※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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275 善行の代償

 必ず国王の手に渡るように手紙をどこかに置いておきたい。

 長女金(ちょうじょきん)が考えたのはそういうことだ。

 

 しかし、どこかに放り投げるだけであれば、紙くずとして捨てられて終わりだ。

 かといって、いくら男に変装しているとはいえ、軍営や宮廷に近づくのはあまりに危険だ。

 それで長女金が考えたのは、国王にもっとも近いと言われている有来有去(ゆうらいゆうきょ)という宮廷道術師のことだ。

 

 切れ者という評判もあり、本来は筆頭宮廷道術師だが、国王の親政を支える要人のひとりでもある。

 長女金が結界牢に押し込まれる二年前もかなり政事にも影響を与えていたが、この二年で病に伏せがちの国王に代わり国政を動かすくらいの重鎮になっているという。

 国都の風評や噂話くらいだったら、あの小さな結界牢でも十分に情報は集まる。

 

 長女金は、有来有去の屋敷に向かった。

 懐の手紙を屋敷の前にいるであろう衛兵にでも渡して去ろうと思った。

 衛兵は間違いなく有来有去に手紙を渡すだろう。

 国王に近い有来有去だけに、国王の心労の原因である金聖姫の行方についての情報については蔑ろにすることはないに違いない。

 

 その途中で飛脚屋があった。

 飛脚屋は、衣類を扱う店に挟まるように建っていた。

 代金と引き換えに手紙を届けるという商売をしている店だ。

 長女金は、ふと思いつき、飛脚屋に手紙を託すことにした。

 自ら有来有去の屋敷に向かうよりも安全であるはずだ。

 それに、飛脚屋に渡しておけば、有来有去の手元に手紙が届く頃には、長女金は国都から遥か遠くに離れているはずだ。

 

 手続きを済ませてから代金を渡して手紙を渡す。

 有来有去の屋敷に届けてもらう日は十日後とした。

 それだけの日数があれば、長女金はもちろん、数日後だと言っていた宝玄仙たちの出立の後であるはずだ。

 しかし、さらに手続きがあるということで、奥の部屋に待たされた。

 

「なんのために待たせるのだ?」

 

 男の口調で、応対している店の者に何度か訊ねた。

 しかし、そのたびに判然としない答えが戻ってくる。

 嫌な予感がした。

 厠に向かうふりをして、裏口からこっそりと店を出た。

 

 そのまま、すぐに城門を脱する。

 宝玄仙たちがいるあの廃屋に向かうことも考えた。

 しかし、尾行の気配を感じて、それを断念した。

 長女金は自分の甘さを歯噛みした。なにが問題だったのかわからない。

 結界牢を脱走した長女金であることを悟られたとは思わないが、有来有去という王政府の重鎮と接触しようとしたことでなんらかの警戒をされたのだろうか。

 

 街道を国都への逆方向に足早に進む。

 やはり、つけられている。

 思い切って山に入る方向に道を変えた。

 そして、駆けた。

 

 それでも、しばらく尾行の気配は消えなかったが、完全に山中に入ると、それもやがて消えた。

 長女金はほっとした。

 とりあえず、そばの岩に腰を降ろす。

 つけていた付け髭を外して、髪を隠していた頭巾を外す。

 腰に提げていた水筒で喉を潤した。

 

 そのとき、なにかの気配を感じた。

 背を倒して地面に転がる。

 周囲は樹木でいっぱいだ。

 さっきまで長女金がいた場所に小さな矢が飛んできた。

 

 そのまま地面を転がる。

 逆方向からも矢──。

 

 いや、周囲の樹木のあちこちから矢がくる。

 人の気配はしない。

 ただ矢だけが飛んでくる。

 気配を殺すことのできる大勢の人間に囲まれている。

 

「くっ」

 

 肩と腕に掠った。

 血が噴き出るがかすり傷だ。

 

 剣を抜く。

 払う。

 

 四方八方から矢が来る。

 それで完全に包囲されているということに気がついた。

 

 剣を風車のように回して飛んでくる矢を払う。

 今度はすべて払ったが、身体の調子がおかしい……。

 もしかしたら、さっき掠った矢に毒が……?

