恥辱を受けたいと思ったことは一度もない。
ただ、宝玄仙に比べれば、恥辱に対して耐性があることは確かだ。
屈辱からも快楽を感じることはできる。
だが、愛のない被虐には苦痛しか感じない。
絶頂を与えられない快感は、地獄そのものだ。
宝玉は、その苦痛と地獄の中にいる。
営底に掘られた穴に、周囲を兵に囲まれて排泄を許された宝玉は、羞恥で気が遠くなるような思いをしながら、その場で汚れた尻を洗われた。
宝玉は、首に装着させられた絶頂禁止の霊具のために快楽を溜めた袋のような状態になっていたが、それを知っている兵は、発散できない快感に苦しんでいる宝玉の身体をわざと責めたてた。
兵たちが、身体を洗う傍ら指や布で宝玉の敏感な部分をいじくりまわすのだが、両腕を首の後ろに縛られている宝玉には抵抗の方法がない。
肛門深くに指を入れられて動かされながら、肉芽や乳首や女陰──。
脇の下や背中、横腹……。
とにかく、あらゆる部分を刺激される。
激しい快楽に腰も砕ける程の淫情が暴れる。
しかし、達したかと思うとその一歩手前に引き戻される。
身体を洗われながら発散できない快楽に狂う宝玉を周りの兵が嘲笑らった。
営庭の隅で、宝玉は裸身を躍らせながらひたすら泣き狂った。
やがて、やっと最初の拷問部屋に戻された。
床からせり出していた台はなくなっている。
その代わりに一本の鎖が天井から垂れている。
一度首縄を解かれた宝玉は、両腕を背中で組まされて後手縛りに拘束され直した。
その縄尻が天井から伸びる鎖に繋がれる。
そして、鎖が引き揚げられて、宝玉は部屋の真ん中に立たされた。
「もう、もう勘弁して……。首輪を外してよ──」
宝玉は言った。
この苦しみの原因がこれだ。
これさえなければ、宝玉には、どんな仕打ちにも耐えられる。
しかし、この首輪がある限り、限りない寸止めを味わなければならない。こ
んなことを数日も続けられたら、ただ一度の絶頂のために、魂まで明け渡してしまいそうだった。
「そうだ。屈服しろ、宝玄仙──。屈服してしまえば、快楽が待っているぞ」
宝玉の心を読んだ有来有去が愉しそうに言った。
「屈服するわ……。もう、している……」
宝玉は呻いた。
「まだだな。俺には、お前の心の中の抵抗が読めるのだ。その気持ちがまったくなくなったときに、その首輪は外してやる。それまでは、いきたくてもいけない地獄を味わい続けろ。お前が焦らし責めには弱いのは、心を読み取ることでもうわかった。だから、その責めをやってやろう」
「ああ……」
宝玉は、鎖に引き揚げられた身体を前に倒して歯噛みした。
つらい……。
身体には絶頂寸前のもどかしさのままの状態で快楽が荒れ狂っている。
これをいつまでも続けられる。
宝玉に恐怖が走る。
本当に屈服させられる。
「そうだ。屈服しろ。屈服の向こう側は途方もない快感だ。お前の心から快楽の欲望以外のすべてが消えたとき、その苦しさから解放してやる」
屈服……。
それが甘美な言葉として宝玉に襲いかかる。
屈服したい……。
それですべてが終わる。
この苦しみから解放される。
「お前たちはもういい。退がっていろ。ここから先の訊問は道術師隊だけでやる」
有来有去が言った。
軍の兵たちが部屋から出ていく。
「お前に面白い霊具を装着してやろう。尻の弱いお前には、ぴったりの霊具だぞ」
「も、もう、やめて……お願い……」
ただでさえつらいのに、この身体に新たに責め苦が加えられる。
それを考えただけで宝玉の身体に恐怖が走る。
「本来であれば、尻の快楽を引き出すための調教具なのだ。しかし、絶頂を寸止めするその首輪と組み合わせることで、耐えられない拷問具になる」
「な、なにをするのよ……」
背後に回った有来有去がなにかの道具を操作している気配がある。
