「奴隷か、だって?」
宝玄仙が孫空女の質問に笑って応じた。
「……そんな上等なもんじゃないよ。お前たちは、わたしの遊ぶ玩具だよ。護衛兼暇潰しの人形さ。それよりも、さっさと寝台にあがりな」
宝玄仙が、ぴしゃりと沙那と孫空女の尻たぶを続けて叩いた。
沙那は、痛さに顔をしかめるとともに、縄掛けをされた裸身を宿屋の寝台に向かわせる。
宿屋としては格式の高い方ではない。
帝国内の城郭としては中規模の城郭なので、もっと城郭の中心部に向かえば、貴賓が泊まるような立派な宿もあるのだが、いつものとおり、宝玄仙は一般の旅人が泊まるような普通の宿を好み、貴族街には近づこうとはしなかったので、今夜はここにいる。
宝玄仙に言わせれば、とにかく目立つのが嫌いらしく、城郭内にある神殿にも、八仙たる宝玄仙の来訪を知らせるのは許されていない。
それはともかく、三人で相談して、宝玄仙が山越えで使う馬を手に入れることになり、城郭に入る前に、孫空女は一時的にひとり離れて、少し遅れて、この宿屋にやってきた。
その買い取ってきた馬も、宿屋の馬小屋に繋ぎ、その世話も終わったので、やっと、いつものように「調教」の夜が始まろうとしていた。
いま、沙那と孫空女は、ふたりして全裸になり、揃って縄で後手縛りに括られている。
「ご主人様の霊具作りに協力させてもらえるなんて初めてだね。ただの調教じゃなくて、こういうことなら頑張り甲斐があるよ」
寝台に先にあがった孫空女が嬉しそうな表情で言った。
沙那も、嘆息しながら寝台にあがった。
今夜、宝玄仙に言われているのは、霊具作りの手伝いだ。
手伝いといっても、道士でもない沙那たちに、道術が遣えるわけでもなく、宝玄仙は沙那と孫空女が愛し合うことで発散する「淫気」を「霊気」として取り込み、それで霊具を作るのだという。
しかし、沙那は、淫気が霊気に通じるとか、そもそも、人が快感によがったときに生み出すものが、道術の源である霊気と似ているとかいうのは、宝玄仙特有の出鱈目だと思っている。
だが、孫空女は大真面目に信じている様子だ。
宝玄仙が淫らな性愛こそが、霊具作りの秘法だと説明するのを、感心したように聞いていた。
「じゃあ、始めるよ。お前たちの頑張りが、そのまま、いい霊具作りに繋がるからね」
「わかっている。とにかく、あたしは頑張るよ。沙那も頑張ろう」
孫空女が元気に言った。
一方で、沙那は若干うんざりした気持ちで頷く。
沙那と孫空女は、後手縛りのまま寝台の上で向かい合った。
また、寝台の横の台には一個の鞍が置かれている。
これが今夜の対象だ。
孫空女が贖ってきた白馬は、沙那の眼か見てもなかなかの名馬であり、しかも、立派な馬具一式も一緒に持って来た。
孫空女によれば、馬商人が馬とともに、くれたということだったが、それにしては質のいい馬具だった。台の上の鞍など、金を出しても手に入れるのが難しいのではないかと思うような、随分と手の込んだ細工の品物だ。
とにかく、宝玄仙は馬よりも馬具を喜び、さっそく、鞍に霊気を込めて、馬を操るための霊具にするのだと言っている。
馬に乗ったことのない者でも、馬を操れる霊具を作るのたそうだ。
宝玄仙は、帝都では、霊具作りの才女とも呼ばれるくらいの霊具作りの名人だったらしい。
だが、いい霊具を作るためには、大量の霊気を込めることが重要なのだそうだ。
例えば、霊具には、道術を操れる道士でなければ扱えないものと、霊気のない一般人でも扱える物の二種類あるが、当然、誰でも扱える物は高価であり、数も少ない。また、効果も限定的で、せいぜい焚き火に火をつけるために炎を出すとか、小さなことができるくらいのものだ。
しかし、宝玄仙の作る霊具は違う。
確かに、沙那にでも操作できる霊具でありながら、驚くほどのことができたりするのだ。
