対決が終わるまで待機をするようにと言われた部屋は、なかなかの居心地のよさそうな部屋だった。
部屋の中には、座り心地が抜群の椅子もあり、部屋の脇に準備された大きな卓には、たくさんの果実や料理、そして、飲み物が並んでいる。
ここは、現在のこの国の女王と宝玄仙との道術対決が終了するまで、沙那が孫空女と朱姫とともに待機するように命じられている部屋だ。
待機ということになっているが、つまりは監禁だ。
女王の地位を争う対決に当たり、この国の現在の女王の
女王挑戦の儀については、明確な公平を保つために、女王の権威は通用しないことになっている。
しかし、沙那たち三人が、宝玄仙に接しないというのは、もっともな理由があった。
沙那たちのうち、朱姫はれっきとした道術遣いであり、道術対決の場に朱姫がいるということは、勝負の公平性が損なわれるというのだ。
その主張は当然であり、納得せざるを得ない。
女王側には、壱都以外には道術遣いはいないからだ。
沙那と孫空女は、道術遣いではないが、霊具が遣えるという時点で、世間では術遣いとみなされる。
それに、沙那自身も、自分が術遣いなのか、そうでないのか判断がつかない。
術遣いしか扱うことができないといわれている霊具を沙那も扱えるのは事実なのだ。
「勝負がつくまで、どのくらいの時間がかかるのかなあ?」
孫空女が部屋の隅の卓の上から、果実をとって口に入れながら言った。
「さあね、ご主人様だったら、あっという間じゃないかしら――。それ、おいしそうね。わたしにもちょうだい、孫女」
「あいよ」
孫空女が、自分が口にしていた赤い果実を沙那に放った。
沙那はそれを空中で受け取って口にする。
甘い汁が口に中に拡がる。
さすがは、宮廷で準備するものだ。質もいいようだ。
「あたしも貰えますか、孫姉さん」
沙那の横に座っている朱姫が言った。
「ほら」
果実が飛んでくる。
朱姫はそれを両手で掴んだ。
「わあ、おいしいです」
朱姫がひと口食べて嬉しそうな顔をした。
「だよね」
孫空女も食べながら顔をほころばせた。
「だけど、ご主人様がこの宮廷の女王になったら、あたしたちは、本当にどうなるんでしょう?」
しばらくして朱姫が言った。
「側室とか言ってたっけ……」
孫空女だ。
「その側室というのが、よくわからないんですけど」
朱姫が言った。
「そうだね。ねえ、沙那――。実は、あたしにもよくわからないんだけど、側室というのは、王の……ご主人様の場合は女王か……。その女王の妻だって、沙那が説明していたような気がするんだけど、なんなのそれ?」
考えてみれば、孫空女も朱姫も、貴族社会とは縁のない生活をしていた。
一般庶民が側室を持つことはないから、側室という言葉に縁がないのは不思議ではない。
「簡単に言えば、王の性の相手をする女のことね……」
沙那は説明した。
「性の相手?」
「正式の妻のほかにね。通常は、正妻である妃がいて、その以外の女を側室と呼ぶわ。ただ、その国の仕来たりによっては、側室ではなく、第二妻とか、第三妻とか呼ぶ場合もあるわ」
「つまりは、妾のことかい」
孫空女は言った。
「王が側室を持つのは、性の相手ということもあるんだけど、子孫である子をできるだけ多く作るという目的もあるのよ。子が多ければ、有能な人材が産まれる可能性が高いし、政略結婚の道具とする材料も多くなるということね」
「だけど、沙那、この国の女は、例の
「確かにそうね、孫空女。それに、女王は、世襲じゃなくて、道術対決という神意で決めるしね。この国の側室は、純粋に性愛が目的ね。わたしたちが、側室になるということは、わたしたちの唯一の存在意義が、ご主人様の性の相手をして、満足させることになるということよ、孫空女」
沙那は肩をすくめた。
「まあ、どっちにしても、いまの立場と、そう変わらない気がしますね」
