※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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206 黒賊の砦

 お互いに全裸のまま、疲れ切った身体を抱き合うようにして眠っていた瞳子(とうこ)と萌香(ほうか)が牢の中で眼を覚ましたのは、陽もすっかりとあがった頃だった。

 

「食事だよ」

 

 牢の格子が揺れるほど叩かれた。

 この十日以上、ずっと瞳子と萌香の世話をしている鳴智(なち)という女性が、朝の食事を持ってきたのだ。

 

「ほら、食いな。調教は、一刻(約一時間)後に始めるそうだ。それまでに、食事と排便を済ませておきな」

 

 格子の取り付けられた小さな差出口から、食べ物が入った皿がふたつと蜜水の壺、そして、排便用の容器が入れられる。

 瞳子は、それを受け取ると、牢の隅にある排便容器を持ってきて、逆に差出口越しに鳴智に渡した。

 鳴智はそれを受け取ると、立ち去っていく。

 

「ま、待って、鳴智さん──」

 

 瞳子は格子越しに声をあげた。

 

「ああ?」

 

 歩きだしていた鳴智が立ちどまって振り返った。

 生まれ育った町である迎(げい)が黒賊の襲撃を受けてから十日以上が経っていた。

 あの黒賊に襲われた夜、瞳子はここにいる幼馴染の萌香や姉の蝶子(ちょうこ)、そして、ほかの三十人ほどの娘とともに、馬車に載せられて町の外に連れ出された。

 

 荷駄馬車の群が、迎の町を出て山道に差し掛かると、黒賊の馬車のうち、女を運ぶ馬車だけが道を外れて繁みの中に作られた広場に入り込んだ。

 そこで改めて、浚われた女の峻別が行われたのだ。

 繁みの中には、幌付きの馬車が二台待っていて、そこに十人ほどの黒衣の人物が待っていた。

 あの黒賊の女頭領である楊鬼女(ようきじょ)とその取り巻きたちが、その黒衣の人物たちとなにかを交渉しはじめた。

 すすり泣く周りの娘たちを横目に瞳子は、その様子をじっと見守っていた。

 それで、黒賊がここで浚った女を奴隷として売り払おうとしていることを悟った。

 しばらくすると、瞳子たちが乗っている荷駄馬車から降ろされた者はいなかったが、ほかの馬車からは次々に女が降ろされはじめた。

 

「お姉ちゃん──」

 

 荷駄馬車から降ろされる女の中に姉の蝶子を認めて、瞳子は叫んだ。

 

「瞳子──」

 

 姉の蝶子も叫んだ。

 

「お前たちは、姉妹か?」

 

 楊鬼女がそう蝶子に話しかけているのが聞こえた。

 蝶子がうなづくと、楊鬼女が周囲の取り巻きと相談し始めた。

 そして、黒衣の人物たちに渡される集団の中から、蝶子だけを瞳子のいる荷駄馬車を連れてきた。

 

「こいつは歳をとっているから二級でしか売れないと判断していたけど、お前と対なら姉妹奴隷で売れるという判断になったよ」

 

 蝶子を荷駄馬車に載せる指図を部下にするついでに、楊鬼女が荷駄馬車に近づいてきて言った。

 瞳子は、荷駄馬車に乗せられて瞳子の首輪に鎖で繋がれた蝶子とただ抱き合った。

 蝶子を載せる代わりに、荷駄馬車に乗っていた四人の娘のうち、先頭側のふたりが降ろされた。

 理由はわからない。

 こっちに載せられていた娘は、黒賊の砦に連れ帰り、「調教」をしてから付加価値をつけてから売るとか言っていた。

 蝶子をこちらに乗せることで、なにかの取引が必要になったのかもしれない。

 

「……あいつら……男よ……」

 

 抱き合って泣いていた蝶子が、瞳子の耳元でささやいた。

 瞳子は驚いて黒衣の人物たちに改めて視線を向けた。

 それが、瞳子が初めて見た「男」だった。

 

 その後、瞳子と蝶子、そして、萌香だけを乗せた荷駄馬車は、黒衣の人物たちと幌馬車を置いて進み始めた。

 進み始める前に、荷駄馬車の三人には目隠しをして後手に縛られた。

 黒衣の人物たちが幌馬車に乗せた女たちをどうしたのかはわからない。

 おそらく、そのまま国境を越えて南側にある祭賽(さいさい)国に連れていかれるのだろう。

 

