“鬼神もおののく迫害や
天地も憂う嗜虐受け
墳墓も持てぬ屍の
上に築いた奴隷国
哀しや今夜も冥土旅”
「なんだ、それは?」
長屋の仲間三人で安酒を飲んで、家に戻る途中だったのだが、その帰路の途中で、急に朋友の
「んんっ、なにがだい?」
口ずさんでいた右京が歌うのをやめて、こっちを見る。
「それよ、それ。いま歌ったのはなんだ?」
この三日やたらと耳にする流行り歌だ。
仕事で半月ほど城郭を留守にしていた。そして、久しぶりに北安に戻ってわずか三日なのだが、その歌をもう幾度聞いたかわからない。
今朝は同じ長屋の子供がそう唄いながら、石遊びをするのを見たし、昨日は河原の乞食がそれを口ずさむのを耳にした。
「知らんのか? この半月ばかり、やたらにはやっている奴隷歌だ」
すると、後ろを歩いていた
「やめてくれ、なにか気が滅入る」
歌詞も陰気だが、曲はもっと暗い。
まるで死の国に引きずり込まれるような雰囲気がある。
それをこんな夜更けに唄われるとなにか不気味な気分になる。
「最初は色町の女たちが唄い出したらしいな。いまでは、この城郭で知らぬ者はないほどの流行りだぞ、酆美」
「色町か……」
色町で働く遊女はほとんどが奴隷だ。
女としての身体を酷使させられて、使いものにならなくなれば殺されて処分される。
そんな境遇がこの暗い歌を流行らせたのかもしれない。
だが、この歌には遊女たちだけじゃなく、唄う者すべての気を鈍らせるような不思議な力がある。
そのとき、またどこからかその歌が聞こえてきた。
酆美は舌打ちした。どこかの酔客が唄っているようだ。
「それよりも、
「閻魔女? また、出たのか、右京?」
閻魔女というのは、このところ北安の城郭を震撼させている謎の人斬りのことだ。
それくらいは酆美も知っていた。
夜の闇に紛れて、貴族狩りをしている人殺しだ。
死ぬのは屋敷に奴隷を飼っていて、彼女たちに惨い扱いをしているという噂がある貴族たちばかりで、心当たりのある者はかなり戦々恐々としているらしい。
城郭の兵が懸命に犯人を追っているがいまだに影もつかめないようだ。
もっとも、狙われるのは、元々、評判のよくなかった者たちばかりなので、庶民には喝采をひそかにあげている者もいる。
酆美もそのひとりだ。
「ああ、また、出たらしい」
「本当か?」
酆美は言った。自然と声が低くなる。
「ああ、今朝だ。大通りの南の辻に、あの
「閻魔女の仕業か?」
朱信だ。朱信もあたりの耳をはばかっているのか、その声は小さい。
「間違いないだろうな。呂大卿といえば、確かに奴隷扱いは酷いという評判だったからな」
右京が言った。
呂大卿の悪名については、酆美も知っていた。
その呂家の館でふた月に一度開かれるという酒池肉林の宴は、庶民でも知らない者のいない残酷な奴隷殺しがいつも繰り替えされていた。
女奴隷を裸にして、空腹の野獣を入れた檻に放り込んだり、腹いっぱいに油を飲ませたうえに、全身に油を塗って、人間灯篭として燃やして明かりにしたという逸話は、枚挙にいとまがない。
残酷な奴隷扱いでは城郭でも一、二を争うだろう。
その噂は、呂家の血の宴として、酆美も常に耳にしていた。
その呂家の主人が呂大卿だ。
閻魔女は、奴隷扱いの惨い貴族を標的にしているらしいので、当然、呂家も警戒していただろう。
だが、それでも殺されたのだ。
「誰だろうな、その閻魔女は?」
これだけ世間を賑わせながら、いまだに城郭の警備兵には尻尾も掴ませていない。
ただの人殺しではないという気がする。
「さあな。本当に幽魔なのかもしれん」
「幽魔?」
