「お前と
どうするか……。
「三、いけるかい……?」
その時、かすかに宝玄仙がささやく声がした。
「もう、三です……。四つ目です……」
朱姫がささやき返している。
なんだろう?
「そうだね、話し合おうじゃないか、小太坊」
不意に、宝玄仙が大きな声で叫んだ。
「なんだ、お前?」
小太坊が不審な表情を宝玄仙に向ける。
「取引きだよ、小太坊とやら。お前は、奴隷が四人と言ったけど、三人じゃ駄目なのかい?」
「なに?」
「ここにいる三人の女は、実はわたしの奴隷でね。大事な奴隷なんだけど、わたし自身の命には代えられない。この三人を提供しようじゃないか。それで手を打ちなよ」
「悪かねえが、こっちは四人の奴隷で勘定しててな」
小太坊がせせら笑く。
「わたしも含めて……ということになれば、少々、面倒になことになるよ。でも、わたしを含めなければ、あっさりと三人は手に入る。それでどうだい?」
「ほう、つまり、お前を助けると保障すれば、残りの三人は黙って渡すというわけか?」
「悪い話じゃないと思うけどね」
宝玄仙が前に出てきて、小太坊に身体を向けた。
その時、孫空女は、宝玄仙と朱姫がなにをしているのか悟った。手の中の『如意棒』に力を入れる。
「……いいだろう。まずは、三人を馬車に載せろ」
小太坊が頷いた。
「お待ちよ──」
宝玄仙が叫んだ。
「今度はなんだ?」
「代金を決めてないよ、小太坊」
「代金?」
「そうだよ。わたしも、大事な奴隷を渡すんだ。代金を貰わなきゃね。お前だって、
「幾らかだって?」
小太坊が突然笑い始めた。
「なにがおかしいんだい、小太坊?」
「おかしいさ。これから奴隷になる女に、金を払うやつがいるかよ」
小太坊が笑いながら応じた。
「わたしを逃がすつもりはないんだね」
「当たり前だ──おい、李春。一歩も動くなよ。本当に撃つぜ。李春と張天目の娘以外の四人は順番に馬車に乗れ──。まずは、お前だ」
小太坊が宝玄仙に向かって言った。
「交渉決裂だね、小太坊」
宝玄仙が言った。
「ご主人様が刻んだ分も合わせて、全部結び終わりました――」
突然、朱姫が大声を発した。
孫空女は、ふたりの準備が完了したことを知った。
「『如意棒』──伸びろ──」
孫空女は、手の中の『如意棒』を大きくする。
「『影手』──」
朱姫の道術が発動した。
後方の男たちの持っていた鉄砲が一斉に空を向く。
孫空女はまっしぐらに小太坊に向かった。
男たちの悲鳴が聞こえた。
何発かは銃声もしたが、朱姫が『影手』で鉄砲を無力化したはずだ──。
沙那が男たちに向かって飛び込んだのが視界の端に映る。
李春も張天女も剣を抜いている。
「うわっ」
小太坊が叫んだ。
その時には、孫空女は、小太坊を『如意棒』に引っかけて、馬から突き落としていた。
地面に叩きつけた小太坊はひと言呻いて動かなくなる。
孫空女は後ろを振り返った。
二十人ほどの男たちは、すべて地面に転がっている。
死んではいないようだが、全員ともすぐには起きてこれなさそうだ。
十丁の鉄砲は、地面に押さえつけられたままだ。
沙那、李春、張天女の三人が倒れている男たちの中に立っている。
「済んだのかい?」
宝玄仙が微笑みながら立っている。
その横には、真剣な表情の朱姫がいる。
もの凄い汗を顔にかいている。
あれは、相当に神経を集中しているに違いない。
「もういいよ、朱姫」
宝玄仙が、ぽんと朱姫の頭を叩いた。
朱姫が我に返ったような表情になった。
「よくやったわ、朱姫」
沙那も剣を鞘に収めてから朱姫に微笑みかけた。
