※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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168 三つの関門

「朱姫、あんたの『縛心術』をかけてくれる。いつも、それで身体の感度をあげたりするけど、逆もできるんでしょう?」

 

 沙那が朱姫に言った。

 

「できます、沙那姉さん」

 

 朱姫は応じた。

 それは簡単だ。

 朱姫なら、『操心術』で雑作なくできる。

 

 孫空女の案内で、白い柱のある公園の奥にある『移動術』の結界のある場所から転送されて、広い洞窟にやってきた。

 洞窟全体が霊気で包まれているのが朱姫にはわかった。

 

 如意仙女(にょいせんじょ)という女人国の守り神が支配する場所のようだが、包んでいる霊気には、魔族の匂いを感じる。

 如意仙女というのは魔族なのだろうか?

 とにかく、朱姫は、結界から侵入を果たした場所で、沙那と孫空女に『縛心術』をかけることにした。

 

「……じゃあ、沙那姉さん、孫姉さん、あたしから眼を離さないでください。あたしが数をかぞえます。すると、おふたりの身体は、だんだんと感覚がなくなり、最後には石みたいに感じなくなります……」

 

 朱姫は、数を十から始めて、数を減らしていく。

 

「……二、一。これで、おふたりの身体は、石と同じです。なにも感じないはずです」

 

 朱姫は、続いて、自分の身体には自己暗示をかける。『縛心術』が自分を支配しているのを感じる。

 

「これで大丈夫なんだよねえ……?」

 

 孫空女は、やや不安気に言った。

 最初の侵入で本当に惨い目に遭ったらしいから、まだ、そのときの恐怖感があるに違いない。

 

「孫姉さん、疑っては駄目ですよ。暗示が解けてしまいます」

 

「う、疑わないよ」

 

 孫空女は慌てるように言った。

 

「朱姫、わたしと孫空女は揃って進むわ。だけど、あなたは……」

 

 沙那が朱姫に視線を向けた。

 

「もちろん、ついていきます」

 

「だけど、多分、わたしたちはあなたのことを護れないわ」

 

「そのときは、置いていってください。命までとられることがないなら、覚悟はできています。でも、ここから先、なにがあるかわからないし、あたしの道術もあったほうがいいですよね、沙那姉さん」

 

「それはそうなんだけど……」

 

「行きましょう」

 

 朱姫はきっぱりと言った。

 

「わかったわ、朱姫。それじゃあ、行くわよ。準備して――。それから、いいかしら、ふたりとも。突き当りに到着するまで、息をしちゃあ駄目よ。孫女がやられたのも、霧状の媚薬を吸ったせいなんだから」

 

「わかりました」

 

 朱姫は言った。孫空女も頷いている。

 沙那が剣を抜き、孫空女が『如意棒』を構えた。

 

「それっ」

 

 沙那と孫空女が飛び出した。

 朱姫は後ろを駆ける。

 地面からなにかでてきた。

 

 ぎょっとした。

 これが孫空女を翻弄した触手なのだ。

 まとわりつく触手を沙那も孫空女も武器で払い除けている。

 確かに、股間に乳房にといやらしく絡みついてくるようだが、『縛心術』で性感を失くしているので、ふたりは完全に触手をうまくあしらっている。

 手首に絡まる触手も、うまく連携して庇いながら、道を拓いている。

 朱姫は、ただ、ふたりの進んだ道を後ろからついていくだけだ。

 

 もう少し――。

 

 周りの触手が一斉に霧状の液体を吐いた。

 それとともに、朱姫は、後ろから足首を絡まれる。

 ふたりとの距離が開いた。

 朱姫は顔をあげた。

 沙那と孫空女の動きがとまっている。

 地面から粘性の汁が吹きあがり、ふたりの足を貼りつけてしまっている。

 動きがとまった沙那と孫空女に一斉に触手が群がる。

 そうしている間にも、朱姫の全身にも触手が絡みつく。

 

「『獣人』――」

 

 朱姫は霊気を集中させる。

 自分の身体に力が漲るのを感じる。

 全身に絡まる触手を引き千切る。

 粘性の汁に足を取られてもがいている沙那と孫空女をそのまま抱え込む。

 

