※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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244 強制露出(沙那)

 眼が覚めた沙那は、しばらくの間、自分の置かれている状況がまったく理解できなかった。

 自分は、祭賽(さいさい)国を南に向かう人里離れた山中で、仲間と一緒に野宿をしていたはずだ。

 しかし、沙那がいま寝ていた場所は、どこかの大きな城郭の中にある小さな家のようだ。

 顔の大きさ程度の小さな窓の外からは、賑やかな城郭の喧騒が聞こえるし、その窓からは、城郭の街並みとそこを通り過ぎるたくさんの人手が見える。

 道行く人の服装や雰囲気から祭賽国のどこかだと思うが、沙那には、この城郭の風景に見覚えはない。

 どうやら、この家は、祭賽国のどこかの城郭内の大きな通りに面した場所にあるようだ。

 

 しかし、沙那には、置かれた自分の状況に結びつく記憶が全くない。

 これは、どういうことだろう?

 

 沙那は、窓を覗く視線を上方にした。窓から覗ける陽の高さから考えると、まだ昼に近い朝方の時間のようだ。

 一方、沙那が寝かされていた寝台のある部屋については、とくに調度品もなく、ただ、沙那が横になっていた寝台がぽつりと置いてあるだけだった。

 この状況を理解するための手掛かりになるようなものはなにもない。

 

 いったいここはどこなのだろう?

 仲間はどこにいったのか?

 沙那の頭に激しく疑問が渦巻く。

 

 沙那は自分の身体を見回した。

 とくに変わったというところはない。

 山中で野宿をしていた時と同じ服だ。拘束をされているというわけでもない。

 ただ、寝るときに枕元に置いておいた細剣を佩いた帯はない。

 

 窓の反対側には、扉がひとつある。

 沙那は、その扉に向かおうと思った。

 しかし、沙那が寝台から立ちあがったとき、部屋の扉ががちゃりと開いた。

 

「眼が覚めたようね、沙那」

 

 そこには、町女風の髪形と服装の女とふたりの侍女がいた。

 女主人の身なりはいい。

 年齢は四十くらいだろうか。

 女主人は青い着物を着ていて、どこかの商家の女主人のような身なりだ。

 侍女たちは、ずっと若く朱姫よりもまだ歳若に見える。

 

 もっとも、朱姫は、宝玄仙に刻まれた道術紋の影響により、見た目は十六だが、実際にはもう十九だ。

 宝玄仙の紋には、若さを保つ効果があり、朱姫は完全な大人の身体になりきる前に成長がとまってしまったので、いつまで経っても少女にしか見えないが、本当はもう大人の女だ。

 以前、奴隷商人の女に捕らえられたとき、朱姫は身体の獣化を促す寄生虫を植え付けられてしまっている。

 宝玄仙の道術でも、それを完全に取り除くことができないため、その寄生虫の働きを停止させるために、常に朱姫は、宝玄仙の強い霊気を帯び続けなければならない。

 そのための道術紋だ。

 

 しかし、宝玄仙の道術紋には、女の老化をとめてしまうという効果もあるので 、朱姫はいつまで経っても少女の姿のままというわけなのだ。

 もしも、あれがなかったら、朱姫はいま頃は、大人の女になりかけの身体から完全な大人の女の身体になっていて、あの小悪魔的な妖艶さを醸し出す綺麗な女性になっていたのだろうか。

 見た目の変化がないが、このところの朱姫は道術遣いとして大きく成長しているように沙那には思えた。

 つまり、朱姫はこのところ、本来であれば肉体上の成長期を迎えているに違いない。

 

 いずれにしても、侍女のふたりの年齢は、その見た目の朱姫よりも若いだろう。

 おそらく、十四、五というところだろう。

 

「あなたたちは誰?」

 

