『如意袋』に閉じ込められている宝玄仙に変化が現れたのに違いない。
「……それは、お前の知ったこっちゃねえ。それよりも、沙那と孫空女の屈服は、まだのようだな。どうせ、もう少し時間がかかるんだろう。じゃあ、それまで時間を潰しとくか」
雲裡霧は、下袴を脱ぐと、床に胡坐をかいだ。
「舐めろ、朱姫。だが歯を立てたら、今度は立ったまま天井からこの糸を吊るすぞ」
雲裡霧が数回、肉芽の糸を引っ張った。
「いいっ――」
朱姫は、慌てて膝立ちになり、雲裡霧の股間に顔を近づけた。
半立ちになった雲裡霧の男根がそこにある。
赤黒く表面に激しい凹凸があるが、基本的には人間のものと同じだ。
朱姫は唇を近づけて、その先端に口づけをした。
儀式の始まりだ。
そして、茶番の始まりでもある。
宝玄仙の状況がどうなのか、絶対に聞き出してやると思った。
雲裡霧の男根の先端に自分の唾液をまぶしながら軽く吸う。
口の前の男根がそそり勃ち、雲裡霧の腰が震える。
朱姫は、先端から口を離し、舌を側面に沿わせながら付け根の部分に口づけをした。
ますます、怒張が大きくなる。
朱姫は、口を拡げて睾丸を含んだ。
口の中で睾丸を転がしては舐め、そして、吸っては転がす。
雲裡霧が声をあげた。
朱姫は、胡坐をかいでいた雲裡霧を身体で押し倒すようにして横にする。
そして、朱姫は、睾丸に這わせてた舌をさらに雲裡霧の肛門に向かって伸した。
ぺろぺろと肛門の周りに舌を這わせると、いよいよ、雲裡霧は震えだした。
「う、うまいなあ、お、お前……」
雲裡霧が吐息をしながら言った。
朱姫は舌を再び怒張の側面に這わせると、先端の部分を数度舌で舐めた。先端には、もう先走った汁が溢れていた。
それを舐め尽くすと、朱姫はまた舌を陰茎の側面に動かした。
「ううっ」
雲裡霧が呻くような声を出した。
かなり、極まり始めていると思った。
「……教えてください……。ここで……、なにをするのですか……?」
側面を這い、再び睾丸に口づけをしてから、朱姫の舌は、また雲裡霧の肛門を舐めている。
その舌の動きの合間に、朱姫は、質問の声を発している。
「……な、なら、お前にだけ、教えておくぜ。三人と誓約した紅孩児の盟約を、まずは、ふたりに破棄させる。そして、ひとりに絞る。それをやるつもりだ。ここに残りのふたりも連れてきて話し合いをさせる。宝玄仙の姿を見せて脅すんだ……おおっ――」
雲裡霧の尻襞の一本一本を伸ばすかのように、丁寧に舐める。雲裡霧の声が大きくなる。
「……でも、『真言の誓約』でご主人様には、手が出せないはずですけど……」
「そ、それは違うぞ、朱姫。誓約は紅孩児だけだ。俺たちは手が出せるんだ。だが、それじゃあ、宝玄仙は殺せても、紅孩児は、その肉を喰らえねえ。紅孩児だけが盟約に縛られているからな。だから、時間を置いているだけだ」
「だ、だけど、紅孩児……さんが……ご、ご主人様に……危害を加えさせないって……」
「紅孩児がな。しかし、あいつが全く関与しなければ、関係ない。やりようはあるさ。まあ、結局のところ、焦ってるのは紅孩児だけだけどな」
雲裡霧はげらげら笑った。
やはり、なんらかの事態の変化があったのだと確信した。
朱姫は、肛門から再び怒張に舌を動かす。
温かい息を吹きかけながら、唇で甘噛みするように外に向かって刺激を動かす。
「で、出るぜっ」
雲裡霧が大きな声をあげた。
大丈夫――。
まだ、出させはしない。
与えていた刺激を少し緩める。
雲裡霧が少しだけ落ち着きを取り戻す。
「……だ、だから、ここでもう一度盟約を結び直す。こ、今度は俺たち三人も宝玄仙の安全を保障する……。その代わりに、お前たち側は、盟約をひとりに直す。拒否はできねえはずだ。断れば、宝玄仙の入っている『如意袋』に、紅孩児以外の誰かが本物の毒を入れる。紅孩児には教えずにな。毒を吸った宝玄仙は、『如意袋』の中で死ぬ。紅孩児には悪いが、あの術遣いの肉は、俺たちだけで喰う……」
朱姫は、雲裡霧のそそり立った棹の先端を口に含んだ。
唾液で膜をつくるように先っぽを包みながら吸いあげる。
なにをしようとしているのかは、もうわかった。
いまは、紅孩児ひとりが宝玄仙の安全を保障し、供朱姫たち三人と盟約を結んでいる。
