「宝玉、もう一度、あの話をしてもらおう──」
「ああ……も、もう、堪忍して……」
意識朦朧としている宝玉が、がくりと頭を落とした。
宝玄仙の裸身は、椅子に縛りつけられている。
手首は手摺に縛り、両脚もそれぞれの足首と膝を椅子の脚に結ばれているし、胴体が背凭れから離れないように雁字搦めにしている。
その状態で、宝玉の股間には、道術の込められた革帯が喰い込んでいる。
革帯の内側には二本の張形があり、宝玄仙の女陰と肛門を深々と挿入されている。
「ひがあああああっ──」
頭をがくりと落とした宝玉が、全身を仰け反らせて絶叫した。
股間に喰い込んでいる二本の張形から電撃が加わったのだ。
眠りかけた宝玉の意識がはっきりとなるのがわかった。
「も、もうやめて……。眠らせて、お願い……」
宝玉が哀れな声をあげた。
「駄目だ、時間がない……。もう一度だ。今日は執行の前に何人かの役人がお前に最後の訊問をするはずだ。そのときの、俺が言ったとおりに答えるのだ。お前は罪に問われるが、筆頭道術師である俺のはからいで刑の執行が中止となり、お前は解放される手はずになっている。俺を信じろ」
宝玉の身体が淫らにくねり始める。
さっき電撃で宝玉を覚醒させた張形が、今度は小刻みに振動し始めたのだ。
別に宝玉を達しさせるための刺激ではない。
淫情を身体に溜めて、有来有去が宝玉の心を読むことができるようにするためだけの刺激だ。
決して達しさせないように微妙な動きにしているが、それでも宝玉が官能のよがりに追い詰められるように張形の表面からは催淫剤が滲み出るようにしている。
そういう刺激を与えながら、宝玉に繰り返し質問をしている。
有来有去が証言するように命じたことを正確に発言するための訓練だ。
「も、もう何度も……お、同じことを言ったわ……。も、もう逆らわないから……ゆ、許して……」
宝玉は言った。宝玉の言ったことは嘘ではないだろう。
心労と睡眠不足で頭が働いておらず、有来有去の指示に従うつもりになっている。
だが、有来有去は、宝玉が嘘ではなく、完全に本当の記憶としてすり替えるまで続けるつもりだ。
宝玉の頭がまた、眠気でがくりと垂れた。
有来有去は、張形に道術を込めて、電撃を浴びせる。
宝玉は悲鳴をあげて身体を起こした。
しかし、その表情は朦朧としている。
有来有去は、立ちあがって卓の上にある布を宝玉の鼻に押しつけた。
激しい刺激臭があり、宝玉の意識は束の間覚醒するはずだ。
そのとおり、宝玉の表情が少しはましなものになった。
この軍営に連れて来られてから、ずっと張形でいたぶるか、誰かに犯し続けさせている。
疲労困憊のはずだが、四日目のいままで一瞬も寝かせていない。
眠りを招きそうになる度に、激しい淫情や、電撃や、あるいは、強い覚醒作用のある刺激臭を嗅がせている。
もう、宝玉は、まともな思考ができない状態になっている。
このようになっている人間をいいなりにするのは簡単なことだ。
「さあ、話せ。お前が
「……あ、ああ……き、汚らしい……。醜いと思った……。も、もう、許して……。こ、これ、動かさないで……こ、怖い──」
「怖いか──。ちゃんと喋れれば、電撃はしない。眠ろうとするからそうなるのだ。眠らなければ、いい気持ちになるだけだ」
「こ、この振動も……堪らないの……。お、お願い……だ、だから……とめて……」
宝玉が身悶える。
思わずどきりとした。
そして、たかが、女囚に心を動かしかけた自分に苦笑した。
「ひぎゃあああっ──」
自分の戸惑いを隠すように、有来有去は強めの電撃を霊具に送った。
衝撃を受けた宝玉が絶叫して痙攣した。
喰いしばった汗びっしょりの宝玉の顔から声が絞り出される。
「……ゆ、許して……あ、ああ……な、なんでも言う。言うから……ああ……」
電撃がないときは、二本の張形は常に淫らに動いて宝玉を追いつめている。宝玉の思考は、すでにずたずただ。
「もう一度訊くぞ。なぜ、長女金の結界牢を破ろうと思った?」
「ちょ、長女金……? 長女金……」
宝玉の思考がぼんやりとしたものになる。
本当に思い出せないのだ。
記憶の混沌が起こっている。
