やっと峠に辿り着いた頃には、陽は西に傾きかけていた。
沙那とふたりで、朝からたっぷりと朱姫の懲らしめのために時間を費やした。
お陰で、連日にわたって朱姫から苛められていた孫空女の溜飲はさがったが、行程はほとんど進んでいない。
峠まで行けば、麓の
しかも、目的とするのは城郭ではなく、そこからさらに進んで漁民の部落がある海岸地域だ。
その漁民の部落を仕切る
夜になってしまえば、李春という女のいる屋敷を探し当てるのは難しいかもしれない。
まあ、とりあえず、近くまで辿り着けばなんとかなるだろう。
場合によっては、李春という女性を訪ねるのが明日になるだけのことだ。
「とにかく、お腹が空いたよ。その居酒屋でなにかを食べようじゃないか、お前たち」
宝玄仙が言った。
峠には、山越えの旅人をあてこんだと思われる食事ができる一軒の店があった。
後ろに断崖を背負い、店の入口を隠すように両側に二本の大きな樹が立っている。
屋根は藁ぶきで、入り口には“酒屋”であることを示す小さな旗が出ている。
沙那が頷き、四人で中に入った。
中は卓が三個ほどの小さな店だ。
店の中には誰もいなかった。
「誰かいませんか?」
適当な卓を囲んで座ってから、沙那が店の奥に向かって叫んだ。
すると奥からひとりの男が顔を出した。
ぼろぼろの服を着た髪の毛が乱れ放題のみすぼらしい老人だ。
だが、老人といっても、怖ろしく背丈がある。
並みの男と比べて背の高い方である孫空女より、頭ひとつ大きい。
身体の前の前掛けが随分と小さなものに思える。
「どれ?」
老人は値踏みをするように少しの間、こっちの四人を眺めた。
「あんたらだけかい?」
老人は言った。
「そうです。食事がしたいのですが……」
沙那が応じる。
「どっちから来たんじゃ?」
「北からです。山越えで掲陽鎮に向かうところです」
「ほかに連れは? 女四人で山越えで来たのか?」
老人の声がなにかの感情がこもったように大きくなった。
「だったら、なんだっていうんだい?」
宝玄仙がむっとしたように応じた。
この祭賽国は女の地位が低く、女だけの客は軽んじられるか、断れられることが多い。それを避けるために、孫空女は、このところ男の格好をしていた。
つまり、髪を頭巾で隠して、胸の膨らみを布で締めつけ、付け髭をするという格好だ。
しかし、二日前に宿屋を出立するときから、もう宿屋に泊ることはないだろうということで、女の格好に戻していた。
宿屋に警告者がやってきて、手配書が回っているから、宿屋に泊ることも、城郭に入ることも避けろと忠告して立ち去ったのだ。
だから、昨日は宿屋を避けて、街道の途中で野宿をした。
宝玄仙が不満そうな声をあげたのは、この
「いいや、驚いただけじゃ。このところ、物騒だしね──。女連れの旅なんざ、奴隷狩りに捕まえてくれって言っているようなものじゃ。それに、あんたらは化粧もしていない様子なのに、大変な別嬪さん揃いだ。よくも、奴隷狩りに遭わなかったのう」
「この街道には強盗が多いのかい?」
宝玄仙が言った。
「多いのう。隙のある旅人はすぐに襲われる。女は犯されたうえに、奴隷に売られる。器量がよかろうと悪かろうと、奴隷にして売ればある程度の金になるしのう。ましてや、あんたらは高く売れそうじゃよ」
老人が気味の悪い笑い声をあげた。
「強盗だって? そんなものには遭わなかったよ。昨夜なんか、野宿までしたんだけどね」
「野宿? この山街道でかい? そりゃあ、驚いたものじゃ。まあ、たまたま悪党どももあんたらを見つけられなかっただけじゃろうか」
「そんなに物騒なんですか?」
沙那が口を挟む。