 

「攻撃中止」

 

 女の声──。

 

「お前、もしかしたら、長女金なの?」

 

 樹木と樹木の隙間からひとりの女が出てきた。

 ほかにも多くの人影が一斉に湧いた。

 いや……。

 人じゃない。

 

「よ、妖魔?」

 

 長女金は驚愕した。

 囲んでいたのは人間ではなかった。

 子どもほどの背丈の赤い肌や青い肌をした小鬼が短い弓を番いている。

 そして、完全に囲まれていた。

 

「驚いたわ。あなたが結界牢から脱走したという話は聞いていたけど、どうして国都にやってきて、しかも、なんのために有来有去に接触しようとしたの?」

 

 小鬼を率いている女が言った。

 長女金は声をかけた女の顔を見てさらに驚愕した。

 

「春嬌(しゅんきょう)様──。どうして、ここに?」

 

 長女金は叫んだ。

 二年前に国王の嫡女の金聖姫(きんせいき)と一緒に、賽太歳(さいたいさい)という妖魔と一緒に消えたはずの春嬌が、なぜここにいるのか?

 眼の前で起こったことはまったく、長女金の理解を超えていた。

 

「驚いたわねえ。有来有去の息のかかった飛脚屋に、妙な男がやってきたという情報が入ったから、退屈しのぎに探ってやったら、まさかお前が引っ掛かるなんて」

 

 春嬌もまた驚いている。

 

「ねえ、春嬌様、金聖姫様は──? 金聖姫様はどうしているんです? なぜ、春嬌様が国都におられるのですか?」

 

 長女金は叫んだ。

 しかし、春嬌はそんな長女金の言葉は無視している。

 

「……まあいいわ。後でゆっくり喋ってもらいましょう。有来有去も自分の結界が破れた理由を知りたがっていたしね」

 

 春嬌が言って、さっと手をあげた。

 なにかが背中に刺さった。

 そして、長女金の意識は失われた。

 

 

 *

 

 

「吐いたかい、春嬌?」

 

 行政府庁からやってきて有来有去は人払いをしてから訊ねた。

 軍営の地下牢のさらに地下にある拷問部屋だ。

 

 この最下層にいるのは、有来有去、春嬌、長女金の拷問に当たった二名の兵、そして、長女金だけだ。

 二名の兵については、完全に有来有去と春嬌の支配にある。

 ただの人形と同じだ。

 

 血の匂いが壁にこびりついている。

 すべてが長女金のものではないはずだが、いくらかは混じっているのだろう。

 うつ伏せに倒れている長女金の身体は全身が血で覆われていた。

 

 ここは軍が捕えた者の中でも、特に重要な訊問をするために作らせた場所だ。

 二年前に、有来有去がある程度の国政を自由にできるようになってから作らせた場所であり、通常の牢と拷問部屋のある地下牢のさらに下層にある。

 この場所を使うのは有来有去くらいであり、普通は使わない。

 いまも、たくさんある牢にいるのは長女金ひとりだ。

 有来有去は、この場所を春嬌に提供して、兵を二名つけて長女金に対する訊問をやらせていたのだ。

 

「だいたいね。手こずったけどね」

 

 春嬌が言った。

 有来有去は、石床に転がっている白い裸身を見た。

 まったく動かない。

 死んでいるのはないかと思った。

 

「意識はあるのかい、こいつ?」

 

「さあね……。あったとしても、もう喋れないわよ。舌を切り裂いたから」

 

 春嬌はあっさりと言った。有来有去は呆れた。

 

「舌を切ったら、どうやって白状させるんだよ、春嬌。それに、舌を切ってしまって生きているのかい?」

 

 有来有去は苦笑した。

 

「ちゃんと縫ったから大丈夫よ。だって、こいつは自殺しようとしたのよ。勝手に舌を噛まれては、噛み切った舌が喉に詰まったり、出血で死んだりするのよ。こんな誰もいないような牢でそんなことをされたら死んでしまうじゃないのよ」

 

 春嬌はあっけらかんと言った。

 

「だったら、歯を抜けばいいだろう。歯を──」

 

