※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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138 戻ってきた刺客

「は……ひ……おふっ……ひいっ……ひいいいいぃ――」

 

 孫空女が、全身を仰け反らせて絶頂した。

 虎力(こりき)は、腰の上で踊り続ける孫空女のそんな姿を笑いながら眺めていた。

 

「ほら、孫空女、お前がいくんじゃない。俺をいかすのだ。そんなことじゃあ、いつまでたっても終わらないぞ」

 

「お、お願いだよ……。ほんのちょっと……ほんのちょっとでいいんだ。休ませて……」

 

 孫空女は、泣くような声を出した。

 いま、孫空女は、法術で腕を背中で組まされて、そして、寝台に寝そべっている虎力の男根に跨り、自分のの女陰をうずめている。

 虎力は、法術によって、咥えこんだ男根を孫空女の女陰が完全には抜くことができないようにしているのだ。

 そうやって、孫空女に自ら律動することを命じている。しかも、孫空女の身体は信じられないくらいに感度をあげてやった。

 虎力は、孫空女の哀願への返事の代わりに、腰を跳ねさせて、孫空女の女陰を下から突きあげた。

 

「んおおおっ」

 

 孫空女は、大きな声をあげて弓なりになり、がくがくと腰を跳ね上げながら気をやった。

 

「まったく、堪え性のない身体になったな、孫空女。だが、そんなことじゃあ、いつまでたっても、この責め苦は終わらねえぞ」

 

 横にいる羊力(ようりき)が囃し立てる。

 

「つ、次に……、頑張るから……。ほんのちょっと休ませて……」

 

 孫空女は、涙と鼻水と涎でぐしょぐしょになった哀れな顔を虎力にまた向ける。

 虎力は笑いながら、また孫空女の股間が嵌まっている腰を揺する。

 

「んあああっ」

 

 孫空女は、またもや、痙攣を起こしながら果てた。

 虎力が孫空女に強要をしているのは、寝そべった虎力の男根に女陰をうずめて、虎力をいかせることだ。

 普通であれば、それほど苛酷な命令ではない。

 

 だが、いまの孫空女は、半日も媚薬風呂に浸けていたうえに、法術で身体の感度を数十倍にあげてある。

 そんな状態では、女陰に男根を迎えるだけでも絶頂を迎えるはずだ。

 実際、孫空女は、さっきからほんのちょっと虎力が腰を動かすだけで、全身を激しくもがいて絶頂の姿を見せている。

 そんな身体で、孫空女は自ら腰を動かして、虎力の精液を絞り出せなければならないというわけだ。

 

 そんなことできるわけがないと虎力も思う。

 それでも、孫空女が懸命に虎力への奉仕を続けているのは、それが拒否できないからだ。

 命令に従わなければ、革の首輪に喉を締められる。

 自殺をすることもできない。

 孫空女には命令に従うほかにできることはない。

 

「ほら、腰を動かせ。兄貴は、そんなもんじゃあ、いかねえぞ」

 

 孫空女は、ほとんど泣きながら腰を動かし始めた。

 

「だめええ、いぎいいい」

 

 そして、また数回も動かさないうちに気をやった。

 羊力がそれを見て馬鹿笑いする。

 孫空女が情感の中に悲痛な表情を示す。

 口惜しいのだろう。

 その悔しそうな顔がなによりも、虎力を悦ばせる。

 

「ほら、休むな。続けよ、孫空女」

 

 虎力は、孫空女の下で言った。

 

「ほんのちょっと……。ほんのちょっとでいいから……」

 

 孫空女はうわ言のように呟きながら、刺激をあまり受けないようにゆっくりと腰を動かす。

 しかし、虎力がほんの少し左右に腰を動かすと、狂ったように喘ぎ、そして、もがいた。

 

「あふううっ」

 

 また、軽く気をやったのだ。

 限界を遥かに超えたいき狂いに、孫空女も意識を手放しそうになっている。

 

 そのとき、鹿力が部屋に入ってきた。

 腰に孫空女を跨らせている虎力に、鹿力は耳打ちをした。

 内容は、宝玄仙を殺しに向かわせた沙那が戻ってきたということだった。

 どうやら、首尾よく目的を果たしたようだ。

 虎力が頷き、沙那をこっちに向かわせるように指示した。

 鹿力が頷いて、部屋を出ていく。

 

「羊力、代わってくれ」

 

 虎力は、法術を一度解くと、孫空女を身体の上から払いのけて立ちあがった。

 孫空女は、まだ後手に拘束された身体を乱暴に床に突き飛ばされながらも、ほっとした表情をしている。

 