「よくわからないけど、いまのは、なんだったの?」
李春が首を傾げている。
「この朱姫が、『影手』という道術で十丁の銃を操って上に向けたんだよ」
宝玄仙が朱姫の頭を軽く叩きながら言った。
「あれが道術……」
李春が感嘆の声をあげた。
「驚きました。道術遣いとは聞いていましたが、あんなに簡単にたくさんの武器を無力化できるなんて……」
張天女も驚いている。
「それは皆さんが時間をかけてくれたお陰です……。それに、あたしひとりじゃあ、あんなに早く、十丁の鉄砲に霊具としての道術を刻むなんて無理です。ご主人様が刻んだものを受け取っただけです」
朱姫が顔を赤らめた。
「それよりもこれ、どうする?」
孫空女は『如意棒』の先に、まだ気を失っている小太坊の襟を引っかけて持ちあげた。
「その辺に転がしておいてよ。これでだいぶ懲りただろうし」
李春が言った。
「ふうん……。じゃあ、命拾いしたね、こいつ」
孫空女は、ほかの男たちがうずくまっている場所に向かって、小太坊の身体を放り捨てた。
*
李春の屋敷は、
夜はすっかり更けており、さすがに、街道からここまでの間、すれ違う者も誰もいなかった。
「立派な屋敷だねえ」
宝玄仙が海の見える丘に建つその屋敷の玄関で言った。
「わたしひとりでこんなに大きな屋敷はいらないのですけどね。時々人を世話したり、集めたりしなければならないので、それなりの広さにしてあります」
「わたしたちが厄介になって、本当に問題ないの、李春?」
沙那が言った。
「厄介になる分には大丈夫だけど、ここには下男とか下女とかいう者はいないのよ。二日に一度、掃除の人間を雇っているだけで、普段は自分でやるからね。だから、食事の支度やら寝床の準備やらは自分たちでやってもらうことになるわ。ここに人を泊めさせるときは、いつもはその都度、世話をする者を雇うのだけれど、あなたたちの場合は、そうはいかないしね」
「そのことなんだけど、わたしたちの顔は、七絶も見たし、さっきの小太坊たちも見ているわ。わたしたちの手配書が回っているのなら、いずれ彼らも、わたしたちが手配中の女であることに気がつくでしょう。そして、わたしたちが、あなたと一緒だったということはもうわかっているわ」
「それについては、少し、いまから相談したいと思うわ。いずれにしても、中に入ってもらえる。ここじゃあ、なんだから」
李春は言った。
「じゃあ、李春、わたしはこれで」
ここまで一緒にやってきた張天女が会釈をして戻ろうとした。
しかし、それを宝玄仙が呼びとめた。
「居酒屋をやっていると言っていたけど、どうしても戻らなきゃいけないのかい、張天女?」
宝玄仙が訊ねた。
「そんなことはありません。店の者として使っている者がいますから。それに、そろそろ店は閉める時間です」
「お前がいないと店じまいができないのかい?」
「今夜は戻らないかもしれないとしれないと言ってきたので、時間になれば、勝手に店を閉めて使用人たちは戻ると思います。ただ、わたしの家は、その店の二階なのです」
張天女が言った。
「だったら、一緒に来ないかい? ひと晩くらい、ここに泊ってもいいんだろう?」
「わたしは構いませんが……」
張天女は、李春の顔を見た。
「そうだね。今夜は一緒にいてよ、張天女。実は、相談したいこともあるわ」
李春は言った。
「だったら、わたしが、なにか簡単な食事を準備するわ」
張天女はそう言って、先に屋敷に入っていった。
「朱姫、お前も一緒に、張天女と行きな」
