※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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第4章【通天河(つうてんが)沿岸(魔王との遭遇)篇】
140 西の果ての城郭


「諸王国の果ての果てにしては、大きな城郭だね。驚いたよ」

 

 孫空女が、大皿に載った魚肉を香草で炒めた料理を自分の皿に取り分けながら言った。

 

「そうね」

 

 沙那は応じた。

 孫空女は、まずは、宝玄仙、そして、自分。さらに、沙那、朱姫、七星と器用にそれぞれの取り皿に料理を載せていく。

 車遅国(しゃちこく)の西の果ての元会(げんかい)という城郭だ。

 その城郭にある宿屋の一階の食堂で、宝玄仙を含む沙那たち五人の女は、夕食をとっていた。

 かなり流行っている食堂らしく、まだ夕食には早い時間だったが、十ほどある食堂の卓は客でいっぱいだ。

 沙那たちは、この宿屋の二階の一室の五人部屋を借りることになったのが、料理を食べている客は、泊り客以外の者も多いようだ。

 

 車遅国の西の国境である通天河(つうてんが)という大河は、この城郭に面している。

 その河の向こうは、こちらでは「魔域」と称するのだが、東帝国では「西域」と呼ばれていた地域であり、人間族とは異なる「魔族」の住む世界だ。

 帝国の住民であった沙那にとっては、まさに人外地である。

 いよいよ、ここまで来たかという感慨もある。

 

 眼の前で魚料理を口にしている宝玄仙の供になって一年余りが過ぎた。

 帝都で天教教団の最高神官の八仙三人の殺人を犯した宝玄仙の旅の目的地は、天教の支配や影響力が及ばない「西域」だった。

 だから、通天河を越えれば、その目的を果たしたことにはなる。

 

 もっとも、それでこの旅が終わるわけではない。

 西域、即ち、魔域も広い。

 宝玄仙の旅の目的は、単に魔域に入ることだけではなく、そこで安住の地を見つけることだろう。

 これから、魔域を巡る旅がずっと続くはずだ。

 一応は、宝玄仙を迎え入れることを約束をした金角(きんかく)がそろそろ出迎えに来ることになっている土地なのだが、いまのところ、金角の手の者が接触する気配はない。

 宝玄仙も、通天河を渡って勝手に魔域に入るのか、それとも、しばらくこの玄会に逗留するのか、あるいは、魔域を迂回するように南回りで西に進むのか、決めかねている様子である。

 まあ、まだ到着して間もないこともあるし、数日はゆっくりとして今後の方針を決めるということでいいとも思う。

 

「西の果てというのは、あんたらの感覚だね。ここは、別に果てでもなんでもないよ。西に向かう人間なんていないけどね。この元会という城郭は、南方と北方を繋ぐ大きな街道の上にあって、それに東から繋がる街道がぶつかる場所なんだ。この辺りを旅する者は、どこに向かうにしても、大抵はここに泊るから自然と賑やかなのさ。南北の産物が集まるから商人も多いしね」

 

 七星だ。

 舌は滑らかだが、身体はだるそうだ。

 口を閉じた後、大きく溜息をついた。

 彼女は、車遅国の東の入口の東閣(とうかく)の城郭で宝玄仙や孫空女とともに、「天教狩り」で女囚として智淵城に収容された旅の女であり、智淵城を脱獄してから、三箇月という約束で宝玄仙が一緒に連れてきた。

 

「なんだい、七星。まだ、だるそうじゃないかよ」

 

 孫空女が、口の中に料理を入れたまま言った。

 

「当たり前だろう……。昨夜は、みんなでよってたかって……」

 

 七星は、口のなかでぶつぶつ言った。

 沙那はそれを聞いて苦笑した。

 宝玄仙は、若く綺麗な女を嗜虐するのが好きだという変態巫女だ。

 夜につけ、昼につけ、朝につけて供の女を苛むのは、宝玄仙の日常であり、それを受けるのは、その供の「仕事」のようなものだ。

 

 昨夜は、小さな宿町の宿屋に泊ったが、その夜の「犠牲者」は、この七星だった。

 宝玄仙の道術で、身体の自由が効かない人形のようにされた七星は、宝玄仙を含む四人の女に責められた。

 全身のあらゆる場所を舐められ、くすぐられ、愛撫され続けた七星は、それこそ果てしなくいき続け、ついには痙攣がとまらなくなったが、それでも、七星は許されなかった。

 宝玄仙の道術で三人全員が男根を生やされて、七星を交替で犯すことを強要されたのだ。

 最後には、七星は、全身からすべての体液を撒き散らしながら完全に失神した。

 

