御影との因縁の切っ掛けとなる話であり、宝玄仙が御影に脅迫されて、性調教されるエピソードとなります。
そのうち、最初の一日目のみを語ります。
*
若き宝玄仙は、天教の教団本部で神官として働いていましたが、ある夜、同じ天教本部で働く「
しかし、翌朝、宝玄仙士(宝玄仙)は、自分が貞操帯を装着されていることを発見します。それだけでなく、弱みを握られて、御影の言いなりになるように脅迫されます。
*
293 施錠された股間
ふざけやがって……。
宝玄仙は執務室の卓の前で異常な火照りと痒さと戦っていた。
帝都にある教団本部に隣接する「学芸院」と呼ばれる教団の運営する研究所の一室だ。
宝玄はその学芸院に所属する仙士の称号を持つ上級幹部であり、十数人いる室長のひとりとして個室の執務室を与えられていた。
その自分の席に座って、宝玄は黒の巫女服の袴の中でしきりに腿を擦り合わせている。
とてもじゃないがじっとしていられないのだ。
しかし、硬い獣の皮で作られるとともに、鋼線で縁取りをしている股布は少しも宝玄の局部に刺激を伝えてはくれない。
宝玄はだんだんと強烈に襲いかかってくる掻痒感をどうすることもできずに歯を喰いしばって耐えるしかなかった。
こんなことになったのは、宝玄が御影という同じ天教の教団に仕える同僚と一夜限りの逢瀬を愉しんだのが発端だった。
帝都一の美女とも称されている宝玄だったが、その性歴は放埓だった。
性欲が溜まれば声をかけてくる相手と誰とでも情交を愉しんだし、こちらから誘うこともある。
相手は男であることもあるし、女の場合もある。
十代の情熱溢れる若者を相手にこちらが主導的に情交することもあれば、老練な性技を持つ初老の男性との情交でねちねちと焦らされながら被虐的に愛されるのも悪くない。
いずれにしても、特定の相手と付き合うというようなことはなく、続けて二夜同じ相手と寝ることも少なかった。
宝玄にとっては、性の営みなどちょっとした運動のようなものだ。
運動であるが、ひとりではできないので相手を必要とする。
相手となるには、宝玄の性欲を解放させてくれる身体を持っていればいいのであり、性格や容姿など気にしたことはない。
御影に抱かれたのも、別段の感情があったわけではなく、たまたま誘われた夜に身が空いていたからという理由以外ではない。
とにかく、宝玄は昨夜は御影の屋敷に泊って、その御影に抱かれた。
性技はなかなかに上手な男だった。
宝玄をあそこまで乱れさせてくれた相手は最近はいなかった。宝玄は大きな充実感と満足感を抱いて御影の隣で寝入った。
そして、眼が覚めたらこの下着を装着させられていたのだ。
御影の道術により脱げないようになっているだけでなく、局部に得体の知れない薬剤を塗られている。
しかも、手で中を掻けないように鋼線で縁取りをしているとともに、やはり道術で外から触っても中に刺激が伝わらないようになっている。
さらに、股布の内側には張形が装着されていて、その張形が宝玄の女陰を深々を抉ってもいる。
同じようなことを乳首にもされた。乳首に掻痒剤を塗られて、刺激を伝えない胸当てをつけさせられている。
やはり、御影の道術によってこの胸当ても外せないようにされている。
もちろん、類まれな道術遣いである宝玄であるから、その気になれば御影が下着にかけた道術など無効にすることもできるし、掻痒剤の効果を打ち消すこともできるのだ。
だが、できない……。
御影に道術で抵抗することを禁止されたからだ。
宝玄は逆らうことのできない弱みを御影に握られている。
その弱みのために宝玄は御影の言いなりになるしかないのだ……。
宝玄は隠してはいるが、実は故郷に母親がひとりいる。
宝玄と同じように性に放埓な女であり、屋敷を構えて、そこに多くの男女の愛人を囲って淫靡な生活をいまでもしている。
