※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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111 絶頂ごとの処刑

「や、やめろおお――、んぎいっ、あはははは、ひいい、はははは──」

 

 宙吊りにされた孫空女が笑いながら、脚をばたつかせてのたうち回っている。

 

「ほら、孫空女、そんなに脚をおっぴろげたら、さすがの俺たちも恥ずかしいぜ」

 

「そんなに奥まで見せてくれなくてもいいぜ、孫空女。さんざん、見たしな」

 

 ふたりの妖魔が笑いながら孫空女をいたぶる。

 最初の木馬責めで気を失わされた沙那は、いつの間にか三角木馬からおろされていて、今度は、逆に孫空女が跨らさられていた三角木馬の前で妖魔の少年たちに犯された。

 孫空女も同じだ。

 沙那が抵抗すれば孫空女、孫空女が抵抗すれば沙那が拷問されるということだ。

 大人しく犯されるしかない。

 

 そして、さんざんにふたりの身体に精を注ぎ込んだ三匹は、今度は沙那に、『真言の誓約』の結び直しを要求した。

 紅孩児(こうがいじ)が宝玄仙に手を出させないという盟約を沙那と孫空女と朱姫の三人が結んでいる。

 つまり、盟約を結び直すにも、三人の全員が合意しなければできない。

 だから、この盟約は宝玄仙を護るだけではなく、供三人を護ることになる盟約でもあるのだ。

 なにしろ、最終的には宝玄仙の肉を食べたい紅孩児は、盟約を破棄させなければ、それができない。

 殺しても盟約の破棄にはならない。

 

 紅孩児が要求したのは、供三人の全員が結んでいる盟約をひとりだけにすることだ。

 その代わり、宝玄仙の安全については、紅孩児だけが結んでいる盟約を急如火(きゅうじょび)、雲裡霧(うんりむ)、興烘桀(こうたくけつ)も含めた四人が結ぶ。

 宝玄仙の安全が強化されるようだが、そうではないことを沙那は気がついていた。

 連中の魂胆はわかりやすすぎる。

 盟約を結び直した途端、盟約に関わらなくなったふたりを殺すと盟約を結んだ人間に脅迫する。

 実際に関係のないふたりは殺されるかもしれない。

 沙那は、それは断固として拒否した。

 

 すると妖魔の少年たちは、孫空女をまた宙吊りにすると、無防備の孫空女の全身をくすぐり出したのだ。

 近づくと孫空女に蹴られるので、それが届かないように長い棹の先に羽根をわざわざつけてくすぐっているのだ。

 そして、いまも急如火と興烘桀が、孫空女の両側から長い竿の先についた鳥の羽根を使って、足の裏をくすぐっている。

 もう、一刻(約一時間)以上も、ああやって孫空女は、二匹の妖魔に全身をくすぐり続けられている。

 孫空女は、もう半狂乱だ。おびただしい汗が床の上に滴り落ちている。

 

「いや、おや、いやあ──。ひはははは、くはははは、や、やめっ、やめろおっ、はははは──」

 

 宙を踊って脚を蹴りあげている孫空女が揶揄の声に膝を閉じる。

 

「それ、ほれ、もっと踊れよ、孫空女」

 

 その膝裏を羽根が撫で、そして、縦長の臍をもうひとつの羽根が襲う。

 

「くはははは、あはははは、も、もう、許してよ……………。お、お願いだよっ――、あはははは、いっひひ、あははは──」

 

 孫空女が涙を流して苦しがっている。

 がに股で立たされている沙那は、その姿を制止できずに、首を下に向けた。

 沙那の髪を後ろから掴んだ紅孩児が、ぐいと沙那の首をあげる。

 

「ほらっ――、見ろよ、沙那。お前のせいだ。ああやって、くすぐり続けられるのが、どんなにつらいのかわかっているのかよ。さっさと、誓約の結び直しに同意しろよ」

 

「い、嫌よ――」

 

 沙那は叫んだ。

 そんなことをしたら、終わりだ。

 誓約を刻み直した瞬間に、四人は順番に殺されていく。

 いまの状況なら、少なくとも四人の命だけは奪われる心配はない。

 

「けっ――。薄情な奴だぜ。おい、孫空女、お前の連れは、もう少し、前をくすぐってやれってよ」

 