「あんなもん、なんだい。二十や三十、気をやったくらいどうということはないだろう、七星。しゃきっとしな」

 

 宝玄仙が言った。

 

「こ、声が大きいよ、宝玄仙さん」

 

 七星が赤い顔をして辺りを見回しながら言った。

 沙那も周囲に目をやったが、こちらの会話に耳を向けているような客はいない。

 

「二十や三十って……。常識じゃないんだよ。際限ってものがあるじゃないか。だいたい,あんたらの旅は、淫行が多すぎんだよ。朝起きちゃあ、誰かが責められ絶頂し、昼は昼で、宝玄仙さんは、気まぐれのように淫らな命令や悪戯をするし、それで、夜はあれだろう? 本当に、これから危険な魔域に入って旅をする覚悟はあるのかい? 一瞬も気を休めることのできない場所らしいよ」

 

「まったく、そうよ。わたしもそう思うわ。ご主人様のその悪戯のために、災難に遭ったのは一度や二度じゃないし……」

 

 沙那も言った。

 そうなのだ。

 宝玄仙は、夜に供で遊ぶだけじゃなく、旅をしている昼も供を嗜虐しては悦に入るという悪癖がある。

 宝玄仙の旅は、狙う者が多い危険な旅だ。

 嗜虐を受けている真っ最中に襲われて、捕えられたというのも一度だけではない。

 そもそも、七星と知り合うきっかけになった智淵城という奴隷収容場に、宝玄仙と孫空女が連れていかれたのも、宝玄仙が同じ車遅国の東側の入口である東閣の城郭内で孫空女を嗜虐している最中だったのだ。

 

「そうだよねえ、沙那。あたいは、この一行の中で、あんただけが、常識人という感じがするよ」

 

「あら、七星姉さん。だったら、あたしは、常識人じゃないというんですか?」

 

 朱姫が言った。

 

「お前のどこが常識人だよ、朱姫。普段は大人しそうだけど、昨夜は、えげつなく人のことを責めやがって、覚えておきな。今夜でも攻守交代させてもらって、仕返しするからな」

 

「ふふふ、受けて立ちますよ、七星姉さん」

 

 朱姫は笑った。

 沙那はそれを聞いて嘆息した。

 ふたりともどっちもどっちだ。

 朱姫は、性愛に関しては歳上の沙那なんか比べものにならないくらいの性の技の持ち主だし、元娼婦でもある七星は、性の技巧に長けている。

 沙那にしてみれば、この性に関しては朱姫も七星も、一般的な常識人とは思えない。

 

「じゃあ、今夜のおかずは朱姫かい?」

 

 宝玄仙が言った。

 

「く、くじですよ。くじ。公平に行きましょうよ、ご主人様」

 

 朱姫が慌てて言った。

 

「誰にしようかねえ。まあ、くじでもいいか。考えておくよ」

 

 宝玄仙が言った。

 沙那は思わず身震いした。

 もし、沙那が当たったら、今夜、ほかの四人に責められるのは、沙那ということになる。

 宝玄仙、朱姫、七星という性の猛者と孫空女を含めた全員に、素人同然の沙那が集中して責められるとどうなってしまうのか。想像するだけで怖ろしい。

 

「それにしても、いよいよ、魔域かあ……。七星は、この通天河の向こうには行ったことがあるのかい?」

 

 孫空女が七星に言った。

 

「さすがにないよ。あたいに限らず、通天河の向こうに行こうなんていう旅人はほとんどいないんじゃないかい? 魔族の力が強い場所だと聞くからねえ。だいたい、あんたら、魔域のどこに行こうとしているんだい? まあ、約束だから三箇月は一緒にいるけど、さすがに、あたいは、あんたらとともに、魔域にずっと住みつくつもりはないよ」

 

 七星が旅に同行するのは三箇月の約束だ。

 一応、七星は、その期間、宝玄仙に買われたことになっている。

 もっとも、実際は、虎力に操られていた沙那が焼き切ってしまった七星の肉芽の皮を修復する代償としただけで、まったく金のやり取りはない。

 しかし、智淵城からの脱出については、七星としても、宝玄仙に助けられたのだ。

 宝玄仙の求めのままついてきたのは、七星としても、お礼を兼ねているつもりかもしれない。

 

「まあ、いいじゃないか、七星。いずれにしても、お前だって、この車遅国から脱出したいだろう? 国境を越えるまでは一緒にいた方が安全だろうさ。車遅国を抜けたら、まあ、好きにしていいよ。それまでは、一緒にいな」

