「跪きなさい、奴隷」
その言葉で、九頭女は、弾かれるように、ただれるように疼く身体を跪かせた。
朱姫の手にあった小さな瓶が九頭女の肩に傾けられ、赤色の透明な液体が九頭女の身体に流れ落ちていく。
「きゃああっ──」
その透明の液体が、九頭女の肌に流れ薄く拡がっていく。
そして、小さな塊りに分裂しながら、まるで生き物のように身体のあちこちに移動する。
また、圧倒的に多くの量が股間に集まる。
さらに、胸を包むように……。
その突端はやや厚い塊になった。
ほかにも指先や足先……。
太腿、膝の裏にも這い進んでいく。
よく見えないが脇や背中……。
お尻に向かっても、その赤い液体が向かっているようだ。
水が流れる冷たさを感じるのだ。
さらに顔……。
「こ、これはなに、朱姫? い、いえ、ご主人様」
九頭女はうろたえて叫んだ。
「あたしの合成した霊具です、九頭女さん。液体だから、霊剤かな──。ちょっと、実験台になってくださいね。沙那姉さんや孫姉さんに遣おうと思っているんですけど、なかなか承知してくれないし、無理矢理に使うと後で怒られるし……」
朱姫が普段の口調で言った。
少しだけ安心する。
まるで人が違ったかと思っていたのだ。
そうだ……。
これは演技で遊びのようなものだ。
九頭女の心に、改めて朱姫の嗜虐を受け入れる気持ちが沸き起こる。
それにしても、絶頂寸前で止められた快感が身体にうずまき、身体をただれさせている。
もう、意地悪をしないで責めてはくれないだろうか。
最初の日、宝玄仙と朱姫のふたりに責められたときは、際限のない連続絶頂だったが、朱姫だけの場合は、限りなく陰湿だと思った。
朱姫が咳払いした。
次には、また、九頭女を支配する冷たい女王のような顔つきに戻る。
それにしても、この赤い液体はなんだろう?
肌にまとわりつき、不快というよりは、なんだか皮膚の触感を麻痺させるような痺れのようなものを感じる。
しかし、その痺れが火照りきっている九頭女の身体に渦巻く快感と交錯し、次第に狂おしい刺激になっていくような……。
いや、これは……?
「ちょ、ちょっと、これ……」
九頭女はだんだんと焦りのようなものを覚えていきた。
これは、落ち着いていられるようなものじゃない。
赤い液体の付着した部分からどんどんと快感があがってくる。
熱い……。
頂上を極めかけた身体の快感がさらに上昇し、果てしない高みに押しあげられる。
「な、なんですか、これは、ご主人様……?」
九頭女は今度は悲鳴のような声で言っていた。
「どう? 痛い? それとも、気持ちいい?」
「き、気持ちいいというか……。気持ち悪いというか……。い、いえ……。気持ちいいかも……。なんだかわからないけど……。く、苦しい……。そ、そう、苦しいです。あ、ああっ……。だ、駄目……」
九頭女の身体は込みあがってくる快感に、九頭女は身体を悶えさせた。
水は微妙に全身を動きまわっている。
そして、接触している部分に小刻みな振動のようなものを与えているのだ。
それが切羽詰ったものとなって、九頭女に襲いかかる。
朱姫の手が九頭女の脇腹をさっと撫ぜあげた。
「はあっ」
頂上寸前で快感を取り上げられた身体は、完全に快感に無防備になっている。
それに、なんでもないようでいて、一番感じる部分を的確な強さで刺激してくる朱姫の愛撫──。
九頭女は朱姫の指一本で、追い詰められている自分を感じていた。
そして、驚いたことに、さっき朱姫にかけられた赤い液体が、さっと朱姫に触られた部分に移動したのだ。
同時に股間にも集まる。
「こ、これは?」
九頭女はうろたえた。
