「ご主人様、少し、用を足してくるよ」
孫空女は、立ちあがった。
女人国の国都まで、あと半日という位置にある山中だ。
長雨のために土砂崩れのあった場所を通り抜けるのに、予想以上の手間がかかってしまい、国都の目の前というところで、野宿になってしまった。
野宿は久しぶりだが、この旅では馴れたものだ。
早めの夕食も終わらせて、宝玄仙のための寝床の準備も終わった。
孫空女たち三人は、地面の上に敷いた薄い布の上に一枚の毛布だけをかけて、かたまって寝るだけだから、寝床の準備というほどのものはない。
もっとも、大人しくそこで寝られるのは、宝玄仙が黙って休むことを許した場合だけだ。
そして、それは滅多にあることではない。
今夜は、なにをやらされるのか……。
一番多いのは、三人のうちの誰かが指定されて、宝玄仙を含むほかの三人から、身体を拘束されて徹底的に責められることだろうか……。
あるいは、ふたり、それとも三人で、お互いを責め合うとか、おかしな淫具で責め苛まれるとかだろうか……。
男根を生やされて、ほかの仲間を犯すことを命じられるということもある。
みんなで宝玄仙に奉仕するという場合もある。
その場合は、女として奉仕する場合もあるし、男根を生やされて男として奉仕する場合もある。
ほかの仲間の前で自慰を命じられるということもある。
その場合も、女としての自慰もあるし、男の自慰の真似事をさせられる場合もある。
共通するのは、大抵は快楽の地獄を味あわされるということであろうか。
死ぬほどの快楽とか、連続絶頂……。
あるいは、絶頂させてももらえない焦らし責めや放置責め……。
感度をあげられて想像を絶する悶絶をするとか……。
「用足しって、なんだい、孫空女? 大きいのかい、小さいのかい?」
宝玄仙が、宝玄仙の結界から出ようとした孫空女に声をかけた。
思わず全身が硬直する。
供を嗜虐することが大好きな宝玄仙は、気まぐれのように、供の排泄まで責めの材料にしたりする。
命じられたら、孫空女たちには拒否することはできない。
言われるまま、小便であろうと、大便であろうと、皆の前でやらなければならない。
だが、いくら気心しれた仲間の前だと言っても、周りを取り囲まれて、自分の排泄を見られるというのは、馴れるものではない。
「ち、小さいのだよ」
「そうかい、孫空女。早く帰っておいで。今夜は、趣向を凝らしているんだ。久しぶりに、新しい淫具を作ったんで、お前たちに試したいのさ」
「わ、わかったよ……」
ほっとすると同時に、不安も拡がる。
安心した部分は、いまは排便を嗜虐の材料にされることはないということだ。
不安の部分は、それが終われば、宝玄仙の新しい淫具というものを味わなければならないということだ。
宝玄仙の淫具といえば、霊具であり、とんでもなく、えげつないものだと決まっている。
限りなく快感を身体に溜めながらも決して発散できない『溜め袋の護符』――。
媚薬効果のある気体を流す道具であり、鼻に詰めると自分では外せなくなる『淫霧の綿』――。
発狂するような痒みが発生する塗り薬である『ずいき油』――。
身体の快感の感覚の一部を外に出されて、小さな球体に感覚を繋げられる『刺激玉』――。
乳首や肉芽に包み張りついて、振動を加えるという『振動片』という布切れもある。
そう言えば、触手が股間の部分に生えている『触手下袴』という服もあるし、この前、朱姫が装着し、共鳴によって、孫空女と沙那も味わった『調教下着』という衣類もある。
沙那が一年間餌食になり、沙那の超敏感な身体の原因になった『女淫輪』や、お尻が弱点の朱姫を作り出した『尻棒』と首輪の尻調教具もあった。
とにかく、宝玄仙の作る淫具は、一筋縄ではいかない強烈な嗜虐の道具ばかりだ。
今夜は、それを試されるらしい。
知らず、口から嘆息がでてしまう。
