170 面倒で不本意な調教
雨の音が激しく窓を叩いていた。
「ああ、これじゃあ、また、明日もこの宿町に足留めかなあ」
七星は呟いた。
眼の前に股間を包む下着だけを身につけさせた朱姫がいる。
朱姫は、床に置いた皿に載せた食事を口だけで、苦労しながら食べている。
面倒なことだ。
手を遣えば、朱姫も七星もなんの面倒もないのだが、宝玄仙の気まぐれで、この五日ほど、朱姫は後ろ手に手錠で拘束されている。
首には、霊具である茶色の革の首輪だ。
そんな格好で、朱姫は懸命に食事をしているのだが、やっぱり、口と顎の周りは、食べ物の汁でべっとりと汚れてしまっている。
食事の後で、それを拭いて世話をするのは七星なのだ。
面倒くさいことこのうえない。
一刻も早く、朱姫の後ろ手の拘束を解いてやりたいのだが、まだ、宝玄仙の気まぐれは続いていて、朱姫は解放してもらえない。
……ということは、朱姫の「調教係」というものにさせられた七星の面倒も終わらないということだ。
女人国の国都に向かう街道沿いの宿町だ。
国都まで二日というところらしいが、昨日からもここで足留めされている。
国都に通じる山岳道が崖崩れで封鎖されているのだ。
大した崖崩れではないので、人足が集まれば半日で通れるようになるという話だが、肝心の雨が止まないので、工事は始められないでいるようだ。
ずっと南に迂回すれば、一日余分に歩くだけで、国都に辿り着くのだが、別に急ぐ理由があるわけではない。
雨の中を旅するのも気がめいるので、山岳街道が開通するまで、この宿町で過ごすということに決まった。
五人でふたつの部屋を借り、広い方を宝玄仙と沙那と孫空女。狭い方を七星と朱姫が使っている。
このところ宿に泊まるときには、いつもこの部屋割だ。
七星が朱姫の調教係ということになっているからだ。
朝食の時、宝玄仙に連れられた沙那と孫空女は、とても疲れた顔をしていた。
また、夜の間、宝玄仙に責められたのかもしれない。
そして、今日は、一日、宿で所在無く過ごすということに決まったから、今頃は向こうでも淫靡な悪戯が始まっているに違いない。
もっとも、結界で遮断されているので、隣の部屋でなにをやっているかは、まったく気配さえも掴むことはできない。
「お、終わりました、七星姉さん」
床に跪いたままの朱姫が身体を起こして言った。
案の定、胸と口の間の部分が食べ物で汚れている。
「ああ、来な」
七星は、寝台に腰掛けたまま、朱姫を呼んだ。
朱姫は、大人しく七星の前に、膝だけでやってくる。
寝台の柵にかけていた布をとって、朱姫の身体の汚れを拭いてやる。
「ほら、もういいよ、朱姫」
「ありがとうございます、七星姉さん」
朱姫は頭を下げた。
「ああ」
七星は嘆息した。
これじゃあ、どちらが主人で、どちらが奴隷だかわかりはしない。
朱姫は、宝玄仙によって後ろ手の手錠をされているから、日常生活のなにひとつもできはしない。
食事はさっきみたいに、床に置いて口だけでさせることはできるが、糞尿のときには手を貸してやらないとならないし、後ろ手のままでも着させることができるように加工した貫頭衣も下着も七星が着させないとならない。
旅で汚れた身体だって、足の指から髪の先まで、七星が洗ってやるのだ。
まるで、でかい赤ん坊を任された気がする。
宝玄仙のように嗜虐趣味を持った人間なら、朱姫のような可愛い顔の娘が、ああやって、恥辱的な扱いをされるのに接するのは愉しいのかもしれないけど、そういう趣味のない七星には、ひたすら面倒なだけだ。
「あ、あのう……、七星姉さん、朝のお情けを……」
「そうだったね。尻をこっちに向けな」
「はいっ」
朱姫が顔を上気させ、嬉しそうな表情をした。
そして、くるりと身体を反転させ、膝を立てたまま上半身を倒して、顔を床につける。
下着に包まれた朱姫のお尻がこちらに向かって掲げられる。
七星は、べろりと朱姫の下着を膝までおろした。
むわっとする女の臭気が、七星の鼻に入ってくる。
朱姫の股間はべっとりと濡れ、股間は溢れ出る愛液でてらてらと光っている。
相当に溜まっていたのだろう。
これから、お尻をほじってもらえるという悦びで、朱姫の腰はかすかに震えはじめてもいる。
七星は、寝台の横の台から、霊具である尻孔用の張形をとると、朱姫の双臀の割れ目をこちょこちょと張形で擦った。
