※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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238 闘い終わって……

「一応、訊ねるけど、沙那、あんた、梁山泊の戦いに合流するつもりはないかい? あたいは、なんとしても、あんたを誘えって、言われているんだよ。あたいは無理だって言ってるんだけどね」

 

 七星は言った。

 北安のすぐ北部にある小さな宿町だ。

 ここで最後に残った者で宿を取った。

 残ったのは、沙那、宝玄仙、孫空女、朱姫、そして、九頭女(くずじょ)と蔡美(さいび)、なぜか七星も残った。

 

 九頭女が残らざるを得なかったのは、拷問で傷ついた身体を宝玄仙の『治療術』で回復させる必要があったからだ。

 蔡美は、その九頭女の面倒を看るために残ったのだが、七星まで残った理由は知らない。

 蔡美以外の者についても、九頭女を心配して行動をともにしたがったが、人数があまりに多くなっては、怪しまれる。蔡美が説得して、それぞれに別れさせた。

 

 夜がやって来るまでに、五十人ほどの女たちを少しずつ離しながら、集団から別れさせていった。

 手配したのは蔡美だが、すべて沙那の計略だ。

 

 山に紛れ、川に紛れ、そして、人の波に紛れて、数名ずつ、それぞれに、梁山泊と呼ばれる彼女たちの本拠たちに向かうはずだ。

 武芸の能力のない者だけの人数になった場合は、蔡美の手の者が混ざり、安全を確保した。

 これから、どういう手段で、彼女たちが最終目的地である梁山泊に向かうかは知らない。

 流石に、そこまでは沙那には関係のない話だ。

 

 沙那の指示通りに、女囚の集団脱走が成功した直後に、孫空女の剛腕を使って城壁の一部にやっと人が通れるくらいの穴を開けさせた。

 すると、案の定、脱走した女囚を追う軍は、女囚たちがそこから城壁の外に脱走したものと判断して、城郭内の軍を次々に城門の外に出して、南側の一帯を捜索させた。

 沙那の狙い通りに、城郭の内外は大混乱の様相を呈した。

 

 一方で、金光院に隠れていた沙那たちは、軍営から脱走した女たちと金光院に監禁されていた者たちのすべてに城郭軍の軍装をさせ、捜索のため城門を抜けていく軍に紛れて、軍旗を掲げ、堂々と出ていった。

 

 自力で歩けない九頭女と朱姫、そして、宝玄仙については、軍荷を運ぶ荷駄馬車に隠して一緒に連れて出た。

 荷を入れた箱に彼女たちを隠し、簡単な確認では発見できないように、工作もしていたのだが、呆気ないくらいにあっさりと通過することができた。

 それからは、南を中心に展開していくほかの隊を横目に軍旗を交換して欺騙しながら、逆方向の北側に移動した。

 そして、山中に入り、軍装を解いて解散したのだ。

 

 この間、荷駄馬車の中で、道術が回復した宝玄仙が、『治療術』によって、朱姫と九頭女の回復を図った。

 夕方になる頃には、朱姫も九頭女も負傷も癒え、外見では元の姿をすっかりと取り戻していた。

 

 いつもながら、宝玄仙の道術は驚異的だ。

 全身をあれだけ壊されていた九頭女を、夕方にはどこを怪我していたのかわからないくらいに回復させたのだ。

 九頭女など、涙を流して感動していた。

 そして、ついでに、宝玄仙自身についても、千代婆に受けた乳首の治療もしたようだ。

 午前中については、乳首に布が擦れると、激しい快感に襲われるという理由で胸を丸出しにしていたが、夕方に荷駄馬車から降りるときには、きちんと服を着て胸を覆っていた。

 

「わたしからは、なんと返事のしようがないわ、七星。ご主人様の気まぐれなんて、予想できないもの。あんたも知っているでしょう」

 

 沙那は応じた。

 

「いや、宝玄仙さんではなく、あんただよ、沙那。本当に、蔡美の手の者の連中は、あんたに信奉しているようだよ」

 

「わたし?」

 

 沙那は困惑した。

 

