孫空女は、河岸の大きな岩と岩の中に座り込んで、ぼんやりとしていた。
「みんなは大丈夫だったかなあ……」
呟いてみる。
もちろん、返ってくる言葉はない。
孫空女は素裸だ。
最初に考えたのは、とにかく、身体を回復させることだ。
長く通天河の河水を泳ぎ続けた身体は疲労しきっていた。
近くに仲間がいないことを確認したときには、一刻も早く、合流することを望んだが、まずは、休むことが先だと思った。
だから、河辺にある林に入り、薪になりそうな小枝と火熾しに遣う木と木の蔓を拾った。
それらを大きな岩と岩の間の隠れた場所に持ち込み、蔓と枝と石で削って作った木屑を使って火を熾す。
そして、濡れた服を脱いで、やはり枝で作った服掛けに拡げた。そうやって、しばらく、服が乾くのを待つことにした。
服が渇く間、岩と岩に挟まれた場所で沢蟹を見つけた。
数匹を捕まえて食べる。
空腹が癒えると、少し力が戻るのを感じた。
それから、することもないので、裸身を岩にもたれさせる。
濁流に揉まれているために、どこに宝玄仙やほかの仲間がいるのかわからなかったが、明らかに宝玄仙は道術を水中に拡散して、供たちを掴もうとしてくれた。
それで、あの急流でも溺れなくて済んだのだ。
あんなに長い時間水中にいたのに、死なないで済んだのはそのためだ。
だが。かなりの長い時間水にもまれているうちに、ついに、宝玄仙の道術の繋がりが失われた。
そして、眼が覚めたら、ひとりでここの岸に打ち上げられていた。
そろそろ夕方になる。
河の流れから判断すれば、通天河の向こう岸に辿りついたようだ。
あの巨大な河を渡りきったというのが信じられない。
しかし、本当に生きて岸に着くことができたのだ。
それは、宝玄仙が道術で捕まえ続けてくれたお陰だということはわかっている。
だから、宝玄仙は生きている。
最後に孫空女を離してしまったかもしれないが、それは、岸の近くだったに違いない。
だから、この近辺にほかのみんなもいるはずだ。
孫空女はそれを疑っていない。
やがて、どこからか雄叫びが聞こえてきた。
この近くに住む人間だろうか
林を越えたずっと向こうだ。
孫空女は服に手を伸ばす。
まだ、生乾きだが、急いで身に着ける。
この林は、近傍の人間が薪となる枝や木の実などを採集する場所なのかもしれない。
わかり難いが小さな道が林に入り組んでいる。
孫空女は、その間を走り抜けた。
林を突破して、眼の前の樹木がなくなる。
遠くをひとりの巨漢が雄叫びをあげながら走っていた。
人間ではない。
頭に二本の角がある。
遠目だが、孫空女の眼にははっきりと、その巨漢が魔族であることを捉えた。
なにかを肩に担いでいるようだ。
そして、驚愕した。
担がれているのは、朱姫だ。
「こらあっ、待て、お前――。朱姫をどうするつもりだよう――。待てったらああ」
孫空女は、叫び声をあげて、そっちに向かった。
魔族は、歓びの溢れた声を出し続けていたが、やがて、孫空女の声が耳に届いたのか、ぴたりと走りをとめた。
こっちに視線を送っている。
孫空女は駆け続ける。
朱姫がなにかを叫んでいる。
よく見れば、朱姫は裸だ。
話ができるくらいまでやっと近づいた。
「こらあっ――。朱姫になにすんだあ」
孫空女は怒鳴った。
そのまま走り続ける。
やっとふたりの前に着いた。
魔族は、驚いたように眼を見開いてこっちを見ている。
「孫姉さん、無事だったんですね――」
朱姫が叫んだ。
朱姫は、まだ魔族の肩の上だ。
暴れているががっしりと掴まれて動けないでいる。
「朱姫、お前も無事かあ?」
「はい、孫姉さん――。みんなは?」
