三黒坊は、宝玄仙をうつ伏せにして後背位で後ろから女陰を突いていたが、その宝玄仙の乳房を持って抱えあげると、股間に挿している怒張を支点にして、身体をくるりと回転させた。
そして、あぐらになった三黒坊と向い合わせの体勢にする。
「ああっ、そんなことされると、一気に狂うよ」
両手と胸を後手縛りで縄掛けされている宝玄仙が大きくのけ反った。
「狂うなら、いくらでも狂ってください。これがいいんですか?」
三黒坊は宝玄仙を対面座位の状態で、無理矢理に左右に身体を動かしてやる。
「うううっ、お、お前、すごいいっ」
宝玄仙の女陰に包まれている三黒坊の怒張がこれでもかと収縮した。
感じているのだ。
三黒坊は、嬉しくなってさらに乱暴に宝玄仙を責めたてる。
宝玄仙はますますよがり狂った。
一行が宿泊している観院の離れの客室である。
この高位巫女の一行の世話を命じられた三黒坊は、思わぬことに、彼女たち美女三人の性の相手をすることになり、いまもそれが続いているところだ。
沙宝蔡と孫玉蔡はすでに抱き潰し、ふたりとも寝具の上で、彼女たち自身の蜜と三黒坊の精で光る股を拡げたあられもない格好で、失神している。
かなりの時間が経つのに、まだ起きる気配もない。
三黒坊と宝玄仙は、ふたりの真ん中の床の上で、長い交合の真っ最中だ。
宝玄仙の両手は背中であり、縄でしっかりと緊縛している。
三黒坊のやったことであり、その縛った絶世の美女を相手に、三黒坊は様々な体位を強要しながら、女体を征服する悦びを骨の髄まで味わっていた。
それにしても、帝都からやってきた高位巫女の宝玄仙が三黒坊の手管で翻弄され、これほどまでに感じてくれているのかと思うと、心の底からの悦びと、自信がみなぎる。
同時に、さらに宝玄仙を鬼畜によがらせたいという黒い欲望が沸き起こる。
「んんんっ、ああっ、上手……。う、うまいよ、お前……あ、ああっ」
「全部、宝玄仙様ご自身の性の技ですけどね……。ほら、これはどうです? これは?」
三黒坊は頭と身体に浮かぶままの技巧で怒張を巧みに操り、あぐらの上に乗せている宝玄仙の腰を浮かしては落として深く貫いたりしてやる。
あるいは突く深さや角度、あるいは速度を変化させたりと宝玄仙を翻弄した。
宝玄仙は、我を忘れたように乱れ、黒髪を揺らして荒々しく悶えて、喜悦の声を放つ。
愉しい……。
生まれて初めての女体との関係だったが、こんなに愉しいものとは、思いもよらなかった。
特に、沙宝蔡と孫玉蔡をなぶり責めにした後で始めた宝玄仙との逢瀬はいい。
宝玄仙が心の底から、三黒坊に縛られて抱かれるのを愉しんでくれているのがわかるし、これほどの巫女を淫らに狂わせているのかと思うと、三黒坊の男としての自負心は満足させてもらえる。
すでに、かなりの時間が経ってる。
宝玄仙は五回、三黒坊は二回達しているが、いまだに欲望は収まらない。
三黒坊がこんなにも、主導的に三人を抱き、翻弄し、性や縄扱いの技巧を駆使しているのは、『
宝玄仙と一対一の性行為が始まるとすぐに、宝玄仙が三黒坊にくすくすと笑いながら教えてくれた。
つまりは、『操人形』には人を操る効果があり、やはり宝玄仙は三黒坊を密かに操っていたらしいのだ。
最初に会ったときに、宝玄仙から髪を抜かれた。
それを使って、宝玄仙は三黒坊を操人形に刻んだようだ。
だが、宝玄仙は単純に三黒坊を人形のように操ったわけではなく、操人形の力で、宝玄仙の持っている性や嗜虐の技巧を使えるようにし、女体への好奇心と自信を与え、さらに三黒坊自身の性癖を大解放したとのことだった。
操人形は、単純に人を操るだけでなく、そういうこともできるらしい。
