宿屋の亭主に銀粒を掴ませると、孫空女の女主人が、あの黒髪の若い女であることを教えてくれた。
さらに銀粒を渡して、宿泊を申し込むと、彼女たちの泊っている部屋の隣を
できたのはそれだけだ。
隣の部屋には結界が張ってあった。
大変に強力な結界で、部屋の中の気配はまったく閉ざされているし、術遣いの呂奇斗には、隣室の結界が誰も寄せつけない防護壁であることも悟った。
その結界の中に、あの孫空女と、そして、孫空女に宿屋の前で理不尽で破廉恥な仕打ちをした黒髪の女がいる……。
そう思うと腹が煮える気持ちになった。
しかし、呂奇斗にできることはない。
そもそも、他人だ。
呂奇斗には関係のないことだ。関係する理由も皆無だ。
宿屋の亭主に、多めの銀粒を渡して、酒と肉を準備してくれと頼んだ。
亭主は、銀の量を見てほくそ笑み、いそいそと酒と肉を運んできてくれた。
呂奇斗は、肉を手で掴み、酒を飲んだ。
あんな素敵な女性はいない。
飲みながらそう思った。
ああ、そうか。
いまこそ、わかった。
どうやら、呂奇斗は、あの孫空女に恋をしたようだ。
情熱的な赤い髪――。
無邪気な笑顔――。
そのすべてが愛おしい。
ぶっきらぼうだが優しげな物言い――。
ひと目会っただけで、会話を交わしたのは一瞬だ。
しかも、今日初めて会った女性だ。
だが、それがなんだというのだ。
男が女に惚れるのには、それだけで十分ではないか。
いま。呂奇斗の頭には、はっきりと孫空女の笑顔が刻まれている。
その眼尻、髪、唇、細い腰、白い顔の肌も……。
声も耳に残っている。
眼を閉じると、昼間交わした会話のすべてを思い起こすことができる。
孫空女のことを思いながら酒を飲んだ。
かなりあったはずなのに、いつの間にか、酒がなくなった。
宿屋の亭主に、さらに銀を渡した。
亭主は、すぐに追加の酒と肉を部屋に運んできた。
呂奇斗は酒を飲み続けた。
肉は喰らい尽くした。
ひたすらに酒を飲んだ。
飲みながら呂奇斗は、脅迫されて理不尽な目に遭わされている孫空女のことを想像した。
それを呂奇斗が救うのだ。
どんな身の上で、どうして、孫空女はあの黒髪の女の言いなりになるしかない立場なのだろう?
例えば、孫空女には借金があり、あの黒髪の女が孫空女の身を買ったのだろうか?
だが、黒髪の女は冷酷な女主人だ。
孫空女の可憐さに嫉妬して、いつもつらい目に遭わせているのだろう。
それを呂奇斗が助けるのだ。
孫空女の借金を肩代わりして、孫空女を見受けする。
そんなことを想像した。
もちろん、そんな金は持っていない。
しかし、空想の中の呂奇斗は、なんでもできる力を持っているのだ。
道術でも、財力でも、戦闘でも思いのままだ。
呂奇斗によって、不幸な境遇から解放された孫空女は、呂奇斗に感謝して、心の底から微笑む。
そんな孫空女を自分は抱きしめる――。
また、酒がなくなった。
呂奇斗は、階下に声をかけて、もう一度、酒を持ってこさせた。
声をかけるとき、隣室の気配を探った。
やはり、結界に護られた隣室からは、なんの気配も感じられなかった。
すぐ、隣なのに……。
壁一枚向こうにあの孫空女がいるのに……。
だが、その壁一枚は、数百里も遠くにも思える。
それから、ひたすらに飲んだ。
飲みながら、また妄想に耽る。
今度の妄想では、あの黒髪の女と孫空女は恋人同士だった。
ふたりは、女同士だが惚れあっていて一緒に旅をしているのだ。
だが、不幸にも黒髪の女は、旅先であるこの城郭で死ぬ。
たまたま、知り合いだった呂奇斗は、黒髪の女の葬式の世話をしてあげて、孫空女に感謝される。
