※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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第6章【祭賽(さいさい)帝国(水滸伝艶義)篇】
222 梁山泊に近づく者


「あれが賊どもの拠点です、将軍」

 

「梁山泊(りょうざんぱく)か……」

 

 およそ、五刻ほど馬を駆けさせたところで、史延(しえん)が馬をとめた。

 さすがに、国軍騎兵団でもっとも優秀だと言われている将校だけのことはある。

 蘭貫(らんかん)も、国軍ではもっもと若い将軍であり、体力にも、馬捌きについて自信があったが、やはり、史延にはかなわないと思った。

 蘭貫は、史延に続いて馬を降りる。

 

 ここは、地形が小高い丘となっている場所であり、周囲に高い樹木の影はない。

 樹木のない正面には、広大な湖水が拡がっている。

 梁山湖という名であり、湖水の中心に大きな島がある。

 島というにはかなり大きい。

 そこが、「梁山泊」と号している叛徒の本拠地だ。

 もともとは、王倫(おうりん)という男を頭領とする盗賊団にすぎなかったが、その盗賊団を本拠地ごと乗っ取った賊徒が中心となって、さらに全国各地から集まった豪傑、女傑たちが集まって叛乱の巣を作った。

 叛乱、即ち、国への蜂起ということだ。

 

 しかし、湖の水に阻まれた自然の要害だったということもあり、王都からそれほど離れていない場所にできた叛乱の巣にもかかわらず討伐軍の派遣は遅れた。

 また、地方で賊徒が発生するなど、珍しいことでもなく、所詮は集まっているのは、軍法も知らぬ無法者たちにすぎないという中央の侮りもあった。

 そもそも、梁山泊の賊徒の首領は、晁公子(ちょうこうし)という女であり、元は近傍の農村の女名主だ。しかも、いまの梁山泊の核となったのは“女賊”とも称されていた女が主体の白巾賊という女集団だ。

 さらに、賊徒の企みの中心になっているのも、やはり、呉瑶麗(ごようれい)という女であり、元は国軍の武術師範代だ。

 

 いまは、運城(うんじょう)の城郭の小役人だった宋江(そうこう)、同じく運城軍の上級将校だった朱仝(しゅどう)、雷横(らいおう)などの男たちも加わっているものの、女中心の集団という感は否めない。

 だから、すぐに潰せるという油断があった。

 

 その結果、梁山泊の叛乱は拡大して、さらに青州と呼ばれる梁山泊勢力の東側の李忠(りちゅう)の大乱への連鎖に繋がることになった。

 そして、その連鎖は、さらにこの国の全土にまで、拡がる様相を示しつつある。

 

 ただ、これほどのことになっても、いまだに中央では危機感を抱くものは少ない。

 地方の叛乱のことなど、聞き心地のよいことしか伝えようとしない宰相の蔡京(さいけい)や近衛城軍の高俅(こうきゅう)に阻まれて皇帝に伝わることはないし、小規模の盗賊団程度としかされていない梁山泊の討伐など、恩賞を期待できるものでもなく、国軍の各将軍にとっても、現段階では旨味のある任務ではない。

 だから、中央はいまだに動かない。

 

 しかし、梁山泊は危険だ。

 少なくとも、先をみる頭がある者は、梁山泊をいま叩かなければ、あと数年後には、取り返しのつかないことになっている可能性があるという共通の認識が生まれつつある。

 蘭貫もそのひとりだ。

 

 いずれにしても、梁山泊から始まった叛乱は、数回にわたって地方軍の討伐軍を押し返し、いまでは、運城の城郭を占領して、県全体の土地をすべてを支配下に置いている。

 また、単に占領するのみならず、行政をして統治を行い、流通を動かし、まともな治政をしているのだ。

 税は、本来の祭賽(さいさい)帝国のものよりも遥かに安く、占領地の旧来の役人をそのまま使うが、徹底した不正の防止をしたことにより、むしろ、賊徒の支配地域の方が統治が安定していて、賊徒の支配域だというのに混乱は最小限で、むしろ、人民の流入まで起こっている。

 これで、危機感を抱かないのが、おかしいとは思うのだが、それが現実だ。

 