「面白いでしょう? ご主人様を調教しようとした千代婆とかいうお婆さんの作った淫油は、“泣き油”、“吠え油”、“狂い油”だったらしいけど、あたしのは、“責め油”と名付けようかしら」
朱姫がくすくすと笑う。
「責め油?」
どうでもいいけど、この得たいの知れない感覚は……。
「ふふふ、これはお前の性感帯を見つけて移動する霊剤よ。どんなに隠しても、お前が感じている部分を勝手に探し出して移動するのよ。そして、そこを責めるの。しかも、感じている度合いに応じて、濃さが変わるのよ。感じている部分は濃く、快感が少しの部分は薄く……。だから、こうやって新しい刺激を受けると……」
朱姫はそう言いながら、反対側の脇腹を撫ぜあげた。
「うはっ──はあぁ──」
九頭女の両手は、朱姫の“命令”により、背中で組んだまま離れない。
抵抗できない身体を性の技を知り尽くしたような娘の朱姫が責めるのだ。
九頭女の性感は嫌でも熱く燃えたぎる。
そして、朱姫の触れた部分に赤い液体がさっと集まったのがわかった。
「あはぁ……」
朱姫の手の感触のほかにも、その赤い液体が加える微妙な振動もある。
九頭女は喘ぎ声をあげ、自然に腰をくねらせてしまう。
すると、さっと赤い液体の色が股間で濃くなったのがわかった。
「九頭女がどこをどうやって感じるのか、これだと隠しようがないでしょう? そして、この“責め油”は、その時々で、一番感じる場所を確実に責めたてるわ」
朱姫が言った。
そして、朱姫の指が九頭女の耳をまさぐってきた。
「いやっ」
くすぐったさに九頭女は思わず顔を背ける。
「避けては駄目よ、奴隷」
朱姫が冷たい声で言う。
すると、九頭女の顔はなにかで押さえつけられたように動かなくなる。
避けることのできない九頭女の耳を朱姫の指がくすぐってくる。
肩のあたりからどんどんと液体がのぼってくるのがわかる。
そして、さらに反対の耳──。
両方の耳を責められる。
九頭女はさらに喘ぎ、身体を震わせた。
耳など刺激されたことはなかったが、九頭女の眠っている性感を掘り起こすような朱姫の愛撫に、九頭女は溢れ出す快感に溺れそうな自分を感じていた。
「大きく口を開けなさい、奴隷」
朱姫の言葉で九頭女の口は大きく開かれる。
「ふふふ、そのままよ。涎を流していなさい」
朱姫の舌が九頭女の口に入ってきた。
「あら、口の中にも入って来たわ。“責め油”は、飲んでもいいけど。強力な媚薬でもあるから、とんでもないことになるわよ、九頭女。気をつけてね──。でも、まあいいか。それに、口で感じてしまった変態の九頭女が悪いんだし。媚薬を飲みたくなければ、口ではあまり感じないことね」
朱姫が意地の悪い口調で言ってから、ねっとりと本格的に舌で九頭女の口の中を舐めはじめた。
朱姫の舌が九頭女の舌を這い、口の中の粘膜を舐めあげる。
歯茎の隅から隅まで舌で擦られ、歯の裏が舐められる。
「あ……ああぁ……」
口から声が出る。
そして、大きく開きっぱなしの九頭女の口からは、だらだらと涎が流れ落ちて、九頭女の顎を伝って首筋に落ちてくる。
「たくさん“責め油”が集まったわね。注意したのにしょうがない奴隷ね。口を閉じていいわよ」
口を閉じた。
確かに大量の砂糖汁のようなものを口中に感じる。
これが“責め油”の味なのだろうか。
恐ろしい媚薬だと言っていたが……。
「そのまましてなさい。唾液とまじりあって、身体に吸収されるわ。吐き出そうとしても無駄よ。すぐに身体が熱くなる思うわ。そして、外からも内からも責めたてる。これが朱姫の“責め油”よ」
口の中の甘みが次第に消えていく。
同時に、これだけ燃えあがっている身体をさらに媚薬で責められるということに恐怖した。