「あふっ。き、気持ちいいです、七星姉さん――」
朱姫が感極まった声を出した。
たったそれだけで、さらに股間から淫液がどっと溢れ出てくる。
「そうかい、気持ちいいのかい、朱姫」
七星は、自分の声に熱がこもらないのを感じながら、ぐいっと朱姫の尻たぶの片方を掴んで、尻の孔を露わにする。
「ひんっ」
朱姫が声をあげる。
「お前の股間汁で、張形を濡らしな」
七星は、張形を朱姫の股間にやって、びしょびしょの淫液で張形をまぶす。
「あん……はあん……」
朱姫が快感に激しく悶えはじめる。
女陰や肉芽を張形の先で突かれ、弄られるのが気持ちいいのだろう。
高くあげた尻だけじゃなく、突っ張った太腿も快感でがくがくと痙攣をしはじめた。
「ほら、挿すよ」
たっぷりと濡れた張形を朱姫の肛門に、ずぶずぶと突き挿していく。
「ひぎいっ――。い、いいっ……。ああっ――。気持ち、気持ちいいです、七星姉さん――」
朱姫が叫んだ。
そして、呻き声のような嬌声をあげる。
「いく、いきますっ」
尻の刺激に弱く、あっという間に達するので、それだけは助かる。
「いっていいよ、朱姫」
七星はそう言いながら、朱姫の肛門に挿し入れた張形をぐりぐりと回す。
そして、回転させたまま、前後に動かして挿入を繰り返す。
「いくっ」
朱姫は一番の痙攣を起こして、身体を仰け反らせた。
そして、痛みを思わせるような激しい悲鳴をあげる。
もちろん、痛みではない。
溜まった淫欲が解放される悦びに、我を忘れているのだ。
さらに、股間から潮のような愛液がまた吹き出し、朱姫が跪いた膝の間の床を汚した。
七星は、そんな朱姫の姿を見て、朱姫には聞こえないように小さく嘆息した。
あの噴き出した潮によって汚れた床を掃除するのも七星だ。
それだけじゃなく、体液でべっしょりと汚れた朱姫の股間や汗にまみれた身体を拭くのも七星だ。
本当に他人の面倒をここまで看させられるのは面倒くさい。
早く、宝玄仙も宝玉も、朱姫を解放しないものだろうか。
もっとも、朱姫がこんなことになったのは、このところ朱姫が調子に乗っていると、宝玄仙の隠れた人格である宝玉に、七星が訴えたのがきっかけだ。
この女人国に入ったばかりのときに、
本当は毒ではなく、子を成す準備であり、
子母泉の水を飲む以外の方法で、宝玄仙の身体を癒すには、
七星は、その間、毒密で苦しむ宝玄仙を看病することになったが、その途中で、宝玄仙の別人格である宝玉が出現した。
冷酷で気まぐれで嗜虐癖のどうしようもない女である宝玄仙とは異なり、宝玉は優しく、よく話を聞いてくれるし、宝玄仙とは逆に被虐を好む女だった。
子宮に溜まった毒密を出させるための七星の愛撫も、宝玉のお気に入りになった。
横になっている間、七星は宝玉といろいろなことを語った。
そのときの話の中に、このところの朱姫の悪戯についても話題になった。
最近の朱姫は、宝玄仙と一緒になって、七星や沙那や孫空女を魔術で責めるということがかなり頻繁になっていたのだ。
それで三人が戻ったときに、宝玉が朱姫に罰だと言って霊具である革の首輪を嵌めたのだ。
その首輪は、もともとは、以前、宝玄仙が最初の調教を朱姫に施したときに遣ったものらしく、それを嵌めると日に三度、尻で自慰をしなければ、道術によって激しい淫情に苛まれるものだった。
宝玉は、それを自慰ではなく、他者に尻を犯されなければ、淫情が解放しないようにしてしまった。
しかも、張形の霊具による尻以外の愛撫に対しては、快感が溜まるだけで決して達することがないという仕掛けまでした。
朱姫は泣き叫んだが、それを嵌められてしまえば、当の宝玉か宝玄仙にしか、首輪を外すことができない。
面白いことが大好きな宝玄仙が外すわけがなく、朱姫は定期的にやってくる淫欲の発作を抑えるために、誰かにその張形でお尻を癒してもらわなければならなくなったのだ。
その誰かに、宝玄仙は七星を指名した。
しかも、手錠で朱姫の両手を後手に拘束して、朱姫を調教しろと七星に引き渡したのだ。
だが、このところ、道術で朱姫にされていた悪戯の仕返しを堪能したのは最初だけだ。
すぐに一日三度の尻への凌辱など面倒なだけになった。
しかも、後手に拘束されている朱姫は、なにをするにも七星の手を借りなければならない。
