※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

146 / 819
146 通天河(つうてんが)の真ん中で

「さあ、犬ちゃんたち、尻尾をつけましょうね」

 

 愛魚女(あいなめ)が、孫空女の尻たぶに近づいた。

 手には、確かに犬の尻尾を思わせる房毛を持っているが、その尻尾の先端は、黒々と光る男根の張形を思わせる棒状になっている。

 

「んん、んん、んんっ」

 

 孫空女は四つん這いの身体を精一杯に暴れさせて、それから逃れようとする。

 しかし、首輪の霊具は、孫空女を四つん這いの姿勢から逃れることができないように強要しているし、いまは、「伏せ」と命じられているので、上半身を床につけて、お尻を高く上げている状態だ。

 暴れるといっても、お尻を左右に振って、尻尾が近づくのを防いでいるだけだ。

 

 愛魚女の手が孫空女の腰に触れる。

 まだ子供じみている雌妖だが、身体は孫空女よりも大きいし、力は異様に強い。

 片手で孫空女の身体は抑えられる。

 

「んんぐうっ」

 

 また、言葉がしゃべれないように、口枷で口が塞がれているので、悲鳴はただの呻き声でしかない。

 重い衝撃とともに尻尾の先端部分の棒がずぶずぶと孫空女のお尻の芯に深々と埋め込まれていく。

 脳天を貫通の痛みが突き抜ける。

 その直後に痺れるような快感が四肢を走り、ずんと響くように子宮が疼いた。

 

「あらっ? 赤は気持ちがいいのねえー。尻尾を振っているわ」

 

 愛魚女が言った。

 込みあげる怒りと羞恥をぐっとこらえる。

 

 孫空女たちがいるのは、どこか得たいの知れない大きな部屋の中だ。

 一体全体、ここがどこなのか、全くわからない。

 

 軍営から妖魔の生贄として、七星とともに、通天河のほとりのどこかに連れていかれた。

 そこに、怖ろしげな風貌だが、のんびりとした話し方をする霊感大王(れいかんだいおう)という巨漢の魔王と、その娘らしき愛魚女という子供の雌妖が現れて、孫空女と七星の首に得体の知れない首輪をつけた。

 その途端に、なぜか、愛魚女という雌妖の命令に逆らえなくなり、地面に磔にされたのだ。

 

 だが、霊感大王が出現した直後に、宝玄仙たちがやってきた。

 そして、妖魔に襲撃して救出しようと戦ってくれたが、そこが霊感大王の結界の中というのは孫空女にもわかった。

 宝玄仙は、霊感大王を捕えられることができず、霊感大王は『移動術』で、孫空女と七星を捕えたまま逃亡した。

 孫空女と七星は、結局、霊具で自由を奪われたまま、その『移動術』でこの霊感大王の棲み処らしき場所に連れてこられたというわけだ。

 

 そして、この部屋だ。

 どうやら、愛魚女というこの娘の部屋のようだということだけはわかった。

 

 そこで、七星とともに“犬”ということにされてしまった。

 暴れ回ろうと思ったが、どういう仕掛けになっているのか、霊具の首輪のために逆らえないのだ。

 そして、両足は、膝で折り曲げて革の布で包まれて足首が腿に張りついて離れないようにされてしまった。

 膝のところに“犬”としての人工の足をつけられた。

 四つん這いで歩く犬の完成だ。

 手には、指が遣えないように手首から先を布で覆われた。

 

 名前も付けられた。

 孫空女は赤毛だから「赤」、七星は、青毛だから「青」だ。

 

「じゃあ、次は青の番よー」

 

 孫空女のお尻に尻尾をつけ終えた愛魚女が七星に向かう。

 やはり、尻尾を持っている。

 

「んんっ、んんんんっ」

 

 孫空女同様に、箝口具で言葉を封じられている七星が必死に首を横に振り、その腰が狂ったように暴れている。

 しかし、七星も首輪の霊具のために動けないでいる。

 

「……愛魚女、終わりぞなもし。犬を自由にするぞなもし」

 

 すると、どこからやってきたのか、いつの間にか霊感大王が立っている。

 

「終わりってなによ、お父さん?」

 

 愛魚女がきょとんとした顔をしている。

 

「終わりなんだな。この二匹……ふたりは返すんだな。生贄じゃなくて、お父さんの知っている人の仲間だったぞなもし」

 