 沙那は用心深く言った。

 三人の女以外に人影はない。

 だが、沙那は妙な不自然さも感じていた。

 侍女のふたりはともかく、眼の前の女主人からは、まったく人の気配というものを感じないのだ。

 沙那には、幼い頃からの修練のお陰で、人の気配や自然の中にいる動物の気のようなものを感じることができる。

 気配を殺すことのできる武芸者にも大勢会ったことはあるが、眼の前の女主人は、気を意図的に消すことができるような修練を積んでいるようには見えない。

 

「わたしは、杏仙(きょうせん)。後ろのふたりは、丹桂(たんけい)と臘梅(ろうばい)よ。最初に言っておくけど、あなたたちは、わたしたちによってさらわれたのよ」

 

 

「さらわれた?」

 

 沙那は眉をひそめた。

 

「そうよ。あなたたちは、荊棘嶺(けいきょくれい)でうっかりと寝込んでしまい、わたしの仲間があなた方を浚って監禁したということよ。自分の立場がわかった?」

 

 杏仙の顔には優越感に浸った笑みのようなものが浮かんでいる。

 沙那の腕なら、眼の前の女三人を叩きのめすのは、造作ないだろう。

 しかし、さらったと言っている沙那を特に拘束することなく、無防備に対面しているということは、杏仙には沙那の攻撃を避けることができるなにかの準備があるのだろう。

 沙那は沸騰する怒りを表に出さないように自分を抑えた。

 

「ご主人様や仲間はどこ?」

 

 沙那は冷静さを保つことを自分に言い聞かせながら言った。

 

「わたしの命令に従っていれば、いずれ会わせるわ……。さあ、丹桂」

 

 杏仙が後ろの侍女のひとりに声をかけた。

 ふたりの侍女は、ひとりは橙色の着物で、もうひとりは白い着物だ。

 丹桂と呼ばれたのは橙色の着物を着た少女だ。

 すると、もうひとりの白い着物の少女が臘梅なのだろう。

 侍女はふたりともなにかの包みを抱えている。

 

 丹桂は、自分が抱いていた包みを沙那が立っている横の寝台に置いた。

 そして、再び杏仙の後ろに戻っていく。

 

「これはなに?」

 

 沙那は包みにちらりと眼をやった。

 

「いいから開きなさい」

 

 杏仙は言った。

 沙那は包みの結び目を解いて中を開く。

 

「あっ」

 

 思わず声をあげた。

 そこには女の下着が三枚あった。

 沙那は、その下着を手に取った。

 そこからは女の匂いがする。

 沙那にはそれが誰のものだかすぐにわかった。

 絹地の質のいい下着は宝玄仙が履いているはずのものに違いない。

 残りの木綿地の二枚は、沙那たちが身に着けているものだ。

 もしかしたら、孫空女と朱姫が昨夜履いていたものかもしれない。

 

 昨夜は激しい性交の後、身体を洗うことなく休んだ。

 その下着からは、女の女陰から溢れる汁特有の匂いと小さな染みが残っている。

 この下着が三人のものだと仮定すれば、三人はそれを脱がされて奪われるような目に遭っているとういうことだ。

 驚いている沙那のそばに、もうひとりの臘梅という少女もやってきて、別の大きめの包みをさらに寝台に置いた。

 

「もういいわ、お前たち。この家を出なさい」

 

 杏仙は言った。

 丹桂と蝋梅のふたりが部屋を出ていく。

 部屋には、沙那と杏仙だけになった。もうひとつの包みがなんであるかが気になったが、とりあえず沙那は杏仙に向き直った。

 

「ご主人様はどこなの? 言いなさい──」

 

 沙那は声をあげた。

 

「もちろん、まだ、荊棘嶺よ。十八公の住まいである木仙庵(もくせんあん)という場所にいるわ。そこに連れていかれているわ」

 

「荊棘嶺の木仙庵?」

 