そういうことをすべて、調教の材料にしろということなのだが、そういう嗜虐趣味のない七星にとっては、まるで朱姫の世話係をさせられているようなものだった。
食事の世話から、下の世話。着替えや身体の手入れまでやっているうちに、七星の方が朱姫の召使いになった気がしてくる。
七星は、朱姫の股間を拭いてやり、寝台にでも横になっていろと命じた。
朱姫は膝まで下げていた下着を後ろ手で腰まであげて、寝台に乗る。
次いで、七星は、朱姫の股間から噴き出した体液で汚れた床を掃除した。
すると、部屋の入口が叩かれた。
扉が開く。
この部屋には、宝玄仙の結界がかかっているから、戸が開くということは、宝玄仙か沙那か孫空女ということだ。
七星が顔をあげると、宝玄仙がいた。
後ろには、沙那と孫空女もいる。
「朱姫、宝玉様よ」
沙那が言った。
「七星、朱姫、元気だった? まあ、朱姫は元気ということはないわね」
宝玄仙ではなく、もうひとつの人格の宝玉だ。
「宝玉様」
朱姫が寝台から飛び降りて、宝玉の前に後手に拘束された下着だけの身体をひれ伏させた。
「……しゅ、朱姫は反省しています。もう、調子に乗ったりしません。どうか、お許しください」
朱姫が顔を床につけたまま叫ぶように言った。
宝玉が、しゃがみ込んでそっと朱姫を抱き、その顔をあげさせた。
「朱姫、五日間つらかった?」
宝玉が朱姫の裸身を抱きしめながら言った。
「はい……」
朱姫は宝玉の腕の中で頷いた。
宝玉が、力を込めて朱姫を抱きしめる。
そして、その宝玉がすっと朱姫を離した。
朱姫の首に巻かれていた霊具が宝玉の手の中にある。
「あ、ありがとうございます」
朱姫がほっとしたように、大きな声をあげるとともに、頭を下げた。
やっと朱姫は解放されたようだ。
「やれやれ、これで朱姫の世話をしっぱなしの日常から解放されるよ」
七星は正直な感想を口にした。
孫空女も沙那も苦笑している。
「朱姫、沙那にも礼を言いな。お前を解放してやってくれと、沙那が宝玉様に頼んだんだ」
孫空女が微笑みながら言った。
「沙那姉さん、ありがとうございます」
朱姫が頭を下げる。
「いいのよ。ただ、わかってね。わたしは、この一行の嗜虐の悪癖は、ご主人様だけでたくさんなの。そして、なによりも、わたしは、部屋の外や人のいる場所でいやらしいことをされたくないの」
沙那もしゃがみ込んで、朱姫の頭に優しく手を置く。
「わかっています、沙那姉さん。でも、夜のときはいいですよね。夜の営みのときだったら、沙那姉さんだって、朱姫の身体を責めたてることもありますから」
朱姫の言葉に、沙那の顔が一瞬凍った気がした。
「まあ……それは、確かにねえ」
沙那が仕方がないという感じで言った。
「じゃあ、夜の営みでは、朱姫が少し羽目を外してもいいということですよね」
「そ、そうね……」
朱姫の表情がほころぶのとは正反対に、沙那の微笑みが引きつっている気がする。
「さて、ついでに、宝玄仙が取りつけた手錠も外してしまいましょうね。朱姫、向こうを向いて」
宝玉が朱姫を反転させた。
そして、朱姫の手錠に触れたが、すぐに顔をしかめた。
「宝玄仙め……」
宝玉が呟いた。
「どうしたのさ、宝玉さん?」
七星は、宝玉の表情が曇ったことに気がついて訊ねた。
「宝玄仙ったら……。あいつ、わたしに勝手に外せないように、『道術錠』をしているわ」
宝玉が呟いた。
「道術錠?」
孫空女だ。
「『道術錠』というのは、道術遣い特有の鍵でね。複雑な術式を施して、簡単に術で解錠できなくなる仕掛けのことよ……。つまりは、宝玄仙は、朱姫の手錠にわたしが外すことのできなくなる仕掛けをしているということよ。わたしだけではなく、宝玄仙にも、もはや術では外せないわ。宝玄仙が術で刻んだ条件を満たさない限り、朱姫の手錠はずっとこのままよ。あいつったら、なんてことするのかしら……」
宝玉が嘆息した。
「ど、どういうことになっているのですか、宝玉様?」
朱姫がうろたえた。
「宝玄仙は、わたしが勝手に朱姫の手錠を外してしまうことを予想していたようね。だから、意地の悪い条件を術で刻んで、『道術錠』をかけたの。もうこれは、宝玄仙が、あらかじめ設定したことが起きないと手錠は外れないわ。逆に言えば、それが成立すれば、宝玄仙がいなくても外れるわ」
