※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

112 / 819
112 牛魔王(ぎゅうまおう)の息子

 紅孩児(こうがいじ)とかいう妖魔の少年たちに、沙那と孫空女がいたぶられている場所を探るのは、宝玄仙にとって、面倒な仕事ではなかった。

 妖魔の魔力は、そこら中に流れていたが、強い魔力がひとつの部屋から流れて来ていたのだ。

 それを辿ると地下に通じる石の階段があり、降りていくと、孫空女と沙那が拘束されていた。

 

 孫空女は、宙吊りにされた身体を両方からくすぐられて狂ったように泣き叫んでいるし、沙那はがに股に拘束されて、股間から愛液を滴らせている。

 しばらく見物しようかと思っていたが、その気が変わったのは、沙那の周りの夥しい血しぶきの痕に気がついたからだ。

 

 そして、壁には生気を失ったような女が数名、壁に繋がれている。

 状況はわからないが、沙那の前で何人かの人間を殺したのだろう。

 その死骸は、さらに奥の地下室の先まで引きずられたらしく、血の痕がそこまで続いている。

 それだけじゃなく、気分の悪くなるような血の匂いも、地下室に充満していた。

 

 とにかく、無性に腹がたったので、朱姫に持たせていた雲裡霧(うんりむ)とかいう妖魔の少年の首を、孫空女をくすぐって遊んでいる妖魔のひとりにぶつけてやった。

 また、沙那のところにいるのが、紅孩児とかいうこの妖魔少年団の頭だということはわかった。

 一番魔力が強いのだ。

 もっとも、宝玄仙からすれば、足元にも及ばない小妖であることは事実だ。

 もう少し成長をすれば、魔力も育ったかもしれないが、身体程には、魔力は育っていない。

 せいぜい、霊具を扱える程度だが、その力も中途半端だ。

 

 ただ、遣っている霊具の力は凄いものがある。

 あの『如意袋』ひとつとっても、大した霊具だ。

 だが、術者の力が弱すぎたのだ。

 だから、本来の能力を発揮できずに、宝玄仙に内側から破られた。

 もしも、『如意袋』に、本来の力を発揮するくらいの魔力を込められていたら、宝玄仙も脱出することはできなかったかもしれない。

 

「わたしが、うっかりと毒で眠らされたせいで、迷惑をかけたようだね、お前たち」

 

 宝玄仙は、沙那と孫空女に言った。

 

「い、いえ……」

 

 沙那が暗い顔で応じた。

 そして、激しい怒りを込めた視線を紅孩児に向けた。

 沙那は、朱姫によって拘束を解かれている。

 孫空女の方の拘束は、宙吊りにされていた『魔縄』だけだったので、これは宝玄仙の魔術ですでに解いた。

 

「朱姫、あの壁の娘たちもお願い……。首の鍵は、急如火(きゅうじょび)が持っているわ」

 

 沙那が朱姫に言った。

 朱姫が、床に張りつている妖魔のひとりの腰を探って鍵束を奪う。

 それを持って、壁で呆然としている娘たちに駆けていく。

 首輪と手錠を次々に外されていくと、娘たちはお互いを抱き合って泣き始めた。

 

「……さて、どうしてやろうかね、こいつらを? 朱姫もだけど、沙那と孫空女は、特に恨みがあるだろう?」

 

 宝玄仙は、小妖たちを睨んでいる沙那と孫空女に言った。

 

「雲裡霧(うんりむ)は、すでに死んだんだね、ご主人様?」

 

 孫空女が言った。

 

「雲裡霧というのは、その首の奴かい、孫空女? これは朱姫の仕事だよ。例の『獣人』の魔術でやったのさ」

 

「ふうん。朱姫のことだから、一発でやったんだろうね」

 

 孫空女は、その首を掴むと、地下室の奥に向かっていった。

 

「どこにいくんだい、孫空女?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「向こうの部屋に闘技場になっているさらに地下の部屋があるんだけど、そこにでかい夷屠(いど)がいるんだよ。そこの紅孩児が、解放したんだけど制御できなくなって放ったらかしてあるんだ。その夷屠に放り投げてくるよ」

 

 孫空女が振り返ってから言った。

 

「夷屠だって? それは、西域のさらに西にいるとかいう、あの恐ろしい生き物じゃないかい?」

 