朱姫だ。
「どうせ、しばらく、この宮廷で過ごすなら、武術師範のようなことをさせてくれないかしら。わたしは、もともと軍人だったのよ」
沙那は言った。
「だったら、師範なんて言わずに、軍人でいいんじゃないの? 女王親衛隊長とかさあ。ご主人様に頼んでみれば? 女王なんだからさあ。沙那がご主人様の性の相手をして、そのほかに、軍人をするというのなら、ご主人様は、なんでもやらせてくれるんじゃない」
孫空女は言った。
「いえ、もう軍人はいいわ。あの頃は気が張り詰めてたっていうか……。武術師範くらいの関わりがいいのよねえ……。それはともかく、やっぱり、性の相手というは絶対条件で、逃げることはできないかしら? 女王ともなれば、いろいろと政事を手伝う存在も必要と思うけど……」
「ご主人様は、政事なんて、なにひとつやるつもりはないと思うよ。女王に挑戦するつもりになったのも、政事なんてやらなくても構わないって、あの
孫空女は言った。
「そうだったわねえ」
沙那は嘆息した。
「ねえ、孫姉さんこそ、新女王の身を護る近衛隊長なんてどうですか? 豪華な将校の衣装は、孫姉さんにはお似合いですよ。でも、その恰好で、ご主人様の夜のお相手をするのも条件でしょうけど」
朱姫が笑って言った。
「なんだってやるよ。ご主人様がやれと命令するならね。まあ、こんなにおいしいものが食べられるなら、側室も悪くないとは思うね」
孫空女も笑って、また果実に手を出した。
*
「ご主人様……」
控室にやってきたのは沙那だった。
女王挑戦の儀が終わるまで、三人の供はどこかの部屋に監禁されると、神祇庁の役人から聞かされていたので、沙那が現れたことに、宝玄仙は驚いた。
「どうしたんだい、沙那? 孫空女と朱姫と一緒に、対決が終わるまで、どこかに監禁されてるんじゃなかったのかい?」
女王を決める道術勝負が開始されるまでは、もう半刻(約三十分)ほどのはずだ。
控室として準備された部屋で、宝玄仙は特にすることもなく、ひとりで待っていたところだったのだ。
「ふたりは、待つように指示された部屋で大人しくしています。ただ、わたしは、道術遣いではないということがわかったので、ご主人様の世話をしてもよいということになりました」
「そうかい」
宝玄仙は頷いた。
女王との道術対決が終わるまで、供と一緒にいてはならないというのは、向こうが言い出したことだ。
道術対決を公平にするには、ほかの術遣いが道術勝負の場にいてはならないというのだ。
別段、不平もないので承知したが、沙那の言う通り、沙那は道術遣いではない。
霊具が遣えるように、宝玄仙の魂の欠片を身体に入れているだけだ。
霊気を身体に帯びていても、その霊気を動かすことができなければ、道術は遣えない。
霊気を意図的に動かして、現象を起こすことを道術というのだ。
沙那にしても、孫空女にしても、生まれつきの霊気がないので、どんなに身体に霊気を帯びても、それを動かす力がないのだ。
「ところで、お支度を手伝わさせていただきます」
沙那は台に載せた銀色の輪をひとつ持ってきていた。
「なんだい、それは?」
宝玄仙は言った。
「道術対決の場では、これを両者が嵌めるんだそうです。これを装着することで、ほかの術遣いが道術勝負に関わることを防ぐと言っていました」
「ふうん。まあ、念のいったことだね」
確かに霊具だ。強い霊気を帯びている。
「これを受け入れていただけますね?」
「ああ? なんて?」
「これを受け入れてくださるかと伺いました」
「おかしな念の入れ方をするねえ。まあ、もちろんだけど?」
沙那が、銀の輪を両手に抱いて、宝玄仙の首に近づける。
まるで首輪だし、首に嵌めるということに、少しだけためらいを感じたが、沙那のすることだから抵抗はしなかった。