「そ、そんな……。じゃあ、ご主人様の設定した解錠の条件とは、なんですか、宝玉様?」
朱姫の身体が震え、朱姫を後手に拘束している手錠がじゃらりと音を立てる。
「ちょっと、待って、朱姫。普通は、『道術錠』の鍵は、施した本人にしか読みことはできないんだけど、わたしと宝玄仙は、本当は同じ人間だから……。それにしても、宝玄仙ったら、いつの間に、わたしに心を閉ざすことを覚えたのかしら……」
宝玉はぶつぶつと呟きながら、しばらくじっと手錠を見つめていたが、やがて顔をあげて嘆息した。
「わかったわ。だけど、宝玄仙は、とことん、朱姫で遊ぶつもりだったようね……」
宝玉はそれだけを言った。
「沙那、宝玄仙の霊具を集めている
宝玉は言った。
「わかりました」
沙那は出ていく。
「ねえ、朱姫のいつもの『獣人』で引き千切ったらどうなのさ?」
孫空女が言った。
「それでも、無理よ。わたしも宝玄仙も道術は一流よ。朱姫の術程度で破れるわけがないわ。朱姫が『獣人』で産み出す力も、所詮は朱姫の術によるものなのだから」
沙那が戻って来た。
手に赤い布の包みを抱えている。
「これでしょうか?」
沙那が宝玉にその包みを渡した。
宝玉が床にそれを置き、包みを開くと中には、革の下着がひと組入っていた。
乳房を包む胸当てと、股間を覆う下着だ。
みんなでそれを覗き込む。
「なに、これ?」
孫空女が声をあげる。
「ご主人様らしいわね」
沙那も言った。
胸当てはともかく、股間に履く革の下着には、内側に当たる部分に二本の張形が突き出ている。
それをどんな風に履くのかということは、容易に想像できる。
「悪趣味だね。さすがは宝玄仙さんだよ」
七星も言った。
「あ、あの、もしかして、さっきの解錠の条件というのは……」
朱姫だ。
心なしか顔が蒼い。
「これを身に着けて半日以上を過ごすことよ。それで、ひとりでに手錠は外れるわ。宝玄仙が、この下着の霊具を作っていたのは知っていたけど、こういうことだったのね。相変わらず、嗜虐には手を抜かない女よね、彼女も」
宝玉は言った。
「こ、これは、ご主人様の霊具なのですか?」
朱姫の声は震えている。
宝玄仙の霊具といえば、それだけでえげつない効果があるというのが予想できる。
朱姫は、それを身につけなければならないらしい。
まあ、朱姫への懲罰の総仕上げというところだろう。
宝玄仙が、朱姫に対して含むところがあったとは思えないが、宝玄仙も意地の悪い罰を思いついたというところなのだろう。
「これを身に着けるとどうなるんだい、宝玉様?」
孫空女が革の下着をひょいと持ちあげた。下着の内側の男根の部分がぶるりと震える。
「それにも『道術錠』が仕掛けられているわ。そっちも半日経つまで脱げなくなる。下着が人間の肌を感じると、ありとあらゆる責めを下着が加えはじめるわ。我慢するのね、朱姫。仕方ないわ」
「そんなあ」
朱姫が泣きそうな表情になった。
「まあ、しょうがないか、朱姫」
孫空女が朱姫の裸身の肩をぽんと叩く。
「本当に、それしか方法がないんですか、宝玉様?」
「残念だけどね、朱姫」
宝玉は言った。
「諦めなよ、朱姫。じゃあ、さっそくつけようか」
孫空女は、革の胸当ても手に取り、朱姫の肩を抱く。
「ちょっと待って、孫空女。ねえ、宝玉様、半日外せないということは、その……もよおしたときは、どうなるのです?」
沙那だ。
確かに、小便や大便をしたくなったらどうなるのだろう。
「どうにもならないわね。おしっこは、隙間から滲み出るはずだけど、大きい方は出す方法はないから、済ませてから履くのね、朱姫。沙那と孫空女が、浣腸してあげたらどうかしら。それから、宝玄仙の魔具を身につけたらいいんじゃない」
宝玉がそう言うと、朱姫が悲痛な表情になった。
「まあ、そういうことなら、向こうの部屋に行こうか、朱姫。あたしと沙那が面倒看てやるから」
孫空女が言った。
心なしか嬉しそうなのは気のせいだろうか。
「行きましょう、朱姫」
沙那も一緒になって、孫空女とともに朱姫を連れていった。
まるで、執行人に挟まれて死刑台に送られる囚人のようだと七星は思った。
「それと七星――。これは、頼まれたものよ」
沙那が小さな包み紙を扉のそばに置いてから、部屋の外に出た。