※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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142 脱衣賭博(とばく)

 親役の女の振ったさいころが皿の中で転がり、六、六、六と出た。

 眼の前の賭け札が、没収される。

 七星は、顔から血が引くのを感じた。

 

「ど、どうするんだよ、七星」

 

 隣の椅子に座る孫空女が、七星の耳元で言った。

 

「う、うるさいよ、孫空女」

 

 七星は怒鳴ったが、七星も途方に暮れていた。

 これで、あれだけあった賭け札がなくなったことになる。

 

「お嬢さん方、どうするね?」

 

 部屋の奥の椅子に座っている胴元の陳澄(ちんちょう)が言った。

 十人ほどいる博打場の男たちが立ちあがって、ぐるりと取り巻く。

 みんな、陳澄の子分の男たちだ。

 

「どうするって、言われても……」

 

 七星は、口ごもった。ちらりと孫空女を覗き見る。

 当然だが、孫空女も顔色を失っている。

 七星は、自分たちを取り囲んだ男たちを見あげた。

 孫空女とふたりなら、こんな連中の十人どころか、百人いようとどうということはない。

 だが、最初に博打場に入ったときに、胴元の陳澄と道術契約をさせられた。

 絶対に暴れないという契約と支払いをするまで逃げないという契約だ。

 

 こういう場所では、賭けを巡っての喧嘩は茶飯事らしい。

 だから、不意にやってきた客は、そういう術の縛りを求められる。

 七星も孫空女も、術遣いとしての道術契約ができるので、暴れないという道術契約を結ばされた。

 一方的な契約ではなく、陳澄自身も、孫空女と七星に暴力を振るわないという契約を結んだ。

 術遣いでない客の場合は、代わりに霊具を遣うらしい。

 とにかく、不平を言えるようなことはないので、七星も孫空女も受け入れた。

 だから、取り囲んだ十人の男が、暴力を振るうわけではないことはわかっている。

 

「親の三揃えで、しかも六ぞろの六倍払いだ。足りない分をどうするか教えてくれ」

 

 陳澄の言葉は静かだが、それだけに自分たちがかなり追い込まれているということを悟らざるを得ない。

 擲骰子(ちょうずし)という賭博遊びだ。

 

 使うのは三個の六面のさいころと皿で、親と子が交互に三個のさいころを振り、役を競い合う。

 三個のうちの二個が同じ目であれば、残りの一個のさいころの目が「出目」となる。

 出目の大きい方が勝ちで、子が負ければ、掛け金は没収される。ただし、三個のさいころの目が揃った場合は、その場で勝負が終わり、その数の倍の賭け金をその場で支払わなければならない。

 三回振って、出目がない場合は無役となり負けだ。

 

 最初は勝っていたのだ。

 勝負をしていたのもこの部屋ではなかった。

 ほかの客と一緒に、子のひとりとして、七星が挑んだ。

 最初の持ち金の十倍にもなり順調だった。

 帰ろうとすると、胴元の陳澄から声をかけられて、別室に連れていかれた。

 支払金の準備をするので、一刻(約一時間)ほど待ってくれというのだ。

 仕方なく、孫空女と一緒にここで待った。

 

 待っている間に、いま、さいころを振っている女の誘いを受けて、ひと勝負した。

 女の年齢は、七星や孫空女と同じくらいだろう。こういう賭場の女にしては、玄人くささがないように思えた。

 聞けば、七星に勝負を挑んだその女は、一秤金(いっしょうきん)という女で、胴元の陳澄の娘だという。

 

 そのとき、ふと見ると、孫空女は、壁にもたれてうとうととしていた。

 起こすとうるさいだろうから、七星は孫空女に相談することなく独断で受けた。

 胴元の娘という女と、少し遊んでやるくらいのつもりだった。

 

 しかし、その最初のひと勝負で、十倍になっていたはずの儲けの半分を失った。

 すると、孫空女が飛び起きて、話を聞き、馬鹿だと、間抜けだと、とにかくあらん限りの言葉で七星を罵倒した。

 

