命令した三刻(約三時間)には、随分と時間があるのに、沙那が戻って来た気配を感じた。
宝玄仙は舌打ちした。
まだ、孫空女への罰は途中だ。
股間を焼け焦がした孫空女の裸身は、まだ宙吊りのままだ。
もっとも、孫空女は股間が燃える苦痛で気を失ってしまい、まだ覚醒していない。
宝玄仙は、まだ続けるつもりだった孫空女への懲罰をやめることにした。
沙那がこの状況を見たら、また文句を言うに決まっている。
怒りのあまりとはいえ、よく考えたら、孫空女の股間を油で燃やしてしまうというのは、やり過ぎだったかもしれない。
『治療術』を送り込み、孫空女の股間の火傷の治療を開始する。
「ご主人様、朱姫──」
居間の扉が勢いよく開いた。
ちょうど、『治療術』が終わったところだ。
気を失った孫空女が、身じろぎをする。意識を取り戻したようだ。
「朱姫、孫空女をもう降ろしていい」
宝玄仙は言った。
朱姫が孫空女を吊っている縄を解くために、壁に向かおうとした。
「待って、朱姫──。自由にしないで──」
沙那が叫んだ。
宝玄仙は驚いた。
「ねえ、朱姫、
沙那は突然言った。
「なんだい、沙那、藪から棒に……」
宝玄仙は声をあげた。
「六耳がどうかしたんですか、沙那姉さん?」
朱姫が首を傾げている。
「いいから教えて。知っているの? 知らないの?」
沙那は切羽詰った様子だ。
外でなにが起こったのだろう。
「そういう名の魔族の噂は耳にしたことがあります」
朱姫は言った。
半妖の朱姫は、宝玄仙と出遭うまで人間としての生活よりも、魔族としての生活が長かった。
だから、魔族の世界についてある程度の知識はある。
「六耳というのは、どんな魔族なの?」
沙那の顔には焦ったようなものがある。
いったい、どうしたのだろうか。宝玄仙は訝しんだ。
「たしか、魔域にいるという物真似妖怪です。本物にそっくりに変化し、姿だけではなく、ある程度の能力や性格も写しとります。六耳のことを称して、本物そっくりになるのではなく、本物になる。よくそういいます」
「本物との見分け方は?」
「……ありません。本物そのものになるんですから」
朱姫は少しの間考えてから言った。
沙那が細剣を抜いた。
それをまだ逆さ吊りの孫空女の顔に突きつける。
「沙那姉さん、なにを──」
朱姫が叫んだ。
「朱姫、黙っていて──。孫女、答えて。わたしとあなたが最初に出遭ったのはどこ?」
「……と、東方帝国の五行山……。さ、沙那──、なにすんのさ……」
孫空女が苦痛に歪んだ眼を開いた。
「もうひとつよ。そこで、わたしはあなたの身体の一部を斬ったわ。それがどこか覚えている?」
沙那は言った。
なにを言っているのだろう、沙那は──。
あのとき、沙那は孫空女に斬りかかったものの、どこにも剣は当たっていない。
沙那は、宝玄仙の結界に孫空女が入ることを防ぎたかっただけで、斬ることなく孫空女の身体を剣のつばで押したのだ。
だが、孫空女は呆気なく、沙那の身体を押さえつけて無力化した。
沙那の剣技の凄まじさを知っていただけに、孫空女がそれを手もなく捻るのに接したときは驚いた。
宝玄仙もそのときのことは、よく覚えている。
「そんな昔のこと覚えているわけないよ。どこかに剣先が掠ったけど、もう傷も残ってないしね」
孫空女は言った。
「……じゃあ、わたしがあなたの身体の一部を斬ったことだけは、覚えているのね」
「まあね。だけど、昔のことだから……」
「わたしは、この二年間、ただの一度も、あなたを怪我させたことなどないわ」
沙那は細剣を孫空女の顔にさらに伸ばした。
「お前、何者だい──?」
宝玄仙は叫んだ。
しかし、その瞬間、孫空女の身体が勢いよく天井に振られた。