いったい自分はどうなってしまうのか……。
そして、本当に身体が熱くなる。
ただでさえ汗びっしょりの全身からさらに汗が噴き出す。
怖い……。
これ以上、感じるのが怖い……。
そして、朱姫の舌が首筋に──。
「はあああ──」
自分でも驚くような大きな声が迸った。
快感の怒涛が襲ってきたのだ。
次は舌が脇……。
「ひいっ──」
九頭女はもう耐えることができなくなっていた。
脇を舌が這うと、そこから込みあがる快感で我を忘れる。
これまでに味わったことのない未知の峻烈な甘美感に全身をかき乱される。
快感が全身を駆け巡る。
「“責め油”が九頭女の肌を這い回っているわ」
朱姫が言った。
そして、九頭女の乳首が朱姫の口に含まれる。
「くわわっ──」
九頭女は身体を弾けさせた。
なにもかも吹き飛ばすような快感のうねりに、九頭女はすすり泣きのような声をあげてしまった。
その乳首が吸われる。
快感が込みあがる。九
頭女は上気した顔を左右に振りたてる。
だが、刺激の強さに快感が爆発しそうになると、さっと朱姫の舌は離れる。
九頭女は翻弄される快感に泣きそうになった。
「あたしも少し飲んじゃったわ。ふ、ふ、ふ……。快感が強いと、責める方にも“責め油”がやってきちゃうのね。これは改良しないと……」
朱姫が笑った。
それから朱姫は執拗に九頭女の全身を責めたてた。
背中を刺激し、腰に手を這わせる。
そして、脚の付け根──。
しかし、朱姫の愛撫は、そこから一番肝心な部分からは離れてしまう。
次に太腿から膝裏──。
どこをどう触れても大きな快感を覚える。
快感を覚えると、そこに“責め油”が集まり、淫らで微かな振動を加えてくる。
甘美感が大きくなるとだんだんと震動も強くなる気もする。
もっとも、大きくなるといっても、微小な強さだ。
さっき昇天し損なった九頭女を絶頂に導くような刺激を与えてくれるわけじゃない。
そうやって半刻(約三十分)も愛撫を続けられただろうか。
そのときには、もう九頭女はなにがなんだかわからないくらいまで追い詰められていた。
いかせて欲しい──。
絶頂の寸前の宙ぶらりんな部分で、ずっととどめ置かれている。
高まるだけ高まった淫情をそのままにされるつらさ──。
これほど快感が苦しいものとは知らなかった。
しかし、ついに、待ちに待ったものがやって来た──。
朱姫の指が九頭女の股間に伸びたのだ。
苦しい程に欲しかった場所に刺激が来てくれた。
「はああっ──」
淫らな声が自然に迸る。
するりと二本の指が股間に入ってくる。
同時に親指が勃起している肉芽も転がしてくる。
さらに、後ろから双臀の狭間からすべり下りた指が、なにかの制裁のような強い刺激を肛門に加える。
「お尻はまだまだね。少しは集まるけど、やっぱり、前が感じるのね」
朱姫が九頭女の後ろを覗き込みながら言った。
「そ、そんな……ああ……ああ──」
込みあがる。凄いものがあがってきた。
「もう、いきそう、奴隷?」
朱姫が囁くように訊ねた。
「いきます、ご主人様。お願いです。今度はいかせてください」
九頭女は叫んでいた。
考えてみれば、いまだに朱姫は服を着たままだ。
冷静な朱姫の前で、朱姫よりもずっと歳上の九頭女がいいように弄ばれて翻弄されている。
九頭女の中の冷静な部分が、それを恥辱として感じさせるが、それはほんのちょっとだ。
それよりも、もう少しでいける。
噴きあがる愉悦が、苛烈なうねりを呼び覚ます。
「でも、この“責め油”は未完成なのよね。責められている者がいきそうになると、なぜかそれを感じて、蒸発してしまうのよね」
