※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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217 指さす猥本(わいぼん)

「沙那がいなけりゃなんだって言うんだよ、孫空女」

 

 宝玄仙は、ぴしゃりと言った。

 祭賽国(さいさいこく)にやってきて数日目の夕方だ。

 旅の食料を農村で調達するため、道中の途中で別れた孫空女が宿屋に合流したのだが、そのとき、萎びたようなひとりの年寄りを連れてきたのだ。

 なにか相談事があるようなのだが、孫空女はそれを沙那に訊いて欲しかったようだった。

 

「い、いや、ご主人様でもいいんだけど……」

 

 孫空女は慌てて、取り繕ったように言った。

 宿屋で借りている一室である。

 片側に寝台が四つあり、その反対側に卓と椅子がある。

 その卓に宝玄仙と孫空女と、そして、孫空女が連れてきた貧乏くさい年寄りがいるという状況だ。

 沙那と朱姫は、宿屋の外に用足しに行かせている。

 すでに結界を刻み終わっていて、この部屋は宝玄仙の霊気によって外界から護られているため、ふたりとも安心して出かけたのだ。

 

「“でも”とはなんだい。“でも”とは──。言っておくけど、わたしは、沙那なんかよりもずっと人生経験が多いし、物事の裏表を知っている。相談事ならわたしにするがいいじゃないか」

 

 宝玄仙は言った。

 

「そ、そうかなあ……。人生経験が多いのは認めるけど……」

 

 孫空女は口の中でぶつぶつ言っているが、しっかりと言葉に出していることに気がついていないのだろうか。

 

「まあいい。じゃあ、話はわたしが聞いてやるよ。だけど、その前にお前は、怪我をしているみたいじゃないか。どれ、治してやるから下袴(かこ)を脱ぎな」

 

 宝玄仙は言って、孫空女を横の寝台に促した。

 

「う、うん……。じゃあ、寿黒(じゅこく)さん、ちょっと待っててよね」

 

 孫空女はそう言うと、寝台にあがり、寿黒に背を向けるように寝台の上に座ると、下袴を膝まで降ろした。

 矢傷は大したことはない。

 放っておけば治るが、宝玄仙は孫空女の身体に傷が残るのは好まない。この女の身体は、宝玄仙の玩具なのだ。以前は、宝玄仙と出遭う前につけた傷もあったが、いまはすべて宝玄仙の道術で修復している。

 いまの孫空女は、傷どころか、ほくろひとつない完璧な真っ白い肌だ。

 

 宝玄仙は、孫空女の傷口に手をやる。

 暴漢に襲われていたこの寿黒という年寄りを助けるために怪我をしたという。

 宝玄仙は傷口に手を置き、すぐに離した。手をどけたときには、もう、孫空女の傷はなくなっている。

 

「ほう、道術か……。あんた、道術遣いか」

 

 感嘆したような声が寿黒から漏れ出た。

 宝玄仙が振り返ると、椅子から立ち上がった寿黒がこっちを凝視している。

 

「若い女が下袴を脱いでいるのをそうやって覗くのは、礼に反するんじゃないかい、寿黒?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「なあに、眼の保養じゃ。わしは、すっかりとこの孫空女殿が気に入ってのう。揉ませてもらった乳房もいい感触じゃった。わしがあと二十年若ければよかったが、残念ながら、わしはもう男を終わっておる」

 

 寿黒は笑った。

 

「乳房を揉んだ? お前、なにをしてきたんだい?」

 

 宝玄仙は孫空女を振り向いた。

 

「な、なんでもないよ、ご主人様。暴漢に囲まれて仕方がなかったんだよ」

 

 孫空女が慌てて事情を説明した。

 その説明によれば、この寿黒は価値のある品物を持っていて、それを狙った十人ほどの暴漢に襲われたというのだという。

 そして、それを孫空女が救ったようだ。

 そのとき、一時的に孫空女は窮地になり、裸にされて襲われそうになった。寿黒は、その暴漢の長に命令されて、孫空女の胸を揉んだということらしい。

 

「事情はわかったけど、その連中は、この爺さんのなにを狙ったんだい?」

 

 宝玄仙は言った。

 見たところ、貧しい農夫という感じだ。十人がかりで襲うような財産を持っているとは思えない。

 