 触手を強引に引き千切る。

 そのまま、突き当りまで突進した。

 『移動術』の影響で身体の中が捻じれる感触がする。

 次の瞬間、急に視界が暗くなった。

 

 別の場所だ――。

 転送されたのだ。

 

「た、助かったわ、朱姫」

 

 ほっとした表情の沙那か朱姫に振り向いた。

 

「本当だよ。もう、駄目かと思った」

 

 孫空女が朱姫の頭に手を伸ばしてぐりぐりと擦った。

 朱姫は微笑みを返した。

 すでに朱姫の『獣人』の効果は失われている。

 朱姫は、元の姿を取り戻していた。

 身体が大きくなったせいで服はぼろぼろだが、担いでいた雑嚢は無事だ。

 なかには、三個ほどの水筒が入っているのだ。

 

「だけど、これで、あたしの道術力は切れてしまいました。『縛心術』くらいなら、遣えると思いますが」

 

「しかたないわ。なんとか三人で協力して進みましょう」

 

 沙那は言った。

 不意にどこからか拍手が起こった。

 朱姫は霊気で気配を探るが、それらしい気配はない。

 おそらく、ここではない場所から、音だけをこの洞窟に飛ばしている。

 

「沙那姉さん、これは……」

 

 朱姫はささやいた。

 

「わかっているわ、朱姫。この部屋には、なに者の存在も感じない。拍手の主はここにはいないわ……」

 

 沙那が剣を構える。

 

「最初の部屋を無事に抜けたようだね。一の部屋を抜けた挑戦者は、十数年ぶりだよ」

 

 声が言った。

 

「また、如意仙女だね」

 

 孫空女が叫んだ。

 

「おや、その声は孫空女じゃないかい。泣きべそかきながら、土下座して謝まらせたのは、さっきのことじゃないか。もう、戻って来たのかい?」

 

「う、うるさい。今度は仲間が一緒なんだ。今度こそ、水を貰うよ」

 

 孫空女が息まいた。

 

「水は、この部屋の奥の結界から、もう一度『移動術』で跳んだ場所にあるよ、孫空女。ところで、お仲間の名はなんだい?」

「沙那よ」

 

「朱姫」

 

 それぞれに言った。

 

「だったら、孫空女に沙那に朱姫、この第二の部屋では、性欲に狂った性獣の相手をしてもらうよ。ただし、ここから先は、持っていけるものは、三人でたったのひとつだ。よく考えて選ぶんだね」

 

「ひとつって、どういうこと?」

 

 沙那が声をあげた。

 しかし、声はそれで終わった。

 もの凄い騒音が突然響く。

 

 朱姫は、眼の前に人の倍ほどの巨大な狒狒(ひひ)が出現したことに気がついた。

 その数は二十匹はいるだろう。

 それが一斉に咆哮したのだ。騒音と思ったのはその声だ。

 発狂したような声をあげる巨大狒狒たちがこちらに襲いかかろうとした。

 しかし、ある一線で見えない壁に阻まれたかのようにとまっている。

 

「なんだい、あれ?」

 

 孫空女は驚いた声をあげた。

 

「性獣って言っていたから、わたしたちを襲いたいんじゃないかしら」

 

 沙那が嘆息した。

 透明の壁のようなものに阻まれる狒狒がなにを求めて、こっちに殺到しているかは、沙那に教えられるまでもなく丸わかりだ。

 狒狒たちの股間には、巨大な男根がそそり勃っている。

 あの血走った眼と狂ったような声は、獣たちにさかりがついていることに間違いない。

 

「ねえ、沙那、ここも、なにかの力で阻まれているよ」

 

 ほんの数歩進んだところで、孫空女が立ちどまって、振り返った。

 狒狒が吠えている場所と、ここまでの距離は、一間(約十メートル)というところだ。

 

「多分、あの狒狒たちのある場所の奥に、また、移動術の結界があると思います。奥からも霊気の塊りを感じますから。それと、眼の前の壁は結界です。それが、あたしたちの行く手を阻んでいます。同じもので、あの巨大狒狒もとめられているのだと思います」

 

 朱姫は言った。

 

「持ち物はひとつって言っていたから、きっと、それ以外のものを持ち出そうとすると、前には進めないということでしょうね」

 

 沙那は剣を地面に置いた。

 そして、前に出ようとして阻まれる。

 

