「もう、嫌だって言ってるじゃないか」
縄で縛ろうとした宝玄仙の手を孫空女が振り払った。
その孫空女の爪の先が、宝玄仙の頬を引っ掻き、宝玄仙の頬から血が飛んだ。
沙那は驚愕した。
「そ、孫女──」
沙那は叫んだ。
だが、孫空女が、さらに宝玄仙に飛びかかろうとしていることに気がついて、沙那はもっと驚いた。
確かにこのところの宝玄仙の孫空女に対する扱いは、多少常軌を逸したところもあったが、いままでに、孫空女は、宝玄仙に手を出したことはない。
最初に宝玄仙に捕らわれて逃げ出したとき、御影の道術封じの布に包まれて動けなくなった宝玄仙の股に刃物を突きつけたということはあったが、それ以降、孫空女は宝玄仙の奴隷になると約束して、どんなに理不尽で残酷な命令でも、不平や不満は言うが逆らいはしなかった。ましてや暴力を振るうなんてことはなかった。
しかし、今日の孫空女は違った。
昨日も金水蓮を含めた四人がかりの快楽責めに遭ったのだが、孫空女はその裸身のままで床に寝かされていた。
そして、金水蓮が数日振りに出仕すると、すぐに宝玄仙は孫空女を蹴り起こして、昨日の続きをやると言って、縄で孫空女の手を後手に縛ろうとしたのだ。
これに対して、起き抜けの孫空女は腕を払って抵抗した。
その爪が宝玄仙の頬を掠めた。
だが、それは、孫空女の頭が、起き抜けでまだはっきりしていなかったためにやってしまった反射的なものだと思っていた。
しかし、孫空女は、宝玄仙の頬を傷つけたというのに、悪びれた様子も後悔の表情もなく、続けて宝玄仙に跳びかかろうとしている。
続く行動で、はっきりとした意思を持って、孫空女が宝玄仙に暴力を振るおうとしたことが信じられない思いだった。
もっとも、宝玄仙は、道術によって沙那の身体も孫空女の身体も一瞬にして支配できる。
朱姫もそうだが、宝玄仙の三人の供の身体には、宝玄仙が感覚支配をするための内丹印が刻まれているし、さらに、孫空女の手首と足首には、孫空女を拘束するための『緊箍具』が嵌められている。
宝玄仙は、孫空女が飛びかかろうと気配を示しても、道術でそれを封じようとはしなかった。ただ、孫空女の凶暴な態度に眼を丸くしていただけだ。
孫空女が宝玄仙に掴みかかろうと飛びかかった。
沙那は、かろうじて孫空女の胴体にしがみついて、そのまま孫空女を押し倒すことでそれを阻止した。
「は、離せ、沙那──」
一緒になって床に倒れ落ちると、孫空女が上に乗った沙那を乱暴に払いのけた。
孫空女の怪力で壁まで転がった沙那は、頭を壁に打ちつけてしまって、一瞬だけ眼がくらんだ。
がしゃんという音がした。
沙那が顔をあげると、手首と足首の『緊箍具』をひとつにまとめられて床の上でもがいている。
「ち、畜生──。は、離せ──」
孫空女は悪態をついた。
「さて、どうしてやろうかね、孫空女──。さて、沙那、今日ばかりは、お前もこのわたしが、孫空女に罰を与えるのを駄目だとは言わないだろう。こいつは、罰に値することをやろうとした──。そうだよね、沙那」
宝玄仙は、引っ掻き傷で血が滲んでいる自分の頬に触れながら言った。
その顔には、残酷な笑みが浮かんでいる。
宝玄仙が手を離したとき、孫空女がつけた傷も滲んでいた血もすっかり消滅していた。宝玄仙が自分自身に『治療術』を遣ったのだろう。
いつもながら、宝玄仙の『治療術』はすごい。
沙那は、道術遣いは、誰でも宝玄仙と同じことができるのかと思っていたが、実はそうではないことを最近になって知った。そもそも『治療術』というのは、極めて高等の道術のひとつであり、そう簡単にできるものではないらしい。
