※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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279 管理される排便[一日目(二)]

「手配しろ。背の高い赤毛の女。首と手足に赤い輪の飾りをつけている。それが孫空女。栗毛の女、特徴は……。それは、沙那。そして、見た目が十六くらいの少女、それが朱姫という女だ。朱姫は道術を遣う……」

 

 有来有去(ゆうらいゆうきょ)は、淡々と指示した。

 一方で、宝玄仙を色責めで訊問している現場に呼び出した軍の将校は、台に磔にされている宝玄仙の裸身を欲情まるだしの視線で眺めながら、残念そうに出ていった。

 

「……最大の特徴は、三人ともかなりの美女ということだ。それだけの特徴があれば、見つけることは難しくないはずだ……。それと、城郭に立て札で掲示しろ。宝玄仙の処刑は五日後だと……。こいつの仲間は、必ず救出しようと城郭にやってくる」

 

 ふと見ると、宝玄仙が溢れ出そうな淫情に襲われている汗びっしょりの裸身をぐったりとさせて、悔しげに有来有去を睨んでいる。

 最初に乳首を責めて絶頂させただけで、一度も絶頂させていない。

 宝玄仙が最初に達したときに、宝玄仙の性の弱点はすぐにわかった。

 乳首もそうだが、この女は異常に尻が弱いのだ。

 乳首の責めは快楽が暴発する逆鱗だが、肛門の責めは快楽だけではなく心の屈服に通じる弱点だ。

 

 有来有去は、霊気を持った女が絶頂したり、あるいは、絶頂寸前の淫情に溢れた状態になると、その女の心が読めるようになるのだ。

 その能力で知ったが、どうやら宝玄仙は、かなり以前、かなりの恥辱的な時間を過ごしたことがあるようだ。

 尻の責めはそれを思い出させるきっかけになる。

 

 尻で欲情すると、当時の弱い自分をどうしても思い出してしまうようだ。

 そのため、この女は尻を責められるのを嫌う。

 

 だから、有来有去は徹底的に尻を責めた。

 しかも、一度も達しさせない焦らし責めだ。

 宝玄仙の首には、絶頂の感覚を遮断してしまう特殊な霊具を嵌めさせている。

 この首輪をされると、どんなに欲情しても絶対に絶頂できない。

 快感はあるが絶頂の感覚だけが遮断されるのだ。

 この状態で責められると、どんな女でも与えられない淫情に狂ったようになり、発散できない快楽でのたうち回る。

 宝玄仙も例外ではなかった。

 

 徹底した尻責めにより、本来であれば十数回は達しているはずの絶頂をすべて寸止めで遮断されて、宝玄仙は与えられない快楽を求める雌そのものになった。

 そうやって、宝玄仙を責めながら、捕えることのできなかった宝玄仙の仲間の名や特徴を質問した。

 宝玄仙は必死にそれを頭から払いのけようとしたが、それは無理なことだ。

 沙那、孫空女、朱姫という三人の特徴を洗いざらい宝玄仙の頭から出し尽くさせると、有来有去は軍の将校を呼んで、その三人を手配させた。

 

 その女たちが宝玄仙を見捨ててどこか遠くに行かない限り、おそらく簡単に捕まるだろう。

 そして、宝玄仙の思考を読み取ったことによれば、その三人が宝玄仙を見捨てる可能性は皆無のようだ。

 

「お前の悔しさが読めるぞ、宝玄仙」

 

 有来有去は言った。

 度重なる絶頂寸前の焦らしにより、宝玄仙の淫情はこれ以上ないというくらいに膨れあがっている。

 この状態の宝玄仙の心を読むのはいとも容易い。

 

「どうだ、首輪を外して欲しいか?」

 

 有来有去は、宝玄仙の肛門に指を入れて無造作に動かするとともに、周りの兵に命じて、宝玄仙の乳首や肉芽、そして、女陰そのものを指でいじくらせた。

 それでなくても、宝玄仙の身体には、通常の数倍の感度にあげる催淫剤を塗りたくっている。

 この油剤を塗られれて、これだけの刺激を同時に受ければ、本来なら激しい連続絶頂でのたうちまわっているはずだ。

 そのすべての快楽を受けたまま、宝玄仙は絶頂ができないでいる。

 宝玄仙はすでに半狂乱だ。

 

