※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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226 娼館にやって来た童貞男

「なかなか、いい道具を持っているじゃないか、坊や」

 

 宝玄仙は言った。

 

「もう、勘弁してくださいよ」

 

 寝台の上で股間を大きく開いた格好でいる青年は羞恥に顔を染めたような表情になった。

 なかなかの美青年だ。李勝(りしょう)とかいう分限者の連れで、その甥だったと思うが、半ば強引に引き離して今夜の相手として連れて来たのだ。

 

 確か童貞だとも言っていた。その分限者がこの青年に筆卸しをさせてやると話していたような気がする。

 この半月ばかり、暇に飽かせて久しぶりに男漁りをして愉しんでいたが、今夜の獲物はこれまでで最高に美しい青年だ。

 見た感じは十七、八といったところか──。

 股間に逞しく勃起しているものがなければ、少女だといって通用するかもしれない女のような艶めかしい肌と丸みを帯びた身体をしている。

 

 すでにふたりともなにも身に着けていない。

 青年と向かい合うように寝台に乗っていた宝玄仙は、すっと股を開いて女陰を青年に見せつけるようにした。

 青年がごくりと唾を飲みこむ音が聞こえた。

 

「女のここを眺めるのは初めてかい、坊や……」

 

「奔破児(ほんはじ)です」

 

 青年が少しだけ不満そうな表情をした。

 

「名を呼んで欲しいのかい、坊や?」

 

 宝玄仙はからかうような口調で言った。

 奔破児と名乗った青年は、今度は気後れしたような顔になる。本当に可愛らしい。

 まだ、女に対して遠慮のようなものがうかがわれる。

 もっとも、あと何人か抱けば、自信も生まれ、女に対してそういう感情はなくなるだろう。

 

 そして、知るに違いない。

 女にもいろいろあり、感じ方も身体も、そして、相性もあるということを……。

 最初の相手が宝玄仙であることが、この奔破児という青年にとって、幸福なのか不幸なのかは知らない。

 ただ、後々になっても宝玄仙ほどの女はいなかったと思わせる自信はある。

 

「ふ、ふ、ふ、お前が男になったら、名を呼んでやるよ、坊や」

 

「お、男ですか」

 

「ああ、男にね」

 

 宝玄仙はすっと奔破児の股間の肉棒に手を伸ばす。

 

「あっ」

 

 奔破児が顔をしかめる。

 宝玄仙が触れたのは、奔破児が屹立させている肉棒と陰嚢そのものではなく、その横の太腿の表皮だ。

 奔破児の身体が微妙な身悶えをした。

 宝玄仙の手の肌はそれだけで強烈な官能の刺激を相手に与える強烈な性具のようなものだ。

 しっとりと適度に湿り、そして相手の肌に吸い付くような不可思議な感触……。

 三人の女の供たちも、この宝玄仙の手の感触には悶え狂う──。

 

「坊や、そんなに男の道具を硬くされたら、わたしもおかしくなってしまうじゃないか」

 

 宝玄仙は奔破児の肌に手を置いたまま、唇をその首筋に向かわせる。宝玄仙の乳房が奔破児の胸に乗る。

 奔破児の肌の熱さと心臓の鼓動が、宝玄仙の身体に伝わる。

 

「玉鈴《ぎょくりん》殿……」

 

 宝玄仙の唇が奔破児の白いうなじを舐めると、奔破児が切なそうに宝玄仙を呼んだ。

 玉鈴というのは、九頭女の妓楼の女として並ぶために勝手に作った名乗りだ。

 もっとも、毎夜毎夜、名は変えているので、今夜の名乗りが玉鈴だったかどうかは定かでない。

 奔破児がそういうからそうなのだろう。

 

「呼び捨てにしておくれ、坊や……。妓楼の女だよ、わたしは……」

 

 宝玄仙は言った。

 舌を首の周りに這い回らせる。

 奔破児の身体がどんどん熱を帯びるのがわかる。

 