「まあな。いずれにしても、本当に安全に旅をしたい者は、金がかかっても、この街道を避けて水路で行くものじゃ。当局がちゃんと仕事をしてくれりゃあ、この街道だって、少しはましになるのじゃろうが、掲陽鎮には城郭軍はあってないようなものだしのう。腑抜けの集まりさ、あそこの軍は」
「腑抜け?」
「ああ。城郭の治安ひとつだって、自分たちでやらずに、侠客たちにやらせて、自分らは甘い汁を吸うだけじゃ。城郭とその周りは、そりゃあ、それぞれの侠客の一家がしっかりと縄張りを守っているから、治安もしっかりしておるが、その反動もあってか、街道側はあぶれた悪党どもでやりたい放題じゃ」
「つまり、軍ではなく、侠客が蔓延っていると?」
「城郭の近辺はな。しかし、こんな山の中は逆に危険ということだ。街道が危険となれば陸路の旅人は少なくなる。すると、こんな峠の食堂なんか商売にはならないというわけじゃ。まったく軍がだらしなからのう……」
老人はぶつぶつと不平を並べ始める。
そう言われてみると、街道を進む旅人は少なかった気がする。だから、歩きながら朱姫をいたぶるなんてこともやったのだ。
考えてみると朝からすれ違ったり、追い越されたりした旅の一行は数えられるほどしかいなかった。
ちゃんとした街道にしては、確かに、極端に人通りが少ない。
「いいから食事だよ。なにがあるんだい?」
宝玄仙が老人の言葉を遮って叫んだ。
「食べ物は牛肉を煮たものしかないのう。酒なら何種類かある」
老人が言った。
「じゃあ、その肉を煮たものを四人分。お酒は入りません。その代わり、水をください」
「水はただでいい。この辺は山水が豊富でのう。それと悪く思わんで欲しいんじゃが、ここは前払いが決まりじゃ」
「わかりました。朱姫──」
沙那が朱姫に視線を向ける。
朱姫はこの一行の路銀を管理している。
さっきまでは、股間に張形を埋め込ませていたぶっていたから、手ぶらにさせていたが、数刻休んで落ち着かせてからは、いつものように荷を持たせている。
朱姫はたすきにかけている雑嚢から路銀が入っている袋を取り出した。
孫空女は、朱姫が路銀の袋を出したとき、なんとなく老人の身体に緊張が走った気がした。気のせいだろうか……。
「これでどうですか?」
朱姫が卓に置いたのは、女人国の小銀貨一枚だ。
もう何箇国もの国を回ってきている。
東方帝国のように紙幣がある国もあるが、大部分の国は、金か銀で取引きをする。
金貨や銀貨は、それぞれの国の紋章や王の肖像が刻印してあるが、金や銀としての価値は同じだから、他の国でも使えることが多い。
「これは女人国の銀貨じゃな?」
老人はそれを受け取って、材質を確かめながら言った。少し驚いているような口調だ。
「使えますか?」
朱姫が言った。
「もちろん、問題はない。だが、お釣りはないし、あんたら四人が肉を食べるだけで酒も飲まないんじゃあ、額が多すぎる。その分は、肉を包んで持たせるということでどうじゃ? 掲陽鎮に向かうなら、到着してから食べればいい」
「それでいいですよね、沙那姉さん」
朱姫が言った。
「いいわ。それではお願いします、お爺さん」
沙那が頷く。
「わしは、
七絶は銀貨を受け取ると、厨房に戻っていった。
孫空女は、沙那と朱姫とともに、七絶が示した戸棚から人数分の食器を取り出して卓の上に並べる。
しばらくすると、大皿に山盛りになった牛肉の煮物が運ばれてきた。水の入った瓶も二本一緒にだ。
水をそれぞれの杯に注ぐとともに、朱姫が四人の皿に食事を取り分けた。
まず、孫空女が少しだけ口にする。
孫空女の舌は大抵の毒を見抜く敏感さがある。
特に、味に異常は感じなかった。
次に朱姫が同じように口にする。
