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「痒み? まあ、可哀そう……。だけど、残念だけど、それは許さないわ。でも、よければ、あたしがなんとかしてあげましょうか?」
影女は意味ありげに微笑んで、影法師から受け取った白い耳飾りを宝玄の顔の前で振った。
「ふ、ふざけるな」
宝玄は声をあげた。
ここは天教本部の門の面する大通りであり、かなりの人の波の中だ。
そこを歩きながら股間を刺激されるなど、考えただけで息も止まるような屈辱だ。
「あっ、そう。嫌ならいいわ……。だけど、これはしてあげる。はぐれたら困るだろうからね」
影女は白い耳飾りを宝玄の片耳に装着させた。そして、もうひとつの耳飾りは懐にしまう。
「ど、どこに行くんだい?」
「どこだっていいでしょう。それよりも、こうして女が腕を組んで歩いていると、かなり目立つのね。通りにいる人間がすべてあたしたちのことを見ている気がするわね」
影女のその言葉で、宝玄はまさにその言葉の通りであることに気がついた。
帝都の大通りは、中央の馬車が進む通りがあり、その両端に歩行用の通路がある。
その通路の横には商家や辻売りが所狭しと並んでいる。
特に、人が歩行する道はかなりの人出であり、時折、肩を避けながら進まなければならないくらいだ。
その中のかなり多くの人間が、宝玄と影女に奇異の視線を向けているのがわかった。
宝玄は慌ててしかめていた表情を繕った。
そして、不自然な動作にならないように、懸命に膝から下に神経を集中する。
宝玄は、ただでさえ、自分がその美貌で人の眼を集めやすいのを知っている。
それがこんな裸にも匹敵するような羞恥の服装で歩いているのだ。
しかも、影女もそれなりの美貌であり、その女連れのふたりが腕を組んで歩けば、それが注目を浴びないわけがない。
「う、腕を離せ」
宝玄は言った。
とにかく、注目を浴びるような要素はひとつ残らずなくしたかった。
「わかったわ」
影女はあっさりと腕を離した。
「その代わり、逃げたら承知しないわよ。少しでもその素振りをしたら、御影様に連絡するわ。そして、天教本部の美人仙士殿が、大通りで全裸自慰をするように、御影様に道術をかけてもらうわ。あんたの手足は、御影様の自由に動くように道術をかけられているんでしょう?」
影女の言葉に宝玄は唇を噛んだ。
まさか、そんなことまでは、御影はやるまいと思うが、もしかしたら、というのがある。
確かに宝玄の手足は御影に操られているので、この瞬間にも大通りに駆け戻り、素っ裸になって自慰を始めても、宝玄には抵抗の術がない。
「ふ、ふん、どうせ、御影もどこで隠れて、こそこそと見ているんだろう? 連絡手段があるなら、あの女男に伝えておくれよ。そんな、いじけたことしてないで、堂々とわたしを抱きなってね」
宝玄は言った。
なんとなく、御影はなんらかの手段で宝玄を観察している気がする。
しかも、すぐに手足の操り道術がかけられるくらいの近くにだ。
宝玄が逃げようとしても、おそらく、脚は止まってしまうと思った。
「御影様との連絡手段があるかどうかは、お前に関係ないわ。お前が知っておかなければならないのは、あたしと一緒にいなければ、御影様には会えないということよ。それと、御影様はお前などもう抱かないと思うわ。お前がお願いだから、抱いてくださいと、土下座でもするなら別だけどね」
「な、なんで、わたしが──」
宝玄はかっとした。
この宝玄の身体を抱かしてくださいと土下座した男は何人もいたが、宝玄が求めて男を抱いたことなどない。
なんで、この宝玄が、男を相手に性愛を媚びなければならないのだ?
