神殿の地下は、それが窓のない部屋だとは思えないような陽光の溢れる場所になっていた。
広い部屋の四周の壁には、道術により産みだされた緑豊かな田園の映像が投射されているし、心地よい風と気持ちのよい草の香りさえも、どこからか流れてくる。
その風と香りに混ざった美しい音楽の調べが、客たちの気分を盛りあげる効果を作ってもいる。
その道術で産みだされた素晴らしい部屋の卓には、食欲をかきたてる匂いをさせているたくさんの食事と飲み物が並んでいるようだ。
部屋にいた三十人ほどの客たちは、思い思いで食事や飲み物を愉しんだり、会話に興じたりしている。
手足を頭側にして仰向けに拘束された宝玄仙は、車輪付きの台に載せられてねり動かされ、その宴の隅々まで無理矢理に見せられている。
台を押すのは漢離仙と呂洞仙だ。
客の視線が性器を上にして「まんぐり返し」にされている全裸の宝玄仙に注がれる。
漢離仙の催淫剤でただれるように充血をしている女性器に対する視線を遮る術もなく、宝玄仙はもしも許されるのであれば、この瞬間に舌を噛んで自殺をしたい気分だった。
だが、死ねば、こんなことを宝玄仙にさせている闘勝仙たちに復讐ができない。
宝玄仙は血も凍るような恥辱に歯を食い縛って耐えた。
宝玄仙は台に載ったまま、部屋の中をぐるぐると動かされた。
客たちの嘲笑と揶揄が宝玄仙に浴びせられる。
宝玄仙にとって耐えられないのは、媚薬の影響でいまだに愛液を垂れ流している女陰をこれ見よがしに笑われることだ。
しかも、上を向いた女陰の粘膜には数輪の花を挿されて、宝玄仙の裸身が花瓶のようにされている。
こんな恥辱は想像もしたことがない。
「これは、なかなか見事な花瓶ですなあ、闘勝仙殿。いつもながら、趣味がいい。さっきまでの法会で主催を演じた美女八仙をこんな肉の花瓶にできるのは、帝都広しと言えども闘勝仙殿だけでしょうなあ」
すでに主賓席に座っている闘勝仙に近づいて追従の言葉を述べる客の声が聞こえる。
「これこれ、名を出してはいかん約束だろう。宝玄仙のような八仙の立場にいる女が、こんな破廉恥な恰好で人前に出るなどということはありえんでしょう」
「そうでしたな。これなる肉花瓶は、宝玄仙に瓜二つの女奴隷──。そういうことでしたな」
ひと際、大きな声で発っせられたその男の言葉に、会場の客が一斉に笑った。
宝玄仙は、そんな客たちの揶揄を石にでもなったつもりになって耐えていた。
しかし、どんなに平静を装っても感情だけはどうしようもない。
宝玄仙は、自分の眼からひとつ、ふたつと悔し涙が落ちるのがわかった。
「おやおや、泣きだしたようですよ、この女奴隷は」
「下の口は、もっと早く泣いていたようですけどね」
「しかし、この肉花瓶は少し堪え性がないようですなあ。ぶるぶると震えて花が揺れている」
「それも風情でしょう。花瓶の花が風で揺れていると思えばいい」
「風ではなく、宝玄仙の悶えでしょう……。おっと、違った。宝玄仙にそっくりな女奴隷の悶えだ」
口々にはやし立てられる。
宝玄仙を載せた台が部屋の前側に設けられた場所に固定されると、すべての客たちが集まって、その宝玄仙を取り囲んだ。
宝玄仙は晒し者になっていることに耐えられずに、花を咥えている股間を少しでも隠そうと右に左に身を捩るのだが、どうすることもできない。
本当はこうやってじっとしていられないくらいに、催淫剤によって股間を責められているのだ。
大勢の人間にしっかりと見られながら、大量の淫液がどろりどろりと流れ落ちているのがわかるし、宝玄仙の股間の下の台からは、宝玄仙から流れる大量の汗と愛液が混じり合う不快な匂いも漂い始めている。
「さて、宝玄仙……いや、その偽者──。いつまでも黙っていないで、挨拶をしろ。大勢のお客様が、お前の汚らしい欲情の姿を見てくれるんだ」
頭側にいる漢離仙が言った。
宝玄仙は顔を横に向けたまま黙っていた。
挨拶など死んでも嫌だ。冗談じゃない。なぶるなら勝手になぶればいい。
だけど、人形のように大人しくしてやる。
そうすれば、愉しめなくなってつまらないのであろう。
「口を開きたくないようだな──」
呂洞仙の声だ。