 やがて、辿り着いたのがこの黒賊の砦だ。

 姉の蝶子がどうなっているかはわからない。

 ここに辿り着いた夜に引き離されてから、そのまま会っていない。

 

 瞳子と萌香は、それから「調教」という名の性の訓練を受ける日が始まった。

 まずは、なにをされてもいき狂いになるような感じやすい身体を作るのだと言われて、一日中、性欲に狂う日々を送らされている。

 ありとあらゆることをされた。

 

 媚薬に性具──。

 生活のすべてが瞳子と萌香を淫情に狂う性奴隷にするための手段だった。

 いまこうして、眼の前にある食事と飲み物──。

 それにさえも、たっぷりの媚薬が入っていることはわかっている。

 しかし、口にしないことは許されない。

 残せば、あの世話役の鳴智という女が、文字通り尻に詰め込んででも身体に注入する。

 すでに十日……。

 

 瞳子の身体は、十日前とはまったく違う淫乱な身体になっていた。

 そんなとき、偶然にも自分たちの世話をするあの鳴智が、自分たちと同じような捕らわれた存在であるということを知った

 それを話していたのは、黒賊の女兵たちで、鳴智という女は楊鬼女と一緒にいる道術遣いの奴隷だというのだ。

 

 同じ奴隷という境遇であるならば、もしかしたら、鳴智は瞳子の味方になってくれるのではないだろうか。

 今朝は珍しくも、周りに黒賊の兵がいない。

 瞳子は一抹の希望を求めて、鳴智に声をかけた。

 

「なにか用かい?」

 

 鳴智がこっちに戻って来た。

 瞳子は、鳴智の襟の内側に銀色の首輪があることに気がついた。おそらく、これはなんらかの奴隷としての象徴に違いない。

 瞳子は、立場は違うが、鳴智も同じ囚われの境遇であるということを確信した。

 

「わ、わたしたちを逃がして──」

 

 瞳子は言った。

 すると鳴智はせせら笑った。

 

「なにを言い出すのかと思えば、呆れたものね。なんで、わたしがお前たちを逃がすのさ」

 

「耳にしたのよ。あなたもわたしたちと同じ囚われ者なのでしょう? お願い。逃がして──。一緒に逃げましょう。ひとりなら難しいかもしれないけど、みんな一緒なら絶対に逃げられる。だから、わたしと萌香と姉とあなたで……」

 

 そこまで喋ったとき、思い切り格子を蹴り飛ばされた。

 

「飽きれたお馬鹿さんだねえ。頭の中がお花畑でできているのかい? お前の言うとおりに、このわたしが囚われ者だとして、なんでお前たちのようなお荷物を連れていくのさ。もう少しましなことを言いな──」

 

「ひっ」

 

 あまりの剣幕に、瞳子は息を呑み、それ以上喋れなくなってしまった。

 

「食事の時間は、半刻(約三十分)だけだよ。そのときに、まだ、食べ物が残っていれば、この前のときのように食べ残しは湯に溶かして、尻に詰め込むからね。ついでに、その結果、お前らがひり出した大便は、あの蝶子に喰わせるよ」

 

 瞳子はぞっとした。

 どこにいるのかわからない蝶子……。

 しかし、その名を持ちだされれば、観念するしかない。

 瞳子はすでに、食事にかかっている萌香とともに、与えられたものを口にする態勢になった。それを見て、鳴智は満足して立ち去っていった。

 

「……瞳子、あんた、まだ諦めていないの……?」

 

 萌香がうつむきながら言った。

 

「諦める? なにを? 逃げることを──? なんで、諦めるのよ。きっとわたしたちは、助かるわよ。希望を捨てちゃ駄目よ、萌香」

 

「どうやって、助かるのよ……」

 

 達観したような表情の萌香が瞳子に視線を合わせることなく言った。

 そして、萌香は、再び、与えられた食物を口に入れ始める。

 

 どうやって助かるのか……。

 それは、さすがに瞳子にもわからない。

 しかし、希望を捨ててはいけない。

 それだけは正しいはずだ。

 