「ああ、今回の城郭の脱出劇では、なにからなにまで、沙那の計略のとおりになったんで、驚きもしたし、それから、あんたに酷いことを言ったりしたんで、それを後悔もしていたさ。連中もそれを謝る機会もなく、ばらばらになったんで、あたいに、なんとか沙那を口説けと言ってきているのさ」

 

「だったら、なおさらじゃない、七星。いまさら、わたしが、ご主人様と離れて、この国の政府との戦いに身を投じると思う?」

 

「思ってもいいんじゃないかなあ……。まあ、沙那や孫空女や朱姫が、宝玄仙さんを慕っているのは知っているけど、でも、正直に言えば、あんたや孫空女がそれほど、尽くすようなご主人様ではないと思うけどねえ。梁山泊の戦いを率いる晁公子殿は、それは立派な方だよ──。あれっ、でも、公子が頭領だって、喋っちゃいけないんだったかなあ……。まあ、いいか──」

 

 七星が言った。

 

「それよりも、なんで、お前と、ついでに、琵琶子までも、梁山泊の戦いに参加しているんだよ?」

 

 孫空女だ。

 

「まあ、いろいろとあったのさ。ほら、この祭賽国は、女の地位が低いだろ? それで、琵琶子と一緒に旅をしてたらさあ──」

 

 おしゃべりの七星が例により、べらべらと語りはじめる──。

 

 いま、この部屋にいるのは、沙那のほか、七星と孫空女だ。

 隣の部屋には、宝玄仙と朱姫と九頭女と蔡美がいる。

 まだ、宝玄仙の道術による朱姫と九頭女の治療は続いているようだ。

 蔡美は付添だ。

 それで、残りの三人については、特にすることもなく、こちらの部屋で四方山話をしているということだ。

 

 宿を見つけることについては問題はなかった。

 この祭賽国は、男に比べて、女の地位が低い国であり、祭賽国の国都に入る前にも、女のみの一行である沙那たちはそれで宿を見つけるのに苦労したものだったが、今回は、蔡美と孫空女が男装をしたのだ。

 それで、ふたりの若い男が、女の従者を連れて旅をしているという体裁にした。

 ふたりとも、女としては背が高いので、胸を布で巻いて目立たなくして、髪を偽装すれば、男に見えないことはない。

 すると、女連れだとかなり苦労した宿探しもあっさりとしたものだった。

 

 それに、城郭を脱走したのは、女のみなので、男連れの旅ということになると、賞金のかかった金光院からの脱走者狩りからも逃れやすくなる。

 いずれにしても、七人連れに対して、三部屋を確保することができた。

 

 三部屋借りたということで、三人、二人、二人という部屋割りで寝ることになるだろう。

 どういう部屋割りになるかは、まだ、向こうの部屋で、宝玄仙が朱姫と九頭女を治療しているので決まっていない。

 部屋の戸が外から叩かれた。

 入って来たのは、朱姫と九頭女と蔡美だ。

 

「朱姫、それに、九頭女。どうなの、身体は?」

 

 沙那は言った。

 

「お陰ですっかりと元に戻ったと思う。一時は死も覚悟したのに、あの拷問が嘘のように、身体が元に戻るというのは不思議な気分よ」

 

 九頭女が言った。

 彼女もそれなりの道術遣いなのだろうが、やはり、宝玄仙は凄いのだろう。

 九頭女は自分では、自分を治療することはできなかったが、宝玄仙は、自分の身体の治療をやりながら、この九頭女と朱姫の治療も同時にやってのけた。

 しかも、それを荷駄馬車の荷の中に隠れながらである。

 やっぱり、凄い道術遣いなのだ。

 

「ところで、七星姉さん、ご主人様が呼んでますけど……」

 

 朱姫が遠慮がちに言った。

 

「あ、あたい?」

 

 文字通り、七星は飛びあがった。

 寝台に座っていた腰を悲鳴のような声とともに、一瞬、浮きあがらせたのだ。

 

「な、なんで?」

 

 七星はうろたえたような声を出した。

 

