※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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134 不死身の三妖魔

「はっ? なにさ──?」

 

 急に孫空女に名を呼ばれた七星がきょとんとした声で応じた。

 

「身体を温めておきな」

 

 孫空女はそれだけを言った。

 

「さて、じゃあ反撃開始だね、金楊凛。覚悟はいいかい……」

 

 孫空女は金楊凛を睨みつけた。

 嫌な予感を感じたのか、金楊凛の身体が横に避ける。

 その腕を掴み、孫空女は彼女の裸身を手繰り寄せる。

 そして、首の横の一点を指で強く押した。

 金楊凛の膝が、がくりと落ちる。

 

「なにっ……?」

 

 金楊凛の眼が白黒している。

 自分の手で首を掻くようにもがいている。

 そして、呻き声をあげて、孫空女を見上げた。

 

「どうした、金楊凛? 息ができないかい?」

 

 孫空女は、右の人差し指を金楊凛の顔の前にかざした。

 その間も金楊凛の顔は血の気を失っていく。

 

 孫空女は、失神寸前の金楊凛の首の経絡(けいらく)を押した。

 金楊凛の呼吸が復活する。

 その代わり、今度は血の流れが弱まったはずだ。

 

 人間の身体には、人間が生きるために必要な気や血の通り道がある。

 そこに気を送り、身体の機能を操作するという技だ。

 もともとは、沙那が得意とする技で、孫空女も教えてもらったのだ。

 まともに使ったのは初めてで、うまくいく保証はない。

 

 もっとも、いま現在は効いているようだ。

 金楊凛の呼吸が静かになっていく。

 最初の経絡は、呼吸を一時的に止める経絡で、それを使って金楊凛の抵抗力をなくした。

 二度目の経絡は、頭にのぼる血の流れを制限するものだ。

 いま、金楊凛は、頭に回る血がなくなり、気を失う寸前の状態だ。

 孫空女は、完全に気を失う前に、もう一度経絡を操作して、金楊凛の頭に血を流す。

 そして、すぐに、再び血を止める。

 

「お、お前……、そ、孫空女……」

 

 金楊凛が睨むが、その焦点は定まっていない。

 孫空女に掴みかかろうとするが、その手にはまったく力が入っていなかった。

 簡単に金楊凛の腕を払う。

 金楊凛は呆気なく仰向けに倒れた。

 

「さあ、金楊凛、愉しい時間の始まりだよ」

 

 孫空女は、金楊凛の腹に跨った。

 金楊凛の両腕は孫空女の膝の下だ。

 これで、金楊凛は、完全に動くことはできないはずだ。

 

「ひ、卑怯……」

 

 金楊凛の意識が遠くなってきたようだ。

 孫空女は、経絡を操作して、血の流れを戻す。

 次第に、金楊凛の顔に赤みが戻っていく。

 盛大に深呼吸をしている。だが、それで許すほど、孫空女も甘くない。

 再び、経絡を突くと、血の流れが弱くなり、また金楊凛の意識が弱くなる。

 

「金楊凛、言ったろう。指一本でいいってね」

 

 このまま気を失わせることもできるが、それよりも、ぎりぎりのところを彷徨わせておくほうがいいだろう。

 それで、恐怖心が積みあがっていく。事実、いま、金楊凛の顔には、恐怖の色がありありと浮かび始めている。

 

「ひ、卑怯よ……」

 

「お前がそれを言うのかい」

 

 孫空女はせせら笑ってやった。

 しばらく、呼吸の制限と血の制限を交互に繰り返していくと、金楊凛の身体からは完全に力が抜け、抵抗の気力も失われたようになった。

 

「はあ、はあ、はあ、く、苦しい……」

 

「苦しいかい、金楊凛?」

 

「く、苦しい……、はあ、はあ……」

 

 また、経絡を突く。金楊凛の呼吸が静かになり、苦しそうな表情が消えて、朦朧とした表情になる。

 だが、失神のぎりぎりの手前で引き戻す。

 

「ねえ、虎力(こりき)……さん、この部屋の道具はなんでも使っていいんだよねえ?」

 

 孫空女は叫んだ。

 

「その通りだ」

 

「じゃあ、あたしは、七星を使うよ――。七星」

 

 孫空女は、部屋の隅にじっとしていた七星に声をかけた。

 

