※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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261 玉産みの芸

 美しい身体だ──。

 張天女(ちょうてんじょ)は、四人の裸身を見たときに最初にそう思った。

 なによりも、宝玄仙の身体は、同性ながら異様な陶酔さえ感じさせるほどの圧倒的な美しさだった。

 また、沙那、孫空女というふたりの女戦士の鍛えあげられながらも女としての匂い立つような白く丸みを帯びた裸身も魅力的だ。

 朱姫はまだ少女の面影を残す未成熟な外観ではあるのに、四人の中でもっとも妖しい雰囲気を醸し出していて、それがとても煽情的である。

 

 そして、食事の部屋をそのままにして、裸身のまま、宝玄仙たちにあてがわれた部屋に李春ととともにやってきた張天女は、部屋に入るなりいきなり、沙那と孫空女と朱姫の三人がお互いの舌を舐めはじめたのを目の当たりにして、圧倒されてしまった。

 

「ほら、お前たち、すっかり欲情しただろう。『姫玉』を出しな。そして、『姫玉』をひとりに集めるんだ。最初は孫空女が四個の玉を咥えるんだよ。だから、まずは沙那と朱姫は、玉産みをしな」

 

 宝玄仙が言った。

 すると三人が羞恥に真っ赤な表情になったが、抗議の声は出さなかった。

 諦めたようで、そして、欲情に酔ったような表情になる。

 張天女は、それがあまりにも淫靡なので、思わず生唾を飲み込んでしまった。

 

「よく見ておくのよ、張天女。お前にもやってもらうからね。玉産みというのは、手を使わずに股間に入れている玉を出すらしいわよ。玉呑みはその逆」

 

 李春(りしゅん)が張天女の横でささやいた。

 李春もまた、もう素裸だった。

 いま、この部屋には、六人の女がいて、その全員が完全な裸身だ。

 張天女は、李春によって縄で後手に拘束されたが、沙那、孫空女、朱姫の三人もまた宝玄仙によって、それぞれに後手縛りに緊縛されている。

 

「そ、そんな……」

 

 正座をして三人の狂態を見せられている張天女は、思わず首を横に振った。

 そんなことをやらされる……。

 しかも、同じ女とはいえ、今日会ったばかりの人間の前で──。

 

 女の穴に玉を入れたり、出したり……。

 そんな淫らな遊び……。

 張天女は愕然とした。

 

「それとも、わたしに恥をかかせるの? わたしの恋人の張天女は、あの三人に比べても引けを取らない素晴らしい女だということを示したいのよ。やってくれるわね」

 

 李春は胡坐に座り直し、その膝の上に、後手に縛られている張天女の身体を横抱きに載せた。

 そして、手を張天女の身体に這い回らせ始める。

 

「あ、ああ……」

 

 込みあがった官能の疼きに張天女は、甘い声をあげた。

 

「駄目よ。彼女たちをちゃんと見ているのよ。眼を逸らしたり、閉じたりしたら、お仕置きよ」

 

 そう言って李春は、膝の上に抱かれてなにもできない張天女の肌のあちこちを触りはじめる。

 張天女の弱い部分を知り抜いている李春だ。

 あっという間に張天女は燃えあげさせられて、羞恥の声を迸らされる。

 しかし、官能の疼きに耐えられなくなって、快美感に酔うと、眼を逸らせたと言って李春から肉芽を強くつねられる。

 悲鳴をあげて慌てて眼を開けると、たったいま苦痛を与えられた肉芽を優しく擦られる。

 また、乳房やわき腹、そして、太腿の性感帯を繰り返して触れられる。

 張天女は次第に余裕のない状態に追い詰められていった。

 

「李春、いまからこいつらに玉産みと玉呑みをさせるけど、誰が一番下手だったか、その張天女に決めてもらえないかね。一番下手だったひとりは、よってたかって全員から責められると決まっているのさ。そのひとりを張天女に決めてもらいたいんだ」

 

 宝玄仙が李春の横に来て床に座って言った。

 張天女は驚いた。

 