そして、哀しみの中にある孫空女を呂奇斗が慰める。
やがて、孫空女は、男である呂奇斗に魅かれ、呂奇斗は孫空女を妻にする――。
夢想はいくらでもできた。
どんな想像の中でも、呂奇斗は常に頼もしく、孫空女は、当然のように呂奇斗に魅かれ、最後には、孫空女は旅をやめることを決心して、呂奇斗の妻になることを求めた。
飲み始めて数刻――。
二度目の追加の酒もなくなったので、面倒になり、呂奇斗は宿屋を出て通りに行った。
適当な居酒屋を見つけて、酒を注文した。
居酒屋の女主人は、若い呂奇斗を見て、嗜めるような表情をしたが、まとまった銀粒を卓の上に置くと、それ以上は、なにも言わずに、酒と料理を運んできた。
しばらく飲み続けると、やっと酔いを感じてきた。
呂奇斗は、飲みかけの酒瓶を掴むと腰をあげて、宿に帰り、部屋に戻った。
横になった。
睡魔はすぐにやってきた。
孫空女のことを想って眠った。
夢を見た。
孫空女がいた。
彼女は呂奇斗を待っていて、呂奇斗に一目惚れをしたと言ってくれた。
しかし、孫空女は、黒髪の女主人と離れることができないのだ。
呂奇斗と一緒になりたいから、いまの境遇から救い出して欲しいと言った。
孫空女を抱きしめた。
一緒に逃げようと呂奇斗が言うと、孫空女が嬉しそうに頷いた。
そして、眼が覚めた。
まだ、宵の口だ。
うとうとしただけのようだ。
酒瓶にまだ酒が残っていたので、残りをひと息で飲んだ。
また、睡魔が襲ってきた。
しかし、しばらくすると、不意に眠気がなくなった。
孫空女を見たい――。
そう思った。
見るだけでいい。
もう一度、ひと目だけでいい。
ひと目でいい。
酔いはだんだんと深くなっていくようだった。
また、夢を見た。
呂奇斗は、隣の部屋の戸を叩いていた。
返事はなかった。
それでも呂奇斗は、戸を叩き続けた。
「孫空女――。僕だ、呂奇斗だ――」
呂奇斗は叫んだ。
やがて、少しだけ戸が開き、中から孫空女がでてきた。
呂奇斗は、孫空女を抱きしめて、その唇を吸った。
孫空女の唇は、とても柔らかかった。
*
「い、いく――。いってもいいかい、ご主人様――」
孫空女は泣き叫んだ。
「朱姫に訊いてごらん」
寝台に『魔縄』で高後手縛りにされてうつ伏せにした沙那と七星を載せて、ふたりの股間をいじくっている宝玄仙が、笑いながら言った。
「い、いって……いっていいかい、朱姫――」
孫空女は『拘束環』によって、後手に拘束されている裸身をひねって、朱姫に振り返った。
「いくらでもいってください、孫姉さん。でも、あんまり、いっちゃうと、いき癖がついて、大変ですよ。まだ、夜は長いんですよ」
「で、でも――、が、我慢できないんだよ……。い、いくううっ――」
孫空女は、床に顔をつけたまま、お尻だけを高く上げた格好で、最初の絶頂を極めた。
しかし、孫空女の肛門にうねうねと動き続ける張形を挿しこんでいる朱姫は、まだ、孫空女のいたぶりをやめる気配はない。
最初の絶頂をしながらも、まだ激しい張形の魔具の責めを受ける孫空女は、すでに新しい波を感じ始めている。
「ま、また、きた――。ひいいっ……。ま、また、いきそう……。こ、壊れる、朱姫――」
孫空女は悲鳴をあげた。
何度も経験したことのあるこの感触は、孫空女の身体がいき狂いになりかけている兆候だ。
一度いき狂いになると、短い時間で何度も何度も絶頂が繰り返す。
最後には、呼吸のように繰り返す絶頂に、全身の体液という体液を撒き散らしながらのたうち回る羽目になるのだ。
「だから、言ったじゃないですか、孫姉さん。いき癖がつくって……」
朱姫が、孫空女の肛門に挿さっている淫具を一度抜き、そして、すぐに挿した。