「そうだね。こいつらの会話から判断すると、もともとは、こいつの親の飼っていたもので、そこから持ってきたみたいだよ。このまま放っておくと、いずれ、砦の一階に這い進んで、近くの村や旅人を襲うんじゃないかなあ。なんとかできる、ご主人様?」

 

「どういう入れ物に入れて来たかは知らないけど、さすがに夷屠を操る術は知らないねえ。だけど、溶かして殺すことはできるよ。二度と復活できないように水みたいにできるさ」

 

「それでいいと思う。後でやってあげてよ、ご主人様」

 

「ああ」

 

 宝玄仙は頷いた。

 

「……とりあえず、急如火(きゅうじょび)と興烘桀(こうたくけつ)です。ここに、紅孩児が描いた白い線があるんですけど、その中に立たせて貰えませんか、ご主人様」

 

 沙那が言った。

 血しぶきが酷くて、どこが白い線なのかわかりにくかったが、沙那が拘束されていた場所から少し離れたところにそれはあった。

 宝玄仙は、床に張りついている小妖を道術で立たせて、白い線の中に移動させた。

 ふたりの少年の小妖たちは、その狭い円の中に無理矢理に移動させられて悲鳴をあげる。

 

「か、勘忍してくれ――」

「俺たちが悪かったよ」

 

 あまりにも狭い円から出られなくなったふたりは、抱き合ってそこに立っている。

 すると、沙那が、部屋の隅から照明用の油壺を持ってきて、ふたりの身体にかけた。

 反対の手には、灯のついた燭台を持っている。

 

 二匹の妖魔が絶叫した。

 逃げようともがくが、宝玄仙の道術に対抗できるわけがない。

 一歩も逃げることのできないまま、狂ったように首を暴れさせている。

 

「なにすんだい、沙那?」

 

 宝玄仙は、沙那がやろうとしていることに鼻白んだ。

 滅多に残酷なことはやらない沙那だ。

 沙那の怒りが尋常でないことは確かだが、だがこれはやり過ぎではないだろうか。

 

「ご主人様、こいつらは許せません。ご主人様は、お優しいので殺すのは気が進まないのかもしれないけど、こういう性根から腐った連中は、妖魔であろうと、人間であろうと、まだ大人でなかろうと死ぬべきなんです」

 

「優しい? わたしがかい?」

 

 この宝玄仙を優しいなどというのは、沙那も宝玄仙に嗜虐を受け過ぎて感性がおかしくなってしまったのではないかと思った。

 

「申し訳ありませんが、こいつらは殺します。慈悲を与えても、仕返しをするだけです」

 

 沙那は、油まみれの二匹の妖魔に、燭台の蝋燭を放り投げた。

 

 

「うぎゃあああ」

「ひがああああ」

 

 次の瞬間、二匹の妖魔が炎に包まれた。

 炎の中で狂ったように二匹は喚き続ける。

 しかし、その声もすぐにしなくなる。

 めらめらと音を立てながら二匹が立ったまま燃えていく。

 宝玄仙は、妖魔を生きたまま焼くという沙那の残酷さに、思わず眉を潜めた。

 

「沙那、こいつは、夷屠の中に放り投げてやろうよ。その方が炎に包まれるよりは、少しは、反省する時間が長いはずだよ」

 

 戻ってきた孫空女が、紅孩児とかいう妖魔の髪を掴んで引きあげた。

 宝玄仙は、紅孩児の魔力を完全に放出させてから、床から解放する。

 

「ち、畜生──」

 

 紅孩児は、孫空女に髪の毛で引きあげられて、掴みかかろうとした。

 しかし、孫空女に逆に数発の平手を打たれ、口と鼻から血を吹き出して大人しくなった。

 

「……ま、待ってくれ。お、俺を殺すと、た、大変なことになるぞ、お前ら……」

 

「どう大変なことになるんだよ?」

 

 孫空女は、容赦なく紅孩児の髪を掴んだまま、夷屠がいるとかいう奥の部屋に引っ張っていく。

 紅孩児は泣き声をあげた。

 その横を沙那が横を歩く。

 宝玄仙も、朱姫とともに黙ってそれを追った。

 