しかし、腰を押さえられている宝玉には振り返ることができないでいた。
「はうっ」
衝撃に思わず息を吐いた。
筒のようなものが肛門に深々と入ってくる。
肛門を責めるための張形だろうか。
だが、ただの張形ではないことは、有来有去がただ先端を埋めただけのその棒状の霊具が、勝手に回転しながらずぶずぶと宝玉の肛門深くに侵入してきたことでわかる。
「はっ、はっ、はっ──」
込みあがる快感に断続的な息が出る。
浣腸で柔らかくほぐれているうえに、かつ
張形がどんどん入ってくる。
しかも、いまいましいことに小刻みな振動をしている。
泣きたくなるような大きな淫情が宝玉を襲ってきた。
「そうか……。お前を調教したのは闘勝仙というのか。どんな男だ?」
心を読まれた……。
宝玉は歯噛みした。
懸命に頭から闘勝仙のことを消そうとする。
しかし、そう考えれば考える程にかつての調教の日々のことを考えてしまう。
闘勝仙からの調教に耐えるために、宝玄仙というひとりの人格から、宝玄仙と宝玉に分かれたことも……。
「宝玉と宝玄仙か。もしかしたら、お前が宝玉か?」
またしても──。
有来有去は女が快楽に狂うことで心を読んでしまう。
ならば、強制的な焦らし責めで、まったく快楽を発散させてもらえない宝玉の心は、いまや筒抜けの状態だろう。
どうしたらいいのか……。
このまま屈服するしかないのか……。
「こ、怖いわ……。これ、やめてよ」
肉襞の中心を突き破るように張形が進んでいく。
ゆっくりと奥に奥にと、振動と回転をしながら進んでいく。
いったい、どれだけ進むのか──。
「これは装着された女の身体の限界を測りながら、その女に見合った深さと刺激を加え続ける霊具だ。いまは、まだ、お前の尻穴を調べている段階だが、随分と深くまで大丈夫なのだな。その闘勝仙という男は本当に徹底的にお前を調教したのだな」
有来有去が言った。
いま、有来有去はなにもしていない。
霊具を装着することで、後は自動的に霊具が宝玉を責めたてるようになっているのか、天井からの鎖で吊られている宝玉の前側に箱を持ってきて、それを椅子代わりに座った。
霊具はまだ体内深くに侵入を続けている。
快感が込みあがってくる。
感情のない霊具に責めたてられるというのも恥辱だ。
「あ、ああっ、ああああ……」
自分の身体が機械の無表情さでどんどん深くまで抉られる。
その恐ろしさに宝玉は、何度も悲鳴に近い哀願を繰り返した。
「最初に出現していた宝玄仙とお前は、随分と違うのだな、宝玉。お前の心には、素直な哀願や哀訴の感情がある。哀れに泣くことに躊躇いはないようだ。あの宝玄仙が哀訴をするときには、激しい悔悟と屈辱の感情が入り混じっていたが、お前の場合は、諦めのような心が一緒にやってくる。同じ身体にふたつの心というのは興味深いな」
「いい加減にやめてよ──。どこまでいたぶるのよ」
宝玉は叫んだ。
有来有去が大笑いした。
「まだ、なにも始まってはいないぞ、宝玉。さっきも言ったが、いまはまだ、お前の身体を調べているだけだ。本格的な責めはこれから始まるのだぞ──。何刻も続けてな」
有来有去が意味ありげに微笑んだ。
宝玉の背に冷たい汗が流れる。
何刻も続けて……。
その言葉が不気味に宝玉の心に突き刺さる。その間も尻に挿入された霊具は、まるで意思を持っているかのように静かに進み続ける。
まるで腸の奥にまで達するかのような恐怖──。
やがて、やっとぴたりと張形がとまった。
張形はかなりの深さまで侵入している。
息をすると肛門を抉られている圧迫感が腹に伝わるほどだ。
「随分と深くまで進んだものだな。これまでの女の中では最高記録だ、宝玉」
有来有去が笑った。
そのとき、衝撃が走った。