それはいいのだが、母親の性の好奇心は、帝国や教団が禁止をしている妖魔との性交にも及んでいて、愛人の中には亜人とも呼ぶべき妖魔もいるのだ。
この帝国では、神に忌まれる存在として、彼ら亜人を“妖魔”と蔑んで、駆逐すべきものと位置づけているが、実際には、妖魔のほとんどは外観が人間と多少異なって高い霊気を保有しているという以外は、人間とあまり変わらない。
性器のかたちも大半は人間と同じだし性交のやり方も同じだ。
普通に交合もできるし、その気になれば子をなすこともできる。
もっとも、人間と妖魔の合いの子は、“半妖”とも呼ばれて、妖魔以上に蔑まれて迫害される存在であったが……。
いずれにしても、宝玄の母親は、持ち前の性への好奇心から逢瀬の相手として、教団が存在を否定している妖魔を受け入れていた。
それは、天教教団で若くして高い地位を得た宝玄にとっては都合の悪い事実だった。
だから、宝玄はその母親の存在を封印していた。
類まれな道術力と霊具作りの才能を背景として、若くして“仙士”という天教の最高幹部まで上り詰めた宝玄には政敵が多かったのだ。
故郷のような田舎では、問題にもならないような妖魔との情交でも、宝玄の政敵がその事実を知れば、母親を逮捕させるかもしれないのだ。
それが宝玄を陥れる十分な武器になるからだ。
だから、宝玄はそれを用心深く隠し、母親は死んで天涯孤独の身であるという偽の経歴まで作りあげているのだ。
だが、御影は査察卿という役割の中で宝玄の母親の存在に気がついたらしい。
御影という卑劣漢は、その事実を宝玄の政敵たちに暴露しない代わりに、御影の命令に逆らわないことを要求してきたのだ。
つまり、宝玄が御影の性奴隷になることだ。
その最初の命令がこの下着であり、道術を遣って霊具でもある下着を外したり、掻痒剤の痒みを道術で癒すことを禁じられた。
道術を遣えば、必ず御影のところにそれが伝わり、母親が天教の敵として逮捕されるような手筈になっているらしい。
御影の役職である査察卿は、天教の教えに違反する信者を取り締まるのが役割なのだ。
宝玄は御影の言いなりになるしかなかった。
そのとき、宝玄の執務室の扉を叩くがした。
宝玄はこの学芸院で霊具を開発したり、世に拡がっている不穏な呪い具の類いを審査する仕事をしていたが、そのための道術作業室に通じている扉だ。
そこには、宝玄の部下にあたる四人の巫女がいて、彼女たちはその魔法作業室で日夜魔法研究を続けている。
宝玄はその道術作業室の管理が本来の役割なのだ。
「どうしました、宝玄様……。随分とお顔が赤いようですけど……。それに汗びっしょり……」
入ってきたのは
宝玄の世話役として、一年前に教団からあてがわれた巫女であり、三十歳の宝玄よりも十歳は年長だ。
宝玄の直接の部下にあたる四人の巫女のひとりであり、その束ねのような役割をしている。
しかし、宝玄はこの紅麗を嫌っていた。
宝玄を密かに軽んじる感情がなにかにつけ垣間見えるのだ。
紅麗の教団での地位は、教団の上級幹部である宝玄よりも、ずっと低くて僧士だ。
しかし、本人はそれが不当な扱いとしか思っておらず、若くして仙士にまで上り詰めた宝玄にひそかに嫉妬して嫌っているのを知っている。
宝玄もそれを承知しているから、あるとき、道術をかけて思い切りいたぶってやった。
ほかの三人の若い巫女は、もともと宝玄の猫だったのだが、彼女たちにも協力させて、いき狂いの百合責めにしてやったのだ。
宝玄を訴えることも、逆らうことのできない材料も作った。
それ以来、この年増女は宝玄の玩具だ──。
もっとも、お互いに嫌い合っていることに変わりはないが……。
いずれにしても、いまではこの紅麗も宝玄に逆らうことができない猫のひとりだ。
ただし、ほかの三人の巫女とは異なり、彼女に与えるのは悪意のある嗜虐だけだ。