「でも、いずれお前は、御影様にお願いだから抱いてくださいと言うわ……。必ずそうなるのよ……。そのために、こうやって調教しているのだからね」
「調教?」
宝玄はその言葉に呆気にとられた。
これまで、何人もの女を調教してやった。
現にいまでも、“猫”として買っている女は何人もいる。しかし、自分が調教されるなど考えたこともない。
「わ、わたしが調教なんてされるわけないだろう──。ふ、ふ、ふざけるな」
宝玄は低い声で怒鳴った。
「いまは、そう思っていても、いつの間にか、牙を抜かれて、命令に逆らうことができなくなっている……。それが調教よ。お前もそれくらい知っているんでしょう? いつもは、調教する立場なんだから……」
影女は笑った。
宝玄は返す言葉が見つからなくて歯噛みした。
それにしても、この女はなんなのだろう……?
さっき宝玄が受け入れたばかりの御影の道術についてもよく知っている。
影女の身体からは薄っすらと霊気の流れを感じるので、道術遣いの端くれであることは間違いないだろう。
だからこそ、御影の作った霊具を自在に操作できるのだろう。
だが、どれくらいの道術遣いであるかは、巧みに自己の霊気の噴き出しを隠しているのでわからない。
影女は、すたすたと宝玄の前を歩いていく。
「も、もう少し、ゆっくりと歩いて……」
宝玄は思わず言った。
股間の痒みは全身が焼けつくのかと錯覚するほどだった。
我慢しなければと自分を奮い立たせるが、宝玄には噴きあがる痒みに声を出すのを耐えるだけで必死だった。
少しでも油断すれば、淫らに腰が動いてしまう。
しかも、腰を多少動かしたところで、この股間の痒みは少しも癒えず、却って下着の内側のたくさんの突起に敏感な部分が刺激されて、さらに掻痒感と昂揚感が膨張するようだった。
人目さえなければ、宝玄はいまこの瞬間にでも、なにかに跨って股間を擦りまくっていただろう。
しかし、絶え間のない帝都の大通りの人波は、宝玄が痒みを癒すどころか、痒みに苦しんでいることをおくびに出すことも許さない。
「あらあら、できるだけ人目を避けたいのだろうと思って早足で進んであげたのに、ゆっくり歩いて、その破廉恥な姿を見せびらかしながら歩きたいの、変態女──?」
影女が大きな声で言った。
その言葉に周りの通行人が驚いて振り向いたのがわかった。
宝玄はあまりの羞恥に急いで顔を伏せた。
「……こ、声が大きいよ」
「なにが? ああ、変態女と呼んだこと? じゃあ、なんと呼べばいいのかしら? 名を呼んでいい?」
宝玄はぎょっとした。
宝玄はいま懸命に顔を伏せて歩いていた。宝玄の顔もかなり知られているはずなので、こうやって通り過ぎる人間の中には、この痴女のような服装の女が天教本部の仙士巫女である宝玄であることに気がつく者も幾らかはいたかもしれないが、逆に、有名な美人巫女の宝玄がこんな格好で人前に出るわけがないとも思うはずだ。
しかし、名を呼ばれると、自分が宝玄であることが疑念から確信になってしまうだろう。
「や、やめておくれ」
「だったら、変態女でいいのね」
「わ、わかった……。それでいいよ……」
宝玄は仕方なく言った。
影女が高笑いした。
宝玄ははらわたが煮えくり返った。
しかし、どこに向かおうとしているのか、影女は、なかなかどこの建物にも入ろうとしなかった。
やがて、大通りを外れて、脇通りに入ったが、それでも、どこかに立ち寄ることも、休むこともしなかった。
なんとなく、外縁部の地域に進んでいる気がしたが、いずれにしても宝玄はもう限界だった。
あまりの痒さで脚の震えが止まらないくらいになっている。
ここまで歩けたのが奇跡のようなものだ。
「ま、待って。た、頼むからどこかで休ませて……」
何度か同じことをいままでも言ったのだが、その都度、影女はせせら笑うだけで相手にしてくれなかった。