考えてみれば、宝玄仙が作る魔具でまともな道具というのは、孫空女の耳に隠している『
『如意棒』というのは、正式には『
普段は、耳に隠せるほどに小さいが、孫空女の声で、七尺(約二メートル)ほどの長さになる。道術の影響で怪力になっている孫空女にぴったりの武器だ。
ほかにも役に立つ道具はあるが、どこかしら、おかしな仕掛けがついている。
例えば、『
『遠耳・遠口』というのもあり、遠くに離れた者同士で会話ができるという霊具で便利だが、『遠口』には、一日間で効果が消滅し、その際に、一刻(約一時間)のいき狂いになるという副作用もある。
あれほどの霊具作りの名人でありながら、その情熱をすべて、嗜虐のために使うというのは、孫空女でなくても呆れることだろう。
霊具の中でも、人を操る操り具は、宝玄仙の得意とするものであり、身体の一部を人形に刻むことで完全に相手を支配してしまう『操人形』や、宝玄仙を帝都で慰み者にした
「行ってくるよ」
孫空女は言った。
「灯りは、孫女?」
沙那が声をかけた。
「ああ、いらない、いらない」
振り返ることなく孫空女は沙那に手を振った。
孫空女は夜目が利く。
昔から常人には考えられないほどに眼と耳がいいのだ。
宝玄仙の結界に包まれる場所は、焚火の明かりで照らされているが、少し離れれば、夜のとばりがおりてまったくの闇だ。
だが、孫空女には見えるし、歩くことにも支障はない。
孫空女は、少し離れた岩陰に場所を選び、下袴と下着を膝まで降ろして、その場にしゃがんだ。
しかし、股間から尿を迸りはじめたとき、孫空女はなにかの気配を感じた。
立ち上がり、そのまま下着と下袴を履き直す。
尿はまだ流れ出ているから、生ぬるい尿が孫空女を濡らし続ける。
「誰だい――?」
孫空女は闇に向かって叫んだ。
なにかが動いた気がした。
相手の殺していた気配が一斉に湧く。
「沙那――」
叫んで警告を発した。
ひとりやふたりじゃない。
少なくとも十数人の人間に囲まれている。
しかもこれまで気配を完全に隠して包囲していた。
かなりの手練れの集団だ。
「『如意棒』――」
孫空女は、耳から得物を出して構えた。
小便は終わった。
出したばかりの尿が、孫空女の下袴を張りつかせている。
『如意棒』を構えた瞬間、咄嗟に孫空女は横に跳んだ。
身体が勝手に動いたのだ。
動いた後で、危険な気配を頭で感じていた。
闇を金属が裂く音がした。
たったいま、孫空女が尿をしていた場所の地面が弾く。
「なに?」
道術の類いか?
矢でも石でもない――。
なにかが飛んできて、地面を弾いた。
しかし、孫空女の肌は、周りに道術の動きを感じない。
道術を遣われた気配がないのだ。
それで、ふと思い出すものがあった。
かなり前だが、天教の兵に襲撃されたことがあった。
そのときは、火薬とかいうものを遣った爆発の攻撃だった。
だが、いまのは、それとは違う。
「孫女――。大丈夫?」
沙那の声がした。
そのとき、再び、さっきの金属音がした。
「きゃああっ」
沙那が悲鳴とともに倒れた。
「沙那――」
孫空女は叫ぶ。
沙那が倒れている場所に駆けた。
はっとした。
沙那は血を流している。
脚だ。
太腿を
沙那は脚を押さえて、岩陰に這い進もうとしている。
孫空女は駆け寄って、沙那の身体を掴んで、岩陰まで引きずる。
「だ、大丈夫、沙那?」
「う、うん。脚を撃たれただけだから……。わ、わたしはいいわ、孫女。それよりも、ご主人様を――」
沙那の腿には火傷のような小さな穴があり、そこから血が滴っている。
「これは、なんなのさ? 道術? どこから、なにが飛んできたの?」
「孫女、これは、鉄砲よ」
沙那は言った。
そして、沙那は、剣で膝下の下袴を引き裂き、布で紐を作ると、傷口の上の部分を強く巻いた。それはあっという間だ。