「はい、ご主人様」
宝玄仙の命令を受けた朱姫が慌てて、張天女を追った。
李春は、宝玄仙たちを入口に近い客間ではなく、奥の部屋に案内した。
手配中であることを考えてのことだ。
それに奥側なら勝手口に近い。
勝手口の向こうは林になっていて、脱出路としても都合がいいだろう。
部屋に案内すると、李春は宝玄仙を上座に座らせて、その向かい側に自分が座った。
沙那と孫空女は、いつもそうなのか、部屋の隅に荷とともに腰を降ろした。
「ところで、宝玄仙殿、
李春は言った。
「それは、そちらの都合に従うけど、さっきは船の都合で十日はかかると言ってなかったかい?」
「事情が変わりました、宝玄仙殿」
「事情とは?」
「さっき、沙那が言っていたとおりです。わたしと一緒であることを見られすぎました。特に、
張天女の持ってきた闇塩の取引きで船を使うつもりだったが、それは陸地でも取引はできる。
今夜はともかく、明日のうちには、船に移動してもらい、準備ができ次第に出立という方がいいだろう。
万が一、役人が気がついても、沖に出てしまえば、もう城郭兵も追いかけては来れない。
「もう少し、友好を深めたかった気もしますが、仕方ありません。明日の朝には童姉妹というわたしの妹分が来ます。彼女たちは、絶対に信用できます。彼女たちと一緒に浜に停泊してある船に向かってもらうことになります」
「わかったよ。万事従うよ。親切にしてくれて感謝するよ」
「ちょっと待って、それじゃあ、あなたが危ないわ、李春」
部屋の隅にいた沙那が口を挟んだ。
そして、こっちにやってくて座り直す。
「だったら、わたしたちは、そのまま陸路で西に向かうわ。わたしたちが逃げたという多少の痕跡を残しながらね。わたしたちが、このまま消えてしまえば、あなたが匿ったと思われて、あなたが危険になるわ?」
沙那は、宝玄仙と李春が向かい合うその横に座り直した。
「いや、それについては大丈夫よ、沙那。これでも、漁師連中はわたしが支配しているのよ。連中に口裏を合わせてもらって、あなた方は逃げたと噂を流すよ。あの張天女の父親は、漁師の頭領でもあるのよ。張天女が言えば、大抵のことには、漁師は従うわ」
「でも……」
沙那は心配そうな顔をした。
会ったばかりの李春に、そこまで頼るべきではないとでも考えているのだろうか?
「それに、掲陽鎮の役人なんて、ただの腑抜けよ。賄賂で手なずけてあるし、訴えがあれば、一応は調べに来ると思うけど、本気でわたしを捕まえる程の根性はないわ。心配しないで」
李春ははっきりと言った。
すると、宝玄仙がぽんと自分の膝を叩いた。
「そうかい。そこまで言ってくれるなら、面倒をかけるよ。礼をしたいけど、その時間もないようだね」
宝玄仙が言った。
「わたしは、あなたたちのことを請け負ったんです。引き受けた以上、護ります」
「どうして、そんなに親切にしてくれるんだい、李春?」
「さあ、なぜでしょうねえ……。あなた方のことは、実は梁山泊の宋江殿や九頭女から手紙をもらって、ある程度は知っています。北安の城郭で、あなたがたは、なんの縁もない奴隷女たちやそのために戦う者たちに協力して命を懸けた。それに心を打たれたということでしょうか」
「でも、それはお前には関係のないことだろう? わたしらを助けても、お前がなにか得をするわけじゃないだろう?」
「あなた方も大して得するわけでもないのに、梁山泊に協力して戦ったのでしょう?」
李春は笑った。
「まあ、あれは成り行きだね。半分は酔狂だ」