「ねえ、寿黒さん、説明していいかい? この人は、あたしのご主人様で、本当に信用のできる人だよ」

 

 孫空女は服を整えながら寿黒に決心を促すように顔を向けた。

 

「わかっておる。ここまでやってきた限り、なにも隠すつもりはない。まずは、これを見てもらえんじゃろうか」

 

 寿黒は服の下から一冊の書物を取り出して卓の上に置いた。宝玄仙は、孫空女とともに、もう一度椅子に座って、寿黒に向かい合うように座る。

 だが、宝玄仙はその書物の表紙を見て多少驚いた。

 こんな本を肌身離さず持つとは……。

 思わず、笑みがこぼれた。

 そして、思わず寿黒の顔をしげしげと眺める。

 この男も案外……。

 

「この書物の中に、この寿黒さんに遺された遺産の隠し場所が隠されているみたいなんだ」

 

 孫空女は言った。

 

「これに遺産がだって?」

 

「そうなんだよ。だけど、寿黒さんは字が読めないんだよ。協力してあげてよ、ご主人様。あたしも字が読めないし」

 

「よくわからないけど、これになにかの財が置かれている場所が書かれているのかい?」

 

 宝玄仙は、卓の上の書物を手に取った。

 

「おや、これは……?」

 

「どうかしたの、ご主人様?」

 

 書物を手にしたときの宝玄仙の反応に、孫空女が不審の声をあげた。

 

「この書物には、なにかの道術がかかっているねえ」

 

「道術?」

 

 寿黒翁が眼を見開いている。

 

「なにかをきっかけに、この本に隠れているものが現れる。文字かもしれないし、他のものかもしれない。なにがどうなるかはわからないねえ。知らなかったのかい?」

 

 本そのものは、普通に開くこともできるし、読むこともできる。しかし、それ以外はいまのままではわからない。『道術錠』のようなもので、あらかじめ、決めてある暗号や動作をすれば、道術の封印が解けるという性質だとは思う。

 

「知るものか。わしは道術遣いではない」

 

「まあ、とにかく、事情を聞こうかね、寿黒」

 

 宝玄仙は言った。

 寿黒は語り始めた。

 

「つまり、これは遺産なんじゃ。この国がひっくり返るような途方もない財宝とか、そういうものじゃない。ただ、大金には違いないし、わしにとってはどうしても手に入れたいものじゃ。見た通り、その日その日を生きていくのがやっとの貧乏農夫じゃが、この遺産があれば、わしは大金持ちの仲間入りができるはずじゃ」

 

「遺産とは誰のだい?」

 

 宝玄仙は訊ねた。

 

「女房の兄じゃ。一箇月前に死んだ。旅の男だったようだが、最後の一年ばかりわしのところで暮らしておった。わしのところにやってきたときには、かなり弱っておった。まあ、わしらが世話をしたことを義兄は感謝してくれたようではあったな。それで死んだときに財を遺してくれたのだ」

 

「ほかの家族は?」

 

「ほかに身寄りはないし、家もない。わしらが引き取らなければ、いくら財を持っていても、病になってしまえば、野垂れ死にするしかなかったはずじゃからな」

 

「それで、遺産というのはなんだい? 暴漢が十人も襲ってくるような財宝なんだろう?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「連中が襲ったのは、わしのせいじゃな。村の酒場で義理の兄が大金を遺してくれたというようなことを気のおけない友人に話したことがある。それを横で聞いていたのかもしれん。だが、実際にはあんなに大勢で襲って見合うものではないと思うな。中身は宝石と金細工じゃ。甕(かめ)に一杯のな」

 

「甕? 財を知ってるのかい?」

 

「最初にわしらのところにやってきたとき、実際にその甕を見せながら、死んだらわしらに譲ると言ったんじゃ。大金じゃないといっても、あれなら、この宿くらいは簡単に買えるくらいの額にはなると思う」

 

「そりゃあ、大した財産だよ、寿黒さん」

 

 横から孫空女が言った。

 

「だが、その後で、すぐに隠してしまった。死んだら隠し場所を教えると言われたな」

 

「なんで、死んだらなんだい?」

 

「そりゃあ、厄介者扱いされたくなかったからじゃろ、宝玄仙さん。もう、長くはないから、親切にしろということだったんじゃろう。実際のところ、生きている間は、毎月、数個の金細工や宝石を渡してくれていた。最後まで面倒を看てくれれば、全部をやるというのが口癖じゃった。まあ、それが義兄の気持ちじゃったんだろうのう」