 

 宝玄仙が言った。

 

「そうするよ、宝玄仙さん。まあ、でもこのままなら、国境を越えることも面倒はなさそうだよね。それにしても、なにがあったんだろうねえ。智淵城を脱走した直後は、てっきり脱獄囚として厳しい追跡を予想していたけど、手配書が出回る様子もないし、こうやって、城郭でのんびり食事もできるというのは、意外だったよね」

 

「本当よね、七星。わたしは、毎日、車遅国の軍に追われながら西に向かわなければならないと思ったんだけど、ここまで追補の気配がないなんて思わなかったわ」

 

 沙那は応じた。

 捕えられた女囚であり、智淵城を脱獄した身分でありながら、こうやって隠れることなく街道を旅しているのは理由がある。

 智淵城を脱走したのは、宝玄仙たちばかりでなく、紅夏女(こうなつじょ)という天教の女性巫女が率いる千人も一緒だ。

 彼女たちは、車遅国を脱出すべく、沙那たちとは反対方向の東の国境に向かった。

 

 彼女たちへの追跡の眼を逸らすために、逆の西に向かうこちらは隠れることなく、比較的堂々と街道を進むことにしたのだ。

 宝玄仙も天教の巫女服姿はさすがにやめたが、それ以外は普通に城郭や宿町に泊りながら西に向かってきた。

 しかし、智淵城を脱走した女囚を追いかけてくる様子もないし、どの城郭でも宿町でも取り締まりをしていない。

 こちらに追手を引きつけるつもりで覚悟した旅だったのだが、なにか拍子抜けした気分だ。

 だからといって、東に向かった紅夏女たち千人が捕えられたという噂も耳にしない。

 反対方向に向かっているので、噂がこちらに追いつきにくいことも考えられるが、わざとゆっくりと進んでもいるので、牢城から千人の女囚が脱走したというような噂は、聞こえてきてもいいはずだ。

 

 まさか、まだ脱獄が見つかっていないということは考えにくいが、この国を支配していた法道教が、虎力、鹿力、羊力という中心を失ったことで、それどころじゃないのかもしれない。

 あの三人というか、三匹がこの国の法道教の中心だったというのも、智淵城を抜けてからの旅の途中で知ったのだ。

 特に、あの鹿力は、国都の宮廷にも出入りしていて、法術という名の神通力で、国政にも影響を与えていたらしい。

 それが消えたことで、逆に、この国では法道教に対する風当たりが始まっている感じだ。

 いずれにしても、これならば、今頃は、紅夏女ら千人の女囚も、無事に車遅国を抜けることができたに違いない。

 

「ねえ、さっきの話だけど、魔域のどこに向かおうとしているのさ? 天教の影響のない場所に行きたいのなら、わざわざ魔域に入らなくても、ここから北か南に進んで、南域や北域に向かうというのはどうなのさ? 北域は知らないけど、南域だったら少しは知っているよ。案内とまではいかないけど、力にはなれると思う……。それに、なんかあたいは、あんたらが、このまま魔域に向かうような気はしないんだよね」

 

 七星が言った。

 

「それは、お前のお得意の第六感かい?」

 

 孫空女が揶揄するような口調で言った。

 

「なんてとでもいうがいいさ、孫空女。あたいの勘は、それはそれで大したもんなんだよ。智淵城に放り込まれたときには、あたいの勘も衰えたのかと思ったけど、結果的にこうやって、五体満足で脱出できたんだから、あれはあれで意味があることだったのさ。あんたらと出遭うためにね」

 

 七星は、皿の肉を口に入れた。

 

「魔域でも、まったく当てがないわけじゃないのよ、七星。金角という雌妖が支配する地域があるはずなんだけど、そこに行けばなんとなると思うのよ。もっとも、西域の中でも、ずっと奥の西の果てらしいけど……。魔域の中心には、霊鷲山(れいしゅうざん)の雷音院(らいおんいん)という場所があるんだけど、そのさらに奥と聞いているわ」

 

「随分と、奥地も奥地なんだねえ、沙那。だけど、その金角という雌妖とどういう縁があるんだい?」

 

「金角は、ご主人様の……なんというか……、ご主人様の家来ね」

 

 沙那は言った。

 

「家来?」

 

 七星は驚いた表情をした。

 それはそうだろう。雌妖とはいえ、魔族だ。

 東帝国では、魔族のことを「妖魔」と称していたが、人間族とは敵対している仇同士のようなものだ。

 その魔族が宝玄仙の家来だというのは確かに意外だろう。

 沙那は、簡単に七星に、金角とのいきさつを説明した。

 

