※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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179 痴女集団の行進

 沙那は嘆息した。

 女人国の国都に向かう街道だ。

 一応は、あまり人のいなさそうな間道を選んでいるのだが、それでもさすがに国都のすぐ近くであり、人目は避けられない。

 その道を総勢二十人の女の全裸行進が続いている。

 沙那は、孫空女とともに最後尾にいる。

 宝玄仙と朱姫は先頭だ。

 ふたりとも大張り切りだ。

 

「本当に悪趣味だよね、ご主人様も……。それとも、朱姫かな?」

 

 孫空女が沙那にささやいた。

 その孫空女は十丁の鉄砲を束にして縛り、背中に背負っている。

 かなりの重量のはずだが、けろりとしている。

 

「悪趣味なのはふたりともよね……。でも、あの『操人形(改)』って、わたしたちに遣うつもりだったのでしょう。そういう意味では、あんな目に遭わなくてよかったわね」

 

 沙那は言った。

 二十人もの女襲撃者が、特に拘束されることもなく、宝玄仙について歩いているのは、首に巻かれた白い紐によって、宝玄仙から離れると全身に電撃が浴びせられるからというだけではなく、現在、彼女たちの全員が、宝玄仙の新しい霊具である操人形に刻まれているからだ。

 

 『操人形(改)』というのは、いつぞやの『操人形』を改良したものらしいが、一尺(約三十センチ)ほどの真っ白い人形の霊具であり、この人形に刻まれた者は、人形を持っている者が念を込めて人形を動かすと、その人形と同じように身体が動いてしまうという効果がある。

 それだけではなく、人形に与えた刺激が、刻まれた相手にも伝わってしまうという性質もあり、文字通り、人間を操り人形にしてしまう霊具なのだ。

 

「あひあっ」

「いやああ」

「ああん」

「ひいいっ」

 

 間道を一列になって歩いていた女たちが、一斉に嬌声をあげて腰をくねらせはじめた。

 また、先頭で操人形を持っている朱姫が、人形の股を擦ったのだろう。

 さっきから何度も何度も、同じようなことを繰り返して、女たちに官能の悲鳴をあげさせている。

 

「たくさん、いじくってやったから、お前たちもそろそろ気をやりたいだろう? ここらで、一回やっておこうかね」

 

 前の方から宝玄仙の大きな声がした。

 女たちの喘ぎ声が大きくなる。

 今度は、途中でやめることなく、女たちの全員が絶頂するまで、人形の股を擦り続けるつもりのようだ。

 

 立ちどまった女たちが苦しそうに悶える。

 もう立っていられなくて、股間を押さえてしゃがみ込んでいる女もいる。

 こうなってしまえば、宝玄仙や沙那たちを襲った襲撃者たちも、抵抗する術(すべ)を失ったただの若い女たちにすぎない。

 無理矢理与えられる快楽に、女たちはひとりふたりと絶頂の声をあげていく。

 

 しかし、宝玄仙と朱姫のことだ。

 それでも許さず、最後のひとりが達するまで、彼女たちに操人形を通じて快感を与えて、淫らに身体を震わせ続けさせるに違いない。

 

 結局のところ、黒子と名乗った女指揮官が自殺した後の彼女たちへの訊問では、なんの情報も得ることはできなかった。

 黒子が誰かの任務を受けていたのは確実のようだが、黒子の指揮を受けていた彼女たちは、黒子から指図を受けるだけで、自分たちがどういう役割で、宝玄仙を襲撃したかということについては、なにひとつ知らされていないようだった。

 

 ただ、こういった襲撃は何度もやっており、命じられた相手を襲って殺すか拉致する。

 それが彼女たちの役割だったということはわかった。

 その場で殺すか、捕まえて誰かに引き渡すかは黒子が決める。

 彼女たちは、ただ普段は訓練し、必要があれば呼び出されて集まり、任務を遂行するだけのようだ。

 今夜は鉄砲を使用したが、彼女たちの全員が剣でも小刀でも、鉄砲でもなんでも遣うことのできる熟達した殺し屋らしい。

 その彼女たちも、いまでは、宝玄仙の操り具に捕らわれた哀れな犠牲者だが……。

 