「ええっ。嫌だよ、お父さん。大事にするなら飼ってもいいって言ったじゃない。あたし、返さないよ」

 

 愛魚女が声をあげた。

 

「駄目ぞなもし」

 

 霊感大王の大きな手が、孫空女から首輪と口枷を外した。

 身体を縛っていた魔力が消失する。

 四つん這いの姿勢から解放された。

 七星も同じように解放されている。

 

「くあっ」

 

 孫空女はほっとして、尻餅をついた。

 だが、おかしな具合に脚を畳んで拘束されているうえに、突き刺された尻尾が邪魔になり、態勢を崩してひっくり返ってしまった。

 

「宝玄仙さん――」

 

 七星が叫んで視線を向けた。

 孫空女は、驚いて視線を七星の視線の方向を見る。

 そこには、宝玄仙と沙那と朱姫が立っている。

 なぜか、あの関保(かんほ)もいる。

 

「ご、ご主人様」

 

 孫空女は叫んだ。

 

「まあ、悪く思わんでくれぞなもし。ふたりは返す、宝玄仙殿――。さあ、愛魚女、来るんだ」

 

 泣き喚く愛魚女を霊感大王が別の部屋に連れていった。

 

「じゃあ、宝玄仙様、出発は明日の朝ということでよろしいですね?」

 

 関保が言った。

 だいたい、なぜ、あの城郭軍の将校の関保がここにいるのか?

 

「ああ、しばらくは、わたしらだけにしてくれるとありがたいね」

 

 だが、問い質す暇もなく、その関保も出ていった。

 部屋には、宝玄仙と沙那と朱姫、そして、孫空女と七星の五人になった。

 

「さてと……。随分と手間を取らせるじゃないか、お前たち」

 

 宝玄仙は、孫空女と七星をじっと睨んだ。

 孫空女はすくみあがった。

 怒っている……。

 

「そ、孫女……、七星、ぶ、無事でよかったわ……」

 

 沙那が微笑んだ。

 しかし、その微笑みは、どことなく引きつっている。

 横の宝玄仙の怒りを沙那が感じているのだ。

 

「四つん這いになりな、お前ら」

 

 宝玄仙が言った。

 ぞっとした。

 ふと、七星を見た。

 七星の顔も引きつっている。

 

 孫空女はやっと解放されたはずの身体を四つん這いに戻す。

 七星も同じ姿勢になっている。

 

「お前たちの名は、赤に青だったね」

 

 宝玄仙が床に落ちていた霊具の首輪を孫空女と七星に嵌め直した。

 

「あっ」

 

 思わず叫んだ。

 

「なにか文句あるのかい、赤」

 

 宝玄仙が言った。

 

「な、なにも……」

 

「そうだろう? 青もおいで。路銀を増やしてくると言って出ていきながら、全部なくしてしまったあげく、いかさままでやろうとして、捕まったんだって? それで、このわたしに、こんな手間をかけさせるなんて、お前たちには、しっかりと罰を与えてやらなきゃね……」

 

 宝玄仙は言った。

 

「……へえ、孫空女。尻に生えている尻尾が小さく震えはじめたじゃないか。知っているかい? これはねえ、お前らが感じると震えるんだそうだよ。面白いじゃないか。お前も、とんだ変態に成長したもんだよ。罰だと言われると、欲情するんだからね」

 

「そ、そんなことあるもんかっ」

 

 孫空女は叫んだ。

 全身が羞恥で真っ赤になるのを感じる。

 

「じゃあ、なんで尻尾が動くんだい?」

 

 宝玄仙の揶揄が返ってくる。

 悔しい……。

 本当に自分は罰を受けるということで欲情しているのだろうか。

 そんなことがあるものか。

 

「孫空女、本当に尻尾が動いているよ……。へへ……」

 

 孫空女の横で四つん這いにさせられている七星が、そう声をかけてせせら笑った。

 むっとした。

 元はと言えば、全部こいつのせいだ。

 

「とりあえず、全身を性感帯に変えてやろうか……」

 

 すると、なにか熱いものが身体にやってきた。

 全身に汗が流れる。

 なにかの道術が身体に加わったのだとわかる。

 

「さて、じゃあ、沙那は赤、朱姫は青を責めな。お前たちふたりは、その姿勢を崩すんじゃないよ。もしも、動いたりしたら、そのときこそ、全身に電撃を浴びせ続けるからね」

 

 宝玄仙が言った。

 