「今夜の部屋割りについて、ご主人様は、七星姉さんと一緒だそうです。残りの二部屋は、あたしたちで勝手に決めろと言っていました」

 

 朱姫が続けて言った。

 

「さ、沙那、どうしよう──。あんた、とりなしておくれよ」

 

 七星が沙那に言ってきた。

 

「とりなしって言われても……」

 

 沙那は言った。

 宝玄仙の行う部屋割りは、宝玄仙の夜の相手の指名でもある。

 一緒に旅をしたことのある七星もその意味を知っている。

 性行為の激しい宝玄仙の相手について、七星が気が進まないのは理解できる。

 ましてや、七星は、宝玄仙の供から離れるときに、宝玉にけしかけられて、宝玄仙に手痛い仕返しをしている。

 宝玄仙がその復讐をしようとして、七星を夜の伽として指名したということは十分に考えられる。

 

「いいじゃないか、七星。久しぶりに、ご主人様の相手をしてきておくれよ。お前も、さっき、沙那を誘いたいみたいなことを言っていたじゃないか。だったら寝物語でご主人様を口説けばいいじゃないか。ご主人様が、行くと言えば、あたしらは、梁山泊でも、どこでもいっしょに行くよ」

 

 孫空女が横から言った。

 

「む、無責任なことを言うなよ、孫空女。わざわざ、宝玄仙さんが、あたいを呼び出したというのは、あの女人国の別れの復讐をしようというに決まっているだろう」

 

 七星は声を荒げた。

 

「別に殺されはしないよ。ご主人様が、それほど悪人ではないことくらいわかってるんだろう? まあ、善人とは言わないけどね。とにかく、明日の朝までだよ。どんなに長くても、それ以上にはならないように、あたしと沙那で努力するよ」

 

「孫空女、お前のご主人様だろう──。あの性格をなんとかしておくれよ」

 

 七星は声を荒げた。

 

「ご主人様をなんとかしろなんて、無茶言うなよ、七星」

 

 孫空女は、これ以上の議論はしないというような態度で、この部屋の最奥の寝台をさっさと占拠して横になった。

 

「なら、沙那、あんたなら、とりなししてくれるよね。宝玄仙さんの供の中では、随一の常識人じゃないか」

 

 七星が、また沙那を見た。

 

「ま、まあ、考えようじゃないの、七星? もしかしたら、宝玉様があなたに会いたくて、代わりにご主人様が呼んだのかもしれないわ」

 

 沙那は言った。

 もっとも、そんなことは沙那も信じていない。

 七星を指名したのは、宝玉ではなく、宝玄仙の人格だ。

 宝玄仙が夜の伽を七星に命じたということは、宝玄仙が七星を嗜虐したいという意思なのだろう。

 宝玉に気を使って、わざわざ、宝玄仙が七星を呼んでやるとは思えない。

 

「なにが、そんなに嫌なの、七星? ひと晩相手してくれって、宝玄仙さんが言うんなら、してくればいいじゃないか」

 

 蔡美が口を挟んだ。

 

「お前は、宝玄仙さんのしつこさを知らないからそんな呑気なことを言えるんだよ。お前こそ、宝玄仙さんの洗礼を受けて来いよ、蔡美」

 

 七星が怒鳴った。

 

「いいから、さっさと、行けよ、七星──。ぐずぐずして、ご主人様の機嫌が悪くなったら、そのとばっちりはあたしらにくるんだ。梁山泊の代表として、ご主人様に迷惑をかけたお詫びをしてこい、七星──」

 

「代表って、あたいらは全くの新参者で……」

 

「いいから、行けったら、七星」

 

 寝台に寝そべっていた孫空女は、くるりとこっちに姿勢を向けて叫んだ。

 七星は顔を真っ赤にしたが、やがて、意気消沈したようになって、まるで屠殺場に向かう家畜のような顔をして、部屋を出ていった。

 

「ところで、残りの部屋割りはどうしますか?」

 

 朱姫だ。

 

「どうするって……。わたしたち三人と、もうひとつが九頭女と蔡美でいいんじゃないの?」

 

 沙那は言った。

 