「あなたたちが寝ていた山一帯は荊棘嶺という場所だったのよ。まったく気がつかなかったかもしれないけど、あの山一帯は、わたしたちの縄張りなの。そこに入り込んだ以上、あなた方を煮て食おうが、焼いて食おうがわたしたちの自由ということよ。そして、あなたたちは四人揃って寝込みを襲われて捕えられた……。そろそろ、自分の立場がわかった、沙那?」

 

 杏仙がなぜ、沙那の名を知っているのかということはいい。

 ほかの三人が本当に浚われていて、どこかで監禁されているなら、沙那の名を彼女たちから聞き出したのかもしれない。

 しかし、ほかの三人が、まだ、あの山中のどこかにいるとすれば、ここはどこなのだろう。

 窓の外の情景は、どう考えても、昨夜の山中の近辺とは思えない。

 

「あななたちは、荊棘嶺に巣食う盗賊ということ?」

 

 沙那は言った。

 とてもそういう風には思えない。

 見る限り、眼の前の杏仙は、どこかの商家の女というところだ。

 

「そう思ってもらってもいいわね」

 

「ここはどこよ?」

 

「祭賽国の中のどこかの城郭とだけ言っておくわ。ここは荊棘嶺とはまったく離れた場所よ。『移動術』という道術で、あなたは、わたしと一緒に飛ばされたのよ」

 

 杏仙は愉しそうに笑みを浮かべている。

 その態度が沙那には鼻につく。

 だんだんと苛々してくるが、興奮すれば相手の思うつぼだと考えて、じっと耐える。

 

「じゃあ、荊棘嶺の盗賊の女がここでなにをしているの?」

 

「ああいう場所は不便だからね。わたしは、時折、『移動術』で城郭にやってくるのよ。あなたは、わたしたちの愉しみのために、ついでに連れて来たというわけよ。これから、ある遊びをあなたとやろうと思っているのよ」

 

「遊び?」

 

 沙那は眉をひそめた。

 

「そうよ。あなたは、わたしの命令に従って、言いなりになって行動する。全部できれば、荊棘嶺に連れ帰ってあげるわ。でも、命令に従わなければ、置いていく。それだけよ」

 

「冗談じゃないわ。なんで、わたしがあんたらの命令に従わなければいけないよ」

 

 沙那は大きな声をあげた。

 

「従うと思うわね。仲間に会いたいでしょう?」

 

「会いに行くわ。連れ帰ってもらわなくても、荊棘嶺へは自力で移動する」

 

「その場合、お仲間と会うことは不可能ね。ここがどこだと思っているの? 荊棘嶺なんて遥かに遠い場所よ。あなたが道術遣いだとしても、荊棘嶺に『移動術』の結界は残していないでしょう?」

 

 『移動術』は、道術遣いが刻んだ結界から結界に瞬時に跳躍する道術だ。

 しかし、その場合、跳躍先にあらかじめ『移動術』の出口となる結界を刻んでおかなければならない。

 しかも、特別な処置をしない限り、結界などすぐに消える。

 『移動術』が遣えたとしても、この杏仙に連れ帰ってもらわなければ、このどこかわからない城郭から、あの山中には戻れない……。

 杏仙はそう言っているのだ。

 

 いずれにしても、沙那は道術遣いではないし、当然、『移動術』は遣えない。

 しかし、それを説明する必要はないだろう。

 沙那を道術遣いと思っているなら、思わせておけばいい。

 

「ところで、十八公というのは誰?」

 

 杏仙は、宝玄仙たちが、十八公の住まいである木仙庵にいると言ったはずだ。

 

「十八公は、今回のわたしたちの頭領というところかしら。わたしたちは、お互いに協定を結んでいるのよ。獲物を捕らえた場合、その獲物を捕らえた場所を縄張りとする者が頭領ということになっているの」

 

「頭領?」

 

「わたしの縄張りに来てくれたらよかったのにね。そうすれば、もう少し、親切な扱いをしてあげれたわ。十八公は、あれでなかなか気が短いから、三人は苦労しているようよ。いつも十八仙は、手っ取り早くけりをつけたがるのよね。まあ、お前については、わたしに任せるということになったから、丁重に扱うつもりよ。少なくとも手荒なことはしないわ……。いい子だった場合のことだけだけど」