天教の力量のある女道術遣いで名高い宝玄が、こんなところで羞恥調教を受けていることを知られたくないという一心で、ここまで耐え進んできたが、もう、宝玄の気力が尽きている。
これ以上は、痒みに耐えて歩けない。
「あたしの行きつけの店に行くのよ。お腹がすいたしね。まだ、遠くよ──。休憩ならそこでさせてあげるわよ」
影女が言った。
「行きつけの店って……どこだい?」
「どこだっていいでしょう」
「ね、ねえ……お、お願いだよ……。少しでいい……。人目のないところに……」
宝玄は泣くような声で訴えた。
とにかく、どこかに隠れたい。
そこで、棒でも、箱の端でも、椅子の背もたれでもいいから股間を擦りまくるのだ。
とにかく、もう限界だ。
たとえ、影女が駄目だと言っても、このまま走って路地に逃げようと思った。
そこで、少しでも股間を擦れば、それだけで、かなり落ち着くはずだ。
「駄目よ──。それと、さっきも言ったけど、逃げたら、それこそ許さないわ。それに、どうせ、すぐに捕まえられるけどね」
影女は素っ気なく言った。確かに、この状態の宝玄が逃亡を企てても、影女が宝玄を捕らえるのに、数瞬しかかからないだろう。
やっぱり、いまは、この影女に逆らって、路地に逃げるなど不可能と思うしかない……。
「と、とにかく、痒いんだよ……。ど、どこか人目のないところに……。お、お願い──。お願いしますから──」
宝玄は小さな声で訴えた。
この女の情に縋るなど、身が斬られるような恥辱だが、もう痒みに耐えられないと思った。
「さっきから言っている通りよ。これでよければ、動かしてあげるわよ」
影女が再び股間の突起を操作する白い耳飾りを取りだした。
宝玄は唾を飲んだ。
辻通りに入ったから、大通りほどの人手はない。しかし、道端や通行人が周囲に大勢いることは同じだ。
股間の刺激にどれくらい自分は平静を装えるだろうか……?
だが、ここに至っては、股間の突起の刺激に縋るしか道はない。
「う、動かしておくれ……。は、早く……」
宝玄はついに言った。
「いいわ」
影女が笑った。
しっかりと構えていれば絶対に大丈夫だ。性行為には百戦練磨の宝玄だ。
神経を集中して備えていれば、なんとかなるに違いない。
とにかく、もう女唇の痒みは限界なのだ。
股間に塗られた媚薬が、宝玄の流した淫液に反応して女陰に猛烈な痒みを引き起こしている。
しかも、たっぷりと垂れた愛液は、圧迫された下着の内側の凹凸の突起を流れて、痒みが肛門にまで広がりつつある。
その苦しさに気が遠くなりそうだ。
「はっ」
突然、その場に宝玄は悲鳴をあげた。
股間が振動したのだ。
しかし、振動したのは痒みの中心の女陰部分ではなく、その前の肉芽の部分だった。
あまりの衝撃に、周囲の視線など一瞬吹き飛んでしまった。
宝玄は身体を折り曲げて、その場に立ち竦んだ。
「くうっ、うっ、ううっ……」
宝玄は歯を喰いしばった。
それでも苦悶の声が口から洩れる。
全身を貫いた快感の矢は、それくらい凄まじい奔流となって全身を貫いたのだ。
「と、とめて……」
宝玄は呻いた。
しかし、影女はもう横にはいない。
宝玄をそのままに残して、すたすたと進んでしまっている。
宝玄は前を歩く影女に追いつこうと、一歩ずつ震える脚を前に進めた。
「な、なに……すん……だい」
やっと追いついたところで、宝玄は抗議した。
「動かしてくれと言ったじゃないの」
「そ、そこじゃないんだよ……。と、とめて……くうっ……、と、とにかく、これは……と、とめて……」
宝玄は影女を睨んだ。
「あらあら、じゃあ、操作を間違ったのかなあ? なにせ、あたしの霊具じゃないしね。さっきの影法師の霊具なのよね。霊気の込め方を失敗したのかしら……。じゃあ、こうかな……?」
わざとらしく、影女がうそぶいた。
次の瞬間、さらに激しくなった肉芽部分の振動に加えて、肛門の周辺の突起も激しい振動を始めた。
「ふううっ」
宝玄はその場に背中を仰け反らせた。しゃがみ込みこそしなかったが、今度は完全に歩みを止めてしまった。