朱姫もまた、孫空女と同じように舌が敏感だ。
しかも、朱姫の場合は、孫空女に見抜けない仙薬についても見分けることができる。
「おかしな食べ方をするのう。毒見というわけか?」
隣の卓に座った七絶が笑って言った。
「悪く思わないでよね、七絶爺さん」
孫空女は言った。
「なら言うが、その肉には眠り薬が入っておるぞ。食わん方がいい」
七絶がからかうような口調で言った。
「冗談言うんじゃないよ。あたしは大抵の毒はわかるんだよ」
孫空女のその言葉を合図にするように、四人が眼の前の肉を食べ始める。
宿町を急に出立したので、十分な保存食を準備しておらず、この一日半、少なめの食事だった。空腹気味だったうえに、料理は美味だった。よく煮込んである牛肉は柔らかくて非常においしい。
「あんたらが襲われなかった理由がわかったよ。お前さんたちの中に遣い手がいるね。それとも、道術遣いがいるんじゃないかい?」
しばらく四人が食事をするのを見ていた七絶が言った。
「どうしてそう思うんだい?」
宝玄仙だ。
「さっきの慎重な食事の仕方じゃ。その用心深さ。何度も修羅場を潜っている証拠じゃ。……ということは、ただの四人じゃないということじゃろうな。強盗なんていうのは臆病なものだからのう。女連れであろうと、自分たちがかなわないと思えば、近寄っては来ん」
「んっ?」
孫空女は顔をあげた。
なんとなくだが、七絶の物言いに違和感を覚えた。
その七絶が続ける。
「なんせ、掲陽鎮の城郭については、
「両方いるね。そっちのふたりが遣い手で、こっち側が道術遣いさ」
すると、宝玄仙があっけらかんと言った。
「ご主人様──」
沙那が嗜める声を出した。
沙那が怒ったのは、手配中という身でありながら、なんの危機感もなく、道術遣いであることを喋ったからだろう。
しかし、宝玄仙は、なにを注意されたのか、よくわかっていない感じだ。
「ところで、わしがなんで七絶と呼ばれているか教えてやろうか?」
食事が半分ほど終わりかけたところで、不意に七絶が言った。
孫空女は振り返った。
なにかを含んだような口調が気になった。
「なんで呼ばれているかって……名前じゃないのかい?」
孫空女は応じた。
「いいや。この店に入って来た者を捕えて逃がさんからそう呼ばれておる。料理に毒を混ぜて昏睡させ、奥の断崖をくり抜いた岩の隠し部屋に連れていき身ぐるみを剥ぐ。女なら奴隷として売り飛ばし、男なら殺して肉にする」
「なんだと?」
さすがにむっとした。
冗談にしては質が悪い。
孫空女も腹がたってきた。
「こんなところに治安の軍はやって来んから好きなようにできる。さっきも忠告したじゃろう? その料理には眠り薬が入っておるから喰わん方がいいと……。この店に入った者は、なにひとつ逃がさずに、ここで浮世から断絶してしまうから、人呼んで“七絶”じゃ」
七絶が気味の悪い笑い方をした。
「馬鹿な冗談を言うんじゃないよ。ちゃんと、毒があるかないか確かめたさ」
孫空女は七絶に振り向いたまま言った。
「世の中には、舌で触れたくらいじゃあわからん毒はありとあらゆるある。これからは気をつけることだな……。と言っても、これからなんか、お前たちにはないがな。お前たちは、いい女だから殺さん。だが、奴隷商人に売り飛ばすときに、仕返しには来れんように、特に奴隷扱いの酷い売り手に引き渡すよう頼んでおく」
口調がずっと若くなった七絶が立ちあがった。
その眼が座っている。
いままでの老人のような雰囲気は微塵もない。
それどころか、曲がっていた腰も真っ直ぐになり、一気に若返った感じになった。
もしかしたら、老人のふりをしていただけで、ずっと若いのかもしれない。