かちゃりと音がして、銀の輪が首に嵌る。
その瞬間、宝玄仙はなにを自分が装着されれたのを理解した。
全身の肌に粟が立つ。
咄嗟に外そうとした。
「その首輪に触るな――。命令だ」
沙那が叫んだ。
首輪を外そうとしていた宝玄仙の両手が空中で停止する。
「二度と……未来永劫に渡り、お前は、その霊具を外してはならない……。その首輪の霊具のことを他人に話してもならない。命令だよ……。くくく、宝玄仙」
沙那が喉で笑う。
「お……お前は……」
沙那じゃない。
眼の前の沙那が醸し出す気は、沙那ではない。
なんで首輪を嵌められる前に警戒しなかったのだろう。
宝玄仙は歯噛みした。
眼の前の沙那が、別の女に姿を変えた。
道術で沙那の姿に変わっていたのだ。
「はじめまして……。わらわが、これから、お前と道術対決をするこの国の女王の
その女が言った。
美人だが酷薄そうな顔をしている。
そして、宝玄仙に獲物を完全に追い詰めて満足感に浸っている肉食獣の表情を向けている。
「これ以降、わらわが命じない限り、お前はいかなる道術を遣ってはならない。しかし、道術対決の場では、道術を遣っている振りをしろ。これは命令だ。術対決が終わったら、お前はわらわが飼ってやる。前の女王と同じように、わらわに奉仕するための家畜にしてやるよ」
壱都が言った。
「家畜?」
「手足を切断して、視力も聴力も声も奪い、舌で舐める以外のことしかできないわらわの自慰の道具だよ。わらわの寝所で飼っている。お前も同じようにしてやるよ」
「な、なんてことを……。それにしても、な、なんで、これを……」
宝玄仙は愕然としていた。
どうして、これがここにあるのだ?
いや、宝玄仙以外に、この霊具を作れる者がいたとは、思いもしなかった。
いや、しかし、これが帯びている霊気は……。
それにしても、なぜ首に嵌める前に、気がつかなかったか……。沙那の姿だったので、油断しきってしまった……。
「……どうして、命令に逆らえないか不思議かい、宝玄仙?」
壱都は、宝玄仙の表情を別のものと受け取ったようだ。
悦に浸った顔で宝玄仙の身体に手を伸ばす。
「動くな……。命令だ。今後、わらわに対して、決して逆らうな。なにをされても、されるままにしていろ。わかったな、宝玄仙。命令を繰り返せ」
「わ、わたしは、お、お前に逆らわない……」
宝玄仙の口が開き、勝手にその言葉を言った。
「今後、わらわのことは、“ご主人様”と呼ぶのだ。そして、必ず、丁寧な言葉を使え。命令だよ――。返事をしろ、命令だ、宝玄仙」
「こ、今後……、あ、あなたをご主人様と呼び、丁寧な言葉を使います……」
またもや、宝玄仙の口が勝手にそう言った。
「立て、命令だ」
宝玄仙はその場に立つ。
それ以外の行動は一切ができない。
逆らうことのできない支配具の恐ろしさというのを身を持って感じた。
意思があるのに、身体が自由にならない。
それは恐怖だ。
壱都が満足そうに微笑む。
「
宝玄仙の手は、下袍の裾を持ち、それをたくし上げた。
白い下着に包まれた脚の付け根が、壱都の前に曝け出される。
壱都があざ笑った。
「もっとだよ。今後、下袍をあげろと言われたら、
「はい、ご主人様……」
宝玄仙の手は、一所懸命に裾をたくし上げて、胸までそれをあげ、なんとか、臍が見える状態をというのを実行した。
「ど、どうして、この霊具を……ご、ご主人様が……?」
混乱している。
唯一無二だと思っていた霊具……。
それを壱都が持っていた。
そして、うっかりとそれを嵌められてしまった。
「お前が首に嵌めた霊具は『服従の首輪』というのだよ、宝玄仙。この霊具を嵌められた者は、嵌めた者に一切逆らえない。“命令”と言われたことに必ず服従するらしいね。面白いだろう?」
冗談じゃない。
霊具の名まで一緒だ。