「やっぱりね」

 

 すると、服を脱ぎ始めた。

 

「沙那姉さん?」

 

 急に服を脱ぎだした沙那に、朱姫は声をあげてしまった。

 

「そういうことか」

 

 孫空女も『如意棒』を下に置いて、服に手をかける。

 

「お前も脱ぎな、朱姫。ひとつしか持っていけないということは、服を脱がなきゃならないということのようさ。そして、みんなで、ひとつしか駄目なら、それは水筒に決まっている。あたしらは、ご主人様に水を届けなきゃならないんだから」

 

 孫空女は言った。

 

「そういうことですか」

 

 朱姫も悟った。

 すでに服は千切れてぼろぼろだ。

 朱姫はそれを脱ぐ。

 雑嚢もおろし、中から革の水筒をひとつだけ取り出し、それを手に持った。

 沙那も孫空女も下着まで全部脱ぎ捨てて、素っ裸になった。

 

「さて、じゃあ、わたしたちは、素っ裸であの狂った巨大狒狒の大群を突破しなければならないということね」

 

 沙那が言った。

 

「まあ、あたしに任せな、沙那に朱姫。さっきは、朱姫に助けられたけど、あんな獣くらいなら、あたしひとりで十分さ」

 

 孫空女が前に出た。

 結界の張ってある場所を今度は抵抗なく通り過ぎる。

 続いて、沙那。その後ろを朱姫は進んだ。

 三人が近づくのを見て、狒狒がまた一斉に吠えた。

 

「あたしが相手するよ、お前ら――」

 

 孫空女は叫ぶと、急に駆け出した。

 狒狒を阻んでいる結界の壁に素っ裸で跳び込む。

 孫空女が狒狒の群れに跳び込むと同時に、数匹の狒狒が悲鳴をあげながら地面に転がった。

 だが、孫空女の姿も狒狒に囲まれて見えなくなる。

 一匹、二匹と、孫空女を包む込む集団から弾き飛ばされて、外に転がり出ていく。

 

 どのくらい経っただろうか。

 やがて、全身に汗をかいて上気している孫空女の姿が見えてきた。

 すでに立っている狒狒は、もう数匹だ。

 沙那が戦いの中に跳び込んでいった。

 やがて、すべての狒狒が倒された。

 朱姫は、ふたりのいる場所に駆け寄る。

 もちろん、革の水筒をしっかりと握りしめている。

 

「やっと、最初にやられたときの気が収まったよ」

 

 孫空女が白い歯をこっちに見せた。

 

「さあ、次の部屋よ」

 

 沙那を先頭に呻いている狒狒の横を通り過ぎて、次の結界に身体を投じた。

 

 

 *

 

 

 沙那は呆気にとられた。

 三個目の部屋は洞窟ではなく、白い壁に囲まれた一室だ。

 ただし、窓もなければ、なんの調度品もありはしない。

 部屋は明るい。不思議な光で包まれている。

 

 その部屋の真ん中には、朱姫と同じくらいの少女が、胡坐をかいて座っていた。

 黒い髪が長く、腰の後ろまで届きそうだ。

 そして、全裸だ。

 肌は白く、とてもきれいな身体だ。

 

「あなたが、如意仙女……様ですか?」

 

 沙那は言った。

 

「いかにも、わたしは如意仙女だよ」

 

 見た目には似つかわしくない、威厳のある声が少女の口から出た。さっき第二の部屋で聞いた声と同じだ。彼女が喋っていたのだ。

 

「お前が、あの触手を操っていたのかい?」

 

 孫空女も、触手で痛めつけられた相手が、こんな少女の姿に過ぎなかったと知って、複雑な表情をしている。

 もっとも、少女に見えるのは仮の姿で、数百年もこの女人国の守り神として生きている存在に違いないのだが……。

 

「そうだよ、孫空女。愉しかったねえ」

 

 少女――、すなわち、如意仙女は哄笑した。孫空女が顔をしかめた。

 

「如意仙女様、お願いです。わたしたちの女主人が、照胎泉(しょうたいせん)を飲んでしまって苦しんでいます。水筒ひとつの水をお分けください」

 

 沙那は言った。

 

「水は、この奥だよ」

 