だから、三黒坊はまるで人が変わってしまったかのようになったというわけだ。
驚いたが、悪い気持ちはない。
こんな操りなら大歓迎だ。
「ま、まあ、い、いきそう……。お、お前、い、いっていいかい……」
宝玄仙が息を弾ませながら言った。
三黒坊もそうたが、宝玄仙は長い性交と重なる絶頂で脂汗にまみれている。
それは、本当に美しかった。
「どうぞ。いけたらですけど……」
三黒坊は宝玄仙が八合目から九合目まで昂っているのがわかると、わざと奥まで突っ込んでいた肉棒を引きあげて、入り口部だけを擦るようにした。
そのため、宝玄仙は焦らされている感じになり、切なそうに身をよじる。
「あ、ああっ、それはないよ。意地悪」
宝玄仙が拗ねたような声を発した。
「でも、これは宝玄仙様の操りなんですよ。つまり、宝玄仙様がやっていることですから……」
三黒坊は苦笑した。
「ち、違う……。こ、これは正真正銘……おっ、お前がやってること……。の、能力をあ、与えた……だ……けで……、そ、操人形をこんな風に使ったのは、は、初めてだけど……おっ、おっ、お前がやっているには……か、変わりないんだ……。あ、ああっ」
「嬉しいことを言いますね……」
三黒坊はしばらくのあいだ、宝玄仙の快感を落としてはあげ、あげては落とすということを繰り返した。
だが、そのうち、あまりの宝玄仙の股間の締めつけに我慢ができなくなった。
「だ、出します……。こ、これで最後です」
三黒坊はうっと呻くともに、力の限り怒張を宝玄仙の膣深くに貫く。
そして、子宮めがけて精を放った。
「はああっ」
宝玄仙もまた、それに合わせて究めたようだ。
弓なりにした身体を三黒坊の腕に預けて、骨が砕けるのではないかという勢いで身体を震わせた。
「はあ、はあ、はあ……」
荒い息をしている宝玄仙から身を引き、三黒坊は怒張をすっと抜く。
夥しい量の愛液と精が流れ出てきて、三黒坊は思わず苦笑してしまった。
「ありがとうございます、宝玄仙様……」
なにを言っていいかわからず、三黒坊はそう言った。
とりあえず、横たわっている宝玄仙を抱えあげて、縄を解いていく。
「こっちこそ、久しぶりにいい遊びをしたよ……。お礼に、お前に与えた性の技巧と知識はそのままにしておいてやろう……。役には立つさ。その代わり、今夜のことは他言できない。その縛りを結ぶよ。そのために、性交の最中に、お前の身体に
「どんなことでもしてください」
三黒坊は言った。
宝玄仙の言ったことが、これからの三黒坊にどういう影響を与えるのか検討はつかないが、三黒坊は愉しかったこの一夜を覚えていられることができれば満足だ。
もちろん、道術の刻みなどなくても、今夜のことを秘密にしてくれと言われれば、三黒坊は今夜の出来事は墓場まで持っていく。
「寝所に戻る前に、水差しの水を入れ換えておいてくれるかい」
宝玄仙が身体を横たえて、気だるそうに言った。
つまりは、それが終われば、もう来るなということだろう。
三黒坊はうなずくと、すぐに見支度を始めた。
*
なにかの違和感で目を覚ました。
孫空女は身体を起こした。
頭がぼんやりとしている。
異常なまでに身体がだるい。
そういえば、宝玄仙が連れてきた三黒坊というこの古神館の若者に、糸吊り責めされながら陰毛を剃られ、途中で気を失ってしまったのだ。
大人しそうな態度だったくせに、いざ営みが始まると人が一変して、嗜虐癖を全快にして孫空女を責めたてた。
あの若者に、泣いて許しを乞いたかと思うと、忌々しさに口に苦いものが込みあがる。
燭台に照らされた部屋を見回したが、あいつはいないようだ。
孫空女のほかには、沙那と宝玄仙がいるだけだった。
