※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

121 / 819
121 奴隷城の洗礼

 檻車が止まった。

 七星(ななほし)は、まどろみから眼を覚ました。

 

「……着いたのかい?」

 

 なんとなく呟いた。

 

「さあね。だけど、こんなときに居眠りできるなんて、大した根性しているじゃないか、七星」

 

 向かいの壁に繋がれている宝玄仙が微笑みを向けている。

 

「だって、寝る以外にすることないじゃないか。それに、丸一日眠っていたあんたと違って、昨夜は、ずっと兵たちに犯されていたんだ。寝不足なんだよ、宝玄仙さん」

 

 七星は言った。

 すると宝玄仙が、なぜか愉しそうに微笑んだ。

 

 この女こそ、大した根性だろう。

 道術とやらを封じられて、囚人として檻車で牢城に運ばれようとしているのに、少しも動揺していない。

 もともとは、東帝国の貴族法師という話だったし、貴族がこんな扱いを受ければ、もっと気が動転して泣き叫ぶかと思えば、さっきから舐め回すような視線を七星に送ってくる。

 

 まあ、あの孫空女ほどのおっかない虎女を猫にしているくらいだから、胆は座っているのだろう。

 孫空女の話によれば、天教の八仙の地位を持つほどの術遣いで、しかも、自分を凌辱した同じ八仙を三人もぶち殺して、それで逃亡しているらしい。

 

 そして、女のくせに女が好きな変態で、しかも嗜虐好きだという。

 だから、供である孫空女もかなりの行為をさせられているということだった。

 正気を失う程の快楽責めは日常茶飯事で、ほかにも沙那と朱姫という供がいて、三人であらゆる辱めに遭わせられているという。

 女同士で愛し合うことについては、七星はあまり経験はないが、孫空女のいう「正気を失う程の快楽」というのはどういうものだろうかという好奇心はある。

 そんなに激しい性行為というものは、経験の多い七星も覚えはない。

 いずれにしろ、話半分だとしても、この宝玄仙はかなりの変わり者だ。

 

「ところで、お前も術遣いなんだね、七星。お前の身体にある霊気の匂いがするよ」

 

 不意にそんなことを宝玄仙が言った。

 

「あんたみたいな大きな力を持った術遣いからしたら、術遣いとはいえないかもしれないかもしれないけどね。まあ、端くれさ……。もっとも、霊具が扱えるくらいで、使える術はないけどね」

 

「力が大きかろうと小さかろうと、わたしも術を封じられているから、いまは違いはないさ。生まれはどこだい、七星?」

 

「南さ……。海に面した国さ。小さな国だからね。あんたは聞いたことはないと思うよ、宝玄仙さん」

 

 七星は言った。

 

「教えてくれたっていいじゃないか、七星」

 

「別に隠しているわけじゃないさ。遅々亜(ちぢあ)国っていうんだ。知っているかい?」

 

 七星は言った。

 返事があったのは、少し間があってからだ。

 宝玄仙は苦笑して、「すまないが知らない」と言った。

 それは当然だ。もう、遅々亜(ちぢあ)国という国は存在しないのだ。

 

 七星は、ここからずっと南にある小さな沿岸国の港街で生まれた。それが遅々亜だ。

 七星は、その港町で仕事をしていた娼婦の子だった。

 母親は、道術遣いではなかったが、なぜか七星は生まれつき霊力があった。

 母親が誰の子種かわからない子供を身籠ったとき、その相手が術遣いの男だったのだろうか。

 もっとも、大した霊気ではなく、霊具が使いこなせる程度だった。

 道術の力の源である霊気があるということと、道術が遣えるということは別のことなのだ。

 だが、それでも、霊気があることで、霊具が遣える。

 それは、七星の育った最下層の人間の中では便利な存在だった。

 母親は十歳のときに死んだが、そのお陰か、なんとか仕事にありつき、生きていくことはできた。

 