「な、なんだい、孫空女?」

 

「あんたは、あたしの道具だよ。この金楊凛の身体を責めてよ」

 

「なるほど、さっきのはそういうことか……。だったら、任せな。七星姉さんの娼婦の技をみせてやるよ」

 

 七星が頬に笑みを浮かべて、金楊凛の下半身にとりつく。

 半覚醒状態の金楊凛が、ぎょっとしている。

 

「な、なにを……」

 

 金楊凛が宙を追うような視線を孫空女に向ける。

 

「なにも考えんじゃないよ、金楊凛」

 

「そういうことさ、金楊凛」

 

 七星が金楊凛の脚を大きく拡げさせて、金楊凛の内腿に手をやり、付け根の部分を擦りはじめた。金楊凛の身体が跳ねる。

 

「あ、ああ……」

 

 金楊凛が女の反応をしはじめる。

 

「すぐにいかせるんじゃないよ、七星。こいつには、参ったと言わせないといけないんだから」

 

「わかっているよ、孫空女。徹底的な焦らし責めにしてやるよ。あんたに、お願いだから、いかせてくれと言わせりゃあいいんだろう? 焦らし責めでも、絶頂責めでも、指示しておくれ。この七星さんだって、ちょっとした手管もあるんだよ」

 

 七星はそう言いながら、指を金楊凛の股間にやっている。

 金楊凛の身体の反応が大きくなった。

 孫空女は孫空女で、窒息責めを続けている。

 金楊凛は完全に意識が半分ない状態だ。

 その状態で、七星の愛撫を受けさせている。

 

「……ほら、金楊凛。どうして欲しいか言ってみな」

 

 孫空女は、金楊凛の乳首に指を伸ばす。

 だが、触ってはやらない。

 その周りだけど刺激する。

 

「あくうっ――。 ああっ――」

 

「孫空女、こいつは、あとひと触りでいくよ」

 

 七星が孫空女に顔を向けた。

 

「じゃあ、その状態を維持してよ――。金楊凛、いかせて欲しければ、参ったと言いな」

 

「ぐっ……ぐううっ……。だ、誰が……」

 

「そうかい。じゃあ、もう少し、夢の中を彷徨ってもらおうかね」

 

 孫空女は、金楊凛の頭に送る血をさらに制限した。

 そして、気を失う直前に血を流す。

 だが、今度は、さっきよりもかなり送り出される血が少ない。

 ほとんど、意識を保てるぎりぎりの状態のはずだ。

 そして、さらに、一番最初に使った呼吸を制限する経絡を突く。

 金楊凛の顔が真っ赤になり、そして、白くなる。

 

「あっ……、あくっ……ひゅ……ひゅ……」

 

 金楊凛の身体が孫空女の下でもがいている。

 

「苦しいだろう、金楊凛。いまは一番苦しい状態だ。気を失いたければ、参ったって言ってよ。いつでも気を失わせてやるよ」

 

 孫空女はそう言って、呼吸を解放した。

 そして、すぐに息に蓋をする。

 金楊凛が苦しみ出す。

 

「こっちもね。いかせて欲しければ、参ったって言ってね。孫空女が許可すれば、いつでも絶頂できるよ」

 

 七星も言った。

 そして、金楊凛を責める指の動きを強くしたようだ。

 

「あああ――、ああ、だめ――。も、もう、許……して……いくうぅ――」

 

 金楊凛は、大きな嬌声をあげ始めた。

 

「大丈夫だよ、金楊凛。あんたの性器は、あたいの眼のすぐ下だ。いついくかなんて、よくわかるよ。ぎりぎりのところでとめてあげるから安心しな……。はい、ここまで。じゃあ、お預け」

 

「ひゃあん……」

 

 金楊凛が苦しみの中で、切なそうな声をあげた。

 完全な雌の顔だ。一番奴隷として、奴隷四人を責めまくっていた嗜虐者の顔はもうない。

 しかも、呼吸と頭にいく血を制限されて、朦朧としている。

 

「参ったと言いな、金楊凛……」

 

 孫空女は、金楊凛の耳元に屈んで囁いた。

 朱姫がよくそういう声で『縛心術』をかけていた。

 朱姫は、道術なしに、普通の人間に『縛心術』をかけることができる。

 『縛心術』は、霊気を持たない人間には半分眠っている状態のときが、霊気を帯びている者には、眠っているときが一番かけやすいと言っていた。

 いま金楊凛の状態は、半分眠っている状態だ。

 