孫空女の中のなにかが警告を発した。
薄気味悪いものを感じて、立ちあがろうとした。
「あ、あれっ?」
しかし、脚がもつれてその場に崩れ落ちてしまった。
それで初めて気がついた。
いつの間にか、他の三人はすでに卓の上に突っ伏して気を失っている。
「お、お前は……?」
本当に毒が入っていたんだ……。
孫空女の背に冷たい汗が流れる。
慌てて、孫空女は指を喉に突っ込んで胃の中のものを吐こうとした。
しかし、その手を七絶が足で踏みつけて邪魔をした。
七絶は、床に倒れた孫空女を蹴飛ばして顔を上に向けさせた。
卓の上の水の瓶を取り、孫空女の口の中に突っ込んだ。
水がだくだくと喉に入っていく。
なにもかも麻痺して抵抗できない。
かなりの水を飲んだ。
急激に意識が遠くなる。
「ほかの三人よりは、薬の効き目が悪いようだな。だが、あれだけ肉にも水にも毒を入れたんだ。抵抗はできんだろう」
七絶が気味の悪い声で笑った。
それが、孫空女が知覚した最後の言葉だった。
*
暗い……。
それが最初に思ったことだ。
なにかがぼんやりと見えた。
岩の壁だ……。
いや、壁じゃない……。
岩肌の天井だ。
意識が戻った。
孫空女は飛び起きた。
しかし、がちゃんと金属が鳴る音がして阻まれた。
「ひぐうっ──」
孫空女は、思い切り首を後方に引かれて呻き声をあげてしまった。
はっとした。
首に金属の首輪があり、それが鎖によって後ろに背中側の壁に繋がれている。
慌てて手で首輪に振れようと思ったが、その手も後手で手錠を嵌められている。
「な、なにっ?」
拘束されているというだけじゃない。
なんと素っ裸だ。
両方の内腿にも枷がつけられて、それが一尺半(約五十センチ)ほどの長さの金属の棒で挟まれている。
つまり、孫空女は、素っ裸の身体を後手に拘束されて、両脚は大きく開いて閉じられないように金属の棒で挟んだ枷を両腿に付けられている。
そのうえ、首輪で壁に繋げられているのだ。
「もう、気がついたのか? 念のために拘束をしておいてよかったぜ」
七絶の声がした。
ぼんやりとしていた孫空女の視界がはっきりとした。
ここは岩をくりぬいてある大きな洞窟に作った部屋であり、その中心に七絶がいた。
そして、七絶のそばには、孫空女たちの荷物があり、七絶はその荷物をひとつひとつ吟味しては、取り分けているところだったのだ。
「な、なにしてんだよ、お前──? あたしらの荷物に触るんじゃないよ」
孫空女は怒鳴った。
「もう、お前たちの荷じゃねえ。俺のものだ。お前らが俺の作った眠り薬入りの料理を食って倒れてからそうなった」
七絶が孫空女を見て笑った。
「くっ」
孫空女は歯ぎしりした。
本当にあの料理と水には毒が入っていたんだ……。
毒見をしたけど、まったく気がつかなかった。
迂闊だった。
あんな人も通らないような街道の峠に、たった一軒だけある料理屋なんて、もっと怪しむべきだった。
「七絶、ご主人様たちは……? あっ──」
孫空女は、孫空女と並ぶように、金属の首輪で岩壁に繋げられて、後手に手錠をされている宝玄仙、沙那、朱姫の三人の姿を見つけた。
孫空女と同じように素っ裸だ。
ただ、脚の拘束までされているのは孫空女だけのようだ。
いずれにしても三人は、まったく気を失っていて、起きる気配はない。
「ご、ご主人様──、朱姫──、沙那──」
孫空女は脚をばたつかせて、三人の名を呼んだ。
しかし、三人ともぴくりともしない。
「無理だよ、無理──。この七絶の昏睡剤を混ぜた料理を食えば、まずは、回復剤を飲まなきゃ、三日は起きて来れねえ。お前が異常なんだぜ。余程に、毒に耐性があるんだな」