「俺を将軍と呼ぶのはよせ、史延。どこに、叛徒たちの耳目が隠れているかわからん。ここにいるのは、俺とお前のふたりだけだ。襲撃されれば、無事では済むまい」

 

 梁山泊の強みは、人に紛れている賊徒たちの間者にもある。

 梁山湖や運城に入り込んでいる表の賊徒のほかにも、民に紛れている影の賊徒もいて、これが梁山泊の勢力地に入り込む政府の諜者狩りをして、情報を遮断してしまう。

 だから、これ程の叛乱となったのに、驚くほどに情報が少ない。

 そういう裏の活動に長けた者が梁山泊の叛乱に集まっているのは間違いない。

 人の豊富さ……。

 これも、梁山泊の武器だ。

 

「そんなに用心することはないんじゃないですか? だって、敵は、女に率いられた集まりですよ。北州軍の討伐が失敗したのは、所詮は地方軍が軟弱だからでしょう。国軍が出動するとなれば、俺と将軍とふたりで、簡単に討伐できますよ」

 

 史延は腰の剣を鳴らした。

 

「違うな、史延。梁山泊は強い。戦のかけ引きも巧みであり、かなりの知恵者がいると思っていい。だからこそ、油断してはならんのだ」

 

「わかりましたよ。こうやって、将軍自ら忍んで偵察にくるくらいですから、蘭貫将軍殿が連中を一人前の相手とみなしているということは理解しました。じゃあ、俺もそれなりの相手と思わせていただきます。ところで、将軍殿でなければ、どのようにお呼びすればよろしいのですか?」

 

「そうだな。さすがに梁山泊の勢力地では無理だが、それを越えれば、とりあえず、役人ということにしようか。お前は従者だ」

 

「なるほど、じゃあ、将軍殿のことを蘭殿と呼ばせてもらいますよ。俺のことは、“延”と名を呼び捨てにしてください」

 

「それでいこう、延──。それで、あれを落とすとなれば、どうする? すでに占領されている運城は力押しするしかないが、あの梁山泊の湖塞を落とさねば、あそこに逃げられて終わりだ。最終的には、あの湖塞を確保できねば、この賊徒は討伐できん」

 

 蘭貫は湖を指さした。

 

「まずは、あの林冲(りんちゅう)の黒騎兵を抑えること。そして、水軍です。いずれにしても、まずは大軍で騎兵を撃破し、湖塞については、水軍を確保したうえで、腹の座った攻めが必要でしょう。女賊どももいまでは水軍もどきを準備しているみたいですしね」

 

 さすがは史延だとは思った。

 侮りのようなことを口にはしていたが、しっかりと一人前の敵として、梁山泊の軍を分析している。

 今度の討伐戦において、全軍を指揮することになっている蘭貫の補佐として指名した自分の眼に狂いがなかったことがわかり、満足した。

 一度も負けたことがないという林冲という黒衣の男の率いる騎馬隊は、本当に脅威だ。

 そして、本拠地が水に囲まれた島にあるということも、討伐を複雑にする。

 

「ほかにはあるか?」

 

「あの山塞……、湖に存在するから湖塞と呼ぶべきでしょうか……。あそこにこもる女たちの団結は強固です。それに敗れれば残酷に殺されることがわかっています。だからこそ、死ぬ物狂いで戦ってきます。言わば死兵です」

 

「もっと大きく見よ。帝都との距離だ」

 

「なるほど」

 

「見えたか?」

 

「帝都からたった馬で十日の距離です。しかも、北側からの流通を陸路でも水路でも制する位置にこの拠点はあります。しっかりと、戦略上の要地でもあることを見抜いて、ここに拠点を作ったということでしょうか」

 

「そうだな。いまは、小さな叛乱の域を超えていないが、しばらく、あの湖塞だけではなく、この地方一帯も連中が支配するということにでもなれば、沿岸の交易に頼っている帝都の流通はかなり影響される」

 

「しかし、それほどのことを連中が考えていますかねえ?」

 

「考えた……としてみよ」

 

「ならば、このまま手をこまねいていれば、もっと富が賊徒に集まりだすということになりますか? そして、帝都が弱くなる。そうなれば、あの連中はもっと強くなる……ですか……?」

 

「そうだ。放っておけば、さらに連中に人も財も集まる。力も蓄えていく……」

 

「まさか、女たちには、そんなことはできないですよ──。女の叛乱に誰が集まりますか」

 

 史延は言った。

 女が率いる賊徒が起こした叛乱――。

 確かに、それが国軍や宮廷内だけではなく、世間の多くの意見だといえるだろう。

 だから、これまで放置されてきた。

 その気になればいつでも潰せると──。

 しかし、実際、そうだろうか?