「……参った」

 

 金楊凛の口からその言葉が漏れた。

 孫空女は、頬に笑みを浮かべた。

 経絡を突いて呼吸だけ戻す。

 

「七星、いかせてやってよ」

 

「わかった」

 

「ひぎいっ――、いくっ――」

 

 金楊凛はひと際大きな声をあげて悶絶した。

 孫空女は、それに合わせるように経絡を突き、金楊凛を失神させた。

 そして、さらに経絡を突き、金楊凛の身体を元に戻す。

 

「見事だ」

 

 虎力が拍手をした。

 孫空女は、気を失っている金楊凛の身体から降りると、虎力に向かい合った。

 

「金楊凛は、たったいまから乙種奴隷に移す。孫空女、今日からお前が一番奴隷だ。そして、七星、お前は二番奴隷だ」

 

 虎力が言った。

 孫空女は、黙ってそれを聞いていた。

 すると、身体に法術が流れ始めたのがわかった。勝手に両手両足が横に開き、脚を開いて、腕を水平方向に伸ばした姿勢になる。

 

「なかなか、愉しかったぞ。ご褒美に、この女囚服で女として愉しんでくれ。それが終われば、男役の奴隷としての仕事が待っている」

 

 背後から七星の舌打ちが聞こえた。七星も孫空女と同じような姿勢にさせられているのだ。

 虎力が立ちあがり、例の「手」の淫具を持っている。孫空女は、歯を食いしばって、これからやってくるだろう官能の地獄に備えた。

 孫空女の両方の乳房が「手」で包まれる。その手が軽く孫空女の胸を揉み始める。

 

「ああっ」

 

 思わず声が漏れる。

 股間――。そして、お尻に……。

 装着が終わると、身体の拘束が解放された。

 膣と肛門には、すでに「手」から伸びた指が張形にかたちを変えて、孫空女を責め始めている。

 金楊凛にかけられた媚薬の効果が続いている。

 たちまちに襲ってきた官能の爆風に、孫空女は立っていられずにしゃがみ込んだ。

 もう、一回目の波がやってくる。

 七星も床に膝をつける音がして、嬌声が聞こえてきた。

 

「夕方まで、その淫具を味わってもらおう。いくらでもいき続けろ。その淫具は、お前たちがいつまでも絶頂を続けられるように調整済みだ。それが終われば、ふたりで、宝玄仙と紅夏女を責めろ。鹿力が責めているが、なかなか屈服しないので、鹿力も手を焼いている。まさか、一日以上も頑張るとは思わんかったが、今日中にふたりのうちのひとりを間引かねばならんのだ」

 

 虎力が言った。

 

「ご、ご主人様……、宝玄仙に……な、なにしてるんだよ……?」

 

 快楽の大波がやってきた。

 孫空女は耐えようとした。

 だが、前後の孔で暴れ回る指と、胸を責める「手」に、翻弄される。

 たちまちに絶頂してしまった。

 

「速いな。快楽に対して本当に弱いんだな、孫空女」

 

 虎力の言葉には、馬鹿にしたような響きがあった。

 

「う、うるさい……。ご、ご主人様になにしたんだよ、言えよ」

 

「気にするな。お前は、ただ、いくことだけを考えればいい。身体は解放してやるが、部屋からは出られないようにする。夕方まで自由に過ごせ」

 

 自由に過ごせといいながら、この淫具に責め続けられるのだ。

 そして、その後は、また、宝玄仙を責めさせられる。

 いつまで、こんなことを続けさせられるのか……。

 背後から、七星の感極まった声がした。

 達したのだ。

 その声を聞きながら、孫空女も二回目の絶頂を迎えていた。

 

 

 *

 

 

 新しい奴隷を連れて来るという報せを受けたのは、羊力が智淵城に到着する直前の時期だった。

 鹿力は、ひとりで智淵城の城門に向かっていた。

 