「わかんないよ。あたしが気がついたときはひとりだったんだ。そっちは?」
「あたしもです、孫姉さん」
朱姫が言った。
向こうも宝玄仙とは一緒ではなかったようだ。
孫空女と同じようにひとりで岸に打ち上げられたに違いない。
だが、これで、ほかのみんなもこの近辺に辿り着いた可能性が高いと思った。
その時、魔族が大きな声をあげた。
声に悦びの響きがある。
「お前、誰だ? 美人だなあ――。名前を教えてくれ――」
魔族が叫んだ。
「あたしは孫空女だよ。お前、朱姫をどこに連れていく気だよ?」
「孫空女かあ。とってもいい名だあっ。好きだあ――。愛してるぞう――」
魔族が跳びあがって叫んだ。
「くっ、う、うるさい。顔の横で叫ぶなあ――。というか、いい加減に離せえ」
肩の上の朱姫が衝撃に顔をしかめた。
「お、お前なんだよ? 朱姫を離しな」
孫空女も怒鳴る。
「わかった、孫空女。お前とも結婚する。お前も俺の妻だっ」
「妻?」
孫空女は、予想もしない魔族の言葉に呆気にとられてしまった。
「お前も朱姫も、十番妻にしてやる。喜べ」
妖魔族は嬉しそうに言った。
「十番妻?」
「そうだ。俺の嫁だ。朱姫と一緒に、今夜は初夜だぞ」
「なっ……。しゅ、朱姫、こいつどうなってんの? あんた、この妖魔の妻になったの?」
「なってないですよ、孫姉さん。こいつに浚われてるの。こいつは、
「
すると独角兕は、にこにこと破顔した。
なんだ、こいつは?
「よくわかんなんけど、朱姫は返してもらうよ。あたしの仲間なんだ、独角兕」
孫空女は独角兕に近づく。
独角兕の肩の上の朱姫を無理矢理に取り返すためだ。
すると、独角兕が身構えて、朱姫を護る動作をした。
伝わってきた闘気に孫空女は、歩み寄るのをやめて、さっと態勢をとる。
「な、なんだよ、やる気かよ、お前?」
孫空女は腰を屈めて、受け身の態勢を取った。
凄まじい闘気だ。独角兕がただ者じゃないことがわかる。
「お前じゃない。俺のことは、あなたとか、ご主人様とか呼ぶべきだぞ、孫空女」
独角兕は言った。
「なんで、あたしがお前のことをあなたとか、ご主人様とか呼ばなきゃ、なんないんだよ?」
「そりゃあ、妻だからだ。お前だったら五番妻にしてやる。朱姫が十番妻で、孫空女、お前は五番妻だ。五番妻以上は、一日に一度、俺と性交できるだけじゃなく、望めば二度できるのだぞ。よかったな」
「なっ」
孫空女は思わず絶句した。
「さっきから、こんな感じで訳のわかんないことばかり言っているんです、孫姉さん。でも、強いよ。気をつけてください」
朱姫が声をあげる。
孫空女は舌打ちした。
ここは、強引に朱姫を取り返すしかないようだ。
「伸びろ――」
孫空女は、耳から『
小針ほどだった『如意棒』が、人間の背丈以上の長さになる。
孫空女の手の中に、『如意棒』が武器となって握られた。
独角兕が、朱姫を担いでいない腕を空中にあげた。
なにかの魔力が動いた。
次の瞬間、その独角兕の手に鎖が握られている。
鎖の先には、金属の首枷がついていた。
「うわっ」
その首枷を朱姫に嵌める。
鎖のもう反対側には、脚の長さ程の鉄杭も繋がっていたが、それを地面に突き刺した。
鉄杭が拳ひとつくらいを残して地面に食い込んだ。
大した力だ。
「朱姫をどうしても返さないつもりかい、独角兕?」
孫空女は『如意棒』を構えた。
「朱姫は、俺の妻にすると決めた。お前もだ」
「ふざけるなよ。朱姫もあたしもお前の妻なんかになるわけないだろう」
「なる。俺がそう決めた」
独角兕も構える。
「勝手に決めるな」
孫空女は独角兕を睨んだ。
無造作に構えているだけだが、独角兕が並々ならぬ力量だということはわかる。