「ほら、まだまだ、休憩じゃねえ。次は、俺に跨るんだよ」

 

 横になった羊力が、横たわる孫空女の脚を引き摺って、自分の股間に跨らせようとしている。

 孫空女は、悲鳴をあげてそれを嫌がっているが、さすがにもう腰も抜けて、身体に力が入らないらしい。

 簡単に、羊力に引っぱられてその怒張を挿入させられた。

 

「あぐううっ」

 

 さっそく、挿入されたときの刺激で、もう、気をやっている。

 

「自分で腰を動かして、男をいかせる。なんで、こんな簡単なことができないんだ、孫空女?」

 

 羊力は、虎力がやったのと同じように、法術で孫空女が羊力の怒張を抜けなくしたようだ。

 孫空女は、脱力しかかっている身体を懸命に動かして、羊力の身体の上で上下運動を始めた。

 

「ひゃあああっ」

 

 しかし、あっという間に、また、絶頂を極めさせられている。

 沙那が入ってきた。

 ちらりと孫空女に視線を移し、ぎょっとした顔をした。

 

「あれは、なにをしているのですか?」

 

 沙那が言った。

 

「なに、ほんの数擦りで、気をやってしまうような感度にあげておいてから、ああやって、跨った男の精を抜けと命じておるのだ。もう数刻やらせているが、達するのは自分だけで、一度も成功していない。まあ、それも無理はないがな。数回動かすだけで、自分が先にいってしまうのだ。その度に、動きを止めて中断してしまう。あれでは、命令を果たすのは無理だろうな」

 

 虎力は笑った。

 

「でも、わたしの知っている孫空女は、あれほど敏感な身体ではなかったと思いますが?」

 

「半日も強力な媚薬の液体の中に浸け込んだ。それに法術で女陰の感度を普通の数十倍にはしてある。本当なら、とっくに気を失っておる。だが、気を失うこともできんのだ」

 

 すると、沙那が不意に妖艶な表情を見せた。

 

「だったら……。わたしに、あの孫空女を責めさせてもらえませんか、虎力様? ご褒美に……」

 

 沙那はじっと孫空女が狂い喘ぐ様子を見ている。

 

「お前が、孫空女を抱くというのか?」

 

「いけませんか?」

 

「構わんがな」

 

 虎力は苦笑した。『傀儡の石』で支配され、その直後の拷問により、心の暗い部分を表に出された沙那が、いままで一緒に旅をしてきた孫空女に対して、どのような感情を抱くようになったかはわからない。

 宝玄仙に対する恨みの部分を表に出さされたのと同じように、孫空女に対してなんらかの悪意を抱くようになっているかもしれない。

 その沙那がどんなふうに孫空女を扱うのか興味があった。

 

「褒美を要求するからには、それなりのことはやってきたのだろうな、沙那」

 

 虎力は言った。

 

「宝玄仙のことですか? 殺してきました。屍体は置き捨てておきましたから、誰かに確認に行かせてください。それと朱姫は逃げました。追う必要性を感じなかったので、そのまま逃がしましたけど」

 

「よくやった、沙那。さっそく羊力を通じて、法兵に確認をさせる――。羊力――」

 

 虎力は羊力を呼んだ。

 羊力は、孫空女を放り投げてこっちにやってきた。

 

「羊力、沙那が宝玄仙を殺すことに成功した。さっそく、法兵を向かわせて、遺体を回収させろ。『移動術』を遣うといいだろう」

 

「わかったが、屍体をどうするのだ、兄貴?」

 

 羊力の男根は、まだ勃起したままだ。

 

「例のものの入れ物に遣う。宝玄仙の魂の欠片は、ここにあるしな。うまく使えば、宝玄仙の身体を宝物の置物袋として遣えるだろう。なにせ、肉体から分離した“あれ”を保管するには、生身の肉体を使った袋が必要だからな。霊力の強い宝玄仙の身体であれば、入れ物として最適だ」

 

「わかった。すぐに向かわせる」

 

 羊力は出ていった。

 

「じゃあ、孫空女を抱いていいですね、虎力殿」

 