身体には掛け布がかかっているが、三人とも全裸だ。
孫空女は、ふと自分の股間を見た。
一本の毛もないつるつるの無丘だ。
宝玄仙は、二度と生えないように毛穴を殺す処置をすると言っていたので、孫空女の股間は死ぬまで、この童女のような状態のままなのだろう。
亀裂から顔を出している赤い肉豆まではっきりと見える股間に、孫空女は深く嘆息した。
そして、はっとした。
頭が働くようになるにつれ、違和感の正体をはっきりと自覚したのだ。
焦げ臭いような……。
そして、熱い……。
かすかだが、確かに変だ。
そして、ごうごうと物が燃える音と、周りが崩れ落ちる音もする。
「えええっ?」
孫空女は叫んだ。
びっりくした。
この離れの客間全体が外側から猛火で包まれているのだ。
すでに火は壁や柱に走っていて、まるで炎の建物にいる状況になっている。
「ご主人様、沙那、起きて──。火事だ。この建物が燃えてるよ──」
孫空女は沙那の身体を蹴り飛ばすとともに、宝玄仙を揺すり起こした。
ふたりとも、最初はぼんやりとしている状況だったが、すぐに状況を呑み込み、慌てたように起きあがった。
「どういうこと、これ?」
沙那が叫んだ。
「わかんないよ。あたしも、さっき、起きただけなんだ」
孫空女は叫び返す。
そのあいだも、孫空女も沙那も身に付けるものを着ていっている。
「これは、普通の炎じゃないよ……。道術の臭いがするね……。いずれにしても、わたしの結界に入っていれば大丈夫だ。建物が燃え落ちても、残骸も炎も中には入ってこれない」
宝玄仙の落ち着いた声がした。
いつも沙那と孫空女に下着まで身支度をさせる宝玄仙だが、さすかにいまは、自分で服を身につけている。
孫空女も、宝玄仙の結界という見えない膜のようなものの力は承知している。
宝玄仙は自分を中心に、何者も通さない透明の力場のようなものを作り、それを保持できるのだ。
野宿などをするときでも、見張りなどを立てなくても、盗賊や野獣から襲われなくてすむので重宝している。
「でも、どういうことでしょう……?」
沙那が首を傾げた。
宝玄仙の言葉で、沙那も少し安心したようだ。
「さあね。まあ、誰かがわたしらを殺そうとしているということは確かだろうねえ……。まあ、燃えるものがなくなって、炎が落ち着くのを待ちな。この外にそいつがいるに違いないさ」
宝玄仙が言った。
孫空女は、耳から如意棒を出して構えた。
いまは、業火の真っ最中だ。だが、確かに、少し待って離れの建物が完全に崩れれば、炎は小さくなる。
そうしたら、炎に飛び込んで外に出てやろうと思った。
「うはっ、はうっ」
そのとき、突然、宝玄仙が奇声をあげてしゃがみこんだ。
「ご主人様?」
「どうしたのさ?」
驚いて駆け寄る。
しかし、宝玄仙は自分の身体を抱いて、悶え狂っている。
よく見れば、苦しそうに笑っているようだ。
「う、ううう……。いやあっ、くっ、ぐふふふふ……あはははっ、や、やめて……、や、やめてぇ……んふふふ……」
宝玄仙が笑い続けている。
孫空女は、呆気にとられた。
「な、なんで?」
孫空女は、宝玄仙を助け起こしたが、どうにもならない。
宝玄仙の身体を這い回っているようなものはなにもないのだ。
「わ、わかんない……。と、突然に……か、身体が……くすぐられる……か、感覚が……んふふふふ」
「ご、ご主人様、それ、操人形では?」
沙那が叫んだ。
「そ、操人形……? んははは──。ひ、ひいっ、ま、股を舐められた──」
宝玄仙が沙那に対応しようとしたが、急に両手で股間を押さえて、もんどり打った。
孫空女は、慌てて、宝玄仙を抱き止める。
今度は、くすぐったさに加えて、股間の淫らな刺激に襲われているようだ。