これは強い……。
「とにかく、一発やろう、孫空女。一発やれば、お前も、俺の虜になる」
「じょ、冗談言うなよ」
どうも調子が狂う。
じりっと朱姫のいる方向に寄る。
だが、独角兕は両手を構えたまま動かない。
朱姫は、懸命に鎖を外せないかともがいている。
しかし、外れそうにはないようだ。
「なあ、いいだろう、孫空女。一発やろう」
独角兕がなおも言った。
「ふん、やれるもんなら、やってみな。だけど、あたしが勝ったら、朱姫は返してもらうよ」
孫空女は言った。
すると、独角兕が雄叫びをあげて飛びあがった。
そのあまりにも大きな声にさすがの孫空女もたじろいだ。
「二言はないな。俺が勝ったら、お前と一発やってもいいんだな」
独角兕が動いた。
速い――。
あっという間に距離を詰められた。
孫空女は、独角兕に向かって、『如意棒』を振りおろした。
しかし、『如意棒』は地面に叩きつけられただけだ。
独角兕の姿がない。
横――。
もう、真横にいる。
腕をとられた。
倒される?
身体を捻り、なんとかかわして、独角兕の足を払う。
態勢を崩した独角兕に膝蹴りを噛ませる。
独角兕の脇腹に孫空女の膝が食い込んだ。
その孫空女の腿に独角兕の爪が刺さる。
いや、刺さっていない――。
痛みはない。その代わり、爪が孫空女の
『如意棒』を独角兕の顔に叩きつける。
しかし、独角兕の身体が沈んだ。
『如意棒』が宙を切り、孫空女の胸ががら空きになる。
孫空女は、背に汗を感じた。
やられる――。
しかし、予想した衝撃はない。その代わりに、独角兕の爪が下から孫空女の胸の部分を引き裂く。
孫空女は、後ろに跳んで独角兕から距離を取った。
胸の前が引き裂かれて乳房が半分見えている。
脚は片脚が破れ、布がひらひらと風に揺れて、孫空女の生足が露わだ。
「孫姉さん――」
朱姫が叫んだ。
「いいおっぱいだな。次は、ちょっと触るからな」
独角兕が両手を前に出して、笑いながら揉むような仕草をした。
かっとなった。
殴れるのに殴らず、蹴れるのに蹴らなかった。
孫空女の衣服を引き裂いただけだ。
その余裕が気に入らない。
「ちっ、吠え面かかせてやる」
『如意棒』を槍のように構えて、姿勢を低くする。
「おっぱいを隠すように構えるなよ、孫空女。もっと見せてくれよ。大きなおっぱいだな」
むかっとして、『如意棒』を繰り出す。
眼の前から独角兕が消えた。
「孫姉さん、上です――」
朱姫の声。
視線を上に向ける。
爪を立てた独角兕の巨体が振っている。
慌てて、仰け反った。
独角兕の爪が孫空女の服の肩先から足首まで、一気に引き裂いた。
孫空女の身体から衣類が引き裂かれた。
もう、身に着けているのは、腕の部分と腿から下の部分だけだ。
股間だけは下着を履いていたので、かろうじて残っている。
「もらったあ」
「うわあっ」
その孫空女の胴体を抱えられた。
いや、抱えるというよりは、両方の乳房を掴んで押し倒すような感じだ。
「うほう、いいおっぱいだあ」
孫空女を倒しながら、乳房を揉みあげている。
「こんのおっ」
孫空女は、倒れながらも独角兕の下腹に右の足の裏を当てた。
そのまま突きあげる。
「どわあっ」
独角兕の巨体が、孫空女の身体の上を飛んで、頭の向こうに投げられる。
孫空女は、起きあがって、もう一度、『如意棒』を構えなおした。
息が上がってきた。
独角兕も身体を起こす。
これほど強い相手は、生まれて初めてだ。
しかも、向こうは本気を出していない。魔術さえも遣っていない。
「どうだった、俺の指は? 感じただろう? 俺に抱かれれば、気持ちよくしてやるぞ」