また、抜いて、回しながら挿す。
それを繰り返す。
「だ、駄目ええっ――。また、いくうう――」
再び、感極まった孫空女は、床につけた額を床に押しつけて叫んだ。
凄まじい快感が、孫空女の身体を襲い、通り過ぎていく。
「駄目ですよ、孫姉さん。ちゃんと、いく前に許可を受けるんですよ。今夜はそういう調教だと、ご主人様が言ったじゃないですか」
「だ、だって……朱姫――」
「だって、じゃないですよ、孫姉さん――。罰ですよね、ご主人様?」
朱姫が言った。
「もちろんさ、朱姫。どんな、罰を与えるかい?」
宝玄仙が言った。
その宝玄仙の左右には、後手縛りの沙那と七星が、それぞれ嬌声をあげて、腰を振りたてている。
宝玄仙は、朱姫のように淫具は使っていない。
ただ、左右の指をふたりの女陰に挿して、それぞれにいじくっているだけだ。
沙那と七星の様子を見ると、絶頂するほどではない弱い刺激を続けているようだ。
だが、余りにも長い宝玄仙のいたぶりに、ふたりの嬌声は快楽というよりは、苦悶に近いものになってきている。
今夜の「営み」は、孫空女と沙那と七星が「受け」で、宝玄仙と朱姫が「責め」だ。
それで、孫空女と沙那と七星の三人は、全裸にされて後手に拘束された。
朱姫が孫空女を責め、宝玄仙は七星と沙那ということになった。
とりあえずだ――。
飽きるほど責めれば、また、交替して責めるというようなことも朱姫と宝玄仙は話していた。
孫空女に対する責めは、まずは、肛門で受ける快楽地獄だ。
朱姫は、うねうねと動きまわる尻用の張形で、孫空女の肛門を責め始めた。
毎夜の営みでは、受けと責めは逐次に交替して変化するが、責めが宝玄仙と朱姫のふたりになったときには、嗜虐の段階が最高段階になる。
今夜も、いろいろと趣向を企んでいるに違いないが、もちろん、それを孫空女たちが事前に教えられることはない。
ただ、受け入れるだけだ。
この肛門責めで、すでに孫空女は息も絶え絶えだが、朱姫の言い草ではないが、まだ、夜は始まったばかりなのだ。
「どんな罰がいいかなあ……。孫姉さんにあたしの貫頭衣を着てもらって、ふたりで、近くの居酒屋にでも行って、なにか食べ物を買ってくるというのはどうでしょう……。それで、どうですか、ご主人様? もちろん、この動く張形は、お尻の中に埋めたままにしてもらいますけど」
朱姫が、張形の先っぽを孫空女の肛門に入れて、突くように軽く抜き挿ししながら言った。
朱姫の言葉を聞いて、孫空女は総毛だった。
「じょ、冗談じゃないよ、朱姫――。ああっ……あ、あたしは、そんなこと……やらないっ――ひいっ――」
孫空女は声をあげた。
「いいねえ、朱姫……。じゃあ、行っておいで、孫空女」
孫空女の抗議などなにも聞こえないかのように宝玄仙は言った。
その横では、宝玄仙に責められる沙那と七星が泣き声のような嬌声をあげている。
「い、いやだ――。ひいっ――。ぜ、絶対、やだっ――」
孫空女は叫んだ。
「いいじゃないですか、孫姉さん。もちろん、あたしも、一緒ですから」
朱姫が、繰り返して張形をお尻に挿す。
孫空女は、何度も抉られる快感の猛撃に激しい声をあげさせられる。
「そ、それが嫌なんだよ――あああ……くひい――」
また、いく――。
苦しい。
快感が苦しい。
この動きまわる張形はつらい……。
「孫姉さん、あたしの眼を見てください」
朱姫が、張形で孫空女のお尻を責めたまま、身体を動かして、孫空女の顔の横まで、自分の顔を持ってきた。
「や、やだ――。お、お前……ひ、ひいっ――。ま、また、『縛心術』を遣おうと……ああっ――」