「面白いですね。わかりました──。じゃあ、張天女、しっかり見物して審査をするのよ」

 

「そ、そんな、李春」

 

「もちろん、張天女もやってもらうけど、あまりにもうまくできなかったら、張天女が五人がかりで責められるのよ。あの四人は容赦なく、責めたてそうよ。だから、しっかり見ておくのよ」

 

 李春が意地悪く言った。

 その間も李春は、張天女の気持ちのいい場所を愛撫をする。

 するとこれからやらされることに対する怯えも、激しい羞恥も消える。

 そして、頭に霧がかかったような酔いしれた気持ちだけが残る。

 

「ほら、沙那だよ。お前が最初だ。李春と張天女の前でやるんだ」

 

 宝玄仙が大きな声をあげた。

 すると、沙那が羞恥に染まったような表情でやってきた。

 そして、李春と張天女の眼の前に、厠で用を足すような姿でしゃがんだ。

 

「じゃあ、この前、教えた通りだよ。一、二、三で踏ん張るんだ。まずは、前からだよ」

 

「そ、そんな、別々なんて、まだ教わってません。できません」

 

 沙那が狼狽えた声をあげた。

 

「失敗したら、身体を弛緩させて、排便の道術を送り込むよ」

 

 すると沙那が絶句した。

 そして、はっきりとした恐怖が顔に浮かんだ。

 沙那の様子から、宝玄仙の言ったことは単なる脅しではないのだということを張天女も悟った。

 

「じゃあ、始めるんだ。まずは、前から──。失敗すれば、排便だよ」

 

「わ、わかりました」

 

 霊具の影響によって淫情に苛まれているのか、沙那の身体は真っ赤でびっしょりと全身に汗をかいている。

 それでも、端正な美貌をきっと引き締めて、唇を噛みしめた。

 

「い、いきます」

 

 沙那が踏ん張るような表情になった。

 

「こらっ──、沙那。黙ってやりつもりかい? ちゃんと李春と張天女に挨拶しな」

 

 宝玄仙の叱咤が飛ぶ。

 

「……も、申し訳ありません、ご主人様──。李春、張天女、わたしたちはいまから女の孔とお尻で玉産みと玉呑みをするわ。見て──」

 

 沙那はそう言うと、いきむように息をしはじめた。

 眼を閉じて、顔を俯かせて短い息を鼻から小刻みに出しながら股に力を入れている。

 

「一瞬でも眼を離しては駄目よ、張天女」

 

 李春がそう言いながら、張天目の股間を責める。

 張天女もまた、沙那と同じような呼吸になっていた。

 沙那の狂態を凝視しながら股間を責められることで、張天女も同じことをしているような錯覚になり、呼吸の苦しさが全身に伝わってくる。

 

 沙那の女陰がぷっと膨らんだ。

 やがて、その桃色の肉襞が開いていく。

 

 女陰の入り口から、静かに白いものが見えだした。

 沙那の淫液でねっとりと白い玉は光っていた。

 それがぽとりと沙那の股間から落ちた。

 玉の大きさは鶏の卵くらいだ。

 あんな大きなものが入っていたのだと張天女も驚いた。

 

 沙那は、玉を出す時に、大きく息を吐いだたけではなく、切羽詰ったような声もあげた。

 張天女は、沙那が、ただ恥ずかしいというだけではなく、大きな快感に襲われていたということがわかった。

 

「もうひとつだよ。後ろ向きな」

 

 宝玄仙の言葉にしっかりと頷いた沙那は、身体を反転させ、またいきむ仕草になる。

 次はお尻からだ。

 

 ぷっくりと肛門が開く。

 白い丸が大きくなり、玉が顔を出す。

 今度はあっという間に玉が落ちた。

 沙那はほっとした顔になる。

 

「さあ、朱姫だ。おいで──。お前は立ったままだよ」

 

 宝玄仙の声で、沙那と朱姫が位置を入れ替わった。

 朱姫はさっきまで沙那がしゃがんでいた場所に立つと、肩幅に脚を開いた。

 そして、唇を噛みしめて、緊縛された身体を仰け反らせて、腰をぐいと押し出した。

 こんと床を叩く音がして、朱姫の股から白い玉が落ちた。

 