 孫空女は勝負をやめさせようとしたが、七星は聞き入れず、もうひと勝負した。

 次の勝負は七星が勝ったが、取り戻したのはほんの少しだ。

 だが、それで孫空女ももう少しやれば、負けた分を戻せると思ったのか、やめろと言わなくなった。

 

 それから七星と一秤金は、勝ったり負けたりを繰り返したが、気がつくと、七星は有り金のほとんどを失っていた。

 しかも、最後の勝負は、親の三ぞろで、子の七星が振ることなしに勝負が決まる即負けだ。さらに、賭けた分だけじゃなく、その六倍払いをしなければならないが、払いたくても、払う金がない。

 

「も、もうひと勝負しようよ」

 

 七星が言った。自分の声は震えていた。

 

「お父さん、どうします?」

 

 一秤金が陳澄を見た。

 

「まずは、払いをしてからだ。それが賭場の掟だ」

 

 陳澄は言った。

 

「払うったって……」

 

 七星は途方に暮れた。残っている金をすべて支払っても、六倍には足りない。

 

「あんたらふたり、とりあえず、着ているものを脱いでもらおうかな。負けた分には少し足らないけど、あたしが買ってあげてもいいわよ。それで、勘弁してあげるわ」

 

 一秤金が言った。

 

「ここで、裸になれって言うのかい、お前」

 

 孫空女が声をあげた。七星もびっくりした。

 女に、そんなことを言われるとは思わなかった。

 

「嫌ならいいのよ。こっちは、あんたらが可哀そうだから、お情けで言ってやっているのよ。言っておくけど、負け分を支払うまで、この賭場からからは出れないわよ。あたしの父と道術契約を交わしたんでしょう? ここで裸になるのが嫌なら、この部屋から出て、隣の大部屋に行って、あんたらふたりで、身体で稼いでくれば? あんたらは綺麗な顔をしているから、それなりに商売になるんじゃないの?」

 

 一秤金は冷たく言った。七星は唇を噛んだ。

 陳澄を始め、男たちはにやにやしている。

 すると、孫空女は、椅子から立ちあがった。服のぼたんを外し始める。

 

「そ、孫空女、あんた……」

 

 七星は、服を脱ぎ始めた孫空女を呆気にとられて見あげていた。

 

「ほう?」

 

 潔く服を脱ぎ始めた孫空女に、陳澄も意外だという表情をしている。

 

「お前も脱ぐんだよ、七星。ご主人様も言っていただろ? せめて、元手分は持って帰らなければ、どんな罰が待っているか、わかないんだよ」

 

 孫空女が、服を脱いで下着姿になった。

 だが、さすがに七星も、ここで見知らぬ男たちの前で服を脱ぐのは躊躇いがある。

 立ちあがった男たちは、もう座り直して、孫空女の裸身を眺めまわしている。

 

「こ、これで、勘弁してくれないか?」

 

 孫空女が、一秤金に言った。孫空女は麻地の胸当てと股間を覆う下着だけの姿だ。孫空女によれば、智淵城の一件の後、宝玄仙が、供たちの下着や服をある程度買い揃えるのを許してくれたと言っていた。

 ご褒美のつもりなのかもしれないと孫空女も喜んでいたが、それをもう他人に曝け出している。

 

「まあ、いいよ。あたしも、女だからね、だけど、そのさい振りの女は、なんで脱がないの?」

 

 一秤金が言った。

 

「七星、さっさと、脱ぎなよ。元はと言えば、お前のせいじゃないか」

 

 孫空女が七星に向かって強く言った。

 

「だ、だって……。なんで、こんなところで、恥を晒さなければ……」

 

「恥で済めばいいじゃないか。お前は、日が浅いから、ご主人様の恐ろしさを知らないんだよ……。数刻も続けざまにいき続ける連続絶頂や、肌の感度をあげられて激しく責められながらも絶頂だけをとめられたり……。とにかく、ご主人様は、残酷だよ……。最初の持ち金だけでも持って帰らなきゃ……」

 

「わかったよ。脱ぐよ……」

 

 七星も仕方なく下着姿になる。

 

「ふたりともいい身体をしているな」

 