旅のために、宝玄仙が沙那たちに渡してくれる霊具は、沙那がこれまでに知っているものとは格が違うというほかなく、霊具作りについて「だけ」は、沙那は宝玄仙を尊敬している。
宝玄仙に言わせれば、秘訣は大量の霊気を込めることであり、あれほどの霊具作りは、優れた道術遣いである宝玄仙だからこそできることなのだそうだ。
ただ、霊気を込めるのは、大変に疲れることであり、宝玄仙はそれを沙那と孫空女に手伝えという。
宝玄仙の話では、道術の力の源の「霊気」と、男女が愛し合うときに発する「淫気」は同質であり、沙那と孫空女が淫らに抱き合えば抱き合うほど、簡単に霊気が込められるという。
宝玄仙の道術講座は、前半についてはもっともらしかったが、淫気などというものが霊気と同じであるという話辺りから、眉唾になってきて、沙那は信じることができない。
まあ、そうはいっても、真実がどうあれ、やらされることには変わりないのだから、孫空女のように、無邪気に信じてしまえばいいのかもしれないが……。
「じゃあ、最初は沙那からだ。股を開きな」
宝玄仙が寄ってきた。
「ひっ」
沙那は大人しく両膝を立てて脚を開いたが、宝玄仙が手に持っているものを改めて見て、思わず声を出してしまった。
宝玄仙は、両端が勃起した男根のかたちになっている一本の張形を手にしている。
「双頭の張形」というものらしい。
これを沙那の女陰に挿入して、孫空女の尻を犯せと言われているのだ。
沙那と孫空女の快感は、快楽の共鳴により繋がっている。
だから、沙那が双頭の張形を膣に挿入して、孫空女のお尻を犯せば、沙那も孫空女も、お互いの快感を受け合って、ふたりでお互いに、前後の穴を犯されるのと同じことになる。
宝玄仙は、これを思いつき、「共鳴の二穴責め」だと称して喜んでいる。
「じゃあ、舐めな、孫空女。沙那の股が張形を受け入れることができるくらいまで濡らすんだ」
宝玄仙が孫空女の首を乱暴に寝台に倒して、お尻をぴしゃりと叩いた。
「いたっ……。わ、わかったよ、ご主人様……。い、いくよ、沙那」
「うん……」
孫空女が、お尻を掲げたような体勢で、顔を沙那の股に突っ込んできた。
沙那は、孫空女が舌を這わせやすいように、脚をさらに開いて、少し腰を上にあげるような体勢になる。
「あん、んふうっ」
「はああ……ああ……」
沙那と孫空女の口からが同時に甘い声が洩れ出た。
同じことを沙那もさんざんにやらされたことがあるが、快楽の共鳴で繋がっている状態で、相手を愛撫するということは、手の込んだ自慰をしているのと同じであり、快楽の度合いが違うのだ。
しかも、沙那がどんなに感じても、同じようによがり狂ってくれる孫空女が横にいる。その一体感は、身体の快感以上の幸福感を沙那にもたらしてくれる。
孫空女と溶け合い、ひとつになる……。
それは、とにかく、不思議な恍惚感なのだ。
沙那が感じるときは、孫空女も感じ、孫空女が達するときは、沙那も達する。
共鳴でお互いの身体の感じる場所がわかるし、快感の深さも知っている。いまや、おそらく、沙那は誰よりも孫空女のことをわかっているような気持ちだ。
孫空女も同じだろう。
この快楽の共鳴があるからこそ、常識では考えられないような深い親密感で、沙那と孫空女は結ばれていると思ったりする。
「いや、そ、そんなにしたら……ああ……、そ、孫空女……き、気持ちいい……」
「さ、沙那が……か、感じるのが……あ、あたしに……つ、伝わって……あ、ああっ」
沙那と孫空女はお互いに腰を振り合って、よがり続けた。
だが、しばらくして、ぴしゃりと孫空女のお尻で音がした。
痛みは伝わらないので、沙那には感じないが、どうやら、宝玄仙が孫空女の尻たぶを思い切り叩いたようだ。