全身が痙攣のように震える。
凄まじい快感が全身を駆け巡っていく。
肉芽と肛門に加えられている強い刺激が、薬剤と突起の刺激に長く苛まれていた宝玄の官能という官能をすべて活性化させた。
子宮を貫く快感の炎が脳天まで拡がり尽くした。
気がつくと宝玄は、腰をがくがくと振って、股間から愉悦の塊りを噴き出していた。
噴き出した愛液は下着の霊具に阻まれて股間全体に拡がり、それでも行き場をなくした愛液が下着の脇からはみ出し、内腿を流れ、さらに宝玄の剝き出しの脚を伝って、履いている踵の高いサンダルの足の指まで達した。
周りの人間が宝玄の異変に気がついたのは明らかだ。
なにしろ、宝玄は、人の視線がかなりある通りのど真ん中で、激しく絶頂をしてしまったのだ。
宝玄は、欲情の頂点に達しながらも、そのことに愕然としていた。
影女はすぐに股間の刺激をとめてはくれたが、すでに、また、かなり宝玄と離れた場所まで進んでしまっている。
宝玄はその場から逃げるように、小走りで影女を追った。
「くわっ」
影女に追いつくと、すぐに股間の突起がまた動かされた。
影女の徘徊はいつまでも続いた。
そのあいだ、宝玄は幾度となく、歩きながら股間のあちこちの突起を振動され、そのたびに、醜態を道端で晒さなければならなかった。
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影女は相変わらずどこにも立ち寄らない。
歩いている通りは、すでに大通りからかなり離れ、貴族街と呼ばれる地域から一般庶民の居住地域に入っていると思う。
少なくとも、宝玄が普段すごしている地域とは異なる。
貴族街で生活している宝玄には、この周辺に立ち入ったことは一度もない。
しかも、行き交う者は、平素の宝玄では接することがないような貧しそうな外見ばかりになってきた気がする。乞食のような人間も多いし、生活が荒れた感じの者も少なくない。
おそらく、この一帯は、庶民層というよりは、さらに低い下層階級の居住者の地域に間違いない。治安もかなり悪そうだ。
しかし、ここでもはやり、宝玄の姿はかなりの人目を集めていた。
時々、振り返るように追ってくる幾つもの視線も感じた。
宝玄は、少し前を進む影女に、たびたび遅れがちになったが、それは、幾度も振動と停止を繰り返される股間の刺激のためだった。
影女は意地悪く、何度も股間のあちこちを振動させて宝玄を翻弄した。
その都度、宝玄は股間の刺激に反応してしまって遅れた。
宝玄は、その度に、懸命に歯を喰いしばって、小走りで影女に追いつかなければならなかった。
この女も絶対に酷い目に遭わせてやる。
宝玄は心に決めていた。
影法師といい、影女といい、本名を名乗らないのは、後で宝玄の仕返しを怖れるためだと思った。
道術さえ戻れば、この女と影法師がどこの誰なのかを必ず突きとめて、復讐してやろうと思った。
宝玄は、どんな仕返しをするかを懸命に心に浮かべて、いま現在受けている羞恥と恥辱に耐え続けた。
とにかく、弱みのようなものを見せたくない──。
宝玄は、そう思って必死に気力を振り絞って歩いた。
だが、それでも絶え間のない股間の振動の責めに襲われている宝玄の身体は、宝玄の意思に反して、淫らな反応を隠せなくなってしまった。
しかも、股間の痒みはいよいよ本領を発揮して、怖ろしい痒さを宝玄に与え続ける。これで、繰り返し刺激される股間の刺激がなければ、さすがの宝玄も、当のむかしに泣き叫びながら転げまわっていたと思う。
なんとか歩き続けていられたのは、痒みを逃がしてくれる刺激が、時折与えられるからだ。
しかし、もう耐える気力が、宝玄から失われつつある。
短すぎる下袍の裾から覗く太腿には、いまやはっきりと愛液が垂れ落ちているし、腰はもう休むことのなくなった震えから逃れられなくなっている。
それでも、振動があるときはまだ耐えられる。