 

 杏仙は微笑んだ。

 その余裕の笑みが気に入らない。

 しかし、まだだ。沙那は自重した。

 

「それで、あんたたちの目的は?」

 

「そうね……。さしあたり、お前を屈服させるということかしら」

 

「屈服?」

 

 沙那は思わず言葉を繰り返した。

 

「お前の身体には、男の精を殺してしまう道術封じがあるでしょう? それが邪魔なのよ。だから、その効果を消してしまいたいのよね」

 

 そう言えば、宝玄仙が、沙那たちには宝玄仙が帯びている強い霊気の影響で、他人の道術を受け難くする効果があるというようなことを言っていた気がする。

 もちろん、宝玄仙の霊気よりも強い道術遣いや妖魔には効果はないが、そうでなければある程度の道術にはかからなくて済むらしいし、宝玄仙を凌ぐ霊気を持つ存在というのはそういない。

 そして、確かに、道術封じの効果には、男の精を受けても、それをすべて殺してしまう作用もあるとも言っていた。

 その道術封じの力は、帯びている者の心の気力にも連動していて、本人の気力が衰えれば道術封じの効果も減じる。

 そう言えば、そんな風に説明されたこともある気がする。

 しかし、そんなことをしてどうするのだろう?

 

「わたしに妊娠して欲しいの?」

 

 沙那は単刀直入に訊ねた。

 すると杏仙が大笑いした。

 

「これは、わたしとしたことが、お喋りがすぎたようね。余計な知識を与えてしまっては、十八公との協定違反になるわ。さあ、これでお喋りは終わりよ。あなたも、あなたの仲間も、わたしたちにさらわれてしまったのであり、少なくとも、沙那は仲間とは引き離されてしまった。仲間に会うためには、わたしの命令を聞くしかない。そういうことよ」

 

「くっ」

 

 沙那は歯噛みした。

 とりあえず、言いなりになって隙を見つけるしかないか……。

 それとも……。

 

「まず最初の命令は、ここでわたしの準備した服に着替えること。それ以外に、仲間に再会できる方法はないわ」

 

「いいえ、もうひとつ方法はあるわ」

 

 向こうがそれ以上のお喋りをするつもりがないというのであれば、沙那としても、これ以上の会話に意味はない。

 沙那は、杏仙に猛然と飛びかかった。

 杏仙を人質にして脅し、荊棘嶺に戻させて、宝玄仙らを解放させればいい。

 

 だが、飛びかかった沙那の身体は、杏仙を見事にすり抜けてしまった。

 杏仙だと思っていたのは、実体のない幻だったのだ。

 沙那は、手応えのない杏仙の身体の前で呆然とした。

 杏仙の幻から大きな笑い声がした。

 

「残念ながら、お前が見ているのはわたしの影よ。のこのこと無防備に姿をみせるわけがないでしょう。馬鹿ねえ」

 

 そして、杏仙がけらけらと笑い続ける。

 沙那は舌打ちした。

 どうやら、杏仙はかなりの道術遣いであるらしい。

 離れた場所から自分の幻像を投影して、そこで見たり聞いたりしたことを認識できるような道術を遣えるのだ。

 つまり、本体の杏仙は、どこか離れた場所にいて、道術で産み出した幻影を通して沙那と話をしているということだろう。

 

「実際のあなたはどこにいるの?」

 

 わかっていれば、さっきの丹桂と蝋梅のふたりを人質に取るんだった。

 少なくとも荷を運んできたのだから幻像ではなかったはずだ。

 もっとも、人質に取られても大丈夫な侍女だから、沙那の前に行かせたのかもしれないが……。

 

「それを沙那が知る必要はないわね。あなたは、ただ、命令に従えばいいだけよ」

 