「でも、九頭女さんは、まだ、大丈夫かどうか、あたし、心配なんですよねえ……。女の部分もお尻も壊されたんですよねえ……。ちゃんとしているかどうか確かめた方が……。ご主人様は七星姉さんと……ということになったし、そういうことを確かめるのは、沙那姉さんや孫姉さんや蔡美さんは、どうなんでしょうか……」

 

「はあ? なにを言い出したのよ、あんた?」

 

 朱姫が、なにか訳のわからないことを喋りはじめた。

 沙那は口を挟んだ。

 

「……つまり、よかったら、あたしが確認をと……。もちろん、変な意味じゃないですよ。でも、ちゃんと機能するかどうか、点検した方が……。だから、よければ、あたしが……」

 

 沙那は呆れた。

 朱姫は、九頭女の相手をしたいようだ。

 やりたいのは、嗜虐に違いない。

 

 この嗜虐娘は、あんな目に遭ったというのに、昨日の今日で、嗜虐の機会があると思ったら、それをもうやりたいのだ。

 だが、九頭女もまた、今朝まで拷問を受けていた身体だ。

 それを嗜虐してみたいというのは考えなしにも程がある。

 沙那は、朱姫を怒鳴ろうと思った。

 

「いいわよ、朱姫……。わたしもあなたに点検して欲しいわ。わたしの女としての機能がちゃんとしているかどうか……」

 

 九頭女は言った。沙那は驚いた。

 だが、当の朱姫は、もっと驚いていた。

 顔にそれが現れている。

 

「ほ、本当ですか、九頭女さん? あ、あたしの相手をしてくれるんですか?」

 

 朱姫が言った。

 

「ええ、するわ。なんでもしていいわ。あなたがそうしたいのなら……。孫空女の言い草じゃないけど、あなたにも迷惑をかけた──。梁山泊の女の代表として、わたしでよければ、好きにしていいわ。あなたには、その権利があるもの」

 

 九頭女が言った。

 孫空女が困ったような表情をして口を開く。

 

「ねえ、九頭女……、あたしは、そんなつもりじゃあ……」

 

「いいのよ、孫空女。あなたの言うとおりだもの。わたしは、わたしたちの戦いに、あなたたちを勝手に巻き込んで迷惑をかけた。本当にお詫びするわ。あの地下牢で、朱姫が拷問死したと聞かされたときには、わたしがどれだけ悔悟の気持ちを抱いたか口では言い表せないわ。でも、その朱姫は生きていた。そのあなたに、この身体を生きて責められるのなら、むしろ嬉しいわ」

 

 九頭女が言った。

 

「ねえ、九頭女、この朱姫は、ちょっと調子に乗るところがあって……」

 

 沙那は九頭女に顔を向けた。

 

「沙那姉さんは黙っていてください──。そうですよ。お詫びですよ。とにかく、朱姫に九頭女さんを責めさせてくれるんですよね?」

 

 朱姫は喜色満面で言った。

 

「お願いするわ、朱姫」

 

 九頭女が顔を赤らめた。

 

「あたしのこと、“ご主人様”って呼んでもらってもいいですか、九頭女さん? あたし、そういうのがやりたかったんです」

 

「ご主人様、よろしくお願します。この九頭女の躾をしてください」

 

 九頭女が演技っぽく朱姫に頭をさげた。

 

「くううっ──。嬉しい。こんなの久しぶり──。沙那姉さんも、孫姉さんもやってくれないし」

 

 朱姫が握り拳を作って感慨深そうな声を出す。

 

「当たり前だろう、朱姫──。なんで、あたしらがそんなことをするんだよ」

 

 孫空女が横槍を出す。

 しかし、朱姫は完全に無視している。

 

「ねえ、九頭女さん、あたしの作った霊具も試していいですか? あたし、ご主人様に霊具つくりも習ってるんです」

 

「なんでもしてください、ご主人様」

 

 九頭女は言った。すると、朱姫は込みあがる嬉しさを隠すことなく、喉でくくくと笑った。

 

「じゃあ、九頭女、両手を後ろに回しなさい」

 