「もちろん、全部の前歯は抜いたわ。手足の骨を砕いて、全部の爪を剥いでもこいつは、誰に結界牢から脱走させてもらったのか白状しなかったのよ。前歯を金具で引き抜いてから、奥歯に毒剤を垂らして少しずつ溶かしてやって、やっと白状したのよ。お陰で可愛い顔が台無しになったわ。まあ、賽太歳に『治療術』で治させるけどね」

 

「はあ……」

 

 有来有去は嘆息した。

 拷問が好きでやり過ぎるのが、春嬌の悪い癖だ。

 どうやら、相当のところまでやったらしい。

 まあ、情報が得られたのだから、それでいいが……。

 

「わたし決めたわ。こいつを獬豸洞(かいちどう)に連れ返って飼うわ。二年前にはそうは思わなかったけど、久しぶりに見たら、このわたしが食指を動かしたくなるようないい女に成長しているじゃないの。お前、ずっと結界牢に放り込んで管理していたんでしょう? なんで、教えてくれないのよ」

 

「飼う?」

 

 有来有去は言った。

 二年も前に国王の命で結界牢に放り込んだ女将校のことなど忘れ去っていたが、確かに、こんなにいい女だったという記憶はない。

 だが、実際にこうやって改めて接するとなかなかに艶のある女だと思った。

 人間の女を残酷に嗜虐するのが大好きな春嬌が興味を抱くのもわかる気がする。

 

「とにかく、連れ帰るわ。構わないわよね、有来有去」

 

「まあね」

 

 仕方なく頷いた。

 これほどの女とわかっていれば、さっさと結界牢から出して慰み者にしてやればよかった。

 そうする機会はいくらでもあったのだ。

 春嬌に比べれば、有来有去の嗜虐は陰湿なだけで、残酷なものではない。

 同じように嗜虐の好きな性癖だが、春嬌のように相手を痛めつけたり、血を流させたりするのは有来有去の趣味ではない。

 

「それよりも、俺は本業で来たんだけどねえ、春嬌。脱走囚のひとりくらいだったら、そのまま行方不明で始末はつくけど、一応、結界牢を襲った連中の始末はつけときたいんだ。結界牢が破られたというのは、かなりの噂になっているからね」

 

「それがどうしたのよ?」

 

「俺はこの国で一番の宮廷道術師ということになっているんだ。その俺の道術結界が破られたとあっては、俺の立場も微妙なものになる。新参者の俺が国政の中心にいるのを歓ばない連中も多くてね。俺に隙があれば足を引っ張ろうとしている連中のことを考えても、結界牢を襲撃した者たちは捕えておきたい」

 

「はっ、捕らえたとしても、実際に破られたことには変わりないじゃないのよ」

 

 春嬌が笑った。

 

「それでもちゃんと襲撃した者が捕えられれば印象も違う。あそこには、警備の者もいたしね。そいつらが手引きしたと、下手人に証言させてもいい。そうすれば道術が破られたことにはならない。嘘の供述書を刻ませる手段はいくらでもある。春嬌のように残酷なのは趣味じゃないけど」

 

「なに言ってんのよ、有来有去。あれは正面から道術で破られたのよ。わかっているんでしょう? 所詮、わたしらは二流の道術遣いよ。自覚なさい」

 

 春嬌の笑い声は悪意の籠ったようなものになった。

 

「そうはいかないよ。この国一番の道術師の道術が、あっさりと破られたとあっては、国政に対する信頼も損なわれるしね」

 

「なにが信頼よ──。人間の国の政事(まつりごと)などどうでもいいでしょう」

 

 春嬌は床に転がっている長女金のうつ伏せの裸身に唾を吐いた。

 長女金はなんの反応もいしない。

 手足はおかしな方向に曲がっている。

 全身は火傷と鞭傷でいっぱいだ。

 

 わずか半日でこれだけの拷問をしたとあっては、本当に生きているのだろうか。

 しかし、かすかに呼吸で背中が動いているから春嬌の言う通りに死んではいないという状態なのだろう。

 

「俺は、これでも朱紫(しゅし)国王の信頼の厚い筆頭宮廷道術師なんだよ。そのうち、宰相になるかもしれん。失点は挽回したいし、稼げる点数は稼いでおきたいんだ」

 