 陳澄だ。陳澄は、離れた場所で、一秤金と七星の勝負を見守っていた。

 

「まあ、こんなものでも、古着屋に持っていけば、いくらかにはなるだろうね――。売っておいで」

 

 一秤金が、十人の男たちのうち、一番若いふたりに言った。

 そのふたりが、孫空女と七星が脱いだばかりの服を拾う。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。それを持っていかれたら、あたしたちは、どうやって帰るのさ」

 

 孫空女が叫んだ。

 

「あたしが買ったものをどうしようが、あたしの勝手でしょう? 文句があるの?」

 

 一秤金は言った。

 そして、服は持っていかれてしまった。

 

「さて、ところで、さっき、勝負がしたいとか言っていたわよねえ、あんたら?」

 

 一秤金が言った。

 

「ああ」

 

 七星は胸当てと股間の下着姿で、卓を挟んだ一秤金と向かい合う椅子に座り直した。

 孫空女もその横の椅子に腰掛けている。

 

「いいわよ。さあ、勝負しましょう。だから、賭けるものをそこに載せてよ」

 

 一秤金は言った。まわりの男たちがせせら笑った。

 七星は歯噛みした。

 擲骰子の勝利により得られる儲けは、子が賭ける額による。たくさん賭けるほど、勝ったときの儲けは大きくなる。少ししか賭けなければ、負けたときの代償は少なくて済むが、その代わり勝ったときの報酬も少ない。

 

「か、賭け金って……。もう、なんにもないよ。だ、だから、お金を貸しておくれよ」

 

 七星は言った。

 

「お情けで残してやったものがあるじゃないか」

 

 一秤金は冷たく言った。

 

「下着を脱げってことかい……?」

 

 七星は、一秤金を睨んだ。

 有り金を失って、服を脱いだ七星と孫空女には、ほかにはなにもない。

 

「あんたらの汚いはき晒しの下着なんて興味はないけどね。古着屋に持っていってもいくらにもならないし。だけど、ここにいる男たちに訊いてみたらどうなの。お前たちのはき晒しの下着を買ってくれるかどうか」

 

 一秤金がせせら笑った。

 

「……まあ、待て。わしが買ってやろう。こいつらも眼の保養がしたいだろうしな」

 

 陳澄が言った。

 

「よかったわね、お父さんがあんたらのはき晒しの下着を買ってくれるそうよ。じゃあ、賭け台に載せなさいよ」

 

 ねちねちとしたいたぶりに腹が立つ。

 勝負の前に、賭け金を賭け台に載せるのが決まりだ。

 だが、載せるためには、脱がなければならない。

 

 七星は孫空女を見た。

 孫空女も蒼い顔をしている。

 しかし、なにも言わずに、孫空女が胸当てを外した。

 孫空女の豊かな双乳が揺れて露わになる。

 七星もそれを見て、自分の胸当てを外した。

 ちらりと横を見て、孫空女が座ったまま腰から下着を抜くのを見て、七星も下着を脱ぐ。

 四枚の下着を賭け台に載せる。

 

「おいっ」

 

 陳澄が銭貨を四枚放った。

 子分のひとりが、七星と孫空女の下着を取って、そこに、その銭貨を載せた。

 

「別に上等の絹の下着というわけでもない。お前たちの使い古しだ。値はそんなものだ。文句はあるか?」

 

 陳澄が言った。

 

「な、ないよ」

 

 七星もそう言うしかなかった。

 

「ま、待てよ。それ、どこに持っていくんだよ」

 

 孫空女の声で、七星はその下着も部屋の外に持ち去られようとしていることに気がついた。

 

「どこって、どこだっていいでしょう? 売るのよ。言っておくけど、売り払ったって、併せて銭貨一枚がいいところよ。お父さんは、お情けで四枚の値をつけてくれたのよ」

 

 一秤金だ。

 

「そ、そうじゃないよ。下着まで持っていかれたら、あたいらはどうやって帰ればいいのさ」

 

 七星も言った。

 

