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一歩一歩、必要以上の慎重さで宝玄は階段を歩きおりていた。
しかし、階段を半分おりた踊り場で、宝玄は思わず立ちとまってしまった。
股間から奇妙な感覚が湧き起こっていた。
うっかりとはいてしまったこの下着の霊具に、快感を増幅させる媚薬が塗りつけてあったことはもうわかっている。
だから、ついさっきまで、宝玄の股間は熱い疼きのようなものに襲われ続けていたのだ。
だが、階段をおり始めたくらいから、その感覚は別のものに変わりつつあった。
痒い……。
熱く敏感になっているだけではない……。
猛烈な痒みが下着の内側に発生している。
今朝、掻痒剤を股間に御影に塗られてから、貞操帯の張形や御影たちの男根で女陰を犯されて、少しは痒みも癒えてきていたのだが、それが戻ってきた感じだ。
しかも、階段の下は天教本部の大広間になっていて、帝都の臣民で賑わう公共の場所でもある。
待ち合わせをしている者、あちこちにある長椅子で休んでいる者、あるいは、幾つかの小さな集会なども行われて、いつものように大変な賑わいだ。
そんな場所に、天教の高級幹部である宝玄ともあろう者が、色町の娼婦でもはかないような短い丈の下袍で乗り込むのは、たまらなく恥ずかしい。
ましてや、この股間の痒みに耐えながら、それを態度には出さずに通過しなければならないということだ。
しかし、ここを通り過ぎなければ、御影が待っている天教本部の門には辿りつかない。
一瞬、すべてを放棄して引き返そうかと思った。
どうして、こんな馬鹿馬鹿しいことに付き合わなければならないのだという腹立たしい気持ちになったのだ。
宝玄は、おりかけていた階段をあがろうとした。
だが、できなかった……。
脚が動かない……。
御影の執務室のときと同じだ……。
歩みを逆にしようとすると、突然に脚が硬直する。
宝玄は踊り場から一階を見下ろして、どこかで宝玄を観察しているに違いない御影を探した。
宝玄を逆戻りさせないように、御影が道術で宝玄の身体を操っているに決まっている。
しかし、それらしい人影はない……。
仕方がない……。
宝玄は意を決して、素早く短い貫頭衣の下袍を、しわひとつないくらいに強く引っ張り直して、階段をおりていった。
あまりにも短いこの丈では、わざわざ覗き込まなくても、下にいるだけで宝玄の下袍の中を容易に覗き見ることができるだろう。
宝玄は、だんだんと強くなる股間の痒みと相まって、全身に走る緊張感で、膝ががくかくと震えるのを感じた。
しかし、幸いなことに、この喧騒の中では、階段からおりてくる宝玄に注目している者はいないようだ。
宝玄はほっとした。
しかし、最後の一段をおりようとしたとき、突然に下着が振動した。
「あっ」
宝玄は思わず、がっくりと膝を折ってしまった。
そのため、最後の一段を踏み外して、その場に倒れ込んだ。
この一階の大広間には、数十人の人間がいただろう。
その全身の視線が、階段の下に倒れた宝玄に注目した気がした。
転んだ拍子に、短すぎる下袍が完全にまくれあがって、股間にはいている白い下着の霊具が剝き出しになった。
宝玄は慌てて手で隠そうとした。
はっとした──。
そして、愕然とした。
手が動かない……。
宝玄の手足は、御影の『分身術』を受け入れている。
だから、御影は、道術によって宝玄の手足を宝玄自身の意思と切り離して勝手に動かすことができる。
急に腕の自由が奪われたのは、その御影の道術によって、宝玄の腕が意思と切り離されてしまったからだろう。
だが、たったいままで、自由に動いていたのだ。
この階段をおりる前には、下袍の裾を直しさえした。
それなのに、いまはまったく動かない。
宝玄の心に途方もない恐怖が走る。
いまは、ただ宝玄の意思で動かないだけだが、御影がその気になりさえすれば、この場で宝玄の二本の腕は、身に着けている物を脱ぎ捨てはじめるかもしれないし、淫らに自慰を始めるかもしれない。