 虎力が頷くと、沙那は、激しく息をして横たわる孫空女のところに向かい、下袴(かこ)を脱ぎ始めた。

 沙那の下半身には、七星からつけられた惨たらしい鞭痕がついたままだ。

 下半身だけ裸になった沙那は、調教用の道具棚に向かった。

 ここには、女を責めるさまざまな道具が揃っている。

 その中から沙那が選んだのは、双頭の張形だ。

 男根を模した張形が両側についていて、男役の女奴隷が女陰にそれを挿入し、もうひとりの女奴隷を犯させるときに使わせるものだ。

 沙那は、それを使って、「男」として、孫空女を犯すつもりなのだろう。

 

「起きるのよ、お前」

 

 沙那が横に寝ている孫空女の片側の内腿を踏みつけて、反対の脚の膝をいきなり蹴飛ばした。

 孫空女が仰向けになった。淫液が垂れ落ちている孫空女の股ぐらが天井を向いて曝け出した。

 

「うわっ、さ、沙那?」

 

 孫空女が、呆けた表情を沙那に向ける。

 その孫空女の股に沙那は、いきなり手に持った双頭の張形の片側を突き刺した。

 

「ひいいっ――」

 

 沙那は、激しくその張形を動かした。

 立て続けに数回絶頂した孫空女は悶絶したようにぐったりとなった。

 実際には、法術により失神はしていない。

 しかし、ほとんど、それと同じ状態だ。

 その脱力した孫空女を、沙那は荒々しく張形を動かして覚醒させる。

 

「はひっ――、はふっ……」

 

 孫空女はおかしな呼吸をしながら、虚ろな眼を開ける。

 

「ほら、孫空女。お前を犯してやるから、この張形の先にお前の汚らしい淫液をまぶすんだよ」

 

 沙那が口汚く罵って、また張形を動かす。

 

「ほう……」

 

 沙那の乱暴な物言いと孫空女への容赦のない責めに、虎力も少し驚いた。

 孫空女は、奇声を発して絶頂した。

 沙那が、孫空女から張形を引き抜く。

 それとともに、潮のようなものが孫空女の膣から吹き出た。

 

「いちいち、いくんじゃない、孫空女――」

 

 沙那が孫空女を罵倒した。

 虎力は、感心して見ていた。

 あの孫空女の表情に、被虐の色が現れたのだ。

 責められて歓ぶ雌の顔だ。

 沙那が、孫空女からあの表情をあっという間に引き出した。

 虎力は驚いた。

 

「限界まで股を開くのよ。犯してやるからね。ほんの少しも股を閉じるんじゃないよ。言いつけが護れなければ罰だよ、孫空女」

 

「さ、沙那? ……沙那だよね?」

 

 孫空女の眼が泳いでいる。

 沙那の変わりように、事態が把握できないのだろう。

 

「股を開きな」

 

 沙那の強い口調に、孫空女が慌てて股を自ら開く。

 すると、沙那は、自分の股間にさっき孫空女の膣に入れた側の張形を挿し込んだ。

 そして、反対側の張形の先を孫空女の股間に当てがう。

 

「これから、お前の股にこれを突き挿すからね。歯でも、唇でもなんでもいいから噛みしめな。なにがなんでもいくんじゃない。これから先は、許可なくいくことは許さないよ。わかったね。わかったら、返事をするんだ、孫空女」

 

 孫空女の女陰の直前で張形の侵入をとめた沙那が、孫空女に言った。

 

「わ、わかったよ……、さ、沙那」

 

 孫空女が息も絶え絶えに言った。

 まだ、呼吸は苦しいようだ。

 

「わたしのことは、“ご主人様”と呼びな、孫空女」

 

「ご主人様?」

 

「そうだよ。いまは、わたしがお前のご主人様だ。わかったかい?」

 

 沙那は言った。

 どうやら、沙那は、孫空女に沙那のことを“ご主人様”と呼ばせることで、孫空女の恥辱を呷ろうとしているようだ。

 

「……さあ、言いな、孫空女」

 

 沙那の口調が静かなものになった。

 孫空女の顔がが呑まれたような表情になる。

 

「ご、ご主人様……」

 

「犯してくれと、頼みな……」

 

「犯して……。犯してよ、ご、ご主人様」

 

 孫空女が呟くように言った。

 

「どこを犯すのさ、孫空女?」

 

「あ、あたしの女陰……」

 

「奴隷らしい物言いをするんだ、孫空女」

 

「あ、あたしの汚らしい女陰をほじってください、ご主人様」

 

「もっと、大きな声で叫ぶんだよ。いちいち、説明させるんじゃない」

 

「あたしの汚らしい女陰をほじってください、ご主人様――」

 

 孫空女が泣き叫ぶような声をあげた。

 

「わたしの命令はなんだった? 言ってみな、孫空女」

 