孫空女が顔をあげて、顔をしかめている。
しかし、その直後に女芯の奥がきゅっと切なく疼いた感覚が襲った。
多分、これは孫空女だ。
実のところ、孫空女には、少し被虐癖があるようなのだ。
だから、宝玄仙から乱暴にされると、ちょっと感じてしまうみたいだ。
痛みは伝えないが、快感は伝える「共鳴」がそれを沙那に教えるというわけだ。
そんな恥ずかしい性癖さえも、お互いに知ってしまう。
それが快楽の共鳴だ。
沙那は悪戯っぽく、孫空女に笑いかけた。
それだけで、孫空女は、沙那になにが伝わってしまったのか、わかってしまったようだ。
顔を真っ赤にして恥ずかしそうな顔になる。
可愛い……。
「……それくらい、びしょびしょだったら、もういいさ。だけど、お前たちも、だんだんと淫らになっていくねえ……。お互いに武術を極めた女戦士のくせに、その正体は淫乱戦士かい」
宝玄仙がからかうような言葉をかけてきた。
そして、双頭の張形を沙那の股間に近づけると、ぐいと無造作に一気に奥まで挿し込んできた。
「あふうっ、そ、そんなに急に──」
沙那はその乱暴なやり方に、かえって感じてしまって、大きな悶え声を出した。
「んふうっ」
また、いったん沙那から離れた孫空女も、腰をがくがくと振って嬌声を洩らした。
沙那が受けた快感が、孫空女に伝わったのだ。
「じゃあ、孫空女は尻を沙那に向けるんだ。沙那は孫空女の尻を犯しな──。すでに、張形の先には潤滑油が塗ってあるから、そのまま挿入もできるようにしているよ」
宝玄仙が沙那の尻の下に指を伸ばして、下からくすぐるような仕草をした。
沙那は悲鳴をあげて、慌てて腰をあげた。
「そ、孫空女、じゃ、じゃあ、いくね……」
仕方なく沙那は、張形を股間に咥えたまま、膝で進んで、張形の先端を孫空女のお尻にぴったりと当てる。
「おっと、忘れてたよ。これは、わたしからお前たちへの贈り物だ。それは、ただの淫具じゃなくて霊具でね」
宝玄仙が張形にぽんと触った。
すると、双頭の張形全体が蛇のようにくねり始める。
「んああ、んああっ、ああっ、ご、ご主人様、こ、こんなのだめ……。と、とめてください」
さっきの孫空女の愛撫ですっかりと濡れそぼっている膣肉を、張形の挿入している部分でこれでもかと掻きまわされて、沙那は絶叫した。
しかも、張形の幹から小さな枝のようなものが出現して、沙那の肉芽をしっかりと掴んだのだ。それで張形の振動が、まともに陰核に伝わってしまい、沙那は身体を弓なりにして悲鳴をあげた。
膣の奥の子宮に近い部分を張形の先がぶるぶると抉ってくる。
どうしようもない快感が子宮に響き渡り、背骨を快感の槍が駆け抜けていく。
「あ、ああっ、さ、沙那……。そ、そんなに感じないで──」
お尻をこっちに向けていた孫空女も腰を振って嬌声をあげた。
沙那が感じるので、孫空女も強制的に快感を呼び起こされるのだ。
「そ、そんなこと言われても……。あっ、ああっ、ご、ご主人様、お、お願いです……。に、肉芽だけでも……。う、動けない……。あ、ああっ……」
膣だけでなく、肉芽に伝わる振動が沙那の全身を脱力させる。
強烈な痺れが腰骨を砕き、下半身全体を痺れさせる。
「いいから、やるんだよ」
動きを止めた沙那の腰を宝玄仙がどんと突き押した。
振動をする張形の先が孫空女の菊座に当たった。
「ひゃあ」
「んふうっ」
沙那も孫空女も大きな声をあげた。
張形の先が孫空女のお尻に当たった瞬間、沙那のお尻にも、孫空女が受けるぶるぶるという張形の振動の感触が伝わった。
女陰と肉芽と肛門への怒涛の快感に、沙那の肉体はあっという間に熱くなり、意識が朦朧とするような夢心地の感覚に襲われる。
「これじゃあ、駄目かい。感じすぎて動けないとはねえ……。じゃあ、肉芽だけはとめてやるよ」
