※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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 本エピソード『【前日談】女巫女羞恥調教』は、仙士時代の若き宝玄が最初に御影の罠に嵌まった半月のうちの第一日目の出来事を描いています。


 *


294 机の下の淫行

「保管区分はどうしますか、御影様?」

 

 机の脚隠しの板一枚隔てた向こう側に立っている御影の部下が訊ねる声が聞こえた。

 御影の座る机の下に隠れている宝玄は、必死の思いで口に手を当てて声を抑えていた。

 股間で痒み剤のためにただれるようになっていた女陰に喰い込まされている張形がだんだんと強くなる振動で痒みを解きほぐしていく。

 それは凄まじいまでの愉悦だ。

 

 しかし、それは恐怖でもあった。

 あまりにも気持ちよくて快感を耐えることができない。

 しかし、快感に我を忘れて声などあげようものなら、天教教団の仙士ともあろう宝玄が、半裸にされて、こんな机の下で貞操帯の張形で責め苛まれていることがばれてしまう。

 そんなことになれば、この若さでここまで築いた教団における宝玄の地位と名誉は瓦解し、学芸院の若き仙士としての宝玄の評判は地に落ちるだろう。

 そんなことには耐えられない。

 

「保管区分は特一号よ……。あたしの認識符号は……」

 

 御影がわざとらしく部下に応対しながら、机の下にいる宝玄にすっとなにかを差し入れた。

 小さな輪がふたつある金属だ。

 それがなんなのか、すぐにはわからなくて、宝玄は思わずそれを受け取った。

 

 そして、宝玄は目を見張った……。

 これは指錠だ。

 ふたつの輪でそれぞれの左右の親指を締めつけるのだ。

 それで両手の自由を完全に奪ってしまうという拘束具だ。

 

 するとぱらりと小さな紙片が落ちてきた。

 文字が書いてある。

 部下と話しながら、それを紙片に書いたようだ。

 宝玄は目の前に落ちてきた紙に書かれた文字を覗き込んだ。

 

 “背中側でそれで両方の親指を拘束せよ”

 

 そう書かれてあった。

 

 冗談じゃない──。

 この指錠は霊具のようだ。本来の宝玄の力なら大抵の霊具は効力を簡単に消せるが、首に道術封じの効果のある首飾りをさせられているいまの宝玄には、これを装着してしまうと自分では外せない……。

 

 張形付きの貞操帯一枚の姿になったうえに、さらに両手を拘束するなど……。

 そんなことを許せば、この卑劣な男は宝玄になにをするかわからない。

 宝玄はかっとなって紙片を握りつぶした。

 

「あうっ」

 

 その瞬間にいきなり激しく張形が振動し、宝玄は太腿をびくりと反応させるとともに。思わず小さな声をあげてしまった。

 

「おっ、なんですか、いまの?」

 

 机の向こうの御影の部下が驚いたように声をあげた。

 宝玄は全身を固くした。

 

「なんでもないわ……。それよりも、あんたから報告書があがっているこの件なんだけど……」

 

 御影が部下を立ち去るのを引き留めるように言って、机の引き出しから書類を取り出して部下に示す気配がした。

 同時に股間の張形が宝玄の官能を煽りたてるように動き出す。

 張形の振動が急にゆっくりになったかと思えば、一気にさっきの大きな振動に加速し、そうかと思えば、またとまるような静かな動きになり、すぐに激しくなったりする。

 あるいは、しばらく強く振動して、急に止まるような動きになったり、また強い刺激を加えたりもする。振動の強弱の間隔も不規則だ。

 そうやって宝玄に張形の刺激に備えさせないようにしているのだ。

 

 さすがにこれは堪らない。

 宝玄は口に手を当てて、懸命に口から洩れかける声を噛み殺した。

 御影の嫌がらせだ……。

 拒否すれば、この部下のいる前でさらに股間の張形の振動を強くするとも言っているに違いない。

 

 これ以上、声を我慢できない……。

 宝玄は仕方なく渡された指錠を背中に回した。

 両方の親指を輪に入れて小さな突起を押せば簡単に施錠がかかる仕掛けになっている。

 