 今夜は奴隷女という触れ込みはしていない。

 九頭女の経営する妓楼に多くの女がいるが、ほとんどが身体のどこかに刻印を持つ奴隷女だ。

 だが、すべてがそうであるというわけではない。

 中には奴隷のような卑しい女を抱きたくないという男もいるからだ。

 実際には、奴隷の刻印を持とうと持つまいと、すべて、九頭女の息のかかった手の者のひとりらしいが、女を買いにくる男は、確かに、奴隷女と普通の女では態度が違う。

 今夜の宝玄仙は奴隷女ではなく、普通の女として店に出たから、奔破児もそれなりの扱いをしてくれる。

 これが、道術で奴隷の刻印を刻んでから店に出ると、はっきりと態度が変わる。

 初めての男でも、奴隷女には容赦はないし、遠慮もしない。

 性処理の道具のように扱われるのも悪くはないが、相手にへりくだった態度の演技は得意ではないので、このところは、奴隷の刻印なしに店に出ることにしている。

 

 もっとも、こうやって店に来る男を漁って部屋に連れ込むことを九頭女がいい顔をしていないのは知っている。

 変に真面目な女で、妓楼を隠れ蓑に政府と戦う叛乱の活動をしているような女のくせに、店の格式だの評判などと面倒なことを言う。

 だから、また、九頭女が宝玄仙の相手をするならやめてやると応じたら蒼い顔をして黙り込んだ。

 最初にこの妓楼にやってきたときに、朱姫に手伝わせて九頭女を抱き潰して以来、九頭女は宝玄仙に抱かれるのを恐怖している。

 あのときは、朝まで抱き潰して、それこそ、指先ひとつ動かせなくなるくらいにいき狂いにしてやったのだ。

 

「ぎょ、玉鈴……」

 

 奔破児が切なそうな声をあげた。

 

「なんだい?」

 

「い、いい気持ちです……。いや、気持ちいいよ」

 

「わたしもだよ、坊や……好きなところに触っていいんだよ。どこでも気にいるようにしてごらん」

 

「は、はい」

 

 宝玄仙は肌と肌を触れ合わせたまま、自慢の舌技で奔破児の顔の周りを愛撫していった。

 同時に奔破児の股間に這わせた手を太腿で動かし続ける。

 まだ、核心の部分には一度も触れていない。

 しかし、そうやって淫靡に肌をまさぐるだけで、奔破児の下腹部はますます充血を深めていくのがわかった。

 奔破児の手がすっと宝玄仙の乳房を包んだ。

 遠慮がちな手つきで宝玄仙の乳房を揉み始める。

 

「あ、ああっ……」

 

 びっくりした。

 

 意外なほどの官能の刺激に、宝玄仙は思わず甘い息を洩らしてしまった。

 不細工に握られて痛くされるのかと思ったら、しっかりと感じさせるように宝玄仙の乳房を触ってくる。

 しかし、こんな初めて女に触れるような青年にやり込められるわけにはいかない。

 宝玄仙は、太腿を這わせていた手をそっと奔破児の股間そのものに動かした。

 屹立した肉棒の下に手を滑らせて、ふたつの肉の袋を手のひらに載せて転がす。

 

「ひ、ひゃあ」

 

 今度は、奔破児が女のような声をあげた。

 まだ、それほどの刺激を与えているわけではなく、ただ玉を軽く弄んでいるだけだが、奔破児の肉棒は敏感に刺激に反応させて、さらに勃起を逞しくした。

 宝玄仙はさらに奔破児に加える刺激を強める。

 

「あっ、そんな」

 

 奔破児が狼狽の声をあげる。

 その戸惑いの態度が面白い。

 宝玄仙は手の中で暴発させてやろうと思った。

 そのとき、この美青年がどんな泣きそうな顔をするのか見てみたい。

 舌を奔破児の平らな胸に滑らせる。

 奔破児の身体の震えが大きくなる。

 

 それにしても、こうやって官能に歪める顔は女のように色っぽい。

 奔破児が切なそうな苦悶の顔をする。そして、それが宝玄仙の嗜虐心をそそる。

 宝玄仙は奔破児の怒張の先端を包み込むようにして撫ぜながら、もう一方の手で垂れ袋を舐めっこく揉みあげる。

 百戦錬磨の宝玄仙の手管だ。

 奔破児はあっという間に怒張の先端から精の一部を滲ませ始めた。

 