七絶が立ちあがってこっちにやってきた。
孫空女は七絶を睨みつけた。
「あ、あたしらをどうするつもりなんだよ?」
孫空女はすぐそばまでやってきて、しげしげと孫空女の裸身を見下ろす七絶に向かって言った。
七絶には店で応対したときとはまったく違う。
やっぱり、実際はまだ壮年といえる年齢なのだろう。
七絶は孫空女の裸身を好色な眼つきでじろじろと眺めている。
あまりにも露骨な視線にいたたまれない気持ちになる。
しかし、孫空女には曝け出している股間を隠す手段がない。
せめて、少しでも七絶のいやらしい視線を避けようと、左右に腰を振って隠すのだが、それは却って七絶の嗜虐心を満足させるだけのような気がした。
「さっきも言ったが、お前たちは、奴隷商人に売り飛ばす。服は古着屋。他のものは道具屋に叩き売る。だけど、これはどうかな──。随分長く商売やっているが、こんなものを大量に持ち歩いている女連れは初めてだぜ。これは、特別に売らずに持っておいて、愉しみのために使うかな?」
七絶が、一本の張形を取り出して、げらげらと笑いだした。
孫空女は顔が羞恥で赤らむのを感じた。
あれは、宝玄仙の霊具だ。
荷を拡げて見つけたのだろう。
荷の中の責め具を見られるのは、まるで、自分の心の恥部を見られているようで、裸身を見られるよりもずっと恥ずかしかった。
「さて、お前たちを引き渡す相手には、かなり前に合図ののろしを出したから、もうすぐ引き取りに来るだろう。だから、それまでちょっとばかり遊ぼうじゃねえか。性具は、大抵は霊具みたいだが、この俺でも扱える霊具もあったぞ」
七絶が手に持っていた張形を孫空女の顔の前にかざした。
本物そっくりの青筋まで立てた張形だ。
七絶が張形の柄の部分を操作すると、その張形の頭部分が淫らに動き出した。
「うわっ」
眼の前でくねくねと動き出した張形に、孫空女は思わず声をあげてしまった。
霊具には大きく分けて、道術遣いしか扱えないものと、道術遣いでなくても扱えるものの二種類ある。
その差は、霊具が機能を発揮するのに必要な霊気の差だ。
大抵の霊具は、霊具遣いしか操作できない。
それは、自然に備わる霊気を動かして、必要な霊気を霊具に集めることができるのは道術遣いだけだからだ。
道術遣いでなくても扱える霊具ということになると、使用できる霊気は、自然に漂っている極小の霊気だけだ。
だから、それは他愛のない機能しか発揮できない。
従って、霊具を扱える道術遣いは重宝される。
しかし、霊具作りの才女と呼ばれた宝玄仙は、ほんの少しの霊気でも、十分に効果のある霊具を作ることができた。
いま、七絶が動かしているのは、宝玄仙がほとんど霊気を必要としないで機能が発揮するように製作した霊具なのだろう。
その奇妙な蠕動運動をする張形がゆっくりと胸に近づいてくる。
「く、くそう──よ、寄んなよ、馬鹿──」
孫空女は拘束された肢をばたつかせて声をあげた。
「まあ、そう言うな。お前たちは、四人ともいい女だけど、俺はお前が一番好きだぜ。お前みたいな男のような女が俺の好みだな。泣く前と泣いた後の違いが、なんともいえず俺を欲情させるんだ」
七絶は、孫空女の裸身の横にやってきた。
そして、ぶるぶると震える張形の先端を孫空女の無防備な乳首に押しつけた。
「ふっ──ううっ」
耐えようとしたが、張形の振動によって与えられた快美な衝撃に、孫空女は思わず甘い声を出してしまった。
すると横の七絶が嬉しそうな顔をして孫空女の身体を覗き込む。
「ほう、なかなかに感度がいいな、お前」
「や、やめろよっ──、なっ……あ、ああっ……」
孫空女は叫んだ。