「……なるほどねえ、真言の誓約による『主従の誓い』かあ」

 

 沙那の説明を聞いた後、七星は、感慨深気に呟いた。

 

「それにしても、金角さんと銀角は、どうしているでしょうか? 別れる時には、ご主人様を迎える態勢を整えておくと言っていましたけど」

 

 朱姫だ。

 あのとき魔族の巣である魔域に同行しなかったのは、天教が鎮元仙士(ちんげんせんし)を使って、魔域の魔族にまで手を回して、宝玄仙を処断しようとしているということがわかったからだ。

 もっとも、その仲介をした鎮元仙士は、石化して魔域には来られなくなったはずだ。

 そうであれば、天教が宝玄仙殺しにかけた報奨は無効のはずであり、状況も変化しているだろう。

 

「まあ、魔域に入ってみなければわからないね。通天河のこちら側では、魔域の状況はわからない。こちらも金角と連絡をしているわけじゃないから、魔域にいる金角もわたしらの動向はわからない。まあ、ここで待っていれば連絡してくるかもしれないし、こっちから魔域に入って、金角のことを探してもいい。まあ、成り行きだよ」

 

 宝玄仙は呑気そうに言った。

 どうやら、これといって、考えはないみたいだ。

 

「そういうわけだから、七星、知っているなら教えな。さっき見た限りじゃあ、通天河の向こうに行く渡し舟のようなものは見当たらなかったけど、どこに行けば、渡し舟は見つかるんだい?」

 

 孫空女だ。

 食べるのが早い孫空女の皿は、もう空になりかけている。

 沙那の皿には、まだ半分以上残っている。

 沙那は、残っていた自分の分を半分にして、その半分を孫空女の皿に載せた。

 孫空女が感謝する仕草をした。

 

「そんなものあるわけないじゃないか。この車遅国でも、魔域とは国交はないはずだし、表向きは、往来が禁止されているんだ。金を出して、舟を出してくれる船頭を探すしかないね。でも、ただ河を渡るだけとはいえ、魔域側に向かうんだから安くはないと思うよ。金出しても、見つかるとは限らないけど……」

 

 七星は言った。

 

「高いのかい?」

 

「交渉次第だろうね、宝玄仙さん。通天河には、危険な生物も多いからね。命懸けの仕事になるだろうし」

 

 七星は言った。

 

「じゃあ、自分で渡るというわけにもいかないですね」

 

 朱姫が何気なく言った。

 

「自分で渡るというのは。泳ぐということかい?」

 

 七星が言った。

 

「泳ぐなんて、無理でしょう――。向こう岸が水平線のずっと向こうにあるのよ。しかも、あんなに波が荒くて……。泳げるわけないじゃない」

 

「沙那は泳げないしね」

 

 孫空女がからかうように横から言った。

 

「泳げたって、渡れないでしょう。あんな大きな河」

 

 沙那は言った。

 確かに泳げない。ただ、故郷の愛陽には、河も海もない。

 宝玄仙と出遭う前には、愛陽から一歩も出たことがなかった沙那が泳げないのは当たり前なのだ。

 

「自分で渡ると言ったのは、泳ぐって意味じゃないですよ。筏でも組んで渡るってことです」

 

 朱姫が言った。

 

「筏じゃあ、危険じゃないかな。ひっくり返ったら終わりだし……。さっきも言ったけど、危険な生物も棲んでいるんだ」

 

 七星が首を横に振った。

 

「とにかく、しばらく待って、それでも金角から連絡が来ないようなら、向こう岸に渡してくれる船頭を探すことにするさ」

 

 宝玄仙は言った。

 

「でも、そのために必要な路銀のことですけど……」

 

 朱姫が宝玄仙に視線を向けた。

 

「……前にも言いましたけど、もう、ほとんどありません。ここの食事代と今夜の宿代を払えば、もう幾らも残らないと思います」

 

 朱姫は言った。朱姫は、この一行の会計係だ。

 もともと、路銀にもある程度の余裕のある旅だったが、智淵城から東への逃避行をしなければならない紅夏女たち千人の女囚のために、持っていたほとんどの路銀を提供した。

 それから、わずかに残した路銀を食い繋いでここまでやってきたが、ついにそれもなくなったということのようだ。

 

「路銀がないんじゃあ、船頭を雇うどころじゃないねえ。さてどうするかね」

 