酆美は右京の言葉に思わず問い返した。
「残酷に殺された女奴隷の亡霊が、閻魔女という幽魔となって仕返しをしているのだ。人間ではないのだ。だから、城郭兵が躍起になって追いかけても捕まえられんのだ」
「まさか……」
恨みを持って死んだ人間の魂が、妖魔と結びついて幽魔となるという話は聞いたことがある。
しかし、ただの伝承であり、そんなことを信じる者は少ない。酆美も幽魔の話は信じていない。
「また、聞こえたな」
長屋も近くなったときだ。三人が暮らしている住居である長屋は、南の外門の近くになる。そこで、また、さっきの歌が聞こえてきたのだ。
しかし、今度は若い女の声だった。
こんな夜更けに若い女の声とはいささか奇妙なものも感じた。
そのとき、酆美は嫌なものを感じた。
匂いだ――。
血の匂い……。
外門の横を通る辻を曲がった。
「なんだ?」
曲がったところでいきなり、道の真ん中に立て札がある。
こんな道の真ん中に立て札など邪魔だから、誰かの悪戯に違いないと酆美は思った。
しかし、血の匂いが……。
「ぎゃっ――」
右京が突然叫んだ。
「うわっ」
朱信も大声をあげる。
酆美はよくわからないまま、ふたりが視線を向けた地面を眺めた。
次の瞬間、酆美も大声を出して、腰を抜かしてしまった。
三人で立て札の下にある“もの”を驚愕して見ていた。
そこにあったのは五個の人間の生首だ。
まだ、温かささえ感じるような新しさがある。それが、立て札の下に五個、整然と並べられていたのだ。
「……あ、あの歌だ」
灯篭を持っていた右京が立て札に明かりをかざしながら呟いた。酆美も見た。確かにあの歌だ。
最近、国都で急に流行っている歌――。
“鬼神もおののく迫害や
天地も憂う嗜虐受け
墳墓も持てぬ屍の
上に築いた奴隷国
哀しや今夜も冥土旅”
その立て札にはそう書いてあった。
「こ、こいつは、王英殿だ」
叫んだのは朱信だ。
酆美にもわかった。五個の首の真ん中は確かに王英だ。
王英というのは、この国都でもっとも大きな奴隷商館を経営している男で、そう言えば、その奴隷商館はこのすぐそばだ。
「誰か――、誰か――」
とりあえず酆美はそう叫んでいた。
ここで人が死んでいることを誰かに知らせなければ――。
考えていたのはそれだけだった。
*
「あなたたち、王英を殺すときに、あの歌を唄ったの?」
苦笑している。
「歌って、なにさ、九頭女?」
孫空女が応じた。
「奴隷歌よ」
九頭女は言った。
金光院の地下の一室だ。
半月前から沙那たち四人は、この金光院という九頭女が経営する妓楼に寝泊りしていたが、九頭女と話をするのは、この地下の一室だけのことと決まっていた。
普段は、この部屋と隣の大部屋を四人で使っていて、話が必要なときは九頭女がここに降りてきて、沙那たちを呼んで話をする。そういうことになっていた。
九頭女が持ってくる話は、いつも決まっていて、次の閻魔女の狙いはこの男だ――と告げることだ。
城郭でも、女奴隷の扱いの悪いという評判の者を選んで、沙那たちに指定する。
沙那と孫空女と朱姫は、その指定された男を襲って、大抵は殺す。
そして、そいつが扱っていた女奴隷を解放する。
それがこの半月、ずっとやっていた沙那たちの仕事だ。
血に飢えた暗殺者のように人を殺して回るのは愉しい仕事ではないが、それが虐げられている女奴隷を救うことになると考えれば、少しは自分を慰められる。
奴隷扱いの酷い貴族たちを闇から襲う閻魔女という正体不明の暗殺者の噂は、たった半月で、城郭で知らぬ者のいない程の評判になった。