動物のような叫びが、部屋に響く。
孫空女じゃない。
すでに、真っ黒い大きめの猿のような姿に変化している。
孫空女の姿を消すのと同時に、拘束したものをすべてすり抜けている。
自由になった身体で、そのまま天井を伝って部屋の外に出た。
「いけない──。『移動術』で逃げるよ──」
宝玄仙は叫んだ。
居間の外は結界の外だ。
宝玄仙の阻止道術が間に合わない。
居間の外側の空間で、空間が捻じれる気配がある。
一番、居間を出る戸に近かった朱姫が飛び出す。
次いで、沙那。
宝玄仙は少し遅れて、黒い人影を追って、居間の外に飛び出した。
そのときには、空間が閉じ、『移動術』の出口が消滅しようとしているところだった。
宝玄仙は、『移動術』の結界が閉じられるのを防ぐために精神を集中した。
「駄目だ──。閉じられた」
宝玄仙は舌打ちした。
間一髪で間に合わなかった。
「朱姫、いまのが六耳なの?」
沙那はまだ細剣を抜いたまま、朱姫に詰め寄った。
「あたしにはわかりません。六耳という本物そっくりに姿も能力も化ける魔族が魔域にいると聞いたことがあるだけです。だけど、あれが孫姉さんに化けていたとしたら……」
朱姫はうろたえた声をあげた。
「孫空女は、ずっと行方不明のままなのよ。おそらく、
沙那は叫んだ。
「追っかけましょう」
やっと事態を悟ったらしく朱姫が声をあげた。
「無理だよ。『移動術』の空間は閉じちまった。もう少し早く、わたしが気がついていれば……」
宝玄仙は歯噛みした。
六耳が逃亡した空間は完全に閉じられている。
もう、追いかけられない。
「追いかけられます。あたしは、咄嗟に『影手』を六耳の身体にひとつだけ張りつけました。その霊気の流れを追ってください」
朱姫は言った。
宝玄仙は驚いて、建物に流れる霊気の流れを探った。
確かに、捉えにくい朱姫の霊気の細い流れがどこかに繋がっている。
だが、これで追いかけることができる。
その霊気を辿って、宝玄仙の『移動術』を空間に刻み直せる。
「お手柄だよ、朱姫」
宝玄仙は言った。道術を刻むために精神を集中する。
すぐに新たな『移動術』の空間が開かれた。
そこは、六耳が逃げた場所に通じているはずだ。
沙那が細剣を鞘に収め、空間の出入り口に向かって身体を投じた。
*
「ふがああぁぁぁ──」
獣じみた声をあげて、だるまのような胴体だけの孫空女が、鬼坊主の腕の中でのたうつ。
凄まじい量の精を膣に受けて、また達したのだろう。
精を放つことで、一時的に満足をした鬼坊主が、孫空女を地面に放り出した。
結界で包んだ空間の中で、手足を付け根から失くした胴体だけの孫空女がどたりと音を立てる。
待っていた二匹の鬼坊主が争うように孫空女を奪い一匹が、孫空女の女陰にそそり勃つ肉棒を押し込む。
孫空女は、吠えながらそれを受け入れ、がくがくと胴体を痙攣させた。
三匹の鬼坊主と孫空女は、御影の準備した閉鎖した結界の中で、もう、ほとんど三日続けて、ひたすら鬼坊主たちの精を孫空女が受け続けるという時間をすごしている。
御影が準備した結界には、入った者の性欲を活発化させる空気で充満させている。
ただでさえ、性欲の強い鬼坊主は、それで狂ったように眼の前の孫空女を交替で犯し続けた。
数刻置きに、中に肉の塊りを放り投げてやる。
その間だけ、三匹は孫空女を犯すのを中止して、肉を取り合い口に入れる。
まるで、動物そのものの姿に、御影は気分が悪くなる気持ちだが、孫空女もまた、三匹が取り合って地面にこぼれた肉の破片を、胴体をくねらせて這い向かい、口に入れる。
そこにはもう、なんの知性も感じることはできない。