「もちろん、あたしの服を売ってあげるわ。勝ちさえすればね……。それよりも、あんた、孫空女だっけ? そこの股間を隠している手をちょっとどけてくれない? さっきちらりと見えたんだけど、もしかしたら、あそこの毛をつるつるに剃っているの?」

 

 一秤金がそう言って笑った。

 周りの男たちが、どよめいて孫空女と七星の裸身を取り囲んだ。

 

「こ、こっちに、来るなよ――。ち、近づくと、蹴るよ――」

 

 孫空女が胸と股間をしっかりと手で隠して、うずくまるように身体を隠した。

 七星も、すぐそばまで、男たちに近寄られて、慌てて裸身を手で覆う。

 

「じゃあ、いくわよ」

 

 一秤金が、さいころを三つ取った。右手に包んで回す。

 三個のさいころが皿の上に転がる。

 さいころの目は、一、四、五だ。

 無役だ。

 次も親が振る。

 親も子も三回ずつ振る。役がついたときに、さい振りは交替だ。

 

 一秤金が二回目のさいころを振る。二回目も無役。

 

 三回目――。四、四、四。

 四のぞろ目だ。

 部屋の男たちがどっと沸いた。

 またしても、七星の番が来ることなく、負けが決まった。親のぞろ目は、即負けだ。子の目に関わらず、親が勝つというのが決まりだ。

 

「じょ、冗談じゃないよ。即負けはなしにしようよ。あたいにもさい振りの機会を与えておくれよ」

 

 七星は、裸身を隠したまま叫んだ。

 

「いいわ。でも、いまの勝負はこれでついたわ。次から、即負けはなしでいいけど、とりあえず負けた分を払いなさい」

 

 一秤金は、頬に笑みを浮かべながら言った。

 

「……ど、どうやって払うのさ。たったいま、なにもかもなくなったのを知っているだろう」

 

 七星もかっとなって、言い返した。

 

「どうやって払うか、自分で考えるのよ。親の即負けで、四倍返し。あんたの賭け金は、銭貨四枚だから、四倍返しの支払いは十六枚。残りの銭貨十二枚を払っておくれ。あるいは、それに見合うなにかをね……」

 

 一秤金は言い放った。

 

「わ、わかった……。あ、あたしでいいよ。あたしになにをしてもいい。それで……」

 

 孫空女が震える声で言った。

 

「孫空女?」

 

 七星は、びっくりして横の孫空女を見た。

 

「ご、ご主人様も言ったじゃないか……。負けたとしても、身体を売ってでも、金は持って来いってね……。そう、命令された以上、そうするしかないんだ」

 

 孫空女の表情は悲痛だが、口調にはしっかりした決意がこもっていた。

 七星は身体を売ることに抵抗はない。

 しかし、孫空女はそうじゃないだろう。

 宝玄仙に身体を売って来いと言われたから売るという、そこまでの服従心というのは、七星には理解できない。

 

「ほう? お前の身体をなにしてもいいんだな?」

 

 陳澄が言った。

 

「いい」

 

 孫空女はきっぱりと言った。

 

「わかった。証文を作る。お前の身体を買う。車遅国の金貨で三枚だ。文句はないな」

 

 陳澄が言った。

 

「金貨三枚……」

 

 横で聞いていた七星は、息を呑んだ。

 金貨三枚は、さっき取り合いとした銭貨の六万枚に相当する。一回や二回の性交で貰える金じゃない。孫空女は、男たちに抱かれてもいいと言ったつもりだろうが、陳澄は身を売れと言っているのだ。

 つまり、奴隷として売り払うという意味だ。

 

「それは駄目だよ。あたしには、ご主人様がいる。もう奴隷なんだ」

 

 孫空女も、陳澄の言葉の意味に気がつき、そう言い放った。

 そうなのかと思ったが、七星は黙っていた。

 宝玄仙と供たちの関係は、主人と奴隷という関係には感じなかった。

 

「奴隷か……」

 

 陳澄の舌打ちが聞こえた。

 なにかの当てが外れたという感じだ。

 

「そっちのさい振りも奴隷か? お前の名は七星だったな」

 

 陳澄がこっちを見た。

 