「鉄砲?」
「そうよ、孫女。道術じゃないわ。火薬を使って金属の小さな弾を飛ばす武器よ。東方帝国の近衛軍なんかじゃ、鉄砲を遣う銃兵がいるらしいけど、確かに、滅多に見る武器じゃないわね」
「普通の武器ということ?」
「そうよ、だから、ご主人様の結界は効かないかも」
沙那が孫空女の顔をしっかりと見た。
結界というのは、術遣いが術で作る防護壁だ。
どの程度の防護ができるかは、作る術遣いの力によって異なる。
超一流の道術遣いの宝玄仙の場合は、考えられる最大級の結界だろう。
結界の中では、ほとんど無限の力を操れるし、人や物を浮かせたり、自在に動かしたりできる。
人間や野獣が結界に入り込むことを完全に防ぐこともできるし、外からの道術のたぐいも遮断できる。
逆も同じだ。閉鎖もできる。
しかし、それは宝玄仙の感覚が追いつくくらいのものが限界だ。
さっきのように瞬時に飛んでくる物理的な攻撃には、結界はあまり役には立たない。
それが、道術による防御結界の弱点のはずだ。
あの鉄砲だと、宝玄仙が撃たれてしまうだろう。
「沙那、孫空女――」
孫空女はその囁き声の方向を見て驚いた。
宝玄仙だ。
低い姿勢で、こっちに這い進んでくる。
朱姫もいる。
「ご主人様、なんで結界から出て来たのさ」
せっかく作っていた結界から宝玄仙が出た。
それは危険だ。
「心配ないよ。ここに結界を刻むよ。小さく集まりな。それに、向こうにわたしたちの影を残してきた。少しは誤魔化せるさ」
「影?」
「わたしらの幻さ、孫空女。術を感知できない者だったら、向こうの結界の中に、わたしらの姿と気配を感じ続けるようにしてきたということさ」
宝玄仙が言った。
「沙那姉さん、怪我をしたんですか?」
やっとここまで辿り着いた朱姫が沙那を抱えた。
「大丈夫よ、朱姫。なんてことないわ」
「そうさ――。なんてことないさ、沙那。このわたしがいる限りね。即死しない限り……いや、即死したって、蘇らせてやるよ。この宝玄仙がね」
宝玄仙は、沙那の傷に手をやって、それを凝視した。孫空女の見ている前で、沙那の傷は塞がって傷口は元の白い肌を取り戻した。
さらに、ことりと小さな弾が外に出てきた。赤い血で濡れている。たったいままで、沙那の太腿の中にあったのだろう。
沙那の提案で、四人でさらに小移動して、さっき沙那が撃たれた場所からも離れた。
「ここで、もう一度、結界をお願いします、ご主人様」
沙那が囁いた。
すぐに、周りの空間が道術で包まれる気配も感じた。
新たな結界がここに刻まれたのだ。
再び金属音が辺りを貫いた。
三発、四発、五発――。
続いて発生する。
さっきの鉄砲の連続射撃だ。
しかし、撃たれている場所はここではない。
さっきまで宝玄仙と朱姫がいた場所に向かって、何発も鉄砲の弾が撃ち込まれているようだ。
「わたしらの影に向かって、撃っているようだね」
宝玄仙が言った。
「ご主人様、朱姫――。周りを……周りを燃やしてください。この闇の中では、隠れて囲んでいる向こうが有利です。火をつけて、襲撃者を炙り出しましょう」
沙那は言った。
「わかった、沙那――。朱姫、以前、教えた術は遣えるね? ただの薪を霊具に変えて、火を発生させる術だよ。霊具作りの初歩の術だ。それを遣いな。周りの草や樹の一部を霊具にして、火を発生させるんだ」
「わ、わかりましたけど……。だけど、離れた場所にあるものを霊具にするなんて……」
朱姫が言った。
「お前ならできる。やってごらん。いい機会だ。練習してみな。とにかく、もともと、生きとし生ける自然のものは、すべてに霊気が宿っているんだ。それを感じて動かすだけだ」
「わかりました。やってみます」
朱姫は結界の中で身体を小さく丸めたまま、両腕を前に伸ばした。宝玄仙は、朱姫と背中合わせになった。