「きょ、許可なく……いかない……」

 

「そうだよ、孫空女。許可なくいかないんだ。わかったね」

 

「う、うん、ご主人様……。あ、あたしは、許可なくいかないよ……」

 

「始めるよ」

 

 沙那が、ぐいと腰を前に出した。

 張形の先が孫空女の膣に突き刺さる。

 

「ひいいっ」

 

 孫空女は仰け反った。

 

「いくんじゃない。耐えるんだよ、孫空女」

 

「ひぎっ……。ああっ――。い、いくうっ――」

 

 孫空女は激しく首を横に振っている。

 だが、まだ絶頂するのを耐えている。

 

「そうだよ、孫空女……。まだまだ、我慢するんだ……。ふふふ、可愛いね、お前……。後でいかせてやるから……。いまは、耐えるんだ……」

 

 沙那は、少しずつ張形を埋めている。

 孫空女が歯を食い縛ってる。

 その表情は悲痛だ。

 だが、汗びっしょりになり、赤毛が額に張りついた上気した顔には、虎力もたじろぐほどの美しさを感じた。

 

「い、いっていいかい、ご主人様――?」

 

 孫空女が叫んだ。

 その腰はがくがくと震えている。もう少しも我慢できない様子だ。

 

「まだだよ、孫空女」

 

 沙那が強い声をあげる。

 

「う、うん、だ、だけど……」

 

 孫空女が激しく首を横に振って泣くような声をあげた。

 

「お、おいで、孫空女……」

 

 沙那が反り返った孫空女の裸身を抱き寄せる。

 孫空女が、胡坐に座る沙那の上に乗るような態勢になった。

 それにより、孫空女の女陰が咥えている張形は、その根元まで完全に孫空女の中に埋もれた。

 虎力の法術で両手を背中で握らせたままの孫空女が奇声をあげて、裸身をのけ反らせた。

 

「ああっ、ああ、き、気持ちいいよう、沙那」

 

 その顎が限界まで仰け反って震えている。

 

「ご主人様だよ、孫空女……。まだ、いかないんだよ……。我慢するんだ……」

 

「……ま、まだ、い、いってない……。いってないよ、ご主人様……。あ、あたし、我慢、我慢してるっ」

 

 孫空女が呻くように言った。

 

「ああ、そうだね。お前ははいかなかった……。そんな身体で頑張ったよ。さあ、口を開けな……。ご褒美だよ……」

 

 沙那が言うと、孫空女がうっとりとした表情で口を開けた。

 

「いいと言うまで、絶対に口を閉じちゃだめだ、孫空女。どんなに涎が垂れ流れてもね」

 

 微かに孫空女が頷く。

 沙那は、孫空女が開けた口の中をぺろぺろと舐めはじめた。

 それこそ、舌で孫空女の口を犯し尽くすかのような、ねっとりとした舌の攻撃だ。

 その舌の動きに合わせて、また孫空女の腰がもぞもぞと動き始める。

 孫空女の口の中を舐める合間に、沙那が孫空女の耳元にも舌を伸ばす。

 

「あ、ああっ、ああ……」

 

 孫空女の喘ぎが激しくなる。

 そのとき、沙那がなにかを孫空女にささやいたように見えた。

 孫空女が眼を開け、一度沙那を見て、そして、開いたままの口を綻ばせた

 沙那の舌が、孫空女の舌を舐め回している。

 舐められるたびに、孫空女は大きな嬌声を発するようになった。

 孫空女の涎が、孫空女自身だけじゃなく、沙那の顔や身体にも飛び散っている。

 

「いきたいかい、孫空女?」

 

 まだ口を開けたままの孫空女がゆっくりと頷く。

 涎がだらりと垂れ落ちる。

 その涎を沙那が舐めとっていく。

 後ろに組んでいた孫空女の両手が沙那を抱き締めるように動く。

 

「口を閉じていいよ、孫空女。そして、いっていい」

 

「う、うん……。あ、ありが……とう、ご主人様……」

 

 孫空女がそう言うと同時に、沙那が腰を動かし始めた。

 沙那を抱く孫空女の腕に力が入る。

 

「あひいっ――、ああああっ――ああああっ――」

 

 孫空女が喚き始めた。

 沙那の腰の動きに合わせて、ひと際高い声で奇声を発した孫空女は、雌そのものの顔をして身体を痙攣させた。

 孫空女が絶頂に達したのはわかったが、沙那は容赦なく、孫空女を張形で突きあげ続ける。

 