神出鬼没なのは当たり前で、逃げるときは常に、朱姫の『移動術』で、この地下の部屋まで直接逃げてくる。
警戒の厳重な屋敷を襲うのは簡単な仕事ではないが、沙那と孫空女のふたりが揃えば、大抵はやってのけられる。
それに、普通の扉の錠前ならば、朱姫の『影手』が錠前の反対側に入り込んで開けてしまう。
朱姫の道術は、時間さえかければ、そんなこともできるくらいに上達しているのだ。
「歌なんて唱わないよ。ねえ、沙那」
孫空女が言った。
沙那も頷く。
奴隷歌というのは、九頭女が妓楼の女たちを使って流行らせた陰気な流行歌のことだ。
歌詞は、“鬼神もおののく迫害や、天地も憂う嗜虐受け、墳墓も持てぬ屍の、上に築いた奴隷国、哀しや今夜も冥土旅”というもので、一度耳にしたら忘れられないような陰気な曲に載せて、九頭女は妓楼の女たちに口ずさみさせたのだ。
奴隷女の悲哀を込めたこの歌は、あっという間に色町で知らぬ者のいない流行になり、いまでは、城郭の子供の遊び歌にもなっていると聞く。
沙那たちが、九頭女の命令で人斬りをしたときには、必ずこの歌の歌詞を書いた立て札か張り紙をしていくことにしている。
この殺人がただの人殺しではなく、奴隷女の惨い扱いに対する仕打ちであることを表現するためだ。
だが、いま九頭女が言ったように、人を殺すときに歌など唄ったりしない。
それほど、人殺しを愉しんでいるわけではない。
宝玄仙が請け負った仕事だから、仕方なく協力しているのだ。殺人という手の汚れた仕事をするのは嫌だが、これも戦いなのだと自分を納得させている。
九頭女たちは、この国の理不尽な奴隷制度をなくすために戦い続けている。
つまり、これは戦なのだ。
戦である以上、人は死ぬ――。
人を殺すことが嫌なら戦うことはできないし、それに協力することを決心したのであれば、手が汚れることを厭うことはできない。
それに、殺したのは、これまでに奴隷女を惨く殺し続けてきた男たちばかりだし、無駄な殺生は一切やっていない。
「九頭女、わたしたちが、人殺しを愉しんでやっているわけじゃないということを知っておいて欲しいわ。そりゃあ、今更、綺麗ごとを言うつもりはないけど、鼻歌を歌いながら人殺しをするほどに、心は荒んではいないつもりよ」
沙那は言った。
「それは悪かったわ、沙那――」
九頭女が頭を下げた。
「仲間でもないあなたたちに一番汚れた仕事をやってもらっている。それについては心苦く思っているし、感謝しているわ。でも、あなたたちのような手練れはわたしの手の者にもいないし、それに、これは、やらなければならないことだから……」
九頭女は言った。
沙那たちがこの仕事を受けることになった理由は、半月前に遡る。
女人国から浚われた女奴隷を助けるために、孫空女が奴隷商館で暴れたことをきっかけに、宝玄仙以下の四人は、この
それを匿ってくれたのがこの九頭女であり、そして、九頭女は城郭で一番の妓楼を経営する女主人でありながら、実は、奴隷解放の闘争のために陰で戦い続けているという裏の顔を持っていたのだ。
九頭女は、ほとぼりが冷めるまでこの妓楼に沙那たちを匿う代わりに、その裏の戦いに協力することを求めた。
例によって宝玄仙が、九頭女の申し出に対して、九頭女の身体を堪能させることを要求し、朱姫と一緒になって、それこそ、九頭女の淫液という淫液を搾り取るほどに抱き潰した。
それで沙那たちは、九頭女の依頼を受けることになったのだが、その九頭女の依頼というのが、飼育奴隷の解放と飼い主の男の処断という荒仕事だ。