 それ以上はどうしようもなく、しばらくは、瞳子も黙々と食べ物を口にする。

 先に食べ終わった萌香が、排便用の容器を隅に持っていって、用をたし始めた。

 調教が終わるまでに、排便を済ませるのだ。

 今日は、萌香が先にしているが、瞳子が先に済ませる場合もある。

 恥ずかしいとかは言っていられない。

 ちゃんとやっておかなければ、罰が与えられるのだ。

 

 牢の壁には、小さな溝があり、そこに水が流れている。

 用便を済ませた萌香は、その水でお尻を洗いはじめた。

 溝は牢の右から左に流れているが、水が注ぎ込む穴は、拳ほどの大きさであり、そこから逃げることは不可能だ。

 

 萌香が用便を済ませると、瞳子も排便用の容器に跨った。

 瞳子もそうしていたが、瞳子が排便するときには、萌香も反対側を向いてくれる。

 隠れる場所のない牢で排便をするには、お互いにそうするしかない。

 排便を済ませて容器に蓋をする。

 そして、溝に流れている水でお尻と股間を洗う。

 

 それが終わった頃、牢に数名の人間がやってくる気配がした。

 萌香が息を呑む声がした。

 始まるのだ。

 瞳子も自分の肌に粟が立つのがわかった。

 慌てて、萌香の横に並び、正座をして床に頭を下げる。

 牢の外に数名の人間が立ったのがわかった。

 

「本日も調教よろしくお願いします」

 

 萌香とともに頭を床につけたまま言った。

 

「頭をおあげ」

 

 その声で頭をあげる。

 

「ひっ」

 

 横の萌香の口から悲鳴が漏れた。

 瞳子ももう少しで、声をあげるところだった。

 そこに立っていたのは、あの道術遣いだ。

 いつも、身体全体を覆う布一枚の黒い外套で被っていて、顔も外套と繋がった頭巾で隠している。

 楊鬼女が内儀(ないぎ)と呼び、一目も二目も置いている存在だ。

 瞳子の観察するところ、この黒賊を動かしているのは、あの隻眼の楊鬼女だが、影で支配するのは、この内儀という気がする。

 

 内儀がなにかを告げるとき、楊鬼女がそれを拒否することはない。

 逆に、楊鬼女は、大きな決断をするときには、必ず、あの内儀という道術遣いに相談をしている。

 瞳子の鋭敏な観察眼は、ふたりの奇妙な関係に気がついていた。

 

 いずれにしても、“内儀”というのは、「人の妻」という意味のはずだ。彼女の名ではないことは確かだ。

 その内儀がいる。一緒にいるのは、黒賊の女兵四人だ。

 

「今日から調教の第二段階に入るからね。生娘のままで、男との性交を快楽として受けとめられる身体にするのは難しいけど、霊具を遣えばできないことじゃない。ただ、霊具を遣えるのは、この黒賊団の中ではわたしだけだ。だから、楊鬼女の頼みでわたしが直接調教を受け持つことになったよ」

 

 内儀は言った。

 瞳子は、なにをされるのだろうという怯えの半分、内儀が、「楊鬼女」と呼び捨てにしたことをしっかりと気づいていた。

 

 牢の扉が開いた。

 四人の兵が牢の中に入ってくる。瞳子と萌香は正座をしたまま、両手を背中に回す。

 毎日繰り返している儀式のようなものだ。

 

 この後に背後に回った兵が瞳子と萌香の手首に革錠を嵌めるのだ。

 続いて、正座をしている足首にも同じような足錠が嵌められる。

 そして、最後に、瞳子と萌香の首に革の首輪を嵌める。

 それがいつもの調教の始まりだ。

 

 その後、連れていかれるのが、牢の並ぶこの廊下の近くにある調教部屋だ。

 瞳子と萌香は、この砦に連れて来られて以来、その調教部屋と、この牢以外の場所に連れていかれたことがない。

 いまから、またあの調教部屋に連れていかれるのだという暗い気持ちになる。

 しかし、今日は、いつものように手枷も足枷もつけられなかった。

 なぜか、じっと内儀は正座で腕を背中に回した瞳子と萌香の裸身をしげしげと見つめている。

 

「お前ら、まだ毛の処理をしていないのかい」

 

 しばらくしてから、内儀は不満げな口調でそう言った。

 

「え?」

 