「はがああっ──ひひゃああ──こ、こんなの──」
宝玉は絶叫した。
限界まで侵入した張形が太くなったり細くなったりしながら大きな蠕動運動を始めたのだ。
「ああ……な、なにこれっ──やめてぇ──ひどい──むごいわあ──ああ、だめえぇ──だめようっ──」
ただでさえ、限界深くまで入り込んで苦しいのに、その張形が暴れまわるのだ。
さすがに堪らず、宝玉は泣き声をあげた。
肛門全体から快感が絞り出される。
「んあああっ、あがああっ」
宝玉は全身を仰け反らして吠えた。
「ああ……ひ、ひどい……いや……いやよう──いやあ、ああっ──」
宝玉は泣き叫んだ。
張形の先端が……、胴が……、根元が波のようにくねり続ける。
腸の全体が振動と回転で抉られる。
「助けて……お、お願い……ひうううっ──あがああぁぁぁ──」
宝玉は頭を振り、乳房を振って、有来有去に助けを求めた。
今度は張形が蠕動運動をしながら後退しはじめた。
しかも、菊の蕾の部分の根元がさらに振動する。
宝玉は拘束された裸身を振り立てて恍惚の呻きをあげた。
闘勝仙に開発され尽くした性感の源だ。
そこを蹂躙されて身体の内側と外側から快感という快感を絞り出される。
宝玉はよがり泣きながら、肛門を責められている腰を振り立てた。
大きなものがやってくる。
いく……。
宝玉は恍惚感に身を委ねた……。
しかし、いけない……。
またもや絶頂寸前で快感が停止した。
そして、まだ絶頂寸前で留まっている快感が残される。
「いい気持ちだろう、宝玉? さて、しばらく、そうやって絶頂寸前の宙ぶらりんの快楽を味わってくれ……。ところで、人格がふたつあるとして、宝玄仙と宝玉はどうやって交替しているのだ?」
「ああ……」
宝玉は必死に快感と戦った。
このままでは、心の底の底まで抉られる。
沸騰しそうな快感が身体を渦巻く。
心に思うことを消すことはできない。
なにもかも白状させられる。
それも恐怖だ。
すべての心を洗われてから、有来有去は宝玉のもっとも弱い部分を責めたてるだろう。
そして、屈服させられる……。
「そうか。お前が制御しているのか。つまり、お前を屈服させれば、宝玄仙が表に現れようとしても出て来られないわけだな。だから、お前を責めたてればいいということだ……。どうだ、宝玉、首輪を外して欲しいか? 宝玄仙を抑え込み、俺に心からの服従をするなら絶頂させてやるぞ」
有来有去がにやりと笑った。
「そ、そんなこと……で、できるわけ……ああ、ない──」
宝玉は呻いた。
「じゃあ、後で来る。次にここに人が来るのは夜だ。それまで、尻で狂い続けろ。その霊具は、お前の肛門で伸縮を繰り返しながら、ひたすらに狂おしい刺激を加え続けるのだ。これから夜まで絶頂できない尻の快楽を溜めるだけ、溜めておけ──。訊問は夕方になったら開始する」
有来有去が立ちあがった。
「そ、そんな──い、行かないでよ──。そ、そんなの、酷いわ」
「愉しみだな。お前がどれくらい追い詰められているのかな。夕方にやってきて、俺が気に入る状況になったら、いかせてやる。だが、まだ屈服していなければ、首輪はそのままだ。そして、次の機会は朝──。その霊具の責めは、お前が完全に屈服するまで続くことになる」
「た、助けて……屈服する……屈服するわ」
宝玉が心の底から言った。
そんなことをされたら宝玉は狂う。
「なんど言ったらわかるんだ、宝玉。屈服したと言う必要はないんだ。俺はお前の心が読めるんだぞ。屈服したことを示すには、ただ、屈服すればいいだけだ」
有来有去が出ていく。
拷問部屋の扉が閉められて鍵が外からかかる音がした。
こんな絶望的な状況にして、放置して出ていくという有来有去の残酷性に宝玉は頭から血が引く思いだ。