「わたしに任せておきな……。なにも考えなくていいよ」

 

 宝玄仙は奔破児の反応を注意深く確認しながら、巧みに激しく刺激したかと思うと、今度は触れるか触れないかの弱い刺激に変化させたりする。

 相手が男でも女でも基本は同じだ。

 つまりは備えさせないことだ。

 そうすると快感に無防備になり、いつの間にか相手は宝玄仙の手の中で踊る玩具になる。

 

「うっ」

 

 奔破児が眉を寄せて小さく首を振った。

 もしかしたら、もう出しそうなのかもしれない。

 股間で受け取ってやってもいいが、この女みたいな綺麗な顔を見ていると、やっぱり暴発して宝玄仙の手の中で出してしまったときの羞恥の表情をさせてやりたい。

 

「ほら、お前の手は遊んでいるじゃないか。わたしを気持ちよくしておくれ。もっと股を濡らしてくれなければ、受けとめてやれないよ」

 

 宝玄仙は言った。

 本当はもうしっかりと濡れている。

 奔破児の苦悶の表情がなによりの宝玄仙の官能を刺激する。

 それに相手に合わせて、女陰を濡らすくらいのことは宝玄仙にとっては難しいことではないのだ。

 ただ、まだ受け入れ態勢ができていないということで、手で奔破児の股間を弄ぶ時間を長くする口実を作っているだけだ。

 奔破児の手が宝玄仙の女陰に触れた。

 

「ふわっ──」

 

 また声が出た。

 宝玄仙は戸惑った。

 さっき胸を触られたときもそうだったが、初めてとは思えないような奔破児の手管だ。

 奔破児の指が女陰の肉襞を拡げる。

 そのあまりの気持ちよさに宝玄仙は再び大きな声を出させられた。

 宝玄仙から余裕のようなものがなくなる。

 

「あ、あひっ……」

 

 宝玄仙は身体を震わせた。

 

「玉鈴も感じているんだね……」

 

「あ、ああ、感じているよ、坊や……。いや、奔破児──」

 

 気持ちいい──。

 

 その快感は驚くほどだった。

 なぜ、初めて女に触ったような若い青年がこんな性技を持っているのだろう。

 やっぱり、女陰で精を受けようか……。

 宝玄仙は思い直して、態勢を作り直そうとした。

 

「だ、駄目だ──」

 

 しかし、奔破児は突然叫んだかと思うと、宝玄仙の手の中に精を破裂させた。

 熱い体液が宝玄仙の手の中に三回に分かれて炸裂した。

 

「ご、ごめん──」

 

 奔破児が顔を真っ赤にしてうな垂れた。

 本当に可愛らしい。

 

「なにを謝っているんだい、奔破児?」

 

 宝玄仙は手のひらの奔破児の精を自分の股間に擦り付けた。

 そして、悄然としている奔破児のを寝台の真ん中に座らせて、その股間にそそり勃つものの上に自分の腰を載せると、ゆっくりとまだ逞しさを保っている一物を自分の女陰で受け入れていった。

 

「う、動いてごらん……。す、好きなように弄んでおくれ」

 

 宝玄仙は、腰の部分で繋がったまま、向かい合って座っている奔破児に言った。

 

 奔破児がぎこちなく腰を動かし始めた。

 膣内に快感が迸る。

 濡れた孔を熱い怒張が往復するたびに、知らず宝玄仙は腰をくねらせていた。

 演技ではない。

  本当に気持ちいいのだ。

 微妙な振動──。

 巧みに宝玄仙の女陰の中の快感の部分を探り当ててそこを集中して突く技巧──。

 本当に初めてなのだろうか──?