「うまくなったじゃないか、朱姫」

 

「は、はい」

 

 朱姫が上気した顔で、少しだけはにかんだような表情で頷いた。

 

「さあ、最後だから、孫空女には、最初に全部入れてもらうよ。この三個を穴に入れな」

 

 宝玄仙は、沙那と朱姫の股間と肛門から出た三個の玉を集めた。

 

「い、入れなって……どうやって……」

 

 朱姫と交替でやってきた孫空女は、立ったまま後手に縛られた身体をうろたえたように動かした。

 

「吸い込めばいいだろう。深呼吸するように股と肛門で吸い込みな」

 

「そ、そんなことできないよ」

 

 孫空女が真っ赤になって声をあげると、宝玄仙は大きな声で笑った。

 

「じゃあ、こいつらにさせるさ。ほら、お前たち孫空女の股にその玉を入れるんだ。朱姫は前、沙那は後ろだ」

 

 宝玄仙が言った。

 後手に縛られた状態で、どうやってそれを行うのだろうと思っていたら、沙那と朱姫は躊躇いなく、玉に這い寄ってきて、それぞれ一個ずつ玉を口に咥えた。

 

「んんんっ」

 

 玉の半分を口に咥えている朱姫が、孫空女の前に回って顔を孫空女の股に近づける。

 孫空女は股を前に出すように突き出す。

 突き出された女陰に向かって朱姫が口を突き出した。

 

「ひっ……ひいんっ──くわっ……ああっ……」

 

 孫空女が甘い声をあげながら顔をしかめた。官能が沸き起こったような淫靡な表情だ。彼女が鼻息を荒くしながら腰を淫らにゆっくりと動かす。

 朱姫は口を孫空女の股にしっかりと押しつけて、懸命に舌で玉を押し込んでいた。

 

「あひいっ」

 

 孫空女が身体をびんと跳ねあげた。

 朱姫の顔が股間に突き飛ばされたように押された。

 

「あっ……、ご、ごめん、朱姫」

 

 孫空女が狼狽えた声を出す。

 しかし、朱姫が押し込んだ玉はもう、完全に孫空女の股間に吸い込まれていた。張天女は感嘆の声をあげてしまった。

 

「だ、大丈夫です、孫姉さん」

 

 朱姫がほっとしたように微笑んでいる。

 朱姫の鼻と口の周りは、孫空女の女陰から滲み出た愛液でびっしょりと汚れていた。

 

「次は沙那だよ」

 

「んんっ」

 

 沙那が声をあげた。孫空女は恥ずかしそうに、沙那に向かってお尻を突き出すような姿勢になった。

 玉を半分突き出した沙那の口が孫空女のお尻に近づいて、ぴったりと顔をつける。

 

 それはとても淫らで、そして、張天女を淫靡に興奮させる光景だった。

 さっきまで、駝羅(だらん)一家の男たちを相手に、剣と棒で圧倒した女傑ふたりが、尻と顔をくっつけて玉をお尻に入れるというようなことをしているのだ。

 ふたりは、羞恥に顔を染めながらも、命令に従い、嫌がる様子もなく一生懸命にそれをやっている。

 

 玉が孫空女の肛門に押し入れられた。

 肛門でも見事に孫空女は玉を飲み込んでみせたのだ。

 そして、次の玉──。

 

 張天女は、この三人がこれをかなり繰り返しやらされているということがわかった。

 自分がすっかりと李春に調教されて淫らな身体にされているように、この三人はこんな狂態を簡単に演じられるくらいに、宝玄仙に淫らに躾けられているのだ。

 

「じゃあ、孫空女、玉を産みな。鶏の鳴き真似をしながらだよ」

 

 宝玄仙が笑いながら言った。

 

「そ、そんな、酷いよ、ご主人様……。あたしばっかり──。ほかの人間のときは、そんなのなかったのに──」

 

 孫空女の顔が引きつった。

 

「心配しなくても、順番に全員やらせるから安心しな。まずは、お前からってだけだよ」

 