肛門を抉る張形は、振動と回転とうねりと収縮という四個の運動を続けながら動き続ける。
宝玉は残酷に責め続けされる尻を動かしながら、絶望の悲鳴をあげた。
*
有来有去は、最下層の営牢の中の宝玉──、あるいは、宝玄仙を監禁している部屋を一度出て、隣の観察室に入った。
女囚側からはわからないが、ここから中の女囚の状況を確認することができる。
「お疲れ様でした、有来有去様」
すでに待機をさせていた道術師隊の道術師がふたり、観察室に入ってきた有来有去に頭を下げた。
ふたりとも、有来有去の息がかかっている。
国王よりも有来有去に忠誠を尽くすように仕立てた部下だ。
なにがあっても信用できる。
人間を信用していない
昨日のこともそうだ。
脱走した
無理矢理に引き出した情報により、長女金を脱走させた宝玄仙を捕えることに成功はしたものの、長女金を連れに来た
宝玄仙の道術を奪うという有来有去の頼みには応じたが、そのまま、長女金を連れて
賽太歳は、今後は人間の営みと一線を画することを宣言して戻ったから、しばらくはこっちにはやってこないかもしれない。
あの不機嫌そうな様子から考えると、本当にそうしたいのかも……。
長女金は、
長女金が二年もの間、晒し刑になっていたという事実を伝えていなかったことにも賽太歳は不機嫌になった。
有来有去に言わせれば、たかが人間の女ひとりの仕置きのことに気にかけろという方が無理なことだ。
だが、長女金がこうむった仕打ちを知って、あの金聖姫が嘆いているのだという。
しかし、金聖姫が嘆いているからなんだというのだ。
「ところで、
部下が言った。
「またか、しつこいな」
有来有去は舌打ちした。
宿元女というのは、いま、近衛軍団を率いている女将軍だ。
歳は五十に近いが、若い頃は美貌の女将軍として名をあげ、さまざまな功績をあげた。
結婚もせず、自分は軍と結婚したとうそぶくような女だが、二年前の王族のひとりである金聖姫が賽太歳に拐われてから、金聖姫の行方を探すことに執念を燃やしている。
どんなに宿元女が賽太歳の居場所を追おうとしても、それを陰で有来有去が邪魔をしているから、はかばかしい成果は得られないでいるが、有来有去にとっては面倒で疎ましいことこのうえない。
今回も、なにかの情報で、宝玄仙が金聖姫の行方に関する情報を知っているかもしれないということを悟ったらしい。
それで、しきりに宝玄仙の訊問をこっちにやらせろと言ってくる。
有来有去は、道術を遣う宝玄仙は、道術師隊でなければ逃亡を防げないと断り続けてはいるが……。
「もう、かなり追い詰められているようですよ」
部下の道術師がおかしくて堪らないというような口調で言った。
有来有去は思念を眼の前の宝玉に戻した。
宝玉を放置してきた地下牢の壁は特殊な道術がかかっている。
向こうからでは単なる石壁だが、こちらからでは透明の板だ。宝玉が悶え苦しむのがこちらかはよくわかる。
そして、宝玉の追い詰められた吐息の音と呻き声もしっかりとこちらの観察部屋に聞こえてくる。それも霊具によるものだ。
宝玉に仕掛けた肛門の張形は、平均四半刻(約十五分)に二回の割合で宝玄仙に身体の許す限界の最奥まで抉り進み、そして、張形が外に出ていくような感覚を与えながら肛門の入口部分まで存在を小さくする。
しかし、決してなくならない。
ぎりぎりのところで収縮は終わり、再び肛門に侵入するように張形は伸長する。
そして、耐えられる限界まで肛門の最奥を抉る。
その間、振動と回転と律動をさまざまに繰り返す。
表面から滲み出る催淫剤を撒き散らしながら……。
その動きは不規則だ。
とまったかと思えば、動き出したり、動いたかと思えば永遠と思うように激しく続けてる。
あるいは、四半刻(約十五分)もなにもしなかったりする。