「は、はい……。じゃ、じゃあ、ごめんね、孫女」

 

 沙那が宝玄仙に返事をして、背中から孫空女の乳房を手で包んだ。

 

「七星姉さん……、いえ、青はあたしが相手よ」

 

 七星には朱姫が愛撫の手を出している。

 

「あうっ」

 

 思わず声をあげた。

 沙那が孫空女の胸をぎゅっと揉んだとき、身体に衝撃が走ったのだ。

 胸を揉まれているだけとは信じられない快感が全身に拡がる。あっという間に全身に震えが拡がる。

 

「うくううっ」

 

 孫空女は、身体を仰け反らせた。

 思わず、身体が崩れそうになり、懸命に態勢を整え直す。

 

「あああっ、はあああっ、いいいっ」

 

 孫空女は悶えた。

 触られているわけでもないのに、股間が潮を噴き出したように濡れるのがわかる。

 宝玄仙の道術が身体で暴れ回っている。

 

「んひいいっ」

 

 沙那が両手で孫空女の乳首をこねりまわした。

 眼もくらむような痺れが、孫空女の脳天に駆けあがる。

 まるで肉芽を嬲られているような感じだ。

 さらに、沙那の指が孫空女の勃起した乳首を弾く。

 

「うあああっ、沙那――」

 

 孫空女は叫びながら身体をよじらせた。

 倒れそうになった孫空女を沙那が横抱きに支える。

 

「い、いく……さ、沙那……、も、もう、いきそうっ――」

 

「いっていいわ、孫女。いっていいのよ」

 

 沙那がうっとりとした声を出した。

 

「沙那、そいつは赤だよ。ほかの名で呼ぶんじゃない――」

 

「は、はい」

 

 宝玄仙の叱咤に沙那が慌てて返事をした。

 

「じゃ、じゃあ、赤、達しなさい」

 

「い、いぐうっ」

 

 孫空女は声をあげて絶頂した。

 

「あはあっ」

 

 また、隣では、七星もまた、朱姫に胸を責められてあっという間に果てている。

 

「次は、お実でいかせてやりな。その次は、女陰、最後はお尻だ。それが終わったら、沙那と朱姫が交替してもう一度だよ」

 

 孫空女はぞっとした。

 いったい何度絶頂させられるのだ。

 身体がばらばらになってしまう。

 しかし、逃げることはできない。

 逃げる気も起きようもないが……。

 そして、沙那による責めが始まった。

 

 あっという間に、四つん這いのまま五回いかされる。

 四度目は尻尾を入れたままその尻尾を動かされて一度いき、尻尾を抜いてもう一度いかされたのだ。

 

 そして、朱姫が来た。

 

「孫姉さん、じゃない、赤……。あたしは、沙那姉さんが七星姉さんを一度いかせる間に、二回ずついかせてあげますね。七星姉さんにもそうしたんですよ」

 

 この小さな宝玄仙のような娘は耳元でそうささやくと、胸に指を這わせる。その直後に全身に震えが走る。

 もう何度もいかされている身体が、すぐに快楽の極みに駆け昇る。

 孫空女はこれまで以上に身体をのけ反らせた。

 身体が、がくんがくんと揺れ、ついに腕が折れて、身体が倒れた。

 

「こらっ――。姿勢を崩すんじゃないよ――、赤。青もだよ」

 

 宝玄仙が床を踏んで大きな音をさせる。

 懸命に身体を起こす。

 しかし、一度、倒れてしまうと、もう身体に力が入らない。

 それだけじゃない。

 もう、意識がもうろうとしている。

 

「なに、気を失おうとしているんだよ、赤。まだ、罰は始まったばかりだろうが」

 

 宝玄仙がさらに怒鳴った。

 始まったばかりってなんだ……。

 呆けた頭でそんなことを思ったとき、鼻の孔に指を入れられた。

 

「んがあっ――。ゆ、許して――」

 

 宝玄仙が孫空女の鼻に指を突っ込んだ。

 容赦なく、引き上げる。

 孫空女は、砕けそうな身体を懸命に引き上げて、最初の四つん這いの姿勢にやっと戻る。

 

「犬っころは、そうやって、四つん這いだよ。魚みたいに這いつくばるんじゃない。今度、這いつくばったら、電撃が走るからね」

 

 宝玄仙は怒鳴り、七星に向いた。

 七星の絶叫が聞こえた。

 孫空女は顔をそっちに向ける。

 七星がのたうちまわっている。

 強い電撃を喰らっているのだとわかった。

 沙那がびっくりして、飛びのいている。

 