朱姫がそういうとともに、全身にまとわりついていた赤い液体が、ぱちりという泡が弾けるような音とともに、一斉に消滅した。全身に冷たい感触が加わってくる。
同時に朱姫が九頭女からさっと離れた。
またも快感を最後まで与えられてもらえなかった九頭女は、混みあがる苛立ちをのまま、激しく抗議した。
「いいから、腕を前に出すのよ」
朱姫がそう言うと九頭女の手はさっと前に出る。
まるで操られているようだ。
その手首がぎゅっと縄で縛られる。
「ど、どうして、縛るんですか、ご主人様……?」
朱姫が天井の桟を使って、九頭女の身体を爪先立ちになるまで引き上げてから縄を固定したのだ。
九頭女は、怖くなって思わず訊ねた。
するとまた頬を軽く打たれた。
「奴隷のくせに、質問するんじゃないわ。生意気よ」
もう一度反対側から頬を張られる。強い力ではないが、それで気力のようなものが一瞬で萎えてしまう。
「しばらく、じっとしてなさい……。と言っても無理かな。“責め油”には強烈な副作用があるのよ、奴隷。だから、暴れ出さないように縛ってあげているのよ。感謝しなさい」
そして、朱姫は荷を置いている場所に行くと、細い棒のようなものを手にして戻って来た。
次に、寝台に腰掛けて爪先立ちで吊られている九頭女を正面から観察するような態勢になる。
九頭女はすぐに、さっき朱姫の言及した“責め油”の副作用というのがなにかわかった。
副作用と言っているが、それは九頭女を追いつめるための言葉遊びだろう。
これこそが、“責め油”の本領なのに違いない。
「下ろして、な、縄を解いてください、ご主人様──」
もう少しもじっとしていられなくなった九頭女は、裸身を左右に捩じりながら悲痛な声で訴えた。
「どうしたの、奴隷?」
「か、痒いんです。こ、これは……。だ、駄目……。とても我慢できません」
全身を激しい掻痒感が襲っている。
いや、痒みというような生易しいものじゃない。
九頭女が想像もしたこともないような猛烈な痛みのような痒さだ。こんな痒さ信じられない──。
九頭女は狂ったように身体を振りたてた。
「それは、奴隷が悪いんでしょう? いっぱい感じて、“責め油”を溜めちゃうから痒さが強いのよ」
朱姫は平然とした口調で言った。
「お願い、朱姫──。下ろして。もう、演技はやめよ。これは酷いわ」
「ひと晩、朱姫に付き合ってくれると言ったじゃないですか、九頭女さん。途中でやめるなんて酷いですよ」
寝台に座ったままの朱姫が不平そうに言った。
「そ、それはそうだけど、でも、一度、下ろして。そうじゃないと、もうやらないわよ」
九頭女は思わず叫んだ。
「じゃあ、いいです、もうやらなくても。でも、嘘つきの九頭女さんは、そのまま、朝までいてください」
朱姫が頬を膨らませた。
「わかったわ。やるわ。ごめんなさい。でも、少しだけ、下ろして……。お願いします、ご主人様」
九頭女は身体を激しく振り動かしながら叫んだ。
こんなもの少しも耐えられない。猛烈な痒さだ。
股間が……。
乳房が……。
いや、全身が……。
とにかく、痒い。
ほかにはなにも考えられない。
「じゃあ、もう、演技はやめでいいですよ、九頭女さん。終わりにしますから」
朱姫は余裕の表情でにやついている。
次第に、これはまだ、朱姫の責めが続いているのだと悟ってきた。
しかし、九頭女はもうどうしていいかわからない。
よく観察すれば、九頭女の腕を吊りあげている縄も霊具だ。
これはおそらく、どんなことをしても解けないに違いない。
こうなったら、手段を選んではいられない。
「ちょっと、沙那──。助けて──沙那──」
隣の部屋で寝ているはずの沙那に助けを呼んだ。
しかし、朱姫は余裕の表情で微笑んでいる。