 初めて男を受け入れたのは、十二歳のときだ。

 母親は娼婦の仕事でもらった病気で死ぬことになったが、七星の中の霊気は、七星の意思に反して精を子種として受け入れないし、病気も防いでくれるという優れものだった。

 それを知ったとき、身体を売るということに抵抗はなくなった。

 生きるための手段だ。

 母親もそうやって、七星を育ててくれたのだ。

 

 だが、生涯を娼婦で生きるつもりはなかった。

 十四歳で男の格好をして、遠くに向かう船に潜り込んで国を出奔した。

 しばらくして、その遅々亜国が戦渦に巻き込まれ、多くの住民が犠牲になったことを知った。

 小さな国だったので、生き残った者は男も女も、ことごとく奴隷にされて連れていかれたという。

 そうやって、七星の祖国は消滅したのだ。

 

 一方で、七星が潜り込んだ船は、実は海賊船だった。

 女であることはすぐにばれたが、女の身でも腕はあったので、仲間として認められた。

 その海賊船で数年を過ごした。

 もちろん、男たちの性の相手もした。

 それなりの金を払ってくれれば、抱かれることに別に不満はない。

 

 十七歳で船を降りた。

 ちょっとばかり、色恋沙汰に巻き込まれて、船にいられなくなったのだ。

 つまりは、七星が寝た男の女が、七星に殺し屋を向けるということがあったのだ。

 

 その頃には、その船は海賊船でありながら、七星の生まれの国とは違う別の沿岸都市を正式の拠点にしていて、そこに、多くの乗組員たちは家族を持っていた。

 殺し屋を七星に差し向けたのは、海賊船の航海長だった三十過ぎの男の妻だ。

 当時は、たまたま、七星は、その航海長の専用の女のような立場になっていて、七星は、航海長に結婚を申し込まれたのだ。

 七星は驚いた。

 航海長には、陸に妻がいた。

 それなのに、愛人というのではなく、妻になってくれと言われたからだ。

 その男にこだわりがあったわけじゃないし、男の気持ちを弄んだわけじゃない。

 嫌いではなかったが、最初から抱かれるのは金が目的だと伝えていた。

 だが、その男は、本気のようだった。

 そして、七星が断わったのにも関わらず、陸に降りると妻に別れ話を持ち出した。

 それで、嫉妬したその妻が、七星に殺し屋を差し向けたということだ。

 

 この七星を妻にしたがる男が現れたことには驚いたが、それに嫉妬して、殺し屋を雇って七星を殺そうとした女の存在にはさらに閉口した。

 馬鹿馬鹿しくなり、船を降りた。

 それで、女を売ることは懲りた。

 それからは、用心棒のようなことをやりながら旅をした。

 時折は、こそ泥のようなこともする。

 まあ、生きるための手段というものだ。

 もっとも、いまでも強く迫られれば、身体も売る。

 

 しばらくして、あの海賊船が七星が離船してすぐに、どこかの海軍に捕えられたということを知った。

 そう言えば、遅々亜国でも同じようなことがあった。

 訪れる不幸を逃げるように、七星は居場所を変えている。

 そんなことはほかにもあった。

 なんとなく「嫌な予感」が発生することがある。

 そんなとき、その勘の向かうままに行動すると、結果的にうまくいく。

 七星は、それは、自分の生まれながらの「第六感」だと思うようになっていた。

 

 もっとも、今回はその「第六感」も働かなかった。

 巡礼中の天教の神官に、用心棒として雇われないかと声をかけられたとき、なんとなくそれが運命を変えるような気がした。

 だから、その神官の求めに応じた。

 

 やがて、その神官がなぜ、七星を用心棒に雇ったのかわかった。

 神官のくせに女好きの男で、七星は夜になると身体をしつこく迫られた。

 それで、金を支払えと言うと、その神官はあっさり――というよりは、歓んで金を支払った。

 金さえもらえば、七星にも不満はなく、それで契約は成立した。

 その夜から、七星は、その神官の用心棒で、かつ、随行娼婦という立場になった。

 