宝玄仙が苦笑して肉芽を包んでいた枝を道術で動かしてくれた。
まだ、幹から振動は伝わってくるが、さっきのように直接的に揺らされるよりましだ。
沙那は、宝玄仙に促されて、張形を慎重に孫空女のお尻のすぼまりに埋めていった。
「あうっ」
「くっ」
孫空女が呻き、沙那もまた声を出した。
痛くて声がで出たわけじゃないのは、誰よりも沙那が知っている。
沙那は宝玄仙と出逢ってからの一箇月以上……。
孫空女も五行山の騒動以来、毎日毎夜、宝玄仙からの尻穴調教を受けている。
ふたり揃って、排泄器官でしかなかった場所をすっかりと快感を覚える場所に変えられてしまった。
「も、もう少し……。そ、孫空女……」
「あ、ああ、沙那……。き、気持ちいいよ……。と、とても……ああ……」
沙那と孫空女はお互いの名を呼びながら、津波のように襲い掛かる快感に耐えて、必死で腰とお尻を近づけ合う。
なんで、こんなことをしているのかとか、なぜこんなに破廉恥な行為をしなければならないのかという思いはもうない。
ただ、気持ちいい……。
それだけだ。
やがて、やっと張形が奥まで入った。
沙那と孫空女はぴったりと繋がった。
「ああっ、ああん、そ、孫空女、ああ、孫空女」
「わ、わあああっ、沙那、沙那、沙那」
沙那はわけもわからず、孫空女の名を呼んだ。
孫空女の沙那の名を叫び返してくる。
横で、宝玄仙がなにかを言っているが、もうそれは沙那の耳には入って来ない。
いま、この瞬間、沙那が感じるのは孫空女だけだ。
孫空女の快感……。
孫空女の悶え……。
孫空女の声……。
孫空女が感じているお尻の気持ちよさ……。
そういうものが一気に沙那に流れ込む。
「そ、孫空女、だ、だめえっ、いく、いく、いくう」
「わ、あたしも、いぐううっ」
沙那と孫空女はぴったりと繋がったまま絶叫した。
胎内でとてつもない快感の大波が炸裂する。
目の前が真っ白になる。
「いぐううっ」
「んぎいいっ、沙那──」
圧倒的な前後の穴からの快感……。
恥ずかしいとか、みっともないという気持ちもない。
なぜならば、孫空女が一緒だからだ。
孫空女となら、快感を快感として、真っ直ぐに受け入れられる。
「いぐうっ、あふうう……」
「んんああ」
ふたりで腰を密接にくっつけ合って一気に昇りつめた。
「お前ら本当に仲が良くなったよねえ……。こっちが妬けてくるほどだよ」
呆れたような宝玄仙の声がした。
そんなの知らない……。
ただ、孫空女のことを誰よりも知っているのは自分だ。
孫空女のことは誰にも渡したくないし、絶対に離れたくない……。
そんな感情が、いまは燃えさかる炎のように心にあるのは事実だ。
強烈な絶頂の波が収まっていきかけたが、とまっていない張形の振動が鎮まりかけていた身体を再び炎の中に引き戻した。
沙那ははっとした。
「あ、ああ、とめて……とめてください。ちょ、ちょっと、休ませて……」
沙那は狼狽えて張形を抜こうとしたが、まるで接着油でもつけられているかのように、孫空女のお尻から腰が離れない。
「ああ、ま、また、あがってきた……。ご、ご主人様、ま、また、昇ってくるよう」
孫空女も動転した声をあげた。
すると、宝玄仙がからからと笑った。
「当り前だよ。お前ら目的を忘れたんじゃないかい? なんで一回で許してもらえると思ってんだい。お前らに、男と女のように張形を出し入れして犯し合えというような無理はいわないよ。そのまま、くっついてな。わたしが道術を解かない限り、どんな格好になっても、張形は抜けないし、振動もとまらない……。肉芽への責めも復活してやるさ。だから、頑張って淫気を発散しておくれ。朝まで続ければ、十分な量は集まるだろうからね」
宝玄仙が笑った。