 口調とは違い宝玄仙に焦りのようなものはない。

 まあ、路銀のことは、供である沙那たちがなんとかしなければならないことだろう。

 

 皿の魚料理はほとんどなくなった。

 それをはかったように給女が羊の肉と野菜を炒めた料理の大皿を持ってくる。

 みんなで箸を伸ばして、また取り分ける。

 

「そういえば、ずっと以前に、孫空女がなにか言ってたよねえ……。街中で裸で踊って金を稼ぐとか……」

 

 宝玄仙が肉を頬張りながらそう口にした。

 

「裸じゃないよ。服は着るよ。まあ、ちらちらと下着くらいは見せるかもしれないけど……。旅芸人の真似事さ。沙那とあたしが下着姿になって剣で踊る。朱姫が笛を吹く。七星はなにする?」

 

「いやよ。絶対にいや。破廉恥な恰好で街中で踊るなんて耐えられない。踊ってもいいけど、ちゃんと服着るからね、孫女」

 

 沙那はきっぱりと言った。

 

「そんなつまらないもの、客なんか集まらないよ」

 

「つまんなくないわよ。きちんとした剣舞よ。きちんと師匠について稽古を積んだものよ」

 

「真面目な剣舞なんて面白くないじゃないか」

 

「とにかく、嫌なものは嫌なの、孫女」

 

 沙那は断固として言った。

 こればかりは譲る気はない。

 

「そんなに嫌がるなら、是非やらせたくなるねえ」

 

 宝玄仙が、愉悦のこもった表情で言った。

 沙那は身震いした。

 宝玄仙がその気になってしまえば、本当に街中で裸にさせられて剣舞をさせられる。

 冗談じゃない。

 

「も、もっと、普通に稼ぎましょうよ。用心棒とか、隊商の護衛とかどうですか、ご主人様? それだったら、旅を続けながら、路銀も稼げますよ。わたしと孫女、それに七星だって、それなりに剣ができますし、朱姫やご主人様がいれば、道術遣いや魔族にも対抗できます。多分、不慣れな旅芸人の真似事をするよりも、ずっと稼げると思いますよ」

 

 沙那は言った。

 

「隊商の護衛かい……? あまり面白くなさそうだねえ……」

 

 宝玄仙は、気が乗らなそうだ。

 

「面白いとか、面白くないとか、そんなの関係ないじゃないですか、ご主人様」

 

 沙那は声をあげた。

 

「大きな声を出すんじゃないよ。まったく、いつも、真面目で面白味のない……」

 

 宝玄仙は、口の中でぶつぶつと続けた。

 

「それよりも、もっといい方法があるよ」

 

 口を挟んだのは七星だ。

 七星は、最初に取り分けた料理を平らげて、大皿に残っていたものを漁っている。

 彼女もかなりの大食漢だ。

 おそらく、五人の中で一番食べるだろう。

 

「却下」

 

 孫空女が口の中の食べ物を水とともに飲みこんでから言った。

 

「なにも言っていないじゃないか、孫空女」

 

 七星が箸を孫空女に突きつけた。

 孫空女が、それを手で払う。

 

「身体でも売ろうっていうんだろう、娼婦」

 

「絶対に嫌です」

 

 朱姫が叫んだ。

 

「わたしも嫌――」

 

 沙那も続けた。沙那と朱姫は、宝玄仙と孫空女が捕えられた智淵城の場所を知るために、東閣の城郭兵を相手に数日間、身体を売り続けた。

 あんな思いはもう嫌だ。

 

「誰が娼婦やろうって、言ったんだよ。いい加減にしろよ、お前ら」

 

 七星が机を叩いた。

 

「ちょっと、七星、声が大きいって……」

 

 沙那は、周りの客の視線を感じて慌てて言った。

 それなりの美貌を持った旅の女五人が、身体を売るというような話をしていれば、確かに何事かと注目してしまうだろう。

 

「じゃあ、なにをして稼ごうっていうんだい、七星?」

 

 宝玄仙だ。

 

「博打(ばくち)だよ、ば、く、ち。さっき、小耳にはさんだのさ。この城郭には、博打場があるんだ。あたいが、ちょっといって稼いできてやる。だから、朱姫、余っている路銀を全部提供しなよ」

 

「博打? そんなことできるのですか、七星さん?」

 

 朱姫は言った。

 

「できるかだって? あたいを見くびんじゃないよ、朱姫。故郷じゃあ、けっこう鳴らした腕さ。任せなよ」

 

 七星が親指を立てる仕草をして、にっこりと微笑んだ。

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