「四つん這いだよ、青。少し休ませてやったろう」

 

 七星もまた、懸命に身体を起こそうとしている。

 だが、腰に力が入らないのか、どうしても膝が立てられないでいる。

 その七星が絶叫して仰け反った。

 またもや、電撃だ。

 倒れた七星が、床に小便を洩らした。

 

「立つんだよ、青。しゃきっとしな」

 

 宝玄仙が七星の尻に指を突っ込んだ。

 そのまま、持ちあげている。

 

「ひゃあ、ひゃああぁあ、た、立つ。た、立つから――。ひゃああっ」

 

 七星が悲鳴をあげている。

 宝玄仙は、その七星の髪の毛を掴んで、七星が洩らした小便の上に顔を放り投げた。

 

「言葉はいいんだよ、青――。まあ、わかったよ。身体がいうことをきかないんだろう。少し、休ませてやるよ。お前の小便を舌できれいにしな。赤、お前もだ。青の洩らした小便を掃除しな」

 

 宝玄仙が言った。

 朱姫が孫空女の身体を離した。

 孫空女は、七星の顔が使っている七星の小便に飛びつく。

 舌を使って舐めとる。

 躊躇いはない。

 

 ぐずぐずしていると、なにをされるかわからない。

 骨身に染みた宝玄仙の躾の怖さだ。

 逆らおうという気が起きない。

 

「そ、孫空女?」

 

 七星がびっくりして眼を開いている。

 

「な、七星、早く、舐めるんだよ、お前も」

 

「だ、だって……。ひがあああっ」

 

 その七星がまた絶叫した。宝玄仙の電撃だ。

 

「ぐずぐずすんじゃない、青。小便を舐めろと命じられたら、舐めるんだよ」

 

 宝玄仙が怒鳴る。態勢を戻した七星が、慌てて床を舐めだす。

 そうやって、しばらくふたりで床を舐め続けた。

 

「さあ、そろそろ、身体も回復しただろう? 続きだよ。朱姫、沙那、始めな」

 

「は、はい」

「はい」

 

 朱姫と沙那がそれぞれ返事をした。

 孫空女の身体に朱姫が手を伸ばす。

 朱姫は、四つん這いの孫空女の胸にもう一度手を這わせる。

 胸が揉みあげられる。

 

「お、お願いだよ……。も、もう許して……」

 

 あっという間に追い詰められる。

 

 これ以上は気持ちいいよりも拷問だ。

 頭が朦朧として、なにも考えられない。

 道術で感度をあげられている身体を弄ばれすぎて、肌に鳥肌まで立ってきた。 

 そして、いかされる……。

 

「い、いくうっ――。き、気が狂う――」

 

 孫空女は叫んだ。

 身体の神経が切断されたような感じだ。

 頭の中に閃光が何度も炸裂する。

 

「次は、お実ですね。沙那姉さんは、まだ胸だから、沙那姉さんが、追いつくまでに、三回か四回はいけますよ、赤」

 

 朱姫が孫空女の股間に指を当てて、突き勃っている肉芽を挟んで上下に厳しくしごいた。

 

「うわっ――、うあああっ――」

 

 顔を激しく打ち振って、孫空女は快楽の叫びを張りあげた。

 

「そんなに早くいってしまったら、どんどん数が多くなってもちませんよ、赤」

 

 朱姫はそう言いながら、指を肉芽から離さない。

 

「んああっ……ああ……あああっ……。も、もう駄目だよ……朱姫……」

 

 また果てる……。

 肉芽だけではなく、

 身体全体で達する。

 

「まだよ、赤。七星姉さんはやっと、肉芽にはいったところよ」

 

 朱姫が今度は、肉芽の包皮をつるりと剥く。

 本当に容赦なく何度もいかせる気だ。

 露出した実を指で挟み、軽く刺激をしながら揺らす。

 

「そ、それは――」

 

 口から激しい喘ぎ声が出た。

 腰が震えたかと思うと、また呆気なく達する。

 全身が性器になったようだ。

 いや、道術により、そうなっているのだ。

 

 孫空女は、全身に鳥肌を立てて、何度も果て続けた。

 さすがの孫空女も体力の限界だ。

 

 肉芽だけで五、六回はいかされただろう。

 しかし、倒れるたびに、宝玄仙により電撃を浴びさせられる。

 