 それにしても……。

 鹿力は舌打ちする思いだった。

 どうせ、奴隷なぶりにかまけていて、羊力は連絡するのを忘れていたのだろうが、いつもの種別判定試練をする余裕がない。

 とにかく、虎力は、すぐにやってくることになっているから、しばらく待たせることになるだろう。

 それで、それなりの女なら甲種奴隷にしてしばらく様子をみる。

 虎力の眼鏡にかなわなければ、そのまま乙種奴隷として働かせることになる。

 働けなくなれば、丙種奴隷だ。

 いずれにしても、丙種奴隷こそ、虎力、鹿力、羊力にとって真に必要なものだった。

 もっとも、その丙種奴隷行きの個体には事欠かない。

 

 まあ、それにしても、丁度間引き試練をしていたときに、新入奴隷の加入が重なるとは絶好の折になった。

 虎力の気紛れにより、いつもの間引き試練を開始していた鹿力たちだったが、実際には、新入奴隷の予定があったわけじゃない。

 ただ、そうやって脅して遊ぶためのつもりのものだ。

 まあ、前回は四匹も同時に入れたし、そろそろ半分くらいは丙種落ちしていもいいかという時期ではあった。

 ところが、今回は、たまたま、本当に二匹の加入が重なったことになる。

 だったら、そのまま入れ替えてもいい。

 まあ、それに相応しい奴隷であればの話だが……。

 

 ところで、昨夜は、なかなか面白い趣向だった。

 鹿力は、些かの満足心とともに、それを思い出していた。

 紅夏女(こうなつじょ)を屈服させるための道具として、貂蝉(ちょうせん)という紅夏女の連れだった娘を使い、紅夏女を追いこんでから丙種奴隷にすることを同意させようとしたが、最後まで紅夏女は、屈服しなかった。

 いきたくてもいけない身体にしてから、兵たちの輪姦にかけたが、紅夏女は明らかに理性を失いながらも、貂蝉を丙種にすることだけは承知しなかった。

 それだけは、見あげた意思力だと思う。

 

 まあいい。時間はいくらでもある。紅夏女を追い込む手段もほかにある。

 鹿力は、性交そのものよりも、女が屈服する瞬間というものが好きだった。

 特に、気の強い女が、絶望して服従する瞬間が堪えられない。

 それは、鹿力に性交以上の愉悦を感じさせてくれる。

 虎力からは、宝玄仙と紅夏女の二匹のうちのどちらかを処分させるのを求められていたが、どちらもまだ屈服仕切ってはおらず、まだ惜しい。

 だったら、新入のうちのひとりを処分してしまえばいいのではないか。

 どうせ、実際の間引きの時期は決まっていなかったのだ。

 うまく新入りは入ってきたのは、偶然にすぎない。

 

 城門が見えた。

 羊力がいて、羊力の横には檻車がある。

 檻車を曳いてきた馬と兵は、もう去らせたようだ。

 

 ここに来る女囚には、逃走防止の見張りは必要ない。

 手首と足首に、逃走防止の意思を失わせる法術の帯が刻まれていて、絶対に逃げることができない。

 そして、首輪の法具だ。

 虎力、鹿力、羊力の三人の気まぐれで、いつでも女囚を殺すことができる。

 いままでに、ここの女囚が脱走に成功したことはない。

 

「女囚は、ふたりか、羊力?」

 

 鹿力は檻車の横にいる羊力に声をかけた。

 

「そうだ。今度の女囚も、なかなかのものだ。器量は一級品の美女。身体はそれ以上だ。この羊力を愉しませてくれた」

 

「また、手を出したのか?」

 

 鹿力は苦笑した。

 

「いや、今度のふたりは、もともと、城郭軍が俺用に準備した娼婦だったのだ。だが、天教の神官とわかったので、女囚にして連れてきた」

 

「娼婦で神官?」

 

 鹿力は、天教の神官が娼婦をしているというのが合点がいかなかったが、とにかく、見てみることにした。

 そして、羊力に檻車から女囚を出せと言おうとして、檻車の扉が半開きになっていることに気がついた。

 なんとなく違和感を覚えた。

 がらりと檻車の扉を開いた。

 そこには誰もいなかった。

 いつも女囚の首輪と檻車の壁を繋いでいる鎖の痕もない。

 

「おい、羊力、女囚はどこだ?」

 

 鹿力は叫んだ。

 

「そこにいるじゃねえか」

 

「そこ?」

 

 羊力はすぐ背後に立っていた。

 その羊力がそう応じた。

 