 実際、本当に女には見境のない男で、旅のあいだには、巡礼にも関わらず、七星のほかにもよく女を買っていた。

 死んだ楊鈴(ようりん)も、あの神官に言い寄られたようだが、頑なに拒んだようだ。

 その神官も力づくで無理矢理迫るような男ではなかった。

 だが、あの楊鈴は、本当は、力ずくで抱いて欲しかったのではないだろうか。

 あの神官を想っていたような気配はある。

 

 想いがあったのなら、言い寄られたときに、さっさと抱かれてしまえばよかっただろうに面倒臭い女だ。

 だが、さっきあっさりと死んでしまった。

 本当にあの神官を好きだったのだとすれば、あの侍女の前で、七星が神官に身体を許したことは悪かった気がするし、捕えられて見知らぬ兵に破瓜を散らされたのも気の毒だ。

 

 あの神官はどうしているのだろうか。

 この国の囚人は、男だったら鉱山で働かせられるらしいが、身体が強い感じではなかったから、一年も持たないのではないだろうか。

 

「それにしても、檻車が止まってからずいぶん経つね」

 

 孫空女だ。

 この女もわからない。

 この女がそんじょそこらの女傑でないことはすぐにわかった。

 兵たちが、七星たちを犯すために、軍営の牢に入ってきたときにも、鎖で拘束された身でありながら、無理矢理抱こうとした兵の骨をふたりもへし折ったのだ。

 

 それで羊力が、七星がいまもしている手足の帯の術を孫空女にもかけようとした。

 だが、孫空女は、それにも抵抗した。

 しかし、羊力が別室で眠っている宝玄仙のことを仄めかすと、あっさりと術を受け入れることにも、兵に抱かれることにも承諾した。

 孫空女は、随分な忠誠心を宝玄仙に向けているが、宝玄仙と孫空女には、なにがあるというのだろう?

 

 しかし、確かに、どうして、こんなに待たされるのだろう?

 なんとなく、外にいるはずの兵の気配も少なくなっている。

 だんだんと静かになる外の気配は、この檻車がほったらかしになっているという感じだ。

 

「……ご主人様、別の馬車……。大きい。多分、同じような……檻車と思う。それが来るよ」

 

 孫空女が、外の音に集中しながら言った。

 

「別の檻車かい? それがやって来るのかい、孫空女?」

 

「そうみたいだ」

 

 孫空女はそう言うが、七星にはなにも聞こえない。

 七星は、孫空女の耳を疑った。

 いくらなんでも、耳がよすぎる。

 

 だが、しばらくすると、孫空女の喋ったことが本当だということがわかった。

 大きな馬車が、近づく気配がする。

 驚いた。

 やがて、その馬車も止まった。すぐ横だろう。

 それからまた、間があった。

 

「準備ができた。三人とも出ろ」

 

 羊力(ようりき)の声がして、檻車の扉が開いた。

 それと同時に、首輪に繋がっていた壁との鎖が勝手に外れた。

 

 孫空女が立ちあがり、扉の外に出る。

 宝玄仙が続き、七星も出た。

 

 眼の前に畠が拡がっていた。

 遠目だが、多くの裸身の女がそこで働いている。

 よく見れば、全裸ではない。

 腰に布のようなものを巻いている。

 まあ、全裸に近いものであることは確かだ。

 ああいう格好で、自分もこれから働かせられるのだろうと七星は思った。

 

 横には、七星が降りた檻車を含めて二台の檻車がある。

 曳いていたはずの馬も、警護隊もいなくなっている。

 そこにいるのは、数名の兵と羊力を含めた三人の男──。

 そして、檻車から降りた女たちだ。

 こっちの檻車から三人。向こうの檻車から四人。合計七人だ。

 向こうの女囚たちは、七星と孫空女のぼろぼろの服に比べれば、乱れた様子もなくまともだ。

 いずれも天教の女法師が身に着ける法衣であり、ひとりは宝玄仙のように身なりがいい。

 その身なりのいい巫女とその随行の下級巫女というところだろうか。

 

 それにしても、向こうは兵に犯されるということはなかったのだろうか?