 親指の手元を金属の圧迫感が襲った。

 これで宝玄はこの卑劣漢の前で両手の動きさえ封じられてしまった……。

 愕然とする思いが全身を支配する。

 

 それにしても、まだ股間を襲い続けている淫具が静かにならない。

 御影に言う通りにしたことを訴えたいが、声を出すわけにはいかない宝玄はどうしていいのかわからなかった。

 するとまた紙切れが落ちてきた。

 

 “首を前に出せ”

 

 そう書いてあった。

 なんのことかわからないが、後手に拘束されている身体のまま、首を垂らして頭を前に出す。さらに顔を左右に振って首にかかっている黒髪を避けた。

 

 がちゃり──。

 首で音がした。

 なにをされたのかわからなかったが、すぐに首に金属の首輪を嵌められたのだとわかった。

 しかも、首輪に鎖がついている……。

 次の瞬間、もの凄い力で鎖を引っ張られた。

 

「い、痛い──。み、御影──」

 

 宝玄は悲鳴をあげて身体をよじったが、ただでさえ痒み剤と張形の責めで全身が弛緩しているのだ。

 そのうえに、両手を背中に拘束されている状態では、御影の力に耐えられるわけがない。

 宝玄は革の貞操帯一枚の全裸に近い恰好のまま、御影の部下の前に引き摺り出された。

 

「み、御影──。な、なんのつもりだい──。しょ、承知しないよ──。こ、これは遊びの域を越えているよ──」

 

 宝玄は怒鳴った。

 

「あたしは遊びのつもりなんか最初からないわよ。あんたをとことん調教して、あたしの飼う雌犬たちのひとりにしてあげるわ」

 

 御影は笑いながら、机の反対側に回り込んで、容赦なくぐいぐいと宝玄の首輪を引っ張る。

 さらに、すかさず御影の部下がさっと手を伸ばして机上にあった箱を机の下に移動させた。

 さっきまで宝玄が着ていた服を収納した箱だ。

 なんにもなくなった机の上に、宝玄は首を机上に引きあげられて、上半身を机に倒すように密着されてしまった。

 御影が一方の机の脚に鎖の端末を結びつける。

 宝玄は上半身を机に突っ伏して動けなくなった。

 

「な、なんのつもりだい、御影──?」

 

 宝玄は喚いた。

 まさか部下の眼の前に、本当に引き摺り出されるとは思わなかったのだ。

 

「ほう、これは宝玄仙士殿じゃないですか……? また御影様の悪い癖が出て、遊び女を机の下に隠して遊んでいることにはすでに気づいていましたが……。まさか、まさか宝玄仙士殿とは……。御影様にかかれば、この女傑まで性奴隷ですか……」

 

 頭の上から御影の部下の声が聞こえてくる。

 怒りで全身が熱くなり、その部下を怒鳴りあげてやろうかと思うが、首輪を強く机の下に引っ張られているので顔をあげられない。

 なにしろ、首を机の下側に引っ張られていて、相手の顔も見えないのだ。

 相手の顔も見れないのでは怒鳴っても虚しいだけだ。

 宝玄仙の視界に入るのは、自分を押さえている御影の下半身とその隣に立っている御影の部下の脚だけだ。

 

「やっちゃっていいわよ……。あたしは昨夜、さんざんやったから──。なかなかの道具よ──」

 

 御影が言った。

 そして、御影の指が鳴った。

 股間を締めつけていた貞操帯が緩んだのがわかった。

 

「いいんですか……?」

 

 部下が笑いながら宝玄の背後に回り込んでくる。

 

「お、お前……しょ、承知しないよ──。わ、わたしを誰だと思っているんだい──。宝玄だよ──。わ、わたしになにかしたら殺してやるよ──」

 

 宝玄は声をあげた。

 しかし、御影の部下は戸惑う様子さえなく、宝玄の後ろに回ると張形の喰い込みで股間に張りついたままだった貞操帯を引き離した。

 

「あふうっ」

 

 張形が女陰から強く引き抜かれる感触に宝玄は、甲高い声をあげてしまった。

 御影の部下の指が尻たぶの亀裂をなぞって、たったいままで張形が食い込んでいた女陰を押し開いていく。

 