もう少し、ゆっくりと壊してもよかったが、手っ取り早く精神を破壊する魔薬を使った。
その結果、孫空女の最後に残っていた理性は砕かれ、本能のみで生きる動物になりさがった。
限度を超える長い拷問と魔薬による物理的な脳の思考回路の破壊により、孫空女の精神がすでに壊れているのは明らかだ。
いまの孫空女は、肉欲と食欲しかないただの生き物でしかない。
こんな孫空女を見たら、宝玄仙はどう思うだろうか。
それだけでも溜飲が下がる気持ちだ。
孫空女の身体が大きく仰け反った。
その顔は狂気じみた愉悦で充満している。
獣のような魔族に抱かれて、性の悦びでいっぱいなのだ。
御影が知る限り天下一の女傑だったが、孫空女もこうなってしまえば些か哀れなものだ。
空間が揺れた。
御影は自分を防護する態勢をとったが、出現しようとしている人物を悟り、緊張を解いた。
眼の前に『移動術』で出現したお宝が現れた。
「まだ、やり続けているのですね」
お宝は眉をひそめた。
三日前に鬼坊主を道術で連れて来たのはこのお宝だ。
御影が作った結界の膜の中で、その三匹に孫空女を渡すと、すぐに孫空女を取り合って犯し始めた。
お宝は、出立の準備のためにすぐに立ち去ったが、それから三日して、まだ、同じ光景が続いているのを見て、驚いたようだった。
「見ているだけで吐気をもよおすわね。まあ、孫空女から肉片を回収したし、目的は果たしたわ。我々は、そろそろ行くとしようか」
御影は言った。
「貢物にする女人国の女については、結局、十五人ほどに絞りました。性技も仕込み終えた粒揃いの人間の美女です。きっと、雷音大王は気に入ると思います」
お宝は言った。
「いま、そいつらはどうしているの?」
「移動できる状態で監禁しています。とりあえず、
「鳴智は戻ったの?」
鳴智には、宝玄仙と接触し、魔域に自分がいると告げ、宝玄仙が魔域にやってくる餌になれと命じている。
その鳴智が戻ったということは、御影の命令を遂行し、そして、宝玄仙に捕らえられなかったということだろう。
「戻りました──。それにしても、あの女は、いつも無表情で見ているだけでむかついてくるのです。どうして、あんな女を使い続けるのです、あなた?」
お宝は言った。
宝玄仙の肉片からお宝を作ったとき、宝玄仙の本来の記憶は封印し、御影に都合のよい偽の記憶を擦りこませている。
そのため、自分を二年間も嗜虐した鳴智の記憶はお宝にはない。
だが、記憶は封印されても、本能は残っている。
宝玄仙であるお宝の本能は、鳴智に対する恨みを忘れていないのだろう。
「あの女は、『服従の首輪』を嵌めたただの道具よ。裏切ることもないし、あれで、なかなかに仕事はできるわ。切り捨てるのは簡単だけど、いまはまだその時期ではない。宝玄仙を魔域に連れてくる餌でもあるわ。ほかの餌も準備しているけど、餌はたくさんあっていいわね」
御影は言った。
「申し訳ありません。わたしの道術が元に戻れば……」
お宝は顔を伏せる。
そして、片手を出して自分の手をしげしげと眺めた。
その手には、うっすらとなってはいるが決して消えない道術封じの紋章がある。
お宝の両手と両足の紋章を消すために、ふたりで努力したが、結局それを果たすことはできなかった。
お宝の術が完全であれば、御影の野望は、もっとわかりやすいかたちをとっていたはずだが、いまのお宝には、攻撃道術の類いは一切遣えない。
もっとも、それ以外の道術は、やはり宝玄仙だけあって、凄まじいものではある。
「いいのよ──。それよりも、いつか、魔域の王の妻の地位。それをお前に捧げたいわね。お前のような美しい女には、それくらいの地位は、あってしかるべきよ」