どうやら、呂洞仙は宝玄仙の横に立っているようだ。
その呂洞仙らしき手が宝玄仙の乳房を揉み始め、指で乳首をこりこりと掻きだした。
「ひゃああ──ああ、あああっ……」
襲ってきた快感に思わず声をあげてしまった。
周囲の人間がどっと沸く。
「あらっ、本当に淫乱な雌犬のようですね。でも、綺麗な声。もっと、泣き声を聞きたいわ」
どこからか女の声がした。
今日はどこか貴族夫人も混じっているようだ。
この声は初めての声だから、また、新しく闘勝仙が連れてきた招待者だろう。八仙である宝玄仙が恥辱の奴隷であることを知っている者がまた増えた。
宝玄仙の血が凍る。
「じゃあ、どうしても声をあげざるを得ないようにしてやろう。さて、宝玄仙、口を開けろ」
漢離仙が小さな容器を宝玄仙の口にかざした。
ぎょっとした。なにか得体の知れない魔薬に違いない。
宝玄仙はぐっと口をつぐむ。
「宝玄仙、口を開けろ──。許可をするまで口を閉じるな」
闘勝仙の言葉とともに、道術が浴びせられた。
宝玄仙の口は大きく開いて閉じなくなった。
その宝玄仙の口の中に、漢離仙の持った容器の中の液体が注がれる。
吐き出そうとしたが、両側から顔を押さえられて固定される。
そして、口に溜まったその液体を鼻をつまむことで、息と一緒に飲ませられる。
宝玄仙は咳込みながら、口の中に入れられたその魔薬を全部飲んでしまった。
「あ……あが……ああ──」
しかし、闘勝仙が宝玄仙の口を開かせている道術を解いてくれない。
開かれた口から涎が垂れ流れる。それは顎を伝って首に滴っていく。
そして、さっき飲まされた液体がなんの魔薬なのか、すぐにわかった。
宝玄仙に猛烈な尿意が襲いかかって来たのだ。
「はがっ、はがぁ」
宝玄仙は身体を揺らして訴えた。
仙薬作りの天才である漢離仙の魔薬だ──。
その効果はあっという間だ。強烈な利尿剤であったらしいさっきの液体の効果が宝玄仙に襲いかかる。
おしっこが……。
漏れる──。
宝玄仙は股間に力を入れた。
少しでも緊張を解けば、膀胱から尿が噴き出しそうだ。
「口を閉じていい、宝玄仙」
闘勝仙の声だ。
宝玄仙の口が自由を取り戻す。
「ああぁ……。お、お願い──。も、もう赦してよ……。わ、わたしを──」
宝玄仙は股間の筋肉を集中しながら訴えた。
もう、漏れる……。
しかし、こんな格好で小便などすれば、噴水のように噴きあがり、宝玄仙の全身はもちろん、周囲に尿を撒き散らすであろう。
「おお、やっと口を利くになったか」
呂洞仙が女陰に刺さっていた花を無造作に引っこ抜いた。
その小さな刺激だけで、いまの宝玄仙には恐ろしい責めだ。
宝玄仙はかろうじて、尿が噴出するのを耐えた。
「顔が青ざめて来たな、宝玄仙……いや、奴隷──。ええい、面倒だ。もう、宝玄仙でいい。それよりも、なにが苦しいのか、ちゃんと説明しろ。そうすれば、便器にさせてやる。ただし、お客様に挨拶をしてからだぞ」
漢離仙が言った。
「い、嫌だよ──。こ、これ以上の辱めには耐えられない──」
宝玄仙は悲痛な声で訴えた。
「だったら、いつまでもそうやって腰を振っているんだな。もしも、みっともなくそのまま小便を洩らしたら、次の薬は下痢剤だ。肛門から、今度は下痢便が噴きあがるぞ」
宝玄仙はぞっとした。
漢離仙は本当にやるだろう。
こういう宴における大勢の客の前で大便をさせられるのも、もう何度も経験した。
しかし、だからといって耐えられるものじゃない。
しかも、この格好で大便をすれば、今度は宝玄仙の全身は大便まみれになる。
「ほ、宝玄仙です。み、みなさん、よろしくお願いします──」
宝玄仙は血を吐くような思いで、挨拶の言葉を口にした。
「歳は?」
漢離仙だ。
「さ、四十…………。お、お願い──もう……」
「最初の自慰は何歳だ」
「そ、そんな……」
「言わんか。便器でさせてやらんぞ」
「多分……六……七歳か……」
周りの客が湧いた。
「随分早いなあ。いや、いくら淫乱なお前でも早すぎるだろう。誰に教わったのだ?」
「母親……。ねえ、もう、限界だよ」
宝玄仙は悲鳴をあげた。
「最初の性行為は何歳だ?」
「十……八」
「自慰が怖ろしく早い割には、今度は遅いな。相手は?」