耐えられないのは、それがとまったときだ。
振動が続くあいだは、ただ込みあがる愉悦に身を委ねて、それを耐え、耐えられなくなればその奔流のまま道端で気をやればいい。
しかし、振動が止まれば、股間の全部が堪らない痒さと、そして切実な欲情に襲われるのだ。
それらの苦痛の繰り返しを衆人のいる環境で受けなければならないという羞恥は、宝玄の目をくらませるくらいの恥辱だった。
それにしても、影女の後を追って歩きながら、この辺りでは、影女はかなり顔の知られた人物のようだと思った。
通りすがりの少なくない者が、影女に会釈をしたりするし、畏敬の籠った視線を向けたりしている。
つまり、影女は、この地域の顔であるに違いない。
「ここよ……。あたしの行きつけの店──。さあ、入って」
その影女が突然に立ちどまった。
眼の前に、看板のない食堂のような店があった。
居酒屋のような雰囲気だが、中は薄暗くて、外からではどういう場所なのかよく見えない。
ただ、少し酔っているような複数の男たちの声は聞こえる。
その口調や聞こえる会話からは、とてもじゃないが、その男たちが、たちのいい男とは思えなかった。
宝玄は店に入るのを躊躇した。
「散歩は少しは愉しめた? ふふふ、まあ、聞くまでもないか」
影女がいきなり宝玄の着ている下袍をめくりあげた。
しかし、宝玄には、めくりあげられた下袍を押さえられない。
「な、なにするんだよ──」
宝玄は抗議したが、影女はめくりあげた下袍の裾を離さない。
「まあ、臭いがすると思ったら、これはあんまりじゃないの? 足の指まであんたの淫汁が伝ってるわね。そんなに興奮した? こんなのでよければ、いくらでも付き合うわよ、変態女」
影女がせせら笑った。
「いいから、離せ──。下袍から手を離すんだよ、お前」
宝玄は叫んだ。
さすがに、周りの人間がなにごとかと寄ってくる。
宝玄と影女は、大勢の人だかりに囲まれるかたちになった。
すると、驚くことに、影女は店の前で宝玄の身に着けている貫頭衣の留め具を外して、宝玄の胴体から抜いて服を足元に落としてしまったのだ。
宝玄の両手はいま、完全に動かない状態だ。
抵抗の方法がない宝玄は、あっという間に下着の霊具一枚の裸にされてしまった。
周りの人間が一斉に歓声をあげた。
「ひいっ」
宝玄はその場にしゃがみ込んだ。
「入っておいで」
笑いながら影女が店の中に進んでいく。
宝玄は、慌てて立ちあがって、その後を追った。
「影女、お、お前──」
店の中に飛び込むなり、宝玄は怒鳴った。
だが、あまりの憤怒に、それ以上の言葉が出なかった。
しかし、背後でがたがたと音がするとともに、途端に目の前が真っ暗になった。
驚いて振り向いたが、ふたりほどの男らしき人影が入り口を戸板で塞いだところだった。
しかし、日中の明るさから、一瞬にして薄暗い場所に入ることになったことで、宝玄は眼が慣れないでいた。
おそらく、何人かの男がいると思う。
わかったのはそれだけだ。
すると口笛が部屋に鳴り響いた。
「この前みたいに、年増の色気の少ない女かと思えば、今回は極めつけの美女じゃないですか、姐さん。この美女は誰です?」
男の声がした。
部屋には燭台があり、その光がこの部屋の唯一の照明だ。
眼が慣れるにつれて、部屋にいるのは四人の男だということがわかった。いずれも、屈強そうな与太者という感じだ。
なんとなく、堅気ではない気がする。
部屋の中には六つの卓とひとつの卓につき四脚の椅子がある。ほかに厨房もあって、やはり、ここは酒場のようだ。
しかし、従業員らしき人影はない。
「誰だっていいだろう、お前ら──。いいから、こいつを奥に連れていって、逆さ吊りにしな。調教を開始するよ」
影女の声がした。
視線を声の方向に向けると、影女は部屋の奥の壁にもたれて、にやにやと笑っていた。
その影女が壁を叩いた。
すると、ただの壁に見えた場所が開いて、さらに奥の部屋が出現した。