独角兕がまた、手を揉むような仕草をする。
孫空女は、自分の顔が赤くなるのを感じた。
確かに、乳首に触られたとき、ほんの一瞬だが、身体が痺れるような疼きを感じた。
これは危険かもしれない……。
孫空女は一度深く息をして、そして、静かに吐く。
もう一度……。
落ち着いてきた。
眼で見ようとするから、相手の速さに翻弄されるのだ。
肌で感じればいい。
「ほう? お前も本気を出すか?」
独角兕がにやりと笑って、ぐらりと揺れた。
来る――。
孫空女は『如意棒』を突き出そうとして、とまった――。
いや、違う。
思い切り、『如意棒』を身体の左側に叩きつけた。
なにかの金属のようなものにぶつかる。
独角兕の呻き声――。
続けて、突く。
手応えがあった。
独角兕の身体が後ろに転がっていった。
詰め寄ろうとするが、もう起きあがっている。
「強いな。鎧でなければ死んでいたな」
最初に当たったのが独角兕の籠手の部分で、次に当たったのは胴巻きの胸の部分のようだ。
それぞれの具足の部分が割れている。
「ところで、お前、あそこの毛を剃っておるのか? まあ、俺の妻としてはよい心掛けだ。他の妻にもさせるかな」
そう言った独角兕の手には、股間を覆っていた下着の切れ端がある。
はっとして、自分の股間を見ると、いつの間にか下着を剥ぎ取られている。
「わっ、わっ」
慌てて、片手で股間を隠す。
独角兕の身体が、魔力で包まれた。
『治療術』を施しているようだ。
「魔術など卑怯だとは思うが、お前は強いから仕方がない。まあ、お前の攻撃のために術は遣わんから安心しろ……。それにしても、いい身体だな」
「み、見るなあ」
孫空女は、身体を捻って、咄嗟に裸身を隠す。
独角兕が歓声をあげて飛びかかってきた。
急に隙だらけになった。
欲情した雄そのものだ。
孫空女は、無造作に『如意棒』をひと突きした。
まともに当たって、独角兕が吹き飛んでいく。
「おう、しまった。お前があんまり可愛いから、思わずなにも考えずに飛びかかってしまったぞ」
独角兕の身体がまた魔力で包まれた。
身体のどこかを治療しているようだ。
「のぼせんな」
孫空女は叫んだ。
しかし、一撃を喰らわせても、ああやってあっという間に治療されてしまっては、いつまでたっても倒せない。
こうなったら恥ずかしいなどと言ってはいられない。
一撃で致命傷を与えるような強い打撃を与える必要がある。
孫空女は跳んだ。
独角兕が腕を開いて構える。
孫空女を捕まえようとしているのだ。孫空女は『如意棒』を地面につけて、身体を持ちあげた。
空中で回転する。
身体全体が独角兕の頭の上を回りながら跳び越える。
踵の先が独角兕の頭の先を捉えた。
態勢の崩れた独角兕が倒れる。
その仰け反った首に『如意棒』の先を引っかける。
「おっ、おっ、おっ?」
引き倒した。
地響きを帯びて独角兕が倒れる。
もう一度、『如意棒』を地面に差して上に跳ぶ。
空中で独角兕の首に踵を叩きつける態勢を取る。
もらった――。
しかし、空中で孫空女の乳房と両脇が不意に揉みしだかれた。
「ひ、ひゃあっ」
思わず声をあげてしまった。
力が抜けて、すっぽりと手が『如意棒』から離れてしまう。
孫空女は、独角兕の横に倒れ落ちた。
「おう、お前から来てくれるとは感激だあ」
「なにが、お前からだ――」
のしかかろうとする独角兕を転がって避ける。
かろうじて、独角兕から離れたが、しかし、『如意棒』は独角兕の手の中だ。
手を離したときに、奪われてしまったのだ。
「重いな、これ」
独角兕はもう立ちあがって『如意棒』を頭の上でくるくると回している。
「な、なにしたんだよ、独角兕」