それを紅孩児を含めた四匹の妖魔が同じ盟約を結ぶ代わりに、こちらは盟約を結ぶのをひとりにする。
一見、宝玄仙の安全は拡大されるようだが、ひとりに絞ったことで、供三人のうちの盟約に関わりのなくなるふたりは、おそらく死ぬことになる。
『真言の盟約』は絶対だ。
盟約を結んだ一方が死んでも盟約は残る。
いや、むしろ、死なれてしまうと解除できなくなる。
そうなると、絶対に破れない盟約だ。
だから、現在の状態では、紅孩児との盟約を解除させる前には、紅孩児は三人の誰も殺すわけにはいかないのだ。
しかし、盟約を解除すれば、残りふたりは不要だ。
殺しても、宝玄仙を護っている盟約には関係ない。
そういう状況にして、盟約を結んだひとりを脅すか、屈服させればいい。
盟約を結び直すひとりに選ばれるのは、おそらく自分だと朱姫は思った。
沙那と孫空女が、どこで、どんな目に遭わされているのかは知らないが、あのふたりが一筋縄でいかない女傑であることは、もうわかっただろう。
あのふたりを屈服させるなど不可能だ。
それに比べれば、朱姫など御しやすいと思っているに違いない。
雲裡霧は、こうやって、手の内を洩らすようなことを仄めかしているのも、なにかの思惑があるのかもしれない。
ここで宝玄仙を眼の前にして脅されれば、沙那も孫空女も、彼らの申し出に応じるだろうが、こいつらは、盟約を結び直すひとりの対象として、朱姫を選ばせたいに違いない。
朱姫の口の中で、雲裡霧の精がはじけ飛んだ。
「おおおっ――」
雲裡霧が声をあげた。
朱姫は吐気に堪えながら、口の中のものをすべて飲みこんだ。
「き、気持ちよかったぜ。お、お前、大したもんだぜ」
雲裡霧が嬉しそうに言った。
「まだです。雲裡霧様の精を頂いたお陰で、朱姫は、なんだかおかしくなってしまいました」
朱姫は、舌で雲裡霧の一物の掃除が終わると顔をあげた。
「愛おしいことを言ってくれるじゃねえか。よし、お前は大事にしてやるぜ」
雲裡霧は、朱姫の頭を撫ぜた。
朱姫は、両頬に笑みを浮かばせた。
本当は、男に奉仕するなど怖気が走っている。
宝玄仙のためでなければ、妖魔の一物など口に咥えない。
隠された牙で、とっくに噛み千切っている。
そのとき、朱姫ははっとして顔をあげた。
扉の向こうの霊気か、それとも魔力が、とんでもなく拡大している。
さっきまでとは比べものにならない。
数瞬ごとに倍になっている。
なにかが、扉の向こうで起こっている。
雲裡霧が、朱姫をはね除けて、その扉に駆けた。
扉を開ける。
朱姫にも中の様子が見えた。
宝玄仙を入れた『如意袋』が拡大している。
中で眠っていた宝玄仙は、いまは覚醒している。
そして、怒りの表情で両手を拡げて、『如意袋』の内側から大量の霊気を放出している。
「な、なんて量だ。このままじゃあ、破られるぜ……。仕方ねえ、紅孩児には悪いが、ここで始末するしか――」
雲裡霧は、そう呟くと、横の卓から黒い瓶を手に取った。
朱姫もまた、部屋の入口にいた。
だが、雲裡霧は、気が動転しているのか、朱姫の存在は頭から離れているようだ。
雲裡霧が『如意袋』に向かって、黒い瓶を持った腕を伸ばす。
その雲裡霧を『如意袋』の内側の宝玄仙が睨んでいる。
「『獣人』――」
朱姫は、妖魔の血を全解放した。
妖魔としての本来の力を見せる朱姫の最大の道術だ。
だが、長くは続かない。
一度遣えば、ほかの術を含めて数日は、術を遣えなくなる。
獣人化する。
首輪に繋がっていた鎖を引き千切った。
殺気を感じた雲裡霧が、驚いてこっちを見る。
その顔に驚愕に染まった。
飛びかかっていた朱姫は、大きな爪を一閃させた。
胴体から離れた雲裡霧の首が、血しぶきとともに壁に叩きつけられて潰れた。
朱姫は、雲裡霧を殺したばかりの爪を、その勢いのまま『如意袋』の膜の表面に突き立てる。
駄目だ――。
破れない。
膜の中の宝玄仙が、手で離れろという仕草をした。
朱姫は、部屋の外に出た。
ふと、自分の手を見る。獣人の血が消滅しかかっている。
もとの娘の姿に朱姫は戻っていく。
「ご主人様――」
朱姫は叫んだ。
『如意袋』が弾け飛ぶ。
その風圧で朱姫は吹き飛ばされた。
壁に向かって転がりながら、宝玄仙の姿を探そうとした。
あの爆風――。
大丈夫だったのか?