これは、間違いなく、宝玄仙の作ったあの『服従の首輪』だ。
やっぱりそうだ。
宝玄仙に流れ込んでいる霊具からの霊気でわかる。
これは、宝玄仙自身の霊具に間違いない。
似せて作った他の者の霊具ではない。
だが、宝玄仙は『服従の首輪』をひとつしか作らなかった。
そのひとつは、最初は
そして、
だから、ここに存在するはずがないのだ。
「脚を拡げろ、命令だ。そして、許可をするまで、動くな」
「は、はい」
宝玄仙の脚が勝手に開く。
壱都が、手を伸ばし、宝玄仙の腰から下着を切断して取りあげた、
宝玄仙の腰から下着が外される。
「ほう、これは剃っているのかい、宝玄仙? わらわも、この城で性愛の相手にする女の恥毛は全部、剃らせているのさ。これは、手間が省けていいね……。どうして、股に毛がないんだい?」
宝玄仙は黙っていた。
やっぱり、“命令”という言葉を使われなければ、服従の術は働かない。
宝玄仙の『服従の首輪』の特徴だ。
似せて作っても、ここまで特性を真似できないはずだ。
本当に、これは、宝玄仙自身の霊具ではないだろうか……。
しかし、そんなはずはない。
「答えろ、命令だ」
「
宝玄仙の口が言った。
「右手だけ自由にしていい。一番、感じるやり方で自慰をしろ、宝玄仙。命令だ」
宝玄仙の右手はすっとお尻に動く。
あまりの恥辱に全身の血が凍りつくようだ。
「待て――。お前、どこを触ろうとしてるのだ? 説明しろ、命令だ」
壱都がきょとんとした声をあげた。
「お尻です……。わ、わたしの一番感じる場所は、お尻です」
壱都が身体を前に曲げた。
そして、爆笑した。
「そ、そりゃあ、悪かったね――」
壱都は、まだ苦しそうに笑っている。
宝玄仙は歯噛みした。
これから、戦おうという相手に、自分の性癖をばらさなければならないというのは、なんという恥辱なのか。
「続けていいよ。そうかい。女が気持ちがいいといえば、大抵は、肉芽じゃないのかい……。ほかの場所に手がいったから、首輪の効果がなくなったと思ったじゃないかい……。ほう、お前が一番感じるのは、尻の穴かい――。肉芽よりも? こりゃあ、面白いねえ」
宝玄仙の指は、たくしあげた下袍のあいだから肛門に向かい、尻穴に指を入れた。
そして、尻の内側を掻くように動く。
たちまちに痺れるような快感が尻孔から子宮を経て全身に拡がる。
「あ……ああ――」
我慢できない声が宝玄仙の口から洩れる。
「口を開けな、宝玄仙」
宝玄仙の口が勝手に動いて、大きく開かれる。
その間も、右手の指は肛門の中でうねり続ける。
息も忘れるような快感で宝玄仙は追い詰められる。
“命令”により、「一番感じる方法」で、自慰をしている。
だから、逃れようがない。
壱都が宝玄仙の口の中になにかを注いだ。なにかの液体のようだ。
「飲み干すんだ、宝玄仙。命令だ」
どろりとした甘い味のものが宝玄仙の喉を通り抜けた。
「うう……。な、なにを飲ませたのですか……?」
気味の悪い感触が胃からお腹に伝わる。
なにかが急激に下腹部に流し込まれている。
「これは、猛烈に小便がしたくなる薬だよ。すぐに効いてくる。仙薬の一種だからね」
壱都が大きな声で笑った。
「くっ」
宝玄仙は歯噛みした。
「それよりも、そろそろ、いきたいんじゃないのかい? お尻が一番感じる宝玄仙?」
壱都が揶揄した。
「い、いきます……」
宝玄仙は、次第に苦しくなる息とともに言った。
「じゃあ、いく寸前でやめろ、命令だ」
「はい」
宝玄仙は、それからしばらく尻を刺激し続けた。
そして、脳天を突き抜けるような快感が貫きそうになったとき、さっと肛門から指を抜いた。
激しい焦燥感が宝玄仙を包む。
「いい顔だねえ、宝玄仙……。命令には従っても、心は服従するわけじゃないという説明も、その通りなのだね。本当のことを言ってごらん、命令だよ。こんなことをさせられて、口惜しいだろう?」