 紅孩児が、大きな声で孫空女に向かって叫んだ。

 孫空女へのくすぐり責めがはじまると、沙那もいまの孫空女と同じように天井から伸びた縄で首輪を繋がれて立たされた。

 両腕は首の後ろで拘束されている。

 孫空女と違うのは、宙吊りではなく、しっかりと両脚で床の上に立っていることだ。

 その代わり、両膝を左右に大きく開いて長い棒に固定された。

 つまり、大きく股間を開いて、がに股にされているのだ。

 

 そして、責められ続ける孫空女を見せ続けられている。

 少しでも眼を離すと、さっきみたいに強引に顔をあげさせられる。

 それに眼を逸らしても、孫空女の狂ったような悲鳴は、どうしても耳から入ってくる。

 

「そおれっ、御開帳──」

「気を抜くなよ。もっと暴れなよ。さもないと、くすぐっちゃうぞお」

 

 孫空女をいたぶっている少年妖魔たちの持つ羽根が、孫空女の臍(へそ)から這いあがり、孫空女のこんもり盛り上がった胸の膨らみを愛撫する。

 そして、もうひとつの羽根は、孫空女の乳白色の太股を這い上がって、股間の付け根を這う。

 

「ひいいいっ――。そ、そこは駄目ええっ」

 

 孫空女が宙吊りの身体を仰け反らせた。

 今度は、急如火の羽根が、股間の前側から後ろ側に回って、孫空女の肛門に当たったのだ。

 その反応が面白くて、図に乗った急如火が集中的に孫空女の弱点であるお尻の周りを襲い始めた。

 執拗な肛門付近のくすぐりに、孫空女は、いつ果てるともなく空中で踊り続ける。

 

 やがて、二匹は攻撃の場所を無防備な孫空女の脇の下に変えた。

 孫空女は、狂ったように暴れ続けたが、あまりにも長い時間の両脇へのくすぐりに次第におかしな呼吸をしはじめた。

 

「ひいっ、ひっ、ひっ、ひぐうっ、ひっ──。くははははっ、ひぐうっ、んはははは、ひぃっ、はははっ」

 

「やめて――、もうやめてあげてよ――。わたしに……、わたしにすればいいでしょう」

 

 沙那は絶叫した。

 紅孩児が、沙那の髪を後ろから掴む。

 

「見ろ、孫空女を――。狂っちまうぞ。もうすぐ、息が止まるぜ。笑い続けると息があんまりできなくなるんだ。死ぬぜ。くすぐり死ぬというのは本当にあるんだぜ」

 

「もう、やめてよ。いい加減にしてよ――」

 

「見ろ。見るんだ、沙那――」

 

 紅孩児の強い力が沙那の髪を掴んでいる。

 それとともに、もうひとつの指が沙那の乳首を擦りはじめる。

 ねっとりとした刺激に沙那は、歯を食いしばった。

 

 孫空女がおかしな痙攣を始めた。

 それでも孫空女の両脇に対する攻撃は終わらない。

 孫空女の身体からがっくりと力が抜けた。

 気を失ったのだとわかった。

 孫空女の股間から尿が激しく流れ落ちた。

 しばらく羽根は孫空女の脇をまだくすぐっていたが、まったく無反応になったことで、二匹はやっと孫空女への攻撃をやめた。

 

「ちっ、小便洩らして、気を失っちまった。仕方ねえ、お前だ、沙那――。おい、お前ら、孫空女はもういい。そのまま吊るしとけ。眼が覚めたら繰り返すが、まだ少し時間がかかるだろう。それよりも、砦に監禁している人間を十人ほど連れて来い」

 

 急如火と興烘桀が去っていく。

 

「な、なにをするのよ……?」

 

 沙那は背後から紅孩児による胸の愛撫を受けながら言った。

 無理矢理に絞り出される快感に、沙那は知らず身体をくねらせていた。

 抵抗しようとする沙那の気力を執拗な紅孩児の指が、一枚一枚と剥いでいく。

 

「面白いことをやってやるぜ」

 

 紅孩児の指が沙那の肛門に伸び、なにかがつるりと入り込んだ。

 

「ひいっ」

 

 沙那は怖気立った。

 なにが入れられたのかわからない。だが、なにかがじわじわと得体のしれないものが拡がってくる。

 尻穴の痺れるような甘美感があっという間に全身を熱くする。

 苦しい……。

 いや、拡がるのは、目もくらむような圧倒的な快感だ。

 なんだこれ……?