 沙那はぐっと拳を握った。

 確かにいまは、杏仙の脅迫に従うしかないようだ。

 杏仙の言う通り、ほかに選択肢はない。

 

「もうひとつの包みを開けなさい」

 

 杏仙の幻像が言った。

 嫌な予感がする。

 沙那は、寝台まで戻って、まだ開いていない包みを解いた。

 中には、一枚の開襟の上衣だけだった。ほかにはなにもない。

 

「なによ、これ──。これを上に着ろということ?」

 

 沙那はその服を拡げながら言った。よく見れば、併せの部分のぼたんが上からふたつ取り去られている。

 これを着れば、胸の部分が大きく開くことになるだろう。

 いま着ている上衣を脱いで、これに着替えなければならないのだろうか。

 

「履物と腰の下着だけは許してあげるわ。でも、胸当ては置いていきなさい。いま着ている上衣と下袴と一緒に脱いで、その包みに入れ直しなさい。お前がここを出ていってから回収してあげるわ」

 

 杏仙の幻像が言った。

 

「ど、どういうこと、下も脱げっていうのは? この包みには上衣しかないわよ、杏仙」

 

 沙那は声をあげた。

 

「それは上衣ではないわ。ちゃんと下袍部分もある一枚服よ。ただ、おそろしくし丈が短いだけのね」

 

 杏仙の笑い声が部屋に響く。

 つまり、沙那に露出の高い破廉恥な服を着て外に出ろということなのだ。

 屈服がどうのこうのと言っていたから、沙那の嫌がることを強要して、沙那の気力が萎えるのを待つつもりなのかもしれない。

 沙那の中に恥辱の怒りがふつふつと湧く。

 

「こんな短い丈の下袍なんて履けるわけないでしょう──。馬鹿だと思われるわ」

 

 沙那は思わず口にした。

 

「馬鹿だと思われるなら、思われればいいでしょう。あなたの綺麗な肢をたっぷりと城郭の男たちに見物してもらいなさい。もっとも、そんな破廉恥な服を着ても不自然ではないようにしておいたから、少なくとも馬鹿だとは思われないわね。そんな破廉恥な格好に相応しい蔑みの対象には思わるかもしれなけど……。さあ、それよりも、早く着替えて出てきなさい。外で待っているわ。制限時間は、心の準備を含めて四半刻(約十五分)よ」

 

 そして、杏仙の姿がいきなり消滅した。

 沙那はしばらく呆然としていた。

 

 だが、やがて、ここは命令に従うしかないと思い定めた。

 これは屈服とは違う。

 宝玄仙たちと合流するための我慢だ。

 自分に言い聞かせる。

 それにしても、破廉恥な服を着ても不自然でない処置とはなんだろう?

 だが、それはいま着ている服を脱いで下着姿になったときにすぐにわかった。

 

 沙那の両方の太腿の前側には、いつの間にか、しっかりと奴隷の印が刻まれていた。

 奴隷の印は通常は焼印だが、これは道術で刻んだように思える。

 だが、見た目は同じだ。奴隷の印は、常に見せながら歩かなければならない。

 それがこの祭賽国の掟だ。

 太腿に奴隷の印を刻まれているなら、沙那が見たこともないような裾丈の短い服を着て脚を露出していても、確かにまったく不自然はない。 

 実際、沙那も、あの北安で下腹部や胸に焼印を施された女奴隷が、素裸同然で往来しているのを数回見たことがある。

 

 沙那は胸当ても取り、指示の通りに、準備されていた服を着た。

 与えられた服の布地は高級そうだが随分と薄地のものだ。

 そのため、胸は沙那の丸い乳房がくっきりと浮かびあがり、桃色の乳首まで透けて見えていた。

 そして、上ふたつのぼたんがないために、乳房の裾野が大きく露出してしまっている。

 