「よ、妖魔遣い……。旅で出逢った……」
もうなにも考えられない。
まるで操られているかのように訊ねられたことを口にしている自分に気がついていた。
とにかく、おしっこが漏れそうなのだ。
我慢できない。
「で、出る──。お、おしっこが出るよ──。で、出る──。ひきぃぃぃ──」
もう少しも我慢できない。
宝玄仙は全身を震わせて呻いた。
「わかった、わかった──。呂洞仙」
漢離仙が呂洞仙の名を呼んだ。
呂洞仙がどこかに立ち去っていく気配がした。
「それよりも、厠に……」
挨拶したらおしっこをさせてもらえるという約束なのだ。
だから、恥辱に耐えて、なんでも喋ったのだ。
「誰が厠に連れていくと言った。便器にさせてやると言っただけだ」
漢離仙が嘲笑った。
「そ、そんな、約束が……」
「お前が勝手に勘違いをしたのだろう」
宝玄仙は悲痛な声をあげた。もう苦しい──。
股間が破裂しそうだ。
限界──。
宝玄仙の意識が遠のく──。
会場がさらに湧いた。
その理由は、天井を向いて拘束されている宝玄仙にはわからない。
しかし、すぐにわかった。
会場にもうひとりの裸の女が連れてこられたのだ。
両手を背中側で革手錠によって拘束されていて、顔の鼻から上を覆う革の覆面で隠されていた。
眼が覆われているので、視界がないのだろう。
怯える足遣いで呂洞仙によって首輪に繋がった鎖を曳かれてやってくるのが、かろうじて視界に入った。
その顔半分を隠されている女──。
若い女だった……。
彼女を見て、宝玄仙はその裸身に見覚えがあることに気がついた。
そして、それが誰であるかわかって愕然とした。
信じられない……。
まさか──?
だが、おそらく間違いがない。
哀れな第二の生贄としてこの会場に連れてこられた若い女──。
それがまさか……。
「宝玄仙、これが便器だ。おい、ごみ女──。宝玄仙の小便を飲め。こぼすんじゃないぞ」
ごみ女と呼ばれた女が、宝玄仙の載せられている台の横に連れて来られて、上を向いている宝玄仙の性器に向かって顔を押された。
しかし、目隠しをされているのでどこが宝玄仙の顔がわからないのだ。
困ったように身体を屈ませて、顔をうろうろとさせている。
「ほら、宝玄仙、便器を誘導しろ。小便がしたければな。間に合わなければ下痢剤だぞ」
漢離仙が怒鳴った。
「もう、少し下……。いえ、右──。そのまま──」
宝玄仙は恥辱に気を失いそうになりながらも、その女の口を宝玄仙の股間に近づけるように誘導する。
それにしても……。
やっぱり、そうだ。
その顔半分の女が間近になったことで、宝玄仙は自分の想像が正しいことを悟った。
なぜ、ここに鳴智が……。
宝玄仙は混乱した。
鳴智はいま頃は屋敷にいて、宝玄仙が戻ってくるのを待ち構えているはずだ。
かつて宝玄仙の奴隷だった鳴智は、この一年、残酷な女主人として、宝玄仙を屋敷でさまざまに責めたてていた。
その鳴智が、なぜ、ここに宝玄仙と同じように闘勝仙たちの生贄として晒し者のひとりにされているのか……。
「ほら、ここだ」
鳴智らしき女の頭がどんと宝玄仙の股間に向かって押された。
性器に鳴智の口が押し当てられた刺激で、ついに、宝玄仙の股間の堰が崩壊した。
「ああっ……あふううぅぅぅぅ──」
唇から漏れたのは悲鳴ではなく、安堵の声だ。
宝玄仙の股間から尿が弾け噴き出した。
小水が、その女の口に飛びかかっている。
女は懸命に口を開いて、それを受けとめようとしているが、あまりにも勢いが強いらしく、かなりの量を取りこぼしている。
しかし、宝玄仙も一度出し始めた尿を止めることも、抑えることもできずに流れるままにした。
やっと宝玄仙の膀胱の苦しさがなくなり、水流が衰えると、女の口が大きく宝玄仙の股間全体に拡がって、舌が掃除をするように、宝玄仙の股間を舐め回った。
宝玄仙は熟れきった女陰が舌で刺激される気持ちよさに、大きな嬌声をあげた。
周囲の人間が一斉に笑い声をあげる。
宝玄仙は込みあげる恥ずかしさに全身が赤くなるのを感じた。
それでも鳴智らしき女は、まるで宝玄仙に奉仕をするかのように、一心に宝玄仙の大量の愛液と尿で汚れているはずの股間を丁寧に舌で舐め続ける。