 視界が揺れる。

 頭に霞のようなものがかかり、なにも考えられなくなっていく。

 

「凄いだろう、沙那。即効性だ。とっておきの媚薬を座薬にしたものだ。気持ちいいだろう?」

 

「び、媚薬……」

 

 沙那は呻いた。

 

「そうだ。座薬にしたのは、効果が出るのに時間がかからねえからだ。俺は、待つのが嫌いでな。座薬を打たれる前と後とでは別世界だぜ」

 

 その沙那の乳首をまた紅孩児の手が触れた。

 

「くわっ」

 

 思わず鼻息が噴き出た。

 別世界という言葉で表せるものではない。

 紅孩児の指が沙那の乳房に触った瞬間に、身体中の汗が噴き出たような気がしたのだ。

 そこから小さな虫が全身を駆け巡る。なにかが這い回る。

 怖い――。

 眼が回る。

 紅孩児の手が乳房に吸い付いた。

 ゆさゆさとゆすれられながら乳首が捻られる。

 

「くううっ、ああ、いいぃぃぃ――、ぐ、ぐうっ――」

 

 沙那は、それだけで追い込まれた。

 全身を震わせて、突き刺さる快感に身を委ねた。

 

「……いくなよ、沙那。気をやれば、連れてくる人間をひとりずつ殺す」

 

 耳元で紅孩児が囁いた。

 絶頂に身を委ねようとしていた沙那の身体が総毛立つ。

 

「ひぐっ――、はががっ」

 

 沙那は喉から声を振り絞って、快感を追い出そうとした。

 それをあざ笑うかのように、紅孩児の手がぐにゃりぐにゃりと乳房を揉む。

 突きあがる陶酔に奇声をあげて抵抗する。

 それが面白いのか、紅孩児は背後から沙那をもてあそびながら哄笑し続けた。

 

「連れて来たぜ、紅孩児」

 急如火と興烘桀が戻ってきた。

 首に縄を繋いで数珠つなぎにした全裸の女たちを曳いている。

 どの娘も全裸で手を後手に縄で縛られていた。

 全員が若い。

 先頭の子供は、まだ十歳くらいの子供だ。

 

 その娘たちを全員、壁の鎖に拘束すると、ひとりだけ沙那の前に連れてきた。

 やってきたのは、先頭にいた小さな子供だ。

 怯えきっている。

 紅孩児がなにかの魔術を唱えると、少し離れた床にひとりが立つだけの小さな白い線の円が出現した。

 

「あっ、いやあっ、ああっ、だめ……。や、やめて……、ああっ、あああー」

 

 紅孩児の胸の愛撫は続いている。

 油断すると焼きただれるような官能が沙那を包み込む。

 沙那はそこから逃れようと、拘束された身体で必死にもがいた。

 

 急如火と興烘桀が、紅孩児の描いた白い線の中に子供を入れる。

 そして、急如火が剣を抜いた。

 子どもが逃げようとする。

 しかし、白い線から外には出られないようだ。

 それを知って、全身で恐怖に震えだした。

 

「気をやるなよ。眼の前の子供が死ぬぞ」

 

 紅孩児がもう一度言った。

 そして、沙那の乳房から手を離した。

 ほっとしたのは一瞬だった。

 前に回った紅孩児の手に、いつの間にかなにかが握られている。

 それがなにであるのか、沙那はすぐにわかった。

 白い男根のかたちをした張形だが霊具だ。

 その先端が回転しながらうねり動いている。それが沙那の股間に近づく。

 

「や、やめて――」

 

 沙那は絶叫した。

 媚薬でただれたような身体にされて、乳房を揉まれただけで、昇天する寸前だったのだ。

 そんな身体にあんな淫具を挿されたらどうなるか目に見えている。

 

「やめて欲しいか、沙那?」

 

 紅孩児が耳元でささやいた。

 

「や、やめて。お、お願いです。そんなことだけは」

 