「だったら、わたしも酔狂です。酔狂であなた方の役に立ちたいと思っているだけですから、恩に感じる必要はないですよ」
李春は笑った。
そのとき、扉の向こうから声がかかり、朱姫が顔を出した。
「向こうに簡単な食事の準備ができました」
朱姫が言った。
李春は、宝玄仙たちを促して立ちあがった。
しかし、宝玄仙は、立ちあがろうとせずに、なにか意味ありげな微笑みをした。
「先に行っておくれ。すぐ行くよ、李春──。わたしたちは、ちょっと支度があるからね」
宝玄仙が言った。
*
李春は、客人たちがやってきて揃うのを待っていたが、すぐにやって来ると言った宝玄仙たちは、なかなかやってこなかった。
食事の迎えに来た朱姫もそのまま残ったから、六人の食事が準備してあるこの部屋には、李春と張天女だけがいた。
一応、待っている間に、李春は張天女に対し、明日には童姉妹に指示して四人を船に載せるということと、四人が陸路で逃亡したように噂を流させるように命じた。
張天女は、それだけ言えば、後は必要なことをすべてやる。詳しい指示は必要ない。
「例の粉の取引きは、今回は時期を変更すると先方には言っておくわ」
張天女は言った。
李春は頷いた。
「それから、これからのことだけど、今回のことで、青おろちはなんらかの仕返しをしてくると思う。少なくともこの漁師部落には手を出さないように、なんらかの対抗策を考える必要があるわ」
李春は言った。
この掲陽鎮一帯は、駝濫家、李家のいずれかの息がかかった土地として区分されていたが、この李春のいる漁師部落だけは、そのいずれにも加担せず、中立を保持していた。
それは、もちろん、李家と縁がある李春に駝濫一家が手を出し難いというのもあるが、李春は李春で、その両家の主人筋であり、名目だけとはいえ格式の深い穆家との繋がりを保持することで、この漁師部落が穆家と影響が深いことを匂わせ、巧みに両家との距離を置き続けてきた。
だが、今回の一件で、駝濫一家とははっきりと敵対することになった。
そうなれば、李春としては、駝濫一家の頭領の青おろちが、簡単に李春と漁師部落に手を出さない保障をどこからか得なければならない。
「ま、まさか、李春……」
張天女の顔からさっと血の気が引いた。
「明日、
李春は言った。
「そんな……」
張天女は絶句した。
その身体がぶるぶると震えだす。
李春はそんな張天女に手を伸ばして、彼女の身体を力を入れて抱いた。
「そんな顔をしないのよ、張天女。別に魂を売り渡すわけじゃないわ。駝濫家だけじゃなく、李家からもこの漁師部落は独立する。その保障を穆家からもらう。その代償をちょっとばかり支払うだけよ」
李春は張天女の背をさすりながら言った。
穆公というのは、現在の穆家の当主で歳はもう六十になる。
穆家は、李家にとっても、駝濫家にとっても、本来は主人筋に当たる侠客家だ。
しかし、現在では、分家である李家と駝濫家に掲陽鎮の縄張りを二分されてしまい、抱えている子分もおらず、支配している土地もない。
しかし、主人筋として、李家も駝濫家も一応の敬意を穆公に示しているので、掲陽鎮は、穆家を合わせた三分態勢だと言われているのだ。
李春は、この漁師部落が李家と駝濫家のいずれにも関わりを持たないで済むように、穆公の影響力を借りていた。
つまり、穆公と個人的なつながりを李春が持つことで、漁師部落が穆家が直接支配する土地のような体裁にしていたのだ。
しかし、それはあまりにも曖昧なものであり、李春にとっても、この漁師部落にとっても、駝羅一家が本格的な攻勢に出てきた場合に、穆公の仲介を頼めるという確かなものではなかった。