 毛というのがなんのことかがしばらくわからなかったが、やがて、内儀が剃っていないといった場所の毛がなんのことかわかり、瞳子は羞恥で顔が真っ赤になるのを感じた。

 確かに、まだ瞳子も萌香もしっかりと恥毛は残っている。

 それが残っていることに内儀は文句を言っているのだ。

 

「だから、楊鬼女は駄目なんだよ。いままで、なにをやってたのかねえ。毛を剃りあげるというのは奴隷の証じゃないか」

 

 ぶつぶつと不平のような言葉を内儀は吐いた。

 

「まあいい、調教の前に剃りあげるよ。お前、刷毛と石鹸持っておいで──。こっちのお前たちは、ふたりとも、尻を床につけて股を開きな」

 

 内儀は言った。女兵のひとりがどこかに走り去っていく。

 

「い、嫌です──」

 

 瞳子は声をあげた。

 冗談じゃないと思った。

 そんなところを剃られるなんて、死んでも嫌だ。

 

「ほう?」

 

 機械的な口調で喋っていた内儀が、瞳子の強い拒否反応に急に興味を持ったように瞳子の顔を覗き込んだ。

 

「と、瞳子──」

 

 横で萌香が咎めるような声をあげた。

 だが、そんな場所の毛を剃られるなど、瞳子には耐えられない恥辱だった。

 なんでそんなことをされないといけないのか。

 

「お前は瞳子かい?」

 

 内儀は言った。

 

「そ、そうです」

 

 瞳子は言った。

 

「あの蝶子の妹だね?」

 

 突然、姉の名を出されて瞳子は愕然とした。

 

「お、お姉ちゃんは──お姉ちゃんを知っているんですね。お姉ちゃんはどこですか。教えてください。お願いします。お願いします──」

 

 瞳子は叫んだ。

 

「蝶子に会いたいかい?」

 

 内儀は笑いのこもった声で言った。

 

「会わせてください。お姉ちゃんは……、姉は無事ですか──?」

 

 瞳子は夢中で声をあげていた。

 

「無事さ。昨日までは、このわたしが蝶子を調教してやったのさ。お前の姉もなかなかの小生意気な女でわたしの大好物だったけど、お前の方が気は強そうだね。お前の姉さんの股も、このわたしがつるつるにしてやったよ。姉さんに会いたければ、大人しく股を開きな」

 

 内儀は言った。

 瞳子は絶句した。

 

「開くんだよ、瞳子。今日の調教は、お前を中心にやってやるよ。お前のような気の強そうな娘は、わたしの大好物さ」

 

 それでも、瞳子はなかなか命令を実行することができなかった。

 すると、内儀が懐から黒い輪を取り出した。

 

「これが見えるかい、瞳子?」

 

 内儀は瞳子の前にその黒い輪をかざしながら言った。

 輪の大きさは、ちょうど瞳子や萌香の首の大きさ程だろう。

 

「は、はい」

 

 瞳子は頷いた。

 内儀は、その黒い輪を持っている手の反対側の手の指をぱちんと鳴らした。

 途端に、内儀が持っている輪が指輪ほどの小ささに縮んだ。

 今度は、小さくなった輪を持っていた手を振った。一瞬にして、元の大きさになる。

 これが道術というものなのだ。瞳子は感嘆していた。

 

「わかるね?」

 

 内儀はそう言うと、その黒い輪を瞳子の横で怯えている萌香の首に押し付ける。

 ぱちんと音がして、黒い輪が萌香の首に嵌っていた。

 

「きゃああああ」

 

 瞳子とともに、黒い輪が一瞬にして小さな輪になるのを見ていた萌香が、その輪が自分の首に装着されたことで悲鳴をあげた。

 

「もう一度、言うよ。股を開きな。指を鳴らして、友達の首をもぐよ」

 

 内儀は言った。

 

「ひ、卑怯者──」

 

 瞳子は声をあげていた。

 頭巾の下の内儀の顔が笑った気がした。黒い影になってよくわからないが、布の下の内儀の顔は意外なくらいの美人のように思った。

 

「いいから、限界まで股を開きな。友達が死ぬよ」

 

 内儀は指を鳴らす仕草をする。

 

「瞳子、お願い──」

 

 萌香の声には恐怖の響きがある。

 

「こ、殺すわけがないわ。わ、わたしたちは、大事な商品なんだから──」

 