そうなれば、宝玄の帝都における社会的な地位は終わりだ。
御影がそれを望んでいるとは思えないが、あの変態男はなにを考えているかわからない。
とにかく、立とうと思った。
だが、下着は相変わらず、淫らな振動を続けている。
微弱な振動だが、凹凸のある股間の下着によって、花唇と肉芽と菊座の三箇所を刺激されながら歩いてきた宝玄には、身体の強い火照りを呼び起こし、腰から下を弛緩させるのに十分な刺激だ。
人の目がある。
宝玄は、素早く立ちあがろうとするのだが、少し腰が抜けたような感じになって、すぐに起きあがれなかった。
「大丈夫ですか?」
突然、片腕が掴まれた。
顔をあげると、さっき影法師と名乗った男が宝玄の腕を掴んでいた。
そのまま、彼に腕を引っ張られて、宝玄は立ちあがらされた。
「は、離せよ、お前──」
腕をとられたかたちになった宝玄は、影法師という男を睨みつけた。
腕が動かせないので、男の手を払い除けられないのだ。
「おっと、これは失礼しました。いつも颯爽と歩いておられる宝玄殿が、随分と足元が怪しいので、具合でも悪いのかと思いましてね」
影法師がわざとらしく、周りに聞こえるような声で言った。
宝玄仙士の名は、帝都でも美貌の天教の最上級巫女として、宝玄仙士の名は随分と売れている
“宝玄”という名を大声で言ったことで、さらにこの場がざわついたのがわかった。
しかし、宝玄は、娼婦でも着ないような短い丈の大きく胸元が開いた服を着させられている。
注目が集まることで、宝玄は激しい羞恥に襲われた。
「お、お前、わざと……」
宝玄は影法師を睨んだ。
しかし、影法師はにやにやしているだけだ。
「これは、返してもらいますよ」
影法師が宝玄の耳についたままの白い耳飾りの片方を取った。
さっき、この霊具から伝えられた指示により、二階の廊下を自ら下袍をめくって歩かされた。
その屈辱がまざまざと甦る。
「……ところで、貫頭衣の後ろ側がめくれてますよ。みんな、注目してます」
宝玄は、慌てて自分の貫頭衣の下袍部分に眼をやった。
確かに、後ろ側の部分がが少しまくれあがっている。
しかし、それを直そうにも手が動かないので、それができない。
腰を振ってめくれを直そうとしたが、大きな動きは、自ら下着の内側の突起で敏感な部分を刺激することになり、宝玄はその場にしゃがみ込みそうになった。
「おや、どうしたんですか? そんなに淫らに腰を振ったりして」
影法師が嘲笑った。
「た、頼むよ……。直して……おくれ……」
宝玄は困って言った。
「なるほど──。どうやら、手が動かせなくなったんですね。それはお気の毒です──。でも、言っておきますが、手足の操りは、俺がやっているわけじゃないですよ。御影様ですからね」
影法師が笑いながら、宝玄の下袍を伸ばしてくれた。
「わ、わかっているよ……」
宝玄は言った。
宝玄と御影が魔法契約で交わした「手足の操り術」は、純粋にお互いのあいだだけのものだ。
第三者には、その操りを譲渡はできない。
それは道術に精通している宝玄は承知している。
だから、宝玄の手足が、意思と切り離されて勝手に動いたり、とまったりしているのは、どこかで御影が術をかけていると思うしかない。
だが、さっきから懸命に探しているが、御影らしき者がどこかに隠れ見ている気配はない。
宝玄は、とりあえず、この場で御影を探すのは諦めた。
御影が、どこかでこっそりと宝玄の痴態を観察しているのは間違いないが、それを突きとめたところで、いまの宝玄にはどうしようもない。
とにかく、御影が来るように命じた天教本部の門まで行くしかない。
「そ、それよりも、と、とめなよ」
宝玄はささやくように言った。
いまだに股間の微弱な振動は続いている。
「おや、なんのことですか?」
「ふ、ふざけるんじゃないよ。この振動をとめろと言っているんだよ」
宝玄は低い声で言った。
この男のことは、絶対に許さないと決めていた。
この男が御影とどういう関係なのかわからないが、御影と結託して、調子に乗って宝玄をなぶっているのだろう。