 

「その甕は、その人が家の中に隠してたの?」

 

 孫空女だ。

 

「いや、家の中ではないと思う。あんな小さな小屋のような家に、わしらが見つけられないような場所はない。どこかの外に埋めたのだと思う。義兄は、最初に見せた甕一杯の財から、毎月、生活費として、少しずつ渡すだけのものを残して、ほかはどこかに埋めにいったようじゃ」

 

「病なのにかい?」

 

「いや?最初は、甕を持って山歩きくらいできるくらいは頑丈だったんじゃ……。いや、死ぬ直前まで丈夫だったな。歩けなくなったのは、十日くらいのものじゃ。最初の発作が起きて、外に出れなくなるくらいに弱ったかと思ったら、あっという間に死んでしもうた──」

 

「家の外というのは間違いないのかい?」

 

「実際のところ、甕をどこかに隠してきたと、始めの頃にそう告げた日があった。外であるのは間違いないと思う」

 

「ふうん」

 

 宝玄仙は肩を竦めた、

 

「人というのは、呆気なく死ぬものじゃな。義兄は、確かにもう長くないと口癖にしておったが、それは嘘じゃと思っておった。あと十年は生きそうな、偏屈じゃが元気な男じゃった」

 

 寿黒が懐かしむような顔をした。

 

「とにかく!それで、財の入った甕をどこかに埋めたということかい? そして、その場所をあんたらには隠した」

 

「そうじゃ、宝玄仙さん。義兄は、甕の埋めてある場所は、ちゃんとどこかに書いてある。死ぬ前にそれを渡すから、死んだ後は勝手にすればいいと言ったな。最初の発作のすぐ後で、死ぬ十日前のことじゃった。もっとも、わしらもそれをそんなに気にはせんかった。その時がくれば、なにもかも教えてくれると思っておったし、義兄自身もまだまだ寿命は尽きん気でおったと思う」

 

「しかし、あっという間に死んでしまった……。そういうことかい?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「そうじゃ。一箇月前じゃ。小さな畠で仕事をしているときに、女房が飛んできて、義兄の様子がおかしいと騒ぎ出したのじゃ。すぐに家に戻ったが、二度目の発作というのはすぐにわかった。それで、城郭にいる医師を呼ぼうとすると、そのわしを義兄が腕を掴んで引き留めたのじゃ。もう、口がきけなくなっていて、なにかを伝えようとするかのようじゃったが、どうしても言葉にならんようじゃった」

 

「それでどうなったのさ?」

 

 孫空女が口を挟んだ。

 

「それでなあ、孫空女、そのとき、女房が、『なにかを伝えたいの?』と言うと、義兄はかろうじて微かに頷き、わしが『財のことか?』と訊ねると、また、小さく頷いた。やっぱり、言葉はもう出せないようじゃった。『わしらに譲ると言った甕の埋めた場所のことじゃな?』と言ってみると、もう一度頷き、なにかを指差す動作をしたんじゃ」

 

「それがこれかい?」

 

 大方の察しがついて宝玄仙は卓の上の書物を指差しながら言った。

 

「そうじゃ。義兄が指差した先には、この書物があった。字の読めないわしら夫婦には、書物など無縁じゃが、義兄は文字が達者でなあ。これと同じような本を何冊か持っていて、棚に置いておった。義兄の指先には、その書物があり、わしが『これか?』と示すと、義兄は、幾つかある書物の中から、これを手に取って、懸命に指を差したんじゃ」

 

「間違いなく、この本なのかい?」

 

 宝玄仙は困惑した。

 どうやら、寿黒はこれがなんの本なのかはわからないようだが、本の内容から考えると、そんなに大切なものを隠すような本ではない。

 まあ、それが怪しまれないための手段かもしれないが……。

 

「確かだ。一所懸命になにかを告げようと、なんどか同じようにこの本を指で差した。『これかい?』とわしが言うと、義兄は満足気に頷いた。わしには笑ったように見えたが、それきりじゃった。医師を呼びに行く必要はなくなった。義兄は死んだ」

 

「つまり、これは、その死んだ旅の男が、この本に財の隠し場所を残したということかい?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「そうじゃ」