 すでに、二度の大規模な討伐に失敗している……。

 当初は、集まっているのも、逃亡した女奴隷たちに過ぎないと言われていたが、現実には名だたる男もかなり梁山泊に集結して、女頭領の晁公子の支配に従っている。

 

「とにかく、そうなる可能性があるということだ、延。だから、いまのうちに芽を摘むのだ。このまま、さらに数年もしてみろ。いまの話を笑い話とは考えられなくなるかもしれないぞ」

 

 いまのところ、国軍において、この梁山泊の蜂起に、本当の意味において危機感を抱いている将軍は蘭貫ひとりかもしれない。

 討伐に成功しても大きな功績になることなく、失敗すれば女に負けた将軍として糾弾される。割りの悪い仕事として、多くの将軍は及び腰だ。

 そのことも、この湖塞の討伐を遅らせている理由のひとつだ。

 しかし、本当に杞憂にすぎないのだろうか。

 湖から風が吹く。蘭貫の上衣の袖が風になびく。

 

「さて、陽が暮れるまでに、どこかの宿町に戻ろう。さすがに、叛徒の城郭で夜を過ごすわけにはいくまい」

 

 運城は梁山湖に近いが、すでに叛徒の勢力地であり危険だ。ひと通り、梁山泊の周辺を確認してから、何とか梁山泊の勢力範囲を抜けた宿町まで戻りたいと思った。

 蘭貫は、馬を寄せるとひらりと跨った。

 

 

 *

 

 

 適当な宿町で宿屋を見つけたのは、すっかりと辺りが夜に包まれてからだった。

 梁山泊から南に下った光城という城郭に近い宿町であり、すでに梁山泊の叛徒の支配地域の外になる。

 

「女奴隷はいかがですか? 無論、料金は必要ありませんが……」

 

 夕餉のためにあてがわれた食堂の個室で宿の主人がそう言ったのは、蘭貫が帝都からやってきた小役人という触れ込みだったので気を利かせたに違いない。

 

「呼んで貰おうか」

 

 しばらく考えてから蘭貫は言った。

 この城郭は、あの梁山泊が支配する湖の眼と鼻の先の先くらいの距離だ。この土地で、あの叛乱がどのように思われているかを知っておきたいし、土地の情報を得るために女を抱くというのもひとつの手段だ。

 

「わかりました。すぐに部屋の方に向かわせます」

 

「女には縄を一束持たせて欲しい。女は縛ってから抱く。それが俺の趣味でな」

 

 すると宿の主人が破顔した。

 蘭貫はひとりで宿泊のための部屋に向かった。ほかの一般の客が泊る宿泊棟とは別になっている離れにそれはあった。従者の侍る控えも隣接している。

 部屋に戻ると、史延から伝言が置いてあった。従者と主人が一緒に食事をするというのは不自然なので、別々に夕餉をとっていたのだ。伝言には、土地の女を抱くので、控えの間ではなく、ほかの部屋を自分用に準備させたとあった。蘭貫は苦笑した。

 

 やがて、女がやってきた。

 女は盆に載せた酒を持っていた。別に注文したわけではない。

 これも宿の主人が提供する饗応のひとつなのであろう。その盆の上には、蘭貫が準備を命じた縄もある。

 女は、蘭貫が思わず息を呑むくらいのはっとするほどの美人であり、これだけの気量の女はちょっと帝都でも見ないと思った。これだけの女が本当に奴隷女なのかと驚いてしまった。

 しかし、奴隷女には違いない。肌の透けた薄物を着ていて、奴隷の身分を示す焼印が両方の乳房に刻み込まれていた。また、薄物からは彼女の白い肌と股間の恥毛もはっきりと透けて見えてもいる。