そして、驚いたことに、もうひとつあった寝台に向かって寝る態勢になる。
「ちょ、ちょっと待って……」
沙那は悲鳴をあげた。
ある程度は、わざとそんな素振りをしているとしても、宝玄仙のことだから、本当にそのまま放置させられかねない。
「あっ、そ、そんなあ、ああ、あああっ」
だが、沙那の言葉は、再び肉芽を包まれて、振動を送り込まれることで、口からこぼれ出た嬌声に消されてしまった。
「さ、沙那、そ、そんなに感じないでよ。か、身体が……ば、ばらばらになる……」
沙那の快感を送り込まれている孫空女が悲鳴をあげた。
「あ、あんたのお尻だって……。ああん、ああっ」
孫空女のお尻に腰を押しつけるようにしている沙那もまた声をあげる。
こんな際どい軽口だって、孫空女と出逢う前の沙那には考えられないことだ。
だが、恥ずかしいことでも、はしたないことでも、孫空女と一緒なら愉しい気持ちでいられる……。
そんなように思う。
だが、それ以上、沙那は考えらることができなくなった。
二度目の絶頂感に襲われたのだ。
沙那と孫空女は、ふたり揃って咆哮のような声をあげて、二度目の絶頂に達した。
*
孫空女は、昨日、馬商人から買った白馬を宿屋の前に連れていった。
すでに、馬具も取りつけてある。
改めて見ると、本当に上等の馬具だ。
特に、鞍については、宝玄仙が霊気を込めた霊具であり、宝玄仙によれば、この鞍があれば、馬は乗り手に逆らうことがないうえに、馬の力を最大限に発揮するという。
もっとも、馬の自在に操るには、そんな霊具を使うよりも、心を通わせた方がいいのだ。
孫空女は、そう思う。
ただ、宝玄仙は馬には乗れないらしい。
それで、不安に思って、そんな霊具を作ったようだ。
それにしても、昨夜は、その霊具を作るために、沙那ととことん愛し合わされた。
沙那と双頭の張形を使って、無理矢理に女陰や肛門をお互いに犯し合わされたのだ。
長時間の強制性交に身体は疲労困憊となったが、終わってみれば、悪いものではなかった。
身体に刻まれている内丹印の刻みを通じて、お互いの快楽を共有してしまう孫空女と沙那は、何度も果てながら、その度に溶けるようにひとつになった。
沙那の快楽をもらって絶頂し、孫空女の感じる場所をそのままの気持ちよさで沙那が受け取ってくれる……。
そして、ふたりで狂ったように赤裸々に悶え合う……。
あれはあれで、いいものだった。
あまりにも昇天しすぎて、朝になったいまでも、まだ腰に力が入らないような感じがするのだが、不思議な充実感と幸福感もある。
そのとき、宿屋の前の通りから慌ただしい物音が起こった。
城郭軍のようだ。
武装をしており、それぞれに五十人ほどの集団が左右から出現したのだ。
孫空女は、邪魔をしないようにと思って、馬の手綱を持ったまま、道の端に避けたが、その孫空女の周りに、その一隊が押し寄せた。
孫空女は、百人はいると思う軍に完全に囲まれてしまった。
「孫空女だな?」
隊長らしき男が怒鳴った。
孫空女に向かっている兵たちは、すでに棒を構えて、先端を孫空女に一斉に向けている。後ろには、剣を構えている者もいるし、ずっと後ろには大きな箱のような車を曳いた二輌の馬車があり、その屋根の上に弓兵までいる。
物々しい光景だ。
「そうだけど、なんだい、お前ら?」
孫空女は耳から、そっとまだ刺繍針ほどの大きさの如意棒を手に取り、右の拳の中に移した。
「気をつけろ。耳の中の霊具を持ったぞ──。孫空女、その手の中の物を離せ」
その瞬間、隊長が大きな声をあげた。
すぐに、棒を持った兵たちの前に、十名ほどの盾手が出てきて、孫空女から防護する態勢をとる。
孫空女は驚いてしまった。
そもそも、なんで耳の中に如意棒を隠していることを知っているのだろう?