 

 寿黒は言った。

 

「それで、この本について、調べたのかい?」

 

「葬儀が終わってからな。すぐに調べたいとは思ったが、さっきも言ったが、わしら夫婦は文字が読めん。だから、これがなんの書物であるかもわからん。中に紙切れか書き込みでもあれば、それが財の場所を示したものだと見当もつくのじゃが、隅から隅まで眺めたが、そういうものはなかったな」

 

「それで、どうしようと思ったんだい? とにかく、誰かに読んでもらわなければ話にならないだろう?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「実際にそうしたよ、宝玄仙さん。わしは、二度ほど、字の読める知人に頼んで、この書物を読んでくれと頼んだのじゃ。しかし、けんもほろろに怒られたな。怒った理由がよくわからんかったが、とにかく、馬鹿にするなと怒鳴られた。わしも、それで無暗に書物を人に見せるのは考えるようになった」

 

「財の隠し場所の鍵となることが書かれているはずだということは告げたかい、寿黒?」

 

「いいや、そういうことはなるべく伏せようと思ったんじゃ。考えてもみてくれ。わしがそう説明し、その書物に実際にそういうなにかが書かれていたとする。だが、それをわしには教えず、読んでくれた者が勝手に掘ってしまってはわしらにはなにも残らんというわけじゃないか。わしも、書物を読んでくれと頼むのは、余程信用ができる者にしかできんからな」

 

「ところで、書物を読んでくれと頼んだ相手は、ふたりとも女だろう?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「確かにそうじゃな。なんでわかったのじゃ?」

 

 寿黒の口調には少しだけ驚きの響きがあった。

 

「なんとなくそう思っただけさ──。じゃあ、もうひとつだ。その義理の兄だという男は、道術遣いかい?」

 

「いいや違う。わしも女房も、もちろん違う」

 

 寿黒は首を横に振る。

 

「だが、さっきも言ったけど、この書物には、道術がかけられている。じゃあ、どこかの道術遣いに頼んだろうね。その道術遣いに心当たりは?」

 

「ないのう。城郭に行けば、そういう人が見つかるのじゃろうか。ともかく、わしには見当もつかんな」

 

「まあ、通りすがりの流れ魔師に頼んだのかもしれないしね。しかし、それなりの高等道術だよ」

 

「どういう道術なのじゃ?」

 

 寿黒が訊ねた。

 

「道術を遣った錠前のような封印をしている。道術を遣い、封印を解くための条件として、なにかの行動条件を刻むのさ。たとえば、呪文を唱えると、踊りをおどるとかね……」

 

「踊る?」

 

 寿黒が面食らっている。

 

「例えばだ……。とにかく、決まったことをしないと、封印が開かないようにするのさ。この場合は、この書物の前で、決まった動作かなにかすれば、財の隠し場所がどこかに出現すると考えてもいいかもしれないね」

 

「それで、なにをすればいいのさ、ご主人様?」

 

 すっと黙って話を聞いていた孫空女が言った。

 

「わかるものかい。なにか、手掛かりはないのかい、寿黒?」

 

 宝玄仙は寿黒を見た。

 

「わからんなあ。ちょっと、すぐには思い出せんのう。義兄は、他にはこれといったことは告げなかったと思う。道術がかかっていたというのも、いま、初めて知ったことじゃ」

 

 寿黒は首を傾げた。

 

「ねえ、ご主人様、もしかしたら、その書物に書かれていることに関係があるんじゃないのかな? それに書かれていることをやれば、財の場所がどこかに出てくるとか……」

 

「お前もそう思うかい、孫空女?」

 

 宝玄仙はほくそ笑んだ。

 

「うん、そう思う」

 

「じゃあ、試しにやってみるかねえ」

 

 面白いことになってきたと思った。

 宝玄仙は、もう一度、書物を手に取って、ぱらぱらと中身を読む──。

 

 これなんか面白い……。

 いや、これも……。

 それをこいつらにやらせることを考えるだけで、笑いが込みあがる。

 ふと気がつくと、書物を前にして、にたにたしている宝玄仙を不思議そうに寿黒と孫空女が眺めている。

 

「……まあ、いい。じゃあ、とにかく、始めるかねえ──。ところで、寿黒」

 

 宝玄仙は寿黒を見た。

 