 朱姫は、すでに嗜虐酔いのような表情になっている。

 でも、放っておいて大丈夫だろうか。

 沙那は心配になった。

 

「はい」

 

 九頭女の手が背中に回る。その手に黒い影が乗った。

 朱姫の『影結い』の道術だ。

 その朱姫の『影結い』の道術で発生させた『影手』が、背中に回った九頭女の手首を拘束したのだ。

 九頭女も一瞬、顔色を変えたが、すぐに我に返った顔をして、顔を伏せる。

 

「おいで、九頭女──。躾けてあげるわ」

 

 朱姫が言って、部屋の戸を開けた。

 

「はい、ご主人様」

 

 それを九頭女が追う。

 出ていったふたりを残った三人で呆気にとられて見送った。

 

「九頭女姉さんも変わったわね……。あんなことを受ける人じゃなかったのに」

 

 やがて、蔡美がぽつりと言った。

 

「それで、あたしらは、どうする? あたしらも、三人でするかい?」

 

 孫空女が悪戯っぽく言った。

 

「受けてもいいですよ、孫空女、沙那。九頭女姉さんと違って、あたしは、もともと、女同士が趣味なんですから」

 

 蔡美も笑って応じた。

 

「馬鹿なことを言わないの、ふたりとも──。じゃあ、休みましょう」

 

 沙那は言った。

 するとふたりが笑った。

 もちろん、ふたりの言うことが冗談であることはわかっている。

 こんな軽口を言えるようになったということが嬉しい。

 なにが起きようとも、命さえ奪われなければなんとかなる。本当によかった。

 そして、沙那も寝台に横になる準備をしようとした。

 

「それにしても、七星、大丈夫かなあ……?」

 

 しかし、沙那はなんとなくそう言って、視線を孫空女に向けた。

 

 

 *

 

 

「戸を閉めな、七星」

 

 部屋に入るなり、宝玄仙はなにか不機嫌な口調で言った。

 七星はすくみあがった。

 

 部屋で待っていたのが、宝玉ではなく、宝玄仙だったからだ。

 これで、待っているのが宝玄仙ではなく、宝玉だったらいいという、ほんの微かな期待も完全になくなった。

 

 七星も覚悟を決めた。

 命までは奪われることはないだろう。

 もっとも、相当の仕打ちは覚悟が必要だろうが……。

 

 女人国で宝玄仙の元を去るとき、宝玉にけしかけられて、宝玄仙に置き土産をして立ち去った。

 すなわち、『道術錠』で宝玄仙を四つん這いにして、肉芽を糸で引っ張りあげたうえに、浣腸をして放置したのだ。

 沙那たち三人で尻を叩かれたうえに、肛姦されないと解放できないという条件をかけて──。

 

 あのときは、二度と遭うことはないだろうと思ったから、そこまでの仕打ちをした。

 こんなにも早く再会するとわかっていたら、単純に普通に逃げたのだ。

 こうなるんだったら、やっぱり琵琶子(びわこ)のように、さっさと梁山泊に逃げ帰ればよかった。

 心の底から宝玄仙を怖れている琵琶子は、女囚の集団脱走が開始される前に、ひと足早く北安の城郭を立ち去っていた。

 顔の割れていない琵琶子は、自由に旅ができる。

 だから、そのまま、梁山泊に戻っていった。

 

「あのう、あんときは……」

 

 とりあえず、謝った方がいいのだろう。

 この宝玄仙については、謝ることは無駄だとは知っているが、それでも謝らないよりはましだろう。

 

「ちょっと、付き合っておくれ、あいつらには知られたくないんだ」

 

 宝玄仙はそう言うと、くるりと七星に背を向けると、寝台に向かって置いてある椅子に腰掛けた。

 訳がわからず、ふと見ると宝玄仙の身体が向いている寝台の上に、三個の木の球が宙に浮かんでいる。

 

「なにさ、その球体は?」

 

 七星は言った。

 なにかの淫靡な淫具の霊具だろうか?