孫空女は、胸を両手で隠しながら叫んだ。
さっきのは、なんだったのか。
今度は、孫空女の股間をなにかがつるりと撫ぜた。
「ひゃ、ひゃん」
孫空女は膝を崩してしまった。
しかし、なにかの気配に向かって腕を振った。
その腕先になにかが当たった。
女の悲鳴みたいなものがいきなり響き渡った。
「痛い、痛いよう」
小柄な鳥妖だ。
雌妖のようだ。素肌の透けている薄物を身に着けている少女だ。
それが空中に飛んで頬を押さえている。
「大丈夫、
もう一匹同じような姿の鳥妖が、その横を飛んでいる。
「痛いよう、顔をぶたれた」
金啄女と呼ばれた鳥妖の少女が顔をしかめている。
「孫姉さん、そいつらは、金啄女、 剛啄女《ごうとんじょ》という独角兕の使徒だよ――。だけど、あんたら、姿を消せたのっ?」
朱姫が声を張りあげた。
「消せるよ、朱姫」
「隠れることは得意だよ、朱姫」
「でも、少し喋り方が生意気だね、剛啄女」
「そうだね、朱姫は生意気だね、金啄女。お仕置きがいるよ」
鳥妖はもう頭上高くを舞っている。
その直後、朱姫が股間に手を当てて悲鳴をあげた。
「ど、どうしたのさ、朱姫?」
孫空女は叫んだ。
「ひ、いいっ……ひいっ、きいっ――」
朱姫は、股間を覆う下着だけの姿で、股間を押さえてよがっている。
どうやら、淫靡な仕打ちをされているようだ。
「やめなさせなよ、独角兕」
孫空女は、独角兕に振り向いた。
しかし、その独角兕は、欲情しきった顔を孫空女の裸身に向けている。
鼻息が荒い。
孫空女の裸を凝視しているのだ。
「いい身体だなあ、孫空女」
「み、見んじゃないよ」
じろじろと舐め回すような視線に耐えられずに、思わず、両手で乳房隠し、内腿を擦り合わせて股間を隠した。
その瞬間、なにかの強い力が孫空女に加わった。上半身が見えない力で押し倒される。
地面に背中から倒れる。
気がつくと、腕が身体に固定されている。
動かない。
眼には見えないが、体になにかが絡みついて、腕が動かせない。
「『透明の鎖』だよ、孫空女」
「そうだよ。『透明の鎖』だよ、孫空女」
前後に金啄女と剛啄女が出現した。
見えない鎖のようなもので、上半身を腕ごと縛られたのだ。
歓声をあげながら独角兕が突進してくる。
倒れている孫空女の裸身に跳びかかる。
「こなくそっ」
孫空女は、その顔面に向かって片脚を蹴りあげた。
「おっとうっ」
その孫空女の蹴りを皮一枚で避けた独角兕が、孫空女の蹴りあげた脚の足首を掴んだ。ぐいと横に開く。
「な、なにすんだよおっ――」
孫空女は、もう一方の脚も蹴りあげた。
だが、その脚の足首も掴まれる。
両方の足が、がばりと独角兕の腕によって引き裂かれた。
「いやあっ」
孫空女は、独角兕により逆さに吊りあげられた。
「いい、眺めだぞ、孫空女」
孫空女の股間は、独角兕の顔の前まで引きあげられている。
独角兕の舌がぺろりと孫空女の無防備な股間を舐めあげた。
「くうっ」
孫空女はよがった。
心の底から嫌なのだが、身体が感じてしまう。
もう一度、股間を舐められる。
「んんっ」
孫空女は、身体を振った。どうしても足首を放させることができない。
孫空女の肉豆を舌でこねまわされる。
「ひいっ、ひっ、ひいいっ」
孫空女の身体が痙攣する。
「素晴らしいな。感度もいい。感じやすいのだな。朱姫とともに今日は、抱き潰してやるからな」
「や、やめろおっ」
孫空女は叫んだ。
しかし、生温かい舌がなにか魔力を持った刷毛のように、繰り返し孫空女の女陰の入口や肉芽を舐めあげていくと、次第に力がなくなってしまう。
「ち、畜生――」
孫空女は、腹筋を使って上半身を持ちあげた。