「わ、わかったよ、ご主人様……」

 

 孫空女の顔が一瞬悲痛な表情になった気がした。

 しかし、すぐにそれは諦めたような顔になる。

 

「コ、コケッコ──」

 

 孫空女は叫んだ。

 

「そんな大人しい鶏がいるものか。もっと、威勢よく叫びな、孫空女──。ちゃんとしないと、排便の道術だよ」

 

「──コケコッコウ──、コケッコッコウ──コケッコッコウ」

 

 孫空女が必死になって声を張りあげた。

 そのとき、女陰から玉がぼとりと落ちた。

 しかし、続けてもうひとつも落ちた。

 

「あっ」

 

 孫空女が真っ蒼になった。

 

「失敗したね」

 

「ご、ご主人様、勘弁して──」

 

 孫空女が叫んだ。

 

「ひぎいっ」

 

 次の瞬間、孫空女がうずくまった。

 そして、孫空女の下腹部からごろごとという音が鳴った。

 張天女は、本当に孫空女の身体に排便の道術が送り込まれたということがわかった。

 でも、孫空女の肛門には、まだ、二個の『姫玉』が入っているはずだ。

 

「ほら、尻に入っているふたつを出しな、孫空女。次も失敗したら、さらに排便の道術を追加するよ」

 

「で、できないよ。そんなことをしたら、絶対出ちゃう」

 

 孫空女は悲痛な声を出した。

 

「しょうがないねえ、じゃあ、そのまま苦しんでな──。次は沙那だ。『姫玉』は幾らでもあるからね。お前も失敗したら、排便の道術をかけて、尻の穴を塞ぐからね」

 

 孫空女は、身体をうずくまらせて、苦痛の声をあげている。その全身には鳥肌が立っている。

 孫空女が怖ろしいほどの便意に襲われているのだということを悟った。

 

「いや、宝玄仙殿、そろそろ、張天女にもやらせてやってよ」

 

 美玉が張天女を愛撫していた手を休めて、どんと宝玄仙の前に突き出した。

 

「じゃあ、やってもらうかね。股倉を開くんだ。最初だから、前後の孔に一個ずつで勘弁してやるよ。鶏の泣き声を忘れるんじゃないよ」

 

 宝玄仙が酷薄そうな声で張天女に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 昨夜の狂態が嘘のようだ。

 どうやら、あのまま、いつの間にか、朝になったらしい。

 

 六人でお互いの身体をむさぼり合って、裸身のまま、ひとり、ふたりと倒れるように気を失っていったが、李春が眼を覚ました時には、宝玄仙たちは、もうしっかりと身支度が終わっていて、出立の準備も済ませているようだった。

 

 張天女は、もう屋敷を去った後であり、きちんと朝食の支度も終えていて、温め直して食べるだけの状態になっていた。

 李春も裸のまま寝たはずだが、朝にはきちんと寝衣をまとっていた。

 おそらく、張天女が李春の世話をしっかりとやってくれたお陰に違いない。

 

 また、屋敷の前には、若者が数名集まっていて、それはだんだんと数が増え始めている気配があった。

 早朝に身支度して帰った張天女が、手早く手配をして、漁師の若い者を屋敷の前に集めたに違いない。

 

 屋敷の前に集まった若者たちは、張天女に言われたのもあるが、李春を守るために、本気で集まってくれたようだった。

 李春が次第に集まってくる若い者に礼を言うために屋敷の前に出たところ、絶対に役人には李春は渡さないと、彼らは息まいてくれていた。

 驚いたことに、李春の客人は、ちゃんと西に向かわせたと、耳打ちしてくれる者もいた。

 

 昨夜は、張天女も宝玄仙の供の三人に負けず劣らずの淫虐に、息も絶え絶えの状態だった。

 それでいて、李春や宝玄仙が目を覚ます頃には、朝食の支度をして、屋敷に人を向かわせる手配も終わっているのだ。

 しかも、もう、宝玄仙たちが陸路で西に向かったという噂をでっちあげかけてくれている。

 李春は、張天女の有能さに苦笑する思いだ。

 