いまは、御影につけられた『道術封じの首飾り』のために道術が遣えないが、おそらく、今日一日の「遊び」が終われば、これだけは御影は外すはずだ。
御影は、宝玄の弱みを握っているし、宝玄の手足を自在に操る道術をかけているので、必ずしも、霊具で宝玄の道術を封じる必要がないのだ。
宝玄の道術が復活しても、道術契約で受け入れている御影の道術は、双方の合意がなければ、宝玄には解くことはできないし、隠している放蕩の宝玄の母親の存在の弱みは、宝玄が御影に逆らうことを許さない。
つまり、御影が宝玄の道術を解放しても、宝玄は御影の言いなりになるしかない。
それよりも、御影が宝玄に道術を戻さないことで、御影にとっても不都合が起きるはずだ。
即ち、宝玄に道術を戻さなければ、宝玄は天教の幹部としての活動ができない。
今日一日はともかくとして、明日も明後日もということになれば、いずれは、周囲の誰かが、宝玄の不自然さに気がつくだろう。
見る者が見れば、査閲卿の御影が宝玄に不当な道術をかけていることは発覚する。
そうすれば、逆に、御影が宝玄に卑劣な脅迫をしていることが明るみになることになり、そのときは、破滅するのは、宝玄だけではなく、御影も道連れということだ。
だから、今日一日我慢すれば、御影は宝玄に道術だけは返すと思った。
道術さえ戻れば、受け入れている手足の操り術も含めて、なんとかやりようがある。
しかし、いの一番に処置するのはこの男だ。
御影の影に隠れて、この宝玄を一緒になってなぶったことは、心の底から後悔させてやると思った。
「本当に振動をとめていいんですか?」
影法師は、懐からさっと、もうひとつの白い耳飾りを出した。
この飾りこそ、この股間の下着と連動して、宝玄の股間に触れている突起を淫らに振動したり、あるいは、とめたりして、宝玄をいたぶっている霊具なのだ。
「とめろと言っているんだよ──」
宝玄は怒って声をあげた。
だが、その声は自分でも驚くくらいに大きかった。
その自分の大声が周囲の注目を呼んだのがわかって、宝玄は慌てて口をつぐんだ。
「い、いいから、振動をとめな……」
宝玄は再びささやいた。
「それが人に物を頼む態度なんですかね?」
影法師が意地の悪い微笑をして、本部の中央広場から外に向かう方向にひとりで歩きはじめた。
宝玄は慌てて後を追おうとしたが、その宝玄の視界に、影法師が握っていた白い耳飾りをぎゅっと強く握ったのが映った。
すると突然、下着の中の花唇部分の突起だけが、強い振動を始めた。
「くっ──」
宝玄はその場に膝を崩しそうになり、立ち竦んだ。
影法師が意地悪く、下着の突起の一部だけが強い振動するように霊具を操作したのだ。
「どうしかしましたか?」
たまたま横を通り過ぎようとしていた若い坊士が宝玄に声をかけた。
「な、なんでもないよ」
宝玄は思わず股間を手で押さえようとした。
たが、その腕が動かない。
宝玄は歯噛みした。
「しかし……。あれっ、こ、これは宝玄仙士様じゃないですか──。そ、そんな格好をなさっているのですぐにはわかりませんでした……」
坊士が感動したように声をあげるとともに、宝玄の開いた胸元や短い貫頭衣の裾から伸びる脚に眼をやったのがわかった。
その若い坊士の目付きが明らかに淫靡なものに変わるのがわかる。
坊士といえば、天教の最下級の階級であり、この坊士の少年も十四、五歳というところである。その坊士の少年がごくりと生唾を飲む音が聞こえた。
宝玄は、自分の顔が真っ赤になるのがわかった。
「い、いいから、なんでもないと言っているだろう──。あっちに行きな──」
宝玄は声をあげて、やっと坊士を追っ払った。
すでに、影法師はかなり離れていて、建物の外に出るところで、こっちをにやにやしながら見ている。
宝玄は懸命にそこまで進んだ。
「た、頼むから……。お願いだから、これをとめておくれ」
宝玄は待っていた影法師に頭を下げた。
「わかりました……。まだ、不十分ですけど、まあ、いいでしょう。とめましょう」
すると、下着の振動がとまった。
宝玄はほっとした。
下半身の緊張が解けていく。