御影はお宝の腰に手を回して、その身体を引きよせた。
お宝は御影にもたれかかるように身体を寄せる。
「わたしは、いまのわたしに満足しています。あなたが、夫でいてくれて、わたしを妻と呼んでもらえる。それだけで幸せです」
御影を愛していると思い込まされているお宝──。
この女もまた道具だ。
御影が手に入れたいものを手にするために準備した“物”にすぎない。
だが、なかなかの一品でもある。
宝玄仙と同じ美貌と身体を持ち、性技も抜群。快楽に没頭する姿もまた可愛い。
だが、本物ではない……。
それだけが、御影を満足させない。
結界の膜の中の孫空女が吠えた。
孫空女に精を注いだ鬼坊主は、孫空女の胴体を、順番を待っている鬼坊主に渡した。
その鬼坊主が孫空女の女陰に肉棒を突き挿す。
三日間続いている変化のない光景だ。
「まだ三日では、孫空女が鬼坊主の子を宿したかどうかはわかりませんね」
お宝がその様子に眼をやりながら言った。
孫空女が帯びている霊気に備わる受胎しない効果を消したのも、逆に、排卵を活性化し、妊娠しやすくする仙薬を準備したのもお宝だ。
お宝には、孫空女に白痴の魔族の子を孕ませたいから、その準備をしろと命じた。お宝は、そのための仙薬や孫空女にけしかける魔族を連れて来た。
「宿しているわ。あんなに受胎しやすい状態にして、あれだけの精を受ければ間違いないわ」
御影は鬼坊主の精を受け続けている狂った孫空女を眺めて言った。
「あなた、空間が……」
お宝が不意に言った。
御影も気がついた。
また、何者かが『移動術』でここに出現しようとしている。
そして、現れたのは、六耳だ。
変身をしていない。猿を思わせる小さな身体が恐怖に包まれたように、きいきい喚いている。
「なにを言っているの、こいつは?」
御影はお宝に訊ねた。
変化をしていない状態の六耳は、言語を喋れない。
お宝は、直接心で会話する術を遣えるので、この喚き散らす六耳の言葉も理解できるのだ。
「どうやら、宝玄仙に正体を見破られたようです」
お宝は言った。
「そう……。ならば、ここに、宝玄仙が追ってくるわね」
御影は言った。
お宝に頷く。
お宝が御影に身体を寄せられたまま、『移動術』で跳躍する結界を結び始めた。
「ギイキイイ──」
六耳が喚いている。
一緒に連れていってかくまって欲しいのだろう。
一瞬迷ったが、御影は六耳の胴体に妙な黒い手の影が張りついていることを悟った。
これは道術だ。
これを張りつけられている限り、どこまでも宝玄仙は、霊気を伝って追ってくることができる。
だから、六耳についてこられても面倒だ。下手をすれば、これから戻ろうとしている魔域にある御影の棲み処まで辿られる。
宝玄仙を魔域に来させたいのは確かだが、まだ早い。
準備ができていない。
御影は、六耳を蹴飛ばして、孫空女と鬼坊主が包まれている結界の膜に放り込んだ。
六耳の霊気では、その中からは脱出できないはずだ。
膜の中の六耳が悲鳴をあげている。
鬼坊主たちは、一瞬だけ、六耳に視線を向けたが、その小さくて黒い姿にすぐに興味を失くして、孫空女を抱き耽っている。
御影はお宝とともに、結界で結ばれた向こう側に跳躍した。
*
「ご主人様──」
先に跳躍していた沙那が叫んだ。
『移動術』で逃亡した六耳を追うため、六耳の身体に朱姫が張りつけた霊気を辿ることで辿り着いたのは、岩壁に包まれた洞窟だった。
洞窟の壁には、松明が燃えていて、周囲を明るくしている。
宝玄仙は、沙那が剣を構えている先を見た。
三匹の巨体の魔族が道術の膜に包まれている。
なにかをしているようだ。
宝玄仙は、その魔族が群がっている中心に孫空女の顔が見えた気がした。