「操人形って?」
宝玄仙の代わりに、孫空女は沙那に訊ねた。
「ほら、この神館の神館長がご主人様の霊具の操人形を持っていったでしょう。きっと、それに違いないわ。これは間違いなく道術よ。でも、ご主人様ほどの道術遣いに道術をかけるのは簡単じゃないわ。だけど、ご主人様自身の霊具なら、それも可能なのよ。だから、そうに決まってるわ」
沙那はきっぱりと言った。
「だけど……。確か、ご主人様はあの操人形は、ご主人様しか扱えないって言ってなかったなかあ……?」
孫空女は、うろ覚えながらも、宝玄仙がそんなことを沙那に言って、問題ないと説明していたことを思い出していた。
「でも、現に扱ってるじゃない──。ねえ、ご主人様、これはご主人様の操人形じゃないですか? ご主人様なら、わかりますよね?」
沙那が、うずくまって、くすぐりに耐えている宝玄仙の耳元で怒鳴った。
「そ、そうかも……う、ううっ……。こ、今度は脇かい……いやああっ、ああはは、く、くうっ」
宝玄仙が悶えまくる。
「ほらっ、ご主人様、だから、わたしが危ないって言ったじゃないですか」
沙那が呆れた声を発した。
「そ、そんなこと……い、いまさら……、い、言われても……。ひいいっ」
今度はお尻を押さえている。
孫空女は、宝玄仙がかわいそうになってきた。
そのときだった。
ぐらりと景色が揺れた気がした。
次の瞬間、猛烈な熱気が孫空女たちに、襲いかかってきた。
「ご、ごめん……。け、結界が……ほ、保持……できない……。あふうあっ、くはははは、ははははは……。た、だめえ──」
宝玄仙が苦しそうに笑いながら叫んだ。
すると、また景色が一瞬揺れ、肌を焼くような熱さがさらに襲った。
「ご主人様の結界が壊れる──」
沙那が焦ったような悲鳴を発する。
「でも、逃げられないよ」
周囲の業火は、いま、一番激しい状況だった。
いま、結界が破れれば、三人とも一気に猛火に包まれるだろう。
孫空女は息を飲んだ。
*
「ひいっ、お、お尻はだめえ」
宝玄仙が情けない声を出しながら、両手でお尻を押さえてのけ反った。
「ご主人様……」
孫空女が、床でのたうっている宝玄仙に駆け寄って、心配そうに身体を助け起こしている。
だが、沙那にも、どうしようもない。
宝玄仙を襲っているくすぐりの刺激は、ここではないどこからか、遠隔で送られるのだ。
助けたくても、助ける方法はここにはない。
「ひ、ひっ、ひいっ、く、くそう……。お、お尻ばっかり集中的に……」
宝玄仙をが泣くような声で歯噛みしている。
だが、次の瞬間、またもやけたたましい悲鳴で自分の身体を抱き締めた。
「あはははは、いひひひひ、わ、脇を……両脇を……ど、同時に……うふふふ、んははは……く、くすぐってる……あははは、ち、畜生……、だ、誰だか……う、うふふふ……知らないけど……や、やりたい放題……んんん……んふふふ……ははは……こ、殺してやる……ははは……」
宝玄仙が口惜しそうに罵っているが、笑いながらでは迫力もなにもない。
いずれにしても、突然に襲った業火と、宝玄仙への攻撃……。
これは偶然ではない……
何者かが、宝玄仙を含む沙那たちを殺そうとしているのだ。
おそらく、少なくとも、あの
宝玄仙の操人形を持っていったのは観禅蔡だし、操りたい人間の人形へ刻み方も、宝玄仙は教えていた。
しかし、それだけではない……。
宝玄仙は、あの観禅蔡には、宝玄仙の霊具を使いこなすのは無理だと言っていたし、それについては、沙那は疑わない。
こと道術に関することであれば、宝玄仙は間違ったことは言わない。
つまりは、ほかに宝玄仙の霊具を扱えるくらいの道術遣いがいるのだと思う。