たちまちに宝玄仙が向いている方向の離れた草木に炎があがる。
少し続いて、朱姫の向いた側にも火が発生した。
「で、できました、ご主人様」
朱姫が上気した顔で言った。
「よくやったよ、朱姫」
宝玄仙が朱姫の頭に手をやった。
一度燃えた炎は、周りの草木も燃え拡がりながら、どんどん大きくなっていく。襲撃者の狼狽の気配がはっきりと感じられるようになる。
ところどころから悲鳴や慌てふためく声も聞こえる。
「孫空女、相手が炎に耐えられずに、飛び出して来たらいくわよ。でも、鉄砲には注意してね」
宝玄仙の『治療術』を受けて、怪我の治った沙那は、剣を抜いて、飛び出す構えをしている。
「わかっているよ、沙那。どんな武器がわかってるなら大丈夫さ。狙い射ちされなけりゃあ、大丈夫なんだろう?」
「そうよ、孫女。鉄砲は、一発撃ったら、次の弾を撃つ準備に時間がかかるの。それが弱点よ。でも、あの感じだと、十数丁はあると思うわ」
「わかった」
孫空女は頷いた。
炎はどんどん拡がっている。
さっきまでは、こっちが焚火の灯りに照らされて、向こうが闇の中だった。
だが、炎が拡がることで、向こうも明かりに照らされるようになった。
樹木に隠れた襲撃者の影もちらほらと見え始める。
「十数人……いや、二十人というところかな……」
孫空女は沙那に囁く。
「鉄砲で襲撃するときには、同士射ちを避けるために反対側には、味方を回さないわ。敵は、音のする方向に集中しているはずよ。相手の指揮官もね」
また、激しい鉄砲の金属音が続いた。
今度は十発くらいが連続で鳴る。
いずれも、射撃の方向は最初に宝玄仙が作って、寝所の準備をした結界の方向だ。
まだ、宝玄仙が刻んだ影を宝玄仙と思い込んでいるのだろう。
「向こうの射撃に合わせて、影を消滅させたよ。撃たれて倒れたと思い込ませるようにね」
宝玄仙が小さな声で言った。
「攻撃やめ――」
女の声がした。
慌てふためくような気配とともに、煙と炎の中から、二十人ほどの女が飛び出してきた。
全身を真っ黒い服で包み、顔まで黒布で覆面をしている。
「いまよ――」
沙那が叫んで飛び出す。
孫空女も同時に飛び出している。
予想と違う方向からの気配に、草木から出てきた襲撃者たちが慌てている。
手に持った鉄砲らしいものをその場に投げ出し、腰の剣を抜こうとしている。
「もう、遅いよ――」
孫空女は、彼女たちが剣を抜くよりも早く、襲撃者の集団の中に跳び込んでいた。
真っ先に向かったのは、号令をかけた指揮官らしい女だ。
その指揮官が眼の前――。
すでに剣を抜いている。
その動きだけで、かなりの手練れであることはわかる。
だが、遅い――。
「そらよ――」
孫空女の『如意棒』が、その女の剣を叩き折った。
さらに、『如意棒』の反対側の先を指揮官の腹に打ち込む。
「うぐっ」
呻きともに、女が地面にうずくまり動かなくなる。
孫空女は振り向いた。
襲撃者の半数は、もう沙那が倒している。
残りの半分――。
逃げようとする者はいなかった。
全員を倒すのにそれほどの時間は必要としなかった。
「全員を集めな」
宝玄仙がやってきた。
孫空女は倒れて気を失っている女襲撃者たちを引きずって集めた。
沙那と朱姫は、燃え拡がりかけている火が大きくならない処置をするために、駆けていった。
一方で、集められた襲撃者を包み込むように、宝玄仙が結界をかける。
つまり、結界の檻を作ったということだ。
「さてと、全員、ひん剥きな、孫空女」
燭台を運んできて、灯りを地面に置いた宝玄仙が言った。
孫空女は指示のまま、近くの者から身に着けているものを剥ぎ取りはじめる。
統一された黒い装束は、彼女たちが訓練された襲撃者であることを感じさせた。
最初の女の服を脱がして、頭巾を取り去ると、案外若かった。身に着けている下着も、いかにも若い女が身につけそうな流行の形のものだ。