もそも『治療術』というのは、極めて高等の道術のひとつであり、そう簡単にできるものではないらしい。
しかも、宝玄仙の『治療術』は、まさに天下一であり、沙那が黒夜叉という女に拷問されたときも、油で焼けただれた髪や顔を復元してくれたし、智淵城から逃亡するために、沙那が宝玄仙の手首と足首を切断したときも、自分自身を治療して、失われた手足を新たに復活させた。
宝玄仙自身は、身体の一部さえ残っていれば、全身を回復できると言っているが、そんなことができるのは、宝玄仙並みの道術を持っている道術遣いか魔族だけらしい。
「ねえ、孫女、どうしたのよ、落ち着いてよ」
沙那は、宝玄仙に応じる代わりに、まだ、暴れようとする孫空女の裸身をなだめるように押さえつけた。
その沙那の右手に孫空女の歯が喰い込んだ。
「いたぁああああ──」
沙那は悲鳴をあげながら、孫空女の顔を押さえつけて、それを引き離した。
あまりにも腹が立って、噛みつかれた手で孫空女の頬を張り飛ばした。
それではっとした。
「ご、ご免、孫女──。だ、だけど、あなたが悪いのよ」
沙那は、唸り声をあげて沙那を睨む孫空女に言った。沙那の右手は、孫空女の歯型がはっきりとついて、そこから血が出ている。
その右手が、上から押さえられた。顔をあげると宝玄仙が怪我をしている沙那の右手に触れている。
あっという間に痛みはなくなり、宝玄仙が手を離したときには、もう傷はなくなっていた。
「さて、沙那、お前も、このところの孫空女には、調教をやり直すべきだと、そう思うだろう。納得したら、こいつの耳から『如意棒』を出しな。わたしがそれを伸ばすから、そうしたら、こいつの脚を開かせてそれに繋げるんだ」
宝玄仙は言った。
沙那は、仕方なくまだ暴れようとしている孫空女の耳に手を伸ばして、『如意棒』を取り出す。
「伸びろ」
声を発したのは宝玄仙だ。
この霊具の武器を自在に操れるのは、宝玄仙と孫空女だけだ。
孫空女がそれができるのは、宝玄仙がそれができるように霊具に道術を刻んでいるからだ。
だから、沙那には操ることができない。
針ほどの大きさだった『如意棒』が、七尺(約二メートル)の長さになった。
「どうしたんですか? さっきの物音はなんですか?」
朱姫が部屋に飛び込んできた。
朝食当番の朱姫は、台所で食事の片づけをしていたのだ。
すでに出仕した金水蓮はもちろん、宝玄仙も沙那も朱姫も、もう食事は済ませた。
まだ、朝食をとっていないのは、今朝、起きることのできなかった孫空女だけだ。
「この馬鹿たれを調教だよ。沙那と一緒に、こいつの股を開かせるのを手伝うんだ、朱姫──。ほら、お前に孫空女の『緊箍具』を操れるように道術を解放したよ。やりな──」
宝玄仙はそう言って、部屋の真ん中に椅子を持ってきて、そこに腰を降ろす。
「なにがあったんです、沙那姉さん?」
朱姫は沙那に顔を向ける。
「孫女が、暴れてご主人様の顔を引っ掻いたの。わたしも噛みつかれたし……。傷は、すぐにご主人様が治したんだけど……」
沙那は説明した。
「昨夜も拷問──。その前も拷問──。ずっと、拷問──。あたしばっかり、酷いじゃないか。もう、嫌だって言っているんだよ」
孫空女が喚いた。
朱姫は、そんな孫空女に驚いている。
「孫姉さん、落ち着いてくださいよ」
朱姫は孫空女の前にしゃがみ込んだ。
「あんた、反省していないの?」
沙那も呆れてしまった。
孫空女は、どうしたというんだろう?