「な、なんでもないよ……。放っておいておくれ──。よ、呼んでもいないのにくるんじゃないよ、紅麗」
宝玄は声をあげた。
ずきんずきんという身体の奥から突きあげるような痒みに懸命に耐えている最中にそばに寄って来られたことで、宝玄はこの紅麗に対する理不尽な怒りに襲われてしまった。
それにしても紅麗は、宝玄に意地悪をされるのを嫌って、いつもはなかなか自分から宝玄の執務室にやってくるということなどないのだ。
それなのに今日に限ってなにしにやってきたのだろう……。
「す、すみません……。この書類にご確認を……」
紅麗が持ってきたのは、なんでもないような物品の請求に関する書類だ。
宝玄の道術印がなければ教団本部に提出できない書類ではあるが、宝玄からすれば、明日でもいいし、明後日でも間に合う書類だ。
宝玄は書類を一瞥して、道術の印章を書類に刻んだ。
紅麗が一礼をして書類を受け取って立ち去ろうとした。
「ま、待ちな、紅麗……」
宝玄は呼びとめた。
いまにも叫びたいような痒みの責め苦だ──。
少しでも気を紛らわしたい。
せっかくなので、運悪く機嫌の悪い宝玄の前にやってきたこの紅麗でそれをやろうと思った。
「はい?」
紅麗が不審顔で振り返る。
宝玄は紅麗を自分の前に呼び戻した。
「巫女服の下袍をまくって、尻をこっちに向けな」
「なっ──」
紅麗の表情が一変した。たちまちに、宝玄に対する強い憤怒と怯えが顔に浮かぶ。
本当にこの女は面白い……。
何度も調教して嗜虐してやっても、宝玄に靡いたり屈服したりする様子を見せないし、気の強い態度を崩すことはない。
宝玄は、実は紅麗のように気が強い女を逆らえない状況にして苛むというのがなによりも好きだった。
これで、もっと若くていい女だったら、ほかの三人の巫女のように宝玄の正式の猫にしてやってもいいのだが、残念だが宝玄も自分よりも十年以上も年上で、大して美人でもない中年女を始終抱く気にはなれない。
この女をいたぶるのは、いまのように苛々を解消させるための生きた道具として扱うときと、からかって遊ぶときのことだけだ。
「早くしな──。それとも、『映録球』を帝都中の賑やかな場所で再映してもいいのかい?」
宝玄は意地悪く言った。
『映録球』というのは、実際に起きた出来事を記録して、好きなときに好きな場所で立体映像として再映できるという水晶玉の霊具だ。
この紅麗を百合責めにしたとき、紅麗の痴態を大量に『映録球』で記録してやった。
それは宝玄が保管していて、逆らえば帝都のあちこちで、紅麗の羞恥の姿が立体映像として流れると脅している。
これがある限り紅麗は宝玄には逆らえない。
それが、この宝玄に舐めた態度を取り続けた酬いだ──。
「くっ……」
紅麗が口惜しそうな顔をしながら宝玄に背を向けて、巫女服の下袍を捲りあげた。
股布のような下着を身に着けることは一切許していない。
いつどこで点検をされるのかわからない紅麗はそれに従うしかない。
下着を身につけさせないのは、この生意気な年増女に自分の立場をわきまえさせるための仕打ちだ。
豊かな白い尻がそこに現れる。
ほかのどの部分も決して美しいとはいえない紅麗だが尻だけは別だ。
この尻だけは、ほかの若い巫女の身体に引けを取らない。
宝玄は紅麗に前屈みの姿勢を命じると、突き出ている尻をまさぐり尻たぶに隠されている菊門に指で愛撫を始めた。
「くくくっ……」
宝玄の巧みな指技に、紅麗はあっという間に快感をあげられていく。
触れているのは紅麗の肛門だが紅麗の女陰がみるみる濡れていっているのが、紅麗の股間から醸し出した匂いでわかる。
この紅麗は、宝玄と三人の巫女による徹底的な調教により、身体のどこでもいやらしく感じてしまう淫情の塊りのような肉体に変えてやった。
こうやって尻穴をちょっと弄くっただけでも、たちまちにこんな風に腰を淫らに震わせる雌になる。