 朝食を終えると、家の前の騒ぎが大きくなった。

 李春は、一瞬緊張したが、すぐに、その大きな声で、それは童姉妹の訪問が理由とわかった。

 李春は童姉妹に庭に回るように伝えると、宝玄仙たちを呼んでふたりに引き合わせた。

 

 童姉妹は、姉が童威子(どういし)で妹が童猛子(どうもうし)だ。

 双子の姉妹であり、顔は同じだが、見かけはまったく違った。

 姉の童威子は、肌を露出気味の革の半ずぼんと袖のない服をきており、妹の童猛子は、長袖とくるぶしまでの下袍を着こんでいる。

 童威子は肩までの短い髪だが、妹の童猛子は胸の後ろまでの髪を背中で束ねていた。

 喋り方は童威子が蓮っ葉な物言いで、童猛子は丁寧な喋り方をするが、実際の内面は真逆で、姉に比べれば、妹は顔色ひとつ変えずに、男の喉笛を掻き切ったりすることを平気でやる。

 

「お嬢様から話は聞いているわ、李春の姉貴。この四人を隣国まで送ればいいんだね」

 

 童威子が言った。

 

「そういうことよ。一刻も早く、この人たちをこの国から出したいのよ。いつ出航できる?」

 

「明日の朝には──。船員については手配は終わっているけど、いま水と食料の積み込みをさせているわ。夕方には終わるから、明日の朝でいい、姉貴?」

 

「駄目よ、童威子。だったら、夜のうちに出るのよ。一刻も早くと言ったでしょう」

 

 李春は言った。

 童姉妹は驚いた様子だったが、すぐに頷いた。

 

「さっそく手配します、李春さん」

 

 童猛子が言った。

 

「頼むわ。次の仕事もあるから、なるべく早く戻って欲しいわ」

 

「まあ、ただ、行って戻るだけなら、十日もあればなんとか……」

 

 李春はその返事に満足して頷いた。

 

「……じゃあ、宝玄仙殿、急かせるようで申し訳ないけど、このままこのふたりと一緒に行ってもらえますか。わたしの屋敷にあなた方が立ち寄ったことはわかっているので、遅かれ早かれ、一度は役人もここに来ると思います……。それに、あの青おろちの連中も……」

 

「世話になったね、李春──。本当にこのまま立ち去っていいのかい?」

 

 宝玄仙が言った。

 

「問題ありません。縁と命があれば、また会いましょう。昨夜は愉しかったわ」

 

「そうだね」

 

 宝玄仙が微笑んだ。

 沙那、孫空女、朱姫の三人がそれぞれに別れの挨拶をした。

 本当にこの三人が、昨夜は玉を女陰や肛門から、鶏の鳴き真似をしながら、玉を出し入れしたり、お互いに乳房や陰部を舐め合うような狂態を演じたのだろうか。

 なにか信じられない思いだ。

 あんなことなどなかったかのように、しっかりとした隙のない仕草だ。

 

「たったひと晩だけど、お前のことは友達だよ。この宝玄仙の友情は、かなりの価値のあるものだ。忘れないでおくれ」

 

 宝玄仙が白い歯を見せた。

 

 

 *

 

 

 李春が城郭の中心近くにある穆(ぼく)家の屋敷に到着したのは、夕方前だった。

 張天女が手配をして、すでに話が通っていた。

 侠客の家というよりは、貴族の屋敷を思わせる建物だ。

 李春は出迎えた家人に案内されて、屋敷の中を進んだ。

 

 待合室のような客間に通された。

 その間、李春は顔の付け髭をとって、頭巾で覆わせていた髪を整え直した。

 そして、すばやく化粧をする。

 それで、穆家の家長の穆公を待ち受ける支度ができあがった。

 

 しかし、やってきたのは、穆公ではなく、娘の穆遮蘭(ぼっしゃらん)だ。

 穆遮蘭と李春は幼馴染だ。

 同じような侠客の家のひとり娘として産まれ、同じような境遇の女として育った。

 以前は仲もよかったが、李春が李家から籍を抜き、ふたりの立場が変わったことから疎遠になった。

 