 奥の部屋に着いた。

 なるほど、真ん中にさらに地下の部屋を見下ろすように穴が開いていて、地下の闘技場には、確かに夷屠がいる。

 透明の身体には、消化されつつある人間の身体がたくさん見える。

 紅孩児たちに殺された人間たちだろう。

 

「ま、待てよ。ほ、本当に、俺を殺すつもりかよ? 冗談だろう? 俺は、牛魔王(ぎゅうまおう)の息子だぞ」

 

「冗談かだって? お前、頭おかしいんじゃないか? これだけのことをやって、もしかして、殺されないと思っているのか?」

 

 孫空女が夷屠の海に向かって、紅孩児の身体を放り投げた。

 紅孩児が、悲鳴をあげながら、下に落ちていく。

 その身体が、夷屠の身体に沈んだ。

 

「うわあ、た、助けてくれ――。俺は、牛魔王の息子だぞ。俺を助けろ――。早く、引き揚げるんだ。本当に溶けちまうぞ」

 

 眼下で紅孩児が狂ったような悲鳴をあげる。その身体が、だんだんと夷屠の身体に沈んでいく。もう、身体は、腰まで夷屠の中に浸かっている。

 

「さっきから、なに叫んでいるんだい、こいつ。親父の名前を連呼しているけど」

 

 孫空女だ。

 その表情には、紅孩児に対する一片の同情もないようだ。

 

「牛魔王というのは、確かに妖魔の中で、大きな勢力を持っている有名な妖魔……、いえ、魔族の魔王です」

 

 朱姫が言った。

 妖魔というのは、東帝国側の蔑称であり、こっちで西域と呼ぶ魔域にすむ連中は、自分たちのことを“魔族”と名乗っているし、そう言えば、最近立ち寄った山村でも、“妖魔”じゃなく、“魔族”という言葉を使っていた気がする。。

 朱姫は、なんとなく言い直したのだろうが、彼ら魔族を妖魔として、存在すべきでない生き物のように扱うように指示しているのは天教なので、やっと天教の影響圏から脱しようしているということを宝玄仙は気がついた。

 

「へえ、あの金角と銀角よりも、強いのかい?」

 

「比べものにはなりませんよ、孫姉さん。西域に行けば、嫌でも牛魔王のことは耳にするはずです。あの金角も西域で牛魔王を敵に回せば、ひとたまりもないと思います。それくらいの力はあります」

 

「だから、牛魔王の名を連呼しているのね。でも、だったら、西域に引っ込んでいればいいのに、親父さんの名なんて、こっちに来れば、役に立たないということを知らないのかしら」

 

 沙那が言った。

 

「世間知らずの妖魔のお坊ちゃんなんだろうよ、あれでも」

 

 宝玄仙は言った。

 喚いていた紅孩児は、もう完全に夷屠の身体の中だ。

 

「さて、どうするかね、これから?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「とりあえず、あの娘たちを村に帰してあげましょう。砦には、ほかにも浚われてきた人間がいるようですが、遠くから浚ってきたりはしていないのではないと思います。それから、捕らわれている間に受けた拷問で衰弱の激しい者もいるようです」

 

「できる限りのことは、してやるさ」

 

「お願いします」

 

 沙那が頭をさげた。

 だが、心なしか元気がない。

 

「手配中のご主人様だけど、感謝されて、少しは食べ物も分けてもらえるかもね」

 

 孫空女だ。

 

「心に傷を持った者は、あたしの『縛心術』で少しは癒せると思います」

 

 朱姫も静かに言った。

 心に傷を持った者もいるらしい。

 余程の状況なのだろう。

 宝玄仙は、供たちの会話を耳にしながらそう思った。

 

 

 *

 

 

 久しぶりの屋根のある場所の寝所と食事に宝玄仙は上機嫌だった。

 孫空女もほっとしている。

 紅孩児が巣食っていた火雲洞(かうんどう)には、面白い霊具がたくさん保管されていた。

 

 一方で、あの少年妖魔……、いや、魔族か……。

 

 宝玄仙は、これからは、そう呼んだ方がいいと言っていたっけ……。

 これから先の土地では、妖魔のことをそう呼ばないと、拾わなくてもいい面倒を拾ってしまうこともあるそうだ。

 