「下着も脱がすのかい、ご主人様?」
孫空女は一度顔をあげた。
「当たり前だろう。全員をすっぽんぽんにするんだよ」
言われたとおりに下着も剥ぎ取って全裸にする。
そして、次の女に取りかかる。
三人目にかかっているときに、その女が服を脱がされかけていることに気がついて、悲鳴をあげて抵抗の素振りを見せた。
それを宝玄仙が、道術で押さえつける。
「や、やめてっ―――」
哀願するものの、宝玄仙の術によって動けない女からは、簡単に服を取り去ることができた。
そのときには、ほとんどの女が気絶から回復していた。致命傷となるような傷を負った者はいない。
その数は、指揮官らしき女のほかに二十名だ。
女襲撃者たちは、あちこちで叫び声をあげているが、宝玄仙の結界による術に押さえつけられて、逃げることも抵抗することもできないでいる。
孫空女は、そんな彼女たちから機械的に服を脱がしていく。
半分ほど終わったところで、沙那と朱姫が戻ってきて合流した。
やっと、全員の装束を取り去った。
「さて、拘束を少しだけ緩めてやる。全員、立って並びな。少しでも逆らうと、この宝玄仙の道術の電撃が飛ぶよ」
すっかりと気を削がれて、大人しくなった襲撃者たちが、顔を蒼くして立ちあがる。
全員が裸体を寄せ合うように集まり立った。
「お前が指揮官だね?」
ひとりだけ堂々としている女に宝玄仙が言った。
孫空女が最初に打ち倒した女だ。
黒装束と同じ黒い髪をしていた。
年齢は三十くらいだろう。
鍛えあげた身体をしている。
その女はなにも喋らなかった。
ただ、身体を手で隠しながら、悔しそうに宝玄仙を睨んだ。
「生意気な眼だね。気に入らないよ」
宝玄仙は言った。
「ひいっ――。な、なにを――」
次の瞬間、その女指揮官は、両手と両足を大きく拡げた姿になった。
女の顔が恐怖に染まる。
「お前の名は?」
宝玄仙は女に詰め寄った。
「さ、さあね」
返事は拒否だが、声は震えている。
宝玄仙は、女の股間に手をやった。
「ひぎゃあああっ――」
女の絶叫が辺りに響いた。
宝玄仙の手には、その女の十数本の陰毛が握られている。
その毛を宝玄仙が空中に飛ばした。
「名前は? 本名でなくてもいいよ。お前をなんて呼んで欲しいのか言いな。本名を名乗りたくなければ、偽名を使いな。ただ、黙ったままなら、下の毛どころか、髪の毛も全部手で引っこ抜くよ」
女指揮官の顔が恐怖に染まる。
宝玄仙の手が再び、その女の手に向かう。
「く、黒子よ」
女が慌てて言った。
「黒子だね。わかった――。朱姫、こいつに『縛心術』をかけな」
宝玄仙が言った。
朱姫が、磔になった黒子と名乗った女の前に立った。
「な、なにをする気よ……」
黒子が朱姫と宝玄仙を交互に睨む。
「こいつは、術遣いじゃありませんね。少し、時間がかかります、ご主人様」
朱姫が言った。
「いいさ……。好きにしな、朱姫。だけど、できるだけ早くしな。『縛心術』をかけて、わたしらを襲った理由を喋らせなければならないからね」
「わかりました。じゃあ、朱姫の得意のやり方でいきますね」
そう言うと朱姫は、股を拡げている黒子の股間に手をやった。
そして、淫らに指を動かし始める。
「な、なにすんだよ……。お、お前……あっ……やっ……き、貴様……」
黒子がすぐによがりはじめる。
指の技も舌遣いもうまい朱姫のことだ。
あっという間に、黒子は追いつめられるだろう。
「あたしの手管に酔ってもらおうと思って……。あなたみたいな頑なな女性には、『縛心術』はかかり難いんです。でも、色責めされて心が弱っていると、もの凄く『縛心術』がかかり易くなるんですよ。知っていました、黒子さん?」
「ふ、ふざけるな……あ、ああっ……」
黒子がよがりはじめる。
「朱姫の舌も味わいますか?」
朱姫が屈んで、黒子の股間に舌を這いまわさせだした。