張形は、肉体的にも精神的にも装着させた女を追いつめるように動いている。
そして、首の霊具で絶頂することのできない宝玉は、達したくても達せないもどかしさに、さらに苦しむことになる。
そして、宝玉は追いつめられる。
宝玉の心を読むことにより、宝玄仙と宝玉のふたつの人格を統制しているのは、意外にも、あの宝玉ということがわかった。
そうであれば、宝玉を追いつめることで、あの宝玄仙の肉体も精神も支配できるのかもしれない。
とりあえず、まずは、宝玉を堕とす。宝玉には、宝玄仙に交替させない。
宝玉が奇声をあげた。
おそらく、絶頂するだけの刺激を受けて、また、それを止められたのだろう。
宝玉の精神がどんどん流れ込んでくる。
追い詰められた宝玉は、かつての恥辱の記憶を思い起こしている。
あの宝玄仙、あるいは宝玉は、天教という東方帝国の巫女だったらしい。
しかも、八仙という最高神官であり、かなりの尊敬される存在だったようだ。
それが一夜にして、帝都中に蔑まれるような奴隷的な立場に成り下がった。
「二年の調教か……」
有来有去は呟いた。
「なんです?」
有来有去の声に反応した部下がこっちを見た。有来有去はなんでもないというように首を横に振った。
さらに、宝玉の思考が入ってくる。
宝玉はこれまでの人生で受けた恥辱的な記憶を次々に思い起こしているようだ。
こうやって女を追い詰めて放置すると、いつも同じような反応を示す。宝玉も例外ではないようだ。
見た目が若いので、まだ二十代かと思ったが意外に歳をとっているようだ。
年齢は、四十を少し超えたくらい……。
最初の恋は、修行のために巡礼をしていた十代の後半……。
旅の巫女として宝象国というところを歩いているときに、五十代の放浪の道術遣いと出遭ったらしい。
数日旅を供にして、宝玉は、その男に父親を感じて好ましいと思った。
しかし、ある夜、いきなり、その男に犯された。
宝玉は抵抗できるが抵抗しなかった。
そのときは、哀しみのようなものを感じたらしい。
それから宝玉の破天荒な性の遍歴が始まった。
男であろうと、女であろうと積極的に身体を開くようになった。
もともと、かなりの淫乱で性欲の旺盛な性質なのだろう。
壁の向こうの宝玉の反応が激しくなった。
尻の霊具が最大の振動で暴れ出したようだ。
続けざまに絶頂するように身体を仰け反らせている。
しかし、達してはいないはずだ。
あの首輪の霊具をしている間は、決していけない。
そして、やはりそのようだった。
宝玉が泣きはじめた。
もう、かなり追い詰められている。
宝玉の思考から絶望のようなものが強く流れ出した。
さらに、絶頂に対する渇望も──。
宝玉の思考が混乱しだした。
性欲のことで溢れかえりはじめる。
ほかの思念が逃げていっている。
達したい──。
そのことだけが宝玉の心を包み始めている。
いや、また、思念が変化した。
今度は子供時代の記憶だ。
宝玉の頭の中に、いまの宝玉の顔によく似た女が出てきた。
しかし、遥かに歳をとっている。
だが、美しい女だ。どうやら母親のようだ。
母親はかなりの自由奔放な女だったらしい。
父親の違う子供を二人産んでいる。
ひとりは領主で、もうひとりは若い農夫だ。
宝玉の父親が領主──。
農夫の種で産まれた妹は蘭玉。
ふたりとも父親はすぐに死んでいる。育った土地で流行り病があったようだ。
妖魔遣いの母親の住居に出入りする様々な男女と妖魔が出てきた。
母親は、多くの男女や妖魔と性的関係を持っていたようだ。
何人もの男女を調教して家畜のように飼いながらも、一方で複数の男女に自分を調教させている。
有来有去は、宝玉の記憶から流れてきた女について困惑した。
そんな女が現実にいたのだろうか。
それとも、単なる宝玉の記憶の混乱か?
