半べそをかいて戻ってきた孫空女を落ち着かせるために、沙那は、宝玄仙が寝ている部屋の隣の部屋に孫空女を連れていった。
看病をしている沙那たち供のために、この家の女主人が使っていいと言ってくれた部屋だ。
そこで、孫空女を落ち着かせ、びりびりになった服を脱がせて、体液にまみれた身体を洗わせて、新しい衣類を身につけさせる。
宝玄仙が道術が遣えないので、『治療術』のたぐいは遣えない。
宝玄仙の荷物の中から、回復薬を見つけて飲ませる。
それで、孫空女はいくらか落ち着いた。
ついで、なにが起きたのかを詳しく説明させた。
「……だいたいのことはわかったわ。今度は、わたしも行く。朱姫も連れていきましょう。それでなんとかなるわよ。なんとしても
孫空女の話が終わったところで、沙那は言った。
もう一度戻ると言ったときに、孫空女は驚いたように眼を見開いたが、すぐに、しっかりと頷く。
沙那は、朱姫を呼んだ。
朱姫に事情を説明し、三人で
沙那も、剣帯を腰に巻く。
孫空女も気持ちの切り替えができたようだ。
三人で、宝玄仙のいる部屋に戻った。
七星がこっちを見た。
「ご主人様の様子はどうなのさ、七星?」
孫空女は言った。
さっき戻ったときには、孫空女は取り乱していて、宝玄仙の様子を訊ねるような状態ではなかった。
「まるで、ずっと性愛をしているみたいな状態さ、孫空女。しばらくすると、本当に苦しいような感じになるから、その時には、宝玄仙さんの身体をいじくって気をやらせる。そうすると股間から潮を吹き出す。そうしたら、少しだけ楽になるみたいだね。でも、しばらくすると、また、苦しみ出す。その繰り返しだよ」
七星は言った。
「七星、ご主人様をお願いできる?」
沙那は言った。
「それはもちろん構わないけど、今度は三人揃っていくのかい?」
「ええ、ご主人様を助けるには、どうしても落胎泉の水を手に入れないといけないから」
「ものは考えようじゃないか、沙那。この宝玄仙さんは、安住の場所を探していたんだろう? ここが目的地じゃいけないのかい? ここで、子を産んで、みんなで仲良く暮らしたらどうなんだい? 孫空女があんなになった場所に、再び戻るなんて無謀じゃないの?」
七星は言った。
沙那は、小さく首を振る。
「ご主人様が、そうすると言えば、わたしたちは、ここを終の場所として選ぶわ。だけど、さっき意識を少しだけ取り戻したとき、ご主人様は、子を産むなんて冗談じゃないとおっしゃったわ。だったら、わたしたちは、ご主人様の意思を尊重するために戦うわ」
「律義なことだね。こんな気まぐれ女にさあ」
七星は肩をすくめた。
「でも、いいところもあるのよ、ご主人様には」
「いいところって、なんだよ、沙那?」
七星が呆れたような表情を沙那に向ける。
「そりゃあ、いいところは……」
沙那は、そこまで言って言い淀む。
宝玄仙のいいところというのはなんだろう?