つまりは、この国の帝都にも近く、そして、奴隷制度の強い北安の城郭で、奴隷扱いの惨い者を殺して回り、この祭賽国の王政府を動揺させるとともに、この国の奴隷制度の惨い実情を世間に広めて国の評判を落とそうというのだ。
また、女奴隷の扱いが惨いという評判が立つと密かに暗殺されるという評判があれば、動物同様に扱われているこの国の女奴隷の処遇を少しでも改善することができるであろう。
それに、沙那たちにははっきりとは言わないが、九頭女には、この一連の閻魔女騒動には別の狙いもあるようだ。
九頭女は、この城郭で妓楼を経営しながら奴隷解放の闘争のために、この周辺一帯の政府の動きや要人に関する情報を探っている組織の首領らしい。
また、実は、もっと大きな叛乱組織の一部であるという気配がある。
つまりは、九頭女の妓楼は、この国で発生しているもっと大きな叛乱組織の末端のひとつであり、九頭女が属しているその叛乱は、この城郭や国都の動きをここ以外の別の場所に本拠地を持っているのだ。
そういうことのようだ。
もっとも、九頭女の加わっている叛乱組織の本拠地がどこかということについては、九頭女も、九頭女の部下たちも明確には口にしない。
沙那もまたしつこくは訊ねない。
沙那がこの九頭女の活動に協力しているのは、宝玄仙がそれを命じるからであり、本格的に彼女たちの叛乱に加わるつもりはないからだ。
ただ、予想はついている。
この城郭から馬で六日ほどの距離に梁山湖という湖があり、そこに、梁山泊という比較的大きな叛乱が発生している――。
賊徒化した多くの逃亡奴隷の集団の中でも、かなり大規模なものであり、近傍の城郭を支配下にしたりしており、ほかのものとは一線を画している。
全土の女奴隷の解放も謳っており、数千の女奴隷たちが、その梁山湖の中心にある梁山泊や占拠した運城の城郭に集まっている。
これまでに二度の地方軍の討伐を受けて、それを撃退しているが、さすがに帝国政府としても、これ以上放置するわけにはいかず、三度目の討伐は帝都の国軍が出るのではないかという話もあるようだ。
地方軍と国軍では装備も勢力も段違いであり、国軍の出動となれば、もちろん、ともなれば、ただでは済まないだろうと考えられているみたいだ。
しかし、帝都の近傍でもあるこの北安の城郭の中で物騒な出来事が続けば、そんな小さな奴隷女の叛乱など捨て置かれる。
国都やその周辺の治安の方は、「一介」の地方の叛乱よりも優先されるからだ。
九頭女の狙いもそこにあるに違いない。
つまりは、この北安での派手な一連の暗殺騒動は、離れた場所にある彼女たちの叛乱のための騒乱行動というわけだ。
とにかく、九頭女の依頼に従って、沙那と孫空女と朱姫は、協力してこの城郭で評判の悪い貴族たちの屋敷などを襲撃しては、虐げられていた女奴隷を助け出した。
これらの活動が、“閻魔女”という架空の人斬りの名で呼ばれるようになったのは、この十日ばかりのことだ。
閻魔女というのは、冥界からの女使者の伝説のある神の使いの名だ。
いずれにしても、助けた女奴隷は、九頭女の部下である蔡美という女が部下とともに密かに城郭を脱出させている。
脱出後は、女人国に越境させて逃がしている者もいるし、彼女たちの戦いに加わるために、梁山泊に合流する者もいる。
叛乱に加わらせる者は、それを望む者だけだ。
「もしかしたら、それは沙那姉さんたちではなく、女奴隷たちかもしれません」
黙って話を聞いていた朱姫が言った。
この広い部屋には、九頭女と沙那と孫空女と朱姫の四人だけだ。“仕事”に関わる話をするときには、いつもこの態勢だ。そのとき、朱姫はいつも黙って話を聞くだけで口を開くことは滅多にないから、朱姫の側から喋るのは珍しい。