有来有去は、布の刺激臭を宝玉に嗅がせる。
宝玉の眼が開く。
「なぜ、長女金の結界牢を破ろうとした?」
「はあ、はあ、はあ……き、汚らしい……惨めなものを見るのが嫌……」
「どうやって、結界牢を破った?」
「か、監視の兵を……い、色仕掛けで……たぶらかして……」
「長女金はどうした?」
「殺して……山に捨てた……」
有来有去は笑いの発作に耐えられずに、身体を曲げて、笑いが込みあがるのを押さえた。
これだけの出鱈目を宝玉に擦り込むのは苦労したが、数日かけてそれをやったのだ。
言った通りに喋れば、解放してやるだけではなく、有来有去の屋敷に連れ帰り妾として世話をすると言った。
そして、愛していると言いながら、繰り返し激しい絶頂をさせた。
最初は抵抗のあった宝玉の心も、催淫剤も使って追い詰めたうえに、十数回以上の連続絶頂責めをすると、次第にその快感を有来有去の愛の言葉と錯覚するようになった。
そのうえで、眠らせない責めが宝玉を追いつめた。
その状態で電撃責めだ。
宝玉は、極度の疲労と眠気、快感と愛情の擦り込み、そして、繰り返される絶頂と電撃に追い込まれた。
特に敏感な場所に送り込まれる電撃の恐怖に、宝玉は追い詰められた。
有来有去の命じるままに、ありもしないことを口にしはじめた。
それから、何度も宝玉──つまり、宝玄仙が長女金を殺したという出鱈目の話をさせた。
ついでに、結界牢を破ったのは、宝玄仙の道術ではなく、監視の兵が一時的に結界牢を解除したからだという証言もさせることにした。
生贄として処分することになるその監視兵ももう拘束してある。
筆頭道術師の有来有去が施した結界牢の道術が破れたということよりも、色仕掛けにたぶらかされた監視兵が結界を緩めたという方が有来有去には都合がいい。
万が一のことがあれば、すぐに対処するように、結界牢を監視する兵には、結界牢を無効にする霊具を渡してある。
それを使ったことにすれば、有来有去の道術が破れたということにはならず、有来有去の魔道師としての評判には傷がつかない。
眠気と霊具の振動による快感と疲労で、ぼんやりとしている頭で同じ話をさせると、だんだんと宝玉の記憶は本当に曖昧なものになっていく。
長女金が汚らしいので殺そうと思い、監視兵のひとりを色仕掛けでたぶらかせて、長女金を脱獄させて、道術で殺して山に屍体を捨てた──。
宝玉に何度も同じ話をさせた。
それを丸三日やった。
それだけやれば、人の記憶など曖昧なものだ。
本当にそうしたのだと宝玉の頭に刻み込まれていく。
宝玉の頭の中を読んでも、すでにそれが本当のことなのか、有来有去に強要された出鱈目なのか区別がつかなくなっている。
道術隊の道術師が繰り返し、同じ話を宝玉にさせているし、有来有去も数十回も聞いている。
少しでも眠りかければ、股間と肛門に淫らで小さな振動を続けている張形が、強い電撃を浴びさせる。
それでも眠りかければ、布に染み込ませた刺激臭を嗅がせる。
布には人間を覚醒させる道術の籠った仙薬がたっぷりと染み込ませており、この匂いを嗅げば、しばらくは眠ることができなくなる。
「もう一度話をしろ、宝玉」
「い、いい加減にして……あ、あなたの言うとおりにする……ああ……も、もう逆らわない……。なんでも話す……。もう、同じ話を何十回も……しているわ……あ、あんっ」
「頑張るんだ。うまくできれば、屋敷に連れ帰って愛してやる……」
「そ、そんなの……」
宝玉の頭に戸惑いと躊躇いのようなものが渦巻く。
有来有去が愛しているなどということは脈略もないことだとはわかっているのだ。
しかし、それを信じたいという宝玉の心もある。
宝玉、あるいは、宝玄仙が恐ろしくも空虚な人生を送って来たのだということがわかる。
これまでの人生に、一度もそれに相応しい愛情を注がれることのなかった荒みのようなものが宝玉の心にある。
それを癒したいという心の渇きが、有来有去の空虚な嘘を宝玉が受け入れようとするのだ。
「今度は、俺が訊ねるからそれに答えろ、宝玉」
「わ、わかったわ……」
張形に刺激を受けて、朦朧としている宝玉が頷いた。
視線がおかしい。