「そこに孫女がいます、ご主人様──」
沙那の必死の声が洞窟に響いた。
宝玄仙は、霊気を充実させて、眼の前の結界の膜を飛ばす。
「『影手』──」
朱姫が叫んだ。
三匹の魔族の身体に一斉に黒い手が浮かびあがる。
三匹が孫空女から引きはがされて反対側の壁に貼りつけられた。
朱姫の『影手』が大きな魔族の身体を押したのだ。
醜悪な三匹の魔族の股間には、巨大な肉棒がそそり勃っている。
沙那が飛び込む。
喉を斬られた三匹の魔族が血飛沫をあげて崩れ落ちた。
「孫女──。そ、孫女──?」
血の滴る細剣をまだ手にしている沙那が、たった今まで抱き潰していた孫空女を見て目を丸くしている。
宝玄仙も驚いた。
孫空女の手足は、付け根から切断されて、胴体だけの芋虫のような身体になっている。
全身が魔族の精液にまみれ、女陰は魔族の精液だけでなく、女陰が裂けて流れている孫空女の血らしきものでもまみれている。
精神を犯されたようなおかしな表情の孫空女は、ほとんど意識がない状態だ。
だが、沙那の驚きの叫びも、宝玄仙の驚愕も、それだけが理由じゃない。
そんな哀れな姿の孫空女がふたりいたのだ。
「畜生──。どちらかが六耳だね」
宝玄仙は呟いた。
「孫女──。わかる、沙那よ。大丈夫?」
沙那がふたりの孫空女の前に屈みこんで声をあげた。
どちらの孫空女からも返事はない。
さっきのように、本物の孫空女しかわからない質問をして見分けるという方法は使えないだろう。
「両方を治療して、それから見分ければどうでしょう?」
朱姫が言った。
「そうだね……」
それしかないかもしれないと宝玄仙は思った。
だが、この状態の孫空女を治療するのはかなりの時間を使うに違いない。
もしかしたら、肉体だけではなく、精神も犯されているかもしれない。
そうだとしたら、孫空女の精神に入り込んで、損傷している頭の線を繋いだり、精神崩壊を招いた記憶の消去などもしなければならない。
それを魔族にも行うというのは、逆に魔族の神経に入り込むことになり、宝玄仙もかなりの打撃を負う。
そんなことを考えていると、ふと、宝玄仙は、横たわる胴体のないふたりの孫空女のひとりからあるものを感じた。
宝玄仙は、そっと、その一方の孫空女の下腹部に触れた。
かすかだが生命の気配がある。まだ、生き物にはなりきってはいないが、確実に存在し、生を宿すための力を懸命に集めている。
胎児──?
宝玄仙は確信した。
つまり、こっち側の孫空女は胎児を宿しかけている。
まだ卵だが、人と魔族の相の子だ。
本来は魔族である六耳が、子宮に人と魔族の相の子を宿す可能性は皆無だろう。
だとすれば、こちら側が本物の孫空女だ。
「こっちが本物だよ。そっちは殺してしまいな、沙那」
宝玄仙は言った。
「わかりました……」
沙那が、もうひとりの孫空女に細剣を向けた。魔族の血を吸ったばかりの剣先が、その孫空女の首筋に伸ばされる。
「キキィ──」
胴体のない孫空女が、黒い身体に変わって跳びはねた。
次の瞬間、その六耳は、沙那によって胴体をふたつに裂かれた。
宝玄仙は、まだ、魔族の精にまみれた孫空女の身体を抱いたままでいた。
宿しかけている命──。
どうすべきか躊躇した。
ふと朱姫を見る。
魔族の雄と人間の女に間に生まれた半妖の朱姫──。
もしも、この孫空女が宿したものが生を手に入れたならば、同じ半妖ということになるのだろう。
魔族の血が混じっているとはいえ、孫空女の子供……。
この卵を消し去ることは、罪もない生命を、生まれることさえ許さないまま殺すということにならないか。
宝玄仙は首を横に振る。
そして、霊気を集中して、孫空女のお腹にある生命の卵を消し去った。