「うっとうしいねえ、次から、次へと――」
宝玄仙は舌打ちしながら、手を左右に振った。
道術で生み出した暴風が、百体ほどの土の兵を一度に元の土に変える。
屋敷の門までは、まだ十間(約百メートル)ほどの距離がある。
「ご主人様、このくらいなら、土人形が復活する前に、屋敷の中庭に飛び込めます」
背後にいる沙那が言った。
「わかっているよ、沙那。だけど、うっかり、お前たちとわたしが分断されても困るからね。ここは、わたしに任せな。どんなに無限に復活しようとも、この宝玄仙が、それこそ、土人形の霊気ごと吹き飛ばしてやるよ。それに、だんだんと復活するのに時間がかかってきたじゃないか」
宝玄仙は、両手を振って暴風を起こす。
半分ほど復活しかけていた土の兵が再び土に返る。
「こっちも、やばくなってきたよ、宝玄仙さん」
沙那とともに、背後を護っている七星が叫んだ。
沙那と七星は、宝玄仙が刻んだ結界を越えて、後ろから入り込もうとする土の兵を剣で叩き壊しているのだ。
前側には攻撃術を仕掛けなければならないので、防御壁はないが、すでに通過してきた後ろには、逆に背中から襲われないように、道術の防御壁を刻んでいる。
それでも、宝玄仙が前に進みながら防御壁を動かしているので、どうしても霊気の隙間が発生する。
すると、それこそ無数に取り巻いている土の兵が、その隙間からどんどんと侵入してくるのだ。
その侵入する土の兵を沙那と七星が剣で壊しているが、その数が限界を超えそうなのだ。
「どいてごらん、沙那、七星」
宝玄仙は、一度、背後の透明の防御壁を取り去った。
数百体の土の兵が、一斉に襲い掛かる。
沙那と七星が地面に這いつくばった。
「
次の瞬間、宝玄仙の道術の風が後方の土人形を消滅させた。
「きりがないから派手にいくよ。お前たち、そのままでいな」
宝玄仙は、吹き飛ばした土人形の復活の源になっている地面からの霊気を吸いあげる。
大地そのものから吸いあげた霊気はあまりにも大きく、宝玄仙の身体には吸収できずに、宝玄仙の頭上で巨大な球体になった。
その球体をそのまま、今度は、前側に飛ばす。
束の間の暴風の狂乱の後、なにもなくなった地面が屋敷まで続いていた。
「今度は、ちょっとばかり、復活には時間がかかるよ。この隙に進むよ、お前たち」
宝玄仙が叫んで走り出すのと同時に、沙那が宝玄仙の横を駆け過ぎていった。
その後ろから宝玄仙も走る。
七星が続く。
屋敷の門の前まで辿り着いた。
ここから先は、
結界だ――。
いくら宝玄仙でも、相手の結界の中では霊気の強さが半減してしまう。
宝玄仙は、結界の直前で三人を包む小さな結界を張った。
後方の大地からは、再び、あの土人形たちが、人のかたちを作り始めている。
しかし、今度はこっちが静止しているので、結界の間隙はできない。
宝玄仙が動かない限り、この宝玄仙の結界を越えてやってくることはない。実際、無数の土兵が張りついている。
だが、進めば宝玄仙の結界は崩れることになるので、また殺到するだろう。
それだけではなく、独角兕の結界に入ることになる。
できればここで決着をつけたい。
「ご主人様――」
沙那が叫んだ。
「わかっている。大将が出てきたね」
眼の前の屋敷の前庭に、霊気のひずみが起こっている。
それとともに、新しい霊気の塊りを感じる。
巨大な霊気を持った存在の気配だ。
そして、二本の角が頭に生えた巨漢の魔族が出現した。
「お前が独角兕かい?」
宝玄仙は言った。
「おう、お前が宝玄仙か。これは美形だ。その後ろの女剣士たちもなかなかだな。三人とも、俺の妻にしてやる」
「寝言をほざいてるんじゃないよ、独角兕」
宝玄仙は、電撃を独角兕に浴びせた。
独角兕が両手を拡げるような仕草をする。
霊気の壁で、宝玄仙の攻撃術を防ぐ態勢をとった。
宝玄仙の攻撃術が独角兕の防御壁に阻まれて中和される。
その防御壁ひとつをとっても、とてつもない魔族であることはわかる。
さすがは、魔王を名乗るだけある。
やはり、向こうの結界の中では、まず勝ち目はない。
なんとか、こっち側に誘き出すしかない。
「その真剣な表情が堪らん。むらむらするぞ。やらせてくれ。頼む、宝玄仙」
独角兕が血走った眼をこっちに向けた。