「ところで、例の男貯金はいくらくらい溜まったんだよ、紅麗……?」
宝玄は紅麗の尻穴への愛撫を続けながら意地悪く言った。
男貯金というのは、『映録球』を破棄して紅麗を解放する条件として、宝玄が紅麗に与えている仕打ちのことだ。
紅麗には、宝玄が保管している紅麗の痴態を記録した『映録球』を返して欲しければ、この帝都で百人の男と情交をしろと命じている。
しかも、金を貰ってだ。
だから、どちらかといえば貞節で真面目な教団の巫女だった紅麗は、いまでは身をやつして夜な夜な帝都の道端で男を漁る娼婦のような真似を続けている。
それが紅麗にとってどんなに屈辱であるかは宝玄も知っている。
だが、それを続けなければ、いつまでも宝玄に脅迫の材料を握られることになる紅麗はそうするしかない。
時折、夜の帝都の裏街で顔を隠して男に声をかけている紅麗に出遭うこともある。
そのたびに口惜しそうな仕草で隠れようとする紅麗をからかうのは、宝玄のなによりの愉しみだ。
まあ、いずれにしても、四十の女盛りの身体を昼に宝玄に性感をいたぶられ、夜には見知らぬ男と性をかわしている紅麗は、もはや宝玄が解放しても以前のようなまともな生活には戻ることはできないだろう。
すっかりと淫情になったこの身体は誰かが癒してやらなければ、放っておかれるとどうしようもなく疼き、もう、淫行なしでは生きていけないはずだ。
紅麗は自分がそんな淫乱な身体にすっかりと変わってしまっているという事実に気がついているのだろうか?
それを考えるとどうしても顔が笑ってしまう……。
「こ、これです……あ、あはあっ……」
紅麗が両手で抱えていた下袍を片手に持ち替えて、左手を後ろに伸ばして宝玄に示した。
その薬指に宝玄が与えた指輪がある。
この指輪が紅麗が何人の男から金を支払ってもらって情交をしたかの記録霊具となっていて、宝玄の道術でいつでも数を確認できるのだ。
宝玄は指輪に手を当てて発光させた。
“三十一”。
指輪が放った光は床にその数字を表示した。
「なんだい、まだたったの三十一人かい──。まだまだだね……。そうだ。だったら、尻で性交したら、ひとりにつきふたりと勘定するように霊具を刻み直してやるよ──。だから、今度から男を捕まえたときには、前の穴ではなく、尻の穴でお願いしますと頼んだらどうなんだい──?」
宝玄は笑った。
紅麗が歯ぎしりをしてぶるぶると震えるのがわかった。
しばらく、紅麗をそうやってからかってから、やっと宝玄は紅麗を解放した。
紅麗は逃げるように宝玄の執務室を出て行った。
再び、執務室でひとりになると、紅麗をいたぶっているあいだは、気が紛れて少しは耐えられた股間の痒さがどうしようもないものになった。
思い切って手を股間と胸にやってみた。道術は禁止されているが直接的に掻くことを禁止されているわけではないのだ。
しかし、いくら強く擦ってもまったく下着に包まれている場所に刺激は伝わらない。
「くそうっ──。あ、あいつ……」
やっぱり、どうしても外から触っても痒みが癒えない仕掛けになっているのだ。
宝玄は立ちあがった。
卓上にある鈴を鳴らすと、外出をするという伝言を隣の部屋にいる巫女たちに残して御影に会いにいくために部屋を出た。
*
宝玄は教団本部にある査察部の前に立っていた。
教団本部と学芸院は隣り合う建物であり、渡り廊下で行き来をすることができる。
皇帝の宮殿にも匹敵する教団本部の大きな建物の三階にある査察部という部署に赴き、査察卿である御影のいる部屋を訪ねにきたのだ。
御影に会いにいくということは、再び御影の軍門に下るということを意味する。
あの男が宝玄を自分の性奴隷のように嗜虐することを望んでいることは薄々わかっていた。
こんな淫靡な仕掛けをして宝玄を解放したのは、すぐに宝玄から御影のところにやってくることを見越してやったことだ。御影に抱かれたくなれば、自分からやってこいという嫌がらせだ。