 女は蘭貫の座る卓に酒と肴、そして、縄を置くと、無言のまま、床に跪いて頭を下げた。

 

「ここに座るがいい」

 

 蘭貫は、自分の横の椅子を示した。

 顔をあげた女は当惑したような表情をしている。

 奴隷の身分で、男と同じ席に座ることは許されることではない。

 だから、対等の立場であるかのように、隣の椅子につくことを命じられて困っているのだ。

 

「お前は、俺を悦ばせるように主人から指示を受けてきたのだろう? ならば、俺の命令に従え。俺は少し、お前と話がしたい。そのように床に座られては話がしづらいのだ」

 

 蘭貫は言った。

 

「しかし……」

 

 女はまだ困っているような顔だ。その表情もまた蘭貫の情欲をかきたてる。

 

「命令だ。俺の隣の椅子に座れ」

 

「わかりました」

 

 女は立ちあがって、蘭貫の示した椅子に座った。

 蘭貫は、女が卓に準備した酒の横の盃を手に取った。女の手が伸びて、その盃に酒を注ぐ。

 

「お前に先にすごしてもらう」

 

 蘭貫は女が注いだばかりの盃をその女の前に置いた。女は驚愕した表情をした。

 

「と、とんでもございません。お客様の酒を口にするなど……」

 

 女は恐ろしいことを聞いたというような仕草をする。

 

「同じことを二度も三度も命令するのは疲れる。今後、俺の命令にいちいち逆らうな。俺が酒を飲めと言えば、飲め──。それとも、下戸なのか?」

 

 わざと苛ついた口調で言った。女の顔が蒼くなった。

 

「い、いいえ──。では、いただきます」

 

 女は慌てたように、自分の前に置かれた盃を手に取った。そして、ひと息でそれを飲み干す。

 女が確かに酒を口にするのを確認して、蘭貫は女が空にした盃を受け取った。女がその盃に酒を注ぎ直す。

 女に酒を飲ませたのは、毒見の意味でもある。

 蘭貫は、盃の酒をあけ、空になった盃を女に戻す。

 今度は、女は拒否しなかった。女が盃を受け取ると、蘭貫は酒瓶をとり、それに酒を注ぐ。女は、それも黙って受けた。

 女はその酒もひと息で飲み干した。

 蘭貫は、女が注ぎなおした盃を卓に置く。

 

「名は?」

 

 蘭貫は訊ねた。

 

「菖蒲女(しょうぶじょ)と申します」

 

「この辺りの生まれか?」

 

「生まれは帝都です。母も奴隷女でした」

 

「そうか」

 

 奴隷の産んだ子供だといって奴隷になるとは限らないが、女が生まれた場合は、その娘もそのまま奴隷として売られる場合も多い。

 所有する奴隷女が子を産んだ場合は、所有者の主人にその育成の責任があるが、奴隷女の産んだ子が女であるときは、それを商品として売ることが認められている。家畜の産んだ家畜の仔を処分するのと同じということだ。

 奴隷である女に人権はない。あくまでも所有者の家畜であり、そのような奴隷制度がこの国の実態なのだ。

 

「ここから、北に行ったところに梁山湖という湖があるのを知っているな?」

 

 菖蒲女がびくりと身体を震わせた。

 

「どうだ?」

 

 女がすぐに応じなかったので、蘭貫は重ねて質問した。

 

「し、知っております」

 

 女が顔を下に向けた。それで女の表情がわからなくなった。

 

「そこに大勢の叛徒が集まっているそうだな。湖に近い運城という城郭も支配されている。それは耳にしたことがあるか? しかも、そこでは奴隷身分が禁止だそうだ。事実、逃亡奴隷も逃げ込んでいる。知っているか?」

 

「少しは……」

 

「どう思う?」

 

「恐ろしいことです。政府に叛乱するなど……。ましてや奴隷の身で……」

 

 菖蒲女は俯いている。やはり、どのような感情を抱いているかが読めない。

 