「お前が屈服するまで、その首輪はそのままだ。処刑執行の五日後まで、発散できない苦しみでのたうち回るといい──。そうだ。処刑は一日の晒しの末の公開絞首刑だからな。そのときには外してやるぞ。尻に霊具も挿してやろう。五日間、焦らし責めで溜めに溜めた快楽を発散しながら死ぬといい。せめてもの慈悲だ」

 

 有来有去は、尻をいじくりながら笑った。

 宝玄仙が、身体を震わせて、おかしな奇声をあげた。

 

「あがあああああっ──く、屈服するよ……。屈服するから──」

 

 やがて、宝玄仙が叫んだ。

 しかし、有来有去はそんな宝玄仙を嘲笑った。

 

「それだけ快楽を溜め込めば、お前の心は俺に筒抜けだ。お前のいまの言葉が口だけなのは俺にはわかる。あと、三日も経って、本当に屈服としたら外してやることを考えてやる」

 

「あああっ、く、屈服してるだろう――。もう話すことなんかありゃしない。ぜ、全部、心読んだんだろうがあっ」

 

 宝玄仙が最後の力を振り絞るように泣き叫んだ。

 有来有来はそれを冷ややかに眺めている。

 

「いいか、宝玄仙、屈服というのは、もしも道術が戻り、自由になっても、もう心が俺に逆らえない状態になることをいうのだ。そうまでなったら、最初に言ったとおりに、お前が実行犯でないことを説明しろ。お前の仲間でも誰でも、主犯を作れ──。自分の都合のいいように供述しろ」

 

「ああああ……あ、あ、あ、ああああ──」

 

 宝玄仙が鼻水と涎を撒き散らしながら苦しそうに首を横に振る。

 もしかしたら、三日もかからないかもしれないな──。

 有来有去はそう思った。

 

 そのときだった。

 その宝玄仙の首ががっくりと落ちた。

 有来有去に流れ込んでいた宝玄仙の思考が不意に途絶えた。

 

「気を失ったか──。まあいい、じゃあ、次の責めに入るぞ。気を失っている間にこいつに浣腸をしろ。そして、肛門に栓をしてしまえ」

 

 有来有去は言った。

 

 

 *

 

 

「変わるわ、宝玄仙」

 

 闇の中に自分が浮かんでいる。

 宝玉だ。

 どうやら自分の意識体の中のようだ。

 

「い、いや、大丈夫だよ、宝玉……。お前の出る幕じゃない。お前が無理矢理、わたしの意識を失わせたのかい?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「このままだと、本当にあなたは屈服させられるわ。でも、わたしなら大丈夫よ。こういうときのために、わたしという存在がいるのよ。あなたに耐えられないことでもわたしには耐えられる。わたしは、この身体の被虐担当なのよ」

 

 宝玉が自虐気味に笑った。

 

「馬鹿を言うんじゃないよ。お前がなによりも、焦らし責めに弱いのはわたしも知っているんだよ。快楽を渇望するお前は、その快楽を与えられないという責めに弱い。あの有来有去は、本当に屈服するまで、わたしたちの身体を責めるよ。お前だと屈服されてしまうよ」

 

「わかっているわ。だから言っているのよ。わたしが屈服担当だと」

 

 宝玉の表情は真剣だ。

 それで、宝玄仙は宝玉の思いが理解できてしまった。

 

「わたしが有来有去の責めに屈すると思っているんだね。見くびられたものだよ」

 

「あなたは、屈服するわけにはいかないのよ。自分でもわかっているんでしょう? わたしたちは、本来はひとりであるはずの人格が、強引にふたりになってしまった存在よ。わたしが弱い宝玄仙、あなたが、強い宝玄仙──」

 

「いや……」

 

「強い宝玄仙のあなたは、相手に屈服すれば存在を失ってしまうわ。それに比べれば、わたしは屈服してもいいのよ。闘勝仙に屈服したわたしが、いまでも存在しているように、わたしは復活できるわ」

 

「でも、お前は屈服してしまった闘勝仙に依存する存在になり、闘勝仙がいなくなることで、二年間も表に出て来られなくなったじゃないか。忘れたのかい」

 