 如意仙女は言った。

 その通り、部屋の奥には、壁の色と同じ真っ白い水甕がある。そこには、満々と水が入っている。

 

「ありがとうございます」

 

 沙那が朱姫に頷いた。

 朱姫は、水を汲むために前に進みかけた。

 

「きゃあ――」

 

 朱姫は悲鳴をあげた。

 数歩進んだところで、朱姫の足が床にめり込んだのだ。

 いまは、朱姫の足首から先が床に埋まっている。

 

「水は奥にあると言っただけよ。あげるとは言っていないね」

 

 如意仙女は言った。

 

「お願いします。いま、この瞬間にもわたしたちの女主人は、苦しんでいるのです。この通りです、落胎泉の水をお分けください」

 

 沙那は、その場に土下座した。

 すると、沙那の姿を見た孫空女も同じようにした。

 朱姫が足首の埋まった窮屈な姿勢で身体を屈める。

 すると足首が解放されたようだ。

 朱姫も姿勢を取り直して、土下座をする。

 

 如意仙女が大きな声をあげて笑った。

 沙那は顔をあげた。

 

「わたしもわからず屋じゃないし、まあ、水なんてどうでもいいことなんだけど、少しは、苦労して渡さないとありがたみも湧かないしね。とにかく、水はあげるよ。条件はあるけどね。実は、昔は、この落胎泉も照胎泉(しょうたいせん)と子母泉(しぼせん)と一緒に、誰でも飲めるように、この女人国のあちこちに一緒においてあったんだ。昔は誰でも簡単に渡していたくらいのものさ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

 沙那は言った。

 

「ああ。だけど、照胎泉を子を成す目的じゃなくて、単純に性愛の道具として使う馬鹿者が後を絶たなくてね。それで、落胎泉は簡単には、飲めないように隠してしまったのだよ。ほら、照胎泉は、子供を産む準備をするだけじゃなく、媚薬効果もあるからねえ」

 

 如意仙女は言った。

 

「では、わけてもらえるんですね?」

 

 沙那は言った。

 

「条件によってはね」

 

「条件とは?」

 

「わたしは、退屈しているんだよ。こうやって、何百年も女人国の守り神でいるのもね」

 

「はあ」

 

 沙那は、とりあえずそれだけを言った。

 少女の姿をした如意仙女がなにを求めようとしているのか、いまひとつわからない。

 

「わたしの退屈を紛らわすことをここでしてくれたら、いくらでも水を分けてあげるよ。それが最後の条件だよ」

 

 如意仙女は笑った。

 

「退屈を紛らわす?」

 

 嫌な言葉だ。

 宝玄仙の退屈を紛らわすために、これまで、どれだけ、この身体を玩具のように扱われたかわからない。

 

「それで、なにをすればいいのさ?」

 

 孫空女が言った。

 

「そうだね。せっかく、三人いるんだ。三人ではしたなく乳繰り合うというのはどうだい? それとも、並んで、自慰をするとか……。まあ、そんなのは平凡かあ……。さて、なにをさせようかねえ。とにかく退屈でねえ……」

 

 如意仙女はそんなことを言いながら欠伸をした。

 沙那は、なんとなく、その物言いや態度に宝玄仙を感じた。

 考えてみれば、触手の林や、わざわざ裸にさせて淫獣をけしかけるなど、宝玄仙にされる悪戯と同じではないか。

 どうして、術を遣える者は、碌でもない者ばかりなのだろう。

 

 いずれにしても、如意仙女の興味と弱点の対象は、これまでの仕掛けで想像できる。

 なにかを創造するとき、誰でも自分を基準に物事を考えようとする。

 如意仙女の準備した仕掛けは、如意仙女自身が弱い部分でもあり、興味を持っていることである可能性が高い。

 それが、意識的なものか、無意識なものであるかを別にしてだ。

 お尻の弱い宝玄仙が、沙那たちのお尻ばかり責めるのと同じだ。

 

「わたしたちが、如意仙女様にご奉仕します。それは、いかがですか? わたしたちは、宝玄仙というご主人様に仕込まれていますから、性の技には長けていますよ」

 

 沙那は言った。

 

「沙那――?」

「沙那姉さん?」

 