しかし、これはどういうことだろう──。
残酷な女主人のはずの鳴智がどうして……。
「それにしても、凄いわねえ。みんなの前でこんなに汚らしい小便を垂れ流して……。よくも恥ずかしくないわねえ。それも人の口の中に排泄するなんてねえ。あたしだったら、こんなことをさせられたら恥ずかしくて死んでしまうわ。本当に八仙の宝玄仙なの?」
どこからか不潔気回りないというような女の言葉が聞こえる。
意地の悪いその声に宝玄仙は、じっと唇を噛む。
だが、それを妨害するように女の舌が宝玄仙の股間を這う。
「い、いや……。もう、やめ……ひいっ──」
耐えようとしてもどうしても声が出る。
「いや、実は、宝玄仙はこういうことが好きなのだ。その証拠に、この宝玄仙は最初から、女陰に淫液を滴らせていたであろう」
「なるほどねえ……。実は、汚らしい雌豚だったということね」
闘勝仙の言葉に、その客が納得するように口調で応じた。
冗談ではない。
宝玄仙の女陰が濡れていたのは、長い時間催淫剤に苛まれ、しかも、法会の最中に張形で責められて何度も昇天させられたからだ。
それからしばらく、鳴智──そう思われる女──は、宝玄仙の股間を舌で舐め続けた。
そのため、いつまで経っても、宝玄仙の股間は淫液を止めることができず、またそれを女の舌が這うという繰り返しで、際限のない快楽地獄を宝玄仙は味わわされた。
宝玄仙と女を囲む男女の蔑みと嘲笑の言葉は、間断なく振りかかるが、だんだんとそれも気にならなくなる。
舌による快感は、この屈辱を次第に至福の時間に変えていく。
恥辱が恍惚感に覆われ、苦しみがなくなっていく。
官能の酔いが憎悪と怒りの感情を消していく。
「も、もっと……」
思わず声を出した。
いきそうなのだ。
周囲が笑った気がするが、もういい。
それよりも、このまま達したい──。
女の舌がすっと宝玄仙の肛門に移動した。
やっぱり、鳴智だ。
宝玄仙の身体を知り尽くしている女に間違いない。
舌が肛門に向かい、しかも、一番気持ちがいい場所を刺激した。
「くひいいっ──。いく、いくわあぁぁ──」
宝玄仙は大きな声をあげ、全身を貫く官能の矢のままに快感を迸らせた。
全身を震わせながら宝玄仙は劣情の声をあげた。
鳴智の舌が、たったいま達した宝玄仙の女陰を掃除する。
また、快感がこみあがる──。
「さて、このふたりになにをさせようか。なにか要望はあるかな、皆さん?」
闘勝仙の大きな声が響く。
鳴智の顔がぐいと誰かに引っぱられて、除けられる。
「すっかりと催淫剤が舐めとられたな、宝玄仙。だから、塗り直してやろう」
漢離仙が耳元で言った。
そして、なにかの瓶から新たな油液を流し落とされたのがわかった。
焼けるような熱さが股間から込みあがる──。
「どんなことができるのだ、この奴隷たちは?」
これも見知らぬ男の声だ──。
闘勝仙は、八仙である宝玄仙を奴隷のように苛んでいるという事実を隠すつもりはないのだろう。
改めて、肚が煮えくり返る。
「おう、なんでもできるぞ。この前は卓に乳首を釘で打ちつけて、全身が血だらけになるまで、全員で棒に刺した釘で引っ掻くということもやった。この女は『治療術』の遣い手だからな。そういうことをしても、すぐに回復させることができるのだ」
闘勝仙が得意そうに言った。
「巨大な張形でわざと肛門と女陰を裂けさせるように突っ込み続けるということもいいなあ。『治療術』を遣えるから、回復させてはまた壊すということをしてもいい」
漢離仙だ。
「じゃあ、乳首を切断したり、手足を切断するのは?」
誰かが言った。
「それはやったことはないが、やってもいい。おそらく、大丈夫ではないか?」
漢離仙が続けた。
そんな恐ろしい言葉に対して、宝玄仙はもう感情が潰されたようになってしまって反応することができない。
「その前に食事にするか。宝玄仙の拘束を解いて、もうひとりの女と一緒に床に座らせろ」
闘勝仙が言った。
宝玄仙の拘束が一度解かれて、鳴智と同じように後ろ手に拘束され直して、並んで床に座らせられる。
「ねえ……」
宝玄仙は、隣にしゃがんでいる鳴智に声をかけた。
間違いないと思うが、これはどういうことだろう?