「そことは、どこだ? 誰もいないぞ」

 

「なにを言っているんだ、鹿力。そこだよ。新しい女囚の沙那と朱姫だ」

 

 羊力は、誰もいない檻車の中を指差した。

 鹿力は、羊力を振り返った。

 眼に微かに術の痕跡がある。

 

「……操り術か」

 

 鹿力は呟いた。

 天教の術遣いが、『縛心術』とか称する操り術に違いない。

 それで我に返る。

 

「羊力、お前、兵を去らせてから、どのくらい経った?」

 

 鹿力は声をあげた。

 もしも、羊力が、操り術にかけられた状態で、そのふたりを連れて来たとしたら、すでに、この牢城に侵入を果たしていることになる。

 この牢城には、外部からの攻撃を防ぐ手段はない。

 女囚を法術により逃走防止しているだけで無防備だ。

 せいぜい、法術でうっかり近づく者を道に迷わせて追い返す結界をかけているだけで、一度結界の内側に入れば、簡単に智淵城に入れる。

 だから、羊力か鹿力が一緒でなければ、結界に入れないように法術をかけているのだ。

 だが、羊力は、操られた状態でその侵入者を入り込ませたのだ。

 

「さあな。もう、半刻(約三十分)になるかな」

 

 鹿力は、舌打ちした。そして、法術で信号弾を空に発射した。

 

 侵入者あり、警戒せよ――。

 

 そういう合図だ。

 羊力のことは後だ。

 第一は、侵入者の行方を探すことだ――。

 鹿力は、智淵城の建物に向かって走った。

 

 

 *

 

 

「行ったわね」

 

 檻車の下に腹這いになっていた沙那は、横の朱姫に言った。

 

「あれが、鹿力でしょうか。背が高いという特徴に合ってましたけど」

 

「そうね。ここに虎力も来てくれれば手っ取り早かったけど、そううまくはいかないわね。いずれにしても、鹿力を追いましょう。こういうときは、一番、護りたいものがある場所に向かうものよ。そこにきっと虎力はいるわ。向こうも、探すつもりが、まさか追いかけられているとは思わないでしょう」

 

「はい」

 

 沙那は、檻車の下から這い出た。

 羊力はそこに立っているが、朱姫の『縛心術』で、沙那と朱姫の存在を認識できない。

 眼の前に立っている沙那と朱姫のことはわからず、誰もいない檻車の中に、羊力は、沙那と朱姫の姿を見ているはずだ。

 

 沙那は、細剣を抜いた。

 護送の途中まで羊力に管理させて、あらかじめかけておいた術で、羊力自身に沙那に手渡しさせた剣だ。

 そんなことをしたことも羊力は認識がないはずだ。

 

 いきなり、羊力の腹に細剣を突き刺した。

 

「ぐわっ」

 

 なにをされたのかも知覚できないまま、羊力の目が大きく見開く。

 そのまま横に引いた。

 血とともに内臓が飛び出してくる。

 呻き声をあげながら倒れる羊力の首を斬った。

 首が転がって胴体から離れた。

 

「行くわよ、朱姫。あなた、鹿力の霊気は追えるわね?」

 

「任せてください、沙那姉さん」

 

 朱姫は走り出した。

 沙那はそれに追いつき、そして、前に出る。

 

「そのまま真っ直ぐ。正面の建物です」

 

 朱姫が叫んだ。

 

 

 *

 

 

「異常は?」

 

 鹿力は言った。

 丙種奴隷置場だ。

 ここには、屠殺され、あるいは実験動物となった奴隷が保管してある。

 法兵ふたりが警護をしているが、見たところ侵入者の様子はないようだ。

 

「異常ありません。鹿力様、いまの信号は?」

 

 ひとりが言った。

 

「侵入者だ。女がふたり。ここに増加の兵を回す。誰も入らせるな」

 

 ひと言だけ告げて、伝言管で兵の詰所に指示をして、ここに十名ほど回すように命令した。

 そして、甲種奴隷の部屋にいるはずの虎力のもとに走る。

 

 虎力は、自室にいた。

 周りには、宝玄仙、紅夏女、孫空女、七星という奴隷が揃っている。

 宝玄仙と紅夏女は、ほとんど失神状態だ。

 

「どうした?」

 

 虎力が言った。

 鹿力は、女囚に化けた女がふたり入り込んだと言おうとした。

 