「本当に興味はないのか? 連中は、国に対する叛旗を揚げ、この国から奴隷制度を追放しようとしているらしいぞ。奴隷の身分から解放されることに興味はないか?」

 

「恐ろしいことです……。もう、勘忍ください」

 

 菖蒲女が少しだけ口調を強くした。蘭貫は、少しだけ菖蒲女の感情を覗くことができた気がした。

 

「感情を害したのなら済まなかったな」

 

 蘭貫は酒の盃を空にして、盃を女に渡す。

 

「そ、そんな……」

 

 菖蒲女は盃を受け取った。その盃に酒を注ぐ。

 注がれるたびに菖蒲女は、ひと息で酒を飲む。蘭貫もしきりと重ねたふりをする。菖蒲女の身体の線が崩れて、薄物の下の肌が桃色に変わった。

 

「……俺が女を抱くときには、縛ってから抱くのだということは宿の主人から教えられたか?」

 

 やがて、蘭貫は言った。

 実のところ、蘭貫には、女を縛って抱く嗜虐趣味があるわけではない。

 ただ、酒を飲むときに、女に毒見をさせたように、用心をしただけだ。女を抱いてそのまま寝入り、殺されるということも最近続いている。軍人である蘭貫は、たとえ、眠っていても首を掻かれるとは思わなかったが、用心をすべきだと思った。

 菖蒲女は立ちあがり薄物を脱いだ。

 菖蒲女の肌が眼の前に現れる。薄物越しに見えた彼女もきれいだったが、こうして抱かれるために裸身を晒す彼女は、さらに美しくなった。

 

「背に腕を回せ」

 

 すると、菖蒲女が蘭貫に背を向けて、両手を背中に向けた。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 菖蒲女の声は少し震えている気がした。

 蘭貫は、女の手首を束ねて縛り、その縄尻を二の腕に巻いて固定し、乳房の下に回して反対側の二の腕に巻き、手首を縛っていた縄から出ている縄で返して、今度は乳房の上を通って、再び背中で結ぶ。

 これで女は両腕を背中に回して身動きできなくなった。

 蘭貫は菖蒲女を促して、寝室に向かわせた。

 緊縛されたまま寝台に横になろうとした菖蒲女を引きとめて、その身体を横抱きに抱いた。

 

「あっ」

 

 菖蒲女が小さな声をあげた。

 蘭貫は、そのまま寝台の上に胡坐をかいた。

 まだ服は着たままだ。菖蒲女だけが、全裸で寝台に座る蘭貫の脚の上に載せられている。

 蘭貫は、菖蒲女の胸の焼き印を指でなぞった。本物だ。確かに焼印だ。奴隷女には、必ず身体のどこかに焼印をする。そして、奴隷女は必ず、その焼印を晒すことが法で定められている。隠すことは死罪だ。

 

 身体のどこ焼印をするかは自由だが、晒さなければならないという定めがあるので、この菖蒲女のように胸に施されると、すべての生活を裸身に近い状態でしなければならないということになる。奴隷女とはいえ、男の前で裸身を晒し続けるということは普通の生活はできないということだ。そうすると、この菖蒲女のように娼婦にでもなるしかない。それでも、尻や股間に焼印をされるよりはましだろうが……。

 

「歳は……?」

 

 蘭貫は菖蒲女の女の部分に指を伸ばす。

 菖蒲女の裸身が震えた。女陰に手を這わせると、乾いていた股間がだんだんと湿り気を得ていく。

 

「あ、ああ……に、二十……二」

 

 二十二……。

 奴隷女の娼婦としてはそれなりの年齢であろう。蘭貫はさらに愛撫を続けた。菖蒲女の肉芽がむくりと大きくなるのがわかった。眼の下にある縄に挟まれて強調された乳房の中心のふたつの突起がぴんと尖る。

 

「お前の主人は、この宿の主人ではあるまい?」

 

 蘭貫の指先は、菖蒲女の肉芽の周りを執拗になぶる。だんだんと菖蒲女の息が荒くなり、菖蒲女の表情から余裕のようなものが消滅する。

 

「ご、ご主人様は──」

 