「ふふふ――。いいから、あたしの眼を見てください。ほんのちょっとでいいですから……」
朱姫がそう言いながら、孫空女の思考力を削ぐように、朱姫が張形で責める。
孫空女は、必死で固く目をつぶる。
朱姫は、眼で『縛心術』を遣う。
眼さえ見さえしなければ、『縛心術』にはかからない。
しかし、一度、『縛心術』をかけられれば、それで終わりだ。
思考力と知覚力を麻痺させられて、気がついたら、丈の短い朱姫の貫頭衣だけを裸身に身に着けた格好で、外に立たされているということなるだろう。
「そんなに嫌かい、孫空女?」
宝玄仙の声――。
それとともに、七星と沙那の苦悶の嬌声の耳に入ってくる。
「やだっ」
孫悟空は、目をつぶったまま叫んだ。
「わかったよ――。朱姫、一度、孫空女の責めをやめてごらん」
「はい」
朱姫が、やっと孫空女の肛門から張形を抜いた。
孫空女は、少しだけほっとした。
床に顔をつけたまま、眼を開けて視線だけを上に向けて宝玄仙を見る。
宝玄仙の微笑みと、こっちに向けている七星と沙那のお尻が視界に飛び込む。
七星と沙那の腰は激しく振られていて、ふたりの女陰には、宝玄仙の指が深々と挿さっている。
「じゃあ、朱姫と勝負してご覧よ、孫空女。お前が勝てば、買い物は勘弁してやるよ。だけど、負けたら、大人しく、朱姫と外に行っておいで」
「しょ、勝負って……?」
途方もなく嫌な予感がする。
すると、孫空女の眼の前の空中に、砂時計が出現して浮かんだ。
「さっき朱姫がお前に遣った淫具をお尻に挿して、砂時計の砂が落ち切るまで我慢するだけだよ。張形は勝手に振動で動くけど、朱姫は触らない。砂が落ちるまで気をやらずにすめば、外に出掛けるのは勘弁してやる。だけど、途中でいってしまったら、大人しく、朱姫と出掛ける。そして、外で朱姫がなにをしても、黙って我慢するんだ。いいね?」
「……わ、わかった……」
否も応もない。
拒否してもやらせるに違いない。
それに、朱姫に動かされないなら、我慢できないことはない気がする。
砂が落ち切るなんて、ほんの少しの時間だ。
「勝負は勝負だらね、孫空女。負けたら、きっぱりと諦めるんだよ」
「わ、わかった」
仕方なく孫空女は返事をした。
「なら、お互いに、真言の誓約を結びな」
宝玄仙が言った。
「真言の誓約?」
孫空女は声をあげた。
術遣い同士の「真言の誓約」は絶対に逆らえない。
孫空女は、道術遣いではないが、宝玄仙の霊気を吸収し続けているために、道術遣いと同じように真言の誓約が結べる。
そして、誓約を結べば、心が誓約に縛られる。
真言の誓約の内容がどんなことであっても、今度は拒否ができなくなるのだ。
負ければ?孫空女は、朱姫と宝玄仙の言いなりになって、外に行くしかなくなる。
「承知したのなら、真言の誓約だって文句はないだろう、孫空女? ただし、お前だけが罰を受けるんじゃあ勝負にならないからね。朱姫が負けたら、今夜は、攻守交代にしてやろう。孫空女が耐えきったら、今度は、朱姫がその淫具を尻に入れて、外に出掛けるんだ。いいね、朱姫」
朱姫が一瞬だけ顔色を変える。
こいつは、異常にお尻が弱い。
おそらく、張形を挿したまま歩くということはできないだろう。
それこそ、十数歩歩いては気をやり、そして、歩いて気をやり……ということになるに違いない。
「わかりました、それでいいです。じゃあ、刻みます――。砂時計の砂が落ちきるまでに、孫姉さんが達しなければ、あたしは、お尻に淫具を受けて、外に行きます。あたしは勝負のあいだ、孫姉さんにも、淫具にも触りません」
朱姫が言った。