「えっ?」

 

 だが、言えなかった。

 背中になにかがぶつかった。

 胸から細剣の刃先が突き出ていた。

 

「沙那――」

 

 孫空女が叫んだ。

 それが、鹿力が最後に聞いた声だった。

 

 

 *

 

 

「虎力、ご主人様と孫空女を返してもらうわよ」

 

 鹿力の身体を脚で蹴り飛ばして、鹿力の胸に突き刺さっていた剣を外した沙那は、虎力に血のついた剣を向けた。

 

「お前は?」

 

「沙那よ。死ぬまでの短い間、憶えておいて、虎力」

 

 さらに詰め寄る。

 虎力は椅子に座り、周りの四人の女に囲ませていた。

 

「沙那……」

 

 孫空女の声だ。

 

「待たせたわね、孫女」

 

「信じてたよ……」

 

 孫空女も宝玄仙も奇妙なものを身体に装着している。

 人間の手のかたちをしたものが、丁度女の身体を苛む場所に四箇所張りついている。

 それがどんなものなのか想像がついて、沙那は嫌な気持ちになった。

 

「……さ、沙那かい?」

 

 宝玄仙が眼を開いた。

 眼が虚ろだ。

 どんな責めを受けていたのかわからないが、半分意識がない状態だ。

 

「朱姫もいます」

 

 沙那は言った。

 

「……そうか。この宝玄仙と孫空女の仲間か」

 

 虎力の手が孫空女と沙那に伸びた。

 沙那ははっとした。人質にとられては困る。

 その虎力の身体が崩れた。

 頬に小さな傷のある青い髪の女が、虎力の座っている椅子をひっくり返したのだ。

 態勢を崩した状態で、虎力がこちらに飛ばされた。

 

 沙那は、剣を一閃させた。

 虎力の首が落ちた。

 

「朱姫、結界の出口を刻んで……」

 

 沙那は、朱姫に振り返った。

 

「はい」

 

 朱姫が結界を刻み始めた。

 『移動術』の出口は、城郭の城外に刻み終わっている。

 ここと繋げれば、そこに脱出できる。

 虎力、鹿力、羊力の三人の指導者を失って、法兵たちがどう動くかはわからないが、ここは逃げておいた方がいい。

 

「ご主人様、お待たせしました……」

 

 沙那は、宝玄仙に歩んでいった。

 

「沙那、後ろ──」

 

 不意に孫空女が叫んだ

 振り返ると、鹿力がそこにいた。

 人間ではない。魔族だ。角のある魔族の姿になり、大きな爪で襲いかかってきていた。

 沙那は、かろうじて避けたが、爪の先が首を掠った。

 ほんの少し爪を食い込まされただけだが、あっという間に身体が弛緩していく。

 

 なぜ――?

 

 確かに心臓を突き刺した。

 どうしていま動いているのか?

 人間だろうが、魔族だろうが、心臓を刺せば死ぬはずだ。

 沙那は、もう一度、剣を背後に振った。

 腕を斬り落とされた鹿力が壁に崩れた。

 

「ここにいたのかい……。さっきはよくもやってくれたな……」

 

 扉から出現したのは羊力だ。

 沙那は驚いた。

 羊力も殺したはずだ。

 

「なかなかの剣技だ」

 

 声は前からだ。

 頭を失った虎力の胴体が転がっている頭を掴んだ。

 そして、首の上に乗せる。虎力の首は胴体に繋がり、その顔が微笑む。

 一方で、沙那の筋肉の力はますます抜けていく。

 こいつらは不死身なのか……。

 沙那の背に冷たい汗が流れる。

 

「ご主人様、こっちに――。手を出して――」

 

 沙那は叫んだ。

 宝玄仙が起きあがってこっちによろよろと進んで来る。

 両腕を沙那に言われるままに手を伸ばしている。

 宝玄仙の右の手には、黒い紋章が刻まれている。あれが、術を封じる紋章だろう。そして、手首と足首には、脱出を封じる黒い線──。

 これらが宝玄仙の脱出の意思を封じている。

 

 沙那は、弛緩する腕を懸命に振りあげて、宝玄仙の両方の手首を黒い線ごと叩き斬った。

 そして、返る剣で足首も斬りおとす。

 