「や、やめるんだよ──。し、死にたいのかい──。わたしの道術を知らないのかい──。お前なんか、一瞬で廃人にできるんだよ──」

 

 宝玄は身体を激しく動かして抵抗しようとするが、上半身を御影に押さえつけられ、腰を御影の部下にしっかりと抱えられてしまっている。

 さすがに男ふたりがかりで身体を押さえられては、抵抗などほとんどできない。

 

「こんなこと言っていますが、大丈夫なんでしょうねえ、御影様?」

 

 御影の部下は宝玄の両脚のあいだに片脚を差し入れた。

 宝玄はそれでもう股を閉じるのが封じられたということがわかった。御影の部下が下袴を緩め出す気配がしだした。

 

「だ、大丈夫なわけないだろ、お前──。いい加減しな──」

 

 宝玄は喚いた。

 すると、その宝玄の尻たぶが思い切り平手で叩かれた。

 

「ひぐっ」

 

 思わぬ激痛に宝玄は自分の眉間に皺を寄せた。

 叩いたのは御影の部下だ。

 御影自身ならまだしも、こんな下っ端部下になぶられるなど腹が煮えそうだ。

 だが、いまの宝玄にはそれに抗することができない。

 

「こんなに股ぐらから淫汁垂れ流している雌がなにを偉そうに……。俺の一物だって御影様と同じくらいにいいものですよ、宝玄殿──」

 

 御影の部下が嘲笑いながら、硬直した持ち物を宝玄仙の尻たぶの奥に突き入れてくる。

 

「あはあっ──」

 

 男の熱い怒張が宝玄の女陰に侵入してきた……。

 長い時間をかけて張形に責められて続けてきた宝玄の女陰はすっかりと受け入れ準備が整っている。

 御影の部下の一物が宝玄自身のたっぷりとした愛液の滑りを借りて、簡単に膣に突き入ってくる。

 

「はううう……」

 

 宝玄は後手に拘束されている両手の拳を力いっぱい握りしめた。

 全身に愉悦が迸る。

 哀しいくらいに気持ちいいのだ。薬剤で狂いそうな痒みに襲われている女陰の内側を男の太い肉棒で擦られる快感は、天にも昇るような心地よさだ。口惜しいが口から出る声を止められない。

 

「ほう、この宝玄殿は尻を振り始めましたよ、御影様──」

 

「好き者なのよ、こいつは……。しっかりといたぶって、あたしから離れられなくしてやるつもりよ……。それよりもびっくりするわよ。こいつの道具は大変な名器よ。それに興奮すると締めつけても来るわよ……」

 

「それは愉しみです」

 

 宝玄自身の愛液を潤滑油にしながら、怒張が宝玄の女陰の粘膜を拡げて侵入してくる。

 

「あっ、あはあっ、あああっ……」

 

 宝玄は男の性器をはっきりと感じながら声をあげた。

 

「どう、なかなかの道具でしょう?」

 

 宝玄の上半身を机に押さえつけている御影が笑いながら言った。

 

 悪夢だ……。

 天教の教団では、若くして事実上の最上位階級の仙士にまで昇り詰め、道術の才の溢れる霊具作りの才女として、帝都のどこを歩こうとも賛美と畏敬の眼差しを向けられるほどの自分が、卑劣男の罠にかかって、事もあろうに教団本部の一室で素っ裸にされた挙句に、その部下に背後から犯されているのだ。

 しかも、許せないのはこんな状況で惨めに犯されている自分がしっかりと反応していることだ。

 もちろん、それは御影に塗られた痒み作用のある媚薬のためだ。

 しかし、それだけじゃないものもある。

 男であろうと女であろうと、持ち前の嗜虐心を発揮して酷く相手を責める性をすることが多い宝玄であるが、自分の中に他人から責められることを望み、それが惨めであればあるほどに、快感を覚えてしまう被虐性に溢れる自分がいることも事実だ。

 

 犯されている……。

 惨めに……。

 すると忘れている記憶が蘇る……。

 幼い頃から性の奴隷になるために調教され続けたあの日々を……。

 

「くああっ──」

 