 女陰に指を入れられて絶頂した回数は十回近かった。

 もう、電撃の合間に身体を嬲られているような感じだ。

 

 いくたびに倒れ、電撃で身体を起こす。

 そして、朱姫にいかされて、また、倒れる。

 そして、電撃……。

 ひたすら、それを繰り返された。

 

 そして、尻の愛撫――。

 

 電撃と絶頂を交互に繰り返しながら、やっと、尻が終わる。

 孫空女は、倒れこそしなかったものの、腕を床に投げ出して、顔を床につける姿勢で懸命に呼吸を整えた。

 

「お前たち、まさか、これで終わりだと思っていないだろうね……?」

 

 頭の上から宝玄仙の冷たい声が振ってきた。

 孫空女は、驚いて顔を上に向けた。

 

「もう、ふた回りだよ。次は、わたしも参加する。もうひとりは、沙那と朱姫の同時責めだ。終われば、交替してもう一巡。さあ、始めるよ。姿勢を崩すと電撃だからね」

 

 孫空女は、総毛だった。

 その孫空女の乳房を宝玄仙の手が掴んだ。

 孫空女は、もうそれだけで、すぐに感極まった。

 いつの間にか涙が出ていた。

 孫空女は、泣きながら咆哮した。

 

 

 *

 

 

「大した河だねえ。もうかなり進んでいるはずなのに、まだ、向こう岸が見えないとはね」

 

 宝玄仙は周りを眺めながら言った。

 『海亀の繭(まゆ)』という倚海龍(いかいりゅう)の作った透明の袋に包まれて、通天河を進んでいる。

 屋根のある船の中にいるようなものだが、周りが透明なので、座っている部分は、水の中にいるような感じだ。

 この中で唯一泳げない沙那は、恐怖で蒼くなって、七星の下袴(かこ)の腰紐をしっかりと握っている。

 七星が、一番泳ぎが得手なので、そうしているようだ。七星は苦笑している。

 

「もう少しで、通天河の中心くらいですよ、宝玄仙殿。そこを過ぎてしばらく進めば、向こう岸も見えてくるでしょう」

 

 通天河を進んでいく『海亀の繭』の先頭で、腕組みをして立っている倚海龍が言った。

 

 霊感大王の洞府で一晩をすごし、その翌日だ。

 昨夜は、少しばかり限界を超えてはしゃぎすぎたかもしれない。

 今朝は、孫空女と七星をまともな状態にするために、かなりの道術を遣わなければならなかったくらいだ。

 

 一方で、朝食の席に招かれて、霊感大王の準備した食事を食べている間も、霊感大王は、知らずに宝玄仙の供を捕えてしまったことに対して、しきりに恐縮していた。

 案外に気持ちの優しい平和主義者の魔王であり、これまでの生贄も、通天河の西に棲む力の強い妖魔を抑えつけておくために、どうしても必要だから、人間を提供させていたようだ。

 霊感大王が生贄をどうかするのではなく、提供された人間の肉は、人肉の鍋にして近傍の魔族をなだめる食事会を催すために使うものらしい。

 生贄という犠牲はあるが、霊力大王はそれを最大限に活用して、魔族が通天河を越えて、人間に迷惑をかけないように懸命に抑えてくれているのだ。

 だから、霊感大王は、人間からすれば、ありがたい存在であり、決して敵ではない。

 霊感大王という通天河の守り神がいなくなれば、東側は魔族の棲み処に成り果てるはずだ――。

 

 そう、倚海龍は主張した。

 

 むしろ、一年にたったふたりの犠牲だけで、ほかの魔族が東側に進出するのを抑えていたのは、霊感大王の力量として評価していいことらしい。

 

 宝玄仙としても釈然としないものはあったが、納得するしかない。

 今年の生贄だった孫空女と七星がいなくなったことで、例年の人肉の食事会を催せなくなったことについても問題はないそうだ。

 城郭軍の将校という別の顔を持っている倚海龍は、死刑になることがわかっている人間の犯罪者を代わりに霊感大王に渡すように手を回したようだ。

 それで、一年間の通天河の平和は保たれることになったらしい。

 

「それにしても、あたいらを捕まえた関保さんが、宝玄仙さんの知り合いだったとはね」

 

 七星だ。

 

「知り合いじゃないよ、七星。金角は、わたしの家来だよ。『主従の誓い』を道術と魔術で結んだからね」

 