 

 性に未熟な青年だということを忘れて、宝玄仙は奔破児の責めをはっきりと受け入れる態勢になった。

 なぜ──。

 

 宝玄仙の頭に少しだけ疑念が走る。

 奔破児の怒張が激しく宝玄仙の子宮を突いている。

 

「あっ、ああっ」

 

 もの凄いものが全身から込みあがる。

 いま、宝玄仙は絶頂に達しようとしていた。

 今夜が最初の性行為であるはずの相手から、あっという間にいかされようとしている自分が信じられない。

 

「おふっ──い、いいっ──は、激しいよ──い、いく、いくよっ──」

 

 宝玄仙は奔破児の腰の上で強く弱く突き上げられながら、やってくる官能の嵐に酔っていた。

 奔破児の両手が宝玄仙のふたつの乳房をわし掴みにした。

 乳房を掴まれて上下に全身を動かされる。

 下に強く引っ張られて、子宮の奥に奔破児の怒張が突き挿さる。

 そして、すぐに持ちあげられて、また叩きつけられる。

 

「ひぎいっ──ほごっ──」

 

 宝玄仙の口から獣のような声が出る。凄すぎる──。

 そして、膣の中で奔破児の精が弾けた。

 

「あ、ああ、わたしもいくっ──」

 

 宝玄仙は身体を仰け反らせて、女の悦びを爆発させていた。

 絶頂する瞬間、跨っていた奔破児を両手でしっかりと抱き掴んでいた。

 しばらくは絶頂の余韻にそうやって浸った。

 満たされたという満足感が宝玄仙に拡がる。

 

「素敵でしたよ、玉鈴──」

 

 優しげな微笑とともに、宝玄仙は奔破児から抱きかかえられるように寝台に寝かされた。

 

「あ、あんた……な、何者だい……?」

 

 自分を見下ろしている奔破児を眺めながら、宝玄仙は、思わずそう口に出していた。

 こんなに宝玄仙を性的に満足させてくれる相手がこれまで女を知らなかったはずがない。

 それを隠していたに違いないのだ。

 

「奔破児だよ」

 

 青年はそう言うと身支度を始めた。

 

「も、もう、行くのかい?」

 

 宝玄仙は驚いて言った。

 精を出したばかりだ。

 これで終わりにするとしても、もう少し寝物語などをするものだろう。

 

「叔父が待っていると思うから」

 

 奔破児は言った。

 すでに衣類を着終わりかけている。

 宝玄仙は慌てて身体を起こして、奔破児の身支度を手伝う。

 ほったらかしでは遊妓として不自然すぎる。

 まだ精のついている男根を舌で掃除しようとした。

 しかし、それを制される。

 奔破児はさっと自分で下着を着けて、下袴を履く。

 

「また来るよ」

 

 奔破児は意味ありげな笑みを浮かべると、あっという間に部屋を出ていった。

 呆然としている宝玄仙を置き去りにして……。

 

 

 *

 

 

「どうでした、奔破児様?」

 

 妓楼の大広間で待っていた李勝が肥った身体を揺すりながら近づいてきた。

 分限者の叔父ということになっているが奔破児の部下だ。

 

「いたぞ。道術遣いだ」

 

 奔破児はささやいた。

 霊力を消していたので、向こうは奔破児が道術遣いだということに気がつかなかったようだが、奔破児はあの女が達する瞬間に、ほんのちょっと霊力を消し損ねてしまったのを感じていた。

 

 このところ連続で発生している閻魔女騒動──。

 

 それを全部突き合わせて、どうやらこの色町が怪しいということには目星をつけていた。

 しかし、たくさんある遊郭のどれがそうなのかわからなかった。

 手掛かりはないのだ。

 手掛かりらしい手掛かりといえば、一味に道術遣いが紛れているということくらいか。

 だから、遊郭という遊郭に片っ端に入り、初めての客を装って内部を探った。霊力の存在を探るためだ。

 

 妓楼を探るには、性行為が初めての童貞を装うのがよかった。

 うろうろしても、不馴れだからと怪しまれないし、向こうも油断する。

 幸いにも奔破児は、道術など遣わなくても、筋肉を少し動かすだけで、どう見ても若い青年としか思えない身体を作ることができる。

 しかし、実際には、経験も才能も豊かな諜報専門の軍人だ。

 