だから、李春は、穆公との個人的な結びつきをもっと深めることで、この漁師部落が穆家の管轄だと穆公が明言してくれるように持ちかけようと思っている。
穆家の支配だとされれば、駝濫一家も、おいそれとは簡単には漁師部落には手を出しにくい。
「代償って……。なにも李春が──。わ、わたしじゃ駄目なの? わたしは、李春のためなら、どんなに汚れてもいいのよ。どんなことをされてもいいの。でも、李春がわたしたちの土地を守るために、あの穆公に娼婦のように抱かれるなんて……」
張天女はうっすらと涙を浮かべた。
李春は苦笑して、その涙を舌で拭き取る。
張天女が李春の胸にしだれかかった。
「娼婦のように抱かれはしないわ。これは、れっきとした取引きよ。少し、身体を合わせるだけで、この漁師部落全体の庇護を穆家に保障して貰えるなら安いものよ」
穆公には、以前から李春に妾のような立場にならないかと言われていた。
妾といっても定期的に身体を合わせることを約束するというだけで、別にいまの生活が変わるわけではない。
明日、李春はそれを承知しにいこうと思っている。
そして、穆家から正式の看板を貰うつもりだ。
「わたし、男に生まれればよかったわ。そうすれば、自分の土地を守るために、男に身体を売るなんてことを要求されることもなかったろうしね」
李春は自嘲気味に笑った。張天女がまた涙をこぼした。
しばらくそうしていたが、いつまで経っても宝玄仙たちはやってこなかった。
「それにしても、連中は遅いね。ちょっと見てくるよ」
四半刻(約十五分)も経ったころ、李春は腰をあげた。
しかし、その時、やっと四人がやってきた。
「待たせたね。さあ、食べようか」
宝玄仙が不自然に愉しそうに微笑んでいる。
その後ろからついてくる三人の供たちは、心なしか顔が赤い気がした。
そして、無言であり、なんだかぎこちない仕草で歩いてくる。
四人は、円卓に準備をさせた丸い卓を囲んで、それぞれが空いている椅子に座った。
「時間も遅いので、羊の肉にたれをつけて焼いたものを切って、それをありあわせの野菜を炒めて混ぜたものです。なにも準備をしていなくて、こんなもので申し訳ありませんが……」
「十分だよ、張天女──。おいしいよ」
妙に上機嫌の宝玄仙が張天女の言葉を遮るように言った。
六人でそれぞれに料理をとった。
夕食を食べていなかったので空腹が満たされるのは気持ちよかった。
宝玄仙と他愛のない話をしながら料理を口にした。
宝玄仙らは、酒を飲まないというので、出さなかったがなんとなく李春は、本当は酒を口にしたい気持ちだった。
今夜は久しぶりに剣を振るった。
殺しはしなかったが、七絶の耳を残酷に斬り飛ばして血を流させた。そして、その後、駝濫一家の連中を相手にしてひと騒動起こした。そのときの興奮の余韻が残っている。
そして、明日には合わせたくもない肌を合わせに、穆公のところに行く。
こんなときは、酒を呷るか、それとも、張天女を残酷に嗜虐したい気持ちになる。
そのとき、なにかが床を叩く音がした。
「ご、ごめんなさい……」
沙那だ。
どうやら、持っていた箸を落としてしまったようだ。
なにかが変だ。
そう言えば、沙那はさっきからひと言も喋らないし、熱くもないのに随分と顔に汗をかいている。
いや、沙那だけじゃない……。
孫空女も朱姫も同じだ。三人とも、とても苦しそうだ。
そして、とても淫らだ……。
これは……?