そして、身体の奥から込みあがる熱いものを避けようとして必死で歯を食い縛る。
七絶が押しつけている霊具から乳首を離そうと身体を捻る。
だが、そんな孫空女の仕草が愉しいらしく、七絶は、孫空女をからかいながら張形を乳首の周りに這いまわす。
我慢できない……。
孫空女の口から喘ぎ声がこぼれ落ちる。
「随分と感じやすい身体をしているな。もう股から雌の匂いがぷんぷんしてきたぜ」
孫空女は、七絶の言葉責めに耐えられなくて顔を伏せる。
しかし、その顔を七絶の視線が追ってくる。
孫空女はさらに身を捻って、七絶の顔から自分の顔を遠ざける。
執拗に張形の先が左右の乳首を責め続ける。
孫空女は、どんどん込みあがる官能に耐えられなくなってきた。
「こ、この卑怯者──。食事に眠り薬を混ぜて、その間に縛るなんて、恥知らず。それでも男かい」
孫空女は大きな声を張りあげた。
「なにが卑怯なものか。お前たちは奴隷として高値で売れると思ったからこそ、眠り薬にしてやったんだぞ。お前らが男なら、最初から致死性の毒にして殺していたところだ。まあ、俺はお前たちの命を救ってやったわけだ。感謝してもらわなければな」
七絶は孫空女の乳首をいたぶりながら笑った。
「く、くそっ……あ、ああっ……お、お前……くうっ……だ、誰だよ──?」
「さっきも言ったろう。七絶だ。まあ、毒遣いの七絶といえば、この世界ではちょっとしたもののはずだ。奴隷商人に売り渡された後でなら、聞く名かもしれんから覚えておいてくれ……。ところで、それよりも、お前の名はなんだよ? 教えてくれよ」
七絶が張形を乳首からゆっくりと股間に向かって下げていく。
孫空女は、はっとした。
「や、やめろ……あ、くうっ……」
次第に身体の芯まで響くような愉悦の感覚が襲ってくる。
孫空女は顔を仰け反らせて、吐息を洩らした。
感じていることを悟られまいと努力しようとするのだが、自分でも哀れなくらいに孫空女の身体は、あらゆる刺激に敏感に反応してしまう。
その自分の身体の惨めさといやらしさが、情けなくて泣きたくなる。
「名はなんだ? 言わなきゃこれを股に挿すぜ」
張形は大きな振動を続けたまま孫空女の無毛の股間のすぐ上で停止した。
もうそのすぐ下は敏感な肉芽だ。
そこに張形が触れれば、これまでとは比べものにならないくらいに、大きな声を自分はあげてしまうだろう。
こんな卑劣な男の手ではしたなく嬌声をあげるのは死んでも嫌だ。
「名は?」
張形が、さらにじわじわと下がってくる。
「ひいっ──。な、なんで、お前なんかに名を教えなきゃならないのさ──」
孫空女は叫んだ。大きな声を出すことで込みあがる快感を振り払いたかった。
しかし、張形の振動は、怖ろしい官能となって孫空女を責めたてる。
もう余裕がない。
孫空女は、もう切羽詰った状況に追い込まれている。
「だって、これからお前と俺は、男と女の関係になるんだ。俺が精を放った相手の名くらい俺は知りたいぜ」
七絶は言った。
孫空女の火照りきった背に冷たい汗が流れた。
「ほれっ、名前を言え」
七絶が淫らにくねり続ける張形をほんの少し下に動かした。
「あうっ」
孫空女は悲鳴をあげた。
振動が肉芽の近くに伝わり、強烈な愉悦の矢が身体を貫いたのだ。
そして、七絶は、もうひとつの手で荒々しく孫空女の乳房を揉んでくる。
触れそうで触れていない張形の股間への刺激と、直接的な乳房の愛撫が、異常な快感となって孫空女の身体を襲う。
「そ、孫空女だよ──」
そう叫んだ。
この状態で股間に直接的な刺激を受けてしまえば、絶対におかしくなる。それは嫌だ。
「ほう、お前は孫空女というのか。孫空女、お前が感じている顔はほんとうに可愛らしいな」