沙那は自分の勘が正しいと確信している。
宝玄仙を襲っている何者かは、『操人形』という宝玄仙自身の霊具を観禅蔡から受け取り、それを操って、宝玄仙にくすぐりの感覚や全身を舐め回す感覚を送り込んでいるものだと思う。
それを業火に包ませる時機に合わせて開始したのも、宝玄仙が術で逃亡するのを防ぐためだと思う。
「ひいいっ、も、もうだめ……」
またもや、宝玄仙の声が笑い声から悶え声に変化する。
そのとき、すさまじい熱風が沙那たちを襲った。
「うわっ」
「熱い──」
孫空女と沙那は声をあげた。
「あ、ああ……。す、すまない……」
宝玄仙が弱々しく言った。
熱風がなくなる。
いまや、業火から沙那たちを守っているのは、宝玄仙の道術による結界だ。
それが操人形を使ったくすぐり責めによって、宝玄仙の集中が途切れ、ややもすると結界が破れそうになる。
さっきから、それが繰り返されているのだ。
「げほっ、げほっ……、お、おかしいよ、沙那……。こ、これだけの業火……。と、とっくの昔に、この小さな別宅など焼け落ちてもいいのに……」
孫空女が咳き込みながら言った。
それは、沙那も同じことを思っていた。
沙那たちが考えていたのは、こんな小さな離れなど、これだけの炎であれば、あっという間に焼け落ちる。
そうなれば、当然に業火は小さくなるから、その隙に脱しようとしているのだ。
だが、かなり時間が経つのに、いまだに炎の勢いは衰えない……。
「ひやっ、ひやっ、ひゃっ、ひいいい」
「ご主人様、しっかり」
宝玄仙がもがき苦しむのを孫空女が懸命に押さえている。
このままでは、宝玄仙がもたない……。
死ぬようなくすぐり責めに合いながら、結界を維持する霊力を出し続ける宝玄仙は、真っ赤な顔を涙と鼻水と涎でいっぱいにしてすごい形相だ。
沙那はふと思いつき、宝玄仙の荷を漁った。
すると、果たして、もうひとつ操人形があった。
沙那はそれを宝玄仙の胸に押しつけた。
「これは、三黒坊さんを操っていた操人形ですよね──? これを使って、危機を三黒坊さんに報せてください。腕かなんかにちょっとした痛みを与えれば起きます。早く──」
沙那は怒鳴った。
「えっ、操りって……そうなの?」
三黒坊を操人形で宝玄仙が操っていたと聞いて、孫空女が目を丸くしている。
「その話は後よ。さあ、ご主人様──」
沙那は宝玄仙の腕を力一杯に握る。
「あ、ああ……。わ、わかった……」
宝玄仙が操人形を手に取った。
「んふうっ、うはあっ」
しかし、宝玄仙が全身をびくりと跳ねあげて操人形を落としてしまった。そして、またもや、けたたましく笑いだす。
沙那は宝玄仙の巫女服の下袍に下から手を入れた。
「なんしてんの、沙那?」
訝しむ孫空女を無視して、沙那は作業をする。
当の宝玄仙は、遠隔で送られる刺激に激しい反応をするのに忙しくて、沙那がなにかをやっているのを知覚することもできないようだ。
「ふぎいいっ、な、なにすんだい──」
やがて、宝玄仙が絶叫して、のけ反った。
沙那は手を宝玄仙の下袍から出す。
その沙那の手には、宝玄仙から剥ぎ取った股布と、引っこ抜いた陰毛が握られている。
沙那はその両方をその場に捨てた。
「痛みでくすぐったいのも忘れますよね……。とにかく、お叱りも、お仕置きも、あとで甘んじて受けます。もしも、生き残ったらですが……」
沙那は言った。
「はあ、はあ……。そ、その言葉……、わ、忘れんじゃないよ、沙那……」
宝玄仙が股間を押さえながら、宝玄仙が落とした操人形を拾う。
そして、荒い息をしながら沙那を睨んだ。
ちょっと恐怖が背中に走ったが、この場合は仕方がない。