「奴隷じゃなかったら、なんなんだよ。買い取るつもりかよ?」

 

 七星は言った。孫空女が奴隷と言ったときの陳澄の失望の表情は、孫空女の身柄を手に入れることのできないことに対するもののように思えた。

 あわよくば、賭博の借金を代償に娼館にでも売り飛ばすつもりだったのだろうか。

 

「奴隷でなければ、金貨三枚の値をつける。それで、勝負を続ければいい」

 

「残念ながら、奴隷だよ」

 

 七星は言った。

 奴隷ではないが、ここはそう言っておいた方がいい。奴隷としておけば、陳澄は、宝玄仙を通じてしか、七星と孫空女の身柄を買えない。

 

「ちっ……。ならば、お前たちの借金は、お前たちの主人の借金ということだ。そいつに支払ってもらうことになるだろうな。お前たちの主人はどこだ?」

 

 陳澄が訊ねた。

 

「そ、それも駄目だよ。お、怒られるんだ。七星に、勝負を続けさせておくれよ」

 

 孫空女が言った。

 

「だが……」

 

 陳澄は不満顔だ。

 

「いいじゃない、お父さん。勝負を続けさせてあげましょうよ。あたしの小遣いを貸してあげるわ」

 

 一秤金が言った。

 

「ほ、本当かい?」

 

「うん」

 

 一秤金は、そう言うと、立ちあがり、一度部屋を出ていった。

 すぐに戻って来たが、戻って来たときには、若い男をひとり連れていた。

 若い男は盆に載せたお金を持っている。男は、その盆を七星と孫空女の前に置いた。

 盆には、銅貨でざっと百枚が載っている。

 盆を置いた若い男が、七星と孫空女の裸身に眼をやりながら、そこから十枚を抜き取った。

 

「その十枚はさっきの負け分と貸し賃よ。いま、そこには銅貨で九十枚あるわ。返すときには、百枚にして返してもらう。それでいいなら受け取りなさい」

 

「ありがたいね。じゃあ、やろう。さっきも言ったけど、今度は、親の即勝ちはなしだ。お互いの三ぞろのときは、数の多い方が勝ちだ。ただし、六の三ぞろに対してのみ、一の三ぞろが勝つ。その場合は十倍払い」

 

 七星は言った。

 銭貨百枚で銅貨一枚だ。

 さっきの負け分は、銭貨十二枚だから、残りを利子としても高すぎる。

 しかし、ほかに選択肢はない。

 勝負を受けなければ、全裸で放り出されるだろうし、孫空女によれば、宝玄仙の罰というのは怖ろしいもののようだ。

 

「それでいいわ、七星。銅貨百枚の貸しよ」

 

「わかった」

 

 七星は頷いた。

 

「ただし、逃げられたら困るから、あんたらふたりをその椅子に拘束させてもらうわ。借金をしたまま逃げられたら困るからね」

 

「拘束ってなんだよ。逃げやしないよ。負け金を払わずに、この賭場から逃げないと、道術契約を結ばされているんだよ」

 

 七星は声をあげた。

 

「それは、あたしのお父さんと、あなたたちの道術契約でしょう? あたしとの契約じゃないわ。あたしが貸した分を支払わずに、逃げられたら困るわ」

 

「あたしも七星も逃げないよ」

 

 孫空女も言った。

 

「勝負を続ける条件は、逃げられないように拘束をされることを受け入れることよ。拘束されたら、勝負の続きを認めてあげるわ。嫌なら帰るのね。もちろん、さっきの負け分を支払ってからね」

 

「ちっ」

 

 七星は舌打ちした。

 そして、孫空女に視線を向けた。

 孫空女も顔色が悪い。

 すでに素裸だ。

 この状態で拘束されれば、なにをされるかわからない。

 しかし、孫空女は一度眼を閉じて深く息を吐き、やがて、決心したように眼を開いた。

 

「拘束を受けるよ――。あ、あたしが」

 

 孫空女が言った。

 

「そのさい振りの女もよ。さいころを振ることができるようにだけはしてあげる」

 

 一秤金が言った。

 