性格は、気まぐれで気分屋。冷酷無比とは言わないが、他人と比べて思いやりがあるとは言えないだろう。
性癖は嗜虐趣味と最悪……。
供の扱いは、それこそ、人を人とも思わないような残酷で惨い仕打ちもすることがある。
沙那自身も『服従の首輪』で意思に反して行動させられる恐怖と恥辱を味わい続けられたし、身体の快感を増幅させる淫具を一年以上も嵌めさせられた。
供に対する思いやりが少しでもあれば、できる仕打ちとは思えない。
道術に関しては確かに凄いものがあるが、反面、周到さや用心深さに欠ける。
何度罠に嵌っても、懲りない面もあり、それで今回も不用意に
ここまでの旅だって、宝玄仙の術に助けられたときもあったが、それよりも宝玄仙の失敗の尻拭いのようなかたちで、三人の供が働いたことが圧倒的に多いだろう。
ここで、助かっても、これから先、同じようなことは続くのかもしれない。
七星の言い草ではないが、ここを安住の地にするというのは、悪くない考えのような気もする。
ここは、どうやら、魔族の影響は少ない場所のようだ。
天教の影もなく、ここなら落ち着いた暮らしができるかもしれない。
術遣いが珍しい場所なら、宝玄仙の存在は、歓んで女人国の住民に招き入れられるだろう。
もっとも、宝玄仙はそんなことは望まない気がする。
宝玄仙は、退屈することが嫌いだ。
それは、旅の合間に、同行する供の沙那たちを苛むという悪癖からもわかる。
ここで落ち着いた生活をするということが宝玄仙にできるだろうか。
「とにかく、わたしたちは行くわ」
結局、沙那はそれだけを言った。
「孫空女に、朱姫。あんたらなら言えるのかい? この宝玄仙さんの長所はなんだよ。あたいに教えてくれないか。これでも、このところ、あたいも思うところあってね」
七星は言った。
沙那は、宝玄仙に視線を向けた。
宝玄仙は、眠っているように見えるが、苦しそうに息をしている。
こうやって枕元で話していることについて、聞くことができるとは思えない。
「ご主人様は、道術が凄いです。あたしに、いろいろな術を教えてくれると約束してくれました」
朱姫が言った。
「お前は、孫空女?」
七星が孫空女を見た。
「七星、お前は、ご主人様と旅を続けることについて悩んでいるのかよ?」
孫空女が言った。
「悩みはしないよ、孫空女。あたいにはわかるんだ。あたいは、あんたらとずっと旅を続けることはない。あんたらは、いい奴だし、ずっと旅をしてもいいと考えないことはないけど、あたいには予感があるんだ。あたいがあんたらと一緒に旅をするのはもうすぐ終わる。そんな気がしてね」
「また、第六感かよ」
孫空女がからかうような口調で言った。
七星が、やたらに運命だの、勘だのということを孫空女は、いつも変だと思っているようだ。
孫空女は眼に見えるもの、自分が納得したものしか信じない。
眼に見えない運命論など、孫空女にとっては絵空事だ。
「そうさ、孫空女。あたいの勘は外れない。もうすぐ、あたいには、大きな運命の変化がある。それはあんたらと別れることになるのかもしれない。あたいの運命が変転するとき、いつも、こんな予感があたいにはやってきた。いまも、そうだよ」
「まあ、お前がそう言うなら、そうなんだろう。ところで、さっきの話だけど、あたしがご主人様と一緒にいるのは、そうしたいからさ。ほかにも理由はあるけど、一番はそれだよ。あたしは、ここにいるみんなは、家族だと思っている。家族が一緒にいるのに、理由なんかあるものか」
「お前らしいよ、孫空女。でも、納得できた――。気をつけてな。
「心配ないよ。今度こそ、触手の林の向こうの結界まで辿り着いてやる」
孫空女は言った。
「じゃあ、ご主人様をよろしくね、七星」
沙那は言った。
*
「ああっ……あっ――ああううぅぅぅ――」
宝玄仙が裸身を仰け反らせて、股間から潮を吹き出した。
七星は、宝玄仙の股間をいじくっていた手を離した。