 そして、やはり圧巻は杏仙が下袍だと称した服の裾部分だ。

 確かに上衣の裾というかたちではない。

 一応は、女物の上下一枚服の下袍のかたちをしている。

 ただ、下袍とは名ばかりの布の短さだ。

 その服の丈では、沙那の脚のほとんどが露わになり、かろうじて、ぎりぎり下着を身に着けた股間を隠してくれるだけだ。

 しかも、下着を隠すのは真っ直ぐに立っているときだけで、屈んだり座ったりすれば、たちまちに股間が露出するだろう。

 

 自分で見ても、なんとも扇情的な姿だ。

 こんなものを着て、外に出るなど、とても無理──。

 沙那は思ったが、いまは命令に逆らうことができない。

 ほかにこの状況を打開する手段を思いつかない。

 

 意を決して外に出る。

 扉の外は、すぐに外だ。

 どうやら商家街の大通りに面している一軒屋だったようだ。通りには多くの男女が買い物をするために集まってきていた。

 沙那が出ていくと、一斉に注目が集まった気がする。

 

 沙那も思わず、自分が羞恥で赤くなるのを感じた。

 この祭賽国では不自然ではないのかもしれないが、故郷の東方帝国では、膝から上の丈の下袍などあり得ない。

 それがいまは、股間の付け根までしか隠れていないスカートなのだ。

 眼が眩むような注目を浴びて、沙那は思わずすくみあがった。

 

 だが、どこにも杏仙の姿は見えない。仕方なく、沙那はそこに立っていた。しばらく立っていると、通りすぎる男たちの卑猥な視線や、女たちの侮蔑の視線を感じる。

 沙那は足のすくむ思いで、杏仙の姿を探した。

 

 しかし、どこにもいない。

 外に出ろと言われただけで、どこに向かっていいのかもわからない沙那は、途方に暮れてしまった。

 

 その瞬間、たったいま出てきた家の扉の鍵が内側からがちゃりと閉まった。

 

「あっ──。わ、わたしはここよ。どこに向かえば──?」

 

 沙那は慌てて、扉に飛びついた。

 しかし、すでに鍵は閉まっていて、沙那の問いかけに応じる声もない。

 だが、この扉以外には出入り口はなかった。

 窓からでも入ったのだろうか?

 しかし、あの窓は人が通り抜けられるような大きさではない。

 沙那は、反対側に回ろうかどうしようか迷った。

 その時、ふたりの男が近づいてきた。

 

「おい、奴隷、主人はどうした?」

 

 職人風の若い男ふたりだ。

 朝だというのに酒の匂いがする。

 沙那は面倒なことになったと、内心で鼻白んだ。

 ふたりは、じろじろと沙那の開いた胸や布の下に伸びる均整のとれた脚に無遠慮な視線をやっている。

 それにしても、杏仙は本当にどこだろう?

 

「ここで待つようにご主人様に言われています」

 

 仕方なくそう言った。

 

「本当か? 逃亡奴隷ではないだろうな。奴隷女がひとりで出歩くなどとはおかしいな」

 

「もうすぐ来ます」

 

 沙那は毅然と言った。

 その沙那の口調に、眼の前の男はむっとした表情になる。

 

「やはり怪しいぞ。本当に逃亡奴隷ではないのか? 調べてみるか」

 

 男の手が沙那の短い下袍の裾に伸びた。沙那はびっくりした。

 

「な、なにするの──」

 

 思わず、沙那はその手をびしりと手刀で打つ。

 

「いたっ──」

 

 男がその場でうずくまる。

 

「おっ、奴隷のくせに逆らうのか?」

 

 もうひとりが身構えて声をあげた。

 周りの人間たちが騒然としはじめる。

 沙那もこの状況に蒼くなる。

 奴隷の身分の者が、普通の人間に手をあげるのは御法度だ。

 通常であれば咎められるのは主人の側だが、本当の奴隷ではない沙那には主人はいない。

 主人が出て来なければ、逃亡奴隷として見せしめのために処刑される。

 それがこの国の法だ。

 