 ひとりひとりに対する訊問が成果なく終わると、宝玄仙は、この女たちを盗賊として、女人国の国都まで連れていき、兵に引き渡すことを決めた。

 女たちの装束もすでに焼き払ったから、女たちは裸で行進するしかない。

 宝玄仙は、彼女たちの首に巻いた紐と道術で結んだ石ころを懐に持っている。

 その石から一定距離が離れれば、女たちの身体に電撃だ。

 だから、彼女たちは、宝玄仙が歩けば、後ろからついていくしかない。

 

 そういえば、孫空女が最初に宝玄仙に捕えられたときも、ああやって宝玄仙は山道を全裸で歩かせた。

 あのときは、宝玄仙は一定距離が離れれば電撃が走る対象として、自分が嵌めていた指輪を使っていた。

 しかし、その後、孫空女は宝玄仙から逃げ出して、しかも、その置き土産に宝玄仙の股間に掻痒剤を塗りたくっていった。いまとなっては懐かしい。

 

 もっとも、いま、宝玄仙が連行している女たちについては、もはや、逃げ出すことを心配する必要はないだろう。

 朝まで続いた宝玄仙による訊問は、彼女たちのひとりひとりから抵抗の気力を完全に奪っていた。

 電撃の恐怖や操人形などなくても、彼女たちはもう宝玄仙の命令に逆らうことはなかったかもしれない。

 

 とにかく、宝玄仙の趣味の混じった訊問は朝まで続いた。

 そして、明るくなってから、二十人の全裸の女と、宝玄仙たちの移動が開始された。

 移動に先立ち、宝玄仙は女たちの全員の身体の前後に、“私たちは盗賊です”という文字を道術で刻んだ。

 

 いま、その文字を刻んだ女たちが、地面にうずくまって激しい官能の悶えに身体をくねらせている。

 最初に絶頂した者は、二度目に向かって突き進んでいる者もいるし、まだ、最初の絶頂を耐えている者もいる。とにかく、往来の道端で、二十人もの若い女の嬌声の合唱が続いている。

 

 奇異の視線で立ちどまる旅人たちも次第に増え、いまでは合計三十人ほどの旅人が、この唖然とする光景を見物している。

 旅人の全員が女だ。

 ここは女人国で、女しかいない土地なのだ。

 最後の女が絶頂した。

 女たちの喘ぎ声がやんだ。

 

「ほら、すっきりしたところで、もう行くよ。立ちな――」

 

 宝玄仙の声が響く。

 何人かは、まだ啜り泣きをしている。

 その女たちが身体をふらつかせながら立ちあがる。

 

「前進――」

 

 宝玄仙が、愉しそうに号令をかけて、進み始める。

 女たちが首をうなだれて歩き出す。

 

「ところで、沙那はどう思う? 本当にただの盗賊かな?」

 

 歩きながら孫空女が囁いた。

 

「ただの盗賊に見えないわ。あなたはどう思う、孫女? ご主人様とあたしを襲って荷物と衣類を奪おうとした元盗賊の頭領として――」

 

 沙那は皮肉っぽく孫空女に言った。

 

「嫌な事言うねえ、沙那……。そうだね。あいつらは単なる盗賊じゃないよ。盗賊っていうのは、もっと荒んでいるものさ。農民になれない。商売も駄目。まっとうな仕事で人に雇われて働くこともできない。そういう人間が食い詰めて盗賊になるのさ」

 

「彼女たちは、それとは違う?」

 

「ああ、そうさ。あんなに一糸乱れずに行動できるほど鍛えられ、しかも、徹底した管理で不要な情報を知ることなく動くことができる集団なんて、普通じゃないよ」

 

「単なる盗賊でなければなに、孫女?」

 

「軍兵とか」

 

「そう思う?」

 

 沙那は低い声で言った。

 

「思うよ。あいつらは、特殊な仕事をするための兵として鍛えられていたんじゃないかな」

 