だから、ここで御影に許しを請えば、宝玄が御影に屈するということだ。
あの男に屈服したくはなかったが、おかしな霊具の下着を解放してもらわなければ、もうどうにもならない。
査察部にやってきて、査察卿の御影仙士に用事があると宝玄が告げると、意外な人物の訪問に査察部の教団員たちが宝玄に好奇の視線を向けた。
教団法の違反の取り締まりをする査察部と道術の研究をする学芸院には業務上の繋がりはない。
帝都一の美貌の持ち主と評判の宝玄の訪問に査察員の男たちがじろじろと宝玄に視線を向けていく。
人に見られることに馴れている宝玄だったが、今日だけはうっとうしい。
少しの時間、客室で待たされた。
「御影様はお会いになられます」
案内役となる若者が、待っていた宝玄に声をかけて、宝玄を査察部の最奥にある御影の執務室まで連れていった。
すぐに御影の部屋の前に着いた。
「どうぞ──」
扉の向こうから御影の声がした。
案内の若者が扉を開くと、かなり広い部屋の奥に御影がこちらに正面を向けて執務用の卓に向かっているのが見えた。
部屋の中にあるのは、御影の座る椅子と卓のみであり、ほかにはなにもない。がらんとした部屋に御影だけがぽつんといる感じだ。
「学芸院の宝玄仙士様です……」
案内の若者が言うと、御影は宝玄に部屋に入るように告げるとともに、若者には執務に戻るように指示した。
宝玄はひとりで御影の座る卓の前までやってきた。
この部屋には御影の座る椅子以外には、腰掛けるようなものはないから、宝玄はそのまま立っているしかない。
御影はちらりと宝玄に視線を向けて、一瞥するとなにも言わずに机上にあるなにかの書類に視線を戻した。
そのまま宝玄を無視するように書類に見入っている。
宝玄は腹が煮える思いだったが、ぐっと拳を握って耐えた。
御影が宝玄から口を開くのを待っているのは明らかだ。しかし、ここで凌辱されるにしても、宝玄から哀願の言葉を御影に告げるなど嫌だった。
だから、そのまま口をつぐんで待った。
しかし、御影は宝玄など眼の前にいないかのように無視し続けている。
意地と意地とのぶつかり合いだが、頭まで朦朧とするような痒み責めに遭っている宝玄には勝ち目のない戦いだ。
結局のところ、宝玄が折れるしかない。
「い、いい加減にしておくれよ、御影──。お、おかしな嫌がらせはやめて、この下着を外しな──。わ、わたしの身体を抱きたいなら、いくらでも抱けばいいよ。な、なんだったら、ここでもいいよ──」
宝玄は挑むように言った。
「あら? ここで抱いて欲しいの、宝玄ちゃん? そのためにやってきたのかしら? でも、仮にもここはあたしの執務室なのよ。勘弁してよ──」
御影は顔もあげずにそう言って笑った。
その馬鹿にしたような態度に、宝玄の中のなにかが切れた。
「さ、さっさとこれを外さないか、この男女──。それに、その女みたいな喋り方やめな。虫酸が走るんだよ──」
宝玄は御影の卓に平手を叩きつけた。
やっと御影が顔をあげた。
金色の髪をした痩身の御影の鋭い視線がじっと宝玄に向けられる。
宝玄は挑むように御影を睨んだ。
こうやって立っているだけで息切れをするほどに身体が熱い。
痒みの苦痛は、もうどうしようもならないほどに宝玄の全身を苛んでいる。
それでも真っ直ぐに立って気丈に振る舞っているのは、御影の前で弱みを見せたくないという自尊心の力だけだ。
そのとき、宝玄は御影が口元に笑みを浮かべてはいるが、かなり激昂していることに気がついた。
「……ふふふ、さすがは宝玄ちゃんね……。相変わらず、人を怒らせるのが得意よね……。自分の立場を忘れているんじゃないの? ここで抱いて欲しいのはあんたの方じゃないの? あたしの合成した掻痒剤は効くでしょう……? あんたも自分の猫を調教するのに、こういうものを使うんでしょう? たまには、自分が他人にすることを自分が味わうというのはどう?」