 宝玄仙は言った。

 

「まあ、そういう道術契約もなかなかの不便な術だよ。あれのお陰で、博打で負けても暴れることもできないし、逃げることもできなかったんだから。あいつら、野放しでいいのかよ、宝玄仙さん? 一秤金(いっしょうきん)とかいう女博徒なんか、あたいと孫空女を思い切りいたぶったんだよ」

 

「なに言ってんのよ、七星。博打で負けたあんたらが悪いんじゃないの。それを逆恨みするなんて」

 

 沙那が七星の横で言った。

 

「なにが逆恨みなものか、沙那。あいつ、あたいらを椅子に縛りつけて、部下たちに身体を触らせまくったんだよ。おまけに部下をけしかけて、あたいらを襲わせたんだ」

 

「だから、博打なんかやめろって、言ったのよ」

 

 沙那が冷たく言い放った。

 

「そんな意地悪を言うと、こうだよ、沙那」

 

 七星が、座ったまま身体を大きく動かした。

 振動で『海亀の繭』がぐらりと揺れた。

 沙那が悲鳴をあげた。

 

「ゆ、揺らすんじゃないよ、七星」

 

「そうですよ、七星姉さん」

 

 孫空女と朱姫もそれぞれに文句を言っている。

 七星は、笑っているだけだ。

 

「……宝玄仙殿、ところで、お話があります」

 

 不意に、倚海龍がくるりとこちらを向いた。

 その表情に異常な緊張が走っている。

 宝玄仙だけでなく、供の四人も口を開くのをやめて、倚海龍に視線を送っている。

 

「宝玄仙殿、金角様が牛魔王と対立をして、大変に不利な立場にあることはご説明しましたよね」

 

「ああ」

 

 宝玄仙は言った。

 なんとなく、倚海龍の様子がおかしい。

 極めて深刻な話をしようとしているようだ。

 

「それで、真っ直ぐに金角様の勢力地に入るのをやめて、南回りをすることをお勧めしました」

 

「わかっているよ」

 

 通天河を渡ったら、いわゆる妖魔の巣食う「魔域」を避けて、南に方向を変えて旅をしろと言われている。

 そのまま、ずっと進んで、海に出るのだ。そこは連中が「南域」と呼ばれている地域で、妖魔の巣食う魔域とも、宝玄仙たちがこれまで旅をしてきた東域とも違う世界らしい。

 

「私がそれを進めているのは、金角様を護るためです。宝玄仙殿が金角様と合流する前に、牛魔王に捕えられるようなことがあれば、軍をあげて牛魔王に戦いを仕掛けると思います。それがどんなに勝ち目のない戦いであっても……」

 

「それで?」

 

 倚海龍はなにかを言いたいらしい。

 いまのところ、それがなにかわからない。

 金角が牛魔王に攻め込むからなんだというのだ。

 

「すべては、あなたが元凶なのです。金角様は、あなたがいる限り、牛魔王に戦いを挑まねばならない。牛魔王が敵としているのは、金角様ではなく、宝玄仙殿なのに」

 

 倚海龍がすっと退がった。

 『海亀の繭』が拡がって、倚海龍が立っている場所が移動したのだ。

 いまは、五人のいるこちら側と、倚海龍のいる場所がかなり離れた。

 

「あなたがいる限り、金角様は『主従の誓い』に縛られる。しかし、逆に言えば、あなたさえいなくなれば、金角様は、その真言の誓約から解放されることになる」

 

 倚海龍は言った。

 

「ご主人様――」

 

 沙那が叫んだ。

 倚海龍の立つ場所と、こちら側に薄い膜ができたのだ。

 向こう側が倚海龍の結界に包まれた。

 強い結界だ。

 宝玄仙でも簡単には破れそうにない。

 

「金角様には、あなたは、通天河で溺れ死んだと伝えます」

 

 倚海龍は静かに言った。

 声は通じる。

 しかし、通じるのは声だけだ。

 

「ちっ」

 

 宝玄仙は、倚海龍に道術を放った。

 だが、やはり、それは倚海龍の結界に阻まれる。

 

「金角の怒りを買うよ。あいつは、お前を殺すに違いないよ」

 

 宝玄仙は叫んだ。

 

「望むところです。私の命と引き換えに、金角様は死なないで済む。あなたがいなくなれば、金角様は、牛魔王との和解をすることができる……」

 