「あ、あんたたちの奴隷じゃないわ」

 

 沙那はそう言い返したものの、だんだんと集まってきた人だかりに、どうしていいかわからなくなった。

 

「誰か役人を呼んでくれ──。逃亡奴隷だ」

 

 手刀でうずくまっていた男が立ちあがって叫んだ。

 周りがさらに騒然となる。

 

「ま、待って──。違います」

 

 沙那は周りの人間に叫んだ。

 しかし、まるで同情のない周囲の雰囲気に愕然となる。

 もとはといえば、沙那の身体の勝手に触ろうとしたこの男たちが悪いはずだ。

 だが、周囲の人間の顔には、明らかに沙那に悪意のある蔑みが浮かんでいる。

 沙那は、改めて、この国の女奴隷の理不尽な立場というのを思い知った。

 

 どっちにしても、このままではまずい。

 役人がやって来て連行されれば、本当に処刑されてしまう。

 

 この場は逃げるか……?

 

 しかし、沙那が逃げ場を探してそこに視線を移すと、さっと人の波が逃げ場を塞ぐ。

 すっかりと人の波に包囲された。

 

 逃亡奴隷だ──。

 その声が次第に大きくなる。

 

 蹴散らしてでも逃亡しようか……?

 沙那の頭にその考えがよぎる。

 しかし、その場合、さらに騒ぎが大きくなり、城郭中に沙那への追手がかかるかもしれない。

 手配されれば、一度は逃げられたとしても、城門や街辻に手配書を貼られて、城郭を捜索されるだろう。

 ここがどこかもわからないのに、逃亡できるとは思えない。

 そして、捕えられれば、ほとんど裁判もなしに処刑される。

 

「すまん、そいつは、俺の奴隷だ」

 

 人だかりの背後から赤ら顔の大きな男が人を割ってやってきた。

 沙那には、当然その男には面識はない。沙那は訝しんだ。

 

「お前の奴隷?」

 

 沙那に手を打たれた男が、不審な表情でその男を睨んだ。

 

「そうだ。俺は楓人(ふうと)というものだ。まだ、躾の終わっていない奴隷だったのだ。すまんな」

 

 楓人はまとまった額の紙幣を男に差し出した。

 不満げな顔をしていた男が急に破顔した。

 

「おう、これは……。こんなに……。すまねえなあ」

 

 手刀を打たれた男は納得したように受け取った紙幣を懐に入れた。

 沙那はほっとした。

 この男が誰だかわからないが、最悪の状況からは免れたようだ。

 

「どけ、どけ──。道を開けろ」

 

 声がした。

 沙那はさっと頭から血が引いた気がした。

 役人だ──。

 城郭を見回る小役人のようだが、たまたま近くにいて、騒ぎに気がついてやって来たのだろう。

 

「逃亡奴隷と訊いたが……。おう、お前か?」

 

 人を割ってやってきた役人が沙那を見て、目ざとく叫んだ。

 沙那は、その役人の眼が好色に光ったことに気がついた。

 

「逃亡奴隷ではありません。俺の奴隷です。少し、眼を離した隙に、この奴隷がこのお方に粗相をしたようです。しかし、いま謝罪を受け入れてもらったところです」

 

 楓人が言った。

 役人が視線を送ると、さっきの男が頷く。

 

「しかし……」

 

 役人は渋い表情をした。

 

「まあ、奴隷にはしっかりと俺から躾をします。ここのところは穏便に……」

 

 楓人はそう言いながら、さっと役人の手になにかを渡した。

 賄賂だということは沙那にはすぐにわかった。

 役人がちらりと手の中のものを見て表情を変えた。

 それなりの額だったのだろう。

 

「わかった。今日のところは、お互いに納得済みならなかったことにする。しかし、奴隷が、人間に粗相をするようでは困るな」

 

 役人は言った。

 