宝玄はだんだんと荒くなる呼吸を整えながら口を開いた。
「あ、ああ……わ、わかったよ……。大した薬剤だよ……。そ、それにお前には逆らえない……。逆らわないよ。それくらい、わかっているんだろう、御影……。だ、だから、こんな蛇の生殺しみたいなことはやめておくれ……」
「蛇の生殺しってなによ……。ああ、そうだ──。そういえば、あたしって、あんたがここになにをしにきたのか聞いてなかったわね……。魔法院のもっとも若くて優秀な研究室長のひとりである宝玄ちゃんが、こんな査察部のむさい場所になんの用事?」
御影はいつもの薄笑いを浮かべながら宝玄の身体に舐めるような視線を送りながら言った。
今更ながら、宝玄はこんな男に身体を許し、こんな霊具の下着を装着させるような油断をしたことを後悔した。
もっとも、この御影は宝玄の隠している母親の存在のことを知っている。
遅かれ早かれ、宝玄に接近してきたに違いないが……。
「な、なんでもいいよ……。も、もう、屈服するよ……。この痒みを解いておくれ──。お、お願い……だよ」
宝玄は言った。
すると御影は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。その態度にも腹が立つ。
「まあいいわ……。じゃあ、服を脱いであたしのあげた下着だけになりなさい。履いている靴も含めて、なにもかも脱ぐのよ」
御影が言った。
宝玄は屈辱で身体が震えるのを感じながら、黒の巫女服をたくしあげていった。
気の遠くなるような恥辱と汚辱だ。
しかし、もうここで御影に抱かれるのは覚悟のことだ。
そうしてもらわなければ困るのは宝玄であり、御影が気の遠くなるような効果の掻痒剤を局部に塗りつけて解放したのは、宝玄が耐えられなくなるのをわかっていて、屈服して御影のところにやってくる宝玄を犯すためであることはわかっていた。
同じ抱かれるにしても、もう少し交渉のようなことをやって、少しでも宝玄が主導権を奪いながら情交をしなかったが、時間が経つにつれて痒みが酷くなるこの掻痒剤は、そんな余裕を宝玄には与えてくれそうにない。
正直にいえば、いますぐに御影にこの痒みを癒して欲しい。
指でほじくり、局部を荒々しく犯して欲しい──。
もう、ほかのことなど考えられないくらいに、もう宝玄は追い詰められているのだ。
御影の指示に従い、身につけたものをすべて卓上に置いて御影に装着させられた下着だけの姿になった。
宝玄は自慢の肢体を御影の視線に晒す。
しかし、全身は掻痒剤に苛まれて脂汗にまみれていて、股間に履かされた掻痒剤を塗り込められた張形付き股布のために、宝玄の股間からは金属の縁取りを通り越してかなり大量の淫液が腿に沁み込んでいる。
そんな姿を眺められるのは尋常の恥ずかしさではなかった。
「首をお出し」
御影が言った。
なにをされるのかわからなかったが、いまは逆らうことはできない。
時間さえあれば、御影が宝玄について握った弱みの出所を探って情報を遮断させるともに、御影がすでに握っていてどこかに隠している宝玄の弱みの証拠を封印することも可能だと思うが、それまでは、この女のような喋り方をする男の言いなりになっているふりをするしかない。
御影が首にしたのは黒い色の小さな宝石の首飾りだ。
御影は宝玄の衣類が載っている卓越しに宝玄の首に両手を伸ばすと、その首飾りを宝玄の首に巻いた。
「なっ……」
それを首にかけられた瞬間、宝玄は身体から力ががっくりと消失する感覚を味わった。思わず眼の前の卓を両手で掴んで身体を支えた。
びっくりした……。
これはなんなのだ……。
消失したのは宝玄の身体にある霊気だ。人並み外れた霊気を持つ宝玄の身体から一度に霊気が消失し、それで全身が弛緩したような錯覚に襲われたのだとわかった。