「ひっ」
急に沙那が声をあげた。
落とした箸を取ろうとした沙那が、そのまま椅子から転げ落ちるように床に落ちてしまったのだ。
「さ、沙那?」
李春はびっくりして立ちあがった。
「大丈夫だよ、李春。ちょっとばっかり、『姫玉』が効いて、力が入らないだけさ。ほら、立つんだよ、沙那。ほかの者は、しゃきっとしているじゃないか」
「だ、だって……。わ、わたしだけ……前も……う、後ろも……ず、狡いじゃないですか……」
沙那がふらふらと立ちあがりながら恨めし気な顔を宝玄仙に向けている。
これは、間違いない……。
この三人は、なにか淫らなことを宝玄仙によってされている最中に違いない。
李春は口に溜まった唾液を飲んだ。
「ど、どうしたの……?」
張天女も気がついたようだ。
その顔は真っ赤だ。
李春は、張天女の身体が彼女の倒錯の想像に引きずり込まれて、欲情に兆しを匂わせているのがわかった。
そして、それは李春も同じだった。
「気にしなくてもいいよ、張天女。食事の後で、わたしはこいつらの身体を味わうつもりなのさ。それで、手っ取り早く、こいつらの身体を熱くするために、『姫玉』という霊具を前の穴に咥えさせているんだ。それを入れられると、どうしようもなく身体が疼くというわけさ」
宝玄仙があっけらかんと言って笑った。
李春は絶句してしまった。
九頭女から四人の性癖については手紙で教えてもらっていた。
そうでなければ、この少しも淫らな感じのない四人が、こんな人前で淫行に耽るということに仰天してしまっただろう。
しかも、さっきの戦いのときには、百戦錬磨の李春をすら驚かせるほどの女傑ぶりを三人は示した。
その三人が、あれからほんの少ししか経っていないのに、こんなに淫らな仕打ちを受けて、恥ずかしそうに身体をくねらせている……。
李春は自分の身体の中の黒い欲望が、少しずつ顔を出していることに気がついていた。
沙那も孫空女も朱姫も、顔をすっかり上気させてつらそうに身体を悶えさせている。
余程強力な淫具に違いない。
三人を見ていると、なぜか李春も、自分の股間が切ない疼きで肉が溶かされていくような気持ちを感じ始めていた。
「ご、ご主人様……そ、そんなことばらさなくても……」
沙那が泣きそうな顔で抗議した。
その沙那の表情が、李春の嗜虐心を刺激した。
沙那、孫空女、朱姫の三人は、その『姫玉』という淫具により、身体を刺激されて、突き刺すような快楽に襲われているのだということがわかる。
顔は汗びっしょりだが、いま着ている服の下も同じ状態なんだろう。
そして、股間は汗以外の女の分泌液でびっしょりと濡れているに違いない……。
「ね、ねえ、宝玄仙殿──。さっき、沙那だけ、前後にふたつその『姫玉』を入れていると言いませんでした?」
李春は言った。
「興味あるのかい……?」
宝玄仙が探るような視線を李春に向けた。
「ええ、興味あります。だって、沙那だけ、ふたつなんて確かに不公平でしょう。そのひとつは、わたしの“女”に引き受けさせますよ」
「り、李春?」
張天女が驚いたような声をあげた。
「張天女、ここで服を脱ぎなさい」
李春は言った。
突然の展開に張天女は、呆然とたたずんでいる。
その驚愕するとともに怯えた表情は、懸命に李春になにかを訴えている。
しかし、それと同時に、張天女の股間が、これから自分がさせられようとしている行為を想像して、すっかりと欲情して股間を濡らしていることがは匂いでわかる。
「命令よ。どんなことでもできると言ったのは嘘なのかい?」
李春は言った。
「ああ……」
張天女は泣きそうな表情で、服を脱ぎ始める。
沙那と孫空女と朱姫は、なにがなんだかわからないというような表情でこっちを見守っている。
「……そうだと思ったよ、李春。お前がそういう強い倒錯の性癖を持った女であることは、なんとなくわかったよ。張天女は、お前の“猫”──。そうなんだね?」
宝玄仙が微笑みながら静かに言った。
「誰にも悟られたことはありませんでしたが、それを悟らせるような隙がわたしにはありましたか、宝玄仙殿?」
「勘かねえ……。お前と張天女がお互いをそれぞれに見る眼つき……。仕草……。言葉にこもる抑揚……。そんなものでわかるのさ」
「へえ……」
李春は苦笑した。
張天女は、もう下着姿になっていた。その下着も脱ぎ捨てる。張天女の身体から淫乱な体液の匂いが発散した。
「お前たち、なにをしているんだい。素っ裸になるんだよ──、ほらっ」
宝玄仙が大きな声で怒鳴った。
三人の供たちが弾かれるように、競って服を脱ぎ始めた。