 沙那は心の底から哀願した。

 あれを使われて気をやらないように耐えられるわけがない。

 

「じゃあ、盟約の変更に合意しろ。いいな――」

 

「そ、それは嫌よ──。いやっ……」

 

 沙那は首を横に振る。

 それだけはできない。

 宝玄仙を守れなくなる。

 しかし、眼の前の子供を救うためには……。

 

「じゃあ、耐えきってみるんだな」

 

 紅孩児の持つ魔具が、沙那の股間にうねりながら突き挿さる。

 

「……んんんんああああ――」

 

 とめられないものがやってくる。

 愉悦の喘ぎが喉から噴き出る。

 駄目――。

 我慢できない。

 眼の前の女の子の顔が恐怖に歪んでいる。

 

「いくなよ。いくと、眼の前の子が死ぬ」

 

 紅孩児が囁く。

 

「やめて……やめて……やめて──」

 

 心臓が破裂するかのような陶酔感──。

 座薬による媚薬が全身に解けきった疼きが解放される高揚感──。

 強烈な快感が沙那を襲う……。

 

「いくなよ。その子が死ぬぞ――。おい、急如火、こいつがいくと同時に、首を斬れ」

 

「わかってるよ」

 

 急如火が笑いながら剣を構えた。

 女の子が発狂したように泣き叫んだ。

 身も張り裂けるような振動が容赦なく沙那を襲う。

 もう、限界だ。

 これ以上は……。

 

「誓約の変更に応じるな、沙那?」

 

 紅孩児が耳元で言った。

 沙那はもうなにも考えられないでいた。

 首を激しく横に振った。

 そして高波のように襲い掛かった快感に沙那の意識は飛ばされた。

 ただ吠えるような嬌声をあげている自分がいるだけだ。

 朦朧とする沙那の視界に、首を飛ばされて崩れ落ちるさっきの子の姿が映った。

 沙那は、絶頂しながら泣き叫んでいた。

 

「……ゆ、許さないわ。お前たちを……」

 

「なにが、許さないだ、沙那。殺したのはお前だ。お前のせいで死んだんだ」

 

 紅孩児が、沙那の股間の張形を抜いた。

 沙那は昇天して脱力してしまった身体を震わせて、紅孩児を睨んだ。

 眼の前には、たったいま殺された女の子の死骸が転がっている。

 

「次の女を持って来い。この屍体は、夷屠(いど)の池に放り込んでおけ」

 

 夷屠の池と言ったのは、紅孩児が孫空女をいたぶるために閉じ込めていた容器から解放をしてしまい制御できなくなった魔獣がいる地下闘技場だ。

 紅孩児は、沙那も襲われたことがあるあの不定形の怪物を隣の大部屋に備え付けられている地下闘技場に大量に出現させてしまったのだ。

 それでいて、元に戻せなくなってしまい、闘技場にそのままにしている。

 餌がなくなれば、壁をよじ登って砦を襲いかねないので、紅孩児は毎日十人ずつくらいの人間を放り込むと言っている。

 

 沙那は肩を震わせて泣いていた。

 その沙那の前から女の子の屍体が片付けられて、次の娘がやってきた。

 やはり、白い線に阻まれて逃げられなくなっている。

 再び張形が近づく。

 

「も、もうやめて――」

 

「だったら、誓約を破棄すると言え、沙那」

 

 紅孩児の張形がまた動きながら沙那の無防備な股間に向けられる。

 媚薬によって、ただれたように熱くなっている肉芽に押し当てようとしている。

 沙那は激しく身体を動かした。

 だが、拘束された身体は、ほとんど動かない。

 

「そ、それは……、で、できない……」

 

「だったら、また、関係のない人間が死ぬぞ。お前のせいでな」

 

 紅孩児が、沙那の股間の突起に張形を押し当てる。

 

「……お、お願い……です……。し、死にたくないの……」

 

 白い線の中の女ががちがちと歯を震わせながら、哀願した。

 その視線は、しっかりと沙那を向いている。

 沙那に向かって助けを求めているのだ。

 

「んひいいいいっ」

 

 淫具が暴れ回りだす。

 沙那は嬌声を迸らせた。

 肉芽を高速度で弾かれる。

 

「あゅ、ああああっ」

 