 それはともかく、あの連中は財物には興味がなかったのか、金粒や銀粒といった路銀の足しになるようなものはなかった。

 宝玄仙は、砦に残っていたものの中から『如意袋』などの霊具を選び、旅の荷物に加えていた。

 ほかのものは、紅孩児たちや彼らに殺された人間の屍体が放置された砦とともに焼き払った。

 あの夷屠も、宝玄仙が処分し、ただの液体となって炎の中で蒸発した。

 生き残った人間は、二十人ほどだった。

 

 沙那の予想のとおり、紅孩児たちが浚った人間は近傍の村が多かった。

 かなりの数の人間を殺していたようだが、生き残った者たちの証言により、宝玄仙が退治したことが広まり、歓待をしてもらえることになったのだ。

 娘や子供、妻を殺された家も多かったが、人は浚われたものの略奪をされたわけではないので、宝玄仙一行を歓待してくれるくらいの余裕はあったようだ。

 

 いずれにしても、村としては、近傍一帯を荒らしまわっていた性悪魔族がいなくなって、ほっとしているところだ。

 この辺りは、魔族を討伐するような強い軍がないので、あんな小妖たちに、いいようにやられたのだろう。

 

 とにかく、天教教団の陰謀で手配の身となって、宿屋に泊ることも難しくなった四人としては、なんの心配もなしに休めるというのは最高のご褒美だ。

 しかも、宝玄仙が、湯舟という湯を溜めた桶の中に裸身を沈める湯殿が、好きだということを知ると、宝玄仙のためにそれを準備してくれた。

 

 湯舟の中の宝玄仙の相手は、沙那が務めることになり、それにも孫空女は、ほっとしている。

 裸身で宝玄仙の相手を務めるなどということをすれば、無事に済むわけがない。

 実際のところ、かなり長めの湯に入っていた宝玄仙が上機嫌で寝所としてあてがわれた部屋に戻ってきたのに対し、沙那は多少やつれたようになって、重い身体を引き摺るように戻ってきた。

 

 どんなことを湯殿でやらされたのかは想像がつく。

 あの宝玄仙という変態女は、供の女の裸身を使って宝玄仙の身体を擦らせるのだ。

 全身の敏感な部分を自ら刺激しながら宝玄仙の身体を洗うために、洗い粉をつけて宝玄仙の身体中を動き回る作業は、かなりの重労働でもあるし、その間、ずっと宝玄仙の悪戯を受け続けられなければならない精神的にも苦しい行為だ。

 

 孫空女もやらされたことがあるが、何度やっても馴れるということはない。

 沙那には悪いが、宝玄仙と沙那の後に、朱姫とふたりで残り湯を貰った。

 まだ十七だが性的に成熟しきっているこの半妖の娘が、孫空女の裸身を眺めては、批評をするのには閉口したが、このませ娘を早めに追い出してからは、孫空女も宝玄仙に負けず劣らずの長湯を愉しんだ。

 そして、髪を布で拭きながら寝所に戻ってみると、部屋の隅で宝玄仙と沙那がなにか深刻な話をしている。

 

「なにかあったのかい、朱姫?」

 

 孫空女は、朱姫にささやいた。

 

「沙那姉さんとご主人様が例の話をしているんです」

 

「例のって……?」

 

「尻比べですよ、孫姉さん。さっき、これから、それをするって話をしてたじゃないですか」

 

 朱姫がくすくすと笑った。

 孫空女は、嫌な気分になった。

 

 そう言えば、そんな話をしていた。

 宝玄仙と沙那が湯から出た直後のことであり、孫空女と朱姫は湯殿に向かう前だ。

 つまり、尻比べというのは、紅孩児たちに捕まる前に山道を歩いているとき、宝玄仙が、夜の遊びとして、三人の供にやらせると宣言をしたくだらない思いつきだ。

 

 宝玄仙の供は、三人が三人とも、宝玄仙の激しい調教を受けて、身体中が性感帯みたいに感じやすい身体にされているが、特に、お尻については異常に全員が弱い。

 それを面白がった宝玄仙が、三人のうちの誰が、一番お尻が弱いのかを知りたいとか言い出して、それをしようと言っていた。

 