頭を独角兕の鼻に叩きつけた。
独角兕が悲鳴をあげて、孫空女の身体を離す。
孫空女は、地面を転がって、うずくまっている独角兕から離れる。
全身に力を入れるが、見えない鎖のために腕が動かない。
仕方なく腕を使わずに立ちあがる。
孫空女の腕は体側に密着したままだ。
「元気がいいのもいいぞう。お前のような感じの妻はほかにはいない。よし、三番妻まであげてやる」
独角兕が満面の笑みを浮かべて顔をあげた。
孫空女の打撃のために鼻の頭が赤いが、気にしていないようだ。
「ひ、卑怯者。これを外せよ」
孫空女は身体を振って、体側に密着したままの腕を左右に振る。
「卑怯でもなんでもいい。俺は、お前が手に入れられればいいのだ。ますます、お前が好きになった。愛しているぞ、孫空女」
独角兕がいきなり下袴を脱いだ。
股間に真っ赤に充血した怒張がそそり立っている。
「いくぞ、孫空女。これをお前のほとに入れてやるからな」
「うわっ、ち、近づいたら、それを蹴りあげるよ――」
孫空女は叫びながらも、思わず数歩退がる。
独角兕は、にこにこと笑いながら歩いて近づいてくる。
孫空女は、身構えた。
本当に力一杯、独角兕の睾丸を蹴りあげるつもりだ。
独角兕が速度をあげる。
孫空女は、脚を蹴りあげた。
だが、その蹴りは宙を切る。
跳びかかった独角兕に簡単に組み伏せられた。
腕が使えないとはいえ、こんなに簡単に倒されたのは初めてだ。
「ほらっ、愉しい時間の始まりだ」
独角兕の手が孫空女の股間を刺激する。
「んふうっ」
孫空女の身体に衝撃が走る。
股間に得体の知れない疼きが走った。
「あっ、ああっ、いやあっ」
そして、その疼きが股間全体を大量の虫が這いまわるような感触に変化する。
こいつ……。
上手だ……。
まるで、宝玄仙に触られているような錯覚に陥る。
生まれて初めて、男によって翻弄される自分の身体に孫空女は戸惑った。
「もう、真っ赤になっちゃったわよ、剛啄女」
「そうだね。もじもじし始めたよ、金啄女」
また、あの鳥妖がぱっと出現した。
孫空女は、股をばたつかせて独角兕を振りほどこうとした。
しかし、独角兕の手の刺激で脚に力が入らない。
こんなのは初めてだ。痒いような熱いような強烈な疼きだ。それがどんどん強くなる。
「俺の精を受けろ、孫空女。一度、俺の精を受ければ、また欲しくて堪らなくなるぞ」
身体を暴れ回らせて、やっと、独角兕の身体の下から離れた。
独角兕は、一度立ちあがって、笑いながら近づいてくる。
孫空女は、退がる。
しかし、脚がもつれる。
「け、蹴るよ。ほ、本当だよ。蹴りあげるよ」
孫空女は叫んだ。
「見て、見て、剛啄女。こいつのお股、びしょびしょだよ」
「そうだね、金啄女。独角兕様の手管に我慢できるわけないね」
孫空女は恐怖した。
ほんのちょっと触られただけで、身体がおかしくなりかけている。
こんなのは変だ。
「孫空女、精を受けなよ。気持ちいいよ」
「そうだよ、孫空女。精を受けなよ。気持ちいいから」
鳥妖たちが孫空女の横を舞いながら甲高い声で口々に言う。
独角兕が眼の前に来た。
孫空女は、また、脚を独角兕の股間目がけて振りあげる。
だが、その脚が簡単に独角兕の腕に抱えられた。
そのまま、地面に倒される。
「いたぁ」
孫空女は身体を捩じって、うつ伏せになった。
その身体を仰向けに返される。
片脚の腿に独角兕の身体を載せられ、もう片方の腿を抱えられて股を開かせられる。
また、あの手がやってくる。
孫空女は怯えた。
「うふうっ」
独角兕に身体の敏感な部分を触られる。また、身体に痺れのようなものが走る。
なんなんだ、こいつは?