「九頭女さん、どうしたんですか? 道術遣いのくせに、この部屋にあたしの結界が張っていることに気がつかないんですか?」
朱姫が言った。
はっとした。
朱姫とこの部屋にやってきたときには、結界などなにもなかった。
しかし、朱姫は九頭女を責めながら、いつのまにかこの部屋を道術で閉鎖する結界を張っていたようだ。
しかも、かなり強くて大きな結界だ。
九頭女にも、こんな結界は張れない。
道術遣いとしての力量が、九頭女よりも朱姫の方が上であることを気づかざるを得なかった。
「ね、ねえ、朱姫、もう、お願いよ。これは酷いわ──」
激しい痒みに九頭女は脂汗を迸らせながら全身を振りたてた。
「痒いでしょう……、九頭女さん。ご主人様も『ずいき油』という責め油があるですけど、それは、東方帝国にいる黒蜂の猛毒を使っているんですよ。刺されれば一瞬で人が死ぬくらいの毒をご主人様は、痒みの成分に道術で変化させているんです。あたしの“責め油”も実は、その黒蜂の毒も使っています。それから、山芋の液も唐辛子も……紫蛇の毒に……」
朱姫は“責め油”をどんなふうに作ったかを滔々と喋り続ける。
それは九頭女に対する嫌がらせとわかるが、同時に九頭女は愕然としてきた。
朱姫が並べ立てる材料は聞いただけで怖気が走るような痒みを引き起こす薬剤ばかりなのだ。
「ねえ、ご主人様──」
「もう、そう呼んでくれなくてもいいです。そのまま、朝までいてください、九頭女さん」
「そ、そんな……う、ううっ──」
朝までなんて冗談じゃない。
もう、一瞬だって耐えられない。
「ああ、お願い、なんでもするから──」
九頭女は唇を噛みしめ、髪を振り乱して、朱姫に懇願を繰り返す。
丁寧語で喋ったり、普通の言葉にしたり、恫喝に近いことも言った。
それなのに、朱姫は知らぬふりで九頭女の痴態を眺めている。
「最初に言いましたけど、九頭女さんが悪いんですよ。九頭女さんがいやらしくなければ、“責め油”は集まらなかったんです。違いますか?」
「そ、そうよ……。いえ、そうです。九頭女がいやらしいからいけないんです。だ、だから、解いて──」
九頭女は言った。
しかし、もう朱姫はなにを言っても動きそうにない。
仕方なく、九頭女は、痒みを癒す方法を懸命に探った。
身体を揺すり、内腿を擦らせる。
「あっ──。太腿は、そうやらない方がいいですよ。擦ると“責め油”の成分がさらに拡がりますから。もっと痒くなりますよ、九頭女さん」
朱姫が言った。
慌てて脚の力を抜く。
しかし、なにもしないではとても耐えられそうもない。
狂いそうな痒みにただ襲われるまま、いつしか、込みあがるような嗚咽をあげてしまっていた。
「あたしの奴隷を続けたくなりましたか、九頭女さん?」
「なる……。奴隷を続けさせてください、ご主人様」
九頭女はだんだんと朦朧としてきた身体を痙攣にように震わせて言った。
「でも、やめた。やっぱり嘘つきの九頭女さんなんか、狂ってしまえ」
朱姫はごろりと寝台に横になって、向こうを向いてしまった。
「いやあっ──。お願いします。許してください、ご主人様──。許してください、ご主人様──ご主人様、ご主人様──」
九頭女はほとんど泣きながら叫んでいた。
もうほとんど、理性など残っていない。
全身を蝕む痒みを癒して欲しい──。
考えられるのはそれだけだった。
しばらく叫んでいた。
朱姫が起きあがったのは、声が枯れるかと思うくらいに叫んだときだった。
朱姫が反応してくれた。
それだけで嬉しさが爆発する。
朱姫の持っていた小さな棒の先端がぐいと九頭女の右の乳首の近くに喰い込んだ。
「ひぎいっ」
一瞬で眼が覚めるような衝撃に、九頭女は身体を仰け反らせて悲鳴をあげた。