「し、仕方ない……。あ、あたしも、砂時計の砂が落ちきるまでに達したら、命令に従う。刻むよ」
孫空女は言った。真言の誓約は絶対だ。
考えてみれば、ある意味では、孫空女にとっても有利かもしれない。
孫空女が張形の責めに耐えきれさえすれば、逆に、宝玄仙も朱姫も、張形を挿して外に行くなんてことはさせることを孫空女に強制できなくなるのだ。
孫空女は、砂時計が砂を落ちきるまでに達したら、命令に従うと言った。
逆に言えば、達しなければ、命令には従わなくていいということだ。だから、今夜はもう、ふたりは孫空女に命令できない。
真言の誓約には、それだけの力がある。
霊気が身体に流れ、誓約が刻まれるのがわかった。
「じゃあ、また、挿しますよ、孫姉さん」
「う、うん――、ああっ」
歯を食い縛っていたが、思わず声が出てしまう。
だんだんと張形が肛門の奥深くに入ってくる。
圧迫される肉襞から、泣きたくなるような快感が走る。
なんで、こんなにお尻なんかで感じしまう身体になってしまったのだろう――。
「もう、感じているんですか、孫姉さん。そんなので大丈夫なんですか? ふふふ……」
「う、うるさいよ、朱姫……あひっ――」
朱姫が張形をこじ入れるように押し込んだのだ。
「準備ができました、ご主人様――」
朱姫が言った。
「じゃあ、行くよ」
空中に浮かんでいた砂時計がひっくり返った。
同時に肛門に奥深く挿された張形が動きはじめた。
「ああっ……いいっ」
思ったよりも振動が弱い。
しかし、それにも関わらず、さっき達したばかりの孫空女の身体は、そこから快感を搾り取ってしまう。
息苦しささえも感じる強烈な官能が、孫空女の全身を走り抜け、どうしても生々しい声が出てしまう。
「孫姉さん、遠慮なくいってくださいね」
「だ、黙れえっ……くふうっ――」
余裕のありそうな朱姫の声が恨めしい。
絶対に我慢しきって、朱姫に恥ずかしい目に遭わせてやろうと思った。
「でも、我慢するのは、身体によくないんですよ、孫姉さん」
「あっ、あはあ……ぜ、絶対に……、うう……」
孫空女は唇を強く噛んだ。快感が昇ってくる――。
大波がやってくる。それを懸命に支え留める。
あとどのくらい耐えればいいのか――。
孫空女は顔をあげて、空中の砂時計を見た。
そして、愕然とする。
ほとんど砂が落ちていない。
いや、落ちているが、ほんの少しずつだ。こんなに遅い砂時計はありえない。
「ご、ご主人様――、こ、これ?」
孫空女は、思わず言った。
「砂時計がどうかしたかい、孫空女? 宝玄仙特性の半刻計だよ。ぴったり半刻(約三十分)で砂は落ち切るよ。だから、耐えな」
「ず、ずるいよ――。そ、そんなあ、ああっ、あっ」
半刻も耐えられるわけがない。
孫空女は愕然とした。
そして、いま喋っているあいだも、どんどん快感が込みあがる。
「ずるくなんてないですよ、孫姉さん。それに、もう、真言の誓約を交わしましたらね」
朱姫が嬉しそうに言った。
孫空女は歯噛みした。
そうしている間も、肛門深くに突き挿された張形は、道術により、孫空女のお尻の中で暴れ回っている。
尻の粘膜のあちこちを張形で、繰り返し、繰り返し擦りあげられるのはあまりにも心地良く、孫空女はまるでひどい苦痛でも受けているような錯覚も感じていた。
どんなにお尻を暴れさせても、奥深くまで刺さっている淫靡な動きをする張形が打ち込んで来る刺激からは寸分も逃れる術がない。孫空女は、自分が確実に追い込まれているのを感じていた。
せめてもの有利なことは、張形の与える振動が最小限度のことだろう。