「そのわりには、ご主人様や朱姫の道術の訊問でも口を割らなかったわね」

 

「多分、自分たちでも知らずに、そうやって特殊な兵としての調練を受けていたのさ。どこかの私兵としてね」

 

「特殊すぎるわね……。でと、私兵として鍛えられていた特殊兵として、彼女たちが、なんで、わたしたちを襲う必要があるのよ」

 

「そんなの、あたしにわかるわけないじゃないか。考えるのは沙那の仕事だよ」

 

 孫空女は肩をすくめた。

 沙那は、嬌態を見せながら全裸で歩いていく女襲撃者たちを眺めながら考えた。

 二十人の襲撃兵の彼女たちはもちろんだが、それを率いていた黒子と名乗った女は尋常ではなかった。

 宝玄仙に捕えられ、『縛心術』で背後関係を喋らせそうになると、あっさりと毒薬を飲んで自殺した。

 それひとつだけでも、普通じゃない。

 

 そして、黒子の死により、それ以上、ほかの女に訊問しても無駄なようになっていて、沙那たちはなんの情報も得ることができなかった。

 一体全体、なんだったのだろうか。

 いずれにしても、意味のある推測をするには、情報がなさすぎる。

 

 道は間道を抜けて、再び国都に通じる大きな街道に合流した。

 周囲の騒ぎが大きくなってきた。

 二十人もの女の全裸行進だ。

 人の眼を引かないわけがない。

 多くの人間が周りに集まってくる。

 

 だが、女たちの背中に書かれた文字と、宝玄仙の醸し出す雰囲気にのまれて、声をかける者はいない。

 国都の街に入る城郭の外門らしきものが見えてきた。

 

「さあ、じゃあ、今度は、観客も集まったところでここで、もう一回、気をやってもらうよ。今度は立ったままだ。ほら、お前ら、股を開きな」

 

 女たちが一斉に悲鳴をあげた。

 しかし、朱姫がこれ見よがしに、宝玄仙の隣で操人形を高くあげて、その脚をぐいと開いた。すると、女たちの脚が一斉に開く。

 周囲が騒然としはじめた。

 

 女たちの破廉恥な姿に驚いたわけではなさそうだ。

 宝玄仙の術にびっくりしたようだ。

 二十人もの女が、たったひとつの人形に操られているという行為にざわめいている。

 

「みんなあー、朱姫の舌技を味わってねえ」

 

 朱姫がそう言いながら、持ちあげていた操人形を自分の口の前に持っていくと、人形の股間を舐めはじめた。

 女たちが同時に声をあげて悶えはじめた。

 悲鳴のような声をあげ続けて、よがり狂う女たちだが、股を開いて立った姿勢を崩せないでいる。

 

 ここは城門のすぐ近くだ。

 喧騒が大きくなると何事かと城門の中からも人が出てくる。

 あっという間に人だかりができ始める。

 女たちが上体を反り返らせて、ひとりふたりと悶絶していく。

 それでも、朱姫の舌はとまらない。

 だから、まだ達する途中の女も、一度いった女も、官能の波に身体をくねらせ続ける。

 

「ほら、お尻にも刺激をやるよ、お前たち」

 

 宝玄仙が朱姫が舐めている操人形のお尻の部分に手を伸ばして、指で擦りはじめる。

 嬌声をあげていた女たちの声と身体の乱れ方が激しくなった。

 当然、周囲の見物人の声も大きくなる。

 

「ねえ、いいの、沙那? あのまま、調子に乗らせておいて……」

 

 孫空女が沙那に声をかけた。

 

「そ、そうね。そろそろ、やめさせてくる」

 

 呆気にとられて見守っていた沙那は、我に返って、集団の先頭に向かって駆けた。

 

「ご主人様、もう、やめましょう――。これ以上やると大騒ぎになります――。朱姫、もう、やめなさい」

 

 沙那は、宝玄仙と朱姫のいる場所まで進むとそう言った。

 

「どうしてですか、沙那姉さん? これからが面白いのに」

 