「……でも、二年で闘勝仙の呪縛から離れることはできたわ。もしも、わたしが埋もれることがあっても、わたしはあなたを通じて、あの娘たちを感じる。そして、復活するわ」

 

「宝玉……」

 

 宝玄仙はそれ以上、なにも言えない。

 宝玄仙自身もわかっている。

 いまの宝玄仙側の人格は、他人に屈しない存在になることを目的に、宝玉と分離した人格だ。

 その宝玄仙が屈するということがあれば、宝玄仙は宝玄仙でいられなくなる。

 

 それは理解できる。

 しかし、それでは宝玉が……。

 

「わかった。いまは、お前に任せる。しかし、交替にしよう。なんとかふたりで五日間耐えようじゃないか。あいつらがなんとかしてくれるよ。あいつらがどうしようもなければ、一緒にこの身体で滅ぶだけだ。ひとりじゃあ、耐えられないけど、ふたりなら倍は耐えられるはずだよ」

 

 宝玄仙は言った。

 

「そうね……。でも、あなたは間違っているわ。この身体は滅びはしないわ。沙那の中に、あなたの『魂の欠片』がある。あの娘たちは、必ず、あなたを復活させてくれるわ」

 

「お前もだろう?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「『魂の欠片』はひとつよ。蘭玉が作った『魂の欠片』はあなたのものよ。わたしではないはずよ」

 

 宝玉がそう言ったので、宝玄仙ははっとした。

 『魂の欠片』は、道術遣いの精神を土台にして作るものだ。

 あのとき、儀式を受けたのは、宝玄仙の意識だった。

 そうであれば、沙那に入っている『魂の欠片』は、宝玄仙のものであり、宝玉ではない。

 つまり、宝玉は復活できない。

 

 だが、同時にもうひとつのことも考えた。

 そう言えば、あのとき、お蘭は『魂の欠片』を三個持っていた。

 そのうちのひとつを沙那に入れたのだ。

 そして、残りのふたつを片付けた。

 それがなにかと訊ねたのだが、お蘭は訳がわからない様子だった。

 あのときは、それで納得したが、よく考えると、あれは宝玉の『魂の欠片』ではなかったのだろうか?

 

 お蘭があの儀式をしたとき、常識であれば、ひとつの身体にひとつしかない人格なのに、実際には宝玄仙の身体にふたつの人格があったので、それにより、宝玉の分の『魂の欠片』までも、できあがってしまったではないだろうか。

 そうであれば、『魂の欠片』がひとつでなかったのは納得できる。

 だが、そうであれば、なぜ、二個ではなく、三個だったのだろう……?

 いずれにしても、あれのひとつが、宝玉の魂の欠片だったとしても、あれはお蘭の手元か……。

 

「ところで、わたしが出ていくことで、ひとつの身体に、もうひとつの人格が存在することが有来有去にわかってしまうわね。まさか、身体を欲情させたり、発散できない快楽を溜めさせることで心を読むなんてね」

 

 宝玉が言った。

 

「それは仕方がないさ。だけど、ふたつの人格が共存していることがわかってしまっても、別に実害もない」

 

「ところで、宝玄仙、わたしたちの道術を奪ったのは誰だと思う?」

 

「お前は、どう思うんだい、宝玉?」

 

 宝玄仙は言った。

 心を読まれることはどうでもいいが、問題はこの宝玄仙の身体から、道術の能力が奪われてしまったという事実だ。

 なにかの霊具や術で道術が封印されているのとは違う。

 能力そのものが、宝玄仙たちの身体から喪失した。

 それはわかるのだ。

 

「最初にあなたの考えを聞きたいわ。わたしは、あなたを通じてしか有来有去と接していないもの。わたしたちの道術を奪ったのは、有来有去だと思う?」

 

「違うね。心を読めるというのは驚きだったけど、道術を奪ったのはあいつじゃない。わたしたちの道術を奪うには、それ相応の霊気が必要だ。あいつには、それだけの霊気はない。道術が遣えなくても、霊気の大きさくらいはわかるからね。あいつは、能力が特殊化しているだけで、大きな霊気は持っていない」

 

「じゃあ、あなたが覚醒した直後に見たあの妖魔?」

 