「なにがむらむらだよ。わたしの供を返しな、独角兕」
「供というのは、朱姫と孫空女のことか?」
「そうだよ。ぐずぐず言うと、屋敷ごと吹き飛ばすよ。お前の屋敷は、道術で産み出したものだろう? だったら、わたしの術でけし飛ばすよ」
宝玄仙は、霊気の塊りを作って、屋敷側に撃った。
爆発音が起こり、屋敷の玄関の一部が半壊する。
「なんだ、いまのは?」
独角兕が振り返る。
「『霊気砲』だよ。わかったろう、独角兕。わたしは本気だよ。この宝玄仙に二言はないよ。供を返さなけりゃあ、屋敷は吹き飛ばす」
宝玄仙は、二発目の『霊気砲』を飛ばした。
独角兕が腕を振る。
『霊気砲』に独角兕の霊気が当たって中和される。『霊気砲』が空中で消滅した。
しかし、その時には、三発目の『霊気砲』が発射されている。
二発目の『霊気砲』が中和された場所の横を通り過ぎて、屋敷の玄関に向かう。
三発目が破裂して、屋敷の玄関が吹き飛んだ。
「こりゃあ、凄いね。あんなの初めて見たよ」
背後にいる七星が驚嘆の声をあげる。
すでに宝玄仙は、次の『霊気砲』を両手にそれぞれ作成している。
独角兕がどんなに霊気を遣って『霊気砲』を中和しようとも、それよりも速く、新しい『霊気砲』を作って飛ばせる。
「やめんか、屋敷が壊れるだろう、宝玄仙」
独角兕が叫んだ。
「そう言っているんだよ。朱姫と孫空女をこっちに連れてきな」
「だが、あいつらの調教はまだ終わってないのだ。昨夜は、ふたりとも抱き潰したが、まだ、抱き足りん。もう、俺の妻だ」
「寝言、言ってんじゃんないよ」
宝玄仙は、たて続けに『霊気砲』を独角兕に向かって放出する。
さすがに、独角兕の防御壁は破れない。
すべてが、防御壁に阻まれて崩壊する。
しかし、十数発の『霊気砲』が連続で壊れる衝撃は凄まじい。
衝撃波が周囲の土を吹き飛ばす。
「宝玄仙、お前を一番妻にする。だから、俺の嫁になれ」
独角兕が叫んだ。
「お前は、それしか言えないのかい」
宝玄仙は、『霊気砲』をまた、屋敷に向かって続けて発射する。
屋敷の壁が『霊気砲』の衝撃で穴が次々に開いていく。
「ご主人様、もう一度、さっきの術を――」
沙那が叫ぶと同時に前に走る。
狙いはわかった。
独角兕の防御壁が防げるのは、術による攻撃だけだ。
物理的な攻撃は関係ない。
『霊気砲』を二発、独角兕に向かわせる。
駆ける沙那を追い抜いて、『霊気砲』が飛ぶ。
独角兕の霊気が防御壁に集中するのがわかる。
『霊気砲』が壊れる。
宝玄仙は『霊気砲』をさらに発射させる。
沙那が防御壁を通り過ぎる。
構えていた剣ごと独角兕にぶつかる。
やったか?
「きゃあぁぁ――」
しかし、沙那が悲鳴をあげた。
態勢を崩している。
沙那の細剣が沙那の手から離れて、宙に浮かんでいる。
また、剣を奪われた沙那が、跳び込んだ勢いのまま、独角兕の懐に飛び込んでしまった。
「お前も美しいな。妻にしてやる」
独角兕の手が沙那の身体を抱き押さえ、沙那の身体を背中側から触りまくっている。
沙那が悲鳴をあげる。
宝玄仙は、沙那の細剣が浮かんでいる場所に向かって、『霊気砲』を発射させた。
しかも、続けざまに十発――。
それこそ、『霊気砲』の壁が飛んでいくような感じだ。
「ひぎゃあああ」
「ふやあぁぁぁ」
二匹の小さな雌妖が姿を現して、その場に落下した。
鳥妖だ。
幼いが強い霊気を帯びている。
この二匹が姿を消したまま、沙那の手から剣を奪ったようだ。
「もう、我慢ならん」
独角兕が沙那を地面に押し倒した。
太い腕で沙那を押さえつけて、服を脱がせようとしている。
沙那は激しく抵抗しているが、独角兕の巨漢の前では、武器を持たない沙那は子供と同じだ。
少しずつ着ているものを脱がされている。
「お、お前、わたしの眼の前で、沙那を犯すつもりかい」
宝玄仙は怒鳴った。
「わかっている。お前は、この娘の後だ。俺の精液で身体を満たしてやるから心配するな」
独角兕は、剝き出しにした沙那の乳房を舐めはじめた。
「いやあぁ――。ご、ご主人様、助けて……。助けてください」
沙那が叫んだ。
どうにも調子が狂う。
この妖魔は、色事しか考えられないのか……。
「独角兕、こっち見な」
宝玄仙はそう言うと、下袍の留め具を外して、足元に落とした。