口づけのような愛撫を朱姫がしばらく続けていると、はっきりとした官能の仕草を黒子はしはじめた。
「ああ……ひあ……あああ……」
黒子の声が大きくなる。
「さて、あっちは朱姫に任せて、ほかの者にかかろうかね」
宝玄仙がほかの襲撃者の女たちに視線を向ける。
女たちが蒼くなる。
もはや、鉄砲を武器に、こっちを容赦なく襲った襲撃者の影はない。
ただ、宝玄仙の圧倒的な術の前に怯える女たちの姿があるだけだ。
「沙那、孫空女、お前たちは、この紐をこいつらの首に、首輪のように結んでまわりな」
宝玄仙は、沙那に細い糸の束を手渡した。
孫空女は、沙那とともに、その紐を怯える女たちの首に次々に巻いていく。
女たちは、無駄だと悟ったのか抵抗しようとはしなかった。
宝玄仙の渡した紐は、やはり霊具だった。
首にくるりと軽く巻くと、あとは勝手に拘束を強くして結び目が失ってしまう。
「その紐は、特別だからね。勝手に外そうと思っても外せないよ……。そうだねえ。どれにしようかねえ……」
宝玄仙はそう言いながら、足元に転がっていたなんでもない石ころを拾った。
「……これでいいかね。お前たちの首に結んだ紐とこの石ころを連動させたよ。この石ころと一定以上離れると、全身に電撃が走ることになる。逃げないことだね。我と思わん者は、逃げてみてはどうだい。もう結界術による拘束は外してあるよ。自由に逃げれるはずだ」
宝玄仙が言った。
二十人ほどの女たちが、お互いに眼を見合わせている。
そのうちのもっとも後ろにいるふたりが、じりじりと退がり出したのを孫空女は気がついていた。
次第にそのふたりだけが距離を取りはじめる。
孫空女は放っておいた。
ついにそのふたりが、反対を向いて駆けはじめた。
他の女たちが騒然となる。
「うぎゃあぁぁぁあ――」
「ひぎゃあぁぁ――あぎゃああぁぁ――」
しかし、ほんの少しだけ進んだところで、ふたりが同時に絶叫して倒れた。
眼を見開いてのたうち回っている。
「うぎゃあぁぁ――」
「あががががが――」
そのふたりがもがいている。
「ほら、さっさと戻って来るんだよ。そうすれば、電撃はとまるよ」
宝玄仙が冷たく言った。
しかし、そのふたりは、どうすることもできずにその場で転げ回っている。
残りの女たちは、ますます真っ蒼になり身を縮めて寄せ合うだけだ。
沙那が倒れもがいている女に寄る。
孫空女もそれに倣った。
ふたりで引き摺って、そのふたりをほかの女たちのそばまで寄せる。
やっと電撃が収まったのか、ふたりの女の悲鳴ともがきがとまる。
しかし、ふたりとも、その場から立ちあがれないでいる。
ふたりの股間からは、洩らした尿が垂れ出ている。
宝玄仙は、満足気にそれを眺めると、集めてあった女たちの衣類に手を伸ばした。
次の瞬間、その衣類が高い炎を出して燃えあがる。
「きゃあ――」
「ああっ」
「ああ、そんなあ」
女たちが一斉に悲鳴をあげた。
全裸にされた女たちの衣類を燃やされたということは、女たちは、これから全裸で移動しなければならないということだ。
「なにか文句があるのかい、お前ら?」
宝玄仙が女たちを睨んだ。
女たちは、すくみあがった。
朱姫と黒子のいる方向から、大きな女の嬌声が響いた。
孫空女は視線をそっちに戻す。
手足を拡げた黒子が朱姫の指で激しい声をあげたのだ。
黒子の耳元で朱姫はなにかを囁き続けている。さっきと比べて、随分と黒子の表情は虚ろになっている。
「もう、いきたいですか、黒子さん?」
かろうじて朱姫の囁き声が聞こえた。
「う、うん……」
「じゃあ、あたしに身を任せてください。楽にして、ほら、気持ちいですよね……」
朱姫がそう言いながら、指の動きを強くした。
「気持ち……いい……」
黒子の声はもう完全に弱々しい。
その声と身体がさらに震える。