 そして、久しぶりに屋根のある場所で寝るのだし、早速それを今夜すると、宝玄仙が入浴前に宣言をしていたのだ……。

 なにをどうされるのかは、わからないが、どうせ碌でもないことに決まっている。

 決まっているのは、負けたひとりは、『女淫輪』という淫具を明日一日つけられることになることだ。

 『女淫輪』というのは、少し前まで、沙那が乳首と肉芽の根元にされていた怖ろしい淫具だ。

 それをつけるだけで、愛汁であっという間に股間がびしょびしょになるというだけでなく、宝玄仙の悪戯でいつでも好きな時に振動させられる。

 

 もっとも、供の三人は、宝玄仙によって身体に内丹印を刻まれていて、もともと、淫具などなくても、宝玄仙の気まぐれでいつでもどこでも、快感を与えられて弄ばされる身体だ。淫具など装着しても、しなくても、同じなのだが、やはり、嫌なものは嫌だ。

 

「……でも、なにをふたりで真剣に話しているのさ? まさか、やめるようにご主人様を説得してくれているの?」

 

 その尻比べのことで、沙那と宝玄仙が、なにを真剣に話しているのだろうか?

 宝玄仙の気まぐれを取りやめるように説得してくれているのであれば嬉しいが、それは無駄なことだろう。

 嫌がれば、嫌がるほど、興に乗って破廉恥なことをやらされるに違いない。

 こと宝玄仙の嗜虐癖について、やっても無駄な抵抗をやることに意味があるとも思えないし、宝玄仙の責めに、火に油を注ぐだけのことだ。

 それにしても沙那の顔は真剣だし、逆に宝玄仙はにこにことして、気味の悪いほど上機嫌だ。

 本当に、なにを話しているのだろうか?

 

「やめるように説得なんかするわけがないじゃないですか、孫姉さん。そんな恐ろしこと……。違うんです。あれ、ご主人様じゃないんです」

 

「ご主人様じゃない?」

 

「宝玉(ほうぎょく)様です」

 

 朱姫が低い声で言った。

 

「宝玉様?」

 

 孫空女は驚いた。

 

「いつ出て来たの?」

 

「あたしたちが湯殿に向かった直後みたいです。あたしが戻った時には、宝玉様でした」

 

 孫空女には信じがたいが、宝玉というのは、宝玄仙の中にいる宝玄仙の別人格だという。

 冷酷で嗜虐癖の宝玄仙に対して、優しくて、被虐癖なのが宝玉だ。

 宝玉は、普段は隠れているが、ほんのたまに、宝玄仙に代わり、夜の性愛をしに出てくる。

 宝玄仙は、供の三人を冷酷に官能の恥獄を与えて苛め抜くが、宝玉は責められることを好む。

 宝玉が出現したときには、宝玄仙を責めることができるという滅多にない行為に、三人の供は張り切るのだ。

 

「じゃあ、その宝玉様と沙那がなにを話しているのさ、朱姫?」

 

「条件です」

 

 朱姫は、ますます声を潜めて言った。

 

「なんだい、その条件って?」

 

 孫空女の声も朱姫の声に応じて小さくなる。

 

「お尻比べのやり方。そして、勝敗がついたときの罰のやり方みたいです、孫姉さん」

 

「なんでそんなの話し合ってんの? ご主人様が勝手に決めんじゃないの?」

 

「まだ、馴れてないんですか、孫姉さん。あれは、ご主人様であって、ご主人様じゃないんです。宝玉様なんですよ」

 

「そうだったね。どうも、馴れなくてさ……」

 

 違うと言われても宝玄仙は、宝玄仙なのだ。

 孫空女には、ちょっとだけ優しくなった宝玄仙としか思えない。

 

「そのお尻比べに、宝玉様も参加するらしいですよ。というか、参加したいみたいです」

 

「ええっ?」

 

 孫空女は驚いた。

 あんなものに、すき好んで参加したいというのが信じられない。

 

「そういう遊びをあたしたちと一緒になってやるのが幸せなんだそうです。あたしが戻った時には、そんなことを言っていました」

 

「はあ……」

 

 あの宝玉の求めることも、孫空女には異質だ。

 あれほどに残酷で、それでいて情の深い宝玄仙もわからないが、責められるのが好きという宝玉もわからない。

 

「よおし、決まったわよ、みんな。やるわよ──」

 