 瞳子は内儀を見返していた。

 罰を与えるなら与えればいい。

 萌香を殺すなど、はったりに決まっている。

 この十日も罰を与えるとはいいながら、一度も暴力は振るわれてはいない。

 瞳子も萌香もいずれは、性奴隷として売り飛ばす商品なのだ。

 傷を付けることで値打ちが下がるに違いない。

 ましてや、殺してしまえば、儲けにはならない。

 

 それにしても……と自分でも思う。

 奴隷狩り団の本拠地で、道術遣いを相手にこんな啖呵を切ることがどういうことなのかということはわかっている。

 しかし、この十日、この黒賊の言いなりになって、淫靡な調教により身体をいじくられ続けた鬱憤が爆発したのだ。

 

 後先考えない向う見ずなのは瞳子の欠点──。

 よく姉の蝶子が言っていたのを思い出す。考えてみれば、蝶子の言いつけに従い、迎の町の裏山で隠れていれば、こんな風に奴隷狩りに遭うことはなかったはずだ。

 だが、我慢できなかったのだ。

 

 いまもそうだ。

 我慢できない。

 こんな連中に屈服するなんてもう嫌だ。

 しかし、瞳子の言葉に、内儀は怒るでもなく、ただ、笑い出した。

 なんだか、激しく怒鳴られるよりも、その笑いのほうがぞっとした。

 

「……だったら試してみるかい? 正直、わたしは、この黒賊が儲かろうが、損をしようがどうでもいいことなのさ。女奴隷狩りだっていうから、少しは愉しめそうかと思ったけど、どいつもこいつも、調教のしがいのない娘ばかりで飽き飽きしていたところさ。だけど、お前は違うようだ──。わたしは、お前のような気の強い娘が、恥辱に顔を歪めるのを見るのが大好きさ」

 

 内儀は言った。

 

「瞳子、お願い──」

 

 萌香がもう一度叫んだ。

 瞳子は正座を崩して、床に尻をつけて、限界まで脚を開いた。

 この十日間のように拘束されて股を開かされるのではない。

 自分から開くのだ。

 その悔しさに身体が震えた。

 

「いいねえ……。十日も楊鬼女たちの調教を受けながら、心は折れないとはねえ。余程、気が強くできているんだろう。もっとも、楊鬼女たちの調教など、本物の調教じゃないけどね。ただ、男に悦ばれるような感じやすい身体を作っているだけだ。まあ、このわたしが、お前だけは特別な調教をしてやるよ」

 

 内儀は喉の奥で笑った。

 心の底から愉しんでいる──。

 そんな笑い声だ。

 

「どれどれ……」

 

 内儀がしゃがみ、曝け出している瞳子の股間をしげしげと眺め出した。

 瞳子は、思わず顔を横に向ける。

 

「……それなりに調教は受けたようだね。随分と肉芽も膨らんでいるし、開くだけでしっとりと濡れる女陰も、道具としては、そこそこだ。楊鬼女は、お前たちを生娘で売りたいらしいから、女陰にものはまだ突っ込まれていないんだろう?」

 

 瞳子は黙っていた。

 何度やられても、こんな風に性器をもののように評価されるのは恥辱以外のなにものでもない。

 

「あ、あたしたちは……」

 

 萌香が遠慮がちに口を開いた。

 

「お前は喋るんじゃないよ──。瞳子に訊いているんだよ──」

 

 内儀が強い口調で叱咤した。

 萌香は小さな悲鳴をあげて黙り込んだ。

 

「な、なにも入れられていません」

 

 瞳子は仕方なく言った。これ以上機嫌を損ねると、本当に萌香の首をもがれるかもしれない。

 内儀が、瞳子や萌香の商品としての価値に興味がないというのは本当かも知れない。彼女が気まぐれのように萌香を殺したとしても、楊鬼女は、内儀には文句を言えない。そんな気もする。

 

「まあ、お前たちの処女膜には興味はないけど、破ると楊鬼女が小うるさいから、霊具を遣って、破らないまま、女陰を調教してやるよ。破瓜をやりながら、痛みよりも、気持ちよさでよがり狂えるようにしてやろう──。もっとも、その前に、毛を剃ってからだ」

 

 内儀は言った。

 そのとき、剃毛の道具を揃えに行っていた女兵が戻って来た。

 刷毛と白い泡入りの小壺が載っている盆を内儀のそばに置いた。

 