「女奴隷?」
九頭女は視線を朱姫に向けた。
「はい。昨夜の襲撃は、王英の奴隷商館だったので、たくさんの女奴隷を一度に解放しましたよね」
「え、ええ」
九頭女は少しどもった。
最初の性交のときに、九頭女は、朱姫の道術の手管にこってりとしてやられた。それで、なぜか、九頭女は、この半妖の小娘に苦手意識を持ったようだ。
北安という帝都にも近い大規模城郭で堂々と叛乱の巣をつくるほどの女傑が、こんな少女のような朱姫を怖がるような仕草を示すのは少し面白い。
「そのときに、奴隷女たちの何人かが、その歌を唄っていたと思います」
いつもは、朱姫の『移動術』で逃げるのだが、昨夜は、大勢の奴隷女を一度に匿うという計画だったため、九頭女と朱姫が奴隷女を集めて『移動術』で逃がし、沙那と孫空女は別に逃亡した。
だから、沙那は奴隷女たちがその奴隷歌を唄ったのを聞いていない。
「そういうことだったのね。いずれにしても、閻魔女が出現するときには、その歌が聞こえるという話が、たった一日でいう評判になっているわ。だから、城郭では、その奴隷歌を唄う女を探索しているようよ。それで、今日一日、あの歌を唄う女がはたと消えてしまったようよ」
九頭女が笑った。
「閻魔女が奴隷歌を唄いながら、女奴隷を惨く扱う悪人を退治する……。いかにも市民が喜びそうな話ね。いいわ、次からの仕事では、わたしたち三人でそれを歌いながらやりましょう」
沙那は言った。
「それはともかく、ご主人様は、相変わらずのことやっているのかい?」
孫空女が言った。
「そうね。宝玄仙殿だから、やりようによっては、わたしと並ぶ二枚看板になると思うのに……」
九頭女が困った表情をした。
今度は、沙那が苦笑する番だ。
宝玄仙の命令により、沙那たち三人は、悪い評判の貴族を闇討ちしては奴隷を救出するという九頭女の指示する荒仕事をしているが、当の宝玄仙はそんな仕事をするわけではない。
それで退屈し始めた宝玄仙は、九頭女に断らずに勝手に遊妓の真似をして客を取り始めたのだ。
口さえ開かなければ、沙那が見ても嘆息するほどの美貌を持つ宝玄仙だから、普通なら、城郭一の遊妓と称される九頭女とも並ぶ金光院の二枚看板になるだろう。
しかし、宝玄仙がやっているのは、妓楼に初めてやってきたような若い男を捕まえては遊ぶという美少年食いだ。
宝玄仙のやることには勝手にさせるしかないと悟っている九頭女も、これには困り顔なのだ。
金光院は、品の良さで売っている妓楼だ。
美少年だといえば、いい寄ってくるというおかしな娼婦がいるという評判が立つのはいいことではない。
「沙那たちからも忠告してくれないかしら」
九頭女は言った。
沙那はちょっと困った。
九頭女のいうことも理解できないではないが、基本的に宝玄仙は気まぐれだ。
いまさら直るものではないし、実害がないなら放っておく方がいい。
美少年食いなどいい趣味とは言えないが、無理にやめさせれば、別の退屈凌ぎのとばっちりは沙那たちにやってくるかもしれないのだ。
「ご主人様は、退屈するのが嫌いなんですよ、九頭女さん。九頭女さんがまた、相手をしてあげれば、やめると思いますよ」
朱姫がそう言って、両手を前に出して、空中で九頭女の胸を揉むような仕草をした。
「か、『影手』はやめて――」
九頭女が真っ赤な顔になって、自分の胸を抱いて叫んだ。
「ご主人様がいないのに、そんな悪戯しませんよ、九頭女さん」
朱姫がけらけらと笑った。
「朱姫──」
沙那が朱姫の悪ふざけを叱ると、朱姫が悪戯っ娘のような笑みを浮かべて、首をすくめた。