 我慢しようのない快感の大波が襲いかかり、沙那はあっという間に昇天した。

 女の首が落ちた。

 

「次だ……。その前に、座薬を追加しておくか」

 

 紅孩児が沙那の後ろに回り、肛門に座薬を追加した。

 全身に熱が急激に回って、なにも考えられなくなる。

 

 三人目の女が目の前に連れて来られる。

 そして、股間に張形がねじ込まれる。

 それが肉芽を跳ねさせながら、膣の中で暴れ回る。

 沙那は泣きながら昇天した。

 眼の前の女の首が落ちる。

 

 さらに、四人目──。

 そして、五人目も死んだ。

 

 獣のように昇天しながら、沙那は眼の前で若い娘が殺されるのを見せられ続けた。

 沙那の心は崩壊寸前になった。

 

「な、なにやってんだあ──」

 

 六人目の女の首が飛んだとき、孫空女の叫び声がした。

 

「……おお、眼が覚めたか。じゃあ、さっきのくすぐりをやり直しだ。急如火、その女は、壁に戻しとけ。孫空女が気を失ったら、続きをやる」

 

 紅孩児が言った。

 急如火が白い丸の中にいた娘を壁に戻した。

 そして、置いていた竿につけた羽根を持って、興烘桀とともに孫空女の裸身に近づいた。

 孫空女の顔が恐怖で歪む。

 

「ち、畜生――。お、お前ら、あ、あたしと戦え――。こんなこと卑怯だぞ。女のあたしを縛らなきゃあ、なにもできないのかよう」

 

 孫空女の身体に再び二本の羽根が這い回りはじめた。孫空女の裸身が踊り出す。

 

「おうおう、戦っているぜ、孫空女。俺の攻撃は、これだ。反撃しろよ」

 

 急如火がそう言いながら孫空女の脇をくすぐる。

 

「俺の攻撃もこれだ。遠慮なく、お前もかかって来いよ、孫空女」

 

 興烘桀も笑いながら孫空女の背後から尻たぶを上下に擦る。

 孫空女が宙吊りの身体を激しくのたうち回らせる。

 沙那の首がまた髪を掴まれて孫空女に向けられる。

 いつの間にか、顔を伏せていたようだ。

 

 その沙那の視界に、階段から丸いものが飛んでくるのが映った。

 空中を横切って、それは、孫空女をいたぶっていた興烘桀の顔にぶち当たった。

 

「いてええっ、な、なんだああ──?」

 

 激しく横から顔を跳ね飛ばされた興烘桀が悲鳴をあげて床に転がる。

 

「うわああっ、雲裡霧──」

 

 呆気にとられて孫空女を襲っていた羽根を止めた急如火は大声をあげた。

 沙那にも、なにが飛んできたのかがやっとわかった。

 空中を飛んできたのは、雲裡霧の首だ。

 胴体のない雲裡霧の生首が、空中を飛んで孫空女を襲っていた興烘桀の顔に勢いよくぶつかったのだ。

 

「ああ、雲裡霧――。な、なんじゃこりゃああ」

 

 急如火が、雲裡霧の首を拾いあげて悲鳴をあげた。

 

「ご主人様――」

 

 沙那は叫んだ。上に通じる石の階段を降りてきたのは宝玄仙だ。

 背後には朱姫もいる。

 その朱姫は、全裸の身体に、宝玄仙の巫女服を上衣だけを被っている。

 

「小妖の分際で、よくもわたしのものに、手をつけたね。それどころか、このわたしを喰おうとしていたとはねえ……。自分の力量も判断できないから長生きできないんだよ」

 

 宝玄仙が怒りの表情のままそう言った。

 そのまま、こっちに向かって突き進んでくる。

 

「宝玄仙、どうやって……」

 

 沙那の眼の前の紅孩児が、魔術を発揮しようとしたのがわかった。

 

「ぐあああっ」

 

 次の瞬間、紅孩児の身体が床に張りつく。

 孫空女のところにいる急如火と興烘桀も同じように床に張りつけられた。

 沙那と孫空女を拘束していた霊具の拘束具が一斉に外れる。

 

「ああ、ご主人様……」

「ご主人様ああっ」

 

 沙那と孫空女は、その場に崩れ落ちながら、ただ声をあげた。

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