 沙那が声をあげた。

 珍しく、こんなことに張り切っている。

 

「なにがどうなったのさ、沙那?」

 

 孫空女は言った。

 

「ちょっと待って……。宝玉様、少し説明してきます。お待ちください」

 

「うん」

 

 宝玉はにこにこしている。

 沙那は、孫空女と朱姫をそばに寄せて、小さな声で話し始めた。

 

「お尻比べのことよ。お尻だけじゃなくて、快感競争に変わったけど……。とにかく、わたしたちが負けたら陰核に『女淫輪』をつけられるわ。ご主人様は、それを振動させてわたしたちが苦しんだり、恥ずかしがったりするのを愉しむのよ」

 

「知っているよ、沙那。そんなのは嫌だから、あたしは負けるつもりはないよ」

 

 孫空女は言った。

 

「当たり前よ、孫空女。お尻も弱いけど、あんたたちよりは、長く耐えてみせるわよ――。いや、そうじゃなかったわ。このお尻比べ、改め、官能比べには、宝玉様も参加する。でも、宝玉様が負けて淫具をつけても、『女淫輪』は宝玉様にも、ご主人様にも簡単に外せるし、わたしたちには、操作できないから不公平よね?」

 

「まあ、そうですね」

 

 朱姫が話に割り込んだ。

 

「一日中、宝玉様が出ていることはないし、日中はおそらくご主人様が出てきますよね。自分の股間に『女淫輪』なんかつけられていることに気がついたら、怒り狂いますよ。そして、その矛先はあたしたち……」

 

 さらに、朱姫が続けた。

 

「それで宝玉様と話していたのよ。宝玉様が負けたら自分に強力な自己暗示をかけてもらうわ。それで、『女淫輪』をつけていることを知覚できなくするの。それは、ご主人様が出現しても有効な暗示にしてもらうわ。忘れてしまうのよ。だから、身体が疼いたり、突然、感じたりしても、原因がわからない。それなら外せないし、苛まれるということについては、わたしたちと同じよ」

 

「同じじゃないですよ。原因とか、そういうことに関係なく、気に入らないことがあれば、ご主人様は、あたしたちを苛めるじゃないですか。宝玉様がつけるんなら、明日の一日は、宝玉様にいてもらえばいいのではないですか?」

 

 朱姫が言った。

 

「いいえ、宝玉様が負けたら、装着は宝玉様にしていただくけど、朝になれば、宝玉様は、あの身体をご主人様に返されるわ。さっきの強力な自己暗示をかけてもらってね。それだけじゃなく、宝玉様は、気に入らないことがあっても、明日の一日は、わたしたちに手を出そうとは思わない……。そういう自己暗示もかけてくださるそうよ……」

 

「それって……」

 

 孫空女にも、沙那が珍しくも張り切っている理由がわかってきた。

 なかなかに、こっちに都合のいい条件を沙那は、宝玉に承知させたみたいだ。

 

「……つまり、明日の一日は、淫具に苦しむのはご主人様。だけど、ご主人様は、なぜ、そうなっているのかわからない。さらに、その苛々をわたしたちにぶつけるということもしない。どう、これ、魅力的じゃない? あのご主人様に仕返しができるのよ。安全に」

 

 沙那の眼が輝いている。

 これほど張り切っているのは、日頃の鬱憤を宝玄仙に返せるという期待によるもののようだ。

 この村に来るまでは、自分の眼の前で、娘たちが死んだことに相当落ち込んでいたが、いまは、尻比べなんていうどうでもいいことに一生懸命だ。

 この切り替えの早さは、もしかしたら、この三人の供の中で、あの気まぐれ変態巫女の宝玄仙の相手に一番向いているのかもしれないと孫空女は思った。

 

「でも、そんな都合のいい自己暗示なんてできるの?」

 

 孫空女は言った。

 

「あら、できますよ、孫姉さん。自己暗示なんて、結局は『縛心術』ですし、自分に『縛心術』をかけるというのは、他人にかけるよりも、遥かに簡単です。『縛心術』としては、初歩の初歩です」

 

 朱姫が言った。

 

「ふうん。まあ、でも、装着されているのが、ご主人様であろうと、宝玉様であろうと、あたしたちには、『女淫輪』は動かせないけどね」

 