拷問というが、拘束されて身体を責められるのは、いつものことだ。
それを拷問というのなら、宝玄仙の供は務まらない。
「反省ってなにさ、沙那? あたしは、今日はもう、嫌だよ。休みたいんだ。沙那まで一緒になって、なにすんだよ──」
孫空女は声をあげた。
「諦めなさい、孫女。あなたが悪いのよ。一体全体、ご主人様に手をあげるなんて、どうかしたの?」
沙那は言った。
そして、四肢をまとめて拘束されている孫空女の足に『如意棒』を近づけた。
「沙那姉さん、孫姉さんの『緊箍具』の足輪だけ外します。そうしたら、孫姉さんの脚をもって、『如意棒』にくっつけてください。『如意棒』と『緊箍具』が接触したら、そこで金属同士が密着するように、道術をかけますから」
朱姫が言った。
ぱんと音がして、孫空女の足輪が外れた。
沙那は、片脚を両手で掴むと、ぐいと引っ張って、『如意棒』の端に足首を密着させた。
金属が弾ける音がして、そこで『緊箍具』が接続される。
「ひぎいっ」
そのときだった。
突然に、朱姫が転がった。
まだ自由であるもう一方の足で孫空女が朱姫を蹴り飛ばしたのだ。
「孫女──」
沙那は怒鳴った。
その沙那の頭に、孫空女の束ねた両手が降ってくる。
沙那は避けられず、頭を護るために思わず屈む。
「うわっ」
悲鳴は孫空女のものだ。
顔をあげると、孫空女の腕が一度離れて、もの凄い速さで背中側に回り、そこで、もう一度、金属音がして拘束された。
「最初の頃を思い出すねえ、孫空女──。そんなにわたしと遊びたいかい?」
宝玄仙が微笑みを浮かべながら言った。
どうやら、いまのは、沙那を殴ろうとした孫空女の両手を道術によって、宝玄仙が強引に背中側で接続し直したのだ。
だが、沙那は、笑っている宝玄仙の顔から、実は宝玄仙が完全に怒っているということを悟った。
今日の孫空女に対する責めは、厳しいものになるだろう。
「いったああ……。もう、許しませんよ、孫姉さん」
朱姫が頭を擦りながらやってきた。
すると、孫空女の裸身に黒い手が一斉に発生した。
朱姫の『影手』だ。
孫空女の全身に浮かびあがったその黒い手が孫空女の裸身で動きはじめる。
「な……こ、これ……ああっ……あ、ああ、あっ……しゅ、朱姫、これ、やめ……」
孫空女が悶えはじめた。
黒い手が動き、孫空女の丸い乳房がぐにょぐちょとうねり、その先端の勃起は、左右前後に弾かれて動きまわっている。
股間に張りついている四つほどの手も、それぞれに動きまわっているし、何本かの影の指が、孫空女の女陰と肛門に入ってもいる。
孫空女の裸身は、あっという間に紅くなり、淫らな汗で照りはじめる。
沙那は、孫空女のもう一方の脚に飛びついて、強引に拡げさせた。
がしゃんという金属音がして、やっと、孫空女の両足首は、『如意棒』の両端で固定される。
孫空女は朱姫の『影手』に責められてもがきながら、両手を背中に回して、大きく脚を開いた状態で拘束された。
ばさりと沙那に向かって、縄の束が降ってきた。
「そいつを『如意棒』の真ん中に結びな。そうしたら、天井の金具に縄を通して吊りあげるんだ」
宝玄仙が言った。
朱姫とふたりがかりで、言われた通りに、『如意棒』に縄を繋ぎ、その孫空女の股間を開いている『如意棒』を天井の金具に通した縄をぐいぐいと引っ張る。
この居間の天井には、「責め」用の設備として、人間を宙吊りにするための金具を宝玄仙と金水蓮が取り付けたのだ。
孫空女の裸身が浮きあがり、逆さ吊りになる。
それが完成したところで、孫空女の身体から黒い手が消滅した。
沙那も朱姫も、ひと仕事終えたような感じで、揃って大きく息を吐いた。
「たっぷりと泣いてもらおうかね」
椅子に座って待っていた宝玄仙がそう言って、近づいてきた。
いつの間にか、手に火のついた蝋燭を持っている。
「こんがりとお前の豆を焼いてやるよ」
宝玄仙は火のついたその蝋燭をちょうど眼の高さくらいの位置にある孫空女の股間に近づける。
孫空女の女陰は、朱姫に責められたばかりで、孫空女の愛液でてらてらと光っていた。
そこにぶっすりと、宝玄仙の持っていた蝋燭が突き挿された。
「ひいいいっ──」
孫空女が宙吊りの身体を跳ねさせた。