 横で孫空女と朱姫が驚いている。

 そんなことを沙那が言うとは思わなかったのだろう。

 如意仙女が爆笑した。

 

「思いっきり愉快な言葉じゃないか。だけど、残念ながら、わたしには、女の悦びというものには縁がなくてね。気をやることができないのさ。何度か試してみたけれど、どうしても、人間の女がいう、達するという状態にならないのさ」

 

「えっ? 一度も?」

 

「本当ですか?」

 

 孫空女と朱姫がそれぞれに言った。

 沙那も少し驚いた。

 女の姿だが、身体は人間とは違うのだろうか。

 

「これまで、何人くらいの人間と試しましたか?」

 

 沙那は言った。

 

「こうやって、水を取りに来た者を相手に、百人くらいかねえ……。人間の女は、股倉や乳房を刺激されたり、媚薬を吸わされたり、一物を女陰に入れられたりしたら、気持ちがいいんだろう? 同じことをやってみたりしたけど、駄目だったね。人間の女のようにはいかなかったよ」

 

「如意仙女様の身体は、人間の女とは違うのですか?」

 

「同じだよ……。いまはね。なにから、なにまでね」

 

 如意仙女はにやりと笑う。

 だが、その笑顔には、なんとなく性に対する渇望があるような気がした。

 水を取りに来た女をいたぶるために、あんな仕掛けを作るくらいなのだ。

 性愛に興味がないわけではないだろう。

 むしろ、興味は強いに違いない。

 

「人間の女と同じなら、気持ちのいいことをされたら、我慢できないだろう?」

 

 孫空女だ。

 

「残念ながら、お前のように淫乱な身体はしていないのさ。そう言えば、お前に十回連続で尻でいかせてやったときのお前の姿は、なかなかよかったよ。同じことをここでしてくれてもいいよ、孫空女。友達ふたりに、尻を責めてもらったらどうだい? 今度は、三十回尻でいったら、水をやるよ」

 

 如意仙女は言った。

 孫空女の顔が引きつった。

 

「沙那姉さん、それでいいじゃないですか。孫姉さんに三十回達してもらって、それで、水を貰って帰りましょうよ」

 

「朱姫――」

 

 孫空女が朱姫を蒼い顔で睨んだ。

 

「黙りなさい、朱姫。如意仙女様、わたしたちにお任せ下されば、如意仙女様に女の昇天という経験を差し上げます。いかがですか?」

 

 沙那は言った。

 如意仙女は笑った。

 

「いいでしょう。やってごらん。やれるものならね」

 

 少女の姿の如意仙女は言った。

 沙那は、孫空女と朱姫とともに、如意仙女のそばまでやってきた。

 こうやって見ても、ただの十七、八の娘にしか見えない。

 

「では、如意仙女様、わたしたちなりの責めをやってみます。でも、わたしたちが奉仕する限りは、わたしたちのやり方でやらせていただきたいのです」

 

 沙那は言った。

 

「まあ、もちろん、そうだろうね。なにをどうすればいいの? 横になればいいのかしら? それとも、うつ伏せ? まずは、股でも開く?」

 

 如意仙女は胡坐にかいた脚を大きく開いて、膝を立てた。

 如意仙女の女陰が露わになる。黒い恥毛に隠れた女の部分が、沙那たちの視界に入った。

 

「それよりも、まずは、愛し合うための準備をしましょう、如意仙女様。如意仙女様は、被虐の悦びはご存知ですか?」

 

「被虐の悦び?」

 

 沙那の言葉に、如意仙女はきょとんとしている。

 

「完全に無力な存在となって、虐げられる悦びです。自分がなにも抵抗できず、なにを命令されても従うしかなく、そして、いたぶられる悦びです。それが、被虐の悦びです」

 

「さあね。わからないよ」

 

 そうだと思った。

 これだけの力を持ち、人間の神とまであがめられるようになった存在だ。

 無力な存在とはほど遠い。

 

「女の悦びというのは、本質的には、支配される悦びです。それが、女の本能なのですよ」

 

「そうなの、沙那?」

 

 孫空女が横から呟いた。

 沙那は、孫空女に顔を向けて睨みつけた。

 それで、孫空女が慌てて、口を閉じる。

 