「さて、じゃあ、瞳子──。両手を足の外側から伸ばして、開いている脚の足首を内側から掴むんだ……。そうそう、そんな感じだ。じゃあ、許可するまで離すんじゃないよ。手を離した途端に、指を鳴らすからね。そうするとお友達が死ぬよ」

 

「くっ」

 

 思わず小さな舌打ちが漏れた。

 だが、内儀はそういう瞳子の反応が逆に嬉しいようだ。

 愉しそうに、また笑った。

 

「じゃあ、出番だよ、萌香。瞳子の毛を剃る前に、舌で瞳子の気持ちをほぐしてやりな」

 

「ほ、ほぐす……ですか?」

 

「両手を背中で組んで、瞳子の身体に舌を這い回すんだ。手を離したら死ぬよ。さあ、始めな」

 

「ひいっ」

 

 萌香は真っ蒼な顔をになって、手を後ろに組む。

 そして、立て膝になって、瞳子の身体の前にやってきた。

 だが、どうしていいかわからないようだ。

 萌香は瞳子の前でうろたえたように動きを止めてしまった。

 

「この砂時計がわかるね」

 

 内儀はどこからか取り出した小さな砂時計を瞳子と萌香が向かい合う横の床に置く。

 

「……この砂が落ち切るまでに、瞳子をいかせるんだ。できなければ、お前は用無しだ。首をもいで殺す。ほら、始めろ──」

 

 内儀はぞっとするような声で言った。

 

「は、はいっ」

 

 萌香は悲痛な表情で舌を伸ばして、瞳子に迫ってきた。

 萌香の舌が、瞳子の乳房をぺろぺろと舐める。

 

「ああっ──」

 

 萌香の優しい舌の愛撫は、この十日で開発された瞳子の快感をあっという間に呼び覚ます。

 激しく襲ってくる淫らな波に、瞳子はすぐに声をあげていた。

 気持ちいい……。

 堰を切ってしまうとさっきまでの強気はどこかに消え失せえしまう。

 

 ほかの誰でもない。

 幼馴染であり、この黒賊の本拠地で一緒に調教を受け続けている萌香の責めだ。

 染み込むような萌香の愛撫は、たちまちのうちに瞳子の身体を蕩けさせる。

 

「両方の乳首を代わる代わるに吸いな」

 

 内儀の声。

 それに従い萌香の情熱のこもった舌の刺激が瞳子に加わる。

 瞳子は、自分の口がさらに激しいよがり声を出すのを防ぐことができなかった。

 全身がおこりにかかったように震える。

 込みあがる──。

 もう、絶頂しそうだ──。

 

「ほ、萌香──。も、もう駄目──」

 

「いって、お願い」

 

 一度口を離した萌香が叫んだ。

 そうだった。

 萌香は、瞳子がいかなければ、殺すと脅されているのだ。

 だから、いってあげなければならない。瞳子は身体の緊張を解いた。

 萌香の口が瞳子の乳首を吸ったり、転がしたりする。強烈な快感が瞳子を襲う。

 

「いくううううっ──」

 

 瞳子はひと際大きな声で叫んで、迸る快感に身体を委ねた。熱いものが股間から弾けて、全身を貫いていった。

 

「胸だけでいくというのはなかなかだね。さあ、あと二回はいってもらうよ。萌香、今度は股だ。瞳子の肉芽を同じように口だけで奉仕しな」

 

 内儀は言った。

 萌香が身体を屈めて、瞳子の股間に顔を向かわせる。

 

「ひぐうっ──」

 

 圧倒的な快感──。

 それが瞳子を襲う。

 達したばかりの瞳子の身体が、次の絶頂を迎えたのは、長い時間が経ってからのことではなかった。

 

「もう一度だ」

 

 内儀は言った、

 もうどうにでもして……。

 そんな感情が瞳子を包む。

 また加えられる萌香の舌の刺激……。

 また、昇ってくる──。

 

「あはああっ」

 

 そして、瞳子は、三度目の絶頂に身体を仰け反らせていた。

 

「じゃあ、いよいよ、毛剃りの時間さ。今度も、萌香がやるんだ──。お友達の股間をつるつるに剃りあげな」

 

 萌香は、内儀から渡された泡のついた刷毛を無表情で受け取った。

 

「まずは、瞳子の股間に泡を塗りな……。だけどね……」

 