有来有去がどんなに心を読んでも、いまの宝玉には、真実と有来有去が擦り込んだ嘘の区別がつかなくなっている。
混沌として、喋っていることがよくわからなくなっているのだ。
喋りながら、それが真実であるとも思い込んでいる。
宝玉と宝玄仙というふたつの人格に分かれていることがそれを後押しもしている。
自分の記憶にないことでも、宝玄仙がやっている可能性があるからだ。
実際、宝玉は、宝玄仙が長女金を殺したと思いかけている。
「お前が長女金を殺したんだな?」
「そ、そう……」
「どうやって殺した?」
「……ま、道術で……」
「屍体はどうした?」
「それも道術で……。消すことは簡単……」
「そのとき、長女金はなにか言ったか?」
「な、なんにも……。い、いえ、……どうして、殺すのかって……あ、ああ……しゃ、喋ったかしら……」
これは擦り込んではいないことだったが、宝玉が勝手に話を作って補強した。
「お前はなにを言った?」
「あ……ああ……」
宝玉の思考が虚ろになった。
眠りに陥ろうとしている。
「ぎゃああああ──」
宝玉の身体が跳ねた。強い電撃を与えたのだ。
彼女の絶叫が続いている。
眼が白目を剥く。
身体の痙攣が大きくなる。
電撃を解く。
宝玉の身体が糸を切られた操り人形のようにがくりと力を失う。
「寝るな。質問に答えろ」
「お、お願いよ──。す、少しでいいの……や、休ませて」
「駄目だ。すべてが終わるまで、眠らせるわけにはいかん──。これを嗅げ」
刺激臭を嗅がせる。
宝玉の意識が覚醒するが、それとともに混乱が大きくなる。
人は眠らせないと思考がおかしくなる。
狂うのだ。
以前にも同じ拷問をやったことがある。大抵は、五日も続ければ、どんな出鱈目でも脳に擦り込まれて、その通りに自白する。
七日過ぎれば、言動が常軌を逸するようになり、明らかに狂っているという状態になった。
あるいは死んだ。
これまでの最高記録は十七日まで生きた囚人だ。
宝玉の場合は、まだ四日目だが初日以来の性の拷問で疲労困憊の状態にしてある。
実際には、それ以上の睡眠を与えないときと同じ状態になっている。
そして、宝玉の場合は、意識を失わせないことにはさらに意味がある。
宝玉は、意識が失った状態にならなければ、宝玄仙と人格を交替できない。
宝玉が表に出ている場合は、宝玄仙は眠っている状態になり、外界との繋がりを断っている。
逆に、宝玄仙が表に出ている場合は、宝玉は宝玄仙が見聞きしたことを知覚しているらしい。
有来有去は、それを宝玉の思考を読むことで知ったが、それは闘勝仙という男から受ける嗜虐に耐えるためにそうしたらしい。
防御のための人格である宝玉はすべてを知る必要があるが、攻撃のための人格である宝玄仙は闘勝仙から受ける恥辱を体感してしまうと心が崩壊するために、あえて眠っている状態にして、受けている屈辱を遮断するのだという。
いずれにしても、宝玉が意識を失わない限り、宝玄仙と人格を交替する機会がない。
そして、意識を失わせないように、有来有去や部下がつきっきりで見張っている。
「もう一度、訊く──。長女金をどうやって殺した?」
「……ま、道術で……身体を消失……」
「なぜ、殺したのだ? お前と関係のない女だろう」
「き、気まぐれ……。汚かったから……」
「それはいつのことだ?」
「……そ、それは……ああ……お、お願いだから……ま、霊具をとめて……」
有来有去は股間に挿入されている霊具に電撃を加えた。
「ぎゃあああああ──」
宝玉が狂人のような悲鳴をあげた。
電撃をとめると、がくりと力が抜け、宝玉が拘束された椅子で身体を崩す。
「もう一度だ。なぜ、長女金を脱獄させようとした?」
思いつく限りのありとあらゆる質問をする。
すべての質問は観察室で待機している者が記録をしている。
そして、同じ質問を繰り返す。
矛盾がないかどうか確認するためだ。
有来有去はそれを三刻(約三時間)続けて、次の者に交替をする。
訊問者は五人準備しているが、五人ともそういうことには長けていて、宝玉を一瞬も眠らせることなく訊問を続けることができる。
食事と水は与えるが、絶対に眠らせない。