しかし、ほっとしたのは束の間だった。
すぐに、宝玄が愕然とするような新しい苦しみがやってきた。
振動が停止すると同時に、それまでとは別格の痒みが股間に発生したのだ。
これまでの微弱な振動が、それなりに痒みを軽減させてくれていたようなのだが、それがぴたりと停止することで、猛烈な掻痒感が股間に襲いかかってしまった。
しかも、股間が熱い……。
下着の振動は、宝玄も想像できないくらいに、宝玄の身体に官能と掻痒感を湧き起こらせるきっかけになってしまっていたようだ。
しかし、振動を戻せとは言えない。
影法師が歩きだした。
宝玄はぐっと歯を喰いしばって、影法師の後を追った。
やっと天教本部の建物を出た。
本部の前は庭園になっていて、馬車の通る広い道と歩行用の小道が走っている、
小道は曲線にくねっており、手入れをされた庭木のあいだを縫っていた。小道に添って長椅子や小さな木の卓を置いた休憩所があちこちにあり、多くの人間でごったがえしている。
「……あっ、そうだ──」
小道を数歩歩いたところで、影法師が突然止まった。
宝玄は顔をあげた。
「ひとつだけ言い忘れていました。その下着の内側に塗ってある薬剤は、女の体液に反応して、強烈な掻痒剤に変わりますから、おかしな気分にならない方がいいですよ。濡れれば濡れるほど痒くなりますからね」
「た、体液?」
宝玄は思わず声をあげた。
さっきから猛烈な痒みが襲っているのは、そのためだとわかったからだ。
緊張による発汗もあるが、大小さまざまな突起やその振動で、股間の官能を刺激されて、宝玄の花唇はかなりの愛液を垂れ流している。
それが媚薬に反応して、宝玄の股間を強い痒みになって襲っているのだ。
「はい、体液です……。汗とかおしっことか、淫ら汁とかね……。もちろん、宝玄殿がお感じにならなければ、どうということはないですよ。女仙士であり、稀代の道術遣いの宝玄殿ともあろうものが、こんな悪戯くらいで感じたりしないから大丈夫と思いますが……」
影法師は笑った。
「お、お前……」
宝玄は影法師を睨んだ。
宝玄の肚は煮えくり返った。
感じるどころじゃない……。
宝玄の股間は、繰り返された刺激により、股間から垂れ流れる汁が霊具の下着の端から染み出て、短い貫頭衣の中の宝玄の内腿をべっとりと汚すくらいに濡れているのだ。
影法師は十分にそれを知っているだろう。
知っていて、からかっているに決まっている。
しかし、宝玄はもうなにも言い返さなかった。悪態をつく余裕もないくらいに、痒みが本格的になってきたのだ。
「それとも、もう痒いですか? どうしても痒みが我慢できなければ、歩きながら掻いてもいいですよ……。あっ、でも、手が動かせないか……。だったら、その辺の椅子の背に股がって、ごりごり掻いたらどうですか? とめませんよ」
影法師が言った。
ひとりだけならともかく、こんな人の多いところで、そんなみっともない真似ができるわけがない。
宝玄は返事の代わりに、影法師を睨みつけた。
「どうやら、まだ、我慢できそうてすね。じゃあ、行きますか……」
再び影法師は歩き出した。
仕方なく、宝玄はその後ろからついていった。
「宝玄殿は、ただでさえ目立つんですよ。そんなへっぴり腰だから、さっきの坊士のように変な目で見られるんです……。ちゃんと背筋を伸ばして堂々と歩いた、歩いた……」
途中で、影法師がそう言いってからかった。
宝玄は慌てて表情を繕って背中を伸ばした。だが、もうなにも言い返さなかった。
それよりも、ふらつきそうな足の歩みに神経を集中することに努めた。
歩きにくい踵の尖った靴が、どうしても限界までの痒みに襲われている身体をよろけさせるのだ。
宝玄の美貌は帝都でも有名であり、それがこんな肌も露わな破廉恥な服で歩いているのだ。影法師に言われるまでもなく、かなりの人目を引いているのは気がついていた。
だから、なんとか平静を装おうとするのだが、上気した顔と全身から染み出る汗がそれを邪魔をする。
しかも、いまだに腕がまったく動かない。
その緊張がいやがうえにも、宝玄の羞恥と緊張を増幅する。