 菖蒲女は、宿町の分限者の名を言った。どうやら、宿の主人が提供した賄賂ではなく、その分限者の提供だったようだ。蘭貫が菖蒲女を気にいれば、朝になってその分限者が現れて挨拶をする。そういうことになっていたらしい。

 

「んん、んああ──」

 

 ついに菖蒲女が大きな声をあげた。

 一瞬だけ汗ばんだ菖蒲女の裸身が弓のように湾曲した。そして、そのままたわんで硬直する。軽くいったらしい。蘭貫は素知らぬふりをして、菖蒲女の股間を弄ぶことを続けた。

 蘭貫の股間の一物はすでに怒張になっている。

 しかし、蘭貫はもう少し、いろいろと菖蒲女に物を訊ねたかった。それは、たとえ奴隷女の言葉であっても、その奴隷女の感情を通じて、あの叛乱がどう思われているかという情報を手に入れたかったということもあるし、純粋に菖蒲女の痴態が愉しかったからでもある。

 本当に娼婦であろうかと疑念を感じる程、菖蒲女のよがり方はしとやかで慎みのようなものがあった。それがだんだんと淫情に酔い、あられのない痴態に変わっていく。それがよかった。

 しばらく、そうやって股間を責め続ける。菖蒲女の白かった肌は真っ赤に染まり、蘭貫の指が触れている股間は、もう淫液でびしょびしょだ。

 蘭貫は女陰の中に指を挿す。その入口に近いさらざらした部分を擦る。

 

「ふくうっ──」

 

 菖蒲女は激しく身体を震わせて大きく身体を跳ねあげた。今度はかなり激しく気をやったようだ。

 

 抱くか──。

 

 蘭貫は思った。

 最初はこうやって、気を失うまで責め続けて果てさせるつもりだったが、あまりにも妖艶な菖蒲女の痴態に気が変わった。この菖蒲女は、これまでに蘭貫が接した中でも最高部類の女だ。たとえ奴隷女としても、これ以上の女はいない気がする。

 蘭貫は菖蒲女を横に置き、服を脱いだ。

 

「む、胸を──」

 

 菖蒲女の上に乗ろうとすると、菖蒲女が消え入るような声で言った。

 

「胸?」

 

「お、お股ばかりあんまりです。む、胸も責めてくださいませ……」

 

 あまりに恥ずかしそうな口調で呟いた菖蒲女に対して、蘭貫は思わず笑みを漏らしてしまった。

 

「そうか。胸が弱いのだな、お前は?」

 

 蘭貫は菖蒲女の勃起した乳首を口に含む。この可愛い女を身請けできないものか。本気でそんなことを考えた。こんな小さな宿町の分限者の持ち物にしておくのはあまりにも惜しい。

 しかし、不意になにかが胃から込みあげた。気がつくと、赤いものを口から噴き出していた。

 

 血──?

 

 それが自分の吐血だと気がついて愕然とした。

 

 なぜ……?

 

 この感触は毒に違いない。しかも、これはおそらく猛毒だ。放っておけば、このまま死ぬ──。

 だが、そんな毒をいつ飲まされたのか……?

 夕餉で口にしたものは、事前に史延が毒のないことを確認している。いま、菖蒲女が持ってきた酒には、実は飲んだ振りをしただけで、一滴も口には入れていない。

 そして、ふと気がついたことがある。

 

 汗──?

 

 いま、自分は菖蒲女の乳首を舐め、その肌から流れる汗を口にした。

 その汗が?

 蘭貫が倒れ込んでいる菖蒲女の身体がむくりと起きた。後手縛りのまま、身体を揺すって邪魔そうに蘭貫を振るい落とす。

 蘭貫の吐いた血が菖蒲女の胸を汚している。

 だんだん暗くなる視界で最後に蘭貫が見たのは、冷酷な表情で自分を見下ろしている菖蒲女の顔だった。

 

 

 *

 

 

 寝室の扉が開いた。

 蔡香(さいか)が入ってきた。蔡香もまた、奴隷女の格好をしている。

 

「あら、九頭女(くずじょ)さん、いい格好ですね」

 

 蔡香が後手に縛られている九頭女の裸身を眺めながら笑った。

 

「冗談を言ってるんじゃないわよ。早く、解いてちょうだい、蔡香」

 