そして、同じことを訊問する。
それを果てしなく繰り返している。
「も、もう許して……」
宝玉の眼の動きがさらにおかしくなり始めた。
「頑張ってくれ、宝玉──。すべてが終われば、俺の屋敷に連れて行く。毎日愛し合おう。俺はお前を愛している」
宝玉の心が揺れ動く。
有来有去の言葉はただの言葉だが、それを受ける宝玉にとっては、そうではないようだ。
有来有去のつまらない言葉を生命の力を得たかのように吸収している。
この女がこれまでにどんなに真の愛情に飢えた人生を送ってきたかということがわかる。
有来有去はその空虚さを徹底的に活用しているのだ。
「そろそろ、次の者と交替する。そいつにも真実を答えるのだぞ、宝玉」
有来有去は立ちあがった。
卓の上には、宝玉の股間に挿入させている霊具を操作できる板が置いてある。
有来有去が休むのは、隣の観察室だ。
少し仮眠をしてから観察室で宝玉の心を読み続けることになる。
交替の部下が入ってきた。
有来有去は立ちあがった。
部屋を出ていく際に、もう一度宝玉の心を読んだ。
宝玉の心から真実が消えかけている。
もう、なにが真実で、なにが嘘なのかわからない状態になっている。
宝玉は堕ちかけている──。
有来有去は確信していた。
*
「お前が長女金を殺したというのは間違いないな、宝玄仙?」
「ま、間違いないわ……」
訊問室に座っている宝玄仙──宝玉の人格が虚ろな表情で答えた。
手首と足首を椅子に縛りつけているはあるが、拘束は緩いものにした。
捕えたときに着ていた服も身に付けさせている。
もっとも、股間に挿入した霊具はそのままだ。
いまでも、霊具は、淫らな振動を続けながら宝玉を責め続けている。
「ここが悪名高い、道術師隊の拷問室ね──」
宿元女が透明になっている壁越しに宝玉の姿を見ながら言った。
「訊問室ですよ、
有来有去は苦笑しながら言った。
道術により透明にした壁の向こうで、宝玉に対して訊問者が質問を続けている。
壁の向こうで喋っている声がここに筒抜けだが、向こう側からは、ただの石壁にしか見えないので、こっちで観察を続けているのはわからない。
この数日、同じように続いている状況だが、違うのは宝玉を訊問しているのが、有来有去の部下ではなく、宿元女の部下だということだ。
午後になり、もう大丈夫と確信した時点で、二日ほど前からうるさく要求されていた宿元女の要求に有来有去は応じた。
つまり、近衛軍に宝玄仙──実際には、宝玉の人格だが宝玉には、それを隠せと強要している──への訊問を許すことだ。
ただし、身柄の引き渡しには応じなかった。
ここでしか宝玄仙の道術を封じることができないというのをその理由にしたが、実際には、宝玄仙の身体から
「
「その通りですよ、宿元女殿。長女金は二年前の調書に書かれていること以外のことなど知らなかったはずですよ──。もっとも、いまとなってはそれを確かめようもないですけどね」
「でも、そんな情報があったのよ……。長女金、そして、この宝玄仙が、金聖姫殿を浚った賽太歳という妖魔に関する手掛かりを握っていると……」
宿元女が失望したように、脚を組んで腕組みをしている。
この宿元女という女将軍は、若い頃には、朱紫国軍の美将軍として、有声を馳せた名将らしい。
歳は五十に近いはずだが、そうとは思えない美貌と色香を残している。
しかし、有来有去にとっては目の上の瘤のような存在だ。
なにかと魔導師隊と有来有去に対して警戒心を持っていて、今回も宝玄仙の身柄を金聖姫捜索のために必要だから引き渡せとうるさく要求していた。
だが、有来有去としてはそれを許すわけにはいかなかった。
賽太歳の姿を見てしまった宝玉、あるいは、宝玄仙がそれを宿元女に喋ってしまう可能性が高いからだ。
それを許したのは、責め苦により宝玉の頭からすっかりと真実が抜け落ちてしまい、誰になにを訊ねられても、有来有去に都合の良い答えしか言わないと確信してからだ。
「賽太歳……あるいは、金聖姫という名に記憶は?」
壁の向こうの宿元女の部下が訊いている。
「な、ないわ……あ、ああ……」
宝玉は虚ろな目をしている。