「なんじゃ?」

 

「事情はわかったから、この宝玄仙がこの書物の封印の解除に協力してやろう。ただし、条件がある」

 

「条件とは?」

 

「なにも面倒くさい条件じゃない。これから始まることに対して、決して騒ぎ立てず、大人しくそこに座っていることさ。眼の保養は十分にさせてやるけどね……」

 

「わ、わかった」

 

 寿黒は、意味ありげな宝玄仙の言い方に不審な表情をしている。

 

「……ねえ、ご主人様、眼の保養って──?」

 

 なにかの不安を感じたのだろう。孫空女が言った。

 

「説明は後だよ。それよりも、お前、すぐに裸になりな。素っ裸にね」

 

「な、な、なんでだよ、ご主人様?」

 

 孫空女は声をあげた。

 

「なんでだって、お前が持ってきた話だろう。それに、そのお前も言ったじゃないか。この書物に書かれていることをやれば、封印が外れるかもしれないと」

 

「ど、どういうことさ。説明してよ、ご主人様──。それとあたしが裸になることになんの関係があるのさ。これはなんの書物なのさ?」

 

 孫空女は真っ赤な顔をした。

 

「やっと、その核心の質問をしてくれたねえ、孫空女」

 

 宝玄仙は頬を綻ばせた。

 

「ただいま帰りました、ご主人様」

 

 その時、沙那の声がして、荷を抱えたその沙那と朱姫が部屋に入ってきた。

 

「あら、お客さんですか?」

 

 沙那がそう言い、寿黒に向かって小さくお辞儀をした。

 横の朱姫も同じように会釈をしている。

 

「孫空女、お前のことは、やっぱり後でいい。よく考えれば、こういうことは、沙那の方がいいね。嫌がるからね──。さて、沙那、こっちは寿黒だよ。孫空女が連れて来たんだけど、これから、人助けをしようと思うんだ。協力してくれるね?」

 

 宝玄仙は、沙那をじっと見る。

 

「人助けですか……。は、はい……」

 

 沙那は多少の驚きを込めた表情で頷いた。

 

「人助けってなんですか、ご主人様?」

 

 朱姫が言った、

 

「この寿黒の義兄が遺した隠し財産を見つけてやるのさ」

 

「……でも、ご主人様が人助けだなんて……。も、もちろん、協力しますけど……」

 

 沙那は言った。

 

「いいから、荷を片づけてこっちにおいで、お前たち」

 

 宝玄仙が命じると、沙那と朱姫は、抱えていた荷を旅の荷と一緒に置き、こっちにやってきた。

 ふたりを椅子に座らせると、宝玄仙は寿黒と沙那たちのそれぞれに相手を紹介し、暴漢に襲われた寿黒を孫空女が助けて、ここまで連れてくるまでの顛末を簡単に説明した。

 

「それは災難でしたが、でも、さっき言っていた義兄の遺産とは、どういう事情なのですか?」

 

 沙那は言った。

 

「つまりは、この人には、財を遺してくれた義兄がいてね。その義兄は、甕一杯の金細工と宝石を持っていたんだけど、それをどこかに隠し、その場所を教えないまま、死んでしまったのさ。唯一の手掛かりは、死ぬ間際にその義兄が指差したこの書物でね」

 

「その書物にですか……?」

 

 沙那が本の表紙を覗き込むようにしたので、さっとそれを隠す。

 

「この書物がなんらかの鍵を握っているのは間違いないのさ。それに、この書物には『封印がかかっている。それで、わたしらは、この書物に書かれていることを実際に行えば、『封印が解けて、財の隠し場所がどこかに出現すると考えたのさ」

 

「そ、そうですか……。それで、なにを……?」

 

 沙那は、なにか不穏なものを感じているようだ。

 なにか逃げ腰であり、おどおどしている。そして、その沙那の勘は正しいことを宝玄仙は知っている。

 

「朱姫、『魔縄』を持っておいで」

 

 宝玄仙は言った。

 

「ま、魔縄でなにをするんですか、ご主人様?」

 

 朱姫がびっくりしたように言った。そして、ちらりと寿黒を見る。寿黒の前で、なにかを始める様子であることに驚いているのだ。

 

「いいから持ってくるんだよ──。さて、沙那。お前には、手始めにこの書物を口に出して読んでもらおうかね。文字の読めない孫空女や寿黒のために、大声でね」

 