「わかったよ。あたいも、拘束でもなんでもしなよ」

 

 七星は言った。

 一秤金が声をかけると、男たちが、七星と孫空女の座る椅子に群がった。

 椅子の手摺に両方の手首と肘と二の腕を革紐で縛られる。

 胴体にも革ベルトを巻かれて、椅子の背もたれに密着された。孫空女も同じようにされている。

 

「な、なんだよ。右手を縛ったら、さいころが振れないだろう――」

 

 七星は声をあげた。

 

「大丈夫よ。右手だけは手首を解放しているでしょう。振れるわよ」

 

 確かに右手首だけは、解放されている。

 だが、ほとんど動かない。

 脚についてもそれぞれの椅子の脚に、足首と膝を革紐で結び付けられる。

 

「やっぱり、なにも生えていないのね。へえ……。奴隷って、そんなところの毛も剃られるの、孫空女?」

 

 立ちあがった一秤金が卓越しに孫空女の股間を覗きながら言った。

 

「う、うるさいよ」

 

 孫空女が赤い顔をして言い返した。

 

「同じ奴隷でも、お前には、毛が生えているのね、七星」

 

「さっさと、勝負を始めるよ、一秤金」

 

 七星はそれには応じずに、一秤金に叫んだ。

 

「そうね、やりましょう。いくら賭けるの、七星?」

 

「じゃあ、積み上げる賭け金は、銅貨三十枚」

 

 七星は言った。

 持ち金の半分近くだが、即負けの決まりがなければ負けない。

 これまでは、要所に親ぞろを決められてしまい、七星がさいころをふることなく持ち金がなくなっていったのだ。

 縛られている七星の代わりに、ひとりの男が、七星と孫空女の前の銅貨から三十枚を賭け台に載せた。

 

 一秤金は、さいころを振った。三回の振りのうち、一回目と二回目は無役だった。

 三回目は、五、五、四。出目は四だ。

 五か六の出目なら七星の勝ちだ。

 

 七星の右手にさいころが握らされた。

 だが、肘を拘束されている七星には、卓の真ん中にある皿が遠い。

 

「遠いよ。椅子をぎりぎりまで卓に近づけてよ」

 

 七星は言った。

 

「男たちに頼むのね」

 

 一秤金は言った。

 七星は、横の男たちに視線を向けた。

 十人ほどいる陳澄の家人たちは、いまや、拘束された七星と孫空女の椅子を取り囲むように周りに立っている。

 

「いいぜ、押してやろう」

 

 男のひとりが、そう言って、後ろから七星の乳房を無造作に掴んだ。

 

「な、なにすんだよ――」

 

 いきなり無防備な乳房を揉まれた七星は怒鳴った。

 身体を捻って避ける。だが、男の手は、七星から離れようとしない。

 

「言われたとおりに、椅子を押しているんだけどね」

 

 七星の乳房を揉んでいる男は、揉みながら椅子を前にやった。

 

「や、やあ、は、離れろよ――。も、もういい――」

 

 七星は卓のぎりぎりまで押し出されたが、男の手は七星から離れない。いつまでも胸をなぶり続ける。

 横で孫空女も悲鳴をあげ始めた。

 孫空女もまた、男たちに身体のあちこちを触られ始めた。

 たちまちにいやらしい声を出させられている。

 七星を触る男も増えた。三人ほどがやってきて、胸だけでなく、股間や内腿を撫ぜはじめる。

 

「な、なにすんだよっ――。や、やめろよ」

 

 七星は、拘束された身体を激しく振った。七星のふっくらとした胸の突起は、男の執拗な責めに、あっという間に尖りを作る。

 そして、六本の手が、椅子から離れられない股間のあちこちを執拗に愛撫している。

 女陰に指を挿入こそされないが、強く、弱く、刺激され続ける男たちの指で、七星はあっという間に官能の極致にのぼらされる。

 

「ああっ……ああ、あ、あ、ああ――」

 

 六人もの男たちに取り囲まれた孫空女が、あられもない絶頂の嬌声を発した。

 

「早く、さいころを振ってちょうだい、七星。反則にするわよ」

 