 内儀がまた、くくくと笑う。

 

「今度は、逆にいくんじゃないよ、瞳子。刷毛が気持ちよくていったりしたら、今度も萌香の首をもぐからね」

 

 内儀は言った。

 

「そ、そんな……」

 

 三度も続けて絶頂させられて、瞳子の身体はこれ以上ないという程に燃えあがっている。

 十日も調教を受け続けてきた淫乱な身体だ。十日前の瞳子ならいざ知らず、いまの瞳子は、ほんの少しの刺激でも淫らな反応をしてしまう破廉恥な身体になってしまっている。

 眼の前の萌香が持っている柔らかそうな刷毛の刺激に耐えられそうもない。

 

「お願い、瞳子」

 

 瞳子の無防備な股間に刷毛を近づけながら、萌香が悲痛な声で訴えた。

 

 

 *

 

 

 刷毛による快感を受けながら歯を食い縛って、それを受けまいとする瞳子の狂乱を内儀は満足感を持って眺めていた。

 気の強い娘を屈服させて泣かせる──。

 それは、なによりも性的興奮を満足させる。

 

 命令とはいえ、奴隷狩り団に身を寄せて、網を張るなどということは気の進まない仕事だったが、初めて調教のやりがいのある奴隷にぶつかったのだ。

 楊鬼女という三流の盗賊女を頭領に仕立てて、黒賊という奴隷狩り団を作らせて以来、捕えられた娘は、どいつもこいつも、精根を抜かれた人形のような存在にすぎなかった。

 瞳子の恥毛を反らせている萌香のように……。

 

 しかし、この瞳子は違う。

 十日以上も性感という性感を開発され続けたにもかかわらず、少しも折れない強い心を持っていた。

 自分という道術遣いを相手にして、怖がるのではなく、反抗してみせた。

 久しぶりに嗜虐の血が騒ぐ存在に巡り合った。

 

 自分の心は新しい玩具を見つけた子供のようにはしゃいでいた。

 萌香に瞳子の肉芽の周りにもっとたっぷりと泡を載せるように命じた。

 ふたりの表情が悲痛なものになる。

 瞳子は、肉芽をさらに刷毛によって刺激されることで、いってしまうというという恐怖。萌香は、瞳子が絶頂することで自分が殺されるという恐怖だ。

 怯えた様子の萌香が、全身を震わせながら快感を振り避けようと身体を震わせる瞳子の股間を刷毛で責めている。

 ふたりの耐えている姿が、内心の嗜虐心を最高に満足させる。

 

「……様……」

 

 牢の外から不意に声をかけられた。

 

「鳴智……」

 

 熱くなった感情が途端に冷え切ってしまう、不快な感情が身体に沸き起こる。

 女人国に送られるに当たって、夫からつけられた女奴隷だ。

 この女を見るたびに背に虫酸が走る。

 たとえようのない嫌悪感が身体に走るのだ。

 

 それがどういう理由なのかわからない。

 消されている記憶に関係があるのか……。

 もしかしたら、自分は、この女となにかの因縁があるのだろうか。

 この女奴隷の首に装着させている『服従の首輪』──。

 自殺をしろと命令したいという発作のようなものが込みあがる。

 どうして、自分はこんなにも、この女奴隷が気に喰わないのだろう?

 

「なんだい、鳴智? 調教中に顔を出すなと言ったはずだよ」

 

 不機嫌さを隠すことなく牢の外に立つ鳴智に言った。

 

「しかし、『伝声術』が、楊恋(ようれん)から……」

 

 鳴智が台に載せた『伝声球』を視線で指した。

 城郭軍に入り込ませている手の者の道術遣いの楊恋からの伝言が来ていることを示す“赤”の色に『伝声球』が染まっている。

 

 瞳子に対する調教を邪魔されて、盛大に舌打ちした。

 しかし、そういう自分の態度にも特に動揺する様子もなく、鳴智は泰然としている。

 まったく、この女奴隷もなにを考えているかわからない。向こうは向こうで自分を憎んでいるような感じでもある。

 もっとも、向こうの境遇や、なぜ、奴隷という身分になったかというような疑念をぶつける気にもなれない。

 ただの女奴隷だ。

 そう自分に言い聞かせる。

 