七絶は、振動を続ける張形を孫空女の股間の寸前で遊ばせながら言った。
一瞬ごとに、どんどん甘美な快感が全身に蓄積されていく。
そして、揉まれ続ける乳房からは、強烈な歓喜が押し寄せる。
「か、感じてなんかないよ」
孫空女は首を左右に振って声をあげた。
すると、張形がすっと動いて、孫空女の肉芽の上に当てられた。
「ひゃっ、ひゃああぁ──ひいっ……ああっ、あっ、あっ、ああっ──くうっ……い、いぎぃ──だ、だめっ──だめぇ──」
孫空女は拘束された身体を仰け反らせて叫んだ。
全身を砕けさせる強烈な快感が襲う。
身体を溶けさせるような気持ちよさだ。
巨大な興奮が股間の頂点から全身に拡がる。悶々としていたものが一気に噴き出す。
孫空女は堪らず、張形の攻撃から身を守ろうと懸命に身体を揺すって後ずさりした。
開脚したままの肢を揺すって退がる。
それで張形から距離を置くことができた。
しかし、孫空女の身体は、ぴったりと岩壁に背中をつけた。
これ以上、退がれない。
「ほら、もっと逃げてみろよ。逃げなきゃこれに責められるぞ」
隣りにしゃがんでいる七絶が、にやにやしながら態勢を変えて、孫空女を追ってきた。
また、孫空女に密着してくる。
張形の先が、孫空女が曝け出している股間の寸前で淫らな動きを続けている。
張形が動かす空気の動きを感じるくらいの距離まで肉芽にまた近づけられた。
「もう、股はどろどろじゃないか……。感じやすいんだな。もう、数瞬でいってしまうところだったんだろう? 女は、男とは違って何度いっても大丈夫だ。俺と本番をする前に何回かいくか?」
「お、お前、名前を言えば、そ、それ当てないって、言ったじゃないか──」
孫空女は抗議した。
七絶の持つ張形は、まだ七絶の手の中でぐいんぐいんと左右に頭を振っている。
「そうだったかな?」
七絶はその張形をまた、孫空女の臍の下に置き直した。
そして、再びじわじわと股間に近づけていく。
「ひぎっ──。や、やめてぇ」
孫空女は左右に首を振って悲鳴をあげた。
さっき達しかけたせいで、凄まじい喜悦がもう体内を駆け巡り始めている。
今度、肉芽を責められたら、その瞬間にいってしまいそうだ。
「……そう言えば、さっき、お前は、仲間の名を沙那と朱姫と呼んでいたな。そして、もうひとりは、“ご主人様”だ。ご主人様というのは、あの黒髪の長い黒っぽい服を着てた美人のことだろう? そいつの名は?」
「そ、それは……」
孫空女は躊躇した。
宝玄仙は手配されている身だ。
名を教えることは支障があるかもしれない。
しかし、もう、沙那と朱姫と孫空女の名は知られてしまっている。
いまさら、宝玄仙ひとりの名を隠しても仕方がないような気もする。
「二、三回いけば、素直になるか? 俺は女じゃないが、膣で達するのと、肉芽で達するのとは違うらしいな。膣で達するのは身体の奥からゆっくりと込みあがって、身体がなにかに置き変わるような快感だ」
じわじわとまたもや、振動する淫具が肉芽に近づく。
「や、やめろうっ」
孫空女は悲鳴をあげた。
だが、七絶は嘲笑うだけだ。
「ははは……。だが、肉芽の快感は突然に貫かれる刃物のような快感だ。肉芽は膣の何倍も感度はいいが、それと引き換えにこっちの快感は恐怖感にも通じる。肉芽で達すると、その激しい快感に、どうしても女はそこで続けていかされるのを恐怖してしまう……」
七絶の持つ張形がまた肉芽に、肌をつたって、さらにゆっくりと近づく……。
淫らな振動を続けながら──。
「いや、いや、いやだぁ──」
孫空女は拘束された身体を限界まで左右に動かしてそれを避けようとした。