 朱姫が操人形から口を離して、不満そうに言った。

 しかし、人形を宝玄仙が取りあげて、股間とお尻への刺激は継続した。

 従って、女たちの嬌声とまらない。

 

「そうだよ、沙那。こいつらは、わたしらを殺そうとした連中だよ。どこまでも恥をかかせてやればいいのさ。このまま、しばらくは、集まった観客の前でのいき狂いの嬌態を演じてもらうつもりさ」

 

 宝玄仙が言う。

 次第に、女たちの嬌声が大きくなる。

 会話もしづらくなるほどだ。

 それに、周囲を取り巻く見物人の数も多くなっている。

 いまや、大騒ぎといっていいような状況になりかけている。

 沙那もまた、声を大きくせざるを得ない。

 

「でも、ご主人様、周りを見てください。もう、大騒ぎじゃないですか」

 

「いいんだよ、沙那。別に、悪いことをしているわけじゃない。わたしらを襲おうとした盗賊をわたしの道術で懲らしめているだけだ。朱姫と話し合って決めた計画が詰まっているんだよ。邪魔すんじゃないよ、沙那」

 

「そうですよ、沙那姉さん。恥をかいてもらうには、たくさんの人間に見られた方がいいんです。それで、城門の前まで来たんですから」

 

 朱姫がそう言って、宝玄仙が愛撫している操人形の胸の部分を擦りはじめる。

 

「計画ってなんですか?」

 

 沙那は言った。周囲の声が大きいので、結構、沙那の声も大きい。

 すると宝玄仙と朱姫が、同時ににやりと微笑んだ。

 

「じゃあ、説明しますね、沙那姉さん。まずは、しばらくは立ったままいき狂いです……。ところで、そろそろ、少し趣向を加えますね……」

 

 朱姫が宝玄仙が持っている操人形の脚をただ開いた状態から、ぐいとがに股に変えた。

 

 どっという声が周囲からあがる。

 沙那は振り返った。二十人の女たちが、がに股姿に変わっている。

 その姿勢のまま、激しくよがり狂っている。

 

「……立ったままいき狂いの後は、操人形を遣って、彼女たちに自慰をさせます。最初は、股間ですが、最後にはお尻です。次は、全員で裸踊りです」

 

「裸踊り?」

 

 沙那は思わず声をあげた。

 

「それが終わったら、ふたりひと組にさせて、ここで性愛をさせます。予定では、その頃には、抵抗の意思を失って、人形を遣わなくても、言いなりになっているはずなんです。最後は、四つん這いにして、片脚をあげておしっこをさせます」

 

 朱姫はあっけらかんと言った。沙那は、呆れて、すぐには言葉が出なかった。

 

「……朱姫、くすぐり責めが抜けているよ」

 

 宝玄仙が言った。

 

「そうでした。それを忘れていました。裸踊りの次は、両手両足を拡げて地面の上で横にさせて、徹底的なくすぐり責めです。その後に、ふたりひと組の性愛です」

 

 朱姫は言った。

 

「ま、まさか、それを本当にここで全部やりつもりですか、ご主人様? ここで?」

 

「当たり前だろう、沙那――。なにか、問題でもあるのかい?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「も、問題って……。大ありです。ここは外ですよ。しかも、国都の城門の真ん前です」

 

 沙那は声をあげた。

 宝玄仙は、なにかを言おうとしたが、さらに沸き起こった騒ぎに、気を取られてそちらに視線を向けた。

 沙那もそっちを見る。

 

 城門から棒を持った兵の一隊が出てきたのだ。

 軍服を着ている。

 どうやら、国都に駐留する軍の一隊のようだ。

 集まっていた群衆を掻き分けて、こっちにやってくる。

 

「この騒ぎの責任者は誰だ?」

 

 指揮官らしき女将校が、こっちにやってきて叫んだ。

 すでに、宝玄仙が連れてきた二十人の女たちは、百人ほどの女の兵に囲まれている。

 ただ、まだがに股姿のまま嬌声をあげ続けている。

 宝玄仙が操人形への愛撫をやめないからだ。

 