 怒張が子宮の最奥を貫いた。宝玄は御影に押さえられている身体を激しく仰け反らせた。

 

「ほほほ……。激しいこと……。だけど、あんまり大きな声を出さないでよね。この部屋の外には、こいつ以外にも大勢の部下が仕事をしているのよ。女の悲鳴なんか聞こえたらなにが起こっているのかと思って飛んでくるわよ」

 

 御影が笑った。

「そ、そのときは……お、お前も終わりだろう……。こ、こうやって、わ、わたしという天教の最上級巫女を拘束して犯しているんだ──あ、あっ、あはあっ……」

 

「よがりながら悪態をつかれても迫力ないわよ、宝玄ちゃん……。だったら遠慮なく叫べば? あたしが女を連れ込んで犯すなんてしょっちゅうやっていることよ。今更、ひとつやふたつの罪で天教はあたしを追い出したりしないわよ……。天教はあたしの才能を買っているのよ」

 

「な、なにが才能だ──。あ、ああっ……、こ、小者が──」

 

 宝玄は身体を激しく揺さぶった。

 

「いい加減にこっちにも集中して欲しいものですね、宝玄殿……。それに御影殿のいう通りですよ。この査察部は査閲卿の御影様を中心にまとまっているのです。宝玄殿を助けようとするものなど皆無です。嘘だと思うならどうぞ助けを呼んでください──」

 

 御影の部下が激しい律動を開始した。

 こいつらの言うことは嘘とは思えない。

 だから、御影は安心して宝玄をここで部下に襲わせるということをしたのだ。

 宝玄は御影の部下の男根によって与えられる官能の波に歯を喰いしばって、懸命に悲鳴を噛み殺した。

 

 いずれにしてもこれ以上の恥を晒すなど耐えられない。

 自分は仙士なのだ。

 帝都一円に拡がる皇帝家と並ぶ権威としての天教に属する高級神官のひとりだ。

 女でありながらここまで天教の上位階級に昇りつめたのは、宝玄を除けば、もう八仙のひとりである閻真仙しかいない。

 

「手伝ってあげるわ……。こいつは胸もなかなかの感度よ。大きいけどしっかりと感じる胸も持っているのよね」

 

 御影が上半身を押さえている手を離して、机に密着している宝玄の乳房の下に差し込んできた。御影の責め特有の粘着性のあるような愛撫が乳房に襲いかかる。

 天教本部の一室で卑劣な男たちにふたりがかりで自由を奪われて犯される……、

 

 そのおぞましさに宝玄の中に張りつめていたものが崩壊する気がした。

 怖いのは自分の心だ……。

 胸を揉まれ、女陰を犯され、陰湿にいたぶられてそれに愉悦を感じている自分がいる。

 快感を抑えられない……。

 陰湿に苛められることが肉体の快楽に変わるのだ。

 

「おや、少しばかり大人しくなりましたかね……?」

 

 宝玄を犯し続けている男が言った。

 

「被虐の気もあるのよ、この女はね……。あたしも抱いてわかったけど……。せいぜい苛め抜いてあげるわ……。そして、あたしから離れられないようにするわ。この御影の性奴隷にするのよ……」

 

 御影が笑った、

 かっとした──。

 しかし、どうにもならない。

 

 首におかしな道術封じの首飾りがかかっている。道術が遣えなければ宝玄などただの非力な巫女にすぎない。

 それをいいことに、御影とその部下は、陰湿に宝玄を責めたててくる。宝玄に欲情をぶつけようというよりは、宝玄の身体を好き勝手に味わうことを愉しんでいるという感じだ。

 いつまでも続く御影の部下の律動と御影の胸責めに、宝玄はひたすら声を殺して、この汚辱に耐えるしかなかった。

 

 だが、律動がかなり長くなったときだった。

 激しい愉悦に宝玄は、かなり乱れて拘束された身体を振り乱し続けていたが、不意に偶然に首から垂れている首飾りの端が机の下の金具の端に引っ掛かったのだ。

 この首輪にはなぜか触ろうとすると力が抜けてしまうが、この状況を利用して、そのまま引き千切ってしまえば……。

 