「まったく、お前は真面目すぎるのよ、有来有去。なんのために、わたしたちが五年前に宮廷にやってきたか覚えているんでしょうねえ? 人間の国なんてどうでもいいのよ。わたしたちの家族と妖魔の里を滅ぼしたこの国そのものを奪うこと──。それが目的なのよ。それが筆頭道術師だか、宰相かわからないけど、人間の世界の権力欲に憑りつかれてきたんじゃないの?」

 

「もちろん、志は忘れていないよ、姉さん」

 

 有来有去は言った。

 約二十数年前──。

 

 春嬌、有来有去、は、妖魔と人間の女の間に生まれた半妖として産まれた。

 生まれたのは人間の棲む場所じゃない。

 一族がひっそりと暮らす妖魔の里だ。

 それは朱紫国でも北の僻地の果てにあった。

 

 小さな里であり、自然そのままの森に囲まれて、百匹ほどの妖魔がそこで暮らしていた。

 妖魔の里といっても人間の村にも近く、有来有去たちの父親のように人間と親しい妖魔も少なくはなかった。

 もっとも、結婚して子まで作ったのは、有来有去の父親と母親だけだったが……。

 

 三人は春嬌を姉とする兄弟なのだが、年長の春嬌と二番目の有来有去は見た目が人間に近く道術もそれほどではなかった。

 末の賽太歳だけが、妖魔である父親の血を濃く継いでいて妖魔そのもの姿をしていた。

 そして、ずば抜けた霊気を持っていた。

 

 しかし、三兄弟が幼い頃に、人間の軍がその妖魔の里を突如として襲った。

 いまの王の三代前の王だ。

 

 妖魔の里といっても近くの人間の村とも共存する牧歌的な土地だ。

 人間の軍に対する備えなどない。

 この国から妖魔を一層するという名分により妖魔の里は圧倒的な大軍でやってきた国王軍になすすべなく滅ぼされた。

 妖魔の道術も圧倒的な武器による攻撃の前には役には立たなかった。

 ほとんどの妖魔が武器で殺され、あるいは生きながらに焼かれた。

 有来有去の父も、人間だった母もそのときに死んだ。

 

 一族の生き残りは数匹だった。

 春嬌、有来有去、賽太歳の兄弟は、そのわずかに生き残った妖魔によって、さらに環境の厳しい山岳に逃げ延びて、そこで育った。

 

 それから二十数年──。

 

 まだ赤子だった賽太歳は、三人の中でももっとも強大な霊気を持っていて、同じように滅ぼされたこの国の妖魔の生き残りを束ねるだけの霊気を持っていた。

 勢力を整え、人間から奪われた土地を奪い返し、時には同じ妖魔同士で争いながら、この国の北にある麒麟(きりん)山という場所に、もう一度妖魔の里を作った。

 あのとき人間に滅ぼされた妖魔の里のようなものではない。

 はっきりとした軍備を備えた妖魔の城だ。

 

 獬豸洞(かいちどう)──。

 それが、いまの三兄弟の新しい故郷だ。

 

 獬豸洞に棲む妖魔王となった賽太歳に対して、有来有去と春嬌は、自分たちの最初の故郷を滅ぼしたこの国の王家に対する復讐を行うことにした。

 

 しかし、手を下したあの王はすでに鬼籍にある。

 春嬌と有来有去の復讐の相手は、この国そのものになった。

 人間の手にあるこの国の政事を半妖である自分たちが奪う──。

 

 それがふたりの復讐になった。

 そういう点で賽太歳は心根が優し過ぎるところがあった。

 人間の世界は人間、妖魔の世界は妖魔──。

 そうやって分かれればいいじゃないかと賽太歳は言っている。

 

 そのたびに、春嬌と有来有去は、同朋が残酷に殺されたあの日のことを賽太歳に話さねばならなかった。

 しかし、赤子だった賽太歳には、春嬌や有来有去のようなあの日の鮮明な記憶がない。

 ふたりに比べて、絶対的な復讐心に賽太歳は欠けているところがある。

 