 宝玄仙は立ちあがり、逃げ場を塞ぐように椅子に座っている沙那の正面に立った。沙那の顔に恐怖の色が出現する。

 

「な、なんですか、ご主人様?」

 

「いいから、いいから──」

 

 宝玄仙は朱姫の持ってきた『魔縄』を受け取ると、それを道術で四本にして、有無を言わせずに、沙那の一方の二の腕を椅子の手摺に結わえはじめる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください──」

 

 沙那はびっくりして抵抗しはじめる。

 

「暴れるんじゃないよ、沙那。道術をかけて欲しいのかい」

 

 宝玄仙がそう言ったときには、すでに、沙那の身体の内丹印を遣って、沙那の筋肉を弛緩させて抵抗を封じている。

 

「ご主人様──。ちょっと、ご主人様──」

 

 沙那が目を丸くしている。その沙那の二の腕をそれぞれの手摺に動けないように縛りつけると、道術を解いて、手にさっきの書物を手に取り、目星をつけておいた頁を開いて持たせる。

 拘束されているのは、二の腕だけなので、手に持たせることはできる。

 

「ここだよ。この頁から読みあげな。前段は性の技についての解説だけど、終章はなにかの物語のようだね。ちょうどいいから、ここを読みあげるんだ」

 

「こ、これって──」

 

 書物を持たされた沙那が、そこに眼をやって絶句している。

 

「ねえ、いま、性の技って言わなかった?」

 

 孫空女が声をあげる。

 

「ああ、言ったね。この書物の名は、“性典(せいてん)”と書かれている。古今東西の性の技が書かれた本だね。しかも、この巻はちょうどわたし好みの嗜虐の技のようだね。どうやら、寿黒の義兄とかいう男もなかなかの好き者だったようだ……」

 

「嗜虐の技?」

 

 椅子に拘束されている沙那も悲鳴のような声をあげた。

 

「さあ、お前らは見物だ。寿黒と一緒に、沙那の前に椅子を移動して座りな。つべこべ言うと、立場を逆転させるよ。ほら、動いた動いた──」

 

 宝玄仙は、顔を引きつらせている沙那が座っている椅子を卓の反対方向に向ける。宝玄仙に逆らうことで、とばっちりを受けたくない孫空女と朱姫が、寿黒を促しながら沙那の前側に椅子を移動させて、見物の態勢をとる。

 

「さあ、沙那始めていいよ。ちょうど、娘が椅子に縛られたところがあるだろう。そこから読みな」

 

 宝玄仙は言った。

 沙那に開いて渡した部分は、書物のうち物語になっている部分だ。

 暴漢に捕えられた娘が、椅子に縛られてなぶられる状況のようだが、ちょうどいいので、沙那も同じ格好をさせたのだ。

 

「ご、ご主人様──。こ、こんなの酷いです。お、お願いですから……」

 

 沙那は、突然のことに、まだ覚悟ができないらしい。それに、寿黒という存在が気になるようだ。さっきから、ちらちらと見ている。

 

「この寿黒なら、男であって男じゃないんだってよ。年寄りの冥土の土産にお前の痴態くらい見せてやりな──。それに、ただ、文字を読むだけじゃないか。今更、恥ずかしがるんじゃないよ」

 

「まあ、わしのことは気にせんでくれ。もしも、財が手に入ったら、幾らかは礼をさせてもらうから……」

 

 寿黒もまんざらでもなさそうな表情で言った。まあ、寿黒も男だ、若い女が羞恥に顔を歪める姿を眺めるのは嫌ではないだろう。

 

「そ、そんなあ……」

 

 沙那は、書物を両手で持たされたまま、途方に暮れた表情をする。

 

「さっさと読むんだよ。言うことをきかないと、また、『縛心術』をかけて、ひとりだけ裸で外を歩かせるよ」

 

 これまで、さまざまな罰を与えたが、沙那がもっとも嫌がるのは、裸で外を歩かされたり、立たされたりする羞恥責めだ。

 しかも、それを『縛心術』をかけてやらせることだ。そして、見物人が集まったところで、『縛心術』を解いて正気にさせるのだ。何度やっても、沙那は、そのたびに泣き叫ぶ。

 宝玄仙の脅しに、沙那は真っ蒼になった。

 