宝玄は慌ててそれを外そうとした。
「な、なんだい……。さ、触れない……」
宝玄がそれに触れようとしたとき、腕から完全に力が抜けて身体の横に落ちた。
別に手足が痺れているというようなことではない。
ただ、首飾りに触ろうとすると、手が急に弛緩したのだ。
「あたしが開発した『魔法封じの布』という布を封じ込めた首飾りよ。どうやら、あんたにも効くようね。これは霊気が高ければ高いほど効果があるのよね……」
「魔法封じの布_? 首飾りだって?」
「布そのものを使ったら多分、あんたは動けなくなると思うから、効き目を弱めるために布の破片だけを宝石に埋め込んで首飾りにしているのよ。それでも、霊気が消失するのは同じでしょう……? あんたの母親の告発状だけじゃあ、あんたの支配は不安だから、それをあげるわ。それをしている限り、あんたは道術は遣えないわ……。あたしがあんたを抱くときには、それをしてあげる。道術で逆らわれると面倒だしね──」
御影は言った。
「そ、そんなことをしなくても逆らいはしないよ──。こ、こんなもの外しておくれ──」
宝玄は恐怖した。
生まれて初めて霊気が消失するという経験を味わっていた。
幼いころから人並み外れた霊気を持ち、高い道術の力を欲しいままにして、これまで勝手気ままに生きていた宝玄には、霊気がないという状態が、こんなにも心細くて怖ろしいものであるとは思わなかった。
いま下着だけの半裸の姿を晒していることよりも、この霊気を消失させる霊具を首にかけられことの方が堪えた。
「いいから、こっちに来なさい……。そろそろ、痒みを癒して欲しいでしょう?」
御影が言った。
宝玄は卓を回って御影の椅子の前に立った。
御影が指を鳴らすと、身につけさせられていた胸当てが外れて、胸当てが床に落ちた。しかし、張形が内側に付いている股布の下着はそのままだ。
「そのまま卓の下に隠れなさい──」
御影が椅子に座ったまま言った。
なにを命じられたのかよく理解できなかった。
この部屋にある唯一の家具である御影の卓は、脚の部分が板で覆われて、反対側からは見えないようになっている。
そこに入れと言われたのだろうか……?
呆気にとられている宝玄をそのままに、御影が卓の鈴を鳴らした。
宝玄が執務室に使っているのを同じものであり、離れた部屋で執務をしている部下を呼び出すためのものだ。
しかし、宝玄はまったくの全裸だ。
びっくりして、慌ててしゃがみ込むと眼の前の卓の下に潜り込んだ。
この部屋にはそこしか身を隠す場所がないのだ。
そのとき、部屋の外から声がした。御影の呼び出しに応じて部下がやってきたのだ。
「どうぞ、入って──」
御影が言った。
宝玄は卓の下で凍りついた。
卓で隠れているとはいえ、宝玄は全裸なのだ。
しかも、御影の卓の上には、たったいま宝玄が脱いだ衣類がそのままにしておいてある。
「お呼びでしょうか、御影仙士様?」
卓の向こうで御影の部下の声がする。
宝玄は生きた心地もせずに息を殺していた。
そのとき、こんと御影が軽く足を鳴らした。
すると股間に挿入されている例の張形がゆっくりと動き出した。
掻痒剤のためにただれるような痒みを味わっていた宝玄にとって、この状況で股間を刺激されるのは、全身が溶けるかと思うような峻烈な法悦だった。
しかし、薄い卓の脚隠しの板の向こうには、宝玄の見知らぬ御影の部下が立っている。
宝玄はそれこそ歯を喰いしばって口から迸りそうになる声を殺した。
「さっきまでここにいた学芸院の宝玄仙士殿が置いていったんだけど、これはあたしがいま独自にやっている捜査の証拠物件なのよ。査察部の倉庫に保管しておいてくれない」
御影が部下にそう言った。
宝玄は御影と部下の会話を聞きながら、漏れそうになる悲鳴を懸命に噛み殺して、股間を苛む張形のゆっくりとした振動と戦っていた。