だが、心配はなかった。
宝玄仙が、こっちに向かって歩いて来る。
「どういうことだい、これは?」
倒れている朱姫に手を伸ばそうとした宝玄仙は、その手を途中でとめて、朱姫の股間に視線を動かした。
そして、にっこりと笑った。
宝玄仙が見ているのは、朱姫の肉芽に結ばれている糸だ。
獣人になったときに外し損ねた。
朱姫は嫌な予感がした。
すると、宝玄仙が、まだ、肉芽に結び付けられていた糸を手に取って、ぐいと引っ張った。
「ひいいっ――。お、おやめください、ご主人様」
朱姫は堪らず叫ぶと、慌てて身体を立ちあがらせた。
宝玄仙は容赦ない。
どんどん糸を自分に手繰り寄せている。
繋がっている朱姫は、宝玄仙にくっつかんばかりになった。
「ここは、どこだい? なんでわたしは、あの得体のしれない袋の中に閉じ込められていたんだい、朱姫? 早く言いな」
口調は冷たいが、宝玄仙の顔は笑っている。
糸を引っ張られて苦痛の表情を浮かべる朱姫の様子が愉しいのだろう。
糸を手繰り寄せると、ぎりぎりまで短くして、朱姫の敏感な場所をつんつんと刺激する。
朱姫は、爪先立ちになった。それでも宝玄仙は糸を上にあげる。
「ひいっ、ひいいっ、ま、待って、んぎいいいっ」
その脳天を貫くような刺激に朱姫は、声をあげてしまう。
しかし、その局部や乳首に温かいものが流れ込む。
『治療術』だ。
寝台で天井から長く吊りあげられていたときに傷ついた部分を宝玄仙が『治療術』で治しているのだ。
「ちょ、ちょっと、引っ張らないで……。お、お願いですから喋らせてください」
朱姫は叫んだ。
「だったら、説明するんだよ、朱姫。多分、わたしは、かなり理不尽な目に遭っていたような気がするんだよ。なんで、あんな霊気を吸い取るような袋の中に閉じ込められていたんだい? もっとも、吸い込もうとしたわたしの霊気が大きすぎて、許容範囲を越えて弾けてしまったけどね」
「あっ……ああ、あのう、ご、ご主人様を人質にした……若い妖魔に入れられていたんです。お、お願いです。ひ、引っ張らないでえ――」
朱姫は泣き声をあげた。
宝玄仙が笑いながら、やっと糸から手を離した。
そして、手で朱姫の股間に風を送るような仕草をする。
糸が朱姫の股間から解けて下に落ちる。
「こ、こんなことをしている暇はありませんよ、ご主人様。多分、沙那姉さんと孫姉さんが、もっと酷い目に……」
「酷い目? あのお前が殺した若い妖魔が、これを仕組んだんじゃないのかい? 退治しただろう、お前が」
朱姫が『獣人』の術で、自分の妖魔の血を全開放して殺した雲裡霧のことを言ってるのだろう。
「あいつは、子分です。親玉は、やっぱり若い妖魔ですけど紅孩児という名の妖魔です。ところで、どこまで覚えているんですか、ご主人様?」
朱姫は言った。
「……山の中で犯された娘を助けようとしたときかね。結界で、その娘ごとわたしを包んだ直後から記憶がないようね」
宝玄仙は、少しの間考えてからそう言った。
「その娘に化けていたのが、紅孩児という妖魔です。歳はあたしと同じくらいかもしれませんけど、たくさんの人間を殺しているみたいです。事実、あたしも、この砦で若い娘さんが首を斬られているのをこの眼で見ました」
「砦? ここは砦なのかい、朱姫?」
「その紅孩児の砦です。そこのどこかに、沙那姉さんと孫姉さんがいるんです。多分、拷問されているんです」
「お前、順番に喋りな、朱姫。わかるようにね」
宝玄仙は言った。
朱姫は語った。
娘に化けていた紅孩児という妖魔が、宝玄仙に毒針を差して眠らせて、『如意袋』に包んだこと――。
その『如意袋』は、宝玄仙の術を封じるだけではなく、霊気を吸い取る効果があったこと――。
そして、霊気がなくなってから宝玄仙を食べると言った紅孩児に対し、
そして、この砦のような場所に連れて来られ、三人とも酷い目に遭わされていることを説明した。
「あの娘、妖魔だったんだね。妖魔に犯されただけにしては、妖魔の魔力を帯びすぎているとは、思ったけどね」
「ご主人様が捕まったので、沙那姉さんが、ご主人様にこれ以上手を出さないという盟約を結ぶ代わりに、妖魔たちにわざと捕えられて……。でも、あ、あたしたち、ずっと酷い目に……。で、でも沙那姉さんが、ご主人様が、気がつくまで我慢しろって……」
「まあ、わかったよ。とにかく、沙那と孫空女は捕えられているし、紅孩児という若い妖魔も野放しということだね」
大人しく話を聞いていた宝玄仙が、頬に酷薄そうな笑みを浮かべた。