しかし、答えには淀みはない。
ただ、時折つく宝玉の吐息には、ずっと苛まれている張形の刺激による甘い淫情の色が含まれている。
宝玉に質問を続けている男には、なぜこんなに宝玉が顔を赤くして、色っぽく身体を悶えさせるのか理解できないはずだ。
有来有去は密かに含み笑いをした。
有来有去も心を読んでいるが、宝玉の頭には、真実の情景は残っていない。
宝玉の頭にある情景は、長女金を自分たちが殺したという数日かけて擦り込んだ光景だけだ。
もっとも、宝玉はそれをやったのは、宝玄仙の人格と考えているようではあるが。
「残念だわ。どうやら、また、出鱈目の情報を掴まされたようね」
宿元女が頷いて、横に立っている自分の部下に合図をした。
壁の向こうで訊問をしている部下の調べを終わらせるためだ。
指示を受けた宿元女の部下が隣室に向かう。
有来有去は道術を解いた。
透明だった壁が元の石壁になり、向こう側の情景が遮断された。
「宝玄仙の証言のとおりに、山中で長女金を道術で焼いたらしい跡も道術師隊が見つけています。長女金が死んだというのは間違いないようです。その場所をお教えすることもできますが?」
道術師隊がでっち上げたものだ。
実際には、そこで誰も死んではおらず、ただ草に焼け焦げがあるだけだが、道術のない者にはそこで人が死んだかどうかなど判別できるわけがない。
「その必要はないわ──」
宿元女が立ちあがった。
「宝玄仙は明日、城郭の広場で晒します。処刑は明後日の朝です」
「気まぐれで人を殺すような悪女は、人間的に扱ってやる必要はないわ。見せしめにすべきね。もっとも、道術を遣えるなら逃亡に気をつけることね」
「道術師隊が二重三重と警戒しています。逃亡などできませんよ」
晒し刑から処刑の当日にかけて、道術師隊と城郭兵が重警備をする。
有来有去が警戒しているのは、宝玄仙の供が宝玄仙を奪回にくることだ。
宝玉の心を読んだ限りでは、ひと筋縄ではいかない女傑たちのようだ。
「それにしても、私としても残念です。金聖姫様の行方については、私も、道術師隊も案じてあります。可能な協力を惜しむつもりはありません」
「それが口先だけでないことを信じるわ、有来有去殿」
宿元女は嫌味のように言い、観察室を出ていった。
宿元女とその部下が消えると、有来有去は宝玉がいる部屋に向かった。
「すべて終わった。よくやったな、宝玉──。明日、お前は城郭に晒される。処刑は明後日の朝だ。もう、眠っていいぞ。本当の牢に連れていってやる。独房だ。まともな食事も準備させる」
有来有去がそう言うと宝玉の眼が大きく見開かれた。
「め、妾の話は……? あ、愛していると……」
「お前、馬鹿か──」
有来有去は大笑いした。
宝玉の顔が歪んだ。
その表情には狂気の色がある。
「う、嘘つき──。嘘をついたのね──。嘘つき……。宝玄仙のせいね──、。宝玄仙が長女金を殺したから……。あいつには、沙那たちがいるのに、わたしには誰もいなくて……、そして、せっかくわたしが掴みかけた人まであいつのせいで失うのよ──。宝玄仙のせいよ……。そうに違いないわ──ああああ、宝玄仙が我が儘で気紛れだから、わたしが手に入れるはずだったものまで奪った。あいつが長女金を殺したから──」
突然、宝玉が喚きはじめた。
有来有去は驚いた。
思考を読んだが、宝玉の頭の線が切れたようになっていて、読み取ることができなくなっている。
慌てて、有来有去は思考を読むのを停止した。
すでに役目の終わった張形の振動も停止させた。
「連れて行け──」
有来有去は言った。
それきり宝玉のことなど忘れた。
それよりも、明日は忙しいのだ──。
沙那、孫空女、朱姫という三人の女は、間違いなく宝玄仙を奪回しにくる。
それを阻止するための手配をしなければならないのだ。
できれば、その機会に三人を捕縛してしまいたい。
あのとき、道術師隊は宝玄仙を捕えたが、城郭軍は、宝玄仙の三人の供の女傑を取り逃がした。
それを道術師隊が捕縛する──。
きっと道術師隊の地位はさらに上がることだろう。
有来有去は、泣き叫びながら連れて行かれる宝玉の背中を見送りながらそう思った。