「そうなのですよ、如意仙女様。女の悦びは、まずは、無力な状態になって、相手に支配される状態になることの向こうにあります。如意仙女様は、女の悦びを味わいたいとおっしゃいました。それならば、如意仙女様は、まずは、無力な存在になって、わたしたちに支配されなければなりません」

 

「……それで?」

 

 如意仙女は、さすがに不審な視線を向けている。

 

「女の悦びです。それを知りたいですか?」

 

「まあね。それがわたしの望みだよ」

 

「だったら、まずは、如意仙女様をわたしたちに支配させてください……。如意仙女様の力が使えなくなるような霊具……、例えば、首輪は作れますか?」

 

「わたしの力を封じる首輪かい?」

 

 如意仙女は言った。

 

「そうです。それを嵌めたら、他人から外してもらわなければ、なんの術も遣えなくって、なにもできない。そんな首輪は作れますか?」

 

「まあ、それも、一興のうちだね。いいだろうよ。お前たちの申し出に乗ってやるよ」

 

 如意仙女は、そう言って、手を空中にかざした。

 次の瞬間、如意仙女の手には、青い首輪が三個と、赤い首輪が一個あった。

 

「まずは、その青い首輪をお前たちが嵌めな」

 

 如意仙女は、青い首輪を放った。

 

「これはなに?」

 

 孫空女が青い首輪を手に取った。

 沙那も朱姫も取る。

 

「お前たちの前で、無力になるのも危険だからね。一応の予防策は取らせてもらうよ。この青い首輪は、わたしにしか外せない。そして、お前たちが、この部屋から出ようとしたり、わたしに対して邪悪な感情を抱けば、その青い首輪が絞まり、お前たちを殺す。そういうことさ。言っておくけど、この如意仙女の身体は、不死身でね。傷つけようとしても、無理だから、覚えておいておくれ」

 

「結構です」

 

 沙那は、青い首輪を自分の首に嵌めた。

 かちゃりと音がして、そこに霊気の縛りを沙那は感じた。

 孫空女と朱姫も青い首輪をそれぞれの首に自ら嵌める。

 

「では、赤い首輪をどうぞ、如意仙女様。これで、如意仙女様は無力になるのですね」

 

「そういうことだね。もちろん、時間制限はあるよ。一刻(約一時間)だね。一刻経てば、わたしは、これを外すことができるようになる。さあ、一刻(約一時間)以内に、お前たちは、わたしをいかせるんだ。やってみな」

 

 如意仙女は、赤い首輪を自分の首に嵌めた。

 

「さあ、被虐の悦びというのが、どれほどのものが、体験させておくれ」

 

 如意仙女は言った。沙那は微笑んだ。

 

「まだですよ、如意仙女様。完全に支配される存在にならなければならないとお教えしたじゃないですか。如意仙女様は、まだ、力を残しています」

 

 沙那は、すっと立ちあがって、少女の姿の如意仙女に飛びつき、彼女の後ろから羽交い絞めした。

 如意仙女の身体が、びくりと震えた。

 

「さあ、朱姫、この如意仙女様に『縛心術』をかけて。いまは無力な存在だから、あなたの術でも抵抗できないはずよ」

 

「な、なにするつもりだい?」

 

 如意仙女が恐怖を感じて、沙那の身体で抵抗し始めた。

 孫空女も手伝って、その如意仙女の顔を無理矢理、朱姫に向ける。

 

「大丈夫ですよ、如意仙女様。あたしたちは、決して邪悪なことを考えているわけじゃないですから」

 

 朱姫がそう言って、如意仙女の眼を覗き込んだ。

 次の瞬間、如意仙女の抵抗がなくなった。

 

「お、お前たち……」

 

 朱姫の『縛心術』が身体に流れ込んだのだろう。

 如意仙女の顔が次第に蒼くなる。

 

「これで、如意仙女様は、一切の抵抗ができません。あたしの言うことに絶対服従です。いいですね」

 

 朱姫が言った。

 如意仙女は頷く。

 朱姫が微笑んだ。

 

「それで、どうするんです、沙那姉さん?」

 

 朱姫が沙那に視線を向けた。

 

「まずは、わたしたち三人の命令に逆らえないように暗示をかけ直して、朱姫」

 