 いずれにしても、有来有去と春嬌は、半妖であることも、姉弟であることも隠してこの国の国都に道術師としてやってきた。

 能力の高い道術師は、どの国でも歓迎される。

 有来有去と春嬌が、この国で高い地位を築くのは難しいことではなかった。

 

 それが五年前だ。

 

 そして、有来有去は国政にも参加する宮廷道術師として、春嬌は国王の家族に近い侍女としての地位を築くに至った。

 朱紫国の宮廷にしっかりとしたふたりの地位を作るのに二年かかった。

 

 二年前──。

 

 国王の娘を浚って賽太歳の奴隷にしてしまおうと考えたのは春嬌だ。

 国王は多くの子がいたが誰よりもその金聖姫を大切にしていた。

 その金聖姫を王から取りあげて、妖魔の王である賽太歳の奴隷にしてしまおうというのだ。

 それは愉快な思いつきだと有来有去も賛成した。

 

 その頃の春嬌は、その金聖姫という国王の嫡女の侍女兼護衛のような立場にあり、金聖姫を性技と道術でたらし込んで純情な性奴隷に仕立てあげていた。

 春嬌は、密かに賽太歳を夜な夜な侵入させては、金聖姫を賽太歳の慰み者として抱かせた。

 

 性に未熟な王女が春嬌と賽太歳から与えられる性の虜になるのは長い時間はかからなかった。

 金聖姫は賽太歳のもとに行くことに同意し、あの二年前の誘拐劇となった。

 金聖姫に長患いのふりをさせて、湯治場に向かう道中で賽太歳に拐わせたのだ。

 

 ついでに、それを機会に春嬌も一度、獬豸洞に戻ることにした。

 有来有去以上に人間を憎んでいる春嬌には、それ以上、国王の信頼する女道術師の演技をするという屈辱に耐えられなくなっていたのだ。

 そのとき、春嬌とともに護衛隊を指揮した女将校が、眼の前の長女金だったのは偶然のことだ。

 

「いずれにしても、その長女金は好きにしていいよ、姉さん。賽太歳を呼んで連れ帰るんだろう。そのとき傷も治してやれよ。ただ、結界牢を破った連中は、しっかりと、こっちの政事としてやらせてもらう。だから、この長女金から聞き取った情報を教えておくれよ、姉さん」

 

 有来有去は言った。

 

「へっ──。まあ、いいわ。宝玄仙という女の道術遣いだそうよ。国都郊外の空き家を借りて隠れているらしいわ。捕えるつもりだったら急いだ方がいいわね。こいつによれば、数日後には出立するようなことを言っていたらしいわ」

 

 春嬌は長女金の身体の下に足を入れると乱暴にひっくり返した。

 さらに惨たらしい傷のある長女金の裸身がそこに現れた。

 乳房の片方が完全につぶれている。

 傷のない場所を探すのが大変なくらいに全身に拷問の痕がある。

 

「すぐに軍を動かすよ」

 

「それというまでもないことだけど、あんたの結界をいとも簡単に破ったくらいの道術遣いよ。それなりの準備をすることね」

 

「確かにそれは言うまでもないことだよ、姉さん──。ところで、その家の場所は?」

 

 軍の出動の準備は終わっている。

 もちろん、道術遣いに対する備えもできている。

 すぐに出動できる態勢が整えられていて、後は命令するだけだ。

 有来有去の指示があれば、彼らはこの瞬間にも出動する。

 

 春嬌が、大した興味もなさそうに、宝玄仙という女道術遣いのいる場所を告げた。

 

「ねえ、ところで、連中がもしも俺の食指が動くような女だったら、俺がもらうからね」

 

 有来有去は言った。

 

「まあ、それは相談しましょうよ。わたしも、新しい性奴隷が欲しいわ」

 

「その長女金がいるじゃないか」

 

「何人いたっていいじゃないのよ。ちょうど、この前までいた三人が死んだから、いま飼っている人間の奴隷はいないところなのよ」

 

「金聖姫は?」

 

「あいつは別でしょう。賽太歳が怒るわ」

 

「確かにね」

 

 有来有去は肩を竦めた。

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