その母親から自慰を教えられている場面が出てきた。
幼い宝玉だ。
まだ、十歳にもなっていないだろう。
もっとも、有来有去が感じることができるのは、宝玉の頭の中の記憶であり、思い出である。
それが事実と異なるのか、そうでないのかは、有来有去には判断はつかない。
その幼い宝玉が残らで寝台に縛りつけられている。
得体の知れない薬を股間に塗られて、その子供が泣き叫んでいる。
痒いのだ。
猛烈な痒みに襲われている。
その記憶が入ってきた。
大勢の大人が寝台を取り囲んでいる。
やがて、右手の縄だけが外された。
母親らしき女が宝玉にやり方をささやいた。
子供の宝玉が言われるままに自分の股間を慰めだした。
不意にその光景が変わった。
周りを大人が囲んでいるという状況は変わらないが、今度は、さっきの光景の数日後のようだ。
同じように幼い宝玉が縛られている。
宝玉の指が痒みを癒すために股間を慰めている。
もう少しで達するという感覚が流れてくる。
だが、股間を慰める手を母親が掴んだ。
その手を拘束され直した。
宝玉は泣き叫んでいる。
それを母親をはじめとする大人たちが嘲笑している。
その記憶といまの宝玉の姿が、宝玉の頭の中で重なった。
いまの宝玉の頭の中にあるのは、幼い頃に母親に受けた調教の記憶のようだが、絶頂したくて達することのできないいまの自分が、その姿で一致しようとしている。
調教前に宝玉の思念から読み取った有来有去と賽太歳の関係のことなど、少しも宝玉の頭にはよぎらない。
宝玉の頭には、解放したい淫情と過去の調教の記憶だけだ。
そろそろ、次の段階に入ってもいいだろう……。
「お前、部屋に入って、俺に内緒でやってきたふりをして、口で奉仕すれば、少しだけ首輪をこっそりと外してやると言ってこい。そして、奉仕させろ。おそらく、奉仕するとは思うが、そうであれば、かなり宝玄仙は堕ちてきているということだ」
「ええっ? 噛み切られはしませんかねえ」
声をかけた部下が苦笑して立ちあがった。
「そんな気力はないよ。そういう思念が流れてきたら、ここから教えてやる。心配するな」
「お願いしますよ、有来有去様。ところで、本当に外してやるんですか?」
「まさか。期待をさせて潰すだけだ。それを何回か繰り返す。絶望させるのだ。どんなに期待しても潰されるという思いをさせ続けるんだ──。こいつが終わったら、しばらくして、お前だからな。準備しておけよ」
有来有去はもうひとりの部下にも言った。
命令を与えた部下が観察室から出ていき、やがて、宝玉が立たされている部屋に入ってきた。
宝玉が哀願をしだす。
部下が自分に奉仕をしたら、こっそりと首輪を外してやってもいいと言うと、宝玉は激しく首を縦に振った。
恐ろしいほどの淫情の苦しさに、まともな考えができなくなっている。
有来有去は、心を読むのが苦痛になり、一時的に宝玉から流れてくる思念を遮断した。
背中に組ませた腕に結ばれた鎖が緩められて宝玉が跪く態勢になった。
部下が下袴をさげて、男根を露出させると、すぐに宝玉がそれを口に含んだ。
奉仕の時間は長いものではなかった。
部下はあっという間に精を搾り取られて果てた。
宝玉の顔は期待に包まれている。
部下が口に入っている精を飲めというと、嬉々とした表情でそれを飲み干した。
服装を整えた部下が鎖を引き揚げて、宝玉を元の態勢に戻した。
引き揚げようとする部下に、宝玉が吠えるように抗議した。
だが、それに関わらずに部下は宝玉のいる部屋を出た。
宝玉が絶望の泣き声をした。
「どうでしたか?」
戻ってきた部下が言った。
「なかなかだな。それにしても、精を出すのが早すぎないか?」
有来有去はからかった。
「だったら、有来有去様がやったらいいじゃないですか。大変な技巧ですよ。俺もあんなに呆気なく精を絞り出されたのは初めてですから」
部下が苦笑して応じた。
「俺に対する奉仕はまだまだ先だ。完全に絶望させてから、俺は今度は焦らし責めの苦しみから解放させる役だからな。もう少ししたら、今度は、お前だ。いいな」
有来有去はもうひとりに言った。
「わかりましたけど、俺たちふたりは、あの綺麗な女に憎まれるだけ憎まれて、苦しみを解放させた有来有去様は感謝されるという仕組みなのでしょう? 狡いですよ。たまには、逆がいいですね」
もうひとりの部下が笑った。
「馬鹿言え──。役割分担だ。いま、宝玄仙は性の拷問を受けている。その拷問を与えているのは俺だが、解放させるのも俺だ。そうやって、女を支配してしまうのだ」
有来有去は言った。
そして、再び宝玉の心を読む作業を開始した。
宝玉の肛門を責め具が残酷に責めている。
宝玉の苦しみがどんどん拡大している。
すると宝玉の絶望と過去の恥辱的な記憶がまた流れ出す。
気がつくと、有来有去は、その宝玉の思念を音楽のように感じながら鼻歌をうたっていた。