「ああっ、あああっ、いぐううう」

 

「い、いきな、孫空女――。何度でもね、ああっ、だけど、わたしも気持ちいいよ――。あああ――」

 

 今度は沙那もまた、絶頂しそうな感じだ。

 そして、今度は沙那が先に達する。

 

「あああっ、いくよ、孫空女――。うふうっ、あはああ」

 

「あたしも――」

 

 孫空女もまた、二度、三度と耐え続けに気をやり、そして、沙那を抱きしめたまま完全に脱力した。

 ふたりは、しっかりと抱き合っている。

 

 そして、はっとした。

 孫空女は、腕を沙那の背中にまわしている。

 虎力は、孫空女の腕を背中にまわして離れないように術をかけていたのだ。

 沙那と孫空女の痴態に酔いしれたようになっていた虎力は、我に返って、虎力が孫空女にかけていた法術が解けて、孫空女の身体が自由になっていることに気がついた。

 それで、やっと、いつの間にか、自分の法力が消滅していることを悟った。

 

「ま、待て、沙那」

 

 慌てて虎力は立ちあがった。

 

「うろちょろすんじゃないよ、虎力――」

 

 こっちに険しい視線を向けた沙那が怒鳴った。

 虎力はぎょっとした。

 『傀儡の石』を入れられている沙那が、虎力にあんな口の利き方をするわけがないのだ。

 そして、その沙那から、なにかが流れ込んだ。

 

 虎力の身体は、立った姿勢のまま、金縛りにあったように動かなくなった。

 虎力は懸命に身体を動かそうとした。

 だが、動くのは首だけで、ほかの部分は動かない。

 

「終わりましたよ、ご主人様……」

 

 部屋の入口から声がした。

 虎力は、かろうじて動く首をそっちに向けた。

 そこにいたのは沙那だ。

 ここを出ていく前に七星につけさせた鞭痕も消滅している。

 そして、剣を抜いている。

 沙那の持つ剣先には、べっとりと赤い血がついていた。

 

「沙那がふたり?」

 

 思わず虎力は叫び、そして、孫空女を抱いているもうひとりの沙那に視線を戻した。

 その沙那は、自分の股間から孫空女を解放すると、張形を抜いて投げ捨てた。

 そして、孫空女を静かに横たえると、股間から淫液を滴らせたまま、さっき脱いだ下袴をはき直した。

 沙那の姿が消滅して、宝玄仙になる。

 

「宝玄仙――」

 

 虎力は声をあげた。

 それとともに、冷たい汗が背に流れた。






 *(宝玄仙の視点/沙那による宝玄仙の襲撃・真実)


「沙那姉さん、戻ってこられたんですね? 孫姉さんも一緒ですか?」

 朱姫が踊りあがるように叫んだ。
 だが、宝玄仙は、それよりも、沙那の服から外に出ている部分の肌に、たくさんの鞭痕があることが気になった。
 沙那の頬には、深い傷跡さえある。

「沙那、その鞭の痕はどうしたんだい?」

 宝玄仙は、沙那に身体を向けた。

「沙那姉さん――。とまれ――」

 朱姫が叫んだ。
 『縛心術』だ。

 次の瞬間、宝玄仙は、沙那が剣をこちらに向けているのを知った。
 宝玄仙は凍りついた。
 沙那は、剣を宝玄仙に向けたまま静止している。
 意識がないわけではない。身体が動かなくなっているだけだ。

 それで、やっと気がついた。
 沙那がまったく霊気を帯びていない。
 宝玄仙の霊気を帯びさせるために体内に入れていた宝玄仙の魂の欠片、つまり、魔法石が抜き取られている。
 その代わり、なにか別のものを挿入されている。

「ご主人様、沙那姉さんは、なにかに操られているみたいです。しかも、霊気がありません」

 朱姫の言っていることはわかっている。
 霊気がない者には術は通じない。
 もっとも、沙那の身体には、宝玄仙の内丹印を刻んでいる。
 だから、宝玄仙の術は沙那には通じるのだ。

 しかし、さっき咄嗟には宝玄仙は反応できなかった。
 反応したのは朱姫だ。
 本来、霊気のない状態では朱姫の術は、沙那には通じないはずだ。
 だが、朱姫は、霊気を持たない人間にも『縛心術』をかけることができる。
 それは、普通は、こんなにも咄嗟にかけることはできないが、朱姫は、それこそ、何度も沙那に『縛心術』をかけたことがある。
 だから、すぐに沙那の動きをとめられたのだ。