 四人がいたわり合う様子は、なにかいじらしいものを感じる。

 

「全員、並べ──。横一列だ。逆らえば、首が締まって死ぬぞ」

 

 兵に促されて、男三人の前に並ばされた。

 三人の男と女たちの間には、大きな穴が掘ってある。

 この穴はなんだろうか?

 七星たち全員は、その大きな穴の前に集められた。

 

「ようこそ、女囚ども、ここが、“智淵城(ちふちじょう)”と呼ばれるお前たち天教徒の奴隷収容場であり、お前らのようなご禁制の教義の信者の矯正を行う場所だ。そして、お前たちが残りの一生を過ごすことになる場所でもある」

 

 七星たちが並ぶ前に並ぶ三人の男のうち、真ん中でひとりだけ椅子に座っている男が言った。

 歳は五十くらいだ。でっぷりとした腹がやけに目立つ。

 その男の両側には、羊力(ようりき)と、もうひとりの見知らぬ男が立っている。

 身体の大きな羊力に対して、もうひとりは痩せていて背が高い。

 

「お前たちは、神は存在すると思うか?」

 

 椅子に座った男が言った。

 七人の誰も応じなかった。

 

「天教には、やはり神はいないのだな?」

 

 男が愉しそうに笑った。

 

「か、神はいます……」

 

 別の檻車から降りてきた四人のうちのひとりが言った。

 一番身なりのいい女法師だ。

 三十歳くらいだろうか。清楚で気品ある顔立ちをしている。

 

「こいつは、鹿力(かりき)?」

 

 椅子の男が背の高い男に顔を向けた。

 

「紅夏女(こうなつじょ)という女です、虎力(こりき)の兄者。天教の仙士で、ほかの三人はその部下です。天教本部の命令で、この車遅国(しゃちこく)に布教のために派遣された愚かな女ですよ」

 

 背の高い男は鹿力といい、椅子に座っている腹の出た男が虎力というのだと思った。

 この虎力が、ここで一番偉いのだろう。

 

「天教もしつこいのう……。これだけ、入国したものを見つけては、捕えているのに、しつこく、しつこく神官を送り込んでくる。しかも、こんな女どもを……」

 

「だからこそ、俺たちの愉しみも続くというものでさあ、虎力の兄貴」

 

 羊力が馬鹿笑いした。

 

「お前は愉しみ過ぎだろう、羊力。また、囚人に手を出したのか?」

 

 鹿力が言った。

 

「どうせ、ここに来れば抱き尽くされるんだ。同じことだろう。お前は、手を出さなすぎるんだよ、鹿力」

 

「女には興味はあるが、抱くことには興味がないのでな」

 

「だが、兵は興味を持っているはずだ。抱かせてやったらいいのだ」

 

「兵に抱かせたのか、羊力?」

 

「おう、俺だけ、いい目を見てはいかんからな、鹿力。指揮官が愉しむときは、兵にも愉しませる。それが指揮官の務めだ」

 

「なにが指揮官の務めだ。どうせ、お前がやりたいだけだろう?」

 

 虎力がそう口を挟んでから、腹を揺すって笑った。

 すると、羊力と鹿力も一緒に笑い始めた

 七星は、そんな三人の会話を不愉快な思いで聞いていた。

 下衆どもが……。心の中で呟く。

 

「お前は、紅夏女というのだな?」

 

 ひとしきり笑うと、虎力がさっきの紅夏女とかいう巫女に向かって言った。

 紅夏女は怯えているようだ。

 それでも、気丈に振る舞っている。

 やがて、彼女は口を開いた。

 

「か、覚悟はできています。死を覚悟した布教の旅です。わたしはどうなってもかまいません。しかし、この三人は許してください。この者たちは、わたしの旅についてきただけなのです」

 