「朱姫、ご主人様と結界術で逃げるのよ──」

 

 手首と足首を失った宝玄仙の身体を朱姫に投げる。

 朱姫が宝玄仙の身体を受けとめる。

 宝玄仙の意識はないようだ。

 

「で、でも……」

 

 朱姫は戸惑っている。その朱姫と宝玄仙は、『移動術』の結界の上にいる。

 羊力が、逃亡を阻止しようと、そっちに飛びかかる。

 間一髪、沙那が羊力を突き飛ばす。

 沙那は、羊力とともに倒れた。

 もう、起きあがれない。毒が身体に回っている。

 鹿力も立ちあがった。腕は繋がっている。

 

「沙那姉さん、孫姉さん、ご主人様を連れていきます――」

 

 それが最後だった。

 朱姫と宝玄仙の身体が消滅した。

 すぐに『移動術』の出口が閉じられたのがわかった。

 沙那は、もう完全に力を失い、床に倒れていた。

 その身体を羊力が引きずりあげた。

 虎力と向き合うように立たされる。

 

「沙那というのか?」

 

 虎力が言った。

 沙那は、なにも言わなかった。

 

 失敗した。

 完全な失敗でなかったのは、宝玄仙を救出できたことだ。

 だが、孫空女は救えなかった。

 そして、沙那も虜になった。

 

「胸を出させろ」

 

 虎力が言った。

 鹿力が近づいて、沙那の上半身の衣服を引き裂いた。

 沙那のふたつの乳房が露わになる。

 虎力が、沙那に向かって手を伸ばした。

 

「はぐっ――」

 

 次の瞬間、虎力の手が、沙那の胸を深々と抉って、身体に突き刺さった。

 

 

 

 

(第21話『奴隷城の屈辱調教』終わり、第22話『奴隷城からの脱出』に続く)






 *


【西遊記:45・46回、虎力・鹿力・羊力大仙⓶】


 智淵寺で歓待を受けた孫悟空は、その夜、この国を支配している道教のことが気になって、空にのぼります。
 そして、南の方角に、煌々と明かりの灯る立派な建物を見つけます。
 向かってみると、そこは「三清殿」と呼ばれる道教の拝殿であり、国王に気に入られて、この国を支配している虎力大仙、鹿力大仙、羊力大仙という三人の道術師が大勢の弟子を連れて礼拝を唱えている光景に遭遇します。

 孫悟空は、一度戻って、猪八戒と沙悟浄を起こして、三清殿に忍び込んで、供え物の食べ物を食い荒らしたり、挙句の果てには、自分たちは降臨した道教の神だと騙して、虎力大仙たちに、自分たちの小便を聖水だと言って、飲ませる悪戯までします。
 結局はばれるのですが、三人はなんとか捕らわれることなく逃げ帰ります。

 翌日、国王のもとに、玄奘たちは国境の通過を許可する許可を得るために参内します。国王は玄奘が仏教の高僧だということは認識していましたが、唐国が大国であることから、無駄な騒動を避けるために大人しく退散させようと思っていました。
 ところが、偶然にも虎力大仙たちが、玄奘のいる場所に遇殿に出くわし、孫悟空たちを見て、昨夜三清殿に忍び込んだ泥棒だと騒ぎ立てます。

 孫悟空たちは白を切りますが、虎力大仙たちはしつこく罵ります。
 どちらの言い分が正しいのか困った国王は、ならば術で勝負してはどうかと提案します。
 孫悟空は、玄奘に耳打ちして、この国王の言葉に乗らせます。

 勝負は、虎力大仙と玄奘のあいだで、雨ごい勝負、座禅勝負、透視力勝負の三番勝負になりますが、裏で手を回した孫悟空が、ことごとく、玄奘を勝利させます。

 追い詰められた虎力大仙は、さらにもう一番の勝負を仕掛け、自分は首を切断しても死なない術が遣えると宣言します。
 面白がった孫悟空は、今度は相手を自分が受けると申し出て、まずは、孫悟空が自分の首を切断して、すぐに復活してみせます。
 虎力大仙も、不死身であることを証明しようと、自分の首を刎ねさせますが、孫悟空は、その首を術で犬に咥えさせて逃亡させます。
 首のなくなった、虎力大仙は復活することができずに、死んでしまいます。(第46回の後半・47回に続く)
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