「わかっております……。沙那、手を後ろに回せ」

 

 突然、楓人が沙那を振り返り言った。

 

「えっ?」

 

「いいから言われた通りにしろ。本当に、お前は躾けの悪い奴隷だ」

 

 大きな声で楓人は言った。

 そして、口を沙那の耳元に寄せた。

 

「……役人に捕まりたくなかったら命令に従うんだな、沙那。俺は、杏仙の仲間だ」

 

 楓人がささやいた。

 杏仙もどこからか見ているのだろうか。

 見回すが、やはり杏仙の姿はない。

 だが、彼女の仲間だという以上は、逆らうわけにはいかない。

 仕方なく両手を背中に回す。

 

 楓人は、あらかじめ準備をしていたらしい細紐で、沙那の親指の付け根を縛りあげた。

 

「くっ」

 

 沙那は反射的に指を離そうとしてしまい、根元に紐が喰い込んだいや指に痛みを感じて思わず声を出した。

 拘束された親指は背中側でまったく離れなくなった。

 こんな格好で、しかも後ろ手に拘束されてしまい、自分の顔が強張るのがわかった。

 

「もう、俺から離れるな。今度こそ、逃亡奴隷として捕えられぞ、沙那」

 

 楓人が大きな声で沙那を叱った。

 それが合図であるかのように、集まった人間が散り出した。

 役人も人だかりを追い払いながら去り、周囲からやっと人がいなくなる。

 

「こ、こんなことをしてどうするの? 杏仙は?」

 

 沙那は言った。

 

「さっき、言った通りだ。役人に捕らわれたくなければ、俺について来い。『移動術』の入口に案内する──。それとこれは、騒ぎを起こした罰だ」

 

 楓人は、上ふたつがない服の合わせ目のぼたんをさらに外し始める。

 

「あっ──。こ、困るわ」

 

 沙那は身体を捻って避けようとしたが、両手を使えないので防ぎようがない。

 下側まで外された服は、真ん中がぱっくりと開き、乳房の裾どころか、臍まではっきりと覗いている。

 

「なかなかにいい形の乳房だ。この城郭の男たちにじっくりと見せてやれよ」

 

 楓人はさらに、上衣を開いて両側にくつろげる。

 上衣は沙那の乳首に引っかかって止まっているだけになった。

 

「や、やめて──」

 

 沙那は小声で訴えた。

 

「これはなかなかにおいしそうな胸だ」

 

 楓人は言いながら、無遠慮に沙那の乳房を揉んでくる。

 

「い、いやっ」

 

 一応は、沙那の身体は人混みに対して、楓人の大きな身体で隠れている。

 しかし、こんな城郭の真ん中で胸を剝き出しにされて、揉みしだかれる恥辱と緊張は尋常ではない。

 さっきの騒ぎの後だ。

 周囲の人間には、この沙那の痴態に気がついている者も多くいるだろう。

 

「こ、ここではやめて──。お、お願い」

 

 沙那は思わず言った。

 

「なら、やめるか……。ついて来い」

 

 意外にもあっさりと楓人は沙那の身体から離れた。

 そして、すたすたと歩き始める。

 

「ま、待って」

 

 後ろ手の拘束のまま、沙那は慌てて楓人を追う。

 

「騒ぐな、沙那。みんながこっちを見ているぞ。女奴隷とはいえ、そんなに気量のいい女の痴態だ。滅多にない見世物でたくさんの男の視線がお前に向いているようだ」

 

 楓人は大股でどんどん進んでいく。

 沙那は一生懸命に歩くしかない。

 しかし、短すぎる裾からは、沙那が大股で進むたびに、はっきりと下着を露出してしまう。

 沙那は泣きそうになった。

 

「せめて、胸を……。胸だけでも戻して」

 

 沙那は懇願した。

 

「なんでだ。露出狂のお前にはお似合いだと思うが?」

 

 楓人がそう言って、嘲笑いの声をあげた。

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