「抵抗するな。お前を馬泥棒の咎で逮捕する」
「はあ?」
孫空女は訝しんだ。
「なんの騒ぎだい?」
すると、宿屋側から声がした。
振り返る。
宝玄仙だ。
荷を抱えた沙那もいる。沙那は、目を見開いてびっくりしている。
「ご、ご主人様、危ないです。さがって」
しかし、すぐに沙那は荷をその場に置いて、剣をさっと抜いた。
「抵抗する気か? 女といえども容赦はせんぞ」
隊長が緊張した口調で叫んだ。
「沙那、剣をしまいな」
宝玄仙が憮然とした表情で言った。
沙那は、少し躊躇った気配だったが、大人しく剣を鞘に収める。
「武器を寄越せ。すぐにだ」
隊長が横の兵に合図した。
数名ずつの兵がさっと孫空女と沙那の前に進み出て、武器を奪う仕草をする。
「待ちな。どういうことだい?」
宝玄仙が声をあげた。
いつにない宝玄仙の迫力のある声だ。
馬鹿にしたような蔑みの声はよく聞くが、こんな風に怒鳴るのは初めて接する。
孫空女もちょっとびくりとなってしまった。
寄ってきた兵が、その迫力に、たじろいて動きを止める。
「馬泥棒の罪で、この孫空女を捕縛するのだ。お前らは連れか? 邪魔だてすると、お前らも一緒に連れていくぞ」
隊長が宝玄仙を睨んだ。
宝玄仙は、口をぽかんと開いた。
「お前、この馬は盗んできたのかい、孫空女?」
宝玄仙が言った。
孫空女は慌てて、首を横に振った。
「と、とんでもないよ。ちゃんと馬商人から買ったんだ。証文も見せたじゃないか」
孫空女は言った。
もっとも、あれが本当に証文かどうかは、字の読めない孫空女にはわからない。ただ、沙那も確認していたから間違いないとは思う。
「その杜遷《とせん》は、馬を盗まれたと言っている。訴えがあった。孫空女に脅されて、無理矢理に証文を書かされたという主張している」
孫空女は驚愕した。
「じょ、冗談じゃないよ。杜遷からはちゃんと買ったよ、金両十枚払ったんだ」
「そうです。これが証拠です」
沙那が荷から、昨日の書類を二枚出した。
証文と売上げ書のはずだ。
杜遷から馬の代金と引き換えにもらったものだ。
「うるさい。言い分は訊問できいてやる。とにかく連行する。孫空女は、
「楊明崔?」
沙那が声をあげた。
「孫空女は、馬を盗んだだけでなく、県令のご子息の陽明崔様の護衛に暴力を振るったのだ。鞍に楊家の紋章が刻んである。その鞍が動かぬ証拠だ」
隊長が白馬にある鞍に指を指す。
「紋章? ああ、なにか模様が刻んであったねえ。これは楊家の紋章かい。わたしは、落書きかと思ったよ」
宝玄仙がせせら笑った。
隊長はむっとしたようだ。
「楊家の紋章の鞍がここにあるということは、孫空女が暴力を振るって、馬を盗んだという証拠だ。いいから、大人しくしろ」
「そんな、無茶な。陽明崔は、ただで鞍をくれると言ったんだよ」
孫空女は喚いた。
すると、沙那が口を挟んだ。
「ちょっと待ってよ、孫空女。もしかして、諍いがあったというのは本当? 陽明崔というのは、この城郭の県令のご子息のはずよ」
「ま、まあ……。確かに、ちょっとした喧嘩はしたけど……。だけど、それは向こうが悪いんだ。謝られたし、その詫びの品として、鞍をくれたんだ」
孫空女は仕方なく言った。
「呆れたねえ……。お前は、そんな騒動があったことを、なんで言わないんだい?」
宝玄仙が声をあげた。
「だ、だって、口止めをされたし……」
孫空女は困ってしまった。
宝玄仙が溜息をついた。
「お前、馬鹿かい。口止めをされたとしても、県令の息子と争ったなんていう大事な話を黙っているものがあるかい。まあいい。お前への罰はあとで考える。いまは、こっちのことだ」
孫空女は、罰といわれて、しゅんとなってしまった。
宝玄仙が隊長に視線を向けた。
「……いずれにしても、手違いだろう。陽明崔のことはともかく、馬は馬商人から購ったと言っているし、証文もある。とにかく、一度、引きあげな。わたしらは、ここに留まるよ。お互いに、ちょっと調べようじゃないかい」