「わ、わかりました……。ただ、読めばいいんですね、ご主人様」

 

 沙那は言った。そして、書物を読みあげる態勢になった。

 

「……薬で、人形のように動けなくなった愛羅(あいら)は……」

 

 沙那は語りはじめる。

 

「責められている娘の名は、沙那に読み替えな」

 

 宝玄仙は口を挟んだ。

 沙那は顔を引きつらせたが、それ以上は抵抗するつもりはないようだ。言われたとおりに読み始める。

 

「……く、薬で人形のように動けなくなった沙那は、完全に意識を喪失しているのではなく、意識だけはどこまでもはっきりとしている。そのことが……、さ、沙那を困惑させていた……。ただの痺れ薬ではなく、五感はどこまでもはっきりとし、しかも、動けないことで、むしろ何倍も感じているようだ……」

 

「どれ、動けないと感じるのかどうか、試してみるかい。朱姫、沙那の身体を擦ってやりな」

 

「はい」

 

 朱姫が素直に立ちあがる。

 こういうときに、朱姫は持ち前の嗜虐癖に火がついたような状態になる。沙那の境遇に同情はしない。

 むしろ、積極的に責めたてる。

 

「しゅ、朱姫、や、やめてよ」

 

 沙那が椅子の上でじたばたし始めた。

 

「沙那、お前は、読むのをやめるんじゃない。今度、やめたら『縛心術』だよ。この宿の前に、裸で自慰をさせながら立たせ続けるよ」

 

 宝玄仙は激しく叱咤した。沙那は泣きそうな表情になる。

 

「……次に、男が、愛羅……いえ、沙那の下袍(かほう)に手をかけ──。ひいいっ──」

 

 沙那が声をあげた。後ろに回った朱姫が書物を読む沙那の胸を服の上から擦ったのだ。

 しかし、感じやすい沙那は、たったそれだけの刺激で、声をあげるほど感じてしまったらしい。

 

 もっとも、縛られて性愛の物語を無理矢理口に出して読まされるという恥辱が、沙那の官能に火をつけているに違いない。

 それに、寿黒の存在もある。

 見知らぬ老人の前でやらされる恥辱は、被虐癖を染み込まされている沙那を追い詰めるはずだ。

 

「どうしたんだい、沙那? そんなところに、いきなり嬌声が書かれているのかい?」

 

 宝玄仙はからかった。沙那は、羞恥に顔をますます赤くした。

 

「お、男は、さ、沙那から……下袍を抜き取ると──あ、脚を──」

 

「じゃあ、こっちの沙那にも同じことをしてもらおうか。朱姫、沙那の下袴を脱がしな。少しだけ、また道術で動けなくするから」

 

「や、嫌です、ご主人様──。こ、ここでは……、ああっ」

 

 朱姫が沙那の下袴に手をかけて紐を解きはじめると、沙那は嫌がって足をばたつかせたが、宝玄仙の道術ですぐに抵抗できなくされる。

 すでに嗜虐に酔っている朱姫が、容赦なく沙那から下袴を剥ぎ取ってしまう。

 たちまちに沙那のかたちのいい脚が露わになった。

 横で寿黒が唾を飲む音がする。年寄りといえども、やっぱり男には違いないということだ。

 

 宝玄仙の悪戯心に火がつく。沙那にもう一度道術を施す。

 ある細工を沙那に施す。

 

「ああっ、いやああ」

 

 自分の身体の違和感に気がついた沙那が声をあげる。

 

「ご、ご主人様、こんな悪趣味です……」

 

 沙那がびっくりしている。

 

「なにを慌てているんだよ、沙那。さあ、続きを読みな。それとも、『縛心術』がいいかい?」

 

 沙那は悲痛な表情になり、そして、一生懸命に股間を擦り合わせて、そこを隠そうとしている。だが、沙那の股間に出現した膨らみがよく見れば顕著だ。もっとも、いまのところ、誰も気がついてはいないようだが。

 

「……男は、沙那の脚を持ち、手摺にかけて……、やだっ」

 

 そこまで読み、沙那は読むのを悲鳴をあげて躊躇った。聡い沙那は、沙那が読んだ物語のとおりの仕打ちを受けることを予想している。だから、そこから先を読むのをやめたのだ。

 