「死の覚悟があろうが、なかろうが関係ない。ついてきただけであろうと、そうでなくてもな──。この国では天教徒は入国することそのものが大罪だ……。それはいい……。それよりも、お前は神はいると答えたな、紅夏女? 本当にそう思うか?」

 

 虎力が言った。

 

「い、言いました……。か、神は……」

 

「……いや、お前が正しい」

 

 虎力が、紅夏女の言葉を遮った。

 

「神は、お前たちの眼の前に存在する。今日から、俺たちがお前たちの神だ、紅夏女」

 

「はっ?」

 

「ここでは、俺たちが神だ。全員が覚えておけ。そして、ここはお前たちのいう地獄だ。俺はこの地獄の番人である智淵城の長の虎力。両横は俺の両腕の鹿力と羊力だ。この三人が、お前たちの新しい神になる。俺たちが、這いつくばれと言ったら這え。服を脱げと言われたら脱げ。股を開けと言われたら開け。躊躇なくだ。わかったか――。それができなければ死ぬ」

 

 虎力が声をあげた。

 

「そ、そんなこと……。な、ならば、舌を噛んで死にます」

 

 紅夏女は言った。

 

「勝手に死ぬことはできん。自分ではな……。ただし、死は常に身近にある。全員、後ろを見ろ」

 

 虎力が言った。

 言われたとおりにする。

 後ろには、たったいま降りてきた檻車が二台あり、さらにその後ろには、巨大な門構えがある。

 それがこの智淵城の入り口なのだろう。

 しかし、その城門の横は解放されている。

 その両脇には城壁もない。

 囚人の逃亡を防ぐ監視の兵もいない。

 ただ、境界を示すだけの目的のように、まばらに樹木があるだけだ。

 

「見ての通りだ。ここには城壁はない。その気になれば、誰もが出ていける。兵もいるが別に見張ってはいない。いまもな――。この中で、出ていきたいと思う者は、出ていっていい。追手はいない。構わんぞ、行くがいい。追いかけもせぬ」

 

 虎力は言った。

 七星は当然ながら、その言葉を怪しんだ。

 ほかの女たちも怪訝な表情で、全員がお互いに顔を見合わせている。

 なにか、仕掛けがあるに違いない。

 しかし、七星は意を決した。

 

「あ、あたいは行くよ―――」

 

 そう叫んで、後ろに駆けた。

 いや、駆けようとした。

 だけど、身体はまったく動かなかった。

 脚は張りついたように地面に立ったままだ。

 

「動かない……」

 

 横で孫空女も言った。

 孫空女も後ろに向かおうとしたのだろう。

 

「……逃げようとする行動のすべてを封じる術がかかっているようだね……。首輪に触れないのもそのせいのようさ……」

 

 宝玄仙が静かに言った。

 

「そういうことだ。だから、ここには城壁はいらん。逃亡を防止するものは必要ないのだ。自殺もできん。お前たちの手首と足首の黒い帯がそれを止めてくれる。もっとも、ここが死と遠いところにあるというわけじゃないぞ。さっきも言ったが、ここは、むしろ死が一番近い場所だ……。ところで、お前は――?」

 

 虎力が、宝玄仙を見る。

 

「宝玄仙だよ……」

 

 宝玄仙が不貞腐れたように言った。

 すると、さっきの紅夏女が息を呑んだのがわかった。

 

「宝玄仙様ですって──?」

 

 紅夏女は驚いた表情をしている。

 

「知り合いか、お前たちは?」

 

 羊力だ。

 

「違うよ。ただ、わたしは、ちょっとした有名人でね……。天教では……」

 

「有名人?」

 

 虎力が言った。

 

「元は八仙という天教の最高神官のひとりさ。いまは、同じ八仙を三人殺した罪で天教を追放されて、手配されている。そういうことで、わたしはもう天教の神官じゃないのさ。だから、解放してくれないかい? わたしの連れもね」

 

 宝玄仙が言った。

 