「やかましい。俺が命令を受けているのは、孫空女の捕縛だけだ。抵抗するなら、お前らも捕らえる。それだけだ」
隊長が叫んで、業を煮やしたように合図をする。
盾手がさっと距離を詰め、そのあいだから棒が突き出された。
緊張が走ったが、宝玄仙の笑い声がそれを打ち破った。
「捕縛する? この宝玄仙をかい? お前ら、このわたしが誰か知らないんだね? まあいい。じゃあ、連れていきな。その代わり、ちゃんと県令に報告するんだよ。宝玄仙という天教の巫女を捕らえたとね。この城郭の神殿長のあの禿げにも言いな……」
宝玄仙が神殿長らしき者の名を呼び捨てにした。
その口ぶりは、なんとなく、知り合いのような雰囲気だ。
孫空女と沙那は、宝玄仙が大人しく捕らわれろと命じたため、武器を兵に渡した。
沙那は腰帯ごと剣を外し、孫空女はまだ小さいままの如意棒を渡す。
すると、三人の周りを完全に兵に包まれた。
後ろにあった馬車がゆっくりと前に出てくる。
近くまで来てわかったが、罪人を護送するための檻車だ。
側面には鉄格子の嵌まった小さな窓があるだけの頑丈そうな壁で作られた四角い乗り物だ。
それを馬で曳いているのだ。
「大人しく乗れ。拘束はせん」
隊長が宝玄仙に言った。
「大人しくするよ」
宝玄仙が笑って、檻車に進み出る。
どうやら、この事態を愉しんでいる気配だ。
沙那が宝玄仙に続く。
ふたりが馬車に乗り込んだ。
孫空女も乗ろうとした。
だが、数本の棒が孫空女の前を阻んだ。
「な、なんだい?」
孫空女は眉をひそめた。
「お前はそっちだ」
隊長がもうひとつの檻車を指さした。
孫空女は肩を竦めてから、そっちに向かう。
二名の兵が寄ってきて、孫空女の首にある赤い首輪の上から金属の首輪を嵌めた。その首輪には手枷が繋がっていて、それに両手首を嵌められる。
孫空女は頭の後ろに手を回して、動けなくなってしまった。
次いで、足首にも、やはり肩幅ほどの長さの鎖のある足枷をつけられた。
「なんだよ。そんなにあたしが怖いかい。大人しくすれば、拘束しないって言っただろう」
宝玄仙が刃向かうなと言ったので、連中の好きなようにさせたが、さすがに腹がたつ。
「お前は霊具遣いだからな。念のためだ。おい、道術封じの腕輪もしろ」
隊長が命じた。
誰かが頭の後ろの手首にさらに、なにかを嵌めた。
「うわっ」
その瞬間、急に孫空女は力が抜けたようになってしまった。
道術封じというから、霊気を遮断するなにかの霊具なのだろうが、それを付けられることで、なぜか身体が少し弛緩したように、力が抜けたのだ。
孫空女の身体には、御影の死の呪いを防ぐために、宝玄仙の霊気が充満しているはずだ。
それで、霊気の遮断具がなにかの影響を及ぼしたのかもしれない。
さらに目隠しをされた。
「念の入ったことだね」
孫空女は嫌味を言った。
「乗れ」
突然に背中を小突かれた。
檻車に昇る梯子に身体がぶつかる。
「こ、これじゃあ、乗れないだろう」
孫空女は悪態を突いたが、後ろと左右から棒で突かれ、仕方なく、なんとか梯子を昇る。
すると、思い切り、背中を棒で疲れて、前に突き飛ばされた。
「うわっ」
孫空女は檻車の中に転がり倒された。
「い、痛いよ」
怒鳴ったが、もちろん返事はない。
大きな音を立てて檻車の扉が閉まり、がしゃりと鍵がかかったのがわかった。
「な、なんだい……」
孫空女はぶつぶつ言った。
しかし、なにかの気配を感じた。
「ま、待て、誰がいるね?」
叫んだ。
檻車の中に人がいる。
それは気配でわかった。
だが、嵌められている手枷付きの鉄の首輪の後ろに、なにかを繋がれる。
がらがらと音を立てて、それが引きあがった。
「んぐっ、や、やめろっ」
首輪に繋がったのは鎖のようだ。
天井に向かってどんどんと引っ張られて、孫空女は無理矢理に立たされる。
しかも、つま先立ちになるまで引きあげられて、やっとそれでとまった。