 朱姫が如意仙女に向き直る。三人の言うことに服従しろと、数度、同じ言葉を如意仙女に言う。

 

「……さあ、如意仙女様。あたしの命令を繰り返すんです」

 

「わ、わたしは、お前たちの命令に従う。逆らえない」

 

 如意仙女の口がそう言った。

 

「これで、完全に『縛心術』にかかりました、沙那姉さん」

 

 沙那は頷いた。

 

「では、わたしたちの青い首輪を外しなさい、如意仙女様」

 

 沙那が言うと、沙那、孫空女、朱姫の三人の首輪が同時に外れた。

 

「これで、如意仙女様を護るものはなくなりましたよ。邪悪なことを考えても、如意仙女様を助けるものはありません。水は頂きます。朱姫、水を汲んできて」

 

 朱姫は沙那の指示に従い、部屋の奥の水瓶に向かい、水筒に水を汲んだ。

 今度は、如意仙女は、それを阻止することはできない。

 

「お、お前……。いい加減にしないと、承知しないよ。もしかしたら、最初から、これが目当てだね。女の悦びだの、被虐の悦びだの……。最初から、この状態にするのが狙いだったね」

 

「そんなことはありませんよ、如意仙女様。約束は果たします。それよりも、如意仙女様。如意仙女様は、一刻(約一時間)すれば、自分で赤い首輪を外すことができ、力も回復できるとお思いですよね?」

 

 如意仙女の顔に不審の色が浮かぶ。

 

「でも、如意仙女様は、一刻(約一時間)経っても、自分では首輪は外せません。いま、そういう暗示をかけてしまいます。さあ、朱姫」

 

「や、やめないか。そんなことしたら、承知しないよ」

 

「どう、承知しないのですか、無力なくせに」

 

 朱姫は言った。その手を如意仙女の顔にかざす。

 

「……如意仙女、お前は、二度と自分では、その赤い首輪を外せない。外すことができるのは、わたしたちだけ。そして、わたしたちが外さない限り、お前は、力を取り戻すことができない」

 

 三度同じことを朱姫が言うと、如意仙女の視線が一瞬、虚ろになった。

 また『縛心術』がかかったのだ。

 

「お、お前たち……」

 

 如意仙女が三人を睨んだ。

 しかし、羽交い絞めしている如意仙女の身体は震えている。

 その顔には、恐怖の色がある。

 もしかしたら、この如意仙女は、生まれて初めて、恐怖というものを感じているのかもしれない。

 

「さあ、どうします、沙那姉さん。帰りますか。これで、水は手に入ったし、如意仙女は逆らえないし……」

 

 朱姫が言った。

 

「待って。まさか、このまま、置いていくつもりかい。首輪を……この首輪を外してからにしておくれ」

 

 朱姫の言葉に如意仙女が大きく動揺した。

 

「心配いりませんよ、如意仙女様。わたしは、約束は果たすつもりです。如意仙女様が、わたしたちの責めで昇天されたら首輪は外して差し上げます。昇天できなければ、この洞府から出られないように、暗示をかけ直して、わたしたちは帰りますが」

 

「わ、わたしは、一度も、達したことがないと言ったじゃないか――」

 

 如意仙女は叫んだ。

 

「だったら、ここに放置します。如意仙女様、両手と両足から力を抜いてください。もう、自分では如意仙女様は、身体を動かすことはできません」

 

 沙那が言うと、『縛心術』の影響で、如意仙女の身体が脱力した。

 

「さあ、朱姫は、如意仙女様の股間を責めてあげて。わたしは、胸を責めるわ。孫空女は、ほかの身体のあちこちを」

 

 沙那は言って、如意仙女の胸に口を寄せた。

 

「やっぱり、そういうことになるか」

 

 孫空女は言った。

 

「じゃあ、朱姫の舌技を味わってください、如意仙女様」

 

 ふたりもうずくまり、如意仙女の股に舌を伸ばす。

 

「ひいっ」

 

 如意仙女が反応した。

 達したことがないと言っていた如意仙女が、ほんの小さな沙那たちの舌の刺激で声をあげた。

 如意仙女の顔は蒼白だ。

 恐怖が如意仙女を覆っている。

 生まれて初めて、他人に支配されるという危険な状態に、如意仙女は動転しているのだ。

 自由の利かない身体を懸命にもがこうとしているが、『縛心術』で身体を自分では動かせないと暗示をかけているのでそれができないでいる。

 