「沙那、続きを読みな」

 

「お願いです。もう、勘忍してください。こんなの酷すぎます」

 

 沙那が哀願した。

 

「朱姫、代わりに読みな。そして、その通りの行動を沙那にさせるんだ」

 

 宝玄仙は冷たく言い放つ。

 朱姫が沙那から書物を取りあげて読み始める。

 

「はい……。男は……愛羅……いえ、沙那の脚を持ち、手摺にかけて縄で縛った。そして、もう片方の脚も同じように結わえてしまった。沙那は、両脚を大きく開いて椅子の手摺にかけた状態で閉じられなくされた……。じゃあ、やりますね、沙那姉さん」

 

 朱姫が嬉しそうに言った。

 そして、抵抗できない沙那の脚を持ち、引き揚げて手摺に縛る。

 『魔縄』の効果は、ほんの少しの縛りでも絶対に解けないことだ。

 沙那の片脚が大きく開かれる。沙那は悲鳴をあげるが、朱姫は構わずに、もう片方も反対の手摺に載せて縛る。沙那は、下半身を小さな下着だけで包んだ状態で、大きく股を開かされて拘束されてしまった。

 

「な、なんじゃあ? この人は男じゃったのか?」

 

 寿黒は声をあげた。

 寿黒がそう思ったのも無理はない。さっき、宝玄仙が道術で、沙那の股間に男の男根を生やさせたのだ。

 その男の性器が、開脚した沙那の股間でしっかりと大きくなっていた。

 下着の中で勃起した男性器がしっかりと沙那の下着の中で膨らんでいる。

 

「しっかりと、女だよ。道術で男性器を生やされただけさ、寿黒──。それにしても、お前は、なんで、そんなに股間の一物を大きくしているんだい、沙那。ちょっとばかり、艶物の書物を読んだだけでそんなに興奮したかい?」

 

 宝玄仙の揶揄で沙那は泣きそうになっている。

 沙那が、宝玄仙の掘った罠に足を踏み入れてしまったのは明らかだ。

 娘が責められているような醜悪な読物を読まされ続けているうちに、自分では判断のできない奇妙な陶酔に沙那は全身を操みぬかれだしたのだ。

 しかも、その娘が受けている仕打ちを自分もされることにより、頭の中で重ねあわせてしまいすっかりと身体を興奮させてしまったのだ。

 

「さて、そろそろ、封印の解除といこうかね。この書物のどれをやれば、条件付された封印が解除されるかわからないけど、とにかく、片っ端からやっていこうか」

 

 宝玄仙は言った。

 

「だったら、ここの章には、“稚児苛め”になっていますよ、ご主人様。ちょうどいいし、沙那姉さんでそれをやってみませんか」

 

 朱姫が言った。

 

「稚児苛め?」

 

「大人になっていない少年の性器をあの手この手でいたぶるんです。沙那姉さんみたいなきれいな女の人に生えた男性器は、ある意味、稚児さんのもののようなものじゃないですか」

 

「なるほど、手始めに、そこからやるかね。そういうわけだから、協力してもらうよ、沙那──。じゃあ、朱姫、まずは、沙那の下着を刃物で切って、とり去ってしまいな。こいつが、どんな風に興奮して男根を勃起させているか見物させてもらおうじゃないか」

 

 宝玄仙が言うと、沙那は哀願して首を懸命に横に振る。

 

「ね、ねえ、ご主人様──」

 

 我慢できなくなった孫空女が抗議の声をあげた。

 

「心配しなくても、後でお前にもしっかりとなにかをやってもらうよ、孫空女。だけど、最初は沙那だ。大人しく見物しているんだ」

 

 そう言うと孫空女は、それ以上喋らなくなってしまった。

 朱姫が、荷物の中から刃物を持ってきた。そして、容赦なく沙那の股間から下着を切り取ってしまう。

 

「いやああああ──」

 

 沙那の悲鳴があがる。

 男性器だけじゃない。

 その下の沙那の女性器は、どろどろに沙那自身の愛液で濡れていた。

 

「ほう、ほう、ほう」

 

 寿黒が馬鹿みたいな声をあげた。

 

「さてさて、ちょっと書物を貸しな。なんて書いてあるんだい?」

 

 書物を受け取った宝玄仙は、朱姫の示した章に眼をやった。

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