 そして、やっとここを見つけた。

 道術遣いが存在するといって、ここが閻魔女の拠点とは限らないが、奔破児の勘はここが怪しいということを告げている。

 あの女だけではない。

 遊女たちひとりひとりの身のこなし──。

 自然なようだが、なにか研ぎ澄まされたものを感じる。

 

「今夜のうちにやるぞ、李勝」

 

 支払いを済ませると、奔破児は店を出ながらささやいた。

 李勝が驚いた表情になった。

 

「しかし、まだ、確証が……」

 

「わかっている。これは賭けだ。しかし、ここが怪しいと俺の勘が告げている。それに……」

 

 奔破児は道端で立ちどまって李勝の顔を覗き込む仕草をした。

 李勝が飲まれたような表情になる。

 そこにはさっきのように初めての性行為で羞恥に頬を染める初心な青年の顔はないはすだ。

 帝都から派遣された政府の諜報を預かる将校としての鋭くて、不敵な笑みがあるはずだ。

 

「それに、なんですか?」

 

「いまなら、俺の道術封じがあの道術遣いの女に効いている。明日の朝になれば、それも効果を失うぞ」

 

「では、しっかりと放ったのですね」

 

 李勝もにやりとする。

 奔破児の精には道術遣いの術を封じる特殊な効果がある。

 あの道術遣いが閻魔女とすれば、その術が封じられているうちに捕縛してしまうのがいい。

 拷問をして取り調べた結果、無実であればそれはそれで放免すればいい。

 そのときには、本当の一味は警戒してしまうだろうが、そのときはそのときで、なんらかの動きがあるはずた。

 それがまた連中に近づける手がかりになるかもしれない。

 

 しかし、おそらく──。

 奔破児の勘は絶対に間違いがないということを奔破児自身に教えてくれていた。

 

 

 *

 

 

「ひゃあ、ああ、あああ──」

 

 女奴隷の悲痛な官能の叫びが地下の部屋に響く。

 銀婆(ぎんばあ)が、壁に磔にされて大股開きにされている奴隷の肉芽を柔らかな羽根で繰り返し繰り返しくすぐっているのだ。

 女奴隷の悲鳴のような嬌声が繰り返される。

 

「ほれ、人生、最後の気ぞ──。せめてもの情けに最後に昇天させてやるからいくがよいぞ。もっとも、昇天した瞬間にお前の肉の実を斬り落とすがのう」

 

 銀婆がそう言って羽根を持つ手を激しくする。

 銀婆の反対の手には剃刀がある。

 女奴隷が気をやった瞬間にその剃刀は動くのだろう。

 それを受け取るための家人は、銀婆の横に紙を拡げて待機している。

 

 女奴隷が泣き叫ぶ。

 気をやれば死ぬのだ。

 女奴隷は悲痛な表情で懸命に官能を耐えている。

 その苦しげで切なそうな表情もいい。

 

 堂人君(どうじんくん)はそれを十人ほどの家人とともに眺めていた。

 ここは、特別に借りている場所であり、軍営に近い安全な場所だ。

 しっかりとした警備もなされているし、この地下に入る入口にも警備の人数を割いている。

 これだけの態勢を整えるにはかなりの経費がかかったが、女の肉芽の焼酎浸けは、長寿の仙薬として貴族たちに珍重されている。いくらでも代金に上乗せできるだろう。

 

 奴隷女の身体の震えが激しくなった。

 閉鎖された密室には、その奴隷女のかもし出す淫靡な匂いがたち込めている。

 なかなかにいい女で、堂人君との身体の相性も良かった気がする。

 殺してしまうには惜しいが、これも商売だ。

 仕方がない。

 できあがった女焼酎で稼いだ金で奴隷女をまた購うことはできる。

 

 堂人君の商売は、こうやって女奴隷の肉芽を斬りとって焼酎浸けにして、それを卸すことだ。

 精力を増進させるとともに、長寿の効果もあるということで、かなりの需要があった。

 城郭の郊外には、肉芽を採集するための女奴隷の専用の牧もあるのだが、最近の閻魔女騒動で自重を余儀なくされた。

 閻魔女とは、女奴隷を惨く扱う者を暗殺するという謎の殺し屋だ。

 