なにが起こったかわからない。
全身が仰け反る程の強い痛みだったが、お陰で乳房を襲う痒さが一瞬なくなった。
「『電撃棒』という霊具です。折角、ご主人様が治した身体を朱姫が傷つけるわけにはいきませんから……。鞭で打たれたような痛みだと思いますが、棒の先から出るのは電撃です。でも、いまの九頭女さんには、痛みよりも、気持ちよさが上回っていますよね……?」
今度は股間の間にすっと棒が差しこまれて、太腿の付け根に当てられる。
恐怖が走るが、それ以上に痒みが癒されるという期待感が大きい。
「ひがあぁぁぁ──」
股間に当てられる電撃は、凄まじい威力だ。
しかし、確かに痒みはなくなる。
だが、すぐに痒さが戻ってくる。
「お、お願いです──。もっと、続けてください、ご主人様」
九頭女は叫んだ。
「もう一度、胸に電撃を当てて欲しい?」
朱姫が九頭女の顔を覗き込んだ。
「はい、電撃をください、ご主人様」
九頭女は、ほとんど無意識のうちに、乳房を朱姫に突き出していた。
少しでも電撃が止まると、全身がただれるように疼くのだ。
「九頭女さんは、あたしの奴隷?」
突き出した乳房に朱姫の持っている『電撃棒』が当たる。
身体を苛む掻痒感が癒える期待感に九頭女は息が止まりそうになる。
しかし、すっと『電撃棒』が離れそうになる。
「ま、待って──」
棒を追って、思わず乳房をさらに突き出す。
はしたないとか考える余裕は九頭女にはない。
考えられるのは恐ろしい痒みを癒したいということだけだ。
「ほぐうぅ──」
乳房に電撃が走る。
裸身を弾けさせるような激しい痛みであるのだが、その後でやってくる甘い痺れで痒みが癒されて、甘美感が脳天を突きあげる。
電撃が全身のあちこちに加えられる。
その痛さで九頭女はのたうち回る。
でも、痒さが消える気持ちよさは、九頭女をどこかに飛翔させるような陶酔を与える。
電撃が気持ちいい──。
いつの間にか、電撃で甘い声をあげる自分がいる。
痒みが消える気持ちよさも、電撃の痛みも同じだ。
いや、電撃の痛さが気持ちいい。
どのくらい続けただろうか──。
朱姫がすっと『電撃棒』をまた遠ざけた。
「やめないでください、ご主人様──。もっとください」
九頭女は身体をくねらせながら叫んだ。
電撃が止まれば痒みが襲う。少しもじっとしていられない。
「九頭女さんは、今夜ひと晩のつもりかもしれませんけど、朱姫は、ひと晩で、九頭女さんが身も心も朱姫のことがご主人様だと思えるようにしてあげますよ」
そう言って離れていった朱姫は、周りがねっとりとした粘りのような糸が引いている一本の張形を出した。
「次は、九頭女さんの股間を癒してあげます。電撃では表面を癒されても、女陰の中は痒みは消えないですよね、九頭女さん?」
朱姫の言う通りだった。
どんなに電撃で打たれても、朱姫は恥毛から奥の部分には触れていない。
そのため、電撃を与えられなかった女陰の中は気が狂うようにまだ痒い。
だから、いくら電撃を打たれても、打たれても、狂うような掻痒感から解放されないのだ。
「これを入れて欲しいですか? 痒みが消えるかもしれませんよ。もっとも、この張形自体からもさっきの“責め油”を越える痒みが発生する魔剤が染み出ていますけどね……。ふふふ。どうします、九頭女さん?」
究極の選択だった。
そんなものを女陰に入れれば、さらに痒くなり狂ってしまうかもしれない。
しかし、なにかによって股間を掻いてくれなければ、この股間の痒みはなくならない。
「入れてください、ご主人様」
九頭女はそう言って、いつの間にか、腰を朱姫の持つ妖しげな張形に向かって突き出させていた。