「身体を売って、父の歓心を買おうなんて、あの李春も堕ちたものね。そんなの街の娼婦と変わりないじゃない」

 

 穆遮蘭が不機嫌そうに言った。

 

「なんとでも言ってよ、穆遮蘭……。わたしには、どうしても守るべきものがあるのよ。そのためなら、使えるものはなんでも使うわ。わたしには、なんの後ろ盾もないしね。自分の才覚と力で手に入れなければ、安全も、食べる物も、寝る場所も、戦うための武器も手に入らない。わたしも必死なのよ」

 

 李春は言った。

 

「これが李家を飛び出してまでやりたかったことなの? 身体を売って腰を振り、それで代価を得る。情けないわね」

 

「喧嘩をしにきたの、穆遮蘭? 喧嘩ならいつでも買ってもいいのよ。穆公殿の娘でも容赦なくお尻を引っぱたくわよ」

 

 李春がそう言うと、なぜか穆遮蘭が顔を赤くした。

 

「父は地下で待つそうよ」

 

 穆遮蘭が言った。

 地下というのは何度か穆公と身体を合わせたときに、情交をやった部屋だ。

 これまでに穆公に身体を許したのは二度だが、穆公は必ずそこで李春と情事をした。

 李春は立ちあがった。

 なにかを言おうとしたがっているような表情の穆遮蘭を李春は制した。

 

「案内はいらないわ。あんたの父親の寝首を掻くような真似はしないから安心して──。わたしも、幼馴染の父親に抱かれるのを、その幼馴染に見られたくはないわ」

 

 李春は言った。

 すると、穆遮蘭がなんだか不満そうな表情になった。

 

 穆公は侠客というよりは、貴族といっていいほどの名家としての権威を持つが、貴族が持つような領地も既得権もない。

 持つのは、李家や駝濫家という強力な侠客に対する影響力だけであり、逆になんの力もないからこそ、穆家は存在を許されるといっていい。

 そんな穆家の庇護を正式に受けることで、どこまで駝濫家に対する牽制になるのかわからないが、いくら傍若無人の青おろちといえども、まだ駝濫家は新興だ。

 穆家の権威の力にはまだ頭はあがらないはずだ。

 

 李春はひとりで地下室で待つ穆公のもとに向かった。

 錠前のある二重の出入口を抜け、穆公の待つ部屋に入った。

 穆公は異常に情事を他人に見られるのを嫌う。

 ここでどんな情事が行われるのか、固く口止めされているので、李春は誰にも喋っていない。

 張天女にさえもだ。

 

「よく決心したな、李春──。お前が欲しいものはやるぞ。もっとも、本当に駝濫家と喧嘩になっても、俺が出せるものはなにもない。俺が渡せるのは、穆家という古臭い看板だけだ。その看板にどれだけ連中がまともに頭を下げるかは知らん」

 

 地下室にやってくると穆公は、李春の姿を見てすぐに言った。

 この地下室には取り立てて家具があるというわけではない。穆公が座っているのも小さな卓の前の椅子だ。

 卓の上には果実酒と果物が置いてあるだけだ。

 その代わり、床には身体が冷えないように柔らかい絨毯が敷き詰めてあるし、部屋のあちこちには、木馬責めの道具、被虐者を吊るための滑車、拘束用の柱、その他たくさんの責め具が揃っている。

 

 穆公の趣味はそういうものなのだ。

 それを知られたくなくて、穆公はわざわざ、誰も近寄れない仕掛けをしてた地下の情交用の部屋を作った。

 仕掛けを知っている李春は、ここに来れるが、実は仕掛けを知らない家人や穆遮蘭はここには入れないのだ。

 李春は、娘や家人をここに同行させるなと何度も念を押されている。

 穆公は、自分の倒錯趣味について、特に、娘の穆遮蘭に知られたくないのだ。

 穆遮蘭は、李春がただ普通に穆公と抱き合うと思っている。

 李春は、穆公と向かい合うようにもうひとつの椅子に座った。

 