 

「なにって、これは、子供が道術を覚えるときに遣う玩具だろう。お前も遣ったろう?」

 

 宝玄仙が向こうを向いたまま言った。

 球体は、空中に浮かんで微動だにしない。

 

「遣ってないよ。あたいは、小さな海浜国の貧民街の出身なんだ。道術遣いとしての教育なんてまともには受けていないよ」

 

「そうかい? とにかく、これからやることについては、誰にも言うんじゃないよ。特に、あいつらにはね」

 

「あいつらって?」

 

「沙那と孫空女と朱姫だよ──。とにかく、こっち来な」

 

 宝玄仙は言った。

 そして、驚いたことに、いきなり、自分の上衣と胸当てを外して乳房を剝き出しにした。

 

「な、なに?」

 

 七星は、なにが始まるのか理解できずに、うろたえて声をあげた。

 

「いいから、わたしの乳首をいじくりな、七星」

 

「えっ?」

 

 七星は意外な言葉に声をあげてしまった。

 

「ゆ、ゆっくりだよ。あんまり、激しくしないでおくれよ。お願いだよ」

 

 宝玄仙が顔を赤らめた。七星は驚愕した。

 とにかく、言われたことをしようと思った。

 椅子越しに両手を宝玄仙の身体の前に出し、乳首に手をやる。

 

「い、いくよ」

 

 七星は宝玄仙の乳首を握って、くりくりっと回した。

 

「あふっ──」

 

 宝玄仙の身体が弾かれたように反り返るとともに、宝玄仙は大きな声をあげる。

 それと同時に、寝台の上に浮かんでいた球体が、ぽとりぽとりと寝台に落ちた。

 七星は、びっくりして宝玄仙の乳首から手を離す。

 

「だ、駄目か……。やっぱり、他人に触られると、わかっていても道術が中断される……」

 

 宝玄仙が荒い息をして言った。

 

「ど、どうしたのさ、宝玄仙さん?」

 

 七星は言った。

 いまの反応は尋常じゃない。

 七星が触ったのは、なんの技巧もないひと触りだ。

 それなのに、あの宝玄仙はあられもない声をあげて、官能を全身から迸らせた。

 

「あ、あの時だよ。千代婆にやられたんだ──。畜生──。あいつ、“狂い油”とかいう淫油で、わたしの乳首が常時発情するように身体の改造をしたんだよ。道術じゃあ治せないとか言っていたけど、それはわたしを見くびったんだろうね。まあ、わたしの『治療術』で普通の生活には支障はない程度までは回復はした」

 

「えっ、えっ、えっ?」

 

 七星は戸惑った。

 しかし、なんとなく、七星に仕返しをするという感じじゃなしそうだ。

 

「だけど、いまみたいに、ちょっとでも触られると、一瞬で、全身の淫情が爆発したようになってしまうんだ。あんな、初歩道術が中断されるくらいにね──。くそうっ、もう一度だ。少しでも刺激に馴れておかなくちゃ」

 

 宝玄仙が姿勢をただすと、再び球体が宙に浮かんだ。

 そして、やっとわかった。

 七星は、思わず噴き出してしまった。

 どうやら、ここに呼んだのは、以前の仕返しのつもりではないのが確信できたのだ。

 

 それにしても、あの宝玄仙が、ちょっと胸に触られただけで、あんなに激しい淫情に襲われるという弱点を持つことになったとは……。

 耐えようとしても、思わず笑いが噴き出る。

 

「な、なに笑ってんだよ、七星──。お前を呼んだ理由はわかっているんだろうねえ。お前は、一緒に旅もしたことがあるから気心知れてる。そのうえ、お前は、明日か、その翌日には、りょう……なんとかの戦いに参加するために、またどっかに戻るんだろう?」

 

「梁山泊だよ」

 

「そんなことはいい――。とにかく、だから、あいつらに秘密がばれる心配はない。それで呼んだんだ──。いつも、連中を虐げているわたしが、こんな弱点を作ってしまったとわかったら、どんな仕返しをされるかもしれないじゃないか──。せめて、道術が中断しないくらいには、刺激に馴れないと……。まあいい、もう一度だよ。また、合図をしたら乳首を触っておくれ」

 