「く、悔しいです……。あなたを殺したいほどに――」
命令に従い正直な気持ちを言った。
そして、宝玄仙は壱都を睨みつけた。
いまできることはそれだけだ。
壱都は、満足そうに頷く。
壱都を見ながら、絶対にこいつに酬いをくれてやると思った。
「じゃあ、宝玄仙、また自慰をしろ。今度も一番感じる方法でやり、いく寸前でやめろ。五回やれ。それくらいやれば、勝負の前に、体力も気力も削ぎ落とされるはずだ」
宝玄仙は、歯噛みした。
そして、右手を肛門に入れる。
さっき達しかけた身体が、また一気に燃えあがる。
すぐに絶頂のうねりがやってくる。
そして、ぎりぎりのところで指がとまる。
宝玄仙の切なそうな顔がいいと言って、壱都が喜んだ。
少し落ち着いたところで、また、指が宝玄仙のお尻を責め始める。
ぎりぎりのところで、自慰をやめて、また、繰り返す――。
命令の五回を終える頃には、宝玄仙はあまりの恥辱で気を失いそうだった。
そして、いったわけじゃないのに、それと同じ――いや、それ以上の倦怠感と理性を蝕むような疼きが宝玄仙を包んでいた。
「そろそろ、いいだろうね。じゃあ、下袍を脱いで、床に置け――。命令だ」
宝玄仙は、たくし上げていた下袍をおろし、命令のとおりに、床に拡げる」
壱都が愉しそうに喉で笑い続けている。
「下袍の上に乗れ。脚を開いてな、命令だ」
宝玄仙の身体が、さっき脱いだばかりの下袍に乗る。
「小便をしろ、命令だ」
壱都がそう言って、また、爆笑した。
宝玄仙は、その壱都の笑い声を聞きながら、じょろじょろと自分の下袍の小便をかけた。
「そこまで、大人しく命令を実行するところをみると、この霊具の力は本当のようだね。どのくらいの効果があるのかは、もっとゆっくりと確かめさせてもらうとして、念のために、見えない糸で拘束させてもらうよ」
壱都は、ふところから二本の銀色の糸を取り出した。
そして、宝玄仙のそれぞれの両足首に結ぶ。
さらに端末を左右の手首に結んで繋げた。
壱都が糸に息をかけると、糸が透明になった。
宝玄仙は、両手を腰から上にあげれなくなった。
「これも不思議な糸でね。『透明の糸』という。糸はもう存在しないんだけど、まるで、存在しているかのように、拘束が続くのさ。足首と手首を結んだから、腕があげられないはずだ……」
「透明の糸……?」
愕然として呟いた。
確かに、なにかに手首と足首が拘束されている感覚がある。
まさか、こいつ、このまま道術の対決をさせるつもりか?
「……でも、実際には存在しないから、服を着たり、脱いだり、それとも他人がお前の身体を動かす場合は、関係ない。純粋に、お前が自分の身体を動かすときだけ、見えない糸の拘束状態が続くのさ。この『透明の糸』のことも喋るな――。命令だ」
「わ、わかりました、ご主人様」
「それじゃあ、せいぜい、愉しもうじゃないか、宝玄仙。道術勝負をね――。もう、動いていいよ」
身体が自由になった。
だが、いまの宝玄仙の格好は下半身は裸だ。
そして、下着はまだ壱都が持っていて、下袍は、宝玄仙の脚の下で小便まみれになっている。
「道術勝負のときには、その小便まみれの下袍をはいてくるか、それとも、下半身を裸でくるかだ――。どっちでもいいが、どちらかひとつだ。命令だよ。下袍をはくのなら、神祇庁の連中や見届け人たちに、あまり近づかない方がいいだろうね。小便臭いのがばれるからね」
そう言って、高笑いをしながら壱都が去っていく。
呆然としている宝玄仙が、ひとり部屋に残された。
存在するはずのない『服従の首輪』――。
それが存在し、いま、宝玄仙の首にそれが嵌められている。
宝玄仙は、自分の尿でびしょびしょに汚れた下袍を掴み、どうすべきかわからなくて、しばらく恨めしくそれを握ったままでいた。