 九頭女は言った。

 

「結構時間がかかったんじゃないですか、九頭女さん」

 

 蔡香が九頭女を拘束している縄を解きながら、血を吐いて死んでいる蘭貫に視線をやった。

 

「用心深い男でね。酒は飲みやしないし、女を抱くにも自由を奪ってからときたものだよ。それと執拗に梁山泊のことを探っていたよ。やっぱり、あの蘭貫将軍であることは間違いないね。だけど、まあ、これで蘭貫は死んだ。梁山泊のことを本気で討伐しようと思う将軍はいなくなった。当分は大きな討伐はないわ。その間に、また公子殿たちは塞を充実することができる」

 

「それで、史延の方はどうしたの、蔡香?」

 

 縄を解かれると、九頭女は布を使って、血で汚れた身体を拭いた。

 そして、蔡香の準備した服を着る。奴隷女としての服ではなく、黒装束の下袍と上衣だ。

 これから、この宿町を離脱して逃亡することになる。そのために目立たず、そして、動きやすい恰好になる必要がある。

 

「死にましたよ。こっちは最初の酒で死んでくれました。だから、九頭女さんのように、何度も達しなくてすみました」

 

 蔡香は言った。蔡香もまた、史延の抹殺に成功したということだ。そして、どこかで蘭貫が九頭女を弄ぶのを覗いていたのだろう。

 九頭女は苦笑した。

 

「それより、九頭女さん、胸の印をお願いします」

 

 蔡香も服を着替えながら、自分の乳房を示した。そこには、九頭女が刻んでいるものと同じ刻印がある。

 

「そうだったね。忘れていたわ」

 

 九頭女は、道術で自分と九頭女の胸に作った偽の奴隷印を消滅させる。

 さらに、口から含んだ毒液を乳房から体液として滲ませていた道術の効果も消失させ、体内に入れた毒も『治療術』で消した。

 蘭貫がなかなか毒酒を口にしなかったため、とっさに毒液をそうやって舐めさせたのだ。

 

「この宿の亭主は?」

 

「仙薬を使ってあたしらのことは忘れさせました。この蘭貫と史延の死骸を見ても、なんでこいつらがここにいるのか理解できないでしょうね」

 

 蔡香がにやりと微笑む。

 この宿に泊りに来た蘭貫と史延に接するために、九頭女の道術と蔡香の仙薬で意思を朦朧とさせて、この宿の主人を操った。

 そして、既に、その主人の記憶からも、今夜のことは抹消させたということだ。

 

 もちろん、蘭貫と史延のことは、ずっと以前から追いかけていた。

 梁山泊の強敵になると評価したときから、密かに抹殺する機会を狙っていた。梁山泊の叛乱はまだ成熟していない。

 運城の支配も始まったばかりであり、国として戦うための力を蓄えるにはもう少し時間が欲しい。

 梁山泊のことを本当にこの国の危機と気がついている軍人は、いまのうちに処分しておく必要がある。

 

「さて、あんたには、これからしばらく、運城と梁山泊内の娼館を任せるわ。とりあえず、目障りな者はいなくなったし、運城も静かになると思う。あんたも、そろそろ、ひとりだちしてもいいしね」

 

 娼館というが、実際は九頭女が育てた女諜報組織だ。その隠れ蓑が娼館になっているだけだ。

 

「わかりましたが、九頭女さんは?」

 

「次は、北安の城郭に戻るわ。あそこに派遣された新しい高官が切れ者でね。ちょっと揺さぶってみるわ。梁山泊の敵になりそうなら、いつものように……」

 

 九頭女は手で首を裂く動作をして、おどけた顔をした。

 軍人であろうと、文官であろうと、無能であれば生かし、有能だと見極めたら、手を尽くして失脚させるか、暗殺する。

 それが、九頭女たちのしていることだ。

 蘭貫についても、真面目で優秀な国軍の城軍であったため、手を出して殺した。

 汚れた仕事だが、梁山泊がいずれ国を奪うためには、必要なことだ。

 

「じゃあ、行くわよ」

 

 準備ができたところで、九頭女は蔡香をそばに寄せて立ちあがった。

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