そして、がくがくと身体を震わせて、絶頂の仕草をした。
その間も朱姫は、黒子の耳元でなにかを囁き続けている。
気をやってからもしばらくは、朱姫は黒子の股間を指で愛撫している。
次第に黒子の顔がぼんやりとしていくのがわかる。
やがて、朱姫は黒子から手を離した。
「……ご主人様、終わりました。黒子は、あたしの『縛心術』にかかりました」
朱姫が宝玄仙を見る。
「ご苦労だったね、朱姫。じゃあ、なぜ、わたしらを襲ったのか訊くんだよ」
朱姫が黒子に向き直る。
「じゃあ、黒子さん、あたしらを襲った理由を言いなさい」
朱姫が黒子に言った。
黒子の身体が震える。しかし、その口は開かない。
「強い暗示にかかっています。大丈夫です。あたしの術で白状させますから」
朱姫が言った。
そして、朱姫は、しばらく、なにかを黒子の耳元でささやき続けていた。
「さあ、もう一度、訊くわよ、黒子さん。なぜ、あたしたちを襲ったの?」
黒子の口が少しずつ開いていく。
しかし、突然、黒子の身体が大きく震えた。
そして、口から血を噴き出す。
「しまった――。毒を口の中に隠していたね」
宝玄仙が叫んだ。
そして、黒子を拘束していた術を解く。磔にされていた黒子の身体が地面に倒れた。
「そ、そんな……。『縛心術』にかかっているのに自殺するなんて……」
朱姫がその身体を抱き受けた。
「ちっ」
宝玄仙が黒子の口を掴む。
しかし、みるみるうちに黒子の顔は白くなり、ついに、完全に生気を失った。
孫空女の眼にも、黒子の命が失われたのはわかる。
沙那が近寄って、黒子の口を開けさせて、中を覗き込んだ。
「奥歯に毒薬を隠していたみたいです、ご主人様。噛みしめれば、毒を入れた容器が破れるようになっていたようです」
沙那は顔をあげて言った。
「こいつの身体に結界を刻んでから術を送ろうとしたけど、さすがに間に合わなかったよ」
宝玄仙が言った。
「じゃあ、雑魚どもから白状させるしかないね。まあ、どこまで承知していたかわからないけどね……」
宝玄仙が黒子の屍体から身体を離し、じろりと拘束した女襲撃者たちに視線をやった。
そして、女たちを孫空女たちに見張らせ、一度、荷のある場所に向かった。
戻って来たときには手に、一尺(約三十センチ)ほどの真っ白い人形を持っている。
顔の部分には口と鼻もある。
「ご主人様、それは、なに?」
「わたしの新しい霊具さ。『操人形(改)』さ。ちょうどよかったよ。実験代わりに、一度に二十人が操り人形にできるのか試してみるさ」
宝玄仙はそう言い、『操人形(改)』を首に紐を巻いている女たちに向けた。女たちは怯えている。
その女たちと宝玄仙の持っている操人形がなにかの力で結ばれたのが孫空女にはわかった。
「結ばれたね。これで、こいつらは、操り人形だ。この人形に念を込めて動かせば、そのとおりに全員が動くよ」
宝玄仙が人形の顔に指をやって、口を開かせた。
悲鳴が一斉に起きた。
残った二十人の女たちが大きく口を開けている。操人形の口を宝玄仙が開かせたので、女たちの口も同じように開いたのだ。
おそらく、宝玄仙の持っている人形の口が閉じるか、宝玄仙が念を込めるのをやめない限り、女たちは口を閉じられないのだろう。
「まずは、こいつらも口の中に毒を隠していないか調べようか。ついでに、女陰と尻の穴もだ。なにを隠しているかわかったもんじゃない。三人で調べて回りな」
宝玄仙はそう言って、また、操人形を動かして、その脚を拡げた。
全員の脚がその場で大きく開かれる。また、一斉に悲鳴が湧く。
「じゃあ、始めようか」
孫空女は手近な女のひとりに寄った。
沙那と朱姫もそれぞれに分かれる。
「力を入れるんじゃないよ。すぐに終わるから」
眼の前の怯える女の口の中を調べ終わった孫空女は、指を女の女陰にゆっくりと挿していった。