 萌香が瞳子の恥毛を剃りあげるのに任せながら、牢の外に出て『伝声球』を手に取った。

 城郭軍の中の楊恋が、この黒賊の本拠地に送る伝言を受け取るために作った霊具だ。

 一流の道術遣いである自分であれば、霊具なしに『伝言術』の声を受け取ることができる。

 しかし、そうすると、いつ入って来るかわからない伝言により、思念を邪魔される。だから、直接に頭に入らないように、伝言は、この『伝声球』を通して受け取ることにしたのだ。

 鳴智の抱えている台の上の『伝声球』を手に取り、耳に入れる。

 

 楊恋の声が聞こえてきた。

 向こうからの伝言は、軍の出動に関するものに限られていた。

 だが、軍が出動しようにも、この本拠地は、城郭軍には知られていないはずだ。

 だから、なんとか奴隷狩りの襲撃をした黒賊の尻尾を掴もうと、躍起になって出動してくる。

 それでも、巧妙に伝えられる楊恋からの報告で、やってくる城郭軍には、なんの姿も見せることなく、黒賊は奴隷狩りという襲撃を続けられている。

 

 しかし、今日の楊恋からの報告は、軍の出動に関するものではなかった。

 軍営の中に道術遣いがやってきたというものだ。

 女人国には、道術遣いの存在は少ない。

 男を追放して、道術により子を授かるという風習が影響しているのか、なぜか、女人国には道術なしで産まれる子が多い。

 力を持った道術遣いは、それだけで、女人国の掟により女王になれるくらいなのだ。

 

「道術遣いです……。間違いありません」

 

 楊恋は切羽詰った口調で伝言を送ってきた。

 だからなんだというのだ。

 内心で悪態をつく。

 軍営の中に道術遣いがやってきたらやってきたで、うまくやればいいだけのことではないか。

 軍営の中に入り込んでいる手の者の安全など、知ったことか──。

 まったく興味はなかったが、一応は、その軍営にやってきたという道術遣いの名を訊ねた。

 

「……孫空女という女です。不思議な霊具の武器を扱います。道術遣いに間違いありません。それに……」

 

 

「なんだって──?」

 

 楊恋の声がそう言ったとき、心臓が激しく震える気持ちを味わった。

 自分がこの奴隷狩り団に身を寄せている理由──。

 夫がこの女人国に張ったさまざまな網で捕えようとしている三人の名のひとつとそれが同じだったからだ。

 夫が捕えたい女は三人……。

 

 孫空女──。

 沙那──。

 このふたりの女戦士。

 そして、宝玄仙を名乗る道術遣い──。

 

「それと……」

 

 さらに楊恋の伝言はなにかを続けようとした。

 しかし、不思議にも、そこで『伝声術』は遮断された。

 自分の強力な道術である『伝声術』が中断されたという事態に、呆気にとられていた。

 

 なにが起こったのだろう?

 考えられるのは、なにかの都合により楊恋が、『伝声術』を中断させたか、ほかの第三者の手によりそれが妨げられたかだ。

 『伝声術』を邪魔できるのは、道術でしかない。しかも、強力な道術でしかできない。

 

 楊恋が告げてきたのは、孫空女の名──。

 しかし、孫空女は道術遣いではないはずだ。

 『伝声術』を阻止した力……。

 孫空女と一緒にいるというもうひとりの宝玄仙──。

 ほかに考えられないだろう。

 

 ついに、獲物が網に引っ掛かったのだ。

 長い任務がようやく終わりそうだという思いが身体に走る。

 遠くにいる夫に連絡をとるために、この場を立ち去ろうとした。

 それで、ふと牢の中の奴隷の存在を忘れていたことを思い出した。

 瞳子の股間はつるつるに剃りあげられて幼女のそれと同じになっていた。

 

「ふたりを調教部屋につれていき、拘束しとくんだ、鳴智」

 

 まだ、その場に立っていた鳴智に言った。

 

「わかりました。ところで、楊恋が捕らわれたことは明確でしょう。楊鬼女殿に報せましょうか?」

 

 鳴智が冷静な口調で言った。

 このわけ知り顔が気に入らない。

 鳴智が提案したというだけで、その気がなくなる。

 

「余計なことはしなくていい。お前は言われたことだけをすりゃあいいんだ」

 

「かしこまりました、宝玄仙(ほうげんせん)様」

 

 すると、鳴智が無表情で言った。

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