子宮に溜まった蜜と言っていたが、まるで小便のようだ。
どろりとした粘性があるので、尿でないことはわかるのだが、股間から噴き出した液体が股に敷いた布を汚す仕草は、まるで赤ん坊が尿をしたときのように見える。
そして、いまの宝玄仙には、股間の汚れた布を自分で取りかえることはできないし、身体がだるくて、起きあがることもできないようだ。まさに、赤ん坊と同じだ。
「な、七星かい……」
宝玄仙が眼を開いた。
いまのように、子宮の蜜を排出させた直後は、楽になるのか、少しだけ口がきけるようになる。
もっとも、
そして、全身を愛撫されているような痙攣と悶えだけになってしまう。
「そうだよ、宝玄仙さん」
七星は言った。
後始末を終えて、身体を掛布で覆ってやろうと思ったけど、なんとなくやめた。
この宝玄仙には、いつも酷い目に遭わせられている。
こんなときくらい、嫌がらせのひとつでもやっておきたいというものだ。
そのまま、裸身を曝け出しておく。
「ほ、ほかの連中は……?」
宝玄仙は、苦しそうに息をしながら言った。
「あんたの身体を楽にできるという水を汲みに行ったよ。だけど、そこには、如意仙女という守り神が棲んでいて、簡単じゃないらしい。一度は、孫空女が取りに行ったけど、ほうほうの態で戻って来たね。だから、今度は、三人がかりでいくことにしたようだよ」
「そ、そうかい。早く戻って来ないもんかね。それにしても、一回目は失敗したのかい。孫空女もだらしない……」
宝玄仙は、また、眼を閉じる。
七星はなんとなく、宝玄仙の物言いに腹が立ち、宝玄仙の股間に手を伸ばした。
宝玄仙の股間は、さっき敷き直した新しい布が敷かれていて、その上に肩幅に開いた股間が載っている。
照胎泉による発作は、繰り返し訪れる欲情と同じだそうだから、宝玄仙はずっと媚薬のようなもので身体が苛まれている状態なのだろう。
宝玄仙の股間には、いまは、一本の恥毛も生えていない。
あの智淵城で、孫空女に剃られてからそのままなのだ。
真っ赤に充血した女陰の先には、さらに赤く光る女芯が勃起している。
意識を閉じようとしている宝玄仙の股間の尖りを七星は、ぎゅっと握った。
「ひぎゃっ」
宝玄仙が眼を見開いて仰け反った。
びっくりした宝玄仙が、七星に顔を向ける。
「こうなったら、あんたも形無しだね。術が遣えないあんたは、本当に無力のようだね。いつも、あたいに意地悪するじゃないか。そのあたいに、こんなことされて悔しいだろう? いつもの道術で仕返ししなよ」
七星は宝玄仙の大きくなっている肉芽を指で、繰り返し軽く弾いた。
宝玄仙は、苦痛の悲鳴をあげ続ける。
「や、やめておくれ……、な、七星……。じゅ、術は遣えない……。しゅ、集中できないんだ……」
「そんなこと言わないんだよ。あんたは、偉大な道術遣いだ。自分で自分を治せばいいじゃないか。そうすれば、あいつらは、如意仙女なんかと対決しないで済む。ほら、あたいなんかに、こうやって乱暴されて悔しいだろう。怒りな――。怒って、術を出しなよ」
七星は繰り返し、肉芽を叩いた。
宝玄仙は悲鳴をあげて、動かない身体を左右に振っている。
勃起した肉芽を指で弾かれるのは激痛に違いない。
それだけではなく、恥辱でもあるだろう。
だが、人間というのは、その気になれば、怒りで限界を振り絞れる。
乱暴だが、宝玄仙が怒りで、術を発揮するだけの気力を取り戻せば、例の『治療術』で少しは自分を癒せるかもしれない。
それに、そうでないとしても、こうやって無力の宝玄仙をいたぶるのは嫌な気分じゃない。
「あうっ――。ひいっ――。ひぎっ―――、な、七星……。ひぎっ」
「ほら、怒れ、宝玄仙さん。術を出せ。あたいに仕返ししろ。あんたが、自分で癒せれば、あたいは落胎泉はいらないと伝えに、連中を迎えに行く。怒れったらっ」
七星が、何十度目かの打擲を肉芽に加えたとき、宝玄仙は大きな声をあげて、腰を浮きあがらせた。