しかし、七絶が孫空女の背中に手を回し、反対側の乳房をわしづかみして、身体を七絶に引き寄せた。
孫空女は七絶に密着させられて、動けなくされる。
その間も張形はじわじわと肉芽に近づき……。
「はおおおぉぉぉ──」
脳髄まで響くような快感が襲った。股間の頂点に張形が載せられたのだ。
股間だけではない。
乳房も太腿もなんにも刺激を受けていない肛門までも官能と欲情の大きなうねりに巻き込まれる。
孫空女の身体がどろどろに溶けていく。
峻烈な快感だ。
一瞬、すべてのことが孫空女の頭から吹っ飛ぶ。
「いぐうぅぅ──」
全身がばらばらになるような激しい快感だ──。
孫空女は慎みもなにもない声を張りあげて、全身を震わせて達していた。
あっという間にいってしまった。
愕然とする孫空女の股間から張形がすっと離れた。
しかし、ほんのちょっとだ。
大きく振動する張形の先は、孫空女の肉芽の指一本先に位置している。
「お前のご主人様の名は?」
「ほ、宝玄仙……」
孫空女は顔を下に向けたまま荒い息をしながら言った。
「宝玄仙……。どこかで聞いた名だな……?」
七絶は首を傾げている。
やっぱり、人相書きが出回っているのだと思った。
「……まあいいや。それで、どこから来た? 女人国の銀貨を持っていたから、女人国の女か? それであれば、お前らの値は五割増しだ。女人国の女は淫らで味がいいというからな。この祭賽国では、女人国の女というのは、いい女の代名詞だ」
「じょ、女人国は通ってきただけだよ。もっと遠いところだよ」
「ほう、じゃあ、どこだ?」
「もう、どこだっていいじゃないか──」
ねちねちとした訊問が気に入らなくて孫空女は、激しい鬱憤を爆発させた。
「まあ、そうだな。じゃあ、そろそろ、肝心の道具の方を確かめてみるか」
七絶が、張形を投げ捨てて、立ちあがった。
下袴が孫空女の前で降ろされる。
そして、七絶が自分の下着を取り去ると、そこに黒々とした逞しい怒張が突き出ていた。
「ひっ」
孫空女は思わず声をあげてしまった。
「さてと……」
七絶が開脚している孫空女の肢を持って、孫空女の股間を自分の怒張に載せようと、腰を屈めた。
そのとき、孫空女の頭のすぐ近くに、七絶の頭が来た。
孫空女はその一瞬を見逃さなかった。
「こなくそっ」
孫空女は、一度、頭を後ろに動かし、そして、力の限り、頭を七絶の頭に叩きつけた。
ごんと大きな音がして、孫空女と七絶の頭がぶつかった。
「ほごわっ」
七絶が頭を抱えて悲鳴をあげた。
「へっ、ざまあみろ」
孫空女は、その場でうずくまる七絶の顔に唾を吐いた。
「こ、このあまっ……」
顔をあげた七絶の顔は憤怒に真っ赤になっている。
「次にあたしに近寄ったら、こんなもんじゃ済まないよ。今度は喉笛に噛みついてやるからね」
「畜生……。素っ裸で拘束されて、股倉開いている女がでかい口を叩くじゃねえか。もういい。お前みたいな跳ね返りは、ばらばらに切り刻んで肉饅頭の材料にしてやる。女は三人いればいい」
そして、七絶は部屋の奥に引っ込むと、棒の先に太い針を刺したものを持ってきた。
「な、なんだよ……?」
離れた場所から、孫空女の乳房と乳房の間に伸びる針先に、孫空女は恐怖を感じて呟いた。
「この針先には、猛毒が塗ってある。これを身体に刺されれば、息をひとつか、ふたつする間にお前は死ぬ。今度は頭突きで避けられないだろう。それとも、避けてみるか?」
七絶が笑いながら、さらに棒を伸ばす。
針先はもう、孫空女の身体のすぐそばだ。
避けると言っても、避けようがない。
手も足も拘束されて、首輪は背中の岩壁に繋げられている。
「死ね」
七絶が言った。
孫空女は覚悟を決めて、眼をつぶった。