 一秤金が言った。

 

「き、汚いよ、一緒金。やめさせてよ。こ、こんなんで振れるわけが……」

 

「なに言ってんのよ。あんたらが、負け金を支払えなくなった時点で、問答無用に捕らえられても仕方ないのよ。この城郭では、賭けであろうとなんであろうと、借金が払えないのは犯罪なのよ。軍に突き出してもいいのよ」

 

 一秤金が怒鳴った。

 これまでにない迫力に、それが一秤金の本性なのだろうと思った。

 

「そ、そんなあ……。うっ、くうっ、ああ……」

 

 七星はさいころを握ったまま身悶えた。

 男たちの責めは、どんどん無遠慮で執拗なものになる。

 

 仕方なく、さいころを振るために皿に手を伸ばした。

 しかし、それに合わせるように、肉芽を擦っていた指が、思い切り敏感な豆を握りつぶした。

 

「ひぎゃああ――」

 

 息も止まるようないきなりの激痛に、七星は身体を跳ねあげた。握っていたさいころが、手からこぼれて卓に飛んだ。

 男たちの手が一斉に離れる。

 これが目的だったのだ。

 

「さいころが皿に入らなかったから、振りは失敗ね。決まりにより倍払いよ。六十枚没収ね」

 

 一秤金が笑って、賭け台にあった三十枚と、七星の前の銅貨から三十枚の合計六十枚を持っていった。

 

「ひ、卑怯だよ。いまのはなしだよ」

 

「なにがなしよ。さあ、次の勝負よ。何枚賭けるのよ?」

 

 七星は歯噛みした。

 最初からまともな勝負をするつもりがないのだ。

 

「……ああっ……、あ、あた……あたしに……触って……、全員が……」

 

 横の孫空女が息も絶え絶えに呟いた。

 孫空女には、六人から七人の男の手が、身体のあちこちを触り続けている。

 全身に汗をかいて真っ赤に肌を染めている孫空女は、かなり追い込まれたように身体を震わせている。

 

「あら、なにが言いたいの、孫空女? あんたは、関係ないんだから、いくらでも好きなように、よがっていてもいいのよ」

 

 一秤金が、髪を振り乱して悶える孫空女に向かって言った。

 

「ぜ、全員に……ああ……み、みんながあたし……あたしの身体を触るように……い、言って……そ、そこも、だめぇ――、い、いぐうっ」

 

 孫空女が訴えながら、拘束した身体を仰け反らせた。

 

「あらあら、いったのね、孫空女……。ふふふ、七星に自由にさいころを振らせるために、あんたが十人を受け持とうと言うの? いいわ。面白いから。じゃあ、いまから十人の責めを受けなさい。次に気をやるまでは、あんたに、十人が総がかりにしてあげるわ、孫空女。でも、一度でもいけば、その十人は、七星を責めるわ」

 

「それと……。な、七星の……み、右腕を……自由に……。そ、そんな……ああっ――ひゃあ――」

 

 孫空女が、裸身をくねらせながら言った。孫空女は、前後左右から椅子に縛られた状態で無遠慮な裸身への愛撫を受け続けている。

 

「それでいいよ――。孫空女、次の一回はとりあえず勝つ。それまで耐えてくれ」

 

「わ、わかった……、七星……。んふうっ、あん、ああっ」

 

 孫空女がそう言った。孫空女が悲痛な表情で歯を食い縛ったのがわかった。

 

「全員で孫空女を責めなさい。それと七星の右手は自由にしなさい」

 

 一秤金が言った。

 まずは、七星の右の肘と二の腕の革紐が外された。

 そして、十人が孫空女に群がる。孫空女が、その姿が見えなくなるくらいに、男たちに囲まれる。

 

「掛け金は、残り三十枚全部だよ」

 

 七星は言った。

 

「じゃあ、いくわ」

 

 一秤金が、にやりと笑う。

 一度目と二度目は無役だ。

 わざとのようにゆっくりとした仕草だ。

 孫空女の嬌声が余裕のないものになる。しかし、耐えている。

 