「わたしだよ、お前は誰だい?」

 

 宝玄仙は、操人形を操りながら言った。

 女将校は、それを見てぎょっとした表情をした。

 

「こ、これは……。ど、道術か?」

 

 女指揮官が声をあげた。

 

「そうだよ。こいつらは、昨夜、わたしらを襲った盗賊の連中だよ。だから、ちょっと、術で懲らしめをしているところさ――。文句があるのかい?」

 

 宝玄仙は、女将校に邪魔だと言いたげな視線を向けた。

 

「お前は……い、いえ、あなたの名は?」

 

 女将校が急に口調を改めた。

 

「宝玄仙だよ。お前こそ、名乗りな」

 

 宝玄仙がそう言うと、女将校は、天保女(てんぽうじょ)と名乗った。

 

「ご主人様、少し、それをやめてください」

 

 沙那は叫んだ。

 

「ふん」

 

 宝玄仙は面白くなさそうに、操人形を沙那に放った。

 沙那は、慌てて、それを両手で受ける。

 女たちの嬌態がやっととまった。

 派手にあがっていた嬌声がやみ、一斉にその場に座り込んだ。

 ところどころから啜り泣きが聞こえてくる。

 

「わたしは、女人国の国都の警備を預かる警備大隊の大隊長のひとりです。ところで、いま、道術と言われましたか?」

 

「そうだけど、わたしを襲った盗賊を撃退するのに、道術を遣っちゃ駄目なのかい?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「い、いえ……。しかし、一応、事情を確認したいのですが……」

 

 国都の警備を預かる大隊長といえば、かなりの身分に違いない。

 しかし、それにもかかわらず、天保女の態度や口調は、通りすがりの異邦人に対するものとしては、非常に慇懃なものだ。

 女人国は、道術遣いが珍しい国らしいが、その地位も高いのだろうか。

 

「事情は、この沙那から聞きな」

 

 宝玄仙は沙那を顎で指した。

 沙那は、簡単に昨夜の襲撃の状況を説明した。

 

 襲撃後、宝玄仙と朱姫が淫靡な訊問をしたことはなるべく伏せたが、襲撃者たちの黒装束や下着を焼き払ったことと、宝玄仙の魔具で操っている状態であることについては、説明に加えねばならなかった。

 また、襲撃を指図した女指揮官が訊問の最中に毒で自殺したことと、遺体をそのままにしていることにも言及した。

 

「わかりました。襲撃の現場とその黒子という女の屍体はこちらで確認します。その上で、改めて事情をお伺いしたいことがあるかもしれません。ご協力を願えますか?」

 

 天保女は言った。

 

「わたしらは、城郭の中で適当な宿を見つけて泊るつもりだよ。そこに来てくれればいい。それでいいかい?」

 

「ありがとうございます。念のために、宿まで部下を同行させます」

 

 これだけの騒ぎを起こしたのだ。このまま連行されてもおかしくない。

 宿に入った後、必要により事情を説明するだけでいいというのは、随分と丁寧な扱いだ。

 

「もちろん、事情が判明するまで、宿の周囲は兵に警護させます」

 

「警護は特に必要ないけどね。それよりも、孫空女――」

 

 宝玄仙は大きな声で、孫空女を呼んだ。

 銃を背負っている孫空女がやってきた。

 

「これがこいつからが遣っていた武器だよ」

 

 宝玄仙はそう言いながら、孫空女の背中から銃をおろさせた。

 天保女が目を丸くしながら、部下を呼んで鉄砲を受け取らせる。

 

「この国では、鉄砲という武器が簡単に手に入るのですか?」

 

 沙那は訊ねた。

 

「とんでもない。鉄砲の売買も所有も、死刑に該当する罪です。禁制品のひとつですよ……。それにしても、十丁も……。いったいどこから……? ともかく、彼女たちには厳しく訊問をする必要がありますね」

 

 天保女は、厳しい視線をうずくまっている女たちに向けた。

 

「ほらよ」

 