 考えるよりも先に身体が動いていた。

 宝玄は首を強引に動かして首飾りを引っ張った。

 首飾りの細い鎖が千切れて宝玄の身体の霊気が渦を巻いて動き始めた。

 

「ゆ、許さないよ、お前ら──。覚悟しな──」

 

 霊気を充満させると自分の周りに大きな空気の振動を発生させる。

 それが宝玄を押さえつけているふたりの男たちの身体の中の霊気にぶつかる……。

 

「うわっ──」

 

「おおっ」

 

 その風圧に御影がまず飛ばされ、宝玄の女陰に男根を挿入していた御影の部下が後方に跳ばされた。

 

「お、お前ら許さないからね──。逃げるんじゃないよ──。この宝玄を馬鹿にすればどういうことになるか覚えておきな──」

 

 まずは後手に拘束されている指錠を道術で解錠させる。

 続いて首輪に繋がっていた鎖を手で外した。

 

 顔をあげた──。

 御影は部屋の端まで飛ばされて、尻餅をついたまま宝玄を見て呆然とした表情をしている。

 

 こいつのことはいい……。

 とにかく、まずは自分を犯した小者だ──。

 宝玄は後ろを振り向いて、背後から宝玄を犯していた男を睨んだ。

 

「あっ──」

 

 思わず声をあげた。

 驚いたことに、部下だと思い込んでいた後ろにいた男の顔も御影だったのだ。

 慌てて、もう一度、宝玄の前側で尻餅をついている男を見る。

 やはり、こっちも御影だ。

 

 御影がふたり……。

 宝玄は混乱した。

 

「な、なんで?」

 

 呆気にとられて宝玄は自分を挟んで前後にいるふたりの御影を交互に眺めた。どう見てもふたりとも同じ御影だ。

 つまり、自分は御影の部下だと思わされて、どうやら御影自身に犯されていたようだ。しかし、それを導いたのも、やはり御影自身だ。

 これはどういうことなのだ……?

 

「やっぱり、後先考えない性格よねえ……。まさか抵抗するとは思わなかったけど、その短気で計画性のない性格は直した方がいいんじゃないの、宝玄ちゃん? そもそも、あんたって、どうしてあたしの命令に従っていたのか忘れたんじゃないの? いいの──? あんたの護りたい者を告発する鍵はあたしが握っているのよ。逆らうと、天教の捕縛隊をあんたの故郷に差し向けさせるわよ。宝玄ちゃんの表向きの故郷じゃなくて、本当の故郷にいるあんたの知り合いの女にね……」

 

 後ろにいたふたり目の御影の姿が床を滑るように移動した。

 そして、前側にいる御影に吸い込まれる。

 

「な、なんだいそれは……? めくらましかい?」

 

 宝玄は思わず言った。

 

「めくらましじゃないわ。あたしの得意な術のひとつよ……。『影法師の術』よ」

 

 眼の前の御影が立ちあがった。

 

「か、影法師だって……?」

 

 宝玄はびっくりしていた。どうやら、自分の分身を出現させる道術のようだ。

 さすがの宝玄もそんな道術に触れるのは初めてだった。

 

「……ところで、さっきの話だけど、あんたはあたしを舐めているようね。じゃあ、こっちも遠慮なく、あんたの家族に関する情報を本部に正式に報告するわ──。妖魔と通じているどころか、性行為までしているふしだらな貴族女がいるってね……。いくら地元では好き勝手できる立場でも、地方貴族なんて、天教にかかれば吹けば飛ぶような権威でしかないのよ──」

 

 御影が腹を立てたような口調で言った。

 はっとした。

 ふたりがかりで犯された怒りで、思わず道術で抵抗してしまったが、考えてみれば、あの道術封じの首輪なんかとは関係なく、そもそも宝玄が御影の罠に陥ってしまったのは、御影が宝玄が隠している母親の存在について、なんらかの手段で知ったことからだったのだ。

 それで脅されたのだ。

 宝玄の母親は性に解放的な女だ。

 普通の性行為であろうと、被虐であろうと、嗜虐であろうと、あるいは、相手が男であろうと、女であろうと、さらに妖魔であっても快楽に繋がれば、その全てを受け入れてしまう。母親の館ではいまでも多くの男女の愛人だけじゃなく、妖魔も受け入れて性の相手をさせているはずだ。