 宝玄仙は言った。

 

「う、うん……。つまりは、宝玄仙さんは、沙那たちに、このことを知られたくないんだね……?」

 

 七星は言った。

 

「そうだよ。いつもみたいに、べらべらと喋ったら承知しないよ、七星」

 

 宝玄仙が赤い顔をして、こっちを向く。

 

「わかったけど……。もう、無駄かも」

 

 七星は部屋の戸に飛びついて、さっと、扉をこちら側に開いた。

 

「あっ──」

 

「わっ」

 

「お、お前たち──」

 

 そこには、扉に張りついて、聞き耳をしている沙那と孫空女がいたのだ。

 七星は、さっきから、そうやってふたりが扉の外に張りつている気配に気がついていた。

 一緒に旅をしていたときには、必ず、宿の部屋には結界を組んだ宝玄仙だったが、今夜は、『治療術』などをぎりぎりまで施していたので、声を遮断する結界を張っていなかったようだ。

 沙那と孫空女は、ばつが悪そうに戸の向こう側に立っている。宝玄仙が舌打ちした。

 

「お前たち、入っておいで……。戸を閉めな」

 

 ふたりが、部屋に入ってきて戸を閉めた。

 

「お、お前たち、話を聞いてたね?」

 

 立ちあがった宝玄仙が真っ赤な顔をして、胸を出したままふたりを睨んでいる。

 

「いえ、そんな……。聞いたという程でも……そのう──。ねえ、孫女?」

 

「う、うん、あんまり……。まあ、乳首くらい、そんなに触られるものじゃないし……。まあ、気にしなくても……。ねえ、沙那」

 

「そうかい、聞いていたんだね。じゃあ、記憶を失くすくらいの快楽責めに遭ってもらおうか」

 

 宝玄仙がふたりに詰め寄る。

 

「ひいっ──。ご主人様、勘忍してよ」

 

 孫空女が悲鳴をあげた。

 

「そ、そうです。立ち聞きはすみませんでした。悪気はなかったんです。七星のことが心配で……」

 

 沙那も言った。

 

「七星が心配? なんで?」

 

 宝玄仙はきょとんとした顔をしている。

 

「なんでって……。ほら、七星って、ご主人様から去るときに、『道術錠』で嫌がらせの仕打ちをしていったじゃないか。だから、てっきりと仕返しをするのかと……」

 

 孫空女がおずおずと言った。

 

「ああ──っ?」

 

 宝玄仙が大声をあげた。

 そして、急に七星を見た。

 

「そう言えば、そうだったじゃないか、七星──。お前には、随分な目に遭わされたんじゃないか」

 

 宝玄仙が七星を見た。

 どうやら、宝玄仙は、七星に受けた仕打ちなど、とっくに忘れてしまっていたのだ。

 それには驚いた。

 しかし、次の瞬間、急に金縛りにかかったように、身体が動かなくなった。

 宝玄仙の道術だ。

 

「ま、まさか、忘れていたの? だ、だったら、もう、いいじゃないか」

 

 七星は悲鳴をあげた。

 

「なにがいいものかい。この宝玄仙にあれだけのことをしたんだ。きっちりと仕返しはしないとね。お前たち、よく思い出させてくれたよ。行っていい」

 

 宝玄仙が沙那と孫空女に言った。ふたりがほっとした顔をする。

 

「そ、そんな──。ねえ、連中に、記憶を失くすくらいの調教をしなくていいのかい、宝玄仙さん?」

 

 七星は喚いた。

 

「お休みなさい、ご主人様──」

「明日、謝るから……。悪いね、七星」

 

 沙那と孫空女は、そのときには、部屋を出ていきかけいて、その言葉とともに、扉の向こうに消えた。

 

「さて、どうしてやろうかね、七星……。そうだ、とりあえず、わたしと同じ目に遭ってもらうか……」

 

 宝玄仙が七星の胸に手をかざした。

 

 急に胸が熱くなる。

 嫌な予感がする。

 だんだんと、乳首に痛いほどの疼きが込みあがり……。

 

「これくらいでいいかね」

 