「感じるんですよ、如意仙女様。感じなければ、ここに力を失った状態で、閉じ込められるんですから」

 

 沙那は如意仙女の胸から舌を離して言った。

 そして、すぐに責めを続ける。

 

「ゆ、許して、感じることができないんだ、わたしは……。ゆ、許して……」

 

 如意仙女は呟くように言った。

 しかし、その言葉には、嬌声が混じり始めている。

 女陰を責めている朱姫が沙那に視線を向けて微笑んだ。

 朱姫は、如意仙女の股間を視線で示す。

 

 その股間は濡れていた。

 ねっとりとした粘りのありそうな愛液で、如意仙女の股間は濡れている。

 言葉とは裏腹に、本当に被虐の悦びに如意仙女は興奮しているのだ。

 如意仙女が知らなかった性の封印を、力が封じられたという状態が解いたようだ。

 

「あはあっ」

 

 如意仙女が大きな声をあげた。

 朱姫が、如意仙女の女陰に指を入れている。

 百人もの女と行為を試して、一度も達したことがないと言っていた如意仙女だ。

 それが感じるものかどうかわからない。

 だけど、明らかに如意仙女が感じ始めている。

 

「なんだろう、これ? 怖い――。怖い……」

 

 如意仙女が震えはじめた。

 舌技の巧みな朱姫が女陰を責め、沙那と孫空女は、如意仙女に構えさせないように、身体のあちこちを刺激している。

 

「怖い……怖い……怖い……」

 

 如意仙女の声が呻き声のようになった。

 如意仙女が感じている。間違いない。

 朱姫の責める如意仙女の股間は、はっきりとした蜜液の音がしている。

 

「ふ、ふわああっ」

 

 突然、如意仙女の大声が弾けるように迸った。

 眼を見開いて、身体を反らせる。

 

 絶頂した?

 

 達したことがないと言った如意仙女が達した。

 沙那の中に達成感のようなものが沸き起こる。

 沙那は、呆然としている如意仙女をうつ伏せにして、その股の下に顔を入れた。

 朱姫は、その上から如意仙女のお尻を舌で責める。

 孫空女が、如意仙女の胸を指で攻撃する。

 

「いひいいいっ」

 

 如意仙女は、その責めで二度も連続でいった。

 

「や、優しくして……」

 

 如意仙女が叫ぶように言った。

 

「優しくしていますよ、如意仙女様」

 

 沙那は言った。

 

「そうだよ。優しくしているよ」

 

「気持ちがいいんですよね、如意仙女様。朱姫にもわかりますよ」

 

 ふたりもわかっている。

 包み込み、抱きしめるような責め――。

 如意仙女の身体を持ちあげた。三人で取り囲んで抱きしめる。

 

「駄目ええっ――。あああっ――ああっ――」

 

 沙那は、朱姫が責めている如意仙女の肉芽に手を伸ばした。

 そして、その刺激を強める。

 朱姫は、その代わり女陰に再び指を入れて責める。

 ふたつの乳首は、孫空女が繰り返し、口の中で転がしている。

 

「これは……これが……」

 

 如意仙女が叫ぶ。

 

「これが女の悦び――ああっ――ひゃああぁぁぁ――いくうっ――」

 

 次の瞬間、如意仙女は全身を震わせて悶絶した。

 そして、如意仙女はぐったりと横たわってしまった。

 

「朱姫、如意仙女様の『縛心術』を解いてあげて」

 

 沙那は、快感に酔ってしまっている如意仙女の横にしゃがんだまま言った。

 

「いいんですか、沙那姉さん?」

 

 朱姫が視線を向ける。

 

「いいのよ」

 

 朱姫が『縛心術』を解いた。

 沙那は、如意仙女の首に手を伸ばして赤い首輪を外す。

 すると、如意仙女の虚ろな眼が開いた。

 

「お前たち……」

 

 如意仙女の口が開く。

 沙那は、如意仙女に視線を向けた。

 

「……ありがとう」

 

 如意仙女は言った。

 そして、優しげな笑みを浮かべる。

 

 突然、辺りが真っ白い光に包まれた。

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