その振動で蝋燭の蝋が、孫空女の敏感な股間に飛び散る。
「ひぎゃあっ──」
孫空女の獣じみた悲鳴があがる。
また、暴れるので、さらに股間に熱い蝋が散る。蝋の落ちた部分が孫空女の股間で固まるとともに、その部分が軽い火傷となって肌に赤い丸を作る。
「あぐっ……あぎいっ──。あ、熱い──。か、勘忍して……」
「なにが、勘忍だい。その蝋燭の火で、肉芽が焼けただれるまでそうしてな。こんがりと焼け切ったら、ちゃんと『治療術』で治してやるよ。その代わり、じわじわと敏感な場所が焼けていく苦しみはしっかりと味わいな」
宝玄仙は言った。
その言葉に沙那は身震いした。
孫空女の股間に突き挿された蝋燭は、だんだんと短くなりながらも、ぽたぽたと蝋を落としていく。
やがて、悲鳴と哀願を繰り返しながら、孫空女が熱さの苦しみに痙攣し始めた。
恐怖と熱さに呻いている孫空女だが、それと同時に感じてもいることに沙那は気がついていた。
蝋燭の垂蝋責めに遭っている孫空女の女陰は、さらに溢れ出る愛液でびっしょりと濡れていたのだ。
宝玄仙の調教で、完全に被虐の躾を注ぎ込まれている孫空女は、憐れみの悲鳴をあげながらも、同時に快感を覚えているのだ。
「謝るよ、もうしないよ──。お、お願いだよう──」
孫空女が泣き叫んだ。
垂蝋の熱さもそうだが、次第に股間に近づく蝋燭の炎に孫空女は、明らかな恐怖を感じてきたようだ。
いつものような言葉責めだけではなく、本当に肉芽が焼かれるということを悟ったのだろう。
「小便をして消せばいいじゃないか、孫空女。それをしなければ、本当に焼けちまうよ」
宝玄仙は再び、椅子に座って、孫空女を観察する態勢になった。
沙那は朱姫とともに、どうしていいかわからず、孫空女の両側で立っていた。
すると、孫空女の逆さ吊りの股間からおしっこが飛び出してきた。
噴水のように上に水流があがっているが、蝋燭の火を消すには至らない。
流れ落ちた尿は、孫空女の裸身を伝って、髪の下の床に溜まっていく。
「あらあら、小便をするのが早すぎたようだね。もう少し、短くなってからしないと駄目じゃないか」
宝玄仙の残酷な笑い声が部屋に響く。
「あ、熱い……、熱い……。か、勘忍して……」
孫空女が呻きはじめる。
もう、かなり蝋燭は短い。
宝玄仙はやるといったらやるだろう。
『治療術』ですぐに治せるのだから、肉芽を焼きただらせるくらい躊躇なくする。
沙那はだんだんと怖くなってきた。
「ご、ご主人様──」
堪らず沙那は声をあげた。
「外に出といで、沙那」
沙那の言葉を待たず、宝玄仙が沙那に振り向くことなく言った。
「えっ?」
「お前には、これからのことがつらいのはわかっている。だから、外に出て来るんだ。きっちりと三刻(約三時間)は、戻って来るんじゃないよ。命令だ」
宝玄仙は言った。
「で、でも……」
「いいから、外に出といで。わたしは、これから本当に、こいつの肉芽も女陰も焼き焦がすつもりだからね。お前にはそんな残酷な光景は耐えられないだろう? 今日は、お前の罰じゃないんだ。だから、お前を苦しめたくはない。黙って出ていきな。三刻(約三時間)以内には、残酷な部分の罰は終えておく。約束するよ──。ところで、朱姫──」
宝玄仙は、今度は朱姫に顔を向けた。
「は、はい」
「お前は逆に、わたしがやることを見ておくんだ。嗜虐とは、相手に対する徹底的な奉仕と同じだ。相手が被虐に酔うぎりぎりのところを見極めて責めるんだからね。度を越せば、残酷な刑罰になってしまう。それは嗜虐じゃない。いまは、孫空女は染みつかされた被虐に酔って股を濡らしているが、もうすぐ、ただの苦しみだけになる。その境目を観察するんだ。これは、勉強だと思いな」
「はい……」
朱姫は蒼ざめた顔を頷かせる。
「さあ、沙那、外に行くんだ──。さて、朱姫、じゃあ、油を持っておいで。それを孫空女の股間に塗っておきな。蝋燭の火が近づいたら、その油に火がつくようにね」
宝玄仙は言った。
その直後、沙那は強引に部屋を出された。
部屋を出る直前に見たのは、朱姫が、孫空女の股間から蝋を擦り取りながら、照明用の油を刷毛で塗るのと、孫空女がやめてくれと泣き叫んでいるその光景だった。