そして、宝玄は、さっき股間の振動を止めさせたことをひどく後悔していた。
下着の中のたくさんの突起は、多少は痒みを軽減させてくれてはいるが、あまりにも小さな刺激すぎて、股間に巻き起こっている掻痒感を癒してはくれない。
むしろ、中途半端な刺激が、却って強い痒みと淫情を引き起こしている気さえする。
とにかく、御影に会うまで……。
それだけを考えて、宝玄は必死に歩みを進めた。
やがて、やっと、天教本部の門に到着した。
「遅かったわね」
そこには、ひとりの女がいた。
気の強そうな顔をしたかなりの美人だ。若くもないが、中年というほどではないだろう。
明らかに女なのだが、男物の上着と下袴を身に着けていて、影法師と同じような天教本部の職員のようないでたちをしている。
その女が影法師に声をかけたのだ。
「もう少し、愉しみたかったんだけどね」
影法師がそう言って、ひと組の白い耳飾りの霊具をその女に手渡した。そのひとつが宝玄がはいている下着の突起を遠隔で動かす霊具だ。
「ど、どういうことだい? 御影はどこだい──?」
宝玄は呆気にとられた。
御影の姿はどこにもない。
いるのは、この女だけだ。
「御影様は急用ができたから、あたしがあなたの相手をしろと言われているわ。夕方まであたしがあなたに付き合うわ。よろしくね、宝玄」
女は宝玄の身体を上から下まで眺めながら、にやりと微笑んだ。
「じょ、冗談じゃないよ。み、御影とはここで会う約束なんだ──。あいつはどこに行ったんだい──?」
宝玄は声をあげた。
「さあね? あたしは、夕方まであなたと城郭で暇を潰して、指定された場所に連れてくるように言われただけだからね」
「ふ、ふざけるな──。だったら、その場所を言いな──。関係のないお前が、あいだに入るんじゃないよ──」
「嫌ならいいのよ、宝玄。でも、あたしに従わなければ、御影様が待っている場所は教えないわ。どこにでも勝手にいくのね」
女の表情は驚くくらいに意地の悪い感情で溢れていた。
「ちっ」
宝玄は舌打ちした。
どうしても御影のところまで連れていってもらわなければならないのだ。
そうでなければ、この道術が遣えない状態はこのままだ。
御影のところに行けば、なにをされるかわからないが、とにかく、今日一日を我慢すればいい……。
そうすれば、この首の『道術封じの首飾り』を外してくれるはずだ。
だから、なんとしても、御影に会わなければならない。
「わ、わかったよ。お前と一緒にいればいいんだね」
宝玄はそう言うしかなかった。
「じゃあ、散歩でもしようか、宝玄?」
女がそう言って、宝玄の動かない腕をとって腕を組んだ。
宝玄は、このときはじめて、いつの間にか影法師がいなくなっていることに気がついた。
そして、隣の女から微かな体臭が漂ってきた。
「ま、待って……。ところで、お前、誰だよ──。何者なんだい?」
宝玄は思わず訊ねた。
影法師といい、この女といい、御影とはどういう関係なのだろう……?
宝玄はふと不思議に思ったのだ。
この女の体臭は、御影やさっきの影法師と共通する匂いだ。
どうして、女のこいつが御影の体臭を……?
「あたしの名は、
“影法師”に“影女”──。
ふざけた名乗りだと思ったが、いまはそれはいい。
それよりも……。
「だ、だったら、影女──。お、お願いだから、どこか人目のないところに連れていっておくれ──。頼むよ」
「人目のないところ? なんで?」
影女はくすりと笑った。
「か、痒いんだよ……。股におかしな薬剤を塗られたんだよ。猛烈に痒いんだよ」
宝玄は横にくっついている影女の耳元でささやいた。
はしたないが、さっき影法師が言ったことをやろうと思った。どこか股間を擦れるところにいって、痒い股を擦るのだ。
いまや、痒みはそれくらい耐えられないものになっている。
「痒み? まあ、可哀そう……。だけど、残念だけど、それは許さないわ。でも、よければ、あたしがなんとかしてあげましょうか?」
影女は意味ありげに微笑んで、影法師から受け取った白い耳飾りを宝玄の顔の前で振った。