 孫空女が言うと、沙那が頬に笑みを浮かべた。

 懐から小さな板切れを出した。手のひらの半分くらいの大きさで、見ると、正面に墨で丸と三角の絵が描いてある。

 

「……たったいま、作って貰った霊具よ。これがあれば、わたしたちにも『女淫輪』が扱えるわ」

 

「霊具って、どういう霊具さ、沙那?」

 

 孫空女は訊ねた。

 

「三角の頂点に触れば、最小限の振動、下側の広いところは最大限の振動よ。丸を触れば停止する。どう?」

 

「どうって……。なにが?」

 

「なにがじゃないわよ、孫空女。これで、ご主人様を翻弄させられるのよ。明日は、この一帯の村が集まって合同で、わたしたちのためにお礼の宴をしてくれることになっているでしょう? その席で、ご主人様をこれで苦しめるのよ。交替で使いましょう。ねえ?」

 

「お、面白いです、沙那姉さん。絶対に勝ちましょうよ」

 

 小さな宝玄仙の朱姫が声をあげた。

 

「勝つわよ。宝玉様には悪いけど、絶対に、宝玉様には勝てない仕掛けをするわ……」

 

 沙那は妖しく微笑んだ。

 なにか企んでいることがあるようだ。

 滅多にないことだが、沙那がこういう笑みをしたときは怖い。

 

「……じゃあ、朱姫の技で、尻比べをやる前に、宝玉様に少し燃えあがってもらいます。ほんの少し触っただけでも、気をやるくらいの状態にしてから、みんなでお尻比べを始めましょう」

 

 朱姫は、そう言うとさっと、宝玉のところに寄っていった。

 沙那と一緒に、それを追いかけていく。

 

「……宝玉様、沙那姉さんに聞きました。四人で公平な勝負と罰となるようにしていただいてありがとうございます」

 

 すると、朱姫がそう言って、宝玉仙が腰掛けていた寝台の上に乗っていっていた。

 驚いたことに、朱姫は、そのまま宝玉を寝台に押し倒した。

 もちろん、宝玄仙ではないので、そのくらいでは、宝玉は怒りはしない。

 むしろ、なにかを期待するようなうっとりとした表情をしている。

 

「でも、本当に沙那姉さんにお渡ししていただいた小さな板で、『女淫輪』が操作できるかどうか、心配なんですよねえ……」

 

 朱姫は、横になっている宝玉に添い寝して、宝玉の胸の膨らみを指でなぞっている。宝玉が、甘い息を吐いた。

 孫空女も沙那とともに、宝玉の寝ている寝台に寄っていった。

 三人で寝台に横たわる宝玉を取り囲む――。そういうかたちになった。

 

「……し、心配ないわよ。わ、わたしの霊具なのよ」

 

 宝玉の息が乱れている。

 それはそうだろう。

 朱姫の指は、宝玉の法衣の下袍(かほう)の中にゆっくりと入り込み、宝玉のすんなりとした脚に沿って、その付け根に向かってのぼっていっている。

 沙那が、朱姫に代わり、宝玉の両方の乳房に指を這わせだした。

 孫空女も慌てて、朱姫と合わせて、反対側の脚に指を這わす。

 

「試してもいいですか……? お尻比べの前に……」

 

 朱姫が宝玉の口の周りに自分の舌を這わす。

 

「た、試すって……。わ、わたしが、『女淫輪』をいま……つけるの……?」

 

「そうです……。それよりも、舌を出してください……」

 

 宝玉が舌を出す。

 その舌を朱姫の舌が舐め回す。

 沙那もまた、朱姫の反対側から、宝玉の舌を舐めはじめた。

 

「……孫姉さんもどうそ」

 

 朱姫がこっちを見て誘った。

 こうなったら、みんなと一緒にやり抜くだけだ。

 なんだか、不当勝負のようで、気が咎めないこともないが、まあ、仕方がない。

 孫空女は、上から宝玉に跨り、宝玉に覆いかぶさる。

 

「……舌をもっと出してください、宝玉様。三人で宝玉様の舌を舐め尽くします」

 

 朱姫の言葉に従い、宝玉が口を大きく開けて舌を出す。

 その舌を前から孫空女、左右から朱姫と沙那が舐め回す。

 