 

 しかし、天教の教えの中では、妖魔は駆逐され滅ぼされる存在だ。

 それを受け入れるなど許されることではない。

 しかも、宝玄の母親はただ受け入れているだけじゃなくて、性行為の相手もさせているのだ。

 天教の教団法に照らせば間違いなく死刑だ。

 帝国の法律では許されても、教団が死刑判決をすれば死刑なのだ。天教にはそれだけの権威がある。

 

「ま、待っておくれ──。わ、わたしが悪かったよ──。つい……」

 

 宝玄は慌てて言った。

 

「つい、なによ……?」

 

 御影が勝ち誇ったようににやりと笑った。

 宝玄はぐっと拳を握りしめた。

 しかし、ここで逆らっては駄目だ……。

 

 とにかく、ここは時間が欲しい……。

 御影がどうやって宝玄の隠している秘密を手に入れたがわからない。

 若くして才能だけでこの地位に昇りつめた宝玄には天教内に政敵が多い。

 宝玄の本当の故郷は天教など見向きもしないような帝国の北域の田舎だから、宝玄の母親は天教の禁止など無視して、平気で妖魔との付き合いをしているが、宝玄を陥れるためであれば、幾人かいる宝玄の政敵は母親に手を出すことで宝玄を失脚させることを企むかもしれない。

 なにしろ宝玄もここまで昇り詰めるのは、かなりの悪辣なこともやっているし、恨みを買うようなことも数限りなくやっている。

 

「ゆ、許しておくれ……。つ、つい逆らってしまったけど、もう逆らわないから……」

 

 宝玄ははらわたが煮えくり返りそうな気持ちに耐えながら、御影に向かって言った。

 

「だったら、あたしの道術を受け入れてちょうだい……」

 

 壁際の御影が言った。

 

「道術?」

 

「あんたの手足をあたしの好きなときに拘束できるようにする術よ……。それが嫌ならさっきの首飾りを首にするわよ。今度は偶然にも外れることがないようにしてね。あんたの自由を奪うには、普通の拘束具じゃ駄目だものね。道術封じの拘束具じゃないと……。でも、仙士のあんたは、道術が遣えないと困るでしょう? これはあたしの優しさで言っているのよ」

 

 御影が言った。

 宝玄は両手で裸身を隠しながら御影を睨みつけた。

 しかし、どう考えてもこの交渉は宝玄が不利だ。

 いや、実際には交渉でもなんでもない。いまは、御影の命令に逆らうことなどできない。

 だが、いかに宝玄といえども、自分の意思で受け入れてしまった道術には後でそれを撥ね返すことはできない。相手の道術を受け入れるということは、一種の道術契約と同じであり、一度受け入れてしまえば、今度は宝玄の大きな霊気自体が、受け入れた相手の道術を護るのだ。

 

「わ、わかったよ……。お前の道術を受け入れるよ……。道術を封じるわけじゃないんだね?」

 

 なにか企んでいるというのはわかる。

 しかし、そう応じるしかない。

 とりあえず道術が遣えるのであれば、あとでなんとでもなる。

 『治療術』が遣えるから、さっきまでのようなおかしな薬剤で悩まされることはないし、おかしな仕打ちをされそうになったら、『移動術』で逃げればいいのだ。

 

「……あんたの道術返しを解放して、宝玄ちゃん……」

 

 御影が言った。

 宝玄は言われた通りにした。

 次の瞬間、御影の霊気が自分に注ぎ込まれるのがわかった。

 そして、自分の手足に御影の霊気が滞留するのがわかった。

 

「これであんたはあたしのお人形ちゃんよ、宝玄ちゃん」

 

 御影が笑った。

 とてつもなく嫌な予感がした。

 受け入れてしまった御影の道術……。

 これはただの拘束道術ではない……。

 

 宝玄の乳房と股間を隠していた自分の手がさっと横に動いた。

 さらに、脚が勝手に動いて、御影の机の前に移動していく。

 

「な、なんだい、これは──? お、お前……、これは、なんの道術なんだい──? お前が好きなときに、わたしの手足を拘束するだけの道術だと言ったじゃないかい──」

 