 そう言うと宝玄仙は、さっと服の上から七星の乳首を撫ぜた。

 

「あひいいっ──」

 

 その瞬間、怖ろしいほどの激情が七星の胸を襲った。

 そこから雷撃のように貫いた快感の矢に、七星は腰を砕かせた。

 道術で金縛りにさせられた身体が、その場に崩れ落ちる。

 

「長い夜の始まりだよ、七星」

 

 嗜虐の色に顔を染めた宝玄仙の手がゆっくりと、七星の下袴(かこ)越しに七星の股間に手をかざす。

 すると、さっき乳首に受けた熱いものが今度は肉芽に……。

 

 七星は悲鳴をあげた。

 肉芽の感度が信じられないくらいにあげられているに違いない。

 宝玄仙が、七星の下袴の股間の部分をごしごしと手で擦った。

 

「くわあっ──」

 

 七星は全身を仰け反らせて絶叫した。

 もの凄いものが股間から迸り、そして弾けた。

 七星は、あっという間に、全身が浮遊するような大きな快感に襲われて絶頂してしまった。

 

「でかい声出すんじゃないよ。結界を張り忘れているから、お前のはしたない声は丸聞えだよ──」

 

 宝玄仙がさらに股間を擦りあげる。

 

「や、やめ、やめて──」

 

 再び込みあがる大きな淫情──。

 七星の哀願の言葉を、宝玄仙の嗜虐に酔った高笑いが打ち消した。

 確かに、長い夜の始まりに違いない……。

 

 際限のない連続絶頂の予感とともに、また込みあがった途方もない快感の嵐に、七星は動かない身体をのたうたせた。

 

 

 

 

(第37話『女奴隷の叛乱・後篇』終わり、第38話『同・後日談』に続く)






 *


【西遊記:第63回、祭賽国・後篇(龍王、九頭駙馬など)】

 祭賽国(さいさいこく)の繁栄の源である金光院の宝玉を奪った妖魔から、宝玉を取り戻すための戦いが開始となります。

 妖魔の巣は、碧破潭(へきはたん)という水中城であり、そこは、主である「龍王」のほか、娘の「万聖公主」、その婿の「九頭駙馬」、彼らの子供たちなどが率いる軍団がいます。

 当初、孫悟空と猪八戒がふたりだけで!正面から襲撃します。
 しかし、九頭駙馬の意外な強さに押され、猪八戒は捕虜となり、孫悟空は一時的に退却します。

 孫悟空は、今度は虫に化けて碧破潭に潜入し、監禁されていた猪八戒の救出に成功します。
 ふたりは計略により、猪八戒はそのまま水中城で暴れ、孫悟空については陸上に引き揚げることにします。

 今度は猪八戒も武辺を発揮し、碧破潭の諸兵を圧倒します。すると、九頭駙馬だけでなく、龍王も、猪八戒の前に出てきます。
 猪八戒は碧破潭から逃亡します。しかし、これは彼らを水中から陸側に誘き寄せるための作戦でした。

 水中の戦いが不得手の孫悟空ですが、陸の上では無双です。
 陸で待ち受けていた孫悟空は、まずは陸王を討ち取ります。九頭駙馬以下の軍団は驚いて、水中に退却してしまいます。

 龍王を討った孫悟空たちの前に、偶然にも「二郎神」が神軍を率いて通り掛かります。孫悟空は二郎神に加勢を要望し、二郎神はそれに応じます。

 孫悟空は、今度は二郎神率いる神軍とともに、水中城の碧破潭に進攻します。
 その戦いで、碧破潭側の九頭駙馬、妻の万聖公主、さらに、彼らの子供たちを次々に戦死させます。

 一族で唯一生き残った「龍婆」は、孫悟空たちに降伏します。
 孫悟空は、奪われていた宝玉を受け取り、龍婆を捕虜として、国都に連行します。

 龍婆は、祭賽国の宝物である宝玉を奪った罪により、宝玉を管理する金光院の塔の番人をすることになります。

 美しい宝玉の光が戻った「金光院」は、国王の命令により、「伏龍寺」と改名されます。
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