「わたしと駝濫家の確執はもう、お聞き及びなのですね。さすがに耳も早いですね」

 

「宝玄仙という手配犯のことも知っているぞ。さすがに、俺の力でも、これについては地方政府を抑えられん。あれは国都からのしっかりとし圧力が加わっている。掲陽鎮政府も無視はできん。情報があれば出動するしかない」

 

 なんの力もないと言われている穆家に唯一あるとすれば、それは地方政府に対する影響力だろう。

 掲陽鎮三家の中で、一番格式が古い侠客家ということで、地方政府も三家のうち、一応は穆家を重要視していた。

 もっとも、それは、力のない穆家を重く扱うことで、実際に力を持つ李家や駝濫家を牽制するという意味もあるのだろう。

 

「それには及びません。それに、あの四人は、もう掲陽鎮にはいませんし」

 

 李春は言った。

 もう、そろそろ、出航する頃だろう。

 この情事が終わって海岸の部落に戻る頃には、もうあの四人は童姉妹とともに、この国を立ち去っているに違いない。

 

「ならいいがね」

 

 穆公は言った。詳しいことを穆公は聞こうとはしない。

 その辺りの肚の割り切り方というのはありがたい。

 

「これでお前の漁師部落も小さいと言えども、李家、駝濫家と並ぶひとつの立派な縄張りだ。もっとも、敵対しても穆家は護ってやれんがな。だが、お前も、どうせ力を借りるなら、力のない穆家よりも、実家の李家にした方がいいのではなかったのか? 駝濫家への対抗としてはそっちの方が実際的だ」

 

「わたしは縁を切ったのです。李家とは関わりはありません」

 

 李春はきっぱりと言った。

 

「そうか。だが、李家としてはそう思っていないかもしれないがな」

 

 穆公は意味ありげな口調で言った。

 

「どういうことです?」

 

「李家に対する因縁から距離をとりたい気持ちはわかるが、情報は集めた方がいいぞ。李家がいま、内部抗争を激しくしているのは知らんのか?」

 

「少しは……」

 

 聞いていた。駝濫家に押されている李家だが、それは、頭領を中心とした南陽派と呼ばれる李保(りほ)と一緒にやってきた勢力と、古くからの家人である体制派の争いが原因でもある。

 李保は、李家を継ぐに当たって出身の南陽から有力な家人を連れてきて、彼らに家の重要な地位を与えた。

 それが、古くからの家人の権益を奪うことになり、八年経ったいまでも、両派閥は李家内の内部抗争を続けている。

 

「……南陽派と体制派のことは知ってます」

 

 李春は言った。

 

「体制派か──。李龍派とも言うな。だが、連中がいま中心となって担ぐ神輿を誰にしようとしているか知っているか、李春?」

 

「いいえ」

 

 知らない──。

 体制派、あるいは、李龍派が一枚岩となれないのは、中心となる人物がいないからだ。

 彼らが寄って立つのは死んだ李龍(りりゅう)という先代であり、死んだ人間が中心では、まとまるものもまとまりようもない。

 

「なにを呑気な態度をしている。連中の一部は、自分たちのことを李春派だと称し始めているのだぞ。体制派が担ごうとしているのは、他でもないお前だ」

 

 李春は驚愕してしまった。

 自分を追い出した連中がなにをいまさら……。

 

「まあいい、話はこれくらいだ。そろそろ、始めようじゃないか、李春」

 

 穆公は言った。

 

「そうですね」

 

 李春は立ちあがった。

 そして、いきなり穆公の頬を平手で打った。

 

「奴隷のくせに、随分と偉そうじゃないか──。ほら、奴隷らしい格好になって、ご主人様に挨拶おし──」

 

 李春はそう言って、反対側の頬も張った。

 

「お、お許しください、李春ご主人様──」

 

 穆公は急に哀れな表情になって服を脱ぎはじめる。

 

「ぐずぐずすんじゃないよ、この豚」

 

 李春は服を脱ぐためにうずくまった穆公の尻を思い切り足で押し倒した。

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