しかし、鳴智は黙って横を向いた。
考えてみれば、この鳴智は、口がきけないかのようにさっきからひと声も発しない。
だが、闘勝仙のやっていることにふと視線がいって、宝玄仙は愕然とした。
闘勝仙は食べ物を咀嚼していた口を開いて、咀嚼途中の食物を皿に吐きだしたのだ。そして、新たに準備されたもうひとつの皿にも……。
これからなにをさせられるのかが予想がついて、宝玄仙の火照りきった全身が凍りつく。
闘勝仙がその醜悪な皿を横に回した。
次の客が同じように咀嚼の途中の食べ物を皿に上に追加する。そして、次の客も……。
やがて、嘔吐物のようなものが満載された皿が、宝玄仙と隣の女の前に出される。
「喰え──」
漢離仙が言った。
「こ、こんなもの……」
宝玄仙は震えた。
眼の前のぐちゃぐちゃの食べ物のようなものを見て呆然となる。
大勢の唾の混じった異臭がそこから漂う。
ふと鳴智を見ると、目隠しをされていても、それがなにがわかるのだろう。
悲しそうな表情を顔半分から醸しだして震えている。
「それ終われば、お代わりにはわしの小便を混ぜてやろう」
闘勝仙だ。
今日、闘勝仙の尿と漢離仙と呂洞仙の精液を貰わなければ宝玄仙はいき狂いの発作だ。
それを手に入れるのは、この皿のものを食べ尽くして、さらにもう一度食べなければならないということだ。
宝玄仙は涙が出そうになった。
「三杯目には俺の精液だ。四杯目が漢離仙の精液だな」
呂洞仙だ。
これを四杯も……。
しかし食べなければ発作──。
食べるしかないとわかっていても、身体が動かない。
でも、口にするしか……。
「宝玄仙、しっかりしなさい──。これは、あなたの記憶じゃないわ。この記憶は、わたしのものよ」
突然、頭の中に宝玉の声が鳴り響いた。
周囲から、大勢の人間の姿や宴の情景が消滅した。
身体の拘束さえもなくなっている。
真っ白ななにもない空間に、宝玄仙は巫女服を身に着けて座っていた。
一変した状況を理解できずに宝玄仙は呆然とした。
「ほう、面白い──心にもうひとりの人間が隠れていたのか。しかも、俺の悪夢を消滅させることができるとはな──」
宝玄仙の眼の前に、四十程度の白髪の混じった壮年の男が立っていた。
「お前は誰?」
その質問は宝玄仙ではない。
横の実体化した宝玉が発したものだ。
宝玉は、宝玄仙とまったく同じ服を着ている。
宝玄仙は宝玉が出現したということにも驚愕した。
これはなんだ……?
「どういうことだい、宝玉?」
宝玄仙は宝玉に視線を向けた。
「しっかりしなさい、宝玄仙。ここは、こいつの意識下よ。あなたは……いえ、わたしたちは、この妖魔の意識に囚われているのよ」
「妖魔?」
宝玄仙は眼の前の男に眼を向ける。
「よく、俺の悪夢の呪縛から抜けることができたな。お前こそ誰だ?」
男が宝玉に向かって言った。
「わたしは、宝玉──。お前は誰? さしずめ、この荊棘嶺に巣食う夢魔ね」
宝玉が叫んだ。
夢魔?
夢魔とは、夢を操って人間の女を取り込むと言われている妖魔だ。
実体はなく、本来は意識下にのみ存在すると言われている妖魔だ。
実体がないので、自然物のなにか……。なんでもない虫や植物に憑依するとされる。
そして、夢魔は、悪夢を使って人間の女を虜にして、その子宮に自分の子供を宿させて産ませるのだ。
しかし、宝玄仙も直接に面するのは初めてだ。
「俺の名は、十八公──。確かに夢魔だ。お前たちには、俺の精を受けてもらうぞ」
「そんなことするわけがないでしょう──」
まだ口がきけないくらいに驚いている宝玄仙に代わって宝玉が叫んだ。
「お前になにができると思うか───。夢の中である限り、俺は無敵だ」
十八公が罵りの声をあげた。
次の瞬間、宝玄仙と宝玉の身体から衣服が消滅した。
「あひっ」
宝玉が感極まったような欲情した声をあげて、宝玄仙に助けを求めるようにしだれかかった。