 その殺し屋が現れたのは、まだ、この半月ばかりのことだが、堂人君は素早く動いた。

 堂人君の女焼酎といえば、かなりの評判もあるし、奴隷扱いの惨い者が狙いだとすれば、最初に標的にされそうな堂人君の商売だ。

 それで形としては慌てて、女の牧を閉鎖したことにして、女奴隷は売り払った。

 しかし、実際には、この秘密の場所を借りて、女奴隷をここの敷地にある地上の小屋に移して、この地下室でひそかに焼酎作りを続けている。

 

 安く女奴隷を買い、調教をして肉芽を肥大化する

 そして、熟れきった実に成長したところで切断して焼酎に浸けこむ──。

 いまやっているように、狩り取りの時期のきた女奴隷をここに連れてきて、実を切断するのだ。

 狩り取りが終われば、その女奴隷には価値はない。

 地上に連れていき、殺して穴に埋める。

 いま身体を震わせている女奴隷を埋めるための穴もすで掘り終わっている。

 

 需要はあるのだ。

 女奴隷の性器の一部というそれだけのものが、とんでもない高価な品物として貴族を中心とした上級階級の人間に売れる。

 しかも、一回の実の切断で五十本ほどの焼酎が作れる。

 こんな商売をやめられるわけがない。

 

 女奴隷が身体の震えを大きくした。

 あと数瞬で達するだろう。

 この女奴隷の命が終わるときだ。

 

「い、いやあああ──」

 

 女が涙を流しながら身体を反りかえらせた。

 絶頂の瞬間の女の実を斬りとるのが、堂人君の焼酎浸けの秘密だ。

 銀婆の剃刀が地下室を明るくしている灯篭の光を受けて輝いた。剃刀が膨れあがった女奴隷の肉芽に近づく──。

 しかし、それだけだ。

 なぜか銀婆の手元がそれでとまった。

 

「銀婆?」

 

 堂人君は声をかけた。

 銀婆の身体が揺れた気がした。

 そして、その首がずるりと首から転げ落ちた。

 

「ひゃあああ──」

 

 堂人君は噴きあがる血の飛沫を浴びながら悲鳴をあげた。

 その視界が不意に横に倒れた。

 自分の首が胴体から離れるのをはっきりと堂人君は知覚していた。

 

 

 *

 

 

 堂人君を護っていた十人ほどの男の息の根をとめるのは難しい仕事ではなかった。

 閉鎖された地下室が彼らの逃げ場を失わせてくれていたからだ。仕事はすぐに終わった。孫空女と沙那の前に十数人の死体が転がった。

 

「彼女を頼むわ」

 

 沙那が言った。

 血の海になった部屋で、沙那が銀婆と堂人君の首を拾って袋に込めるのを眺めながら、孫空女は、逆に血の気を失っている女奴隷の拘束を『如意棒』で壊した。

 身体が自由になった女奴隷が呆然と孫空女を見ている。

 

「あんたの仲間は、すでに脱出させたよ」

 

 孫空女はよろめいている女奴隷の身体を支えながら、準備していた大きな布を渡した。

 女奴隷はそれを身体に巻きつけた。

 

「名前は?」

 

 孫空女は訊ねた。

 

「ら、蘭です」

 

「蘭さんかい。あんたの身の上は外にいるあたしらの仲間が受け持つよ」

 

 孫空女が言った。

 

「あ、あなた方は……?」

 

 蘭は言った。

 

「閻魔女よ」

 

 沙那が口を出した。

 すでに麻袋を肩に抱えている。

 警護の男たちの首はついたままのようだから、どこかの辻に晒すのは堂人君と銀婆の生首だけにするのだろう。

 

「閻魔女──?」

 

 蘭の顔が輝く。

 いつもそうだが、眼の前で人が死ぬのを見て、もっと怖がるのかと思いきや、助けられた女奴隷たちの誰も彼も閻魔女という名乗りに希望の眼を輝かせる。

 閻魔女という名は、すでにこの祭賽(さいさい)国の奴隷たちの中では、救いの主として浸透しているようだ。

 