もっと、いい方法があるかもしれないが、この場では思いつかなかった。
操人形の刺激から一時的にでも、宝玄仙を脱しさせるためには、それを遥かに上回る刺激を与えればいい。
例えば、陰毛を手でむしられる激痛とか……。
「くそっ、これでいいかい……。この痛みで起きなければ、あの坊やは生きてないさ」
宝玄仙が操人形を投げ捨てた。
「ひいっ、またっ──」
次の瞬間、またもや、宝玄仙が身体を弓なりにして悲鳴をあげた。
すると、今度は孫空女が宝玄仙の下袍に手を入れる。
「わっ、わっ、や、やめないか。多少なら、結界を強めれば、刺激を防げるんだよ。それでも、防げなかったものだけが、襲ってくるんだ。いちいち、痛みで紛らしてくれなくても、自分で刺激を排除できる」
宝玄仙が孫空女の手を阻止しようとした。
「まあまあ、遠慮しないでよ……。それより、もっと怒るといいよ。霊力のことは知らないけど、人間、怒ることで普段の何倍も力が出るからね。怒って、霊力を振り絞って」
「んぎいいっ」
だが、非力な宝玄仙が孫空女の怪力に勝てるわけもなく、次の瞬間、孫空女に黒々とした陰毛をむしられてしまった。
「あら、孫空女、一度にむしりすぎよ。なくなってしまうわよ」
沙那は孫空女が捨てた陰毛の量を見て吹き出した。
そして、またもや宝玄仙の巫女服に手を入れる。
こんな機会じゃないと、日頃の仕返しなどできない。それに、ここで死ぬなら、やっぱりこれまでの鬱憤だけは晴らしておきたい。
「や、やめておくれ、もう。ほ、本当にあとで仕返しするよ。罰だよ、罰だ」
宝玄仙が両手で股間をしっかりと押さえる。
陰毛むしりを阻止しよとしているのだ。
相変わらず操人形が刺激は続いている気配だが、いまは陰毛をむしられる痛みがまさっていて、なんとか正気を保てるようでもある。
「仕返しなら沙那と受けるよ。だけど、むしる陰毛はもうないけどね……。それにしても、ご主人様、抵抗しないでよ……。ねえ、沙那、ご主人様の腕、縛っちゃう?」
宝玄仙の手を孫空女が呆気なく後ろから羽交い締めにしてどかしてしまう。
孫空女もこの状況を愉しんでいる気配だ。
「そうね。腕を縛っても道術には関係ないしね。ご主人様から取った、この股布使ったら?」
沙那は股間から取り去って紐状になっている宝玄仙の股布を孫空女に放り、改めて宝玄仙の下袍に手を突っ込んで陰毛を探った。
「や、やめてっ」
宝玄仙がまるで女のような悲鳴をあげた。
そのとき、なにかの気配を外に感じた気がした。
「神官長、なにをなさってるのです──」
そのとき、外から金切り声がした。
三黒坊の声だ。
宝玄仙の結界は、あくまでも外からの侵入や影響を防ぐのであり、声や物音を遮断するわけじゃない。
三黒坊の声はしっかりと、炎を割って耳に届いた。
「三黒坊さん、助けて──。わたしたちは炎の中よ──」
沙那は絶叫した。
「三黒坊──」
「三黒坊、そいつが炎が出る霊具を持っているはずだ。取りあげるんだ」
孫空女、そして、宝玄仙も叫んだ。
すぐに、なにかを争うような物音が始まる。
そして、いきなり炎の壁の一角が消滅した。
その隙間から見えたのは、大きな法螺貝のようなものを挟んで取っ組み合っている観禅蔡と三黒坊の姿だ。
あの法螺貝は霊具だろう。
口の部分から炎が出ているが、三黒坊がしがみついて、炎の先がいまは空を向いている。
だから、炎が弱まる場所が一時的に発生したのだ。
「よくやったよ、三黒坊」
そのときには、すでに如意棒を抱えた孫空女がそこから飛び出している。
沙那も宝玄仙を抱えて、外に飛び出した。
「やや? 宝玄仙も中に? 女の部下だけじゃなかったのか──」