 宝玄仙が懐に入れていた石を天保女に見せた。

 

「これは?」

 

「こいつらは、この石についてくるよ。この石から離れれば、地獄の電撃が身体に浴びるからね。それこそ、必死について来るよ。その石を使って牢でも兵舎でもつれていくといいよ」

 

「こんなもので? これは霊具ですか?」

 

 天保女はびっくりしている。

 

「ただの石ころだよ。霊具は、あいつらの首に巻いている紐だ。この石は、たまたま道に置いていたものに、あの首の紐から出る霊気を反射させているだけさ。なんだったら、お前の提げている剣に結び直してやってもいいよ」

 

「そ、そんなことができるのですか?」

 

 宝玄仙の言葉に天保女が声をあげた。

 

「できるさ」

 

 宝玄仙が一瞬だけ真顔になり、そして、石ころを道に放った。

 それで、あの女たちの首の紐に刻まれている魔術道が石から、天保女の剣に刻み直されたのだと知った。

 しかし、後ろにしゃがみ込んでいた女たちが、一斉に悲鳴をあげた。

 

 女たちは、ここに来るまでに、宝玄仙にからかわれて、さっきの石を遠くに投げられたり、いきなり朱姫に持たせて走らせたりして、電撃責めに遭わされてきた。

 この石から離れたら電撃に苦しむことになることが骨身に染みこまされている。

 だから、宝玄仙が石を捨てたことで大声をあげたのだ。

 

「心配ないよ、お前ら――。お前らの首の紐は、この将校さんの剣に刻み直した。今度は、一生懸命にこの将校さんについていきな」

 

 宝玄仙が叫んだ。

 女たちが複雑な表情をした。

 

「それじゃあ……、天保女様。わたしたちは、これで……」

 

 沙那は軽く頭を下げた。

 天保女が、部下のひとりを呼んで、宿まで一隊を率いてついていくように命じた。

 命じられたのは、飛輪(ひりん)という名の将校であり、どうやら、隊の第二位の地位にあるようだ。

 一緒に行く人数は、二十人というから、警護というよりも見張りの意味が強いに違いないと沙那は思った。

 

 

 *

 

 

 壱都(いと)が「舌人形」を蹴りあげた。

 なにか、彼女に粗相があったわけではない。

 気に入らないことがあったときの壱都の日常だ。

 

 手足のない舌人形は、この理不尽な壱都の仕打ちにも、抵抗する術もなく、ただ、耐えるだけだ。

 彼女は、一度仰向けにされると、なかなかひとりではうつ伏せになることもできない。

 だから、腹といい、胸といい、顔面といい、狂ったようにやってくる壱都の蹴りを苦痛の悲鳴をあげてのたうち回っている。

 

 那美(なび)は、その様子をじっと見守るしかなかった。

 壱都の寝所に来るのは三日ぶりだ。

 

 相変わらずの淫靡な香が充満している。

 那美は、入ったばかりだというのに、また、いつもの股間の疼きを感じていた。

 もっとも、報告を受けた壱都の反応は、熱くなりかけている那美の肉体を冷やすのに十分なものだった。

 

 何発目かの蹴りが、舌人形の顔面に入った。

 口からまとまった血を噴き出した舌人形は、それで動かなくなった。

 那美は、思わず眼を背ける。

 

 壱都が肩で息をしている。壱都は、舌人形……すなわち、前女王の陽炎子(ひむこ)に暴力をぶつけることで、やっと興奮が収まったのか、那美に向けた顔は、思ったよりも落ち着いたものだった。

 

「……それで、その宝玄仙という道術遣いは国都に入ったのだな、那美?」

 

「はい。一隊を宿につけておりますが……」

 

 宝玄仙と三人の供は、いくつかある国都の宿の中で、中の下というところの平凡な宿にいる。

 いまのところ、これといって動きはない。

 しかし、あの道術遣いが郊外で披露した術の凄さの噂を聞いた人間が、ひっきりなしにその宿に宝玄仙を訪ねに行っている。

 那美は、簡単に現在の状況を説明した。

 