「さて、行きましょうか」

 

 沙那が言った。

 例の奴隷の歌を口ずさみ始める。

 孫空女も救出した蘭とともに地上に上がる階段を昇りながら唄う。

 一応、これも叛乱の活動の一環だ。

 閻魔女の評判が恐怖とともに拡がれば、この国の制度に関係なく、奴隷を惨く扱う者は少なくなるはずだ。

 

 地上に出た。

 蔡美(さいび)と朱姫が待っていた。蔡美は九頭女の部下であり、今夜の暗殺の同行者だ。救出した女奴隷を城郭の外に逃亡させる仕事を請け負うことにもなっている。

 また、外で警護していた者は全員眠らせるか倒している。

 運悪く孫空女と沙那たちの姿を見てしまったものは可哀そうだが命を奪った。

 もっとも、それは数名で済んだ。

 例の奴隷歌が周囲に響きはじめると浮足立った者たちがさっさと逃げ始めたからだ。

 蘭をふたりに引き渡す。

 

「じゃあ、すぐに戻ります、沙那姉さん、孫姉さん」

 

 朱姫が言った。

 

「そっちは、お願いします」

 

 蔡美が言った。

 三人が朱姫の『移動術』で消える。

 行き先は金光院ではない。

 国都の中に別に作っている逃亡奴隷を匿うための船宿だ。

 この北安の城郭には、南の海から運んでくる荷を運び入れるための河と繋がる運河がある。

 そこに連接する船宿だ。

 もちろん城門同様、水路の警戒も厳しいが、蔡美たちはその経路を活用して、国内で救出した奴隷を外に脱出させている。

 ほかにもさまざまな手段で奴隷女を城郭の外に出しているようだが、孫空女たちもそのすべてを教えられているわけではない。

 また、『移動術』で城壁を越えられればそんな苦労もいらないのだが、この北安の城壁には、道術除けの霊具が張り巡らされていて、『移動術』では脱出できないのだ。

 

「さっさと終わらせよう、孫女」

 

 沙那が言った。

 高い塀に囲まれているこの施設の裏手から外の通りを覗く。

 誰もいないことを確認して、壁に張り紙を貼り、その下に堂人君と銀婆の生首を置く。

 このすぐ先は王軍の軍営だ。

 この首はすぐに見つかるに違いない。

 地下室への出入り口があった場所に戻ると朱姫が待っていた。

 

「終わりました。帰りましょう」

 

 朱姫が言った。

 蔡美は戻って来ない。

 いつもの手筈と同じだ。

 蔡美には、救出した奴隷女を梁山泊に送るという仕事がある。

 かなりの難事であるはずだが、蔡美は、これまでに救出した大勢の逃亡奴隷のひとりも欠けずに脱出に成功させている。

 熟練した手練れの仲間と孫空女たちの知らない多くの闇の脱出手段がそれを支えているようだ。

 

「結界を刻みます」

 

 朱姫が新しい『移動術』の結界を刻み始めた。

 今度の跳躍先は、金光院の地下だ。

 それで終わりだ。

 後は身体を洗い休むだけだ。

 孫空女もほっとした。

 

「先に行きます──」

 

 朱姫が結界の先に姿を消す。

 

 孫空女も続こうと思った。

 

「うわっ、だ、駄目です──」

 

 朱姫の悲鳴が不意に結界の向こうから響いた。

 

「うわっ、なに?」

 

 次の瞬間、孫空女は結界に弾き飛ばされて尻餅をついた。

 結界が向こう側から閉鎖されたのがわかった。

 当然、朱姫の声も途切れる。

 なにが起こったのかわからない。

 

「ど、どうしたの?」

 

 沙那が驚いたように叫ぶ。

 

「わ、わかんないよ、沙那──。突然、『移動術』の結界が封鎖されたんだ」

 

「なんで?」

 

「さあ……?」

 

 孫空女も首を傾げる。

 朱姫が向こうで咄嗟に結界を切断したとしか思えない。

 孫空女は沙那と呆気にとられたまま視線を見交わせた。

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