 一秤金は、三振り目に六の三ぞろを出した。

 やっぱり、一秤金はさいころの目を自由に出せるのだ。

 男たちに責められている孫空女の声が変化した。あれは、もう幾らももたない。

 

「さあ、あんたの番よ、七星」

 

 七星は、さいころを握らされた。

 だが、七星が勝つには、一の三ぞろしかない。

 一度、右腕を頭の上にあげる。そのまま、皿に向かって投げた。

 

 一、一、一。

 一の三ぞろだ。

 

 孫空女を取り囲んでいた男たちがしんとなり、孫空女を責める手を止めて、さいころの目に見入っている。

 七星は、頬に笑みを浮かべて、一秤金を睨んだ。

 

「七星――。よ、よくやったよ――。さあ、拘束を解きなよ、お前ら――」

 

 孫空女が悦びの声をあげた。

 

「そ、そんな……」

 

 一秤金はがっくりとしている。

 

「一秤金、一の三ぞろだよ。あたいの勝ちだ。しかも、十倍払いだから、銅貨三百枚だ。始めの百枚分を抜いて、二百枚払いな。あたいらは、これで帰る」

 

 七星は、一秤金に叫んだ。

 一秤金は悔しそうな顔だ。

 

「おい、七星の右手を拘束しろ」

 

 黙って勝負を見守っていた陳澄がそう言った。

 呆気にとられていた男たちが、我に返って、七星に群がって、また右手を掴んで、拘束した。

 

「な、なにすんだよ――。あたいが勝ったじゃないか。逃がさない気かよ――。こ、この卑怯者」

 

 七星は暴れたが、右手一本だけではどうしようもない。孫空女は、最初から拘束されている。

 

「心配はいらん。賭場の負けは、ちゃんと払う。これでも、元会(げんかい)の陳澄と言えば、少しは名の知れた侠客だ。女を相手に卑怯なことはせん」

 

 陳澄は立ちあがると、ゆっくりと七星に近づいてきた。

 七星は、嫌な予感がした。

 

「だったら、払えよ。なんで、あたしらの拘束を解かないんだよ。ただで置かないよ、陳澄」

 

 孫空女も悪態をついている。

 だが、七星は自分の顔がこわばるのを感じた。

 陳澄の眼がまっすぐに、七星の青い髪を見ている。

 

「わかっている。支払いはちゃんとする。道術契約も結んだであろう。ただ、その賭けが、正当に行われたものであるならな――」

 

 陳澄の手が七星の髪を掴んだ。

 ばさばさと髪をかき払われる。

 

「やああっ」

 

 七星は逃げようとした。

 しかし、全身を革紐で拘束されて、逃げられるわけがない。

 七星の髪から、さっきすり替えたたさいころが、こぼれ落ちて床に散らばった。

 

「一秤金は、見破れなかったようだな。だが、わしの眼はごまかせん。この陳澄の眼の前でいかさまをやるとはな」

 

 七星は自分の顔がこわばるのを感じた。

 

「な、七星――」

 

 孫空女が怒鳴った。

 随分と怒っているようだ。

 

「すり替えだ。さい振りの直前に、いかさま用のさいころに入れ替えたのだ。手を上にあげたのは、髪に隠したさいころと入れ替えるためだ。一秤金、この女ふたりを軍に突き出せ」

 

 陳澄が言った。

 

「城郭軍の関保(かんほ)殿に連絡するわ、お父さん」

 

 一秤金は立ちあがった。

 そして、部下にさっと目をやった。

 

「……そして、お前たち、軍が引き取りにくるまで、この女ふたりを好きにしていいわ。ただし、犯すのは駄目よ。関保さんがうるさいからね。でも、夜も遅いから、多分、二刻(約二時間)はかかると思うから触るだけならいいわ。逃がさないように気をつけるのよ。そいつらは、それでもかなりの遣い手よ」

 

 一秤金はそう言って、陳澄とともに部屋を出ていった。

 七星は、孫空女とともに、十人の男たちと部屋に取り残された。

 欲情した男たちが、再び七星と孫空女に手を伸ばした。

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