さっきみたいに、朱姫が手で動かして、刺激を強めたりしない分、なんとか我慢をすることができている。
しかし、どうやったら、刺激を逃がせるのか――。
孫空女は、一生懸命に考えて、思いつくことはすべてやった。
腰を意識的に動かしてみる。
あるいは、とめてみる。
それとも、首を振る。
やっぱり、歯を食い縛って床に額を押しつける……。
どうやっても駄目だった。
快感は、ゆっくりとだが、確実に孫空女を追い込んでいく。
「そろそろ五分の一です、孫姉さん――。結構、頑張りますね」
朱姫が、孫空女の耳にそう言って、息を吹きかけた。
「ひいっ――。き、汚ないよ、朱姫……ああっ――あっ、ああっ―」
声を出す。
声を出すと、もしかしたら我慢しやすいかもしれない思って、大きく叫ぶと、快感が一気に増幅した。
慌てて口を塞ぐ。
それにしても、まだ、五分の一とは……。
これ以上、耐えられない――。
「お尻が気持ちいいですよね、孫姉さん……。ほら、朱姫の声を聴いてください……。お尻が気持ちいい……お尻が気持ちいい……お尻が気持ちいい……お尻が気持ちいい……お尻が気持ちいい……お尻が気持ちいい……お尻が気持ちいい……お尻が気持ちいい……お尻が気持ちいい……お尻が気持ちいい……」
「や、やめろ――」
孫空女は叫んでいた。
お尻が気持ちいい――。
その言葉が、頭に刻まれる。
お尻の内襞がただれる。
鬼のように淫密な快感を打ち込む張形に、我を忘れそうになる。
「……お尻が気持ちいい……お尻が気持ちいい……お尻が気持ちいい……」
朱姫がまだ繰り返す。
お尻が気持ちいい――。
振り払おうとしても、その言葉が孫空女の頭で繰り返されている。
顔をあげた。
砂時計が半分になっている。
「じゃあ、そろそろ、張形の振動を強くしますね、孫姉さん」
朱姫が言った。
「ああっ……だ、駄目だよ……。ず、するいよ……。ご主人様は、張形には触らないって――」
「なにを慌てているんですか、孫姉さん? あたしは、触っていませんよ。でも、孫姉さんたちと違って、あたしは、触らなくても術で霊具を操作できるんです。生まれつき霊気を帯びた半妖の道術遣いなんですから。だから、真言の誓約に違反はしていませんよ」
「お、お前……」
それ以上、なにも言えない。
それからは、孫空女の必死の頑張りを嘲笑うかのように、朱姫によって、ほんの少しずつ張形の振動が強められていった。
一気にあげるのではなく、少しずつ強くするので、なんとか耐えているのだが、その代わりに、孫空女の口からは、自分でもなんと言っているのかわからない呻き声が漏れ続ける。
頭が錯乱状態になる。
朦朧とする――。
孫空女は、かすむ眼で砂時計を見た。もう、少し――。
もう、全部の砂が落ちる。
「もう少しですね、孫姉さん――。じゃあ、一気に振動を倍にしますね。それと砂を上に戻しますよ」
振動をまた倍?
いや、それよりも、砂を上に?
孫空女は耳を疑った。
だが、砂時計はそのままに、下側の砂だけが、逆流して上にあがっていっている。
「ひ、卑怯――」
「卑怯じゃないですよ。あたしは触ってませんから。条件は砂が落ちきるまでですよね? そもそも、砂時計を途中で返してはならないなんて約束すらないですよ。砂が落ちきらさえしなければいいんです」
抗議する暇はなかった。
振動が一気に強くなる。
「んほおおおっ」
肛門が爆発した。
峻烈な快感が迸る。
「ほおおおお――。いぐううう――」
あっという間に絶頂した。
それでも張形はとまらない。
続けて起こる強烈な快楽の大波に、孫空女は立て続けに何度も何度も達してしまった。
そして、眼の前が真っ白くなるのを感じた。