「兄貴、これがさっき教えた女だ。俺も随分と天教狩りはしたが、あれだけのいい女は初めてだ。だから、手を付けずに兄貴に見せようと思ってな」

 

 羊力が虎力に媚を売るように言った。

 もっとも、実際には、羊力は、檻車の中でしっかりと宝玄仙を抱いている。

 

「……なるほど。いい女だな。ほかの女もいい。今回は、羊力の方は粒ぞろいだな」

 

「そうだろう、虎力の兄貴。俺もいい仕事をするんだよ」

 

 

「たまにはだろ?」

 

 横で鹿力がからかうような口調で言った。

 宝玄仙が天教から追放された身であると言ったことに対し、虎力はにやついたままだ。

 解放する気などないのは明らかだ。

 宝玄仙も本気で解放されるとは思ってなかったみたいだ。

 平然とした態度を崩さないし、焦るような感じもない。

 虎力は、じっと品定めをするような視線を続けた。

 そして、再び口を開いた。

 

「ここは、確かに異教徒専用の牢城だ。だが、俺はお前たちが、天教徒だろうと、そうでなかろうと、どうでもいい。大事なのは、すでに、お前たちは奴隷だということだ―――おい、持って来い」

 

 虎力が言うと、鹿力が大きく手をあげた。

 しばらくすると、女の囚人が数名、大きな木箱をふたつ運んできた。

 そして、穴の前に置く。

 

 女たちは、ほとんど全裸だ。

 畠で働いていたのと同じ姿で、裸身に黄色い小さな腰布を巻いて、腰の横で結んでいる。

 つまり、ただの布片を腰に巻いているだけだ。

 上半身は裸だ。

 首には、七星たちと同じように革の首輪があり、手首と足首に黒い帯のような刺青がある。

 随分痩せていると感じた。

 多分、十分な食べ物を与えられていないのだろう。

 そして、女たちが近づくと、ちりん、ちりんと音がする。

 よく見ると乳首に一個ずつ小さな鈴が糸で結ばれている。

 それが音を立てるのだ。

 女囚たちは、箱を置くと静かに立ち去っていった。

 鈴の音が遠ざかる。

 

「ここで、お前たちには、囚人服に着替えてもらうぞ」

 

 羊力が言った。

 

「わ、わたしたちに、あんな格好になれというのですか……?」

 

 紅夏女が声を震わせている。

 向こうの四人は悲痛な表情をしている。

 こっちの三人は、それに比べれば落ち着いている。

 覚悟もしていたし、諦めもある。

 宝玄仙以外は、すでに裸でいるようなものだ。

 腰に布を巻かせて貰えるなら、ありがたいくらいだ。

 

「……いまのは、乙(おつ)種奴隷だ。乙種というのは、労働用の奴隷で、ここでさまざまな労役に任じる。ここでは家畜と同じだ。だが、働けなくなれば、丙(へい)種に落とされる……」

 

 虎力が言った。

 

「丙種は、人間じゃねえぞ。食料用や実験用だ。まあ、死ぬのを待っているようなものだな。それに比べれば甲(こう)種奴隷はいいぞ。俺たち三人の性奴隷用だが、うまいものが食えるし、温かい場所で寝れる」

 

 羊力だ。

 

「性奴隷……。ふざけんじゃないよ」

 

 孫空女が悪態をついた。

 七星はちらりと左側の孫空女を見た。

 強気の口調とは逆に顔は蒼めている。

 七星の右に立っている宝玄仙も落ち着いた様子だが、七星はその宝玄仙の膝が震えているのを見つけた。

 宝玄仙も怖がっているのだ。七星は宝玄仙の人間味を垣間見た気がした。

 

「服を脱いで、地面に掘ってある穴に入れろ。布切れひとつ、髪飾りや指輪に至るまで、一切を穴に捨てろ──。いまから、種別判定試練を行う」

 

 虎力が言った。

 

「ほら、素っ裸だ。早くするんだ―――」

 

 羊力が続けた。

 ほかの女たちが息を飲む音がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。