「那美、宝玄仙に面会に行った人間をすべて調べあげよ」

 

 壱都が苛ついた口調で言った。

 

「すでにやっております」

 

「ふん……。新女王の可能性がある者がやってきたと知ったら、すぐに振る尻尾をそっちに向ける連中だ。すべてが終わった後で、目に物言わせてくれるわ」

 

 壱都が不機嫌な視線をまた前女王に視線を向けた。

 いまは「舌人形」と呼ばれている彼女は、最後に蹴られた状態からまったく動かない。

 口から吐いた血が、床に染みを作っている。

 ただ、死んではいないようだ。

 かすかに胸が上下している。

 壱都が術を施せば、すぐに回復するのだろうが、いまはその気はないようだ。

 

「もはや、密かに抹殺することは得策ではございません」

 

 那美は言った。

 その言葉が壱都の意に沿わぬことはわかっている。

 しかし、言わねばならないことだ。

 

 この女王が、手を回して国都に入る前の宝玄仙一行を襲撃させたのはわかっている。

 そして、失敗した。

 単に失敗しただけじゃない。

 あの襲撃をうまく利用して、宝玄仙は自分が、「女王挑戦者」として相応しいことを国都の民衆に示してみせた。

 

 鉄砲で武装させた女王の暗殺隊をあれほどに完膚なきまでに無力化し、彼女たちを国都に連行するなどして、その術の凄さを国都の民衆に見せつけたのだ。

 那美自身も群衆に紛れて、城外で行われた「見世物」を見物したが、哀れに術で操られる女王の暗殺隊の姿を見て度肝を抜かれた。

 あれ程に自在に二十人もの人間を操る術など、これまでに接したことはない。

 もしかしたら、いまの女王よりも道術力が上回るかもしれない。

 

 すでに、あの一件が、尾ひれを付けた噂話として、国都中に蔓延している。

 「偉大な道術遣い」が国都に入ったことは知れ渡り、もうすぐ、女王挑戦の儀式が行われるということを多くの人間が期待とともに信じ始めている。

 

 女王挑戦者に相応しいかどうかを定めるのは「神祇庁(しんぎちょう)」の役割だが、おそらく、宝玄仙の意思さえあえば、認めるしかないだろう。

 神祇庁の唯一の役割は、女王挑戦の儀を取り仕切ることであり、いくら女王の権力でも、神祇庁を操作することはできない。

 

 それに、あの宝玄仙は、城門の前で行った派手な道術の見世物で、完全に民衆の言の葉に乗ることに成功している。

 いま、宝玄仙が理不尽に死ねば、ただでさえ評判のよくない女王が、裏で手を回してやらせたと民衆は信じるだろう。

 

 女王挑戦の儀が正しく行われないということが知れてしまうと、この国は暴動が起きる。

 女王は、女王挑戦の儀を通じた神意によって立つ――。

 それが女人国の民の信じていることだ。

 挑戦の儀を否定すれば、その神意を女王が否定してしまうことになる。

 女王の挑戦を受けない女王は、その瞬間に民の敵となる……。

 

「宝玄仙は、女王に挑戦するのか……?」

 

 壱都は言った。

 その表情には、苛立ちとも焦りともとれないものが浮かんでいる。

 

「わかりません……。しかし……」

 

 那美は顔を伏せた。

 那美は、自分の心に浮かんだ言葉をさすがに続けることはできなかった。

 本当は、那美も信じ始めているのだ。

 

 もしも、より道術力の強い者が女王になるというのが、この国の神の意思であるならば、宝玄仙がここにやってきたのは、彼女を新女王にするという神の意思であろうと……。

 

 あの城門の外で触れた宝玄仙の道術――。

 

 それは、この残酷で気まぐれな壱都の道術よりも確かに上回るのではないだろうか。

 宝玄仙という人物が、どのような人物かはわからないが、この壱都よりも、残酷で冷酷で嗜虐的ということはないだろう。

 那美は、一礼をして、この淫靡な空気の充満する部屋を辞去した。

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