「……舐めた真似をしてくれたもんだよね、連中も」

 宝玄仙は言った。
 連中と宝玄仙が呟いたのは、もちろん、虎力、鹿力、羊力の三人だ。
 これは、そいつらが仕組んだに違いない。
 沙那を操って、宝玄仙を殺そうとしたのだ。

「どうしたら、いいですか?」

 朱姫が戸惑っている。

「くっ、うう……」

 硬直させられている沙那から汗が滴り落ちる。
 必死に、朱姫の術に対抗しようとしているのだと思う。
 つまりは、沙那は、まだ操られている状態だ。
 操っている手段は、虎力たちの法術だ。
 だから、朱姫には手が負えない。
 朱姫にできたのは、『縛心術』で沙那をとめるところまでだ。
 沙那の暗示を解くのは、虎力よりも高い術の力が必要だ。
 宝玄仙でなければできない。

「とりあえず、お前の暗示で、わたしを殺すことに成功したことにしておくれ」

 宝玄仙は言った。

「沙那姉さんに、そう思い込ませればいいんですね」

「そうだよ。いま、沙那は興奮状態にあるからね。わたしを殺したと思い込ませれば、心は鎮まる。心を沈めた状態で、連中が沙那に仕込んだものを沙那の身体から出すよ」

「大丈夫ですか?」

「十中八九ね。連中にできたことをこの宝玄仙ができないと思うかい?」

 宝玄仙は、朱姫を安心させるために、自分の頬に笑みを浮かべてみせた。

「ご主人様、終わったら、すぐに孫姉さんも助けにいきましょう」

 朱姫が言った。

「助ける? 冗談じゃないよ。あいつらに復讐だ。孫空女を救い出すだけじゃない。連中の息の根をとめてやる。幸いにも、どうやって、智淵城に入り込むかを考えなくて済みそうだしね」

 宝玄仙はそう言い、沙那の首にある首飾りを見た。
 これがあれば、智淵城の周りに張り巡らされているはずの結界を通りつけられるだろう。
 その場所も、沙那の術を解けば、沙那が知っているに違いない。

「じゃあ、戻りましょう。智淵城に――」

 朱姫の眼には光るものがある。

「まだ、泣くのは早いよ、朱姫。まだ、なにもやっていないんだ」

「わかっています」
 朱姫は袖で眼を拭った。
「……ご主人様、朱姫がなにをしたらいいか教えてください。朱姫には、なにができますか?」

 朱姫がじっと宝玄仙の顔を見た。
 宝玄仙は微笑んだ。

「まずは、沙那にかけられている術を解き、完全に正気に戻す。次に、このわたしが沙那に術で変身をして、沙那がしている首飾りをつけて、智淵城に戻る。お前と沙那は、わたしが入り込んだ後に、わたしが『移動術』の出口を刻むから、そこから智淵城に入るんだ」

「わかりました。沙那姉さんと『移動術』で智淵城に入るんですね。それからなにをしたらいいですか?」

「お前の魔力の流れを読む力を使って、連中の“魂の本体”を探すんだ。多分、丙種奴隷置場に隠してあると思う。沙那が言ったんだろう? 侵入者があったと気がついたら、鹿力は、最初に大事なもののある場所にまっしぐらに行くと……。お前と沙那が最初に潜入したとき、鹿力がはじめに向かったのは、虎力のいる場所じゃなく、丙種奴隷置場だった。まさに、そこに大切なものがあるのさ」

「丙種奴隷置場? あんな場所に?」

 朱姫は戸惑っている。

「まず、間違いないと思う。欠片と違って、魂の本体は、生身の肉体が保管容器として必要だ。連中は、奴隷を殺して、それを容器にして魂を保管しているのさ。丙種奴隷などというものは、そこが魂の保管場所であることを隠すための隠れ蓑さ」

「わかりました。じゃあ、沙那姉さんと一緒に、あいつらの魂を探します」

「うん。見つけたら、紅孩児(こうがいじ)のところから持ってきた『如意袋』に入れるんだ。あれに入れれば、魔力が奪われる。魂の本体からの魔力の放出ができなくなれば、連中は術が遣えなくなる。法力だの、法術だといろいろと呼んでいるようだけど、結局は、魔力のことだからね」

「ご主人様は、その間、なにをするんですか?」

「なあに、沙那に変身して、孫空女を見つけて遊んでいるよ。お前たちの仕事が終わるまでね」

 宝玄仙はにやりと笑った。
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