 『海亀の繭』が消滅した。

 誰の悲鳴かわからない凄まじい叫びが沸き起こった。

 五人の絶叫が通天河の河面に響き渡る。

 宝玄仙たちが包まれていた『海亀の繭』が突然に消失して、五人とも河に投げたされたのだ。

 

「んぶわっ」

 

 宝玄仙は水の中で必死に手足をもがかせた。

 しばらくして、なんとか顔を水面にあげることができた。

 辺りを見回す。

 倚海龍を包んだ『海亀の繭』は、もうずっと遠くになっている。

 

「だ、大丈夫かい、お前ら?」

 

 宝玄仙は頭を水面にあげたまま叫んだ。

 ある程度、道術で身体を浮かせることができる。

 

 しかし、供の四人の姿は見えない。

 まだ、水中に違いない。

 宝玄仙は、懸命に道術を探って、四人を探した。

 

 しかし、その宝玄仙の身体にもの凄い波が襲い掛かってきた。

 それが波ではなく、人間の身体の三倍はあろうかという巨大な口をした化け物のような魚だと気がついたのは、その一瞬後だった。

 

「うわっ」

 

 その口が、宝玄仙を思い切り噛みついてきた。

 宝玄仙は、かろうじて、それを避けた。

 水面で態勢を整え直して、道術を注ぎ込む。

 その魚が暴れ、大波が沸き起こった。

 

 宝玄仙は、今度こそ大波に身体を巻きつけられて水中に引きずり込まれていった。

 上下の感覚がなくなる。

 宝玄仙は、大量の水を飲みこみながら、懸命に供たちの気配を探り続けた。

 

 

 

 

(第23話『水神への生贄』終わり)





【西遊記:第47~49回、霊感大王】

 車遅国(しゃちこく)を西に向かっていた玄奘一行は、通天河(つうてんが)という大河に行く手を阻まれます。
 周辺を探って、なんとか向こう岸に渡る手段を探そうとしていると、河の畔の里を見つけます。
 元会(げんかい)という土地の陳家荘(ちんかそう)という村です。

 玄奘たちは、その里で一番大きな屋敷に行き、一晩の宿を頼みます。
 しかし、その屋敷の主人の陳清(ちんせい)の一人息子である関保(かんほ)という子供の葬式の真っ最中でした。
 しかも、その関保はまだ生きています。

 驚いて事情を訊ねると、この荘の近くには、霊感大王という妖怪が棲みつき、毎年ふたりの子供を差し出さなければ、水害を与えると脅されていて、毎年生贄を捧げているのだという返事でした。
 今年は、陳家の当番であり、陳清から一人息子の関保、陳清の兄の陳澄(ちんちょう)の娘の一秤金(いっしょうきん)を妖魔に差し出すと決まり、いま泣く泣く葬式をしていたというのです。

 孫悟空は、陳清と陳澄のふたりに、霊感大王を倒すと約束します。
 そして、孫悟空と猪八戒が、生贄の子供ふたりに変身し、霊感大王のいる廟に運んでもらいます。
 廟で霊感大王を迎えたふたりは、あっという間に霊感大王を倒して、遠くに追い払います。
 子供を生贄に出さずにすんだ、陳清と陳澄のふたりは大喜びをします。

 一方で、通天河の底に逃げた霊感大王は、愛人で雌妖の愛魚女(あいなめ)姫に仕返しの策を持ちかけられます。
 すなわち、通天河を凍らせて、旅人が自由に渡れるようにして、玄奘が河の真ん中にきたところで、氷を溶かして彼らを河の底に引き摺り込もうというのです。
 霊感大王は、愛魚女姫の提案に乗ります。

 翌日、玄奘たちは通天河が凍り、渡れるようになっているのを発見します。
 孫悟空は危険だと反対しますが、玄奘は他の旅人が氷の上を渡っているのを見て、孫悟空の忠告を無視して河の上を歩き始めます。
 果たして、河の中央で氷がなくなり、供たちは難を逃れますが、玄奘は河の底に連れていかれます。

 孫悟空たちはなんとか、玄奘を助けようとしますが、水中戦ではなかなかうまくいかずに苦戦します。
 孫悟空は、観音菩薩に救援を求め、観音が妖魔たちを回収して、やっと玄奘を救出することに成功します。

 妖魔がいなくなると、通天河の真の主(ぬし)である大亀がやってきて、玄奘一行を通天河の向こう岸に渡してくれます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。