全身の力を使って振りほどこうとするのだが、もう全然力が入らない。
「俺の精を受けろ。それで、お前は俺から離れられなくなる。俺の精には魔力がある。それで俺から心が離れなくなる」
独角兕の怒張が、孫空女の女陰にあてがわれた。
「や、やめろっ、ふざけんなあ」
孫空女は喚いた。
しかし、駄目だ。
もう、逃げられない。
凄い力で身体を押さえつけられている。
いまの状態の孫空女には、それを引き離す力はない。
「いくぞ」
股間に独角兕の怒張が突き挿さる。
「あはあっ、ああっ」
入ってくる。
抉られる。
総毛立つ。
「ああ……うぐうっ……あ、いい……」
嫌だ。
独角兕の怒張が、孫空女の膣の気持ちのいい場所を刺激する。
嫌だ。
嫌だけど、気持ちもいい。
快感があっという間に爆発する。
こんなの嫌だ……。
孫空女は身体を仰け反らせた。
独角兕の怒張が荒々しく孫空女の女陰の敏感なところを前後する。
「俺との媾合いは、中毒になるぞ。どの女もそうなのだ。お前もいつか、俺からは離れられなくなる」
独角兕が笑いながら孫空女の股間に腰を打ちつける。
「お、お願いだよ……。や、やめてよう……。ひいっ――いい……ひいっ――」
込みあがる。
官能のうねりがあがってくる。
子宮の入り口近くの孫空女の弱い場所を狙うように独角兕が怒張でそこを強く、弱く擦る。
感じる……。
もう力が入らない。
大きな快感の波が孫空女を包み込む。
いきたくない……。
こんな奴に、襲われていきたくない――。
だけど、宝玄仙に調教され尽くした身体は官能に弱い。
こんなに刺激に弱い自分の身体が恨めしい。
「い、いくうっ」
孫空女の身体を衝撃が走る。
こんな快楽は嫌なのだが、頭の中が真っ白になる。
全身が硬直する。
「んはあああっ」
孫空女は声をあげて達してしまった。
同時に突き刺さっている独角兕の怒張から熱い体液が迸るのがわかった。それが孫空女の子宮を打つ。
「いき顔が可愛いなあ、孫空女」
独角兕が孫空女の上半身を抱えあげた。
「二発目は、屋敷に戻ってからだ」
独角兕が孫空女から身体を離した。
その顔が優しく微笑んでいる。
孫空女は、地面に身体を倒して激しく息をしながら、そのいまいましい笑顔を睨みつけた。
忌々しいが、精を受けた瞬間、なにかの操り術のようなものが心に走った。
完全には術には嵌まってないが、逃亡の意思が瞬時に萎んでいくのを感じた。
「おう、俺の精の術が効かないのか――。さすがは三番妻だぞ」
「だ、誰が三番だ」
孫空女は声をあげた。
しかし、全身が怠い。
その孫空女の首にがしゃりと首輪がかかって、独角兕の肩に担がれてしまった。