 宝玉が言った。

 

「お前にも妖魔が認識できたのかい、宝玉?」

 

「あなたを通じてね──。間違いないわ。あれは妖魔よ。あなたを通じて、とてつもなく巨大な霊気も感じたわ。わたしたちの霊気を遥かに凌ぐほどの……」

 

 宝玉の言葉に宝玄仙は唸った。

 宝玄仙もまた、宝玉と同じことを感じていた。

 妖魔であろうと、道術遣いであろうと、宝玄仙の霊気を凌ぐ存在などに、これまで宝玄仙は接したことがない。

 

 しかし、あのとき、一瞬だけ感じた霊気──。

 あるいは妖魔の気……。

 

 あの霊気の持ち主だったら、宝玄仙から道術を持ち去るなどという芸当ができたのは理解できる。

 

「あれは、賽太歳(さいさいさい)という妖魔だと思うかしら、宝玄仙?」

 

 宝玉が言った。

 

「さあね。そんなことわかるもんかい。強い妖魔であることだけは確かだろうけどね。その妖魔と一緒に、有来有去がいたことだけは確実さ。わたしは、その妖魔と有来有去が、わたしが起きる直前まで一緒にいたのを見たのさ」

 

「じゃあ、わたしの考えを言うわ、宝玄仙。あなたを通じて、わたしもあの長女金(ちょうじょきん)の言葉を聞いていたけど、宮廷道術師だった春嬌(しゅんきょう)という女従者は、なんらかのかたちで賽太歳という妖魔と結びついていたんでしょう? あの金聖姫(きんせいき)の誘拐は、金聖姫と春嬌が賽太歳とともに仕組んだ狂言かもしれないと長女金は言っていたじゃない」

 

「まあ、そんなことを言っていた気がするねえ」

 

 長女金がそれを話したのは、主に沙那に向かってだ。

 宝玄仙は横にいただけで、大して聞いてもいなかった。

 宝玉は、表に出ている宝玄仙を通じて、宝玄仙が接したことを宝玉も接することができるために、その話を認識できたのだろう。

 

「だったら、賽太歳という妖魔は、この宮廷の一部と深い関係を持っていると考えるのが自然よ。春嬌が賽太歳となんらかの関係を持っていたのなら、有来有去も道術師ということで賽太歳と深い関係である可能性が高いわ。そして、有来有去は、賽太歳という強い妖魔に頼んで、わたしたちから霊気を奪わせたのよ」

 

「まあ、そうかもしれないね。そういうことは、沙那に考えさせれば確かだろうけどね。いずれにしても複雑な背景がありそうだね。有来有去もまた、王女を浚った賽太歳という妖魔と関係しているということかい?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「いずれにしても、わたしがいくわ」

 

 宝玉が言った。

 宝玄仙は意識の中に埋もれた。

 

 

 *

 

 

 肛門に違和感があった。

 いや、お腹にも……。

 

「ひいっ──な、なにこれ? な、なにをしたの、これは?」

 

 宝玉は悲鳴をあげた。

 周りの男たちが一斉に笑った。

 

 宝玉は台の上には載らされてはいたが、宝玄仙がされていたように、台の上に道術で磔にはされていなかった。

 その代わり、左右から身体を押さえられて、うつ伏せにうずくまる姿勢にされていた。

 そして、お尻になにかが挿さっている。

 

 さらに異常なほどの腹痛──。

 この感触は、意識を失っている間に、大量の浣腸をされたのに違いない。

 しかも、肛門になにかを挿入されて塞がれている。

 

 覚醒と同時に、猛烈な便意が宝玉を一気に襲っていた。

 しかも、焦らし責めを続けられた異常なほどの淫情に襲われている。

 

 いきたい……。

 

 もう少しで昇天することができるのに、それが直前で止まっている。

 

 苦しい……。

 なにが苦しいかわからない。

 

 便意が苦しい……。

 火照りきった身体が苦しい……。

 発散できない快感が苦しい……。

 

「こ、こんなの酷いわあ──。か、厠に……厠に行かせて──」

 

 宝玉は、台の上で身体を暴れさせた。

 その宝玉を兵が支える。

 