そして、さっきのようにまた、股間から潮のような液体を噴き出させた。
出したばかりなので、それ程の量はなかったが、打擲だけで達するとは思わなかった七星は驚いてしまった。
「ひ、酷いことするわねえ、七星さん……。痛かったわ」
宝玄仙の眼が開いた。
なにか様子が違う。七星はぎょっとした。
宝玄仙は、しばらく身体を確認するかのように、身体をゆすったり、捩じったりしていたが、やがて、小さく首を振った。
「……駄目ね。道術力だけじゃなくて、筋肉も弛緩しているわ。ところで、あなた……。弱っている宝玄仙は本当に弱いのよ。あんな風にやっても、気力なんて沸き起こることはないし、むしろ、意気地が挫けていくわ。あなたのように強い人間とは違うのよ」
宝玄仙の口が開いて、そう言った。
七星は驚いた。
「あ、あんた、もしかして、
宝玄仙の中に別の人格が眠っているというのは、沙那から教えられて知っていた。
だけど、面と向かうのは初めてだ。
「そうよ。初めまして、七星さん。宝玉よ。いつも、宝玄仙が迷惑かけているわね」
宝玉と名乗った宝玄仙は、にっこりと微笑んだ。
「いま、宝玄仙さんと変わったのかい?」
七星は言った。
「そうよ。可哀そうに宝玄仙は、もう少しで、泣き出すところだったわ。あんまり、無理な仕打ちはしないでよ、七星さん」
「だ、だけど、ああやれば、少しは、気合も入るんじゃないかと思って……」
「なにをしようとしたのかは、わかっているけど、いまの宝玄仙には無理よ。だけど、よく、あんなことやる気になるわね。宝玄仙が怖くはないの?」
「そりゃあ、怖いさ。きっと、仕返しをすると思ったよ。だけど、命までは奪いはしないと思うし、健気に如意仙女と戦いにいった三人を見ていると、ただ、横たわっているだけの宝玄仙さんに少し腹が立ったんだよ。元はといえば、宝玄仙さんの身から出た錆だしね」
「確かにね。わたしも宝玄仙も、少しばかり、不用心すぎるのよね。それに、うっかり者だし……。ところで、さっき宝玄仙に告げた言葉によれば、あの三人は出掛けたのね? 如意仙女という相手のところ?」
「聞いてたのかい? まあそうだね。とんでもなく強い相手のところみたいだ。宝玄仙さんを治すには、その如意仙女の持っている
「そう……。いつだったか、沙那と、宝玄仙にいつもやりこめられている仕返しをさせてあげると約束したことがあるの。宝玄仙に暗示をかけてね、沙那たちに逆らえないようにしてあげたんだけど、うっかりと、暗示がずっと続くようにするのを忘れていたの……」
「そうかい」
なんの話か知らないけど、まあ、騒動の好きな連中だから、いろいろあったのだろう。
「……というよりも、そんなに長く、宝玄仙になにかを忘れさせるなんて、さすがのわたしにも無理なんだけど、そういうことを沙那に説明するの忘れていたのよね。あの娘たち、しばらく、わたしの相手してくれなかったのよう。昨日は、やっと許してもらえたんだけど、寂しかったわあ……」
よく喋るものだと思った。
宝玄仙とはまるで感じが違う。
違う人格というのは、本当なのだろう。
「それで、宝玄仙さんはどうなったんだい、宝玉さん?」
七星は言った。
「ところで、宝玄仙はしばらく眠らせるわ。苦しそうだし。わたしは、この身体の苦しみ担当よ……。ああ……。だんだんと苦しくなってきたわ。これが照胎泉の影響なのね……。苦しい。苦しいわ。無理矢理に欲情させられるってつらいわね……。ああ、苦しい」
そして、宝玉は本当に苦しそうに眼を閉じた。
それで終わりだった。
あとは、苦しそうに息をするだけで、その口から言葉は出なかった。
そう言えば、まだ、裸身を曝け出させたままだったことに気がついて、七星は、慌てて、宝玄仙、あるいは、宝玉の身体に敷布をかけた。
しばらくして、眼を覚ますとしたら、そのときも宝玉なのだろうか?
七星は、横たわる宝玄仙の身体をじっと眺めつづけた。