 自分の手と脚が宝玄の意思と関わりなく動いている。

 宝玄は恐怖した。

 拘束する術ではない。

 これは操り術だ。

 宝玄が受け入れてしまった御影の道術は、宝玄の手足を御影の自由にさせるなんらかの操り術のようだ。

 宝玄は愕然とした。

 

「そんなことは言った覚えはないわね……。これは、あたしのもうひとつの得意の術よ……。『分身』の術というのよ。それであたしは、あたしの作った影法師を操っているんだけどね……。だけど、それだけじゃなくて、意思を持った存在をあたしの分身にする技でもあるのよ……。あんたの手と脚をあたしの分身にしてあげたわ──。どうかしら? 自分の手足を他人に操られる気分は……?」

 

「なにい──?」

 

 宝玄は悲鳴をあげた。

 そんな途方もない道術を御影が遣えるとは驚いたが、確かに宝玄の手脚は宝玄の意思なしに動いている。

 これは宝玄の心を操るというような術ではなく、本当に御影の思う通りに宝玄の手脚を動かしてしまう術なのだ。

 

 逃げようと思った。

 ほかのことは考えられなかった。

 自分の手足なのに、それが他人のもののようにしか感じないのだ。

 宝玄を襲った純粋の恐怖に、宝玄は後先考えずに、そのまま『移動術』で自分の居室まで逃亡を図ろうとした。

 だが、その瞬間に宝玄の手は御影の机の引き出しを開いていた。

 宝玄が道術を刻むよりも速く。宝玄の手はその引き出しの中にあった首飾りを握っている。道術封じの首飾りだ──。

 その瞬間に宝玄の体内の霊気が固定されてしまった。

 

 もう道術が刻めない。

 その手が勝手に宝玄の首に首飾りをかけ直す。

 

「な、なんだい──。き、汚いじゃないかい──。お前は、わたしの道術を奪わないと言ったじゃないかい──」

 

 宝玄は自分の首にかけ直された道術封じの首飾りの効果が全身に及ぶのを感じながら御影に怒鳴った。

 

「調子のいいことを言ってんじゃなわよ、宝玄──。あんた、いま道術で逃亡を図ろうとしたでしょう──。まあ、もっとも、そんなことをしても、あんたの手足はあたしの意思ひとつで動かせるんだから意味があるとも思えないけどね……。まったく、そういう考えなしに軽薄に行動するのは、あんたの悪い癖よ……」

 

 御影が呆れたような口調で言った。

 

「くっ──」

 

 宝玄は歯噛みした。

 しかし、こうなってしまえば、もうどうしていいかわからない。

 宝玄は御影の道術を受け入れて、手足の自由を御影の意思に明け渡している。

 しかも、首には宝玄の道術を封じる首飾りをかけ直された。

 もはや絶体絶命だ──。

 この状況では、このまま御影が宝玄を殺そうとしても、なんの抵抗もできない……。

 

「それよりも、仕事はやめて外を歩きましょうよ、宝玄ちゃん……。せっかく、あんたがあたしの性奴隷になったんだから、それを受け入れられるようにしっかりと躾けてあげるわ……。しばらく手足を返してあげるから、一番下の引き出しに入っている貫頭衣を着ていいわ。あんたのために準備したものよ……。じゃあ、天教本部の門で待っているわ。着替えたら来なさい。でも、いつまでも待っていないからね……。それと拒否すれば、今度は城郭の広場で裸踊りをさせるわよ──。まあ、それも面白いか──」

 

 御影は笑いながら、机の横においたままの宝玄の衣類が入っている箱を持った。

 そして、意地の悪い笑いとともに部屋を出ていった。

 御影が部屋から出ると同時に、宝玄身体に手足の感覚が戻った。御影が言った通りに、一時的に手足の自由が戻ったのだ。

 しかし、それは束の間だけのことだ。

 

 御影は今後いつでも好きなときに宝玄の手足を自分の手足として動かせるのだ。

 宝玄には、もうどうしいていいかわからなかった。

 しばらく、全裸のまま、呆然と御影が出ていった扉を見つめ続けていた。

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