 やがて、口の中――。

 朱姫は、宝玉に口を閉じるのを許さない。

 だらだらと垂れる宝玉の涎を三人で代わる代わる舐め尽くす。

 三人が口を離したときには、宝玉はすっかりと熟れきった表情になった。

 

「……『女淫輪』嵌めますね、宝玉様」

 

 朱姫が言った。

 宝玉が小さく頷いた。

 朱姫が横の卓にあった『女淫輪』を手に取り、宝玉の下袴の下から股間に向かって手を入れた。

 沙那は、横たわる宝玉の衣服の紐を一本一本解いていく。

 

 孫空女は、態勢を変え、宝玉の横に回ると、もう一度宝玉の口の中に、孫空女の舌を深く入れた。

 宝玉の喘ぎが大きくなる。

 孫空女は、その喘ぎごと、宝玉の口の中の唾液を吸い取った。

 

 

 

 

(第18話『兇悪魔王子』終わり、第19話『五人の尻勝負』に続く)





*


【西遊記:40~42回、紅孩児】

 紅孩児(こうがいじ)は、強大な妖魔である牛魔王(ぎゅうまおう)の息子ですが、いまは独立しています。
 食すれば、強大な力を得ることができるという噂の玄奘(三蔵法師)を喰らうため、紅孩児は玄奘たちを待ち受けて、一計を企てることにします。

 旅をしている玄奘たちの前に、親を盗賊に殺されたと泣いている子供が現われます。子供は、玄奘たちに、自分の里まで連れて行って欲しいと頼みます。
 孫悟空は、この子供が妖魔であることに気がつきますが、玄奘は聞く耳をもちません。
 そして、その子供は紅孩児が化けた姿でした。紅孩児は孫悟空を遠ざけることに成功し、玄奘を浚うことに成功します。

 孫悟空は、紅孩児を追いかけて、火雲洞(かうんどう)という紅孩児の棲み処に辿り着き、玄奘を返せと迫ります。
 紅孩児は、火炎の妖術で孫悟空を撃退します。

 一度撤退した孫悟空でしたが、もう一度襲撃をします。しかし、二度目も火炎で追い返されてしまいます。
 そして、三度目は、龍王から放水の宝具を借りて乗り込みますが、その水では紅孩児の火炎は消えず、逆に火炎と水の両方に襲われた孫悟空は、仮死状態になります。

 孫悟空は、猪八戒の手当でなんとか生き返ります。
 そして、猪八戒は、倒れた孫悟空の代わりに、天界に向かい観音菩薩の助力を頼ろうとします。
 しかし、運悪く猪八戒は、天界に向かう途中で紅孩児に見つかってしまい、『如意袋』という道具で捕らわれてしまいます。

 猪八戒が捕らわれたことを知って孫悟空は、今度は紅孩児の父親の牛魔王に変身して、火雲洞に入ります。
 牛魔王は、孫悟空の友人であり、よく顔を知っていたのです。
 紅孩児の子分の急如火(きゅうじょび)、雲裡霧(うんりむ)、興烘桀(こうたくけつ)は騙すことができましたが、紅孩児は牛魔王が孫悟空の変身であることを見抜いてしまいます。
 またもや、火炎を向けられた孫悟空は、火雲洞から逃亡します。

 孫悟空は、今度は自ら天界に向かい、観音菩薩に助力を頼みます。
 観音菩薩とともに、火雲洞の前にやって来た孫悟空は、観音菩薩の策に従い、まずは襲撃し、ふたりで負けたふりをして、紅孩児を洞府の外におびき寄せます。
 紅孩児が洞府から遥かに離れた地まで、孫悟空と観音菩薩を追いかけていくと、そこには、観音菩薩の乗り物である『蓮台』がありました。
 思わぬ戦利品に喜んだ紅孩児は、その蓮台に乗ってしまいます。
 すると、罠が発動して、紅孩児は蓮台に囚われます。
 観音菩薩は紅孩児を天界に連行し、玄奘も猪八戒も解放されます。

 *

 紅孩児は、「西遊記」の中で、孫悟空が最後まで敵わなかった妖魔です。おそらく、登場した妖魔の中では最強だと思われます。
 牛魔王と、牛魔王の正妻の羅刹女(らせつにょ)の子供です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。