宝玄仙を認めた観禅蔡がすっとんきょうな声を出した。
そこにいたのは、観禅蔡と三黒坊だけだ。
ほかの者はまだいない。
「つまんないこと、言ってんじゃないよ──」
孫空女が如意棒を法螺貝に叩きつけ、その霊具が粉々になった。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
沙那はひざまずいている宝玄仙に声をかけた。
「あ、ああ……。ぼ、坊や……さ、三黒坊……助かったよ……」
宝玄仙が汗ばんだ顔を三黒坊に向ける。
ふと見ると、もう炎はない。
すでに、完全に離れの部屋は焼け落ちて、燃えるものなどなくなっていたのだが、あの炎を出す霊具が業火の壁を作っていたのだとわかった。
「うわああ、貴重な霊具が──」
孫空女に突き飛ばされるかたちになっていた観禅蔡が、壊れた霊具に駆け寄っていく。
いずれにしても、助かったのだ。
沙那はほっとした。
そのとき、どやどやと、大勢の人が近づく気配がした。
やっと、騒動に気がつき、この神殿のほかの者がやってきたようだ。
「なにが、霊具だい──。お前、ご主人様を焼き殺そうとは、どういう魂胆だい──?」
孫空女が片手で如意棒を掴んだまま、反対の手で観禅蔡の胸ぐらを掴んで宙にぶら下げた。
それにしても、片手で大の男を持ち上げるとはすごい怪力だ。
沙那は苦笑した。
「なんだ、なんだ、どうしたのだ、これは……?」
ほかの居士たちとともにやってきた
この古神殿では、観禅蔡に次ぐ、第二位の地位にある男だ。
「神官長様が、宝玄仙様たちを焼き殺そうと……」
三黒坊が言った。
「ち、違う……。わ、わしは宝玄仙でなく、女の供ふたりを……」
観禅蔡が苦しそうに言った。
「なんだとう」
孫空女が怒鳴った。
神殿の者たちは茫然としている。
「孫空女、構うことない、そのじじいを逆さにぶら下げな。なんでも話すさ」
宝玄仙が喚いた。
「わかったよ」
孫空女がにやりと笑うと、ひょいと観禅蔡を上に投げて、落ちてきたところを、頭が地面にぶつかるぎりぎりで片側の足首を持って本当に逆さ吊りにした。
「ひいいっ、わ、わしは、そそのかされたのじゃ──。う、うわあっ、た、助けて──」
観禅蔡が泣き声をあげる。
「誰によ──?」
沙那はすかさず怒鳴った。
この顛末には、もうひとりの道術に長けた存在がいるはず。
そいつこそ、宝玄仙を苦しめている首謀者のはずだ。
「……こ、
「黒風怪?」
誰彼となく、そこにいた者の何人かが呟いた。
そのとき、一陣の強風が突然に吹いたと思った。
「うわあっ」
孫空女が突き飛ばされるように地面に倒れた。
気がつくと、人の丈が並みの人間の二倍はある巨漢が観禅蔡を守るように立っていた。
見ると頭に角がある。
妖魔だ──。
「俺の名を出すとはな……。長年の縁もこれまでだぞ、観禅蔡」
その巨漢の妖魔が言った。
沙那は宝玄仙を背中に守るようにして剣を抜く。
「宝玄仙、取引をしようじゃないか……」
その妖魔がにやりと笑った。
「なにが取引だい──。ふざけんな」
そのとき、孫空女が如意棒を構え、妖魔目掛けて飛び込んだ。
「だめっ、孫空女──」
沙那は咄嗟に叫んだ。
【西遊記:16回】
玄奘と玄奘(三蔵法師)は、270歳の老僧が完了する山寺に立ち寄ります。
孫悟空は、老僧の求めに応じて、玄奘が観音菩薩から授かった金袈裟を見せます。老僧はその袈裟に魅入られて、ひと晩だけ預からせて欲しいと頼み、玄奘はやむなく承知します。
その夜、金袈裟を返したくなくなった老僧は、玄奘の寝る庵を焼き払ってしまうことを企てます。
しかし、猛火に包まれながらも、孫悟空は仙術で炎を逆進させて、逆に老僧は焼死してしまいます。