馬車が動き出す。
身体が揺れて体勢を崩し、首輪で喉が絞まった。
孫空女は呻き声とともに、なんとかつま先立ちを保持する。
「頑張って立ってろよ。さもないと首が締まるぜ」
声がした。
その声に聞き覚えがある。
「そ、その声は、あの馬商人だね」
孫空女は言った。
間違いないと思う。
名は杜遷だ……。
「覚えてくれてたかい。光栄だな……」
その杜遷が身体の後ろに回る気配がした。
そして、孫空女の
孫空女はぎょっとした。
「な、なにすんだい──?」
だが、抵抗しようとしても、身体が弛緩しているうえに、両手と両足首は拘束されているし、しかも、つま先立ちになっているので、なにもできない。
あっという間に、下袴を足首までおろされた。
「ふ、ふざけるなよ。な、なんの……うぐっ」
杜遷がさらに股間を包んでいる股布に手をかけたとき、孫空女は腰を振って阻止しようと思った。だが、その動きに加えて、馬車が揺れて首が絞まってしまった。
「ほらほら、暴れるなよ。陽明崔様の別宅は、城郭の外だからな。少しばかり時間がかかると思うぜ。まあ、そのあいだに、一発……。いや、二発はいけるな」
杜遷が卑猥な声で笑った。
股布が外されて、秘部に外気が触れる感触が襲う。
孫空女はぎゅっと内腿を締めつけた。
「お前のような男勝りの女でも、股間をさらけ出されれば恥ずかしいかい。こりゃあいい」
杜遷が大笑いした。
孫空女は頭に血が昇って、もう一度怒鳴ろうと思ったが、鼻と口の上に布を被されて頭の後ろで縛られた。
布が濡れている……?
なんだろうと思ったが、息を吸った途端に、身体からさらに力が抜けるとともに、身体がかっと熱くなった。
さらに、全身に虫がたかるような疼きが一斉に起こる。
媚薬だ──。
すぐにわかった。
しかも、怖ろしく強烈なものだ。
「や、やだよ」
頭を振って布を外そうとした。
だが、取れない……。
これを吸い続ければ大変なことになる……。
それはわかったが、鼻と口に被せられているのだ。
息をしないわけにはいかないので、どうしても、それを吸うことになる。
孫空女は、無理矢理に媚薬を吸わされ続けた。
「くっ」
あっという間だった。
痒みのような猛烈な疼きが股に襲ってきた。
なにもされていないのに、内腿にぬるりと蜜が滲むのも感じる。
「股ぐらが真っ赤になってきたぜ。面白いなあ……。じゃあ、さっそくいただくかな。陽明崔様に許されているのは、檻車が別宅に着くまでのことだしな」
杜遷が言った。
別宅……?
そういえば、さっきもそう言っていた……。
捕縛されて、軍営に連れていかれるわけじゃないのか……?
孫空女は訝しんだ。
だが、考えることができたのは、そこまでだ。
右の膝に縄がかけられたのだ。
そして、足首の枷が、突如として右足首だけ外される。
しかし、足首から下袴が抜かれ、膝に掛けられている縄が引きあがった。
「んんぐうっ、あぐうっ」
孫空女は悲鳴をあげた。
片足立ちになったために、首が鎖で思い切り絞まってしまったのだ。
懸命に体勢を取り直す。
「そうそう……。しかっりと立ってな」
杜遷が前に回ってきた。
孫空女の腰に手を回して、秘部をなにかで突く。
はっとした。
男根だ。
杜遷が孫空女を犯そうとしている。
それを悟った。
「ふ、ふざけるなよ、お前──。や、やめろっ、やめろって」
叫ぶ。
だが、笑いながら杜遷が腰を前に出した。
びっしょりと濡れている孫空女の膣に、杜遷の肉棒がしっかりと突き挿さる。
「んふううっ、ああっ」
口惜しいが身体が、媚薬に蕩けている膣を擦られて、すさまじい快感が全身を駆け抜けた。
杜遷が孫空女の反応に嬉しそうな声を出す。
「まあ、陽明崔様に逆らうから、こんなことになるのさ。おかげで、俺は嘘の供述をするだけで、お前を犯すことができるというわけだがな」
杜遷が前後に腰を使い出す。
孫空女の口からは、我慢しようとした喘ぎ声がだんだんと大きく洩れ出ていった。