装具や上着も取り、下着姿になる。
沙那を組み伏せていた独角兕の動きが停止し、こっちを凝視した。
「このわたしよりも、供がいいのかい? このわたしの身体を味わいたくはないのかい?」
宝玄仙は胸当ても外して、乳房を露わにする。
そして、両腕で乳房を強調するように挟むと左右に振って見せた。
こんなことで、独角兕が結界から出て来るとは思わないが、ものは試しだ。
もしかしたら、本物の馬鹿かもしれないのだ。
すると、独角兕は、奇声をあげながら、こっちに走ってきた。
しかも、自分の結界を越えて、こっちにやってくる。
宝玄仙の小さな結界の中に無防備に飛び込んでくる。
独角兕が宝玄仙の裸身を抱こうとした瞬間、独角兕の身体が沈んだ。
「うおっ、な、なんだ?」
宝玄仙の術により、独角兕の足元の地面が、一瞬にして沼地に変わったのだ。
独角兕の身体が道術で作った沼にはまる。
肩まですっぽりと地面に落ちた独角兕の周りの沼を元の土に戻す。
独角兕は、肩から上だけを出したかたちで地面に埋まった。
「ほ、宝玄仙、
独角兕はもがいているが、いくら魔王の怪力でも、この状態になっては抜け出せない。
「なにが、騙しただい。こんなのが騙したうちに入るかい。まさか引っかかるなんて。仕掛けたわたしが驚いたよ」
宝玄仙は、手を伸ばして、独角兕の頭に触れる。
独角兕の身体の中の霊気を放出させる。
すると、地面に倒れていた二匹の雌妖が消滅した。
どうやら、あれは独角兕の使徒だったようだ。『使い魔』の術で出現させていたようだが、独角兕の霊気が失われたので、存在する力を失って消えたのだろう。
「さて、独角兕、言いたいことはあるかい?」
宝玄仙は脱ぎ捨てた衣類を身につけながら、独角兕を見下ろした。
「やらせてくれ、一度でいい」
頭だけを地面に出した独角兕が叫ぶように声をあげる。
「それしか、言えないのかい」
宝玄仙は、独角兕の頭を力一杯踏みつけた。
「い、痛いぞ。そ、そっちの趣味はないが、宝玄仙がその系ならつきあうぞ。俺の望みは最終的にお前を犯すことなのだ」
足の下の独角兕が苦しそうな声をあげる。
気持ちが悪くなり、宝玄仙は独角兕を踏んでいた足をどけた。
「魔族さんよ、この人は、確かにそっち系だよ。他人を嗜虐すると興奮するという変態の性癖さ」
独角兕の顔の前にしゃがみ込んだ七星が言った。
「余計なこと、言うんじゃないよ」
宝玄仙は言い、七星の足元の土を一瞬だけ沼に変えた。
そして、身体を沈めさせて、また土に戻す。
七星の身体もまた、地面に顔だけ出して埋まる。
「な、なんだよ、宝玄仙さん。こりゃあ、酷いよ」
独角兕と同じように顔だけを地面に出した七星が喚いた。
「お前もいい女だな。俺の妻になれ」
七星と向き合うかたちで地面から顔を出している独角兕が言った。
「お前は黙りな」
七星が喚いた。
「朱姫と孫空女を探してくるから、罰としてそれまで埋まってな、七星」
宝玄仙は言った。
「な、なんの罰だよ。こういう理不尽な仕打ちは、供だけにしてくれよ。あたいは、お金であんたに抱かれる約束はしたけど、それ以外は、契約の外だよ」
七星が声をあげる。
その追い詰められたような表情が、宝玄仙の嗜虐心を刺激する。
「調教だよ、七星。二度と生意気な口を利けないようにしてやるよ。この宝玄仙の責めを、理不尽な仕打ちとは心外だね。奴隷に対する躾じゃないか」
「あたいは、奴隷じゃない――」
七星は声をあげた。
「じゃあ、そう思えるようになるまで、たっぷりと調教してやるよ」
宝玄仙は言った。
「お前を抱くには、金を払えばいいのか? いくらだ?」
独角兕だ。
「お前は、黙っていろと、言ってんだろう――」
七星が独角兕に向かって叫んだ。
「じゃあ、ふたりを探してくるから、七星は、これで遊んでいな」
宝玄仙は七星の身体に『影手』を飛ばす。
朱姫に教えた技だから、もちろん、宝玄仙は遣える。
いま、七星の身体には、十本ほどの『影手』が張りついたはずだ。それが一斉に七星の全身を責め始める。
「ひいっ、ひやあああっ」
たちまちに七星が欲情した声をあげ始めた。
独角兕の顔の前の七星の顔が淫情に包まれ、嬌声を洩らし始める。
欲情し始めた女の前で、なにもできない独角兕が、悔しげな表情で喚きはじめた。