「どうします、有来有去様? 厠に連れて行ってくれと言っていますけど?」

 

 兵のひとりがげらげらと笑いながら言った。

 激しい腹痛に泣き叫びながら、宝玉は正面に立っている有来有去を見た。

 周囲の兵は苦しみに悲鳴をあげる宝玉を笑っていたが、有来有去は真顔だった。

 驚いたような表情をしている。

 

「誰だ、お前?」

 

 有来有去は呟くように言った。

 

「ほ、宝玄仙よ──。な、なに言っているのよ。お、お願いよ。からかわないで。気を……気を失っている間に浣腸をしたのね。しかも、栓まで──。あ、あんまりよ──」

 

 宝玉は悲鳴をあげた。

 

「宝玄仙?」

 

 有来有去は首を傾げている。

 どうやら、宝玄仙が消えたことと、宝玉が出現したということには悟ったが、それがひとつの身体にふたつの人格が宿っているということに結びつかないようだ。

 途方に暮れた顔をしている。

 だったら、途方に暮れさせればいい。

 

「ひとつの身体に、ふたつの人格だと……?」

 

 有来有去が言った。

 そうだった……。

 この男は、この身体に淫情を溜めさせることで、心を読むのだ。

 だから、宝玉が考えたことは筒抜けになってしまう。

 

「そういうことか……」

 

 有来有去は納得がいって微笑んだ。

 

「まあいい、じゃあ、ふたり揃って屈服させるだけだ」

 

 有来有去が宝玉にぎりぎりまで顔を寄せてささやいた。

 

「外に連れて行け。こいつに、女囚の大便について躾けてやれ」

 

 賽太歳は言った。

 宝玄仙は兵たちによって、台から下ろされた。

 

 どうやら、どこかに連れて行かれるらしい。

 宝玉は、兵たちに縄尻を取られて歩かされながら、有来有去の前を通り過ぎた。

 有来有去にちらりと視線をやる。

 

 この男が賽太歳という妖魔と結びついている……。

 それは、なにかの手札として使えないだろうか──。

 そう考えた。

 

 いきなり、宝玉の顎が力いっぱい握られた。

 そのまま顔を壁に叩きつけられる。

 

「ひいっ」

 

 宝玉は、首縄で両手首を頭の後ろで縛られている。

 なんの抵抗もできずに、力一杯身体と横顔を壁に叩きつけられた。

 

「お前、どうして、それを……」

 

 有来有去が怖ろしい剣幕で睨んでいる。

 それで、はっとした。

 

 また心を読まれた。

 宝玉が有来有去と賽太歳の関係を考えてしまったために、その思念を有来有去は読んだのだ。

 

「どうやら、後五日で、本当に屈服させる必要がありそうだな。公開の刑場であらぬことを叫ばれても困るしな」

 

 有来有去が、宝玉の顎を掴んだまま、はっきりと言った。

 

「連れて行け。大便をしたら水で尻を洗ってやって、ここまで連れて来い。今夜は、徹底的にやるぞ」

 

 有来有去が宝玉から手を離した。

 次の瞬間、怖ろしい衝撃が肛門に加わった。

 

「ひぎゃあああっ──や、やめてえええぇ──あぎいいいっ──」

 

 宝玉はその場に崩れ落ちた。

 肛門に施された栓が強い振動をしながら回転し始めたのだ。

 浣腸液の充満した直腸をぐるぐると肛門栓の霊具で拡散される苦しみはたとえ用がない。

 

 快感ではない。

 あるのは、耐えられない苦痛だけだ。

 しかも、気絶さえも生易しさすぎると言わんばかりの衝撃的な痛みが走る。

 宝玉は泣き叫んだ。

 無理矢理に縄で引き起こされて歩かされる。

 

「これで尻の張形を操作できる。なにも喋ることができないくらいにいたぶり続けろ」

 

 有来有去がなにかの板の様なものをひとりの兵に渡しながら言った。

 宝玉は、首縄を引っ張られながら、軍営の廊下を裸足で歩かされた。

 さすがに肛門に挿さって栓になっている張形を動かされながら歩くのは無理だった。

 兵たちが周囲を取り囲み、張形を動かされてうずくまり泣く宝玉を無理矢理に立たせて歩かす。

 

 だが、すぐに宝玉はどんなに縄を引っ張られても立てないようになってしまった。

 それで、やっと張形をとめてもらったが、それは少しの時間だった。

 しばらく進むと、また、張形を動かされる。

 そして、宝玉は振動による苦痛に泣き叫ぶ。

 

 どこをどう進んだのかわからなかった。

 迷路のような廊下を歩き、幾つもの階段をやっと昇りきると、いきなり明るい陽射しが宝玉を襲った。

 軍営の庭に出たのだ。

 

 捕縛した罪人を監禁して取り調べをする兵舎は、軍営全体の隅にあるようだった。

 遠くには、幾つかの兵舎の建物と、訓練をする隊の姿も見える。

 いまは朝なのだろうか──。

 

 そんな軍営を横切りながら、宝玉は、何度も張形を振動させられて、転びながら歩かされる。

 汗びっしょりの身体にまとわりついた土で宝玉の身体は泥だらけになった。

 しばらくいくと厠の並んでいる場所にやってきた。

 宝玉が足早にそこに向かうと、ぐいと縄を曳かれて引き戻された。

 

「ひいっ」

 その場に倒れる。

 

「どこに行くんだ。そっちは、兵用の厠だ。お前は、そこだ──」

 

 兵たちが、厠のそばの土を示した。

 そこには、小さいが深い穴が掘ってあった。

 

「そ、そんな、厠で……厠でさせてくれてもいいじゃない──」

 

 宝玉は悲痛な声をあげた。

 

「つべこべ言うんじゃない。まだ、外でさせてもらえるのはありがたいと思え。普通は、罪人の便など、そのまま垂れ流しだ。お前は、まだ、訊問が続くから、特別に外でさせてもらえるんだ。部屋が臭いと俺らが溜まらねえからな」

 

 そう言われながら、無理矢理に、穴の上にしゃがませられる。

 もう、口を開くのも苦しい。

 

「勘忍……勘忍を──」

 

 宝玉は言っていた。

 だが、突然、また肛門の張形が振動しはじめる。

 宝玉は悲鳴をあげてその場に崩れた。

 

 なにかがかちりと音がした。

 肛門栓となっていた張形が弾け飛んだ。

 外に飛び出しても振動を続ける張形が地面に飛んでいくのと同時に、肛門から汚物が一気に吐き出された──。

 

 

 *

 

 

 有来有去は、宝玉と兵が去った地下牢の訊問部屋で、連中が戻ってくるのを待っていた。

 壁がこつこつと叩かれた。

 

 有来有去は、音がした壁の隠し扉を操作する留め具を動かした。

 壁だった場所が左右に開いて、中に小部屋が登場した。

 そこに春嬌が座っていた。

 

「時間はないよ、姉さん──。退屈だったら、『移動術』で俺の屋敷に戻るといい」

 

「退屈はしないわよ、有来有去。あの気の強そうだった宝玄仙が哀れに泣き叫ぶなんて、いい見世物だったわ。わたし、ぞくぞくしちゃった。やっぱり、獬豸(かいち)洞に連れて行かせてよ」

 

 春嬌は言った。

 

「さっきのは、宝玄仙じゃないよ、姉さん。どういうことかわからないけど、あの宝玄仙の身体には、別の人間も存在している。それが顔を出したんだ」

 

 すると春嬌が目を丸くした。

 

「へえ……。まあ、それはいいわ。だったら、尚更よ。そういう不思議な女を調教してみたいわ。どうせ、道術は賽太歳に奪わせたんだし、人格がひとつであろうと、ふたつだろうと無力な存在なんでしょう?」

 

「そうはいかなくなった。五日後の処刑は、予定通りに行わなければならない。俺たちと賽太歳の関係を悟られた。心を読んでわかったんだ。どうやら、賽太歳が消える直前に、姿を見られてしまったようだ。それで、俺と妖魔との関係を悟ったようだ。姉さんと賽太歳との関係とも結びつけてね」

 

「へええ」

 

 春嬌は気のない返事をした。

 どうでもよさそうな口調だ。

 

「こうなったら、五日間でなにがなんでも屈服させるしかない。処刑場に連れて行き、いきなりいろいろと叫ばれても困る。屈服させて黙ったままそのまま死んでもらう」

 

「公開処刑の前に、ここで殺せばいいじゃない」

 

 春嬌はあっさりと言った。

 

「それは最後の手段だよ、姉さん。近衛軍の連中からは、宝玄仙の取り調べは、向こうでやるから身柄を渡せとしつこく迫られている。道術遣いは、道術師隊が訊問する決まりだから突っぱねてはいるけどね……」

 

「なによ、それ」

 

「向こうも、いろいろと情報を持っている。もしかしたら、長女金を逃がした者ということで、宝玄仙を調べれば、金聖姫の行方について、なにかがわかるかもしれないと思っているのかもしれない」

 

「だったら、尚更、宝玄仙は殺さねばならないわ」

 

 春嬌は言った。

 

「どうしても引き渡すしかなくなればそうする。でも、一番いいのは、このまま五日後に死んでくれることだ。近衛軍の連中が、金聖姫の行方を知っているかもしれない女だから引き渡せと言っている罪人をこっちで取り調べをしている最中に殺せば、ほかの情報と結びつけて、俺が証拠隠しをしたのだとされるかもしれないんだ」

 

 この宮廷府において、新参者の有来有去は、病に伏せがちの国王に信頼されて、かなりの権力を持っているが、その代わりに多くの敵がいる。

 最大の勢力は近衛軍だ。

 近衛軍は、数年前から有来有去の支配する道術師隊に得体の知れないものを感じているらしく、なにかにつけ敵対する。

 今回の宝玄仙のことでも、連中は異常なほどにしつこく、引き渡しを迫っていた。

 

「近衛軍の連中が、なんと言おうと関係ないわよ。誰もかれも、人間なんて殺せばいいのよ」

 

 春嬌は怒鳴った。

 

「大きな声を出さないでくれよ、姉さん──」

 

 有来有去は宥めた。

 このところ、春嬌は感情の起伏が激しくなり、すごく扱い難くなった。

 憎しみ抜いている人間の近くで暮らしているということが、彼女をそうさせているのかもしれない。

 

 それで、二年前、賽太歳とも相談して、人間の女道術導師としてすごさせていた宮廷府から獬豸洞に引き揚げさせたのだ。

 あのまま、善良で国王に忠実な女魔導師の演技をさせていたら、どこかで春嬌は暴発していただろう。

 春嬌の人間嫌いは、ほとんど病気に近い状態になっていた。

 

「とにかく、ここは任せてくれ、姉さん。宝玄仙は、必ず堕としてみせる。堕としさえすれば、近衛軍に渡そうと、そのまま処刑しようと同じだ。それができなければ、おかしなことを喋れないように殺す。でも、その場合は、俺の立場は、かなり微妙なものになるからなるべく避けたいんだよ」

 

 有来有去は言った。

 

「お手並み拝見といくわ。でも、殺す必要があれば、わたしに言ってよね。血を見ることの嫌いなあんたの代わりに、わたしがあの女を殺してやるわ」

 

 春嬌は消えた。

 『移動術』だ。

 ほとんど道術を遣いこなせない春嬌が唯一普通に遣える道術だ。

 

 春嬌、有来有去、賽太歳の三人の兄弟は、なぜか歳が若くになるにつれて、霊気が大きくなり、見た目も人間から離れていく。

 賽太歳の霊気は天井知らずだが、見た目は妖魔そのものだ。

 

 それに比べれば、春嬌などは霊気は低いし、見た目も人間の女そのものだ。

 感情の起伏の激しさも、人間の女そのものだと思う。

 有去有去は、ふたりの中間だ。どちらかというと春嬌に近く、彼女同様に、見た目は人間族で、術も限定的だ。

 あの化物じみた術を扱う賽太歳には、まったく足元にも及ばない。

 

 いずれにしても、これで宝玄仙を屈服させるということが非常に重要なものになった。

 まあ、宝玄仙の身体の人格がひとつであろうと、ふたつであろうと関係ない。

 最初の予定のとおりに、三日もあれば足りるだろう。

 

 有来有去は、春嬌が隠れていた部屋を閉